夕呼side
「アナタ………………社よね？」
「はい」
自分で言うのはなんだが馬鹿馬鹿しい質問だ。
逃げる相手に止まれと言う様なものだ。
素直に答える筈がない……
「声紋、骨格、顔の形…………全ては社霞と『同じ』」
っていうか本人なのだから………当たり前か………
けど、感覚的には他人とは話している様な感じだ。
―本人と他人？
その言葉にピンと閃く。
そうだ。本人であり、他人でもある事と言えば………
「考えられるのは…………」
「博士の考えている通りです。」
………化けの皮を剥がしたわね。
私の目の前にいる社は『社霞』であり、『この世界』の『社霞』ではない、別の平行世界の『社霞』だ。
となると、こんな事を可能にするのは………私のレポートにあった次元転移の理論しかない。
「……装置は誰が造ったの？私が造ったのかしら？」
「私が造りました。」
「へぇ……」
正直に驚く
次元転移装置なんてそこらの科学者が作れる代物でもない。
―他の平行世界の社は私並に頭がいいのかしら？
それを聞く前に、一つ、確かめたい事がある。
「一応、聞くけど……転移は分かってやったの？」
「はい」
その答えを聞くと同時に心が冷めていくのを感じた。
私は席を立ち、社の前に行く。
「……社、歯を食い縛りなさい」
右手を大きく振りかぶって………
パンッ！
彼女の頬を叩いた。
私がこれまで社に手を上げた事なんてない。
だが目の前にいる『平行世界』の『社霞』は別だ。
叩かれた『社霞』の頬は赤く腫れている。
「自分が何をしたのか分かっているのッ！？」
「……………はい」
叩かれても臆する事なく、私を見上げる。
―随分と根性あるじゃない
―自分が何をしたかを認識して……腹が立つわね
それだけの覚悟があったという事なのだろう
「じゃあ！どうしてこんな真似を！？」
答えは出揃っている。
10月22日
それが起点なのだろう。
そして、渦中の中心にいる人物は………
「……………白銀のこと？」
「はい」
やっぱり………白銀武か………
その答えを聞くと私の中にある仮説が間違いではないという事だ。
つまり………００ユニットが白銀武を『この世界』にループさせている。という事なのだろう………
この事は『死んだ白銀武』と『鑑純夏』の関係
シリンダーに入っている彼女が……呼び寄せた。そう考えるしかなかった。
「とりあえず話しを聞くわ……そっちの『彼女』はどうなったの？」
無論、『鑑純夏』の件である。
「武さんと心が結ばれ、－スピンは＋スピンによって打ち消しあい、武さんを因果導体から解放しました。」
社はその後の戦いの経緯を私に話してくれた。
オリジナルハイヴ、『あ号標的』、そして仲間の死、辛かっだろうに……
「最後は？」
「純夏さんは…………活動を停止しました……」
ポタッ……
床に水が落ちた。
社が泣いている。
この子は自分でも気がつかないぐらい泣いていた。
ハンカチを取り出し、私は社の涙を拭ってあげる。
この子は一人で辛い思いしていたのだろう……
危険を顧みず、次元転移までして『この世界』に来たのだ。
けど…今の話で疑問が生まれた。
「……それだとこの『世界』にいる白銀は何？」
「社、アンタが言っている事に矛盾があるんじゃない？」
そうだ。彼女が言った通りならば『この世界』には白銀武は存在しない筈だ。
「私の仮説が正しとすれば………白銀は多元世界の断片の統合体、『世界』がアナタの言うように修正されたのなら『今』のアイツの存在は消えている筈よ？『鑑純夏』という原因の消滅に伴い、『白銀武』という結果も消滅する。そうでしょう？」
確かにそうだ。
原因の消滅は結果の消滅に繋がる。
「そうなる筈でした。」
「えっ？」
筈でした？どういう事？
「世界と記憶の『修正』………思っている程、都合の良いものではありません。」
「修正すればどこかに綻びができます。」
彼女は話した。
自分の気付いた綻び、そしてそれまで経緯を全て話した。(＊社霞の考察参照)
「そうでなかったら………私は武さんの事を思い出せなかったでしょう。」
