SIDE 一方通行
「貴様ー!なんで昼はどこにもいなかったんだ!?茶々丸に電話させてもさっぱり出んし!!」
「昨日は一時に寝たから四時くらいに起きねェと身体が動かねェンだよ」
「ケケケ、十五時間睡眠トカ、子供カ?」
麻帆良祭二日目。
現在時刻午後五時二十二分。
俺の隣にはぎゃーすかと不機嫌な幼女吸血鬼、そしてテクテク歩きまわる自立人形がいた。
幼女は言うまでもなくエヴァ、自立人形はチャチャゼロだ。
世界樹の魔力でチャチャゼロもテクテク歩けるくらいには魔力が満ちているらしく、その影響なのか幾分かエヴァの歩調が軽い気がした。
午前中何度も何度もエヴァの携帯から着信(十件近く。暇人である)が入って来ていたので四時に起きた後電話して五時半頃にエヴァの家の前で待ち合わせする事になったのだ。
無論、午後である。
「いいじゃねェか、五時半に来るっつったら来ただろ。それで満足しろ」
「満足できるかーッ!!なんだその傲慢さは!!まったく欠片たりとも貴様が悪くないと思ってる風だな貴様!?」
「ゴ主人……気ヅイテンジャネェカ」
ぎゃーぎゃーうるせえエヴァに対して『あァーあァー聞こえねェ』と片耳に指を突っ込んでからかっていると、そういえば、と辺りを見回す。
「ロボはどォした?愛想尽かして出てったか?」
「んなわけないだろ!茶々丸は茶道部で野点をしているんだ」
野点?
ああ、抹茶とか飲むあれですか。
結構なお手前でとかいうあれか。
抹茶、ねぇ。
カフェイン中毒の俺でも飲めるもんなのかね。
「じゃァそこ行くか」
「……えらく決断が速いな」
「即断即決が俺のポリシーだ。ウジウジ悩んでても始まらねェだろ。どォせテメェもプラン立ててねェンだろ?」
「ぐっ」
言葉に詰まるエヴァと共に歩きながら、麻帆良の大通りを歩いて行く。
しかし、いつも広いと思っている麻帆良が狭く感じるな。
あまりに人が多いせいで圧迫感があるからだろう。
個人的にあまりこういう人が多い所は好きじゃないので、少し早足になる。
「なんだ貴様?早足じゃないか。何か急く理由でもあるのか?」
「ゴチャゴチャしてる空気が嫌いなだけだ」
「ゴチャゴチャ、か。確かにそうだが、慣れれば別に気にならんもんだと思うが」
「その慣れるってのが問題なンだよ」
今にも舌打ちをしそうな表情のまま言う。
人ごみっていうのはいつまで経ってもなれない。
あの潰されるような圧迫感が嫌いだ。
……実際、潰れるわけもないのだが、これは気持ちの問題である。
いかにアクセラレータの反射があろうとも、やはりこれだけは慣れなかった。
高音や愛衣と一緒に歩いていた時はこんな感覚はなかったんだが、寝起きだからだろうか。
そんな事を思いながら歩いていると、
「うおぉおおおおおおおおお!?」
何やら悲鳴らしき叫び声が聞こえてきた。
なんだなんだと横を見やると、ティラノサウルスらしき二本脚の実物大恐竜が障害物を蹴散らしながら大通りを爆走している光景が見えた。
妙にその走り方がリアルである。
……麻帆良工学部ってのは技術力が高いんだか低いんだか、どっちなんだ?
