SIDE 一方通行
学園長との予想外の遭遇があったが、俺と高音、愛衣はおなじみ麻帆良中等部にやってきていた。
ちなみに学園長との会話の時に全く話さなかった高音であるが、ようやく立ち直ってきたのか『しょーがないですね』とばかりに復活していた。
まだこの頃は脱げ女として有名になっていないので復活は遅いようだ。
さて、まずは愛衣のクラスである1-Dへ向かう。
1-Dはハチャメチャかつ滅茶苦茶なメンバーである2-Aに対して非常に平凡なクラスであった。
なんというか、愛衣の容姿が目立つくらい地味なクラスだった。
しかも出し物は無難にお好み焼き屋という始末。
いや悪くないチョイスだし美味いが、もうちょっと捻って欲しかった。
俺がその旨を愛衣に伝えると、
「いえ、わかってるんですけどね。この中等部に2-Aの存在がある限り私達の所に収入は入ってこないんです。勝負は私達が3年になった時です!!」
「なンで確信できるンだ?」
だって!と愛衣はずいっと俺に迫ってきた。
軽く涙目である。
「あのクラスどういうわけか一年の時から売上率だけは異常なまでに高いんです!それも麻帆良ジャンボ宝くじでも必ず上位にクラスメイトが食い込んでますし!ずらーっと並んでるあの列って2-Aの出し物に並んでる人達ですよ!?あの人達皆かわいいし内容も全然悪くないし明るいから絶対人気出るんです!」
「あー……」
麻帆良学園本校女子中等学校2-A。
このクラスは麻帆良でもかなり有名度が高いクラスだ。
というのも、特徴が多過ぎるのだ。
まず、椎名桜子。
おそらくこの麻帆良一と称されるほどの強運の持ち主。
彼女がいる限り宝くじの一等賞は2-Aに取られる。
更に、麻帆良四天王。
龍宮真名を筆頭とし、長瀬楓、古菲、桜咲刹那の運動能力においては麻帆良最強クラスの四人衆である。
この四人が全て2-Aに集約している。
そして、麻帆良最強頭脳。
表も裏もそれなりに名前が知られている超鈴音の存在だ。
更には絡繰茶々丸というオーバーテクノロジーにも程があるガイノイドを生み出した葉加瀬聡美も有名な存在である。
超包子としては四葉五月。
さっちゃんという相性が有名な超包子の主力シェフである。
彼女の背後にユーカリを食べるコアラを幻視した時、争いが全て丸く収まると言う都市伝説も持つ。
最後に、何と言っても『闇の福音』と『デスメガネ』の存在だ。
魔法に通じる者でエヴァを知らぬ者はまずいないし(会っているかどうかは別として)、タカミチは表裏ともに超有名人でもある。
おまけとして、クラスの全員が美少女でもある。
これだけ注目すべき生徒たちや先生が揃っているのなら、まず2-Aに行って見ようと思う生徒たちがいるに違いない。
そしてこれだけ目立つクラスがあるのなら、いくら良い企画でも彼女達の影に霞んでしまうのは否めないだろう。
脇役の悲しい運命である。
「さて……そろそろ時間だな。おゥ、お好み焼きはなかなか良かったぜ」
俺は1-Dの店員役の生徒にそう告げ、高音と愛衣を引きつれて歩き出した。
愛衣は彼氏騒ぎが起こらなかったおかげでホッとしており、高音は少しストレスがたまっているようだ。
発散するためには……愛衣でもイジらせるしかないだろう。
愛衣は胸を撫で下ろしていたが、俺の台詞に疑問を覚えたのだろう、尋ねて来る。
「時間って、何のことですか?」
「俺独自の2-Aへのパイプがあンだよ。その情報を使って、この時間にここでとある人物と待ち合わせて2-Aに行けば面白いことになりそうだったンでなァ」
眼を鋭くし、高音が睨んでくる。
「まーた変な事企んでるんですか?セクハラは許しませんよ?」
「あのクラスにセクハラできる勇気のある奴がいたら賞賛してやる」
やろうと思えばできるが、その場合は反射を展開してガチ戦闘になりかけない。
2-Aとは、そんなクラスなのである。
「やあ、アクセラレータ。君が僕をお茶に誘うなんて珍しいな」
その声にぎょっとして高音と愛衣が振り向くと、そこにはタカミチが立っていた。
そう、とある人物とはタカミチだったのである。
「テメェがいねェと2-Aに入れなさそうだったからな。担任ってなァ優遇されるモンだからよォ」
「君もセコいね……どうせ、2-Aの出し物も知ってて僕の名前を使って席を取ってるんだろ?」
「正解。俺の性格わかってきたじゃねェか」
「ふふふ、半年も付き合えば君の行動予測もできるというもんだよ」
