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No.2120の一覧
[0] ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/08/01 23:36)
[1] Re:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/08/02 20:46)
[2] Re[2]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/08/03 20:01)
[3] Re[3]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2008/09/12 00:45)
[4] Re[4]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/08/06 21:15)
[5] Re[5]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/08/06 22:01)
[6] Re[6]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/08/23 01:53)
[7] Re[7]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/08/28 01:15)
[8] Re[8]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/09/03 20:47)
[9] Re[9]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/09/05 07:46)
[10] Re[10]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/09/17 09:44)
[11] Re[11]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/10/07 23:17)
[12] Re[12]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2006/10/29 10:31)
[13] Re[13]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2007/01/09 06:16)
[14] Re[14]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2007/03/02 06:09)
[15] Re[15]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2007/03/03 16:12)
[16] Re[16]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2007/03/08 01:23)
[17] Re[17]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)[ドジスン](2007/05/05 03:44)
[18] ワルキューレの午睡・第二部十節[ドジスン](2007/12/26 07:53)
[19] ワルキューレの午睡・第二部最終節1[ドジスン](2008/02/11 03:51)
[20] ワルキューレの午睡・第二部最終節2[ドジスン](2008/02/11 03:52)
[21] ワルキューレの午睡・第三部一節[ドジスン](2008/02/11 03:53)
[22] ワルキューレの午睡・第三部二節[ドジスン](2008/11/15 07:17)
[23] ワルキューレの午睡・第三部三節[ドジスン](2008/11/15 07:16)
[24] ワルキューレの午睡・第三部四節[ドジスン](2008/12/01 06:10)
[25] ワルキューレの午睡・第三部五節[ドジスン](2008/12/08 17:11)
[26] ワルキューレの午睡・第三部六節[ドジスン](2008/12/08 17:13)
[27] ワルキューレの午睡・第三部七節[ドジスン](2009/04/14 00:40)
[28] ワルキューレの午睡・第三部八節[ドジスン](2009/07/27 00:36)
[29] ワルキューレの午睡・第三部九節1[ドジスン](2009/09/21 01:05)
[30] ワルキューレの午睡・第三部九節2[ドジスン](2010/03/19 02:00)
[31] ワルキューレの午睡・登場人物表/あらすじ[ドジスン](2011/02/25 00:16)
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[2120] Re[4]:ワルキューレの午睡 (舞-HiME)
Name: ドジスン 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/08/06 21:15






5.Firestarter & Coolbeauty (中)




 風華学園のすぐ裏手には、浄水施設と山がある。地図上で見た場合はその認識は正しいが、正確には山の麓に学園が建てられた、というべきではある。国の検分は最低条件としても、広大な敷地があって初めて学校法人は成り立つからだ。

「そして古来から、学校が建てられる土地にはいわくがあるってのは、もはやセオリーなんだよな」

 と、高村はまさにその山の傾斜を歩きながら呟いた。
 玖我なつきは、関心のない様子で慎重に距離を置いて、彼の後についている。

「どうでもいいな」
「子供のクセに学術的好奇心に欠けるやつだな」高村は嘆息した。「ところでおまえ、なんでここにいるんだ? 放課後なんだからもう帰れよ。あのエロいライダースーツに着替えてさ」
「……おまえこそ、こんなところに何の用がある」やや唇を曲げたものの、なつきは挑発には乗ってこない。
「質問に質問で返すなよ。でも答えると、フィールドワークだ。このあたりの土地は色々興味深いんでな。論文に使える遺跡でもないかな、と。で、玖我は?」
「……信用できない。信用できないから、おまえを監視している」
「しつこいな、ほんと。一体俺がおまえになにしたっていうんだ」げんなりと高村はいった。内心はその行動力に舌を巻いている。同時に、かなり呆れてもいた。性分なのかも知れないが、なつきの尋問は短絡的すぎる。よほど焦っているのか、それとも今までがこの調子で奏効するような環境だったのか、どちらにせよ高村の心労は募るばかりだ。

(こりゃばれるのも時間の問題だな。最初は大した子だと思ったんだけど)

 学園に訪れたときにはなつきは高村を捕捉していた。美袋命を風華に送り届けた足取りも掴んでいるらしい。その時点で高村も特に隠蔽はしなかったし、そもそもそんな技術や資金はないのだが、それでもなつきの耳の速さは異常だった。大した手腕だ、と感心したものだ。
 いただけないのは、その後である。

「おまえが何をしたか、ではない。おまえが何かをする、とわたしは確信している。だいたい、こんなところでこれ見よがしに調査だと? 白々しいにもほどがある」

 と、なつきはにべもない。しかし思考の経緯は恐らく違うとはいえ、彼女の疑念は実はまったく正当だった。高村の専攻は考古学であって、民俗学や文化人類学ではない。重要な発見が報じられたわけでもない未発掘の地域を歩くのは、フィールドワークというよりただの趣味人的散歩である。この手の調査は、まず兆候の発見の上での徹底した文献の洗い直しから始まる。二千人からの生徒が集まって目下何ら遺跡の痕跡が知られていないような場所を、しかも個人で歩くのは、効率が悪いことこの上ない作業だった。
 無論例外はあるが、発掘とは通常大学や研究機関が機材や人員を集めて発掘団を結成し、行うものである。自治体や国の許可も不可欠だ。重機で地面を掘り返すのだから、当然といえば当然だった。
 しかし、遺跡はある。歩きながら、高村はその確信をますます深めている。理由はいくつか挙げられた。たとえば、周囲の木々が明らかに自生してはいないこと。またその分布にも恣意的な印象を受けることなどが最たるものだ。この森が自然発生的なものではなく、植林によって地形に手を入れられているのは間違いない。
 恐らくは見るべきものが見れば地形や地質にも不自然さが含まれているはずだ。もっとも、専門ではない高村にはそこまでは判断できない。

「この山が妙なことには気づいたようだな」既知の事実だったのか、高村の表情を見てなつきが告げてきた。「だったら、ロケハンからして間違っている事もわかるだろう。おまえが本当に研究者だというならばな」
「見習いでつまはじきもので、まあ中退がほぼ確定してるような身分だけどな。は、はは」乾いた声で高村は笑う。そしてさりげない動作で、懐から携帯電話を取り出した。「もういいや、信じないなら信じないで」と嘆きながら、口元で指を立てて液晶画面を注目するよう、身振りでなつきに促した。

『盗聴の可能性がある。何でもない風に振る舞え』
「……!」なつきの表情が研ぎ澄まされたそれに転じた。真意を確かめるような眼差しが、高村を貫く。
「生徒の話だと、この森の奥に潰れた神社があるって話なんで、とりあえず俺はそこに行こうと思う。折角だから玖我も来るか? 課外授業の特別サービスだぞ」取り澄ました顔で、『ついて来い』と高村は続けてタイプした。『口数を減らすな。疑う様子はすぐに止めなくてもいい』