「行くのか?」
「っつってもよ、こっちに向かってきてンだから行くもクソもねェだろ」
そう、ティラノサウルスはこっちに向かって走ってきている。
エヴァは肩をすくめていて避ける気はないようだし、これは俺が受け止めるしかなさそうだ。
フー、とため息をついた後、うんざりしながら前に出る。
休日だって思っていたのに、どうしてこんな面倒事に巻き込まれるかね。
「しょォがねェな」
バキボキと右手を鳴らしながら、俺は向かってくるティラノサウルスを見やる。
人と恐竜と言う種族の差を究極までリアルに伝えてくるそのロボットは、まさに本物さながらの迫力を持っていた。
魔法世界にいる竜種などはこの程度ではないだろうが、一般人にとっては震えて脅威を過ぎ去るのを待つしかない存在であるのは確かだ。
それらを守るために力を行使する。
……いや、違う。
俺は俺のわがままで力を使うだけだ、決して他人のために使うわけじゃない。
これもストレス解消だ、思いっきりぶっ飛ばせてもらうぜ。
突っ込んでくるティラノサウルスに向け、一歩を踏み出す。
「おい、そこの人、危ないぞ!!」
どこぞの親切な人が警告してくれるが、俺はそれを手で制する。
踵で地面を軽く叩く。
それだけで俺は数メートル跳躍した。
吼えるティラノサウルスの顔に向けて、鞭のように蹴りを繰り出す。
それだけでその頭が木端微塵になった。
無論、それだけでは止まらないのでベクトル変換。
前に進むベクトルを上方へ。
途端、ティラノサウルスが物理的にあり得ない動きで直角に上昇した。
慣性という力を無視して直角に舞い上がったティラノサウルスは、ガシャガシャと頭がなくなった姿で機械的に動いている。
舞い散るネジや鉄骨を見て、こいつは生物じゃねェンだな、ということをようやく実感できた。
そのリアルさは称賛に値するが、ただ称賛するだけだ。
更に落ちてきたティラノサウルスの下に入り込み、落ちてきた巨体を片手で受け止めベクトル変換。
落下するエネルギーをそのままティラノサウルスの脚の関節部へ。
バキャア!!と脚が砕け散り、尻尾がバタバタする間抜けな姿になったティラノサウルス(元)を背に、俺はエヴァの所に戻ってくる。
「待たせたな」
「ふん、さっさと粉砕すれば良いモノを。……まあ、貴様の能力が相変わらず意味不明だということがわかっただけ良しとするか」
別に良い事でも何でもない。
それでもなんだか上機嫌そうなエヴァは前よりも更に足取り軽く歩いて行く。
なんなんだ、と思いつつそれについて行くと、チャチャゼロがぼそり。
「ソレ無シデ戦エヨ」
「俺のアイデンティティだ」
日本庭園のような場所にやってきた。
いや、『のような』は適切ではなく、本格的なそれであった。
麻帆良祭のためか草木は綺麗に切りそろえられており、理路整然とそれらが並んでいた。
砂利については何人も通ったため乱れているが、気にならない。
スリッパやサンダルでもないから小石が入ったりもしないしな。
ううむ、しかし風流である。
将来なこんなのほほんとした雰囲気の場所に隠居したい。
平和って一番だよな。
異様なまでに和みモードに入っていると、前方に茶々丸がいることにようやく気づいた。
「アクセラレータさん、マスター、姉さんも、ようこそいらっしゃいました」
ぺこりと頭を下げるその姿はロボットのそれであり、やはり機械的なぎこちなさを感じさせる。
原作の一年以上前の茶々丸だ、ネギと出会って以降の茶々丸とは反応が違うか。
俺がそんな事を思っていると、エヴァがぶすっとした様子で茶々丸に話しかけた。
「茶々丸、私より先にアクセラレータの事を呼ぶな」
「しかし、アクセラレータさんはお客様です。お客様の方を先にお呼びするのはいけませんか?」
「私がお客様じゃないと言うのか!?」
「はい。マスターも野点に参加する義務がありますので」
「ぐっ……そ、そういえばそうだったな」
ホントに大丈夫か、この吸血鬼。
流石に600年も生きてきたらボケてきたのか?
そんな俺の視線に気づいたのか、エヴァがギロリと睨みあげてくる。
「なんだ、何か言いたげだな、アクセラレータ」
「クソガキの嫉妬はウザいだけだと言いたかったんだが」
「―――ほほう、誰がクソガキで嫉妬していると?」
「あァ?なンだ、やンのか?」
「オオ、イイジャネエカ。モットヤレ」
俺とエヴァがにらみ合い、チャチャゼロが煽ってくる。
ジャキッ!!とエヴァのゴスロリ衣装のどこからか魔法薬を取り出し、俺は一歩、二歩とステップを踏む。
そうやって臨戦態勢をとっていたが、やがて双方共に武器を下げる。
これはいつもの事だ。
むしろ打ち合いにならないだけマシである。
流石にこの場で魔法の射手を撃ったらヤバいことくらいこのクソガキでもわかったみたいだしな。
「ふん……この決着はいずれつけてやる」
「華々しく俺の勝ちを飾ってやる。ありがたく思えよ」
「言ってろ」
「面白クネーナ。外デモ血ヲ見セロ、血ヲ」
無茶いうな殺戮人形。
流石の麻帆良祭でも血が出たら誤魔化しきれねえだろうが。
俺たちは拳を下ろすと、オロオロと俺とエヴァを見比べていた茶々丸に視線を戻す。
ようやく事態が収拾したのがわかったのか、茶々丸はどこかホッとした様子で俺たちに話しかけてくる。
「お二人とも、野点に参加するのですか?」
「私は当然として、コイツもな」
エヴァがそう言って後ろにいる俺を親指で指さす。
俺は大人げなく、それに反抗するように鼻を鳴らした。
「オレガイルノモ忘レンナヨ」
「お前は茶なんて飲めないだろうが。ったく……茶々丸、任せたぞ」
エヴァがそう言ってチャチャゼロを茶々丸に預け、そのまま立ち去って行った。
あいつ、何しに行ったんだ?