「私はその綻びを見つけ、そして真実を知りました。」
「真実？」
真実とは？
彼女の言葉に興味が沸く
「映像の一コマ切り取られたフィルムはどうなりますか？」
「どうなるって…………」
社の突然の話に困惑する。
フィルム？
何が言いたいのだ？
「これが平行世界に例えたら？」
平行世界に例え……
「ッ！？」
私はソレに気がついてしまった。
そんな事がありえるの！？
私達は……！
その時、私は人生の内に自分の天才が憎いと思った事はない。
理解したくない事までも理解してしまう自分が……
霞side
「まさか！？じゃあ！今の私達はなに！？」
香月博士は声を荒げ、私に迫る。
いつものも彼女ならこんな無粋な事はしない
けど博士がそうなるのも無理もない
特に『この世界』に存在する人にとって、それは信じがたい事なのだから……
「『この世界』は武さんを主軸とする平行世界の『断片』で再構築された『世界』、まだ出来て間もない世界です。」
切られたフィルムは修正され消えた『断片』
フィルムを一つに纏めたらそれで一つの映像ができる。
『この世界』はそんな『断片』が集まり、再構築された『世界』なのだ。
「そんな馬鹿な……誰かが意図的にしない限りこんな現象は……」
だが、そうでもなければ今の現象を説明できない。誰かが世界を作ったとしか言いようがない。
フィルムだって『誰』かが集めて繋がないと映像は映らない。
そう、『誰』かが世界の『断片』を集め、一つの世界を構築したのだ。その行いはまるで神のように……『傲慢』である。
「それは私にもわかりません。けど現に『この世界』は存在します。」
この現象はとは別に私は未知の現象を知っている。
白銀武
彼も未知の現象によって世界の『断片』から集められた統合体
『この世界』も『白銀武』も同じなのだ。
「私は…………それを観測して、この世界へ来たのです。」
「観測？そんな事が可能なの？」
「タイム・フラグメンテーションです。」(＊社霞の考察参照)
夕呼side
「話には聞いた事があるわ、未来を観測する装置……いえ、正確に言えば平行世界を観測する装置」
私が考えた転移次元とは似て非なるもの
だがそれは仮定の域を出ておらず、学会でも与太話程度にしか扱われていない。
この子はそれを利用して『この世界』を観測したのだ。
「そうです。それを用いて無くした記憶を取り戻しました。」
「観測したは分かったわ。何の為にここに？」
「世界の崩壊を阻止する為です。」
「世界の崩壊？」
随分と飛んだ話だった。
いきなり世界の崩壊なんて……少し馬鹿馬鹿しい話だと思う
けど……彼女の顔を見ている限りでは冗談ではないようだ。
「博士はヤドリギの木をしっていますか？」
「ええ、知っているわ」
ヤドリギ
他の木に絡まり土の養分を吸い取り、絡み取った木を徐々に締め上げ、枯れさせていく植物
「『この世界』はそれと同じなのです。」
「もし……この世界がＢＥＴＡに支配されたら……」
「他の平行世界に寄生、そして『世界の上塗り』かしら？」
「はい」
この『作られた世界』が『本当の世界』と入れ替わる事なのだろう。
そんな事になれば矛盾が矛盾を生み、世界は『崩壊』へと繋がる。
「……この世界が存在する時点で既に他の『確立分岐』は出来ているんじゃない？」
つまりは可能性の事
現在が存在する時点で未来は木の様に枝分かれしている
人類がBETAに勝利する未来、EBTAに敗北してしまう未来と多岐に渡っている。
「はい」
「なら……他の平行世界は既に入れ替わっているじゃないのかしら？」
そうなっていたら既に『世界』は崩壊している筈だ。
そうなっていないのに訳が在る筈だ。
「この瞬間が『この世界』の主軸です。」
「どういう事？」
「『断片』の再構築が原因なのかは分かりませんが………現時点で過去にあった『この世界』の『分岐』は全て『今の分岐』以外存在しません。」
「今を除く他の可能性の消滅……それは別の平行世界の消滅という事かしら？」
「はい」