「……興味はないが、どうしてもというのならばついていってやってもいい」ためらいながらなつきが頷くと、高村はさらに森の奥へと歩き出した。
 
「おお、珍しい。祭神が火之夜藝速男神だ、ここ。関西じゃあんまり見た事ないぞ、これは」果たして、高村の先導でたどり着いたのは確かに裏さびれた神社だった。無人のようだが手入れはされているようで、社もさほど劣化はしていない。説明もせず社屋周辺を歩いた高村が発した一言が、先のものだ。「すぐ近くに宗像大社系列の神社があるっていうのに、意味わからんな」

 そんな高村を見る、なつきはずっと仏頂面だ。ようやく尻尾を出し始めたことで気が急いているのか、高村が大喜びで神社を見ている間にも、始終無言で圧迫感を放ちつづけていた。

「……あながち演技でもなさそうだが、何がそんなに楽しい?」
「学問の楽しみは、いつだって知ることにしかない。自分が成長しているという、錯覚にも似た喜びと充実だ。ほかは全て副次的な夾雑物に過ぎない。……建前上は」答えて高村は、ポケットから温くなった缶コーヒーを持ち出した。プルトップに指をかけて、皮肉に笑う。「だけど、それを本職にするってことは、その他もろもろの厄介ごとを背負い込むってことでもある。本当に好きなことは仕事にするべきではないとはよく言ったもんだ。……玖我は将来これで食っていきたいと思うようなことはあるのか?」
「進路調査のつもりか? 馬鹿馬鹿しい」なつきが吐き捨てた。「ないな。そんなもの。わたしには今現在、全力を尽くしてやるべきことがある。それより」
「未来の事だぞ。馬鹿馬鹿しくなんてない。そんなことを本気で言うやつこそ、くだらない」声色を硬くして、高村はそう言っていた。自制の為に深く呼吸して、コーヒーを一口啜る。異様に甘かった。「玖我、おまえはもうちょっと、将来について真剣に考えるべきだと思うよ」
「そんなことは、誰も聞いていない!」語気荒く、なつきが高村に詰め寄った。「なんなんだおまえは。何かを喋る気になったんじゃないのか? 何のためにここまで来た。話すことがあるなら、さっさと話せ!」

 境内に鋭い声がこだました。ざざ、と周囲の梢が嘲るように震える。

「訊きたいことがあるのは、玖我のほうだろう。それで俺をつけまわしていたんだから」

 囁くように高村はいった。祭壇の階段に腰掛ける。放置された狛犬や、舗装が剥げかけた石畳に、歳月の流れが散見できた。古い記憶が、どこからか呼び起こされそうになる。

「なら聞く事はひとつだ。〝一番地〟について、おまえが知っている事を全て話せ」
「一番地。一番地、一番地一番地」これ見よがしに高村は嘆息した。「おまえはそればっかりだな。ほかに言葉を知らないみたいだ。ほかの言葉を聞きたくないみたいだ。だから違うといっても聞く耳持たないし、質問は漠然として主旨が掴めない。知っている事を全て話せだって? この国を、いやさ世界を、影から操ってる秘密の組織だと答えればいいのか?」
「……聞いたぞ」

 すっとなつきの表情が冴えた。刹那に手には件の拳銃が握られている。

「おまえの頭が良いことは、話せばすぐわかる。実際成績も良いし、俺なんかより機転も利くんだろうな。それで、そんな不思議な銃も持っている。美人だし、喧嘩だって強そうだ。およそ隙のない万能人じゃないか。まるでルネッサンス時代の理想みたいだ」それをまったく無視して、高村は続けた。既になつきは眼中になかった。どこか独白するような口ぶりになりつつあった。「なのに、おまえの質問は馬鹿そのものだ。だけどそれは、おまえが問題を整理できていないわけじゃない。そうじゃないか? おまえ、実際はその一番地について、ほとんど何も知らないんだ。調べても調べても、影すら掴めない。だから焦る。どうだ、図星だろう」
「影なら掴んださ」なつきは表情を苦くして、さらに一歩、高村へ近づいた。「おまえという影を」
「影は掴めない」高村はかぶりを振る。「おまえは掴んだつもりになっているだけだ」
「……今日は口数が多いじゃないか。その調子でもっと歌え」なつきの眼は明確に敵を見るものに変わりつつある。

 俺は喋りすぎているな、と高村も自覚していた。相手を煙に巻くための饒舌ではない。燻っていた苛立ちが、負の感情のタービンと舌を回している。
 玖我なつきには力がある。過酷な運命や現実に抗うための力がある。かつての彼にはなかったものが、彼女にはあるのだ。だというのに、なつきはそれを自覚さえしていない。高村には玖我なつきという少女が一体何がしたいのか、まるでわからない。中途半端にすぎて、彼女を守らなくてはいけないのに、ひどく疎ましくなる。
 八つ当たりだとわかっていた。なつきがまだ子供なのだということも、だからこそ彼女は保護されるべきだということも、である。
 しかし収まりがつかない。
 高村は立ち上がると、予告せずに手中のコーヒーを差し出した。片手で反射的に受け取ったなつきが、銃を構えたままいぶかしげに見あげてくる。

「玖我」無表情のまま彼はいった。「俺は正直、おまえにむかついてるんだ。おまえの迂闊さに」

「え?」と、なつきが驚く間もあらばこそ、高村は突きつけられた銃を手に取ると、自らの顔面に導いて眉間に照準した。すると予測どおりなつきはほんのわずかに怯みを見せた。握力が緩んだ瞬間を的確に捉え、高村は手首を捻り挙げて拳銃を奪い取る。
 はなせ、という言葉が口をつく前になつきの体を背負うと、高村は受身を取らせずに地面に叩きつけた。綺麗に背中から落ちて、体躯を反らせたなつきが肺の中の空気を全て吐き出す。同時に高村は倒れたなつきにのしかかるとその鳩尾を掌で打って、さらに彼女の口を塞いだ。

「っ……、っ」

 完全に呼吸器系を阻害されて、美しい少女の顔色は見る間に蒼ざめていく。片手で口を、もう片手でなつきの両手を拘束すると、高村は体をなつきの両股の間に差し込んだ。短いスカートのプリーツが捲くれあがるが、息のできないなつきにはそれを恥じる余裕がない。

「盗聴、なんて言葉を真に受けてのこのこついてきて。おまえ、ここで犯されて殺されて、そのまま死体さえ誰にも見つからない目にあう、と少しも考えなかったのか?」無力化した少女の顔を間近から見下ろして、高村は低い声で囁いた。「それとも警戒したが、なんとかなる、と思ったのか? あの銃があるから。腕に覚えがあるから。修羅場をくぐっているから。じゃあ俺がひとりじゃなかったらどうしてた。相手もおまえと同じように拳銃を持っていたら。あの結城奈緒みたいに不思議な力があったら。そのときおまえは、ここで俺程度に組み敷かれてるおまえは、どうやって危機を脱した? どうなんだ玖我。おまえが軽々しく名前を連呼している相手は、俺にさえできることができないような雑魚なのか?」