……本音を言うと、俺は野点の作法とやらは全然知らない。
チート知識の宝庫であるアクセラレータの頭脳ですら野点の情報は皆無であった。
まあ、学園都市で野点の知識が必要になるとは思えないしなあ。
まったく動こうとしない俺を疑問に思ったのか、茶々丸が首をかしげて尋ねてきた。
「あの、アクセラレータさんは着替えに行かれないのですか?」
「着替え?」
まさか俺もジャパニーズキモノを着なきゃなんないのか?
いや、俺の場合ハカマを履いたあれか?
やべぇ、そこからわからねェのかよ、俺。
俺が柄にもなくそこから動けなくなっていると、茶々丸は更に10度ほど首を傾け、
「アクセラレータさんは野点の事を知らないのですか?」
「…………」
「ケケ、図星ダゼ、コイツ」
何か言い訳しようと考えていたらチャチャゼロに先制された。
コイツ……覚えてろよ。
そしてその事実を知った茶々丸は。
「そうですか、それなら早く言ってくれれば良かったのですが」
「……着替えは向こうの更衣室に置いてあンのか?」
「はい、そうです」
何やら恥ずかしいやら何やらで、俺の脳は少しヒートアップしていたらしい。
ぐるんと踵を返すと、茶々丸の助言を得ずに着替えをすることにした。
―――正直、ここ最近ではこれ以上ないほどに不安だった。
「バカ者ォ!!それは死装束だ!!」
袴をうまく履けたのでようやく行ってみると、何やら襟の位置が逆らしい。
『しにしょうぞく』とか、知らねえっての。
ブツクサ言いながらも再度更衣室に向かい、最後に屈辱ながらエヴァに多少襟を整えてもらってなんとか了承を得た。
「ふん……まあ、これで恰好だけは人前に出てもおかしくなくなったな―――って何を見ている茶々丸!?また録画を使っているのか!?」
「画像を保存。電子メールを作成し、データを添付―――」
「超に送るつもりか!?させん、させんぞォおおおおおおおおおおおッ!!」
派手な着物を着て、金髪を簪でまとめているエヴァの姿はまあなんともそっち方向の性癖の人間にとってはたまらないだろうという感じだ。
一般的に見て、エヴァを綺麗だと言い張る人間がほとんどだと断言しても良い。
ただ、美女でも美少女でもなく美幼女かもしれないが。
エヴァはガクガクと茶々丸の頭を揺さぶった後、ネジをブッ刺して無理矢理茶々丸のメール送信を妨害することに成功した。
しかし、お転婆な妹が姉にじゃれてるとしか思えない光景だな、これは。
「ああああそんなに巻かれては」
「……相変わらずボキャブラリーはそれしかねェのか」
まあ、そんなこともあったが野点は開始されることになる。
とは言っても俺たちだけだが。
チャチャゼロはうまい具合に椅子の上に座り『退屈ダー、何カ殺サセロヨゴ主人』とかほざいているが、無視だ、そんなもん。
エヴァも完全に無視である。
さて、そんなチャチャゼロは放置の方向で、俺は正座して座る。
男子は確か脚の間を開けて座るんだったな?
……マジで見よう見まね且つ適当だが、これでいいのか?
エヴァや茶々丸が文句を言わないからこれでいいのか?
ええい指摘する所があったら指摘しろ!!
