とある国の要人が200名ほどアメリカの手引きでダイナミック密入国するのでもてなしたい。息子が頭のおかしい事を言い出した。
バス二台をチャーターし、とにかく外務省に連れてくるのだという。
ところが、情報は知り合いのアメリカのアセットから得た確かな情報だといい、他にも有益な情報を教えてくれた。いつの間にか息子は、怪しい組織に入っていたようだ。
とにかく、頭を下げて上司に頼み、屈強な警備員達を配す。
約束の時間、外務省入り口に唐突に扉が現われた。
控えめに開けられた扉からは、明らかに人間ではない、狼とトカゲとコウモリを混ぜたような生き物がこちらを覗いていた。不安そうな目。
「日本へ、いえ、地球へようこそいらっしゃいました。歓迎します」
全力で笑顔を作って一同、礼。それぐらいの訓練は積んできている。何せ、全員部署は違えど外務省勤務なのだ。お持てなしできてなんぼである。
ぞろぞろと出てくるわ出てくるわ、エイリアン? あるいは異世界人?
とにかく、地球人ではない人々。総勢、200名。
一瞬恐怖に気圧されそうになるが、我が息子が良い笑顔で親指を立てて合図するのと、それに一行の視線が和らいだことで気持ちを持ち直す。
いつの間にか息子は異星人の信頼を勝ち得ていたらしい。事前に相談しろ。
夏目を静かに、客人に不安を与えないように静かに連れ出す。
「とある国の要人ってどこの国だ!?」
「ライバール。剣と魔法と神々の国です、父さん。彼らの国と友好を結ぶことは国益に叶うはずです。ちなみに二泊三日で観光した後、日を改めて一部アメリカに行く予定です」
「どうして!」
「つつがなく日本旅行が終わったらアメリカにも旅行に行く。そういう約束なんです。一番防衛力ありそうなのも妨害してきそうなのもアメリカですからね。僕のアメリカへのラインがアセット一人なのが不安なので、父さんからもフォローして貰えると嬉しいですね。このまま観光に行けば、諜報員達が大量に釣れることになりますよ」
「もっと穏便に証拠を出して観光を纏められなかったのか!?」
「それだと手柄も取られるでしょう? 僕は手柄が欲しい。ライバール国との間を取り持ったという実績が!」
「夏目!」
「待ちたまえ、海野君。野心のある息子さんで、見所があるじゃないか。で? 彼らをもてなす算段は出来ているのかね?」
「これが予定表と彼らの食事の好みです。僕のお小遣いでバスのチャーターと時間稼ぎのお茶とお茶菓子、日本の紹介ビデオの準備は出来ています」
「ふむふむ。その手のビデオは外務省でも用意してあるよ。じゃあ、早速彼らをもてなそうか」
「課長……!」
「基本は変らないよ。時間を稼ぐ。方針を上に仰ぐ。次に会う日程を決める。ほら、簡単だ」
そういうわけで、息子が指示してお茶菓子を用意していく。
息子が用意した情報は要点を押さえていた。いつのまにこんなに成長したんだ。落ちこぼれと思っていたのに。その才も……何より野心を見誤っていたというのか。
僅かにタケバヤシと会話をしていたが、流暢に知らない言葉を話していた。一体、いつから……!
