1999年・12月26日仙台・第二帝都・シミュレータールーム「ふぅ…まりもちゃん、お疲れ様」「ありがとう『タケル』」シミュレーター訓練を終えて、一息つけるタケルとまりも今回のシミュレーター訓練は、例の武御雷の改良型のテストパイロットとしてデータ収集をしていた。 帝国技術開発廠の副長になったばかりの巌谷中佐や開発チームの責任者のエルヴィンそして香月博士やその助手である霞がそのデータを元に様々な案を出し合っていた。そしてその決まった案を実行し、タケルとまりもがシミュレーターや実機訓練等でテストプレイをし、その結果を香月博士達が見て、バグや修正するべき所を改善する作業を繰り返していた。「今日のテストパイロットは終了よ。私達はこれから今のデータを分析するから、アンタ達は戻っていいわ。」「わかりました。」休憩していたタケル達の下に香月博士と霞が来て、今日は終了した事を告げる「霞…その白衣は先生の真似か?」「ハイ…貰いました…。」少し大きめの白衣を着る霞袖が少し手が隠れる程ぶかぶかで、裾を少し引きずる感じになっている…逆にそれが可愛いらしくなって、萌えポイントは高かった。 「まだ成長期に入ったばかりなんだから、あんまり無理するなよ?」「大丈夫です…白銀さんみたく、無理…しませんから」「んがっ!?」痛い所を言われるタケル日頃居残りの訓練の時は霞に手伝って貰う事が多々ある為、結構タケルが無理してる所を霞は見ている。 しかし、そのおかげでタケルの機体は常に調整をする事が出来、今ではタケルの機体である不知火・改は、他の不知火・改に比べてべらぼうに性能が高かった。 勿論、そのたんびにタケルは整備士達から化け物扱いされるが、霞が『皆さん…無理ばかりな注文で…スミマセン』とか『皆さん…ふぁいと…♪』と萌えな姿を見せると、整備士達の苦労や疲労などが癒やされてしまい、むしろ一部の整備士達から『霞タン…萌え…☆』とハァハァ…と怪しい息切れまで聞こえる程だった。因みに今では、国連軍及び、帝国軍内部まで霞の人気は高くなり、『社 霞タンファンクラブ』などが設立してしまう程だ。(男女比率・4:6と意外にも女性陣の方が人気が高かった。)「あ、そうそう…白銀…榊首相から連絡来たわよ?」「ハァ…」ニヤニヤと笑みを浮かべながら告げる香月博士当のタケルは『やっぱり来たか…』と溜め息を吐くその際にまりもからは同情され、霞には頭を撫でられ『頑張って下さい…』と慰められる。 「…それでいつですか?」「今日よ。」「……………………………………………………………………………なんですと?」「一応言っておくけど、今回は私は無関係だからね。」突然の発言に一気に疲労感が出て来るタケル今回は香月博士の悪戯ではないが、榊パパの親バカっ振りに振り回される結果になった。 それから一時間後---タケルは着替えて愛車に乗り、香月博士から教えて貰った住所に向かう。車で20分走らせた所に目的地である『榊邸』があった。 「スミマセン、帝国斯衛軍の白銀武大尉です。榊首相に頼まれ事で来たのですが…」『ハッ、お話は聞いてます。ささ…お入り下さい。』榊邸の守衛の人に門を開けて貰い、中に入るタケル。車を守衛さんに預け、榊邸の中に入る。 「うーん…少し意外だったかも知れない。」意外な感想で驚くタケル。家自体はかなり大きいが、中は意外にも質素何点かは高級品があったりするが、他は至って普通の一般的な部屋だった。一般の家庭に良く見られるような家具や食器使用人はいるが、2~3人程度とても総理大臣が住んでる家とは思えない程質素だった。 「お待たせしました、白銀大尉」すると、タケルの前に現れたのは、良く知る人物。 『榊 千鶴』その人だった。「突然の父のわがままにご迷惑をかけてスミマセンでした。私もいきなり『白銀大尉という人物が家に訪ねて来る』と聞いたもので…。」