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No.2120の一覧
[0] ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/08/01 23:36)
[1] Re:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/08/02 20:46)
[2] Re[2]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/08/03 20:01)
[3] Re[3]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2008/09/12 00:45)
[4] Re[4]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/08/06 21:15)
[5] Re[5]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/08/06 22:01)
[6] Re[6]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/08/23 01:53)
[7] Re[7]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/08/28 01:15)
[8] Re[8]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/09/03 20:47)
[9] Re[9]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/09/05 07:46)
[10] Re[10]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/09/17 09:44)
[11] Re[11]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/10/07 23:17)
[12] Re[12]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/10/29 10:31)
[13] Re[13]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2007/01/09 06:16)
[14] Re[14]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2007/03/02 06:09)
[15] Re[15]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2007/03/03 16:12)
[16] Re[16]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2007/03/08 01:23)
[17] Re[17]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2007/05/05 03:44)
[18] ワルキューレの午睡・第二部十節[ドジスン](2007/12/26 07:53)
[19] ワルキューレの午睡・第二部最終節1[ドジスン](2008/02/11 03:51)
[20] ワルキューレの午睡・第二部最終節2[ドジスン](2008/02/11 03:52)
[21] ワルキューレの午睡・第三部一節[ドジスン](2008/02/11 03:53)
[22] ワルキューレの午睡・第三部二節[ドジスン](2008/11/15 07:17)
[23] ワルキューレの午睡・第三部三節[ドジスン](2008/11/15 07:16)
[24] ワルキューレの午睡・第三部四節[ドジスン](2008/12/01 06:10)
[25] ワルキューレの午睡・第三部五節[ドジスン](2008/12/08 17:11)
[26] ワルキューレの午睡・第三部六節[ドジスン](2008/12/08 17:13)
[27] ワルキューレの午睡・第三部七節[ドジスン](2009/04/14 00:40)
[28] ワルキューレの午睡・第三部八節[ドジスン](2009/07/27 00:36)
[29] ワルキューレの午睡・第三部九節1[ドジスン](2009/09/21 01:05)
[30] ワルキューレの午睡・第三部九節2[ドジスン](2010/03/19 02:00)
[31] ワルキューレの午睡・登場人物表/あらすじ[ドジスン](2011/02/25 00:16)
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[2120] Re[7]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)
Name: ドジスン 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/08/28 01:15






2.心裏時様→






 盲目的であろうとした愚かな時代が、九条むつみにはある。何が愚かなのかといえば、それが罪悪感から逃れるための手段でしかなかったことだ。彼女には近い将来必ず成し遂げなければいけないことがあって、そのためには財団において一定以上の成果をあげることが必須だった。
 往時を振り返れば、やはり自分は焦っていたのだとむつみは思う。その焦りは結果的に少なくない利益を彼女と彼女の帰属する団体にもたらしたが、取り返しのつかないものも確かにいくつか、失わせた。
 その一例が、とある青年の人生である。