 喉を鳴らしながら冷や汗を流し始めたなつきは、それでも瞳から力を失っていなかった。恐慌が精神を冒す寸前で、敵意と憎悪を衝立にしてかろうじて平衡を保っている。鼻息が高村の手にかかり、じたばたと足を振っては、拘束から逃れようと身をよじっている。

「答えてみろよ、玖我。俺は聞いてるんだ」
「………ッ」

 真っ直ぐに突き刺してくる双眸から、耐え切れず高村は目を逸らす。

「……頼むよ。もうちょっと考えてみてくれ。自分がどういうことをしているのかってこと。面白半分だなんていわない。おまえにもどうしようもない事情があるんだろう。だけど、それでも、もっと慎重になってくれ。おまえには、心配してくれる人だっているはずだ。失いたくない大事な人間も」

 懇願のような響きだった。いや事実、高村は懇願していたのだ。なつきに、あるいはなつきではないなにかに。

「……?」
「悪かった。立てるか?」

 組み伏せられたなつきが、目を白黒させて高村を見上げていた。既に拘束は緩んでいる。口も手も自由になって、なつきは伸ばされた手を、ほとんど何も考えずに取った。
 一陣の風が吹いて森がざわめいた。
 いつの間にか落とされていたスチール缶が、境内をカラカラと転がった。

「おまえは……なんなんだ」制服についた土を払いながら、なつきが高村から目を外していった。
「悪いけど、内緒だ」

 他にどう答えるわけにもいかず、高村は立ち尽くす。自己嫌悪と後ろめたさが彼の胸中で吹き荒れていた。気まずいという以外にない沈黙が、二人の間に満ちていた。
 主の危機に反応して自動的に顕現したデュランが、高村を全力疾走する軽自動車のような勢いで吹き飛ばすまで、静寂は続いた。

 ※

「ところで俺の家も、元は神社でな。じいさんが宮司をやってた。結局社閣整理で取り潰しになっちゃったんだけどさ」

 デュランの突撃はこのつかみ所のない男にも相当な痛手を与えたようだ。なつきはなんともいえない気持ちで、地面に寝ころがる男を見下ろしていた。目立った外傷はないものの、躰に力が入らず起き上がれないらしい。
 吹き飛ばされたあとでなつきは慌ててデュランを制止したのだが、高村ははじめて見るなつきのチャイルドを転げまわりながら一瞥すると、ああ、おまえもか、と言っただけだった。以前に会った中等部の少女と比べたのだろうが、チャイルドに付いてどれほどの知識があるのかは量れない。演技のようにも見えるし、このぼんやりとした男なら驚いてもこの程度か、という気もする。
 追及の気持ちは、今のところ鎮火していた。なくなったわけではもちろんない。
 一瞬で組み敷かれた驚きと認めたくはない恐怖は、まだ彼女の心中に居残っている。女としての本能的な危険をおぼえたのは初めてではないが、さすがにあれほど直接的なものは経験にない。とりあえず高村恭司が本気で自分を暴行しようとしたわけではない、ということは了解できたものの、警戒は解けそうになかった。何しろ、平静を装っているがいまだ心臓は強く拍動しているのである。

「神社か」気まずさを取り消そうと、なつきはあえて無視することはしなかった。沈黙はときに、相手を必要以上に意識させる。「イメージと違うな。それとも、裏では一子相伝の暗殺拳でも伝えてるのか」
 正直半分以上真剣な感想だったのだが、高村は盛大に吹き出した。「ありえないだろそんなの。おまえ、漫画の読みすぎだ。もしかしてそれ、その宝塚口調も漫画かなんかの影響か」
「ほ、放っておけ!」少しばかり心当たりがあったので、なつきは赤面を禁じえなかった。「だいたいじゃあなんであんなに無駄に戦えるんだ、おまえは。達人の下で訓練でも受けたのか」
「その発想から離れろよ。現実はもっとつまんないものだぞ」高村の声は笑いを引きずっていた。「極めて汚きも滞り無ければ穢とはあらじ。内外の玉垣清し浄しと申す。なんつってな」
「なんだそれは。なんの呪文だ?」謡曲のようなこぶしを利かせて謳いだした高村を、なつきは呆れた目でみやった。
「祝詞だよ。一切成就のハラエっつってな。本当はみだりに軽々しく唱えちゃダメなんだが、出血大サービスだ」
「わたしは頼んでないぞ」
「そうだったっけ」高村が笑う。その顔が、普段よりずっとくたびれて見えて、なつきは息を呑む。「ちょっと自分語りするけど、恥ずかしいから聞き流せよ」
「内容による。本当に恥ずかしかったら絶対に覚えておく」
「根性悪いな」高村がうめく。「よくあるもしもの話だよ。うちが神社のままだったら、俺の進む道も違ったんだろうな、って。きっと俺は家を継いで、大学も別で、今みたいにはならなかった。この学園にも来なかった。当然、教師にもならなかっただろう。玖我はそんなこと考えないか?」
「考えない。考えたとしても、意味がないからだ」

 嘘だった。
 過去に戻れたらと、なつきは何度も考えた。あの忌まわしい覚醒の日に戻れればと、せめて母と自分が事故に遭う直前に戻れればと、数限りなく夢に見た。

「そうか。すごいな、玖我は」

 素直に賞賛する高村に対し、答えようとしたそのとき――
 なつきは、≪オーファン≫の気配を感知した。出現したか、今まさに出現しようとしているのだろう。風華学園の裏山は、異形の怪物が頻繁に現れる異界でもある。
 人を害し姿を晦ます、化物を倒す。それがなつきを始めとしたHiMEが風華学園に集められた意図だという。

(もっとも、それも怪しいものだ)

 無言のまま立ち上がると、なつきはデュランを再度召喚した。

「どうした?」高村が仰向けのままで聞いてきた。
「オーファンが出た」
「おーふぁん? 孤児か」
「知っているのか、知らないのか、それとも知っていて知らないふりをしているのかは、今は聞かずにいてやる」なつきは無視して続けた。「わたしは行く。ここからはHiMEの仕事だ。おまえはさっさと失せろ」
「そういわれてもな」よいしょ、と声をあげると、高村は上半身をあっさりと起こす。
「なんだ、おまえもう動けたのか」
「ああ、まあ。でも絶景過ぎて動くに動けなかったんだ」
「なに?」
「眼福眼福」といって、高村はなつきのスカートを指差してきた。「最近の高校生の下着はずいぶん凄いな。先生ちょっと欲情しちゃったぞ」

 その言葉が意味するところを悟って、なつきは今さら裾を押さえた。耳まで赤面するのを自覚して、高村の顔面に向かってエレメントを射撃する。

「危ない!」寸前で無様に転がって、高村は一撃を躱した。「いまのは躊躇がなかったぞ! 殺す気か!」
「死ね」とさらに十発ほど撃ってから高村が動かなくなったのを確認すると、なつきはデュランを伴い憮然として走り出した。

