「本が読みたい」
俺、アーク・ラグ・ヴォルファイアは心の底から呟いた。
中世?に転生して早5年。国名とか聞き覚えないし時代とかわからんし、それはまあ些細な問題だ。
問題は本が無い事。
活字中毒だった俺には本が無い事が苦痛で苦痛でしょうがない。
衛生面は我慢する。食事もまあ我慢しよう。服装もこれなんて羞恥プレイとか思ったけど我慢。
だが。本が無い事だけは我慢できん。
書類が粘土板って…。ありえんよ。
えーと火事にも水にも強く大変便利です…だっけ。
書類としてはそうかもしれんが本にはとても使えない。
小さい子向けの遊びもあったし、幼児化してる身にはそれなりに楽しかったけどな。
そろそろ限界だ。
それに、何故だか俺の頭の片隅から、「識字率90%越え」の言葉が離れないのだ。
という事で、俺、アーク・ラグ・ヴォルファイア。
この領地に図書革命を起こすぞ!
というわけで、まずは権限を利用して紙の製法から模索する。
今日から俺の遊びは紙の作り方を模索する事。
俺専属メイドのクレアと護衛のバークを連れて、植物を煮たり川にさらしたり大忙しだ。
うろ覚えの知識だったが、一週間で紙らしきものが出来た。
後は改良改良。
ああ、もちろん変な子供との認識はされてますよ。
魔物か天使かで悩まれているらしく、微妙な距離を置かれてます。
この年で別邸で3人暮らしですよ。
メイドと護衛一人ずつつけて自由にさせてるけど監視付きって感じ。
他の貴族とは会わせてもらっていないけど、自由にはさせてもらってるよ。毎朝一時間のお祈りはさせられるけどな。
普通は殺されてもおかしくないから、自由までくれた両親には感謝してる。
クレアとバークは完全に自由にしていいって言ってくれたから、一生懸命教育して衛生面や食事の面でも大幅に助かるはずだ。
兄が二人いるので領地は継げないが、将来は王都で貸し本屋を立てるつもりだ。
というのも、本は高価すぎて盗まれる確率が高く、治安のいい場所である事が絶対条件だからだ。ちなみにそのような職業はまだない。
まずは巻物、次は書物、順番に少しずつ好事家に広めていけば……。
くくく…
「はーはっはっは!」
「アーク様、怖いです…」
「いつも一生懸命作っておられるこの白い物はやはり何か怪しげな儀式に…?」
クレアとバークに怯えられた。特にバークは監視役だから怯えられるのはまずい。
まあ、俺が赤ちゃんの時から傍にいてくれたんだ。変な報告するはずないってわかってるけどな。
「粘土板の代わりだよ。燃えるしすぐ破れるけど、持ち運びしやすいだろ?」
「粘土板の代わり、ですか…」
「ほら、これで書くんだ」
墨と筆でさらり、と出来損ないの紙に文字を書いていく。
「便利なんだぞ。これで巻物を作る。内容を書いて巻くんだ。そうすると小さくまとまるだろう?これに童話を書いて広めるんだ」
「童話を広める、ですか…?」
「そう、まずはそこからだ。俺はいつかこの領地を巻物の発祥の地とするのだ!」
「は、はぁ…」
俺は上機嫌でくるくると巻物を巻いた。
これだけ苦労した紙を無駄には出来ないから、字の練習は超頑張っている。
識字率についても考えたが、まずは文字の必要性を教える事の方が先と判断した。
始めの目標は巻物のプレゼント作戦だ。
父、母、兄二人、クレア、バーク、俺が選んだ厳選童話を贈るのだ。
それで出来がいいようなら自慢してもらえる。
特に兄二人は見せびらかしてくれるだろう。
それで受けがよければ協力者が増える。
人なり資金なり用意してもらえる。
そしていずれ本屋を開くのだ。
貴族の間に本が広まれば、皆本を読みたくなるはず。
その後に識字率を上げていけばいい。
識字率の大事さは知ってるけど、まずは俺が本を読むことが先だ。
その為の準備として、二人には必要技能をばっちりと仕込んである。
とりあえず二、三人、人手が増えてくれるといいなぁ。
俺はこの時、この程度しか考えてなかったのだ。