1999年・9月16日仙台・月詠別邸--「タケル、実は赤ちゃんが出来ました♪」「…なんですと?」カチコチと時計の針が鳴り響くのが聞こえる程、月詠邸の居間では静けさが伝わる。晩飯を食べようと、箸を持ち、茶碗を持とうとする所で停止するタケルお茶を飲もうとして、湯呑みを口につけた所で停止する真耶そして、爆弾発言をした沙耶の下に、ニコニコしながらお茶を渡すやちるだけが動く事が出来た。 「…マジで?」「ハイ♪」「…誰かに伝えた?」「いえ、タケルに第一報をと思って、まだ…」「ヨシ、まだ伝えちゃ駄目です。オレの身の安全を確保出来るまでッ!!」「ハァ…」前回の真耶の時にハチャメチャになり、特にタケルが純夏達によって、酷い目にあっていた為、今回は慎重にしようと考えるタケルだが--- 「残念ですが、タケルさん既に手遅れです☆」「「「へっ?」」」「実は既に『皆さん』に伝えちゃいました♪」「「「はっ?」」」突如、やちるが爆弾発言を口にするそして--- 「沙耶ちゃぁぁん!!遂に…遂におめでたになったんですってぇぇっ!?」「お、お母様ッ!!は、恥ずかしいから、お止め下さいッ!!」突如疾風の如く現れた九條家現当主であり、母・九條由佳里その勢いは、止めようと羽交い締めにしていた椿すら、モノともせずに疾走して来た。「タケル君、良くやったわ♪嗚呼…アナタ…遂に沙耶ちゃんが…沙耶ちゃんが…私は…今とても幸せですわ…」「お、お母様ッ!?」故人である夫・九條元泰の遺影を持ちながら、報告をする由佳里そしてタケルには、何故だが、元泰の遺影が清々しい笑顔で親指を立てて『沙耶を頼むよ、タケル君』…と呟いているように見えた。 だがしかし--このハチャメチャなイベントは、これが始まりだった---!! 「「タケルゥゥッ!!また赤ちゃんが出来たってぇぇっ!!」」「早いから、アンタ達ッ!!」前回同様、孝志と政弘がオムツだのオモチャだの紙袋に大量に詰め込み、颯爽と現れる。 「白銀ッ!!赤子の名前を考えてやったぞっ!!」「ワシは女の子の名前を考えたぞ!!」「アンタ等もかっ!!」『とぉーーぅ!!』と雄叫びを放ちがら、月詠邸の屋根から飛び降りて登場する紅蓮大将と神野大将彼等の両手には、紅蓮大将が男子、神野大将が女子の名前が書かれたノート三冊を見せびらかせていた。勿論ノートの全てのページにはびっちりと隙間無く書かれ、ノートの表紙には『紅蓮お爺ちゃんより☆』とか『神野お爺ちゃんより、真心を込めて。』とか書いていたのも目の錯覚と信じたい。「アンタ等気が早過ぎるからっ!!」タケルが懸命に説得するが、椿以外の来訪者全員が『ええ…そんな事ないって…』と呟く。「…やちる…どういう事だ?」「実はお昼頃お買い物の帰りに、沙耶さんが産婦人科から出てきた所を目撃しまして、その際幸せ一杯の笑顔でお腹をさすっていたのを見て、『キタ---(°∀°)---ッ!!』と直感したんです♪その後、ダッシュで家に帰り、皆様方に電話をしまくって連絡しちゃいました☆」「み…みんな…?もしかして…」ゴクリと息を呑むと----「白銀ェェェッ!!!でかしたわっ!!」「やっぱりかぁぁっ!!」ハーレーに跨った香月博士が、何故かジャンプしながら登場する!! 「何故バイクで登場するんですか!?」「いや、なんか最近風になりたい気分になってね…本当は車が良いんだけど、なかなか良いのがなくて…ちなみに、此処に来る途中、鑑を轢き飛ばして星になったわ。」「純夏ァァッ!!」純夏をバイクで跳ね飛ばし星にしたにも関わらす、あっさりとした態度で語る香月博士 「あがぁッ!!」「純夏ッ!!大丈夫か、純夏ッ!!」