結局何やらそういう落ち着きがないというか、そわそわしたおかげで楽しめたと言うにはほど遠く、またアクセラレータの性格上こういうのはすぐキレてやめてしまいかねないので俺は精神的にかなり苦心した。
抹茶が美味かったのは認めてやるが。
そこだけが救いだ。
「素人としても酷いが、まあこんなもんだろう。来年も来るか?いや来い」
「絶対ェ来ねェ」
普段着に着換えた俺はぐったりしながらそう言った。
そんな様子を見てエヴァは何やらニヤニヤ顔で上機嫌である。
おそらく俺の参っている姿を見て楽しんでいるのだろう、このクソガキめ。
俺がそんな様子だからか、茶々丸はオロオロした様子で俺に話しかけてくる。
「あの、何かいけない所があったでしょうか?」
「いけない所はねェ。それがいけねェンだよ」
素人の目から見たらあまりに完璧すぎて、エヴァと茶々丸に完全に置いて行かれた感がある。
久しぶりに屈辱だった。
クソッ、愛衣でも探していじくり回すか?
俺の言っている意味がわからないのか、茶々丸は首をかしげていた。
ニヤニヤと笑っているエヴァが俺の肩を叩く。
「まぁ、誰にだって苦手分野があるということだ。そうだろう、アクセラレータ?」
「…………否定はしねェ。っつかそれ以上嬉しそうに話すンじゃねェ!地球1回転分のエネルギーぶつけンぞコラァ!!」
―――結局、俺たちはモメて解散するのが運命らしい。
その後、俺とエヴァたちは自然解散となった。
まぁ、いつものことである。
「ぐぇ……」
ドサリ、と何やら重い者が倒れる音。
ため息が一つと、拳を鳴らす音が二つ。
俺はその後、結局広域指導員の仕事をしていた。
目の前に倒れているのは三人のナンパ集ども。
強引に裏路地へ、という輩は本当にいるもんで、既にこういう輩の対処は慣れたものだ。
愛衣ではなくこいつらでストレス解消できたのが唯一の救いだろう。
こんなゴミ溜めどもにも使い道があったとはな。
野点でのイライラがまだまだ残っているためか、少々思考が暴力的である。
そのせいかこいつ等に対しての加減が曖昧で、ちょっと骨とかイッちまったかもしれないが、死人に口なし、犯罪者に口答えする権利なしである。
「っつゥかメンドクセェ……もう4件目だと。どうなってやがる」
どうして一方通行の周りにはこれほどまでトラブルが起こるのだろうか。
まさか『カミジョー属性』を持っているのか!?と心配になる。
トラブルメーカーというのはネギじゃなかったのだろうか。
麻帆良にいないから今は俺がトラブルメーカーということか?
神様とはなんとも面倒な役割を与えてくれるものである。
ありがとうございますと頭を下げている女性陣にヒラヒラと手を振りながら、ジジイに連絡を取る。
『ちょっとばかり多すぎじゃないかの?』
速攻でジジイがそう言った。
この場合の“多すぎ”とは検挙される人数ではなく、俺の検挙する回数の多さである。
「うるせェ。自分でもそう思ってンだよ。どォにかなンねェのかこの浮かれたクソ共は」
チャラい恰好をした『ちょい悪』な男たちを見下ろしながら、俺はため息をついた。
『麻帆良祭は見ての通り大規模でのぉ。浅はかな輩が裏で動くにはちょうど良いと言ったところじゃろうて』
「あーッ、面倒くせェ。裏路地全部引っかき回してやろうか」
『それはちょっと勘弁じゃのう』
結局麻帆良からすれば言う事聞かなかったらブチのめして豚箱にブチ込むわけだが……まぁ、ガンドルフィーニや高音の『お優しい』対応だと舞い戻る危険性があるが、ここまでフルボッコにしてやれば二度と麻帆良に近寄ろうとは思わないだろう。
俺の恐怖政治の経験サマサマである。
やってきた先生方にフルボッコされた奴らを引き渡し、俺は再び人ごみの中を歩く。
既に夕焼けで、空は赤い。
本当に晴れの多い地域だ。
だからこそここにいる連中は暢気なのかもしれないが。
また世界樹の上で寝るか?
いや、注目してる連中も多い中、それはまずいか。
自重するというのもいちいち対外的な都合を考えなければならないから面倒だ。
もうこうなれば家で寝るしか、と考えていたのだが、ここで携帯が鳴る。
着メロ?
語れ!涙!だが何か?