ククク、ふふふ、と怪しげに笑う二人の空気に高音と愛衣は押され気味である。
学園長、エヴァを除けば麻帆良最強クラスの戦闘力を持つ二人がここにいるのだ、裏を知る人物としてはどう反応して良いのかわからないのだ。
「おら行くぞ、高音、愛衣。2-Aをからかいに行くぞ」
「かっ、からかいに行くんですかぁ!?」
「アクセラレータさん、冷やかしはいけませんよ!」
「あはは……その注意が続くのは高音君くらいだろうな」
ちなみにガンドルフィーニはもう諦めていたりする。
タカミチもその一人なので、余り深く考えない事が一番だということを知ったのだった。
SIDE 桜咲刹那
私は今、2-Aの出し物『ドキッ☆女だらけのメイド喫茶IN麻帆良』というのに出ている。
余計な文字ばかりついているが、つまりはただのメイド喫茶だ。
男だらけのメイド喫茶なんてないから(いや、あったか?)、女だらけとつけなくても良いのでは?と思うのは私だけじゃないだろう。
あまりこういうのは知らないが、私達生徒がメイドの格好をして接待をするだけと言うものらしい。
私のような柔軟な対応ができない者は調理の方に回された。
たまにはいかがわしい目的でよって来るバカな男連中もいるので、私はその用心棒的な役割もになっている。
と言っても、このクラスは異常なまでに戦闘能力が高い人間が結構いるから問題ないとは思うのだが。
本当はこんな仕事やりたくないのだが、お嬢様が神楽坂さんと一緒に参加してしまったため、私もこの時間この仕事をして警護をすることにしたのである。
さっきナンパされても落ちついて『ややわあ』と言いながらやんわりと断る手腕は流石近衛家の人間といえよう。
さて、いくら調理担当と言ってもやはり私達の出し物は大盛況、と言うことで人手が足りなくなる事もある。
その時は私も接待しなければならないわけだが……。
今日ばかりは私の運のなさを呪った。
私が注文を取るためにその机に出向くと、有り得ない人物がいたからだ。
「おォ、刹那。来てやったぜ」
白い悪魔がそこにいた。
な、なんで彼がこんな所に……!?
そのテーブルには彼の対面に高畑先生、彼の両隣には先日のお礼を言いに行った高音さんと、そのパートナーである佐倉さんがいる。
「たっ、高畑先生ッ!?」
向こうで神楽坂さんがすっ転んでいる。
高畑先生がいるのに気付かなかったのだろう。
私も驚きだ。
この四人、いつの間にここに来たのだろうか……。
まさか、問題でも起こったのだろうか。
「……何か重要な案件でも?」
「ばァか、ただの冷やかしだ」
ガクッ、と私の肩の力が抜けた。
そーだ、こういう人だったな。
つまりは私のこんな姿を見て笑いに来たと、そういうワケですね。
私が深いため息をついていると、高畑先生が苦笑していた。
「すまないね、桜咲君。待つのは嫌だからと彼が僕を誘って担任権限で席を陣取っただけなんだ。問題が起こったわけじゃないから、いつも通りに対応してくれ」
「はい……アクセラレータさんはいつもこうなんですか?」
「まあ、学園長のきまぐれの次に困るな」
それは困る。
非常に困る。
まあ、それでもアクセラレータさんと高畑先生は仲良さそうにしてるから、高畑先生も迷惑だと思っていても嫌ではないのだろう。
両隣の二人もそうみたい―――じゃなかった。
何故か私に同情の視線を向けられている。
言葉にすると『御愁傷様』だ。
あまり詳しくは話さなかったが、この二人はアクセラレータさんにからかわれているストレス解消人形的な存在らしい。
そういえば、朝早く起きたらどこからともなく女子生徒の怒鳴り声が聞こえてきたりしてたが、もしかしたらこの二人のどちらかかもしれない。
「……御注文はどうなされますか、ご主人様」
とりあえず、私は台本通りに注文を取ることにした。
アクセラレータさんにやるのはものすごく恥ずかしいが、なんとかそれを押しこめて尋ねる。
笑うかと思ったが、どうやらアクセラレータさんはこういう場合に笑わないというマナーを律儀に守るらしく、真顔で注文するべき品を読み上げていった。
チョコレートパフェ二つにコーヒー一つ、ミルクティー一つ。
「以上でよろしいでしょうか?」
「あァ。……クック」
答えてから、アクセラレータさんは私を見て少し笑った。
今まで笑いを抑えていたのだろうか。
少し胸がムカつきを覚えるが、その次の瞬間アクセラレータさんは言った。
「滅茶苦茶似合ってンじゃねェか。神鳴流やめてメイドになっちまえよ」
―――ばぶふ!?