 三年以上前の話になる。その日むつみはK県にある国立総合病院の待合室の一角にいた。

「彼の容態は?」
「思わしくはありませんよ、ミス・クジョウ」
 深みのあるテノールで答えたのは、暗色のスーツを着た白人の男だ。人の良さそうな痩身の中年を演じる男の瞳は、その実感情の機微の読解を、一切許さない。シアーズ財団広報第四課所属のジョン・スミス。それが男の通り名だった。本名ではない。そもそも、財団の広報部に四課は存在しない。アメリカの都市伝説であるメン・イン・ブラックのコードネームを名乗るのは、彼ら一流の諧謔と思われた。
「なにしろ医療班の見立てでは、相当なリハビリテーションを経ても体機能は完全には戻らないだろう、ということですからな」
「そう……」
 俯いたむつみを見て、スミスは淡く微笑んだ。
「案じることはありません、ミズ。確かに我が方が被った人的被害は楽観できるものではありませんが、いくらでもリカバーが可能な程度です。我々はワルキューレとその使い魔に関して、貴重なサンプルを確保できた。肝心かなめのプリンスも一命は取り留めた。そして例の機械人形も……大破はしたものの、リプロダクトは可能とのことです。問題点も浮き彫りになり、グリーア博士もより完成形に近い作品に打ち込めることでしょう。総体的に見ればなんとも素晴らしいではありませんか。そして、ミズ。これは、すべてあなたの手柄なのです」
「人が死んだわ。無関係な人も」
 きつく眉根を寄せて、むつみは顔を両手で覆った。肌といわず髪質といわず、深い疲労が全身に表れ始めている。
「屑のような命です。保護指定者の親族は不幸だったしかいいようがありませんが、他はしょせん一山いくらの傭兵どもですよ。いや失敬、警備会社、でしたかな。まあどちらも大差はありません。関係各所への粉飾は難儀しましたが、広報部としては久方ぶりの大仕事といったところですな」
「天河教授はどうなの?」反感を込めて、むつみは刺々しい声を発した。「彼が必要だと見たからこそ、あなたたちは援助を申し込み、協力したのではなくて? そんな人材を失って……」
「プロフェッサー・アマカワについては残念というほかありません」スミスはしかし、まったく堪えていない様子で肩を竦めた。「とはいえ、自ら死にに行くような人間につける薬はありませんよ。おめおめと彼を逃がしたのは担当者の手落ちでしょうから、ま、相応の処罰はあるでしょうが。それも、あなたとは関わりのないことだ」
 むつみはさらに自虐のための言葉を探したものの、見つかることはなかった。他にひとりの見舞い客もいない談話スペースで、飲料自販機の立てる虫の羽音のような唸りだけが尽きない。それは不眠のための耳鳴りとあいまって、むつみの精神をさらに責めたてる。
 シアーズ財団ではない、彼女自身の古巣が深く関わるある『現象』は、ここ数年以内に本格的な始まりが告げられる。数々の観測データや統計から鑑みてもそれは明らかだ。そして未曽有の革命をもたらす可能性を孕む事態に、シアーズほか世界の勢力は常に干渉しようと機を計ってきた。むつみは、そのプロジェクトの最前線に身を置かねばならなかった。
 贖罪のためである。
 それを全てとして、この数年を彼女は躍起になって生きた。
 だが、『九条むつみ』の本職はエンジニアだ。技術者にとっての現場は数あれど、むつみにとってのそれは即ちデスクであり、前線に彼女の居場所はない。さらに東洋人で元々は外部の人間となれば、仲間内でさえ受ける扱いは悲惨なものである。
 しかしその不利を覆して、いまむつみはプロジェクトの主導的な立場にいた。可能なことは全てやった。媚び、取り入り、裏切り、賄賂……。今では同僚で彼女を後ろ指差さないものは稀だ。反面、狙い通り上司の覚えはめでたく、研究者の枠内に止まらない地位と権威も得た。特権を保つことができれば、たとえ捨石であろうとも計画の実行時には現地に飛ぶことができるはずだった。
 むつみは満足してよい定礎を築いた。少なくとも、その労力に見合った報酬を手に入れた。
 それは今回についても、同じことがいえる。
 残務は手はずを調えるだけである。しかし、むつみの胸中には太虚があった。
「それでも、ちゃんと、やらなくちゃね」
 逡巡の時間を終えて、むつみはシートから腰を上げた。
「彼に面会ですか?」
「ええ。スミス、あなたは来なくていいわ。ご家族については、わたしから話します」
「はあ」スミスが揶揄するように唇を曲げた。「構いませんが、それでしたら弁護士か保険会社の人間に任せてもいいのでは」
「いずれ、事情は誰かが説明しなければならないでしょう」
「ミズ、それは酷というものです」道理を弁えぬ小娘を見るように、スミスは苦笑した。「彼はまだ子供ですよ。間を置いて、ケアをしてからでもよいのでは? ただでさえ、ここ数日の彼はひどいストレス下に置かれていました」
「そして何も聞かせないまま懐柔して洗脳して、気がついたらもう後戻りできないところにさっさと運んでしまうのね」
「必要ならば、そうでしょうね。たとえ我々がしなくとも、一番地は彼を放置しない」
「そう」据わった眼で、むつみは独りごちた。「どこにいても、変わらないわ。人間は……」
 歩き去る。すると、スミスが喉の奥でくつくつと笑った。
「同情ですか。ミセス・クガ。もしそうなら、あなたは傲慢だ」
 足を止め、冷たいまなざしで、むつみはかの諜報員を一瞥した。
「……まさか、彼の両親、殺したのはあなたじゃないでしょうね?」
「まさか」笑みを崩さないまま、スミスが首を振った。「酷い言いがかりですな」
「それと、間違えないで。わたしの名前は九条よ。九条むつみ」
 言い捨てて、もう振り返らなかった。
 取り付くしまもない背を追いかけたのは、最後まで調子の変わらない声だ。
「失礼。ミズ」