あのマンガ、この世界にあってしかも映画化までしてるから驚いた。
……いや、そんな事を言っている場合じゃない。
見ると、ガンドルフィーニからの電話だった。
通話ボタンを押す。
「ンだよ。俺は忙しいンですが?」
『それにしては周りが静かじゃないね。裏路地にいるわけじゃないだろう?』
チッ、と舌打ちする。
どうせガンドルフィーニからの電話なんて厄介事しかないのだ。
「あァそォだよ現在超絶に暇だっつゥの。で、何だ?」
『話が速くて助かる』
ふむ?と俺は頭の中のギアをシリアスなそれに切り替える。
この時期の麻帆良祭で起こった問題など、原作知識にはない。
となると、何か小競り合いみたいな事件が起こったのだろうか。
頭の中でそれらの状況について頭の中で考慮していると、
『是非、漫画研究会の公演に来てくれッ!!』
「…………」
流石の俺も絶句。
いや、何て答えれば良いんだ?
『前も言っただろう、私は漫画研究会の顧問もやっていると。今から30分後に私と他の生徒たちによる『北斗百○拳とペガ○ス流星拳のどちらが強いか』という研究内容の発表を行うんだ。いや、自分でもなかなか詳しく調べたと自己満足しているわけだが、この喜びを君にも知ってもらいたくてね。高畑先生や高音君も誘ってみたのだが、彼らはそれぞれ都合があるらしくてな……だが君なら暇だろう!?どうだ、公演会に―――』
無論、切った。
その後、電源も切った。
しばらく無言で歩き続け、俺はふと呟く。
「……昨日、もうちっとあいつ等に優しくすればよかったか」
ガンドルフィーニに火をつけた原因は俺だ。
迷惑かけた責任は取らねェとな……。
俺はドッと疲れた気分になりながら、結局家路についたのであった。
後日、この漫画研究会の発表が麻帆良新聞に大々的に取り上げられているのを見て吹くことになるのだが……その事を今の俺は知らない。
その翌日、麻帆良祭三日目。
一応、10時に起きた。
俺にしてはハンパないほど早い時間帯であるが、それも仕方がない。
本日、例の『鬼ごっこ』があるからだ。
大通りなどを通ってみると、雪広コンツェルン主催を異常に強調したバルーンにより通知が行われていたり、それにより飛行機による飛行が禁止されていることなどが報告されていた。
それを読みあげると、こうだ。
『雪広コンツェルン主催!今年は麻帆良全体での鬼ごっこ!ゼッケンは先着3000名様まで受け付けます!受け付けはお早めに!』
『時間帯は午後3時から午後5時!暗くなるまでが鬼ごっこです!』
『鬼:タカミチ・T・高畑 一方通行』
『実況席には近衛近衛門学園長先生をお呼びします!』
などというフザけた文字が躍っている。
っつかクソジジイ、自分は高みの見物かよ。
良い御身分で。
ちなみに、俺は深くフードをかぶり、バイザーをつけて変装している。
騒がれたりしたら面倒くせェからな……原作のネギみたいな事態は御免だ。
街中を見てみると、あちこちに『鬼ごっこ』の受付があり、ずらりと列がついている。
受付にはゼッケンがあり、その説明を盗み聞きすると鬼が手につけているセンサーにゼッケンが触れるとアウトになり、ゼッケンに備え付けられているブザーが鳴るそうだ。
その時にゼッケンが青色から赤色に変わるらしい。
無駄にハイテク使ってやがるな、雪広コンツェルン。
更にゼッケンのみを隠すなどという行為を防ぐため、まるで手錠みたいに鍵をかけてゼッケンをつけていた。
というのも電子ロックであり、鬼ごっこが終了するか午後5時になるかで外れるようだ。
……どんだけ金かけてんだよ。
それらの受付に近寄って見ると、どこぞの若者二人の話し声が聞こえてくる。
「なあ、一方通行って何だ?何かの標識か?」
「バカ!んな事も知らねえのかよ……まぁお前は知らんだろうが一方通行ってのはあの『ホワイトデビル』の本名だ」
「げぇ!?あんな都市伝説みてえな奴が出てくんのか!?俺やめよっかなぁ……」