私は盛大に吹き出して足を滑らせてすっ転んだ。
なっ、なんでいきなりそんな……!?
「に、似合ってません!だいたい私にこんなヒラヒラな服は」
「あァん?それで似合ってねェっつったら麻帆良の半分の生徒がキレるぞ。いやいや着物以上に似合うとか、こりゃ剣じゃなく銃の道を進んだ方が良いんじゃねェか?」
「そっ、そんなことできるわけがないでしょう!」
「坊やだからか?」
「私は女ですッ!!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐここになんだなんだと注目が集まる。
連れのお二人は諦めの表情をして首を振ってるし、高畑先生は静観の構えだ。
援軍は期待できない。
ああ、連れの二人の同情の眼差しはこれを予想していたのか。
お嬢様、すみません……私はこれまでのようです。
そう思っていると、思わぬところから援軍がやってきた。
バキン!!とアクセラレータさんの頭に何かが当たって砕けた。
黒くて細長い……私は見ただけではわからなかったが、どうやらそれは警棒のようだった。
こんな者を日常的に持っている人物はここにはいないはずだが?
そう思ってそっちに目を向けると、アクセラレータの背後には超さんが立っていた。
古さんも同じようなのを着ていたが、チャイナ服とメイド服を混合させたような服を着ている。
自作なのだとか。
流石麻帆良最強頭脳だ……。
いや、それは置いといて何故か笑顔だ、ちょっと怖い。
「アクセラレータ、からかい過ぎはよくないネ。営業妨害ヨ」
アクセラレータさんは特殊警棒を叩きつけられたにも構わず何事もなかったかのように振り向き、面白そうに笑った。
「おォ、すまねェ。それよりもテメェも似合ってるな。チャイナ服とメイド服のコラボとはどんな奴がそれ作ったンだ?」
「……き、企業秘密ヨ。それよりも刹那サン、早くこの白い悪魔の魔の手から逃れるヨロシ。この人の戯言に付き合ってたら日が暮れてしまうネ」
「あァ、嫌われちまった。お兄さんショックだぜェ?」
「棒読みで言われてもちっともそうとは思えないヨ」
早く、とばかりに目線で急かして来るので、私はその場から離れた。
気のせいだろうか。
似合ってる、と言われた時の超さんの顔、少し嬉しそうだった気が……まあ、誰でも誉められれば嬉しいか。
調理場に戻ると災難だったねと大河内さんが肩を叩いてくれた。
いいんです、慣れてませんけどいつものことなので、と言っておき、私はふとアクセラレータさんの方を見た。
既に超さんは離れており、今は連れの二人と高畑先生を交えて談笑しているようだ。
にやにやとした笑みを貼りつけながら、それでも嬉しそうにしている彼を見て、あそこが記憶をなくしていても作れる居場所なんだな、と思う。
居場所を作れると言うのは良いな。
私も……。
ふとそう思ったとき、私は甘い思考を切り捨てるために頭をブンブン振った。
私はお嬢様の護衛で、剣だ。
そう、そのはずだ。
しかし、冷たくしていくその思考の中で、ポッと暖かく灯るものがあった。
そういえば、初めてじゃないだろうか。
誰かに服装を誉められた事なんて。
SIDE 一方通行
まさか超が殴りつけてきたのが最新式の痴漢撃退用特殊警棒だったとは思わなかった。
電流が流れてバチッとするあれだ。
しかも高音が言うにはちゃんと電気が流れていたという。
俺は電気も無意識的に反射していたらしい。
ていうか、物理攻撃が効かないと知っている超にしてもやりすぎじゃないか?