慌ただしく動いていると、一時間もしないうちに、首相や外務大臣、財務省大臣が来た。
「うぉぉ……。異世界人ですか……。は虫類みたいな目をしてますね……」
「実際は虫類かと」
「急ですが、重要な外交とみて予算はこれぐらい用意させて頂きます」
「着物のプレゼントの認可を頂きたく思います」
「許可します」
「いやぁ。獣人にも竜人にもエルフにも似合うとは、さすが着物ですね」
「我が国の伝統文化ですからね」
女性陣が着物に目をつけ、喜んでいるのにほっこりする。さすがにいきなり合うわけにはいかないという事で、首相達の見学はここで終了だ。とはいえ、必要な予算と許可は貰えた。これで日本への公式訪問だ。
「で、アセットが誰か聞き出せましたか?」
「いえ。ですが、すぐに見つけられるかと思います」
「CIAの活動が活発化しています。外務省に来ている客人について問い合わせがありました。裏からも表からも」
「仲間に引き込めるなら引き込んでしまいなさい。アメリカの護衛があるならあった方が良い。夏目君の予定にも、アメリカ訪問は組んであるようだしね」
そうしている間にも、予定表が出来上がり、バスに乗っていった。
なお、そのバスは道行く人々に写メに撮られまくっている。諜報員が大挙してくるのは時間の問題だった。ちなみに、言い出しっぺの父である私は当然ついていくことになった。
エイリアンの歓待と護衛をせよと無茶降りされた自衛隊員達は、緊張した面持ちでエイリアン達を出迎えた。
といっても軍隊なので、行進や組み手、楽団を見せるしかないのだが。
『つまらん。銃はないのか、銃は「ジュウガミタイ! ジュウ!」』
『神の加護がなければこんなものか。私達が本物の組み手って物を見せてあげる!』
『自衛隊では宗教はどう考えているんだ? 戦士に神の加護は必要だと思うが。タケバヤシ!』
「レーション食べたい!」
「そうだ、せっかく自衛隊に来たんだから本場のカレーが食べたい!」
日本語、異世界語入り交じった我が儘が乱舞する。
『お前ら、あんまり勝手をすると勉様と夏目に言うぞ!』
タケバヤシが怒り、シーンとなった所で順番に要求が出た。気のせいか、ナツメという単語が聞こえた。息子の名前を出して大人しくなるほど影響力があるだと?
「差し支えなければ、銃などの地球ならではの武器も見たい。そのかわり、我らの戦い方や組み手も少し見せる」
タケバヤシの要求について隊員に問う。
「出来るかね?」
「了解しました! 予算を下さるなら!」
「外交部から回しておこう」
銃が実際に撃たれると、多くの物が耳を伏せ、あるいは塞いだ。
可愛い。異世界人は可愛いと辞書に書き込む。
『音だけでも脅威だな……』
『威力も凄いわ』
その後、客人達の組み手や魔法を見せて貰った。
彼らによると、宗教的儀式が強く関係してくるらしい。
スラリとした美少女が巨大な剣を振り回し、幼女の斧のような剣と渡り合う。しかも、巨大な火球やバリアも戦いの中に出てきた。
地球人にも使えないかと聞いたが、宗教儀式に生け贄が必要となり、その生け贄の用意が難しいこと、魔素への耐性がないことから、負担が掛かる事から難しいらしい。
不可能ではないのか……。
「夏目が出来るから不可能ではない」
「馬鹿! 負担掛かるから内緒って言っただろ!?」
わあわあと争い出す彼ら。なるほど、同じ宗教者だからこその連帯感なのだろうか。
「皆様からの信頼を得ているようですが、夏目は何をしたのですか?」
「献身し続け、ある村を助けて村長にまで成り上がったのです。夏目が領主を目指していて、それを達成するであろう事は皆が知っています」
「……息子にはよく話を聞いてみることにします」
かなりの外交カードが転がり込んできて戸惑う。外国、いや、異星、いや異世界人が領主だと? こうみえて大分開かれた文明なのかも知れない。不安になるほどに。
見学が終わり、その日は基地に泊まることになった
ぐっすり眠る中、どこかで戦闘音が聞こえた。自衛隊基地に襲撃に来るとは……。
ここは不安だが、隊員の皆さんにお任せするしかないだろう。夏目、お前はこれを予測して、基地を宿泊所に指名したのか?
人の犠牲をも視野に入れる。息子が、別の生き物に取って代わられたようで……異世界人だから、そのあたりの心配もしなければならないのか。頭が痛い。
翌朝、無謀にも遊園地に出かけることとなった。
神社で真剣にお祈りをした後、遊園地に出かける。私も覚悟を決めなくてはならないだろう。
しかも遊園地に入った途端、全員優先パスを貰って、楽しそうに遊園地に散らばった。
思わず呆然とする。
アメリカの諜報員が目を丸くしてどこかに必死で連絡しているのを見かけてしまい、心の中で同情する。頑張って下さい。後はよろしくお願いします。
もちろん私も無関係という事はあり得ず、日米の外交部での情報の摺り合わせに四苦八苦したのだった。
次回掲示板回です。