『断片』で構築された世界なのだ。何が起こっても不思議ではない。
もしかしたら、今後、もっと不思議な現象に出くわす可能性がある。
「私の使命は…………『この世界』を消す事です。」
「なっ………」
さすがの私でも彼女の言葉に唖然とする。
―何を言っているのだ？世界を………消す？
「驚くのは無理もありません……けど、これは比喩です。」
「今は………これだけしか言えません」
社は口を閉ざす
おそらく追求しても何もこたえないだろう
「でも、これだけは信じてください。私は……皆さんを救いたい」
青臭い台詞だ。
でも………それが時に世界を救う
「いいわ……今はその台詞を信じるわ」
彼女が何を思って行動するかは私にはわからない
「最後に聞きたいんだけど……『この世界』の白銀は因果導体なの？」
「………はい、『修復』された世界から切り取られた武さんの『断片』は『この世界』と同様に再構築され、それは『修正』を受ける以前の……」
「簡潔に言えば因果導体なのよね？」
社の長い説明を止めて代わりに私が要点を言う。
「はい」
―思った通りだ。彼女は気付いていないが……白銀は……
「ハァ……何がどうなっているのかしらね……」
「それは私にもわかりません。」
「未知の現象……ここまで来たら流石に私でも笑っちゃうわ」
自笑する。
笑いが堪えられない。
人生の内に、何度も奇抜な体験をしたのだからこれが笑っていられない筈がない
『鑑純夏』、『白銀武』、『社霞』……
世界は……『面白い』事になりつつある。いや、既になっている。
「ふふっ、まるでヒーロー様ね」
英雄………どこぞの馬鹿みたいな台詞を言って……
「博士」
私に馬鹿にされたのを気付いたのか、社の視線が厳しいものになる。
「分かっているわよ。この世界が創られた世界だとしても……私はＢＥＴＡに負ける気はないわ」
これは本心だ。
私はBETAなんかに負けない。その為に今の地位に着いたのだ。
「…………今日は疲れたでしょう。話は明日にしましょう。」
「はい」
社の顔には疲労の色が見える。
彼女にとってこの話をするのは精神的な負荷が大きかったのだろう。
「私は博士に情報と技術を提供します。その代わり……」
「代わりに？」
「私の事は秘密にして下さい。特に武さんには……」
「分かったわ……」
知られたくない
本当は……話したい事が沢山あるだろうに……無理をしてまで……
けど、この話は白銀には重過ぎる。
彼が……感づいたら話してもいいと思うがこの子はそれを望まない。
―喋ったら、後ろから刺されるのかしら？
「おやすみなさい……」
社が部屋を出て、その入れ替わりに……
「ちわーす！白銀訓練兵、ただいま到着！」
馬鹿が来た。
「帰れ」
「はい！？」
「呼ばれたのに帰れですか！？」
確かに呼んだような気がするが………
「そうよ、今の私は機嫌が悪いわ」
「そ、そんな事を言われも……」
男のくせにウジウジと！
うざい！
「５秒あげる……」
「過ぎたら？」
私は引き出しからマシンガンを取り出す。
『数撃てば当たる。』
彼女の射撃が下手でもこれなら一発は当たるだろう。
「３・２・１」
「失礼しました！」
私が本気なのを知り、慌てて部屋から退出する。
―馬鹿ね……こんな場所で銃なんて使える訳ないのに……
「まったく……」
椅子に深く座り考える。
―社の情報
おそらくは『量子電導脳の理論』の事だ。
今の私は、それの事に詰まっている。
それに色々な情報も持っている筈だ。
それらをどう利用するか……それが勝負所だ。
使い道を誤れば……世界は崩壊への道を突き進むだろう……
「アナタが私を利用するように……私もアナタを利用するわよ」
～to be Continued～
後書き
マジでごめんなさい
自分なりの平行世界論です。
『霞の考察』……読まない方がいいです。マジで(汗
アレを理解できるのは私の混沌脳(カオスブレイン)だけです…
色々、参考にはしたのですが話が逸れ過ぎていますね、ハハハッ……
まあ、これを乗り越えたら後は普通（？）の話です。