そして空高くから落下して来た純夏が月詠邸の庭に落下して来たタケルが純夏の下に駆けつける 「ひ…酷いよぉぉ…香月先生ぇぇ…」「あら、鑑…星になるなんて良い特技を持ってるわね…ちなみに、次は『避けてね』」「…『次は気をつけるね』と言って下さい…」自分の不幸さに涙を流す純夏相変わらずの香月博士のセリフにタケルがせめてもの一言を言うが、無駄に終わる。「やれやれ…やはりこうなったか…」いぢくられるタケルを見て、少し呆れ顔になる真耶すると---「----ッ!!」「真耶様…?真耶様!?どうなさいました!?」タケル達がハチャメチャな事をしていると、突如真耶が膝をつき、苦しそうな表情になる。「イカンッ!!遂に陣痛が来たかっ!!」「白銀、真耶を寝室まで運ぶのじゃ!!ワシ等は今から近くに居る産婆に連絡を入れる。」「わかりました!!」「真耶さん、しっかりして!!」先程のはっちゃけぶりから一変し、遂に真耶の陣痛が始まる。神野大将があらかじめ用意していた産婆に連絡を取りに行く間、タケルと純夏で真耶を慎重に寝室まで運び、タケルが真耶の手を握り締める それからしばらくすると、産婆を迎えに行った神野大将がタケル達のいる寝室の襖を開く 「白銀、今産婆を連れて来たぞっ!!」「スミマセン、神野大将」「ささ…此方ですぞ…」産婆を寝室に入れると、二人のオバチャンが入って来るその時、タケルと香月博士の思考が停止する。「ここかい、今にも産まれそうな人が居る部屋は?」「「----ッ!!」」「ホラホラ、こんなに人がいちゃ、邪魔で出来やしない。」(京塚のオバチャン!!)なんと、産婆の一人に『横浜基地の母』である『京塚志津江』が居た事に驚きを隠せないタケルと香月博士当の京塚のオバチャンは、産婆仲間のウメさんと一緒にテキパキと準備をする タケルは、部屋の外で邪魔にならないように座りながら待機し、他の者達は居間で待機していた。「ホラ…白銀、先は長いんだから、これでも飲んで待ってなさい。」「ありがとうございます、先生…」廊下で待機していたタケルの下に、香月博士が自分の分と一緒に茶を持って来る 「けど…まさか京塚さんが現れるとは予想外だったわね…」「産婆まで出来るとは…流石はオバチャンですね…」産婆まで出来る京塚のオバチャンに二人して納得するカチコチと廊下の柱時計のを覗くと、開始から数時間が経っていた…「タケル…茶のおかわりを持って来たぞ。」「ありがとう、冥夜」「御剣、私も貰うわ。」タケルと香月博士の下に純夏・冥夜・真那・椿・沙耶がやってくる冥夜は暖かいお茶を、純夏は数人分の毛布を持って来ていた。「ハイ、タケルちゃん。香月先生も毛布どうぞ。」「ありがとう鑑、頂くわ。」純夏から毛布を貰うが、真耶の事が心配していた為、纏わないタケル其処に真那が近づき、毛布を広げてタケルにかける。「もう夜は遅い、纏った方がいい」「すみません、心配かけて」「気にするな、従姉妹殿の初の出産だ。あと、はっちゃけに来た他の面々も、今は疲れて居間で寝てる。」「ハハハ…まさかこんな事になるとは誰も思ってませんでしたからね…」はっちゃけに来た様々な人達だったが、お産をしていると知り、現在来客した人達は居間や他の部屋で休んでいた。流石に悠陽だけはお泊まり出来ない為、紅蓮・神野大将の二人が帝都城まで送って帰った。 「どう、白銀?『父親』になる心境は?」「……まだ戸惑ってますよ。戦場とは違う緊張感がドクンドクンと高まってますよ。」「そんなモンだと思うわよ。私だって、もし同じ立場なら、外見は見せなくても、内面ではソワソワしてると思うわ。」「ハハハッ♪…けど、オヤジの気持ちが、少しわかった。