俺がそう言い返した所『普通に殴ると手首の骨が折れると聞いたネ』とどこから仕入れたのかそんな情報を言ってのけた。
回りから見れば言い訳と聞こえそうだが、超にしては迂闊な台詞にタカミチが一瞬鋭い目をしたのを俺は見逃さなかった。
俺に物理攻撃が効かない上に自動反撃する反射を常時展開していることを知っているのは学園長、タカミチ、エヴァのみ。
どうしてそれを一般人である超が知っているのか、という疑問だった。
超も失言に気付いたらしく、タカミチに愛想笑いして早々にその場から退散していこうとした。
超にしては珍しい失敗だった。
顔も赤いみたいだったが……俺に罵られてMにでも目覚めたのか?
超を見送っていると、俺は刹那はともかくどうして超と親しげなのか延々と問い詰められる羽目になった。
何故か愛衣に。
その後、仕事だと言ったタカミチと別れ、俺達は暗くなってきたので夕食を食べるためにとあるレストランにやって来ていた。
服は既に元に戻っている。
このレストランに来る直前に貸衣装屋に戻って着替えたのだ。
そのレストランはよく外が見え、まだ光らない世界樹もよく見る事ができるなかなかの良レストランだった。
料理の味も悪くない。
俺の機嫌が良いのを感じているのか、高音と愛衣もいつもよりリラックスした柔らかい表情をしていた。
二人でくすくす笑っているのは歳相応の少女に見えて、なんとも微笑ましい光景だった。
二人とも十分な美少女だから尚更絵になる。
ドン、と打ち上がる花火に横顔が照らされて、薄く化粧をしている高音の肌とその必要がないすっぴんの愛衣の肌がキラリと光ったように見えた。
二人をチラリと見た後に、俺が目の前のピザに手を出そうとすると、メールの着信音が鳴った。
「あれ、アクセラレータさんですか?」
「仕事かしら?」
「知るか」
俺が携帯を取り出して見ると、仕事ではなかった。
どこで俺のメルアドを知ったのだろうか、超からのメールであった。
おそらくエヴァ繋がりだろう。
エヴァはほとんど携帯を使えないので茶々丸を使ったのだと思う。
超からのメールを要約すると、
『最終日の午後七時からデートしないカ?』
とのことだった。
超とデートなんて怪しすぎるが、女性からのデートの誘いを断るのも気まずい。
何よりあの肉まんが食べれなくなったら困るので、俺は『OK』とだけ打ちこんで返した。
携帯を折りたたむと、何故か神妙にこちらを見てくる高音と愛衣の姿が目に入った。
「ンだよ?」
「仕事か何かですか?」
「違ェよ、ダチから最終日に学祭回ろうって言われただけだ」
すると、なーんだ、と二人は安心していた。
それよりも、と高音がこちらを向いてきた。
「あの超さんと言い、あなたにも普通の友達がいるのですね?てっきり毎日高畑先生やガンドルフィーニ先生と飲みにいっているのかと」
「俺をなンだと思ってやがる。一応戸籍上は未成年だぞ」
「前まではそう見えましたけど……ねえ、お姉様?」
「ええ、今では絶対に未成年には思えません」
確かに背も伸びたし、顔も男っぽくなってきたが……そんなに老けて見えるかね。
まだ15か16そこらだと思うのだが。
「俺ァそンなに老けて見えるってか?」
思った事をそのまま尋ねると、二人は顔を見合わせて難しそうに唸った。
なんでそこで唸る?
「老けて、というよりは大人っぽいと言ったほうがいいかもしれませんけど……アクセラレータさんの場合、外見より雰囲気が強烈ですから」
「そうです。あなたはアルビノですから外見は目立ちますけど、それ以上にあなたの雰囲気があなたを年齢以上に見せてるんです」
「そンなモンか?」
頷く二人を見て、まあそういうことにしておくことにした。
大人っぽい雰囲気と言うと、やはり落ちついていると言う事だろうか。
俺の場合落ち着くと言うよりはやさぐれているほうが正しいと思うのだが。
「まあ、アクセラレータさんみたいな人はそういないと思いますけどね」
「そォだな。世界に俺そっくりの奴が百人いたら世界は破滅するのは確実だしよ」
「十人でも破滅する気がするんですけど」
だが正直核爆弾すら無効化する俺みたいな存在は一人いれば十分だ。
『紅き翼』?