(うわぁ…バリバリ緊張してらぁ…。)緊張して固くなってる千鶴幾ら首相の娘とはいえ、今の彼女は訓練高等学校の生徒彼女からすれば、タケルは『上官』だった為、ガチガチになっていた。 「緊張しなくても良いですよ。なんならオレの事は『白銀』とも『タケル』とも呼んで良いよ。」「そ、そんな、呼び捨てなんて失礼な事は…」「その代わり、オレは君の事を『委員長』と呼ぼう」「……………………………………………………………………………ハイ?」突然の事に唖然とする千鶴先程迄の緊張感が一気に無くなり、その代わりに訪れたビミョーな空気に戸惑っていた。 「何故…委員長…なんですか?」「いや、オレの昔の知り合いに、君にそっくりな人物いてね…その時の呼び名が『委員長』だったんだ…」「………」流石に言葉を失い、少し混乱するそして、千鶴が第一声に発した言葉は… 「白銀大尉…アナタ…『馴れ馴れしい』って言われてませんか?」「ウム、言われてる。」「……ハァ」悟る千鶴このタイプの人間はあれこれ言っても無駄なような気がすると…「…じゃあ…『白銀』って呼ぶわ。けど、あくまでも『今は』ですからね。」「ええ~…?外で会った時でも呼んで良いぞ?」「私が困りますッ!!」タケルの態度に戸惑う千鶴今までにいないタイプだった為、頭を抱えていた。「白銀…今日は何の用で来たの…?」「…言い辛いんだけど、委員長と榊首相の関係…あまり良い状態じゃないんだろ…?だから、今日はその改善の為に来たんだ。」「ハァ?白銀に関係無い事じゃない!?」タケルが今日来た理由を告げると、千鶴は呆れたように『アナタに関係無い事よ』と告げるが… 「そうなんだけどさ…人の結婚式の時にさ、ああも念入りに言われたら、しないとマズいっしょ?」「え゛っ?」「最初は会場に入る前だからまだ良いよ?その時は『ウチの千鶴はね、メガネを取ると美少女なんだよ♪』…と自慢話から始まって、『白銀君…君なら千鶴を説得出来ると私の本能が告げているッ!!』…とか、此方の意見無視して話を進めて会場に入って、決定事項にされたり…」「ええッ!?」「結婚式が始まって、スピーチの際にね、最後の最後で釘を打って来たんだよ。『先程の件…頼む。君の手腕に私と愛娘の家族関係がかかってるから、頼むよ♪』…なんて数百人以上人が居る前ではっちゃけたんだよ?」「ご、ゴメンナサイッ!?」「結婚式の終盤では、首相の他に、前・政威大将軍とその他豪華メンバーを加えた五人で、シリアスな顔して腕を組みながら、歌を歌ってるんだよ?しかもスキップしながら…」「…………(ピクピク…)」父のはっちゃけ振りに顔を真っ赤にしながら悶える千鶴…恥ずかしさと、タケルに対して申し訳ない罪悪感に顔を両手で隠しながら『ゴメンナサイ…本ッッ当にゴメンナサイ…!!』と謝罪する。 「…まあ…そんな訳だから、説得をされる事をお勧めする。じゃないと…委員長の今後に不安な未来が待っていると約束する…主に恥ずかしい方向に。」「…………………………………………………………わかったわ」タケルの説得(脅迫?)を聞いて陥落する千鶴…ちなみにこの後、帰ってきた父に激しいスキンシップ(釘バット)を仕掛けたとか… 「さて、落ち着いた所で話をしようか。」「…ハイ」諦めるように話をする千鶴やはり予想通り、父・是親との家族のコミュニケーション不足から、悪化し始めた。その度に寂しい想いをし、だんだん是親との距離が離れてしまい、それに追い討ちをかけるように母が病で倒れ、亡くなったのだった。 「…あの頃を境に父に反発するようになったわ…。父が病に侵された母をもう少し気を使っていれば…仕事なんかよりも、母の看病を見てくれれば…『首相』という仕事がどれだけ大変で重要な役職なのは分かるけど、それでも『家族』を少しでも優先してくれなかった父の気持ちが分からなくて…それからよ…私が徴兵免除を蹴って、父の反対を押し切って、訓練高等学校に通い始めたのは…。」