1999年・8月3日青森県・国連軍三沢基地--「あちぃ~…青森県とはいえ、暑いモンは暑いか…」猛暑日を記録したこの日、タケル達は国連軍・三沢基地に居た。理由は『8月5日』に『明星作戦』が発動し、タケル達突入部隊は、軌道降下部隊に参加し、ハイヴ内に突入する予定だからだ。 横浜ハイヴは海に近い場所にあるとはいえ、それまでに何万ものBETA達を相手にしなければならない。その為、危険性はあるものの、軌道降下部隊に参加し、ハイヴ内に突入した方が燃料や弾数を節約出来るからだ。「だらしないぞ、タケル。『心頭滅却すれば、火もまた涼し』という諺があろうに…」「無理だ、冥夜…暑いモンは暑いのだよ。…大体にして、アスファルトの反射熱で更に暑いんだから、諺云々どころの話ではない。」「まあ……気持ちは分からんでもないが…」タケルと冥夜と沙耶の三人は、現在基地近辺の店で部隊のみんなの水分補給の買い物をしていた。 基地内の売店は既に売り切れ、水道水は暑さでお湯のように生温かくなっていた。(しばらく出せば冷たくなるが、それでも大勢の人で諦めた) その為、手の空いていたタケルと冥夜が買い物に出掛ける事になり、沙耶が名目上、冥夜の護衛として同行した「さてと…水分と氷をクーラーボックスに入れてと……うん?」タケルが荷物をクーラーボックスに入れていると、背中を引っ張られる感触があり、振り向く。 「なん…………なっ!!?」「どうした、タケ……………えっ!?」タケルの反応を見て、冥夜も後ろを振り向く---其処には驚愕する人物が居た。 『……ねぇ…斯衛の衛士…だよね?』「あ、ああ…そうだ…」『…お願いが……ある』「そ、そなたは…?」タケルと冥夜が良く知る人物戸惑いながらも、『初対面』のように対応する。「『彩峰慧』…それが私の名前…」((彩峰!?))一度目・二度目と『207B分隊』で共に苦楽を過ごした仲間・彩峰慧が目の前に居た事に驚く。 「願いって何だ…?」「…私の父さん…彩峰萩閣と、その部下の『沙霧尚哉』を…守って欲しい…。」「彩峰准将と沙霧中尉を?」タケルの言葉にコクリと頷く慧「…今回の『明星作戦』で制圧部隊に父さんと尚哉が参加する事になった…だから…守って欲しい…」不安そうにタケルに頼みを請う慧「なんでオレに頼んだんだ?」「……作戦が近い今時期、斯衛がこの辺をウロウロするの…おかしい。…だとしたら、『明星作戦』に参加する衛士と考えた方が…自然。あとは…勘…?」「何故其処で疑問系になる?」「…………………………………………えっ?」ツッコミを入れるタケルに、更にボケる慧『やっぱり彩峰だ…』と再確認するタケルと冥夜…「私達と彩峰准将とは別々の場所で戦う事になる、それでも頼むのか?」「ウン…頼む…」子犬のような顔をして頼む慧を見て折れる冥夜そしてタケルも慧の頼みとあって、応える。 「わかった。近くに居る前提だけど、もし彩峰准将や沙霧中尉が危なかったら、絶対に助けてやる。」「……ウン、ありがとう…」涙を滲ませながらも、タケルに感謝する慧『…約束だよ』…と慧と指切りして約束するタケル「…お兄さん、名前は…なんていうの…?」「斯衛軍所属の白銀武中尉だよ。『白銀』でも『タケル』でも好きな方で呼んで良いぞ?」「ウン…じゃ…『白銀』…頼むね…。」最後に笑顔で立ち去る慧その姿を消えるまで見ていたタケルと冥夜… 「…負けられぬ理由が増えたな…タケル」「ああ…」大切な仲間の想いを胸に刻みつけ、車に乗って基地へと戻るタケル達… 慧side---「行ったね…」白銀達の車が立ち去ったのを確認する私…何故か胸がドキドキと鼓動が高まる。 「…白銀と…御剣…冥夜…」私は彼等を騙した…最初から、白銀と御剣の事を知っていた… ---けど、会ったのは初めて。二人の事は『もう一人の私』に教えて貰った。……ちょっと違うか…『教えて貰った』ではなく『記憶を受け継いだ』が正しいのか。2ヶ月前---深い夢の中、暗い世界の中で漂う私に『もう一人の私』が現れた。『もう一人の私』は、私より少し成長してた……ウン、なかなかの成長…特に胸が… そして、『もう一人の私』は、私に『記憶』を見せて来た。その光景は---とてもたいせつで---とてもかけがえのないおもいでで---そして---『彩峰慧』が最も愛してた人だった… 白銀武---突然現れた不思議なヤツ。馴れ馴れしく、何かと人懐っこい奴。そして、私や他の仲間を大切にし、悩み苦しんでる私達を助けようと接してくれる。…ホントに人が良い人だ……けど、なんとなくだけど…嬉しい気持ちになる。白銀が作った『ヤキソバパン』…とても美味しそうに食べる私……すごく羨ましい…私も食べてみたい…。戦術機適性検査の『伝統』…あれはキツそう…焼きそばならまだしも……合成竜田揚げ定食の超大盛り……白銀…今度お仕置き…。色んな『記憶』を見てると…他の人達より、白銀だけに注目してしまう私……こんな気持ち…初めて。『もう一人の私』に、この気持ちが『何か』と質問すると…『アンタも白銀の事が好きになった…』………最初は戸惑った。会った事の無い人を『好きになった』と言われては、戸惑うしかない… けど、『記憶を受け継いで』から、2ヶ月間---とても白銀の事を考えてばかりだった…。 そして、『記憶を受け継いで』から、『もう一人の私』から一言--- 『白銀を助けて---そして…『幸せ』にして---』切実な想い…私に此処までさせるとは…興味出て来た。そして、今日---斯衛軍の人が三沢基地に来ていると聞き、会いに行った。 白銀の情報は以前調べてたから、少しわかっていた。…寧ろ、有名人?『一夫多妻制』の件で、少し有名になっていた…ニュースにもなってたしね… 『斯衛軍所属で中尉』という情報はあった。1ヶ月前に父さんや尚哉が帰って来た時に確認した所、間違いなかった…息を切らせて走った…脚が重くなっても、気持ちが前へ…前へ…と走らせてた。遂に足が止まり、息を整えると---お店の駐車場に、白銀が居た…ドキドキした…一歩一歩近づくたんびに、鼓動が高まる…そして、白銀のすぐ後ろに立つと声が出ず、プルプルと手を震わせながら、服を引っ張る--- 少し…話しが出来た…その時に、父さんや尚哉の事を頼めた…勿論、父さん達の件の話は本当のお願い…けど、それ以上に…白銀に逢いたかった…「……おかしい…まだドキドキする…。」