勉は見事、犠牲無く日本の観光を終わらせることが出来た。
しかし、物事には代償がある。今、勉は銃を向けられていた。
「全く。味方から銃を向けられるなんて」
「本当に味方なら良いがね。一緒に来て貰おう」
「パスポートを持ってませんが」
「こちらで用意するから問題ない」
こういう時、映画ならウィットに富んだ会話をする物ですがね。
勉はそんな事を考えながら、用意しておいた荷物を持つ。
「父さん、母さん。実は僕、アメリカに就職希望だったんですが、見事試験に合格しまして、移住することになりました。国籍も貰えるんですよね」
「それは働き次第だ」
「だそうです」
「ええ そんな、急すぎる」
「本当に本当なの 怪しい人じゃない」
「僕がアプローチしてたの、スパイ部門なので」
息子の爆弾発言に両親は雷に打たれた顔をした。
「息子さんはアメリカの安全保障に関わる重大な情報を掴んでいます。その為、証人保護プログラムを適用させて頂きたい。ええ、息子さんは将来の夢を叶えるでしょう。ご理解願います」
「そ、そんな……」
「息子がスパイ……」
「僕の写真は全て捨てておいて下さい。どこで足下を掬われるかわからないので。行きましょう」
心配を掛けないように、勉はテキパキと動く。
黒塗りの車に乗り、勉はひとまず大使館へと連れて行かれた。
「やあ、会うのは初めましてだね、勉。私はKだ。エージェントK。この三日、忙しかったようだね」
「初めまして、エージェントK。ええ、でもその分充実した日々でした」
「わかるよ。自分が神にでもなった気分だったろうね」
「その通りです。そして代償を払う時が来たというわけです」
その言葉に、Kは微笑んだ。引き締まった体。知性を宿した鋭い瞳。なるほど、本物のスパイとはこういう物かと勉は感心する。未来の自分の姿だ。
「わかっているじゃないか。君には色々と聞きたいことがある。色々とね」
「全ては話せませんが、どうぞ」
「彼らとはどうやって出会った」
「そんな事より、重要な事があるでしょう 彼らと連絡が取れるか ――YES。彼らは次、どこに現われるか ――僕の所。いつ現われるか 20時間後。ゆえに、僕はアメリカの観光地に行かねばならない。いやぁ。楽しみですねぇアメリカ観光」
「……何が目的なのかな」
「彼らは純粋に観光ですよ。彼らはね。目的があるのはそちらでしょう 僕は大切な人達がいて、それなりに面白ければそれで満足です。無欲な物でしょう」
「それなりに面白ければ、か。いくらでも解釈の出来る言葉だね」
勉とKは微笑みを交す。
「ひとまず、私達も旅行に行きたいな。相手を歓待したら、こちらも歓待して貰う。それでフィフティフィフティだ。ナツメは村を預かっているというじゃないか。それを貰い受けることは出来るかな」
「観光は問題さえ起こさなければ、いくらでも。村の譲渡は出来ないし、必要は無いですね。夏目を敵に回したくないですし、私も領地を預かっているので。住民がおらず、復興を望まれている場所。美味しそうでしょう」
「余りに美味しそうで胸焼けがしそうだよ。君を世界一有名で誰もが見たがっていて、それでいてレアな場所に連れて行こう。観光にはもってこいだよ」
「じゃ、行きましょう。それと、どうやって出会ったかですが……勇者召喚です」
「……興味深い答えだ」
俺達は、胸を期待で膨らませ、若干ドキドキしながら扉を開けた。
勉が大仰にお辞儀する。
「ようこそ、アメリカはCIA本部へ」
勉の言葉に、周囲を見回す。CIA本部 それって凄いところじゃないか
「そんな凄いところ観光して良いのか」
「いいそうですよ。予定表はこちらです」
渡された予定表をタケバヤシが確認する。
「映画もハンバーガーも警察と病院の視察も入っているな。素晴らしい。観光のお礼は、観光案内と祈祷による病院での治療とするので良いんだっけ」
「ええ。まずはお近づきになりたい。タケバヤシ」
にこやかにKが応対する。
「この程度なら俺でも判断可能だ。受け入れる」
「ありがとうございます」
そして、ハンバーガーを食べに行く。
ハンバーガーをつ。その後ディナーにステーキを三枚食べたメリールゥはご機嫌そうだ。ヒーロー映画もかなり好評だった。
病院に行くと、少し緊張した。
怪我人達を治す約束で、そこには余りにも沢山の怪我人がいたからだ。
祈りを込めて、マラカスを振る。揮る。そして歌う。唄う。謳う。
『パッション パッション パッション』
傷はじれったいほど少しずつ、でも確実に癒えていく。
兄貴に止められて、時間を確認する。三時間か。大分疲れたな。
皆は部屋の隅で疲れて眠っていた。
「あれ 大分少なくないか 皆は」
「奴ら個々で観光に行きました……」
兄貴怒っている。
「貴方はひとまず、ここに残っているメンバーと共に帰りなさい。全く、バルガスまで……」
「えっ バルガス出ちゃったのか ヤバいじゃねーか」
「知りません。確保できたら連絡しますから、ひとまず帰って下さい」
「わかった」
神様は散らばっても構わないのだ。なんなら死んでも構わない。新しい体に乗り換えればすむことだし。でもバルガスは困る。困ったなぁ。ラピス達になんて言おう。
幼児であるキースは誘拐されて一念発起して逃げ出していた。パパとママの所に帰りたい。でも、どうやって帰ったら良いかわからず、泣いていた。パパとママ以外の大人は信用する事が出来ず、途方に暮れていた。
『坊や。何泣いているんだ』
小さなキースは、異国語で話しかけられてびっくりして目を丸くした。
狼のお顔を持つ人が、跪いて聞いていた。キースは、こういう人をなんて言うか知っていた。
「ヒーロー」
『両親は 迷子か』
「何を言っているかわからないよ」
『探してやるよ』
獣人が祈るのを見て、キースも一緒に祈った。
獣人は発光した。
『お前の両親、遠いな まあいい、送ってやる』
獣人はキースを抱き上げると、背から翼を生やし、凄まじい勢いで跳躍した。
「うわーあ」
歓声を上げる。ビルからビルへと飛び回り、ビルから地上へ着地した時、目の前にママがいた。
「キース キース」
母は血相を変えてキースを奪い取った。
「貴方、貴方なんなの 小さい子を抱っこしてビルから飛び降りたの 何を考えているの ああ、私のキース 無事 無事なのね」
「ママ―」
「ハンバーガー」
「……。貴方、お腹空いているの いいわ、キースを連れてきてくれたんだから、お礼に奢るわ。ついでに警察も呼んであげる。貴方達、観光に来たエイリアンでしょ」
ヒーローのDVDを見ながら、エイリアンの膝でハンバーガーを食べる。
ヒーローはヒーローの番組に目を輝かせていた。
エイリアンのお迎えが来た時、キースはエイリアンと約束した。言葉は通じなくとも、
キースは自分に誓った。
「僕、エイリアンと交渉する政府の偉い人になる。また会おうね。ヒーローでエイリアンのお兄ちゃん」
エイリアンは頭を撫でてくれた。キースは、きっと一生忘れないだろう。
キースは知らない。
神々の間でヒーローがブームになりつつあることを。