睨むように天井を見つめ、本音を語る千鶴… 「同時に『総理大臣の娘』っていう見方や肩書きにも嫌気をさしたのも、丁度その頃よ。私は『私』と見て欲しくて、『政治の道ではない別の道』を選んだの…」「そっか…」千鶴の気持ちを知るタケル『前の世界』で父が暗殺された際、本音の一部を告白してくれた事を思い出し、結論を出す。 「…別にさ、『気持ちが分かる』なんて偉そうな事は言えないけど…もし、使わせて貰うなら、どちらの気持ちも『少し』分かるんだよな…」「…少し?」「そ、少しだけな。オレんちは元々両親が帝国軍の衛士でな、オヤジは部隊長だから、帰りは遅いし、母さんは毎度帰って来れるけど、任務があると、ヘタしたらひと月程両親に会えない事もあった。」『この世界の白銀武の記憶』を思い出し、語るタケル一方、千鶴もその話を真剣な眼差しで聞く。 「勿論寂しい想いはしたけど、委員長と違って、俺には幼なじみが居たから寂しさを紛らす事が出来た。運良く幼なじみの家が隣だったから、おばさんに面倒見てくれた事も度々あった。だから委員長の気持ちも『少し』分かる。」成る程、それならば確かに私と『少しだけ』同じだ。気持ちも『少しだけ理解する』という事に納得する千鶴 「けど、首相の気持ちも『少し』分かるんだ。さっき結婚式の話もしたけど、それ以前から籍は入れてたし、子供も一人いる。だからオレ、今『父親』という立場も分かるんだよ。」「父親の…立場?」「そ、俺の場合は衛士だから首相みたく激務じゃない。けど、今俺は中隊長という立場だから、中隊を纏めなきゃいけない。そして、それは部下の面倒は勿論、1日の部隊の訓練や様々な書類整理。上司との長々とした会議や色んな任務の遂行…そして…戦場に出れば誰よりも周囲を見渡し、仲間を守り、『全員生還』出来るように戦い抜く…。言葉にすれば簡単だが、それを実行するとなると、どれもが困難な事なんだ。」真剣な眼差しで語るタケルの目を見て、ゴクリと息を呑む千鶴「部下の面倒だって、手は抜けない。冗談言ったりする時ぐらいは構わないが、それ以外の時は真剣に接しなければ、信頼も得られないし、何より部下の為にならない。訓練だって、強くならなければ、大切な仲間達は守る事なんて出来やしない。書類整理だって三枚や五枚程度じゃない酷い時は二十枚も三十枚も有るんだ。時間なんてあっと言う間に過ぎる。」タケルが大尉となり、自分の日頃の作業を教え、それがどれだけ大変かを千鶴に教える。 「大尉のオレでさえ、こんなに忙しいんだ。『内閣総理大臣』という役職を持つ首相の激務なんて、想像も出来ないぐらい忙しいんだろう…。…だからこそ、首相の『板挟み』の気持ちが少しだけわかるんだ。」「板挟みの気持ち…?」「ああ、『親』になるとね、『仕事』と『家族』の板挟みになるんだ。平等なんて、都合の良い事なんて出来る訳がない。」「何故?」「コレがまだ平和な時ならば出来たさ。土木作業や様々な専門職…時間が来れば作業は終わり、家族の下に帰るだけ。けど今この世界はBETAや欲深い人間達との戦乱で、殆どの人間が『戦場』が仕事場になる事になる。衛士には衛士の『戦い』があり、政治家には政治家の『戦い』がある。そして、その『戦い』に勝つ為には『強く』なければならない。でなければ…国や民…そして、自分にとって大切なモノを守る事は出来ないんだ。」今まで体験してきた事を言葉に変えて、タケルなりに伝えようとする。そしてその言葉を聞き逃さないように千鶴も真摯として聞く。 「勿論家族の事も大切だ。親である以上、子を心配する事は当たり前だし、将来の事だって真剣に考えてやらなきゃダメだ。勿論それには夫婦が揃って子供を守らなければならない。…さて、委員長君はもし自分がそんな立場になったら…平等なんて、出来るか…?」