10月26日
横浜基地、地下19階、副司令室

夕呼side

「昨日の続きをするわ」
私は椅子に腰掛ける。
「アナタが持つ情報……提供してくれる？」
「どうぞ」
「ふ～ん、『こっち』に来る時に持ってきたのね」
社が取り出したのは一枚のディスクだった。
この中に情報と技術が入っている。
そして『量子電導脳の理論』も…………
「どれどれ……」
ディスクをパソコンに入れ、データを呼び起こす。
「あらま……こんな方法があるんだ……」
その中は驚くべきものだった。現存するどのよりも技術も抜きん出ている。
『未来』の技術なのだから当然だ。
しかし……この発想の仕方は……………
「この内容の大半は『こちらの世界』の香月博士が考えたものです。」
「流石は私ね」
考えたのは私か……それもそうね、こんな無茶な考え方をするのは私ぐらいなものだ。
例えるなら『混ぜるな危険！』と書かれている洗剤同士を平気で混ぜるところ……？
さて、技術の検証は後回し……目的のものは…………
…………目的のものは……………………？
「ん～～…………？」
目的もの、『量子電導脳の理論』を探すが…………見当たらない。
ファイルを全て見るがない。
隠しファイルなのかと思い検索するがない。
「どうしました？」
そんな私の表情に気付いたのか、社が声を掛ける。
「ねぇ、社………アナタの世界には00ユニットは完成したのよね？」
「はい」
「じゃあ、量子伝導脳のレポートが無いんだけど…………」
昨日、社が話した通りなら理論は完成している筈だ。
なのに、その理論がない

「入れていませんから」

耳を疑う
入れていません？空耳だろうか？
「ごめん、もう一回言って」
「入れていません」
ああ、空耳ではなかったのか……
つまり…………このディスクの中には理論が入っていないと？
「入れていないって……どういう事よ？」
『量子電導脳の理論』はオルタネイティヴⅣに必須なのだ。
その理論がないのでは計画の遂行はありえない。
―喧嘩でも売っているの？
「白銀さんには……『平行世界』へ行って貰う必要があるからです。」
「白銀が？またどうして？」
社はその経緯を話してくれた。
白銀が『平行世界』へと行き、そこで『量子電導脳』のレポートを手に入れた事
そして、記憶の関連付けによる『鑑純夏』との結びつき
その後に起こりえる『現象』についても話した。


社side

「なるほどね……確かに必要ね」
博士は納得したようだ。
これで手筈は整った。
後は…………どこで『道』を変えるか肝心だ。
「まあ、００ユニットの完成の目処は立った事だし……あら……？」
「博士？」
夕呼がパソコンの画面に噛り付く様に見ている。
あの中身は驚愕するような事ばかりが入っているが、あの博士がそこまで見るような情報は入れただろうか？

「可愛いわね」

「はい？」
可愛い？
何を言っているのかサッパリである。
あの中に入っているのは技術情報ぐらいのものだ。
可愛いなんて単語が出るはおかしい
「これ見て」
「？」
博士は画面をこちらへ回し向ける。

「ッ！？」

その画面を見た時、私は驚く。
「『向こうの社』って凄く美人ね、成人式の写真かしら？」
そこに写っていたのは着物を着た『私』だ。
間違いない『元の世界』の時の画像だ。それも私が二十歳の時に撮った成人式の写真
『元の世界』の博士が無理やり着せたモノだ。
「これなんて可愛くない？机で居眠りなんて…ああ、これもいいわね、海で遊ぶ社なんて……」
博士は次々と私の画像を出す。その表情はウットリとしている。
それにしても画像は色々とある。
帝国大学に在学していた時や海で遊んでいる私の水着画像等………その数は100にも上る。
「これは一体ッ！？」

―何故、こんなモノがここに？！

このディスクに入れたのは技術と情報だけ、こんなアルバムみたいな写真集なんてモノは入れた覚えが無い。
そんな混乱している私に博士は言った。
「………『私』の悪戯ね」

―『私』？

まさか………『元の世界』の香月博士の仕業？
「気付いていたんですね……」
………………可能性はある。
そもそも私が気付けたのだ。博士が気付かない筈がない。
でも…………どうしてこの様な真似を？
「それと……アナタ宛に手紙があるわ」
一つのファイルを開くと、その中に『手紙』があった。
それを開くと中には……