 ※

 見舞い客どころか看護婦とさえすれ違わない病院というのは、いくらなんでも問題があるのではないか。
 パンプスの靴音が異様に甲高く響く廊下を歩きながら、むつみはふと既視感に襲われ、あることに気づいた。深夜に重傷者を見舞うという構図にはひどく不快な覚えがあった。
 あのときの自分は、怪我を押し、何もかもを置いて逃げ出したのだ――。
 が、追憶に沈むすんでで目的の病室に彼女はたどり着いた。控え目なノック。答えはない。ためらい、ノブを捻りドアを開けた。
 規則的な電子音が、すぐに耳に入った。
 そこは奥行きのある個人用の病室だった。洗面所や冷蔵庫、エアコンはともかく、仮眠用のベッドまでもが設備として置かれている。身内が泊り込みで看護するための設備だと思われた。
 問題の青年が横たわるベッドからは、点滴チューブ、呼吸器、心電図用のケーブルなど様々な管が伸びている。それらの中心にはほぼ全身に治療のあとが見える人間がひとり。かろうじて目鼻口は見て取れたが、初見では性別を判じることも難しいほど仰々しく、ギプスや包帯が彼をデコレートしていた。
「……」
 予想していたほどの衝撃がなかったのは、結局のところスミスがいうほど彼個人に対して同情していなかったためだ。事実むつみと青年は事前に二言三言会話を交わしただけの間柄でしかない。スミスの向こうを張るほど機械的にはなれないが、むつみは大人であり、科学者である。身内ならばともかく、他人を相手にすれば人情や道徳をしばしば忘れる程度には、彼女も非人間的ではあったのだ。
 ――同時にその姿勢を徹底できない脆さが、やがて彼女を破滅に導くことになる。
 人間の呼吸としては不自然極まりない、未完成な楽器の出すような音がむつみの耳に届いていた。それが青年の寝息だと彼女はしばらくしてから気づいた。彼が集中治療を脱してからはもう五日が過ぎている。いまだ絶対安静には変わりないが、意識も戻っているとのことだった。時間を置けば、いずれ目を覚ますかもしれない。
 それを待たねば話にならない。しかしむつみは、彼に目ざめて欲しくはなかった。
 理由はひとつだ。

「後ろめたいのね、わたし」

 自らの偽善に聡いことは、生きていく上では不便である。悪に徹しきれない人間ならば、なおさらだ。
 むつみは捨て置かれた、座るもののいないパイプ椅子に腰を降ろすと、沈鬱な顔でため息をついた。
 十数分がすぐに経過した。事件の対応のためにした連日の徹夜が祟ってむつみは転寝しかけていたが、身じろぎの気配を感じて即座に覚醒した。
 血走った眼球が彼女を見ていた。首を動かせないためか、瞳だけがきょろきょろと落ち着きなくむつみの体を上滑りしては、怪我の痛みのためか時折うつろに焦点を散じた。もどかしげに肩を動かそうとしてくぐもったうめき声を上げる青年を、むつみは手で制した。

「無理に動かない方がいいわ。指先……左手の指先は動かせる?」

 ほんのわずかだけ、青年の顎が動いた。頷いたのだ。むつみは立ち上がり、彼の左手に自身の両手を添えた。現状で青年の右半身はほぼ付随の容態である。声を出すなどもってのほかだ。意思の疎通を図るならば、筆談を置いてほかにない。

「利き手でなくてやりにくいでしょうけど、がまんして。痛かったらすぐにやめるのよ。わかるわね? そう。じゃあ、てのひらに、聞きたいことを指でかいて」

 青年は苦しげに顔を歪めながらも、むつみの想像よりずっと器用にいくつかの単語を彼女の手に描いた。父、母、教授、そして……。
 むつみはその全てに、首を振った。できるだけ感情を交えず、淡々と。
 すぐに、絶望が青年の双眸を彩った。残酷なカタルシスがむつみの胸に去来する。同時に、熱を持っている青年の手を、強く握り締めた。
 そのとき、焼けるような感覚がむつみの手を襲った。青年が爪を立てたのだ。呼吸器の奥で歪む唇が、涙に濁った瞳が、彼の憎しみを如実に表していた。むつみは甘んじてそれを受け入れる。心電を刻む電子音が痛みを麻酔していた。かりりと皮膚の表面が削れて、むつみの荒れた手に一本のきずをつくった。すぐに血が滲み、清潔なシーツの白色を汚す。それを見て、青年は怯んだように力を緩め、むつみの手から逃れようとした。むつみはそれを許さなかった。痛まない程度に強く彼の左手を握り、深々とこうべを垂れた。
 すすり泣く音が聞こえ始めた。むつみもまた涙の衝動を感じとっている。しかし、決して場の雰囲気と情に絆されるまま、感情を排泄するようなことはしなかった。彼は不幸だ、とむつみは思った。その不幸の少なくない部分を自分が運んだことを否定はしなかった。彼には恨む正当な権利がある。……