「………」タケルの問いに深く考える千鶴… (…確かに…家族を優先にすれば、場合によっては仕事に影響が出るわ…かといって、仕事に優先すれば----)自分のように『家族』に影響が出る---そして、それは『上』に行けば行く程、難しくなる---「…此処まで言えば分かるだろ?榊首相はな、国の為、民の為に『総理大臣』って役職に居るんだ。日本やその民達の未来や責任を背負ってる一人でもあるんだ。国や民を守る為には、全身全霊で『政界』という場所で戦わなければならない。そして、一つでも多く問題点を解決しなければならない。けど、榊首相だって親の一人だ本当は家族の下に毎日帰りたい、家族と接したい。そんな『板挟み』の状態をずっと苦悩しながらも、表情には出さないように『仮面』を被ってるんだ。…じゃなきゃ、あの時榊首相が親バカを発揮した時---悲しそうな表情をする訳が無い。」「えっ…父が…?」驚く千鶴タケルはそのまま話を続ける。 「榊首相が胸ポケットから、手帳サイズのアルバムを出して委員長の写真を見せびらかした時---一瞬だけど、悲しそうな表情をしてたのを覚えてる。…多分あれは『家族』として接する事が出来なかった事に対する『悲しみと後悔』なのかもしれない…。」親バカっ振りを発揮して居た榊首相だったが…写真を見せていた時、一瞬悲しそうな表情を見せていた時の事を娘・千鶴に告げる。 「…どうすれば…良いのよ…?」「榊首相も頑固で素直じゃないみたいだからな…『ゴメン』って謝りづらいんだと思う。だから委員長の方から仕掛けるんだよ。」「どんな風に…?」先程迄みたいな強気な態度ではなく、少し困惑しながら答えを聞くと…「うーん…とりあえず帰ってきたら『お疲れ様』って声をかけて『肩叩き』をしてやれば良いんじゃない?『解決』にはならんだろうけど、『きっかけ』にはなるだろう?まずは第一歩目を目指さなきゃ。」「そ…そうね…。」少し緊張気味になる千鶴なんとなく初々しい姿な為、少し笑うタケル 「それじゃ頑張って委員長あっ、コレ家の電話番号だから、なんか合ったら連絡して。もし基地に居るようだったら、此処に連絡頂戴。」「えっ…ありがとう…。」タケルから家の電話番号と基地の電話番号を書いた紙を受け取る。「それじゃ今日は帰るわ。偶に早く帰らないと、また家族の連中に酷い目に合っちまう。」「何よそれ?」「ウチにはな…怒らせると生命に関わるぐらいコワい奴が居るんだ。もし万が一『どりるみるきぃ』を放たれたら…逝ける。」「逝く!?」ブルブルと震えるタケルを見て『嘘…じゃないの…?』と戸惑う千鶴タケルの頭の中には、テンプシーロールを描く純夏を浮かべた事は間違いない。 その後、玄関先まで見送り、タケルが乗った車が見えなくなるまで見送る千鶴 そして、それから数時間後、父・是親が帰宅し、固い表情をしながらも『お…お疲れ様…』と労いの言葉を入れながら肩を抱く千鶴その事に歓迎する是親は、不器用ながらも『ありがとう』と感謝の言葉を口にする。そして---- 「父さん…随分と…恥ずかしい事したみたいね…?しかも結婚式のスピーチに……ねぇ…?」「ち……千鶴…ッ!?は、話し合おうぢゃないかッ!?」殺ル気満々に殺意のオーラを放ちながら、片手には今し方殴って血が付いた釘バットでO・SHI・O・KIという愛情表現をしている千鶴に対し、産まれたての小鹿のように部屋の隅でガタガタブルブルと震えていた…。「勿論よ、父さん…。さぁ…タッッップリと時間があるから、O・HA・NA・SHI・しようか…?」「ちづ…………ムグッ!?」そのまま是親の頭をアイアンクローを決めながら、ズルズルと是親の部屋まで連れて行く千鶴…後日、秘書が迎えに来た時には既に是親は猟奇殺人並みにフルボッコされ、床には『ゴメンナサイ』とダイイングメッセージを残していたそうな…。