オレが生まれた時はこんな感じだったんだな。」父・影行の気持ちを少し理解するタケル『父親』という立場に立ち、こんなにも責任と重責を背負う事を初めて体験する。 すると、静かに歩み寄ってくるやちるがタケルに報告する。「タケルさん、影行さんからお電話ですけど…」「オヤジから…?」影行からの電話と知り、数時間ぶりに立ち上がり、移動する。 「モシモシ…」「タケルか?今の現状はどうだ?」「まだやってる…今までずっと部屋の前で待ってた…」「そうか…」未だにお産を続けると知り、タケルの不安を悟る影行「済まんな、本当ならすぐにでも行きたいんだが、まだ本州奪還作戦の途中だからな…」「電話して大丈夫なのか?」「ああ、今ウチの部隊は、京都で防衛で残ってるから、BETAが現れない限り、大丈夫だ。」「そっか、母さんは無事なのか?」「ああ、母さんは今か今かと私のそばでソワソワしてるよ。」影行のそばでタケルと会話をしたくてソワソワする楓受話器を取り上げたい気分なのだが、影行がタケルに『父親としての会話』をする事を知ってる為、我慢していた。 「オヤジの気持ち…少しわかった気がする…」「だろ?出産は決して安全って訳ではない。下手をすれば、母親や子供のどちらかが死ぬ事もある。しかし、出産中は父親は無事に終わるように、ただ祈るしか出来ないからな。」かつて自分が体験した事をタケルに教える影行「だがな、タケル父親としての仕事は、出産してからが本番だ。産まれた子供を成人するまで、様々な問題から親が守らなければならない。父親は一家の大黒柱であり、一家を守る壁だ。妻や子供に支えられながら、一家を守る事が父親の使命であり、宿命だ。そして子供が成人し、幸せな家庭を持った時、『父親としての夢』は叶うんだ。だから、タケル--- 今は胸を張って、誇らしく真耶ちゃんやこれから産まれる子供を迎えてやれば良いんだ。」「オヤジ…」「しっかりしろ、白銀武!!」「…ありがとう…オヤジ…」激を飛ばしてくれる影行に感謝の言葉を送るそしてその後、楓に代わり、あれこれと会話をしてからが受話器を切る。 通話を終えて、再び部屋の前で待つタケルタケルのそばに純夏や冥夜がより、タケルの不安を取り除いてくれる。そして、それから五分後--- 『オギャー!!オギャー!!』「「「!!!!」」」「真耶さんッ!!」赤子の声が高々と響き、全員が反応するそしてタケルはガバッと起き上がり、部屋の中に入ると--- 「待たせたね、元気の良い『男の子』だよ。」「これが…オレの子…?」京塚のオバチャンから、産まれたばかりの赤子を渡され、抱きしめる「ハハハ…すげぇ重いや…体重とかじゃなく…なんというか…凄く重いや…」「それか『命の尊さ』ってモンだよ重くて当たり前だよ。ホラ、早く母親にも赤ちゃん抱かせてあげな。」「そうだった…真耶さん…ハイ…」「ありがとう、タケル」産まれたての赤子を優しく抱く真耶今までの苦痛に耐え、体力も大幅に削られても、愛らしい我が子を見ると、力が溢れるように笑みを浮かべる。 「それで、名前はなんて付けるんだい?」「名前…」京塚のオバチャンに赤子の名前を何かと聴かれ、考えるタケルそして、浮かんできた名前は--- 「『護』…てのはどうかな…?『大切なモノを護れるように』…って意味で」「護…良い名だと思います。」「それじゃ、今日からお前は白銀護だ。」赤子の頬をつつきながら名前を『護』と決めるタケルと真耶それまでの静けさから一変して歓喜の声が高まり、眠っていた者達をも起こし、その中に参加する。この日---タケルは久し振りに心の底から『笑う』事が出来たのであった…。