「……どこだ?」

 デュランと共に森を駆けながら、なつきはあたりを窺う。破壊の痕跡も戦闘の兆候も、どこにも見あたらない。
 HiME、高次物質化能力を有する人間には、チャイルドと同じ〝もの〟から生まれるオーファンの気配を察知する能力があり、オーファンもまたHiMEを狙うという特性を持っている。また知覚するといっても、具体的に対象の居場所を割り出せるほどその感覚は精緻ではない。漠然と、『近くにいる』とわかる程度だ。
 経験則から考えれば、なつきが現在知覚しているオーファンはその範囲ぎりぎりにいるといったところだった。従って、現れたオーファンはなつきを狙うものではないという結論が導かれる。おそらく別のHiMEか、HiMEに覚醒しかけている人間の元に現れているのだろう。もちろんだからといって、放置する道理はない。

(またあいつか)

 なつきの脳裏に浮かぶのは、得体の知れぬ白髪の少年である。人かどうかも怪しい彼は、導き手を自称してHiMEにオーファンを狩らせている。
 高村にはオーファン駆逐をHiMEの仕事だといったが、なつき自身は役割に懐疑的である。その存在が本当に危機的ならば、オーファンの存在を隠蔽する動機が薄すぎる。HiMEはなるほど人を超えた力かも知れないが、たとえば近代的な軍隊の戦力と比して圧倒的に勝っているとは思えない。
 自分たちに告げられていない理由が必ずどこかにある。そしてそれは正体の掴めない組織、一番地に繋がっているのだと、なつきは確信していた。
(いや、それも後回しだ。今は)
 オーファンを見つけて倒すのが先決である。
 ほとんど生理に訴えかけてくる感覚を慎重に吟味して、デュランの先導のもとなつきは森のさらに奥まった部分へ分け入っていった。未舗装の地面が目立ち、傾斜もきつくなりはじめている。なつきも未踏の領域である。

 そんな場所を、見覚えのある顔がふらふらと歩いていた。

「あれ、は」
 渋面とともになつきが想起するのは、一ヶ月前の苦い出来事だ。美袋命を追って乗り込んだフェリーで遭遇した少女。結果的に船は沈み、命の翻意もかなわなかった、記憶に新しい彼女の失敗である。
 洋上でHiME二人の戦闘に割り込み、エレメントのためと思しき特殊な能力を発揮した、まさにその少女が目の前にいた。

「鴇羽、舞衣といったか。くそっ。なぜこんなところにいる?」

 出会った時すでに風華学園の制服を着ていた舞衣だったが、調べても学籍はなく、また一ヶ月を経ても校内で見かけなかった。なつきは彼女が素直に忠告に従ったのだと思っていたのだ。

「おいっ」矢も盾もなく木蔭から飛び出して、なつきは舞衣の肩を背後からつかんだ。「すぐに山を降りろ。ここは危険だ。……聞いているのか?」

 かけた手をふりほどくと、舞衣はなつきを一顧だにせずひたすら山の上へ上へと進んでいく。夢遊病者のような足取りなのに不思議と転倒せず、まるで誰かに操られてでもいるようだった。歯がみして、なつきは進路へと割り込む。

「しっかりしろっ。何をやってるんだ、おまえは!」
「どいて」焦点の合っていない瞳で舞衣が呟いた。「たくみが、こっちにいるの。来たって聞いたの。危ないから、あたしが助けに行かなくちゃ」
「タクミ?」
「どいてよ」

 押し退けられる。予想外に強い力で、足場の悪いこともあってなつきはよろめきかけた。その体を、背後から何かが支える。

「どうなってるんだ」高村だった。追いついてきたのだ。「あれは鴇羽じゃないのか? どういうことだ」
「どうもこうもあるか」さっと腕の中から脱出して、なつきは吐き捨てた。「精神誘導らしきものを受けている。大方凪のやつの仕業だろう。それよりおまえ、あいつを知っているのか?」
「あ、ああ。ほとんど同じ日に風華に来たから……」高村は合点が行かないという様子だった。すでに遠のき始めた舞衣の背を目で追ってから、「凪だって? それって中等部の、髪が白くてつかみ所のない、なんか飄々としたやつのことか」
「そうだ。そっちも知っているんだな」
「知ってるというか、一方的にちょっかいをかけられた。あれもおまえたちの関係者か?」
「わからない。あいつに関しては何も。それより今は、あの鴇羽だ。鴇羽はもしかしたら、いやたぶん、HiMEだ。きっと最後の」
「ヒメ?」高村が鸚鵡返しに問うた。
「しらじらしい」なつきは心底呆れ果てる。「もう、いい。とりあえず、すぐに鴇羽を追おう。面倒くさいから、ありえないだろうがおまえが何も知らない人間だと思って説明するぞ」
「頼む」小走りに駆けながら、高村が頷く。
「ヒメとは、漢字ではなくアルファベットでHiMEと書く。ハイリィ・アドバンスト・マテリアライジング・イクイップメント。和訳は高次物質化装置、もしくは高次物質化エーテル。その頭文字を取って、HiMEだ。いわゆる超能力の呼称で、そのまま能力者そのものの呼び名にもなっている。遺伝子の都合らしいが、HiMEは女性にしか発現しない能力だからな。それで、姫、というわけだ。具体的には何もないところから〝なにか〟を利用して、エネルギー保存の法則を始め、既存の概念を超越して、物質を無から生成できる異能のことをそう呼ぶ。わたしのこの銃、エレメントや、デュラン、チャイルドと呼ばれる存在も、能力による副産物だ」一息に喋って、なつきは高村を顧みた。「理解できたか。なにか質問はあるか?」
「ああ。ひとつだけ」真剣な顔で高村は考え込んでいた。「Highly-Advanced-Materialising-Equipmentなら、なんでHAMEにならないんだ? そこはハメだろう、ふつう」

 手加減抜きで打ち放った裏拳を、さりげない動作で高村が躱した。

「ちっ。先を急ぐぞ!」
「とにかく、鴇羽もそのHiMEだってことなんだな。おまえや、結城って子と同じく」
「そしておまえが連れてきた美袋命もな」皮肉を込めて、なつきはいった。「しかし、鴇羽の場合はおそらくまだ間に合うはずなんだ。エレメントの物質化も以前のが初めてだったようだし、まだチャイルドがいる気配もない。HiMEはただHiMEというだけでは真のHiMEたりえない。エレメント、チャイルドが揃って初めてその真価を発揮するから。……今回のは、きっと凪のやつが鴇羽を本格的なHiMEにするために糸を引いているんだろう。だから今ならまだ、鴇羽は引き返せる。日常に」
「つまり玖我は、鴇羽はHiMEになんかならないほうがいいって思ってるってことか?」
「当然だろう。一番地の思惑に乗せるのも癪だし、なにより、不幸になるしかない道なんだからな」