―社へ
アナタがこの手紙を読む頃には私はアナタの事を忘れていると思うわ
だから、『思い出の記録』、消えてしまうなんて勿体ないでしょう？折角、可愛く撮れた傑作100選なのよ。
それと次元転移について咎めるつもりはないわ
アナタが何故、次元転移しようとしたのか………私にはわかる。
『白銀武』…………私も彼の事を思い出したわ。
気付いたのは白銀が消えてから直ぐによ……
天才の私が『綻び』に気付かない筈がないでしょう？
そもそも、アナタに思い出すきっかけを与えたのは私よ。
わざわざレポートの整理を頼む筈がないでしょう？（＊『社霞の考察』参照）
社ってば、あの『馬鹿』との最後の別れの時に告白しちゃうんだもの…………思い出せないなんて酷ね
でも……思い出したアナタが次に取る行動は予想ついていたわ。
ごめんなさい……アナタにこんな役目を負わせて……本来ならば私がするべきなんでしょうけど…………私には『出来ない事』なのよ。
それに、どうしてもアナタと白銀をもう一度会わせたかったの…………年寄りのお節介かしら？
最後になるけど私はアナタの事を実の娘みたいに思っていた。
私は不器用だからこんな形でしか言えないけどアナタの事が大好きよ。
だから……無茶だけはしないで………
もう、二度と会えない私との約束よ。
サヨナラ…………『社霞』


「………博士………………」
あの人は全てを知っていた。
そして………私に記憶を思い出せてくれたのだ。
「『向こうの私』も『綻び』に気付いていたようね、それもアナタよりも早くに…………」
「そうですね……」
「泣きたいなら泣いてもいいわよ。」
夕呼は社をそっと抱きしめた。
社の小さな体は彼女の白衣に包まれる。
「………はい…………」
博士の白衣にギュッとしがみ付き、私は声を押し殺し、泣いた。
『香月夕呼』との別れ……
オルタネイティヴⅢの中でも『異端』として見られた私の事を彼女は『人』として見てくれた……
その彼女との『別れ』はとても辛い事である。
両の目から涙は止まらず、白衣にシミをつくる。
私はしばらく博士の腕の中で泣いた。

再び落ち着くまで少し時間を要した。
「博士、頼みたい事があるのですが……」
「何かしら？」
「実は………」
私は博士に私が考えた『計画』の全貌を話した。
「…………本気なの？」
「はい」
私の話を聞いた時、博士は反対した。
けど、ここで引き下がる訳にはいかない。
「………………条件があるわ」
そんな頑固な私に諦めたのか博士が条件を出した。
「条件ですか……？」
当たり前だ。唯で『協力』なんてしてもらえる訳がない。
私が呑める条件なら従う。
「このファイル、貰っていい？」
無論、『あちらの世界』の『香月夕呼』がディスクに入れた『社霞画像』傑作100選の事だ。
「駄目です……」
条件を呑む事は簡単だ。
そのままディスクを渡せばいいだけなのだから
「いいじゃない。減る物じゃないんだから……むしろ、コピーして増えるわよ？」
「増えても駄目です。」
増やされても困る。
だが、この人の事だ。ろくな事には使用しない筈だ。
「基地内で売り捌いたら軽く、一財産は手に入るのに……」

―博士、アナタはそのお金をどうしたいのですか……？

「博士」
「冗談よ。冗談」
どこまでが本気で、どこまでが冗談なのだろう……
いや、意外と本気だったのかもしれない。
「でも……」
「一つだけでもいいから譲って」
「……一つだけですよ？」
本当は渡したくないところだが、これが最大限の譲歩だ。
彼女にも恩はある。不安だが………
「ありがとう」
「……さっきの条件なんだけど…」
これまでの話は冗談、本当の話はこれからだ。
「社、無茶だけはしないで……『この世界の私』と『向こうの世界の私』の約束よ……」
夕呼は小指を出す。
この国に伝わる、約束の『証』
「はい」
私も同じ様に小指を出し、絡める。
でも……博士
私の『計画』を遂行するには無茶をしないといけません……
その『道』が茨の道であろうと……自らの手を汚すことを厭ってはならないのだ。
だが、傷つくのは私一人で十分
そう、私一人で………それが『最良の選択』なのだから…………

～to be Continued～


後書き
最後の部分がダークゾーンに入っていますな……
このままでは社がダース○ーダーに！？（なる訳はありません）
それと、私の小説の社さんってよく泣いていますね………これまで三、四回は泣いていますよ。
未完成のやつを見るとけっこう、泣いています。
社主観の話はこれぐらいで……次からは白銀主観の話をします。
感想や御指摘な点があればよろしくお願いします。
読んで下さった方に心からの感謝を……