「それこそバカだろ。『ホワイトデビル』みたいな有名人と会えるんだったら是非出るべきだろ!お前みたいな平凡かつ平凡かつ平凡な生活にちょっとでもアグレッシブな刺激を入れるチャンスだぜ!」
……なんだか俺の名前が芸能人っぽく伝わっているみたいだな。
まあ、『学園都市』でも第一位として有名ではあったから、ちょっとした意外があるだけで意識が高揚したりはしなかった。
慣れてるのかね。
「こういう地雷臭漂うB級ゲームにはきっと超面白いオチが超待ってるはずなんですッ!!」
「何故そこで断言!?っつか待て待て割り込みすんじゃねえ!?すみませんコイツ祭りの気分でハイになっちゃってて!!」
「電波が東西南北から来てる……」
「全方位から受信してんじゃねえ!?ただでさえフラフラと危なっかしいんだからこのジャージ娘は!!」
……なんだか聞いた気がする口調だが、気のせいだろう……。
そそくさとその場から離れることにして、俺は再び大通りを歩いた。
午後3時から『鬼ごっこ』が始まるようだから、パレードは午前中で既に片付けに入っている。
あちこちに何やら暴走した名残やへこんだ地面などがあるが、とりあえず無視。
麻帆良大結界って、すげえよな。
というか、これで新聞沙汰にならない方がおかしいだろ。
長谷川千雨も苦労してるんだな、と改めて思う。
ストレス解消に二次元に走るのもしょうがないだろうな。
なんというか、非常に脱力した気分で歩いていると、既に昼頃になったようだ、大通りにいる人がそれぞれ喫茶店などに入っていく。
俺もステーキ食おうと思いつつ、肉が食える飲食店を探していると、
「おーい、アクセラレータ!」
聞き覚えのある声が右から。
思わずそちらに向くと、そこには明石、ピザマン、ガンドルフィーニというモブな魔法先生が勢ぞろっていた。
やれやれと思いながら、そちらに向かう。
「おォ、奢ってくれるらしいな」
「既に決定事項かい?」
「肉まん寄越せ。肉食いてェンだ」
苦笑しながら、ピザマン―――弐集院が肉まんを差し出してきたのでそれにかぶりつく。
……超包子か、相変わらず良い味出しやがる。
食べ物を食わせれば大人しくなる俺の習性を知っている面々は俺の調子に苦笑しながら、とりあえずガンドルフィーニが俺に詰め寄ってくる。
「アクセラレータ、昨日はどうしたんだ?急に電話を切ったりして」
「『ボランティア』だ。昨日だけで5件くらいあったぞ。麻帆良の空気にチョーシぶっこく連中が多くなってるみてェだ」
咄嗟に事実っぽい嘘をつく。
誰がそんな発表会行くか、面倒くせェ。
俺の台詞に明石がため息をつく。
「また荒事か……麻帆良祭の時はいつも以上に多いんだな」
「いつものことではあるが、このドサクサに紛れる人間は本当に多いんだよ」
武闘派ではない明石と弐集院は残念そうに言った。
こいつ等は前線に立たず、後方から情報の制御をやっている連中だ。
表舞台に立つ前線を支える役割としては申し分なく、欠かせない存在だとは思っている。
だが、魔法使いと言えばタカミチ、ガンドルフィーニ、神多羅木などといった連中の印象が強い俺にとって、こいつ等は芯が小さいと思える。
甘っちょろい、と言えば良いのか。
タカミチなどといった武闘派の連中はそれぞれ心に一本ズドンと芯があるようなもんだが、情報統合班などといった後方援護の連中は総じて甘い。
正義病の連中はこういう所に多くいたりもする。
だが、そういう情報関連の部隊の方が戦いの裏などといったことを見つけやすいと思うが……その戦いの意味を考えずにいる連中が正義病にかかるわけだな。
ガンドルフィーニも緩和されたとはいえ、まだその病気にかかってるっぽいし。
エヴァを危険視するのは変わりないみたいだしな。
何故それでいて俺にかかわろうとするのかは分からないが。
「ンで、何でテメェ等は集まってンだよ。合コンでもやンのか?」
「……一応私たちは子持ちなんだが、アクセラレータ」
ガンドルフィーニは呆れたように眉間を抑えた。
イイ歳こいた男がぞろぞろ集まってやることと言えばそれくらいしかねェという俺の常識がおかしいのか?