 答えると、息を弾ませた高村が、意外な顔をするのが見えた。なんだ、と訊ねると、気まずそうに顔を逸らしてしまう。

「ごめん、玖我。俺、おまえのことを見くびってた。俺の中で玖我なつき株が急上昇だ」
「さっきからいつ言おうかと思ってたんだが」深いため息が漏れた。「おまえはほんとうにばかだな」
「さっきからいつ言おうかと思ってたんだが」高村が口調を真似た。「黒のレース穿いてる高校一年生ってどうなんだ? 背伸びしたい年ごろなのか真性の淫乱なのか。俺は親御さんに合わせる顔がないよ」
「訂正しよう」虚ろに笑って、なつきは二挺の銃を高村に突きつける。デュランも戦闘態勢に入った。「おまえは、心底! 馬鹿だ! それでも教師か!」
「実をいうと、脳みそちょっと足りないんだ、俺は」
「それは、ご愁傷様だな……っと」一時的なものだろうが傾斜が終わり、なつきと高村は平地に出た。一見しても舞衣の姿はどこにも見えない。足を止めて、なつきは視線を八方に振りまいた。「鴇羽はどこへ行った?」
「玖我」高村が途切れる気配のない森林の一角を指差した。「あまりにもあからさまなものがあそこに見える」

 なつきも高村に倣うと、なるほど立ち木に隠蔽される形で崖に洞穴が空いているのが見えた。岩肌に、ちょうど人がひとり入れるかどうかといった切れ目が走っている。岩盤のずれで生まれたにしては不自然である。それに、隙間から見える奥には相当な広がりがあるようにも見えた。周囲の森と同じく、人為的な仕掛なのかもしれない。

「あそこに鴇羽は入ったと思うか?」
「そうじゃないかな」高村は顔をしかめながらいう。「あれ以上はっきりとしたアフォーダンスを放ってるものはなかなか他にないぞ」
「アフォーダンス?」
「わからないなら、帰ってから辞書を引きなさい。先生からの宿題だ」言い置いて、高村は歩き出した。
「引き返すならここが最後なのは、おまえも同じことだぞ」

 そんな忠告を高村は意に介さないだろう。なつきにはわかっていた。無知を演じても、彼がいずれ彼女の与り知らぬ立ち位置で事態に関わるであろうことは疑いようがない。彼の前に姿を現したという炎凪は、なつきの知る限りHiME以外の存在に正体を見せたことはないからだ。
 案の定、高村は何も反応せずに洞窟の入り口をのぞきこむと、なつきを手招きした。
(こいつこそ、何ものなんだか)
 そんな人間のペースに引き込まれている。それがきっと苛立ちのもとだ。

「どうした。鴇羽はいたか?」
「いや、中が暗くてよく見えない」そう言うと立ち上がって、おもむろになつきの背後へ回る。「だから先に見てきてくれ」
「おい、な」

 そのまま、突き落とされた。

「にをぎゃー!?」

 浮遊感はほんの一瞬である。なつきはすぐに洞窟の内部に着地した。というより、激突した。
 間を置かずデュランも降ってきて、すばやくなつきの隣に位置取る。二メートルほどの傾斜の上にある入り口で、高村がじっと内部を観察しているのが見えた。

「よし、大丈夫みたいだな」
「ふざけるな貴様」そろりそろりと降りてくる高村の足を払って転ばせてから、なつきは厳重に抗議した。声も裏返った。「そこは普通男であるおまえが先に行く所だろうが!」
「何を怒ってるんだ、玖我」危なげなく着地して、高村が心底不思議そうに肩を竦めた。「尻穴にネギを突っ込まれた乙女みたいだぞ」
「そんな乙女がいるか!」
「楽しそうなところ悪いけど、鴇羽も心配だし早く行こうぜ」すたすたと高村は歩いていく。

 怒りで血管が切れそうになる感覚というのを、はじめてなつきは味わった。いまならあのがなるばかりの執行部長とも和解できるに違いなく、レートが振り切れたせいでうぶな中等部の生徒なら一撃で殺せそうなほどの可憐な笑顔も浮かべられるに違いなかった。
(こらえろ、こらえろ……あいつを殺すのは後でもいい)
 必死で自制を言い聞かせて、肩を震わせながらなつきは高村の後を追う。

 亀裂の内部は、進めば進むほど空間的な広がりを見せる。よほどの速さで進んだのか、舞衣の姿はいまだ露とも見えなかった。なつきと高村の頼りは高村がかかげるちっぽけな百円ライターの炎だけで、それは全容のつかめない闇の中ではいかにも心細い光でしかない。
 高村は自称研究者の好奇心をいかんなく発揮して、さすがに足を止めはしないものの、びっくり箱でも見つめる子供のような顔でしきりに感動していた。

「これは、どう見ても自然洞窟じゃないな」表情に呆れを乗せて、高村が感嘆した。「どうなってるんだ、この学園は。こんなのばっかりか。いつ頃できたんだっけな、ここ」
「開校は明治時代。現在は違うが、当時はミッション系の学園として、風花家を筆頭に幾人かの理事や資本家のもと、この風華学園は建設された。戦前戦中戦後と、多くの時代の節目を乗り越えてきたのがこの土地だ。それ以前にもきっと、数え切れないくらいの因縁があったんだろう」
「物知りだな」炎に照らされる高村の横顔は、わずかに緊張しているように見えた。
「調べたからさ。誰にでもわかることだ。ここまではな」なつきは鼻で笑う。「馬鹿な話だが、怨念、というものがこの風華にはこもっているのかもしれない、とたまに考えるんだ。釈迦に説法かもしれないが、知っているか? もともと風華とは、〝封架〟に当て字したものだそうだ。いったい何を封じていたんだろうな。怨念か、妄執か」
「いわゆる死人の恨みつらみっていうのは、それが実際にはないと仮定するのなら、生きている人間の罪悪感の産物なんだろうな」唐突に、高村はそんなことをいった。
「なんだ、急に」
「雑談だよ」と、高村は微苦笑する。「幽霊、怪物、妖怪、霊魂。どれでもいいが、こういった共同幻想と呼ばれるいまだ科学的に証明されえない存在には、当然ながら例外なくそれらを観測する側のバイアスがかかっている。枯れススキを幽霊に見せるのは恐怖。想像力とも言い換えられるな。実際のそれがどうであるかは知らない。あるのか、ないのか、それはこの際実は問題じゃない。それは客観、神さまの視座に対して提起される疑問だからだ。だからこれは、人の話。とにかく曖昧な何かがあって、それを何かだと思うと、脳は映像を〝そういったもの〟と判断する。ある種、主観が視る世界は恣意的なんだ。ロールシャッハテストって知ってるか? 学園で一回くらい受けた事があるはずだ。心理テストの一種で、どうとでも取れる複雑な模様を被験者に見せて、それが何に見えるか聞いて心理状態を量るってやつ。別の人間が同じ答えを書くことは、まあ、誘導されない限りあまりない。かように我らの世界とは不安定なのだ、ってことだ」
「暇潰しとしては、くだらないだけに悪くない」なつきは表情を緩めて、高村に続きを促した。「砂漠の蜃気楼がオアシスに見える、みたいなものか?」
「そうそう」我が意を得たりとばかり、高村は頷く。「怨霊は、だからたとえば罰されたいという人間が見る夢の一種、と定義できなくもない。罪業妄想。願望の幻視。良心の視覚化。どうとでもいえるな。そして恨みながら死んだ人間がすることといえば、復讐だ。……と、いうわけで、幽霊話の王道は祟りだな。さっきはおまえがいなかったが、じゃあ今度はシェークスピアもう一つの悲劇、ハムレットを引き合いに出そうか。復讐劇ならべつにモンテ・クリスト伯でもいいが、あれはちょっと長すぎるからな」
「なんだそれは」白けた調子でなつきは呟く。「手短にしろよ」
「保証しかねる。文系唯一の取り柄だからな」高村は笑う。「ハムレットの粗筋は知っているか? 物語の始まりはこうだ。父王を喪った王子ハムレットは、どうも親父を殺して後釜に座りやがったらしい叔父を疑い、さらに母親までそいつに寝取られて、精神的に参っていた。そんな矢先、彼の住む城の外に夜毎幽霊が現れるという噂が流れ始める。そいつが父の幽霊だと聞いたハムレットは、なんと驚きにもその亡霊とコンタクトを取って、やはり自分は弟に殺されたからその仇をとってほしい、と依頼されるわけだ」
「その話なら知ってる。後味の悪い話だった。叔父も母も、恋人もその兄も父も友人も、みんな誰もかれもが死んだ。ハムレットが……」ふと己の運命とこの戯曲が符合しているような錯覚をして、なつきは目を伏せた。「ハムレットが、復讐しようとしたせいで。関係無い人間が、大勢死んだ」
「ああ。ハムレットは狂っていた。途中までは〝フリ〟だったけど、模倣であろうと狂気は、必ず正気を害する。『生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ』。彼は結局死んだが、大多数にとっての正解はその場でさっさと死ぬことだったんだな」