確かにあんな奴等は核爆弾食らっても死にそうにないが、全く無傷というのはおそらく俺だけだろうと思う。
放射能すら反射するしな。
ま、俺だって好きで殺してる殺人狂じゃないし、できるだけ堕落して過ごしたいから百人いても戦わない限りそんなに世界は変わらないと思うがな。
俺は最後のピザを頬張ると、連続して花火が打ちあがる空を見上げた。
ふと騒がしいと思って下を見ると、パレードが近くを通っていた。
こんな夜までパレードとは、御苦労な事だ。
このパレードとやらは二日目が最高潮に達するらしく、どうやら麻帆良各所で別々にやっているパレードが二日目の夜に合流し、一斉に大通りを行進するらしい。
三日目の全体行事と同じく麻帆良祭の目玉でもあるので、是非見ておいた方が良いとの話だった。
「そういえば、全体行事で高畑先生とアクセラレータさんが鬼をやるんですよね?」
「あァ。そういや参加人数はどれくらいになるンだ?」
「私達もそこまでは……まあ、1000人はくだらないんじゃないでしょうか?」
「1000人?……そンなにいンのかよ。面倒くせェ」
まあ、それくらいだとは思っていたが……いざやるとなるとげんなりする。
200万円がかかっているとしても、消費される労力もハンパないものになりそうだ。
「でもこれって魔法生徒の参加禁止なんですよね、お姉様?」
「そういえば前に収集されましたね。一週間くらい前だったと思いますけど……その時にあらかた全体行事については説明されたはずですが?」
まさかあなた、とジト目で俺を見て来た。
俺はいっそ清清しいくらいに肩を竦め、爽やかな笑顔で言ってやった。
「サボったが何か?」
「何かじゃないです!あなたは実力が優秀なのは認めますけどやはりその不真面目でいーかげんな所は認められません!今日はお祭りですから大目に見ますけど、いつもこんな調子じゃダメですからねッ!!」
「あーあー、何も聞こえねェ」
「棒読みで惚けないでくださいッ!!」
「お、お姉様、人の目もありますから―――ってアクセラレータさん!?それ私のクリームソーダですよ!?返してください!」
「いーじゃねェかケチケチすンな。クリームソーダの一つも笑顔で奢れねェ小せェ器だとマギステル・マギにゃなれねェぞ」
「あなたにマギステル・マギがどうのと言われたくありませんッ!!」
「ていうか私のクリームソーダーっ!!ああっ、残しておいたアイスクリームまで!?ひどいですーっ!?」
れろんとアイスクリームを頬張り、綺麗に氷まで噛み砕いて飲み干してから俺は愛衣にコップを返した。
あうううう~、と空になったコップを見ていた愛衣だったが、やがて『くわっ!!』と目を見開くと俺のドリンクに目をつけた。
俺がそれに気付いて阻止しようとするが、愛衣はそれをするりと抜けてコップを奪い取った。
「うふふふ、甘いですよアクセラレータさん!もう半年も付き合ってきたら私だって容赦がなくなったりするんですよ!!このジュースは私のものですッ!!」
「あ、待って愛衣、それは……!!」
にやりと彼女にしては珍しく悪魔的な笑顔を浮かべた愛衣は俺のコップに注がれていたジュースをゴクゴクと勢い良く一気飲みしようと呷るが、一口思いっきり含んだ所でその動作がピタリと止まった。
止めようとした高音が『あちゃー』という顔をし、俺は愛衣の数段上の凶悪な笑みを浮かべた。
ギギギ、と愛衣が俺のほうを向く。
俺の右手には俺が注文したコーラがある。
ならば、愛衣が持っているのは?