 こうして、高村恭司は平凡な日常を剥奪された。しかし望むと望まざると、それは誰にでも起こりうる不幸でしかない。このままであれば、彼は単なる被害者として舞台に上ることもなくその役目を終えることができる。
 それもまた恐らくは、正当な権利である。
 しかし、後に魔女の手管は彼を共犯者にと引きずり落とした。
 心細い彼女は道連れを選ばずにはいられなかったのだ。
 互いにとってその選択がどのように作用したかは、また別の話である。

 ※

 六月半ば。ある日の夜に、高村恭司は山の斜面を駆けていた。

「死、ぬッ」

 走るというより、二本の足で転がっているといったほうが相応しい。地面から張り出した木の根に足をとられ、垂れ下がった枝に顔面をぶつけそうになりながらも、高村は疾走を止めない。止まらない。なぜならば、背後にはオーファンの巨体が迫っているためである。
 山頂部の洞窟でみたものとはまた異なる、四足に禽獣の顔をした、より獣に近いフォルムを持った怪物が、今夜の追手だ。

「は、はっ、ハッ、はァッ」

 沸々と汗が湧き出し高村の全身を濡らす。断続的な呼吸に合わせて上昇する体温。まるでボイラーになったようだ。無我夢中の境地に特有の、取り留めない思考を繰りながら、彼は背後への傾注を怠らない。
 群生する木々をまるで書き割りのように引き倒しながら、追走する気配は決して途切れなかった。大見得きって遭遇戦をしかけたはいいが、結局どうにもできずに逃げ出したというのが高村の現状だ。
(くそ)
 引き離した距離を確認するために、振り向きかけた瞬間――。
 風を裂く音が、高村の意識に警鐘を鳴らした。
 慌てて足を滑らせながら進路を変えると、飛来した円錐状の棘が地面に幾本も突き立った。ただごとではないその勢いに、高村は血の気を失う。

「無理無理無理! ムチャクチャだ!」

 毒づきながら、こまめに進路を変えつつ速度を緩めない。足の筋肉は引きつりかけているが、止まれば死ぬだけだ。
 高村に埋め込まれているユニットは、ときに肉体の耐久度を度外視した出力も可能である。しかしそれは、必ずしも超人化を意味しない。耐久力は当然として、筋力そのものも決して元来のスペック以上の向上は見込めないのだ。

『いいかね、高村くん』と、かつてのジョセフ・グリーアには何度も言い聞かせられたものだった。『かえすがえす言うが、きみにインプランとされたM.I.Y.ユニットの生身での運用は、根本的な開発コンセプトの外になる。またユニットの中核である高機能AIもカットされている。よってMIYUのMIYUたる真価の発揮などは、夢のまた夢だ。
 わかるね? これはほとんど実験的な運用であることを、常に念頭に置いておくのだ。きみが受けた恩恵はユニットのスピンオフ技術でしかなく、間違っても深優のような機動が可能になる、などと勘違いしてはいけない。もっとも、やろうとしてもそんなことは不可能だろうがね。よって、システムがきみにもたらす恩恵は、あくまで体機能の補助の域をでない』

 それをよくわきまえた上で、より良い検体たらんことを心がけてくれたまえ――。
 以来高村恭司は、マルチプル・インテリジェンシャル・ユグドラシル・ユニット制式型の、初の人体被験者としてシアーズ財団に貢献しつづけた。要するに、モルモットになったということだ。
 三年余りの慣熟期間を経て、高村とユニットの親和性はほぼ理想的な段階にまで達している。
 近年の数値検査においてグリーアからは、これ以上の伸びしろは物理的に高村の肉体を強化することでしか生まれえない、という墨付きが出た。これはテスターとしては満点に近い出来上がりである。それほど高村がユニットの研究に寄与した所は大きく、その所産は常に深優を始めとした機械工学の分野に生かされている。

 当初は松葉杖を用いて跛を引かねば歩くこともかなわなかった彼だ。大股で走れるまでに回復したことは、充分に奇跡的であった。
 しかし、人間の枠組みを飛び越えたわけではない。酸素が不足すれば筋肉に乳酸は溜まりつづけ、やがて身体に物理的な制動がかかることになる。なんといっても、
(体は気力じゃ動かない)
 のである。
(なんとか、あともうちょっとで……)
 力尽きるより先に、山を降りれば高村の逃げ切り。それ以前にオーファンに捕まれば、蹂躙された森と運命を共にすることになるだろう。
(これでリタイヤとか、冗談じゃないぞ)
 頬の輪郭を伝う汗の雫を払って、高村は顎を突き出し喘ぐ。地面を蹴る足は、発火したように熱かった。背後では、ばきりばきりと不吉な音が響き――。
 遠のいて、不意に止んだ。