 言動に反して、高村の語り口にはわずかに哀切が滲んでいた。もっとも、それがなつきの勘違いである可能性は否定できない。高村流に言うならば、『なつきの主観がそう受け取った』のである。

「さて、物語が終わってみて、これは一見幽霊の側が復讐を遂げたように見える。卑劣な手段で王を弑した弟王に、その罪を見破れずにいた人間すべてに対し、息子を利用することで報いてみせた、と」
「違うのか?」なつきにはまさしく、その通りであるように思えた。結果は惨憺たるものではあったが、とにかく復讐は果たされたのだ、と。あるいは、そう思いたかっただけかもしれない。
「穿った見方だけど、俺からすれば違う」高村は断言した。「この復讐の正当性は、立証されていない。なぜなら立脚点が幽霊なんていう妄想だからだ」
「そんなことはない」思わず、なつきは反論していた。「たしか、王になった叔父は終幕で独白したはずじゃないか。罪を……」
「そう。復讐が成り立つとすれば、まさにその瞬間からだった。でももしかしたら、それさえも叔父の罪業妄想かもしれない。兄嫁と婚姻し、罪悪感に怯え、やりもしなかったことをやったという狂気に犯されていた可能生だってある。……っていうのはちょっと苦しいか。でも、それ以前はすべて、ハムレットの狂気の産物だ。ま、フィクションにこんな突っ込みは不粋だよな。だけどこれはあくまで、幽霊は幻っていう前提に立ってる話だからさ。……だから、この物語はこんな風にも解釈できる。ハムレットは、愛してやまない父が死んだ時点で、悲しみのあまり狂っていた。その狂気と悲しみが伝播し、兵士にいもしない亡霊を見させ、語らせた。思い込みが彼を暴走させ、父の憾みを免罪符に、その無辺際な狂気が、人を殺した。復讐の皮を被った、狂気の悲劇だ、と。『復讐は悲劇しか生まない』っていうメッセージを伝えるための、壮大なストーリィだったのかもな」
「もういい」

 話は不快な方向になりつつあった。なつきは顔をそむけて、一方的に打ち切る。

「よくない。まだ話が途中だ」高村は聞かなかった。「教訓はいつだって正しい。『復讐は無益だ』『恨みは何も生まない』。古今東西、復讐が人生の転機になるような物語はあっても、復讐それ自体が何かを生み出すような物語はほとんどないといえる。たぶんな。……なるほどもっともだが、だけどこれはあまりに人の理性を信頼した言いようだって思わないか? 懊悩のあまり無意識下で亡霊を見てしまうような人の心のままならさを、汲みとっていない。もしくは汲みとった上で、無視している。体制の、社会のロジックだ。法は、人の上位に置かれるべきものだからだな」
「黙ってくれ。お喋りは終わりだ。鴇羽を探さないと」
「復讐を志すってことは、過去の虜囚になるってことだ。成長に背を向け、進んで行き止まりに向かうってことだ。同じところをぐるぐる回って、胸を抉るような感情のどぶに浸って脱け出さないってことだ」

 語りつづける高村の眼に虚無を見て、なつきは沈黙した。もはや彼が誰に向けて語っているのか、明らかではない。まるで彼の内部はすっかりうつろで、いつかどこかで誰かが囁いた言葉を反響しているだけなのだとしても、きっと驚かないだろう。

「だけど、知ってるか玖我。永遠に憎みつづけるなんてことは、人間には不可能だ。……お、頃合だな。そろそろ終着だ。話も、この洞窟も」
「なに?」

 いぶかるなつきの視界に、ライターとは違う光がよぎった。圧倒的な緋色。そして吹き付ける熱風。なにかが、行く手で起こっていた。
 高村は、憑かれたように話すことをやめない。

「炎が酸素なしでは燃焼できないように、時間は感情を生々しいままには留めておかない。だけど、あだ討ちの概念はなくならない。忠臣蔵はいつまでも美談だ。あんなもんテロリスト同然の所業なのにだぞ? なぜか。それは、そうすることでしか拓けない道が、確かにあるからだ。復讐を仕果たしたって益はない。愚かな行為だ。だがだからこそ、浮き彫りにするものがある。無為の中の有為。それが一抹の、ちっぽけな正義だ。ちょっとした種火だよ。そして、でも、暗いくらい道を歩いて復讐をするには、それだけの灯りがあれば、充分だった」
「へえ」第三の声が、嘲りをもって答えた。「それがセンセの哲学?」
「恥ずかしいから聞いてくれるなよ」高村が視線を動かした。「そんな大層なもんじゃない。生きる上での、ちょっとした心がけみたいなものだ」
「なるほど?」おかしそうに声が笑う。

 晧々と瞬く光源に照らされて、炎凪が岩肌に隆起した岩塊のひとつに腰を降ろしていた。手には古びたハードカバーの本を持っている。瞳は炎を映し込んでいっそう紅く輝いて、なつきと高村を見下ろしていた。