「む、むぐーっ!?」
それはもう、なんというか形容しがたい色をしているどろどろの液体だった。
この手のマニアには有名な『ガラナ青汁』である。
最近発売された『いちごおでん』と並び、二大地獄と称される絶妙の不味さで知られている。
聞き覚えがあるので俺も挑戦してみたが、結局三口までしか飲めずに途中で路地に捨てた。
「ここのコップは取り放題だったンでなァ。ちょいと仕組ませてもらったぜ」
俺は空になった『ガラナ青汁』の缶を振りながら不敵にそう言った。
そのカラクリ(とも言えないが)はこうだ。
あらかじめ飲み物を二つ注文しておき、一つをさっさと飲み干す。
この場合、あまり味が残らないさっぱりしたものがオススメだ。
そしてそこに隠し持っていた『ガラナ青汁』を入れ、そそくさともう一方は椅子の下に隠してしまう。
後は愛衣か高音のコップを奪って飲み干せば良いだけ。
二人ともしかえしに関してはガキだから同じ手で仕返しして来ると踏んだのだ。
そしたら案の定、コレである。
青い顔をして『むむむーっ!?』と口の中の液体が飲み干せずに喘ぐ愛衣。
あれはあまりにも不味くて飲み干せない上にその苦味が口の中に長時間充満するとなかなか後味が取れないんだよな。
何を考えて作ったのか、未だに不明だ。
「俺に復讐しようなンざ100年早ェよ」
「んぐっ、ふ、ふえぇぇぇ……」
「も、もうやめて!愛衣のHPは0よ!」
ネタに走る珍しい高音を眺めてから、俺は席から立った。
「じゃ、俺は夜の見まわりをやンなきゃなンねェ。そろそろ行くぜ」
「う、ううう……私、下剋上なんてできないダメ魔法使いですぅ」
「いいのよ愛衣、魔法使いは下剋上なんてしませんから」
こっち完全無視かよ。
確かに『ガラナ青汁』はやり過ぎだったかもしれないが、俺的に『きなこ練乳』よりはマシだと思うんだ。
あれはむせるからな。
某ロボットアニメの主題歌以上に。
俺は愛衣の落ちこみっぷりにクククと笑いながらそちらに近づくと、慰めている高音と愛衣の肩を掴んで引き寄せた。
三人の顔が内緒話でもするかのように急接近する。
「はうぅ!?ななな、なんですかぁ!?」
「―――今日は楽しめたぜ。じゃァな」
俺は最後に笑ったのか、それはちょっと覚えていない。
俺は彼女達が何か言う前に、その場から疑似的な虚空瞬動を使って離れた。
直線距離で500メートルほど離れて着地すると……。
「んだとコラパンチとキックじゃ物理的に考えてキックが強えに決まってんだろうが!!」
「ざけんなパンチ舐めんじゃねえ!!ボクシングでも柔道でもキックは使えねえじゃねえか!!」
「そりゃキックが強すぎるからだ。キックがありゃすぐに試合が終わっちまうからな!!」
「逆にキックが弱いから誰も出さなくなって禁止にしたんじゃねえのか?」
「ああ!?」
「やるか、おォ!?」
そこはちょうどどこぞのグループとグループのぶつかり合っている場所だった。
広域指導員として、ここを放っておくわけにはいかない。
「今日の俺は気分がいい。半殺しですませてやるか」
俺は今にも殴り合いになりそうな二つのグループに、手をバキボキと鳴らして近づいていった。
彼等の末路は、言うまでもない。
おまけ
「……見ました?」
「見ましたよお姉様」
「……アクセラレータさんって笑うと案外カッコ良いですのね」
「あー、それ、スゴク良くわかります―――でもアクセラレータさんを旦那さんにしたときは奥さんがものすごく苦労しそうです……」
「ええ、そうですね」
「「メンタル的な意味で」」
平坦に呟いた二人はそれぞれ軽くため息をつく。
なんというか、物凄く普通な二人だった。
~あとがき~
第13話をお届けしました、作者です。
ええ、デートした程度でベタベタになったりしませんよ?
むしろ彼女等は達観します。
なかなか進まない恋愛模様、それがアクセラレータクォリティwww
『とある原作』でも登場しましたガラナ青汁、いちごおでん、きなこ練乳が登場です。
ちなみに作者、いちごおでんは試したことがあります。
ガラナは買う気が起きませんでした。
罰ゲームとかではなく、自主的な好奇心で試しました。馬鹿ですwww
結果ですか?
思い出したくないです。
あれはヤバいです、体力が速攻でスぺランカーになります。
何でやろうと思ったのか思い出せない……『そうだ!いちごおでんを作ろう!』とか思った所は覚えてるんですけど……。
次回ですが、皆さま大好き、『奴』が来ます。
相変わらずになる予定ですwww
あと、エヴァと茶々丸、チャチャゼロも出ます。
皆さまのご期待にガクブルしながら執筆します……良いのができるかわかりませんが。
メロンソーダをクリームソーダに修正しました。