「違います…私は勇者の一族じゃありません」
日差しの心地いい午後、のんびりとした農村の片隅に私の家は会った。その家の前で、私は尋問を受けていた。
私はミア。勇者の一族だった。勇者の一族だった、と過去形なのはおじいちゃんとおばあちゃんが駆け落ち婚だった為だ。結果的にそれで私は助かった。勇者の一族が粛清にあったのだ。魔王の再度の出現を予言し、それを聞き入れない王に叛意を示したのが原因だという。
粛清は酷かった。私達家族は、かろうじてそれを逃れる事が出来た。
今になって、何故。私は泣きそうになりながら答える。父さんも、母さんも今は他界している。一人きりになって、それでも皆の分まで生きていこうって誓ったのに。
「私は勇者の一族じゃありません!」
再度叫ぶが、兵士は聞き入れない。
「調べはついているんだ」
そう言って、私を馬車に押し込めた。
「いやぁぁぁぁ、助けて!」
私は馬車で、ずっと泣いていた。食事が出されるが、喉が通らない。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい…」
呟いて、馬車の隙間から外を眺めた。
お城の前の処刑場の広場が近づく。ここで降りるのかと思ったが、馬車はお城の奥へ奥へと走っていった。そこに、一人の騎士が立っていた。髪は金、目は青の美しい青年で、私の涙は止まってしまう。
馬車が、騎士の前で止まる。
馬車が開くと、騎士は傅いた。
「勇者の一族の姫君、お待ちしておりました」
安心させるような声に、長い馬車移動と空腹に疲れきっていた私は、ついに気を失ったのだった。
次に起きた時私は、広い寝室にいた。
「あ、私…捕まって……」
服はピンクのヒラヒラついたドレスに着替えさせられていた。
確かに、勇者の子孫が村娘の格好で処刑とは格好がつかないだろう。
「お目覚めになられましたか、勇者の姫君」
メイドらしき青い髪で、整った顔立ちの少女が聞いてくる。
「勇者の姫君…?私は勇者じゃないわ。お願い、助けて」
「勇者様…事態は変わったのです。魔王の復活が確認されました」
瞬間、私の心にはマグマが押し寄せた。
魔王の復活はいい。それこそ勇者の血筋の当主であるアレクセイが魔王に対抗する為の軍備の増強を申し出ていたのだから。それが今来ただけの事だ。口伝で残っている。聖剣を返してほしいと言った勇者に対して、人間だけで魔王を倒す、勇者の力など必要ないといった国王の言葉を。
これがたった100年も前の事。
それからの勇者一族の弾圧は酷かった。勇者の血を引く者達はことごとく殺された。僧侶の一族、魔法使いの一族も国に連れて行かれ行方知れず、結界をつかさどる巫女の一族もまた浚われた。
そう、事態は変わった。100年前に比べて。
「ここで…ここで私を呼ぶのなら、何のために我が一族は滅んだのかしら」
静かに言い放つと、メイドがきっぱりと言い放った。
「私が知っているのは、貴方が魔王を倒すことだけです、姫君」
「ふざけないで!」
私は叫んでしゃがみ込んだ。
こいつらは魔王退治をなんと心得ているのだろう。
口伝によれば我が一族は3歳の時から修行をしていたという。
私はそんな修行していない。ささやかな運動はしているが、勇者とばれたら狩られるため限界というものがあるのだ。
「そういう事なら、帰るわ」
「どうか私達をお見捨てにならないで下さい、姫君」
先程の美麗な騎士が現れて言った。
「貴方は…」
「勇者の姫君の僕、魔法使いの一族のものです」
私が問うと騎士が言った。
「ふざけるな…勇者の血は、今絶える!魔王は貴方達でなんとかなさい!」
私は怒りに身を任せて窓から飛び出した。