「……凪!」なつきがエレメントを構えるが、銃口を向けられても凪は平然と、高村に眼差しを送っていた。
「続きを聞きたいな。もうすぐ終わりなんでしょ? 待っててあげるから、どうぞ」
「恩に報い、恨みは雪ぐ」高村はそう締めくくる。「神さまから見れば無駄なんだろうけど、なにしろ俺たち人間だからな。なにがしかの意味は勝手に見つけて、そいつをうまく糧にするのはみんな心得たもんだ。……ところでおまえ、どうやってそこに登ったんだ?」
「どうって、普通にさ」高度が十メートル近くある場所で、凪は立ち上がる。「センセはつまり、プライドの話をしているわけかい? たとえ死ぬとわかっていても、いかなきゃならぬ時がある、ってサ」
「どうだろうなぁ。俺もよくわからないよ。そんなものもう残ってない気もするし。ただ先に行くには、ときに遠回りすることも必要だろうって話でな」
「でもセンセ。センセに先なんてあるのかな?」からかうように、凪がいう。
「それを言われると耳が痛いが、閉塞した状況を終わらせるのだって、ひとつの道だろ」
「ふむ」
「なにもかも台無しにするいい方をすると、腹いせや嫌がらせでもスカッとするなら生き甲斐になりうるってことなんだけどな」
「そうかな」怜悧な視線が高村を射抜いた。「スカッとするって、要するに虚ろになるってことだよ。残るのは、空っぽの器だけだ」
「馬鹿だなあ」高村が適当さ丸出しで答えた。「そうしなきゃいられないやつなんてのは、大体が心が一杯で苦しくて仕方ない。だから、虚ろになろうとするんじゃないか」

 雰囲気はもう常のものに戻っていて、それになぜか安心するなつきがいた。

「禅問答はそのへんにしておけ。……凪、鴇羽をどこにやった!」

 鋭い追及の声とともに発砲すると、凪は大げさに身を竦める。

「危ないなぁ。舞衣ちゃんならすぐそこにいるよ、ほら」

 と、洞窟の奥を指差した。これまでにない空間がそこには広がっている。さらに、数十メートルも上方には夕映えの空が見えた。天然の吹き抜け構造になっているのだ。
 その覗けた天を、紅蓮の柱が衝いていた。

「な」言葉を失って、なつきは足早に広場に向かう。「なんだ、あれは!」

 数千平米はありそうな空間のほぼ中央に、巨大な百足を模した怪物がいる。姿態はオーファンとしての一形態であって、驚くに値しない。なつきを叫ばせたのは、オーファンと対峙する人間大の影である。
 それは同時に、吹き上がる火の発端でもあった。
 大量の火の粉が舞い散って、熱量に気流が歪みつつある。火の竜巻の中心に浮いているのは、間違いなく鴇羽舞衣だ。その火勢には巨大なオーファンも攻めあぐねているのか、火炎に圧されるようにぐるぐると火柱の周辺を歩き回っている。頑丈そうな甲殻や腹節がうねる様は、遠目にも充分グロテスクだった。

「…………」高村が頭を抱えた。「玖我、俺はちょっと用事を思い出した」
「さんざん小難しいこといってそれか! おまえに意地はないのか!」己を鼓舞する意味も兼ねて、なつきは叫びながら高村の背中を蹴飛ばした。さっきから叫びっぱなしで喉が痛かった。襟首を捕まえて、耳元で怒鳴る。「おまえはもう本当にいい加減にしろっ! やることなすことにオチをつけなきゃいられないのか!?」
「お、怒るなよ。場を和ますための冗句じゃないか」後退しながらの弁解には、ひとかけらの説得力も無かった。

 だが、高村の気持ちもなつきにはわかった。火というのは、ただ本能的におそろしいのである。死と再生のモチーフとは、つまり生きている人間とは決定的に相容れないということでもある。なつきにしても、生身で今の舞衣に接近する術はない。
 凪は頭上で見透かしたように、にやにやと笑う。

「なつきちゃんもそんな、無理しなくてもいいのに。だいたい舞衣ちゃんそろそろ意識取り戻すよ。ほら」

 とたん、洞穴を明るく照らしていた光の全てが掻き消えた。熱の残滓だけが空気に止まり、残るのは手足に火の輪をまとっただけの無防備な舞衣と、障害の消えた怪物である。

「え……?」あまりにも急激な沈静化だったためか、それだけの舞衣の呟きは、その場にいた全員の耳に届いた。「なに、これ? ドッキリ?」
「現実だよ、舞衣ちゃん」

 役者のように通る声で凪がそういった。舞衣は現況を少しでも理解しようと情報を求め、あちこちに首を巡らせている。フェリーで遭遇したときも感じたが、これだけの状況下ですぐさま恐慌に陥らない舞衣は、なつきから見ても大した胆力の持ち主である。自分が浮いていることや目前のオーファンの理解を後回しにしたことも含めて、その認識能力は極めて優秀といえるかもしれない。

「あ、せ、先生……? これ、いったいなにがどうなって」腰の引けた高村の姿を目に留めて、不安が限界まで込められた顔で舞衣は訴えかける。が、なつきのことを認めると、すぐにそれはひきつったものに変わった。「あ、あなた! たしか玖我さんって……やっぱりこの学校の!」
「そういえばおまえら、知り合いか」

 高村の問いに答える余裕は、なつきにはなかった。オーファンがゆっくりと鎌首をもたげたのだ。

「鴇羽! 避けろ!」エレメントで攻撃を加えるが、百足もどきの注意を引くこともできない。「くそっ、デュラン!」

 間に合わない。獲物に狙いを定めたオーファンが、巨体をしならせて舞衣へ襲い掛かる。中空で呆然と向かい来る怪物に目を合わせた少女は、咄嗟に両腕で躰をかばった。無駄なあがきだ。なつきはそう思った。
 しかし――

「いやっ」

 叫ぶや否や、舞衣の手足に浮かぶエレメントらしき輪が高速で回転し始める。自動的に障壁が展開され、さらに舞衣を始点に火の鞭が伸びてオーファンを大きく弾き飛ばした。鞭は余勢を駆って岩壁をやすやすと削り、小規模な崩落すら引き起こす。地響きがなつきの足下にまで伝わってきた。

「な……」
「やるねえ」

 なつきは呆気に取られ、凪が口笛を吹く。
 高村恭司だけが舞衣へ向かって走り出した。

「玖我! 俺は鴇羽をどうにかする!」高村は必死の表情だ。「あの虫はおまえがなんとかしろ! 一般人の俺には荷が勝ちすぎる! マジで怖い! 超! 放射能で汚染されてるぞあれは絶対!」
「誰が一般人だ!」毒づきながら、なつきは体勢を立て直しきれていないオーファンに向き直った。「デュラン! ロード、クロームカートリッジ! 撃てッ!」

 デュランの砲撃の威力はエレメントの比ではない。放たれた火線はやすやすとオーファンの装甲を貫くと、金属の軋みめいた叫びを上げさせた。だが、とどめを刺すには至らない。

「しぶといっ」追撃をかけるべく、なつきは横目で高村が浮いている舞衣の足首を掴むのを確認した。
「あ、安心した。鴇羽の下着はちゃんと素朴だな」
「どこ見てんのよッ、あ、やめてちょっと、引き摺り下ろさないでー!」
「真面目にやれそこの馬鹿二人!」

 なつきが気を逸らした瞬間に、凪が囁いた。「困るんだよね、それでうまく行かれると」

 計ったようなタイミングで、オーファンの傷が急速に再生した。なつきが気取った瞬間にはもう手遅れだった。起き上がった大百足は、全身をバネと化して爆発的な勢いで高村と舞衣の元へ奔っていく。咀嚼のための鋭い刃が、血を求めて蠢いた。
 高村が舞衣を突き飛ばす。ばか、となつきは思った。舞衣であれば、まだエレメントの障壁が働いてどうにかなる可能性があるのだ。生身の高村では、どうあがいても巨大な質量を持ったオーファンの突撃は避けえず、防ぎえない。

「先生!」

 舞衣の絶叫がこだまする。高村の顔は、なつきの位置からは見えない。

 ――救い手は空から降ってきた。

「おおおああああぁぁあッ!」

 美袋命だった。
 誰も声を上げることさえできなかった。その身を必殺の一矢へと変えて、命はオーファンの頭頂部へ大剣を深々と突き立てる。遥か頭上の縁から、目的めがけてまっしぐらに跳んだのだ。常識外れという表現さえ生温い身体能力だった。
 怪物が体液を撒き散らし、不協和音さながらの悲鳴をあげて荒れ狂う。命は素早く剣を抜いて着地すると、たたらを踏みながら剣の大重量を絶妙に利用して円心を描く。地を削る剣先が火花を上げて一閃されたとき、命の十倍近い体躯を持ったオーファンは、胴体から真っ二つに両断されていた。

「……」

 全ては一瞬の出来事である。なつきは唖然として、オーファンの死体を見るともなしに見た。
 時間差で泣き別れた胴体が地に落ちる。命は荒い息をついて、構えを解く。そして尻餅をついたままの舞衣と、そのエレメントを見た。

「おお!」溌剌とした笑顔でいった。「舞衣もHiMEだったのだな! わたしと同じだ!」
「え、ええ? えっと、命? 違うの、これは手違いで……」まだ事態を飲み込めない舞衣は、しどろもどろに弁解した。
「そうか、それはテチガイというのか!」命が、嬉しそうに剣を示した。「これはミロクだ!――わっ」

 何ものかが、命を抱きすくめた。それだけに止まらず、小柄な命の体をぐるぐると回す。

「あ、ああ危なかった! し、死ぬかと思った!」九死に一生を得た、高村恭司である。「ありがとう、美袋。おまえは命の恩人だ! 愛してる!」
「お、おおう? 恭司かっ?」解放されると、ふらふらと目を回しながらも、命はようよう頷いた。

「やれやれ」蚊帳の外に置かれたなつきは、ため息をついてその光景を眺めている。「どうにか、間に合ったか」
「あっれぇ……」凪が目を丸くして、驚きを露わにしていた。「参るなぁ。命ちゃん、ずいぶん遠くにいたはずなのに。いつもいつもどうやって嗅ぎつけてるんだろう」
「ふん。思惑が外れたか?」
「いやいや。僕には別に思惑なんて大層なものはないけどね。それよりほら、舞衣ちゃんがきみに何か聞きたそうな顔をしてるよ?」

 振り返れば、確かに舞衣が安堵半ば不可解半ばといった顔つきで、なつきにもの問いたげな視線を送っていた。

「久しぶりだな」若干の怒りを込めて、なつきは舞衣を睨みつける。
「あ、うん……久しぶり。あの、ねえ、玖我さん、でいいんだよね? B組の。あたし、知ってるかもしれないけど、一年A組の鴇羽舞衣。それでさ……あたし、なんでこんなところにいるんだろう。それに、これ……あの怪物も。一体なんなのかな……?」
「関わるな、といったはずだな。忘れたのか? 風華を去れとも、わたしはいった」

 元々勝ち気な少女なのだろう。やや気分を害した様子で、舞衣は眉根を寄せた。

「そんないいかたって、ある。なによ、訳知り顔で。知ってるんなら説明してくれたっていいじゃない」
「関われば、好むと好まざると、今回のような事態に関わる事になる。もっとひどいことにも」なつきは彼女が思う冷酷な女性像を意識して振る舞う。「わたしがしているのは忠告だ。どうしてこの学園にそこまでこだわる? 命あってのものだねということもわからないのか」
「そんなこと言ってないわよっ」とうとう限界を迎えたのか、ヒステリー寸前の押し殺した声で、舞衣は歯を軋ませた。「あたしは納得がしたいだけ。理由もいわないで命令だけして、人の都合も考えないで押し付けて! そんなの、理不尽じゃない!」
「だから、それを知ったらもう――」

 なつきはそこで言葉を区切る。違和感があった。出所は決まっている。鋭い眼で、地に転がる分かたれたオーファンの死体を見つめた。
 オーファンは想念体である。致命傷を負えば光の塵に変わる。それがいつまでも肉体を残している――。

(妙だ)

 凪を見る。常に用が済めばすぐに消えるはずの少年は、いまだ場に残っていた。
 それが意味することはひとつだ。
 誰にともなく、なつきは叫んだ。

「まだ終わってないぞ!」

 ほぼ同時に、オーファンの上半身と下半身が蠢動する。一瞬でそれぞれ異なる怪物へと変身して、雄叫びを上げた。
 デュランが四肢を張る。命も高村も戯れるのを止めて、危機に対応しようとする。
 舞衣だけがひとり、よろめいてその場から後退った。

「もう、いや……。なんなのよ、これ」
「そこの通路を引き返せ。まっすぐ進めば、すぐ出口に突き当たる」彼女を振り返らず、なつきはオーファンに向かって歩き出した。「そのまま振り返らずに山を降りて、ここで見たことを全て忘れるんだ。そして退学届けなり転校届けなりを事務で受け取って、この土地には二度と近づくな。納得はできないかもしれないが、それが一番おまえのためだ」
「で、でも……」

 弱々しく、舞衣は頭を振った。理性と感情がせめぎあっているのだろう。その様子を見て、あと一押しだ、となつきは感じた。どれだけ気丈でも、舞衣は本質的に善良で平凡を愛する少女でしかない。異常な暴力と脅威を目の当たりにすれば、後悔するかもしれずとも、さし当たっての緊急避難を促すことは難しくないはずだった。

 戦いは、そしてもう再開している。

 オーファンはより強力になって復活しているのか、機先を制した命の一撃を難なく防ぐと、その小柄な体を吹き飛ばした。地面に激突しかけた命を慌てて高村が受けとめると、二人をオーファンの追い討ちが襲う。壁まで吹き飛ばされ、命をかばう形になった高村がぐったりと倒れこんだ。頭でも打ったのかもしれない。

「恭司、大丈夫か恭司っ」命の焦った声がなつきの焦燥も励起した。
「早くいけ」

 それだけを告げて、なつきは走り出す。
 いつものように、デュランと共にだ。
 それだけで、どこまででも戦えると思った。






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