俺の軽口に苦笑しながら、明石が答える。
「『鬼ごっこ』について話していたんだ。僕たちは参加できないからね、どんなふうに盛り上がるのか予想していたんだ」
げぇ。
よりによって一番考えたくない事が話題かよ。
俺は肉まんを齧ることでストレスを解消しながら、苦い顔をする。
その顔を見た弐集院が笑った。
「確かにアクセラレータにとってはダルい仕事かもしれないけど、どうせ学園長に言われたんだろう?もう諦めなよ」
「君がこういうゲームに出るなんてそれしか考えられないからね」
あっはっはっはっは、とお気楽に笑ってくれるクソ野郎が二人。
ブッ殺してやろうか。
「そんな顔をするな、アクセラレータ。あの力を使わない範囲でなら好き勝手やっても構わないんだろう?実はそっちにも少し期待しているんだ」
弐集院、お前はそんなキャラだったか?
ちょっとニヤリとした弐集院だったが、明石にため息をつかれる。
苦笑の表情である。
「片付けをするのは雪広コンツェルンの皆さまと僕たちなんですよ、弐集院先生。あんまり好き勝手やってもらうと後片付けが大変ですよ」
「まあ、いいじゃないですか。若い内は好き勝手やるものですよ」
弐集院……過去に何があったんだ。
記録が残っていたら是非見せてもらいたいと思いながら、俺は頷く。
「あァ。文字通り好き勝手させてもらうぜ。やるからには絶対勝ってやる。それに、サッサと終わらせてサッサと寝てェしよ」
「君らしいよ」
再び弐集院と明石が爆笑。
ガンドルフィーニもニヤニヤと笑っている。
少し面白くない気分になりながら肉まんを齧っていると、おお、とわざとらしくガンドルフィーニが言う。
「そういえば、君に聞きたい事があるんだった」
何だ?
ガンドルフィーニに何か言われるとしたら、昨日のエヴァとの野点か?
この際だから言うが、俺はテメェ等に自由を拘束される言われはねェぞ。
「なンだ?サッサと言え」
「うむ、ならば言うが―――」
ここで言葉を遮り、弐集院が身を乗り出しながら言った。
「真ゲッ○ーとマジ○カイザー、どっちが強いと思うッ!?」
「…………」
ガンドルフィーニの方を見るとコクリと頷き、明石の方を向くと、こちらも真剣な表情で頷いた。
まあ、なんだ。
……馬鹿が増えやがった。
おまけ
その後―――
「やはり真ゲッ○ーは真ドラ○ンと組み合わせると最強クラスの―――」
「待ってください。真ドラ○ンは除外でしょう」
「ふっ……合体するのは反則ですかな、明石先生?」
「―――まさか真ドラ○ンにパイ○ダーオンとかいう戯言は吐きませんよね弐集院先生ッ!?いかに真ゲッ○ーがシャイン○パークの動力源になったとはいえそれは認められませんよッ!!」
「ですが、もしもそうなると大きさと出力でマジ○カイザーは蒸発しますね……なにせ衛星をぶった斬りますし」
「そうッ、ゲッ○ー線の力は無限大だァああああああッ!!」
「何を言う!?光○力こそが世界一ィィィィィィィィッ!!」
―――などとフザけたテンションでハシャぎ始めたので、俺は他人のフリをしてそそくさと離脱した。
むしろそういう『どっちが強いか』という問答自体無意味だということに気づかないのだろうか。
彼らの娘が早めに到着する事を祈ろう。
若干ガンドルフィーニが一歩引いた視線で見ていたが……お前も同類だからな。
~あとがき~
第14話をお届けしました、作者です。
馬鹿が増えましたwww
ガンドルも変になっちゃったのでいっそのことこいつ等も、と思いまして崩壊させましたwww
明石教授とピザマンさんはロボット中心、ガンドルは一応そっち方向の知識もありますけど漫画研究会の連中から聞いただけでほとんど知ったかという状態です。
『おまけ』でテンション低いのがガンドルです。
超が出てくると思った方、多いようですが……彼女はまだです。
オオトリを飾ってもらいます。
え?はまづらがいた?滝壺?絹旗?まさか、いるわけないでしょうwww
次回は『鬼ごっこ』が開幕します。
おそらくそれだけの描写で終わる予定です。
登場キャラはタカミチ、学園長です。
新登場キャラが出ますが(無論原作キャラです)、ここでは明かさない方向で。
あと、できれば先生方を少しだけ。
追伸
弐集院先生の発言を一部修正しました。