「え……?」

 訝りながらも、高村は足の勢いを緩めなかった。下り坂で無理に止まれば筋を違える危険性もある。拍子抜けしつつそれでも駆け抜けると、前方の枝振りの密度が薄まり始めた。

「撒いた、のか……」

 安堵するよりも先に、肉体は多量の酸素を欲しがった。荒い息をつきながら、彼は山を抜ける。

「高村くん!」

 麓では、アイドリング状態の自動車に乗った九条むつみが待っていた。運転席のウインドウを全開にして、不安そうな顔をしている。

「どうだった?」
「無理です、無理でした」高村はほうほうの態で後部座席に転がり込む。「すぐ出しちゃってください。途中で諦めたみたいだけど、長居は無用です」
「だからやめておきなさいっていったのよ」あきれ返りながら、むつみが車を出した。
「そんなこといったって、自前のでやっちゃだめだっていわれたから、仕方なく」
「馬鹿ね。こうなるのが目に見えてたから許可が下りなかったんでしょうに。だいたい、使い魔の召喚はアリッサにも相当な負担がかかるのよ」一蹴して、後方に敵影の無いことを確認すると、むつみも嘆息する。「……ともかく、これでわかったでしょ? 調査するにも、この近辺では深入りすればするほど、オーファンと遭遇する危険がうなぎのぼりになる。少し戦えるからって、あくまであなた自身は生身の人間なんだから……自惚れないこと」
「きついですね」反論できず、高村は苦笑しきりである。
「事実だもの」むつみはにべもない。「これで結論も出たでしょう。当面は、HiMEへの過干渉は避けたほうが無難ね。またオーファン退治に巻き込まれて怪我なんて、したくはないでしょ?」
「……まったくです。面目ない。でも、せっかく目と鼻の先にカギがありそうなのに。……くそ」

 スモーク越しに、山の影を高村は睨む。あらゆる文献と調査結果が、学園とその背部にある小山の特異性を浮き彫りにしているのだ。だというのに侵入さえできないとあっては、愚痴をこぼしたくもなる。

「今はまだ駆け出しだから、どの陣営もそれなりに神経質になっているの。機会を待つしかないわ……。わたしも、あなたもね」

 バックミラー越しにむつみの柳眉を流し見て、高村はくたりとうな垂れる。汗みずくになったシャツを脱ぎ捨てながら、空調が送る風に目を細めた。

「ちょっと高村くん。レディの前よ。気を使ったらどう?」

 冗談めかして、むつみがいった。

「ねんねじゃあるまいし……」
「なにかいった?」
「なんでもないです」たやすくおもねる高村である。「それより九条さん。機会を待つっていったって、いつまでも手をこまねいてるわけにも行きませんよ。財団だってもうせっついて来てるんでしょう?」
「まあ、ね」
「タイムリミットは、年内ってところですか」
「たぶんあなたが思っているより、ずっと状況は悪いわ」ハンドルを握りしめて、自虐的にむつみが笑った。「年内どころじゃない。上層部は、どんなに遅くとも三ヶ月以内に結果を出すことを要求してきた」
「三ヶ月」

 絶句して、高村は脳裡にカレンダーを思い浮かべた。現在は六月の十六日。高村が赴任して、既に十日余りが過ぎている。
 決算は九月。声に出さず呟いて、高村はいかにも時間が足りない事を嘆いた。現状でHiMEの総数さえ把握できていないのだ。全てのHiMEが玖我なつきや美袋命のように表立って活動するはずもない。さらに調査と並行して教務や調査、理事長から押し付けられた仕事までこなすとくれば、頭を抱えたくもなる。
(こりゃ、教師の方は諦めるしかないな)
 複雑に交錯する思惑の中で、高村の立場はあくまでシアーズにおける末端の域を出ない。はっきりいってしまえば、縁故によってかろうじて現場に飾られているだけの、かかしである。上層部の打診に対しての折衝や調整を務めるのは、ジョセフ・グリーアや九条むつみにほかならない。高村は若く、世間知に乏しい。いくら努力しようとも、心がけではどうにもならぬ問題はある。
 それでも、動かずにいることは苦痛だった。無為に時間を潰すことは、高村にとって拷問に等しい。

「俺に、なにかできることは?」
「ないわね」むつみはあっさりと酷薄な現実を突きつけてきた。「高村くん? ことを仕損じたくなければ、焦らないことよ。わかってると思うけど、わたしたち、結構な危ない橋を渡ってるの」
「……」
「心配しなくたって、うまくやるわよ」バックミラーには、挑戦的な眼差しが浮かんでいた。「さしあたって、あなたはあなたの日常を謳歌なさい。耳障りな忠告かも知れない。だけどそれはきっと無駄なことではないわ。教会で小耳に挟んだんだけど、創立祭の仕事を任されたそうじゃない?」
「保健所やら父兄への対応を、体よく押し付けられただけですよ。俺じゃなきゃいけないって仕事じゃない。牽制、なんでしょうね」
「いいじゃない、べつに」ウインカーの上がる音に、むつみの楽しげな呟きが重なる。「わたしは楽しいわ、あの年ごろの子供たちに触れていると。彼らは未熟で、眩しいものね。どうしてああまで気楽にいられたのか、自分がどうだったかなんてことももう忘れてしまったけれど」
「俺にしてみると、そんな昔の話ではないんで」
「……ふうん」

 確かに懐かしくはあるが、郷愁を覚えるほど遠い時代のことではない。
 しかしむつみはそうではないようで、わずかに肩を震わせていた。

「あ、いや」

 失言の回復を図ろうとして、しかし高村はすぐに諦める。こういったときは、不用意に突けば薮蛇である。
 ウィンドウを下げて、過ぎ行く街並みに目を向けた。
 真夜中の風を涼しく感じる。
 それは夏の到来を告げる感覚だった。

 ※

 そして、早速の夏日である。
 蝉が余生を謳歌する季節であった。

「あつー」

 気象庁が梅雨明けを宣言して以来、連日太陽が大張り切りだ。少し前までは夏服に肌寒さを感じていた事も忘れ、風華学園の生徒たちは暑気に茹だりつつあった。
 溶けかかっているのは、生徒ばかりではない。高村と同じく社会科教師である杉浦碧も、視線のやり場に困る薄着でスチールデスクに突っ伏していた。

「あっついよー、あっついよー」
「ちょっと碧先生、そういうふうに連呼するとますます暑くなるじゃないですか」それでも背広を脱がない高村は、やる気を完全に喪失している碧に抗議する。
「涼しい涼しいっていっても涼しくならないからー。あたしは素直に気持ちを出すことにしたのー。っていうかねえ、エアコンつけようよエアコン。窓開けてても風なんか全然じゃーん。蝉うっさいし」
「ダメですよ。バレたらまた怒られますって」

 風華学園社会科準備室はクールビズと省エネの煽りを受け、現在エアコンは持ち腐れ状態である。また準備室は狭く、常駐する教師もごくわずか。さらに学年主任といった大御所に因果を含められては、若輩の高村や碧に抗する術はないのであった。

「まったく、横暴よのう」
「確かに参りますね。こう毎日毎日暑いと仕事の効率も落ちます」
「こうなったらホッ○ー飲もうかな」

 突然の暴言である。無視しようとも思ったが、さすがに看過しかねた。

「馬鹿な真似はやめてください。どうせなら俺のいないところで」
「なんで。あんなん炭酸麦茶じゃん。まっずいし」
「放課後になったらビールだろうが焼酎だろうが好きに飲んでいいですから、どうか今はこらえて」
「ええー。のーみーたーいぃー」
「ダメだこの教師……」

 ぶつくさと吐く間も、高村は向かい合ったノートパソコンから目を離さない。六月も後半に差し掛かり、教師陣は期末テストの準備に追われていた。もっとも、高村は試験問題の作成に関しては手抜きに徹すると決めているので、実態はどうあれ気分は楽なものである。
 碧はというと、意外にも凝り性で、かつ飽き性でもあるらしい。数分前までは鼻歌混じりに暗記科目ではもっとも嫌われる記述問題を量産していたのだが、不意に脱力すると「飽きた」と呟き、電源が落ちてしまった。

「あれ」と、陸に打ちあげられたアザラシのように唸っていた碧が声を上げた。「恭司くんて左利きなんだ?」
「え?」
「左手でほとんど打ってるよね」

 無器用にキーをタイプする高村の手つきを見て、そう思ったのだろう。隠し立てする事でもないので、高村はすぐに否定した。

「ああいや、違いますよ。利き腕は右です。ただ、細かい作業をするときは左手を使ってて」
「ふーん。癖?」
「昔事故に遭って以来、体の右側が微妙に鈍いんですよね。んで、リハビリに横着してたら左の方が器用になっちゃったってわけで」

 現在では治療と機械補助の成果で感覚は戻っているが、投薬暗示と催眠によるユニットの誤作動防止処置のため、平時高村の右半身には障害の名残がある。生活に不便を感じるほどではないが、軽妙なキータッチを可能にするほどの再生はさすがに不可能だった。

「へー。そいつは大変だったねえ。ご飯とか大変だったんじゃない?」

 この種の打ち明け話をしても、特に気を回さないのは碧の美徳だ。そうですね、と生返事をしつつ、高村は液晶から目を逸らさない。

「で、どーよ」
「何がです」
「創立祭の準備は」
「うんざりですね」

 率直な感想を述べると、からからと碧は笑った。

「はっきり言うな、おぬし」
「部活はテスト休みなのに実行委員は働かなきゃなんないとか、学生の本分をなんだと思ってるんでしょう」
「災難だったね。いやぁ、タイミング悪かったらあたしだったかもしれないし、感謝感謝。論文書かなきゃなんないのに余計な時間取られたくないもんね」
「論文書いてるんですか?」初耳である。碧のことは、修士課程を終えて職に炙れたパターンだとばかり思っていた高村だ。「専攻は俺と同じでしたっけ。じゃ、ドクターに上がるってことですよね」
「ん、まあそのつもりぃ」
「ちなみに、テーマは」
「個人的には恭司くんと同じで媛伝説関連かな。題材としちゃ超微妙だけど、面白いし。うちの先生はけっこう適当だからね、まあ書き上げちゃえばいいかなっと。学部生んときから追ってたテーマだし」
「へえ……凄いですね。さすが地元だ。羨ましい」

 いうまでもなく、媛伝説はひどくローカルかつ資料に乏しい分野である。それを数年前から調べていた碧の目の付け所には、純粋に興味があった。

「んでも、今腰据えてるのははダミーなんだぁ……」とたんにだらけた口調に戻って、碧は嘆息した。「あたし一応、大学に居座るつもりだからさ……将来的なことも考えると、紀要のネタとかもほしいし。ダルいけど、トラブった人たちにも反省してますってポーズ見せないとなのさ。あっはっはっは! あぁ、めんどい」

 空々しく笑い、哀愁を背負ってじたばたと手足を動かす碧に、「わかりますよ」と高村は心底同情した。
 先日の歓迎会の席では学会の実情について、同席した保険医の鷺沢陽子が引くほど相憐れんだ二人である。徹底的に根が明るい碧ですら酒が入れば洒落にならない愚痴が尽きないのだから、大学の状況というものはどこでもそれほど変わらないものらしかった。

「恭司くんはどうすんの? 研究続けてるってことは、このままこっちに残るってのはナシでしょ」
「そうですね」問題レイアウトの調整を終えてアプリケーションを閉じると、ようやく高村は一息ついた。「本音を言うと、教わりたかった人がもういなくなっちゃったんで、院に残るってのはキツイっていえばキツイんですけど。……でも、土掘り、好きですから。うんざりもするけど、まだ好きって言えるうちはバイトでもしながら糊口をしのぎますよ」

 背伸びして立ち上がると、折りよく予鈴が鳴り始めた。開かれたままの窓に近づくと、校舎の前を中等部の生徒たちがはしゃぎながら通過するところだった。遠目にも髪が濡れている様子からして、授業でプールを使用していたのだろう。

「プールか。ずいぶん行ってないな」
「気持ちいいぞう」と、恍惚とした声で碧。「あたしも昨日生徒に交じって入ったけど、最高でしたねあれは」
「あんた何やってんですか、いい年して」
 高村が白眼視すると、碧は心外そうに頬を膨らませた。「あたしじゅうななさいだし」
「はいはい。――ん?」

 冷たく往なした高村の周辺視野が、淡い黄色をした動体を捉えた。桟を挟んだ窓の向こうで舞う影を、ほとんど反射的に掴み取る。
 果たして影の正体は、手触りの良い布地であった。感触からして綿。フリルがあしらわれた掌に収まる大きさからしてハンカチか。何気なく手元に目を落とした高村は、次の瞬間目をみはった。

「なっ、なんだこれ」
「おお、パンツだ」と、いつの間にか高村の傍らにいた碧が答えた。

 果たして、広げたそれは確かに女性用下着だった。黄色いパンツ以外の何ものでもない。付け加えるなら、やや子供じみたデザインである。混乱しつつ指でつまんで、高村は顔をしかめた。

「汚いな」
「ブッ」噴出した碧が腹を抱えた。「正しいけど、健康な青年としてその反応はどうかな」
「そんなこといったって、誰が穿いてたのかもわかんない下着なんて気持ち悪いだけですよ。どこから来たんだ、これ」

 捨てるわけにもいかず、とりあえず机上に放り投げる。それをしげしげと眺めつつ、碧が唸った。

「風のイタズラってこともないだろうし、木に引っかかってたのが落ちてきたのかなぁ。さてさて。不届きなカップルどもめの所業か、はたまた過激な苛めか」
「どっちも厄介ですね」
「職員会議とか、やっちゃうかな」
「下手するとやっちゃうかもしれませんね」

 顔を合わせて相通じ合う二人の間に、瞬時にして結ばれた絆があった。届け出がなければ見なかった事にしよう、という暗黙裡の協定である。
 しかし、事なかれというその願いは、準備室に駆け込んできた少女たちによってあえなく潰えることになる。

「先生っ」

 現れたのは、いずれも見覚えのある面々だった。高村が担任する一年B組の女生徒たちだ。

「なんだ、きみたち。ノックもしないで」さっと下着を死角に滑らせ、落ち着き払って高村はいった。
「あの、大変なんです。その……」息せき切る勢いに反し、切り出しにくそうに身を寄せ合って、少女らは小声で話し合う。

 その様子に、高村の第六感が凶兆を嗅ぎ取った。面倒事だな、と彼はうんざりしながら思う。

「何か、あったのか? たしか今の時間は体育だっけ」
「はい……、プールです」

 答えたのは、日暮あかねという生徒だった。授業中によく携帯電話に気を取られているということ以外では、取り立てて目立ったところのない少女である。高村も自分のクラスでなければ記憶はしていなかっただろう。
 なるほど確かに、普段は結んでいる髪が、今はまとめられていない上に濡れていた。しかし、しきりに視線を動かしては口ごもる様子はどうしようもなく挙動不審である。

「おっ、あかねちゃんじゃん」その姿を認めて、碧が手を振った。「やっほう。カレシとはよろしくやってる?」
「み、碧ちゃん、そういうことここで言わないで……!」と、顔を赤らめて身を乗り出しかけたあかねが、はっとなって胸元を押さえる。
「ねえ、あかね」背後にいたひとりの少女が、あかねに耳打ちした。「やっぱさ、碧ちゃんのほうがよくない? 高村先生だとオトコの人だし、いいにくいしさ……」
「でも彼女持ちだってよ?」と別のひとりが異を唱える。
「それ関係無いじゃん。女同士のほうがいって、絶対」
「そ、そうだね」意を決するためか、あかねが深呼吸した。

 この時点で、高村も碧も彼女たちが飛び込んできた理由には察しがついている。

「泥棒が出たんです」と日暮あかねは泣きそうな顔で言った。「それも、下着ドロが!」
「そいつは不届きな輩だね」碧は案の定とでもいいたげであった。
「ほとんどみんなやられて、どうしようかって言ってて……最近このあたりでよく出るらしいんです」
「由々しき事態だ」既に逃走姿勢に入っている碧だった。
「どこ行く気ですか、碧先生」
「――む」

 華奢なようで形の良い肩をつかんで逃さず、高村は朗らかに笑った。碧は追い詰められたものの眼差しで高村を睨む。汗ばんだ肌から、懇願の波動が伝った。
(恭司くんのクラスのコじゃん)
(任せます)
(パス)
(任せましたから。頼られてるし)
(ダンコとしてパァス!)
 一秒の間に交わされたアイコンタクトとブロックサインである。
 ここでケツモチに任命された場合、当局への通報に本格派を気取った執行部の調書取りに保護者への申し開き等々、数々のタスクの追加が運命付けられる。平たく言って残業が決定されるのだ。そして、問題が発生した時点で担任の高村には逃れる術はない。これはひとりでも多くの道連れを得ようという、実にあさましい行動なのだった。

「……ふっ、青いな」

 逃げる機を失い、悔しげに眉を吊る碧の眼が、刹那きらりと輝いた。腕が素早く、高村の机へと伸びる。
 高村が動きを気取ったのは、遅きに失した後だ。間を置かず、碧の手がデスクの隅に追いやられていた黄色いショーツを巻き上げた。

「あ」

 と、誰かが呟いた。
 碧はもう、準備室の戸まで移動している。

「さてっ、仕事仕事ー! あっ、もう昼休みだし購買行かなくちゃ! あとねあかねちゃん替えの下着ならたぶんいくつか保健室にあるから陽子のところに行くといいよん。それじゃあ高村先生あとヨーローシークぅー! さらばいばいきーんっ」

 まさに一目散。脱兎の勢いで、杉浦碧は逃走に成功した。サンダルとは思えぬ脚力が、遠ざかる足音から窺えた。

「……」

 後には、痛い沈黙に晒された高村だけが残った。高村は沈痛さを隠そうともせず床に落ちた下着を拾い上げ、これに見覚えがあるかと訊ね、是がないことを確認すると、物憂げに再びデスクへ放る。深々とため息をつくとOAチェアに腰掛けて、眼鏡のレンズをクリーナーで拭きながら大真面目にこう言った。

「さて日暮。話を聞かせてくれ。担任として、こんな犯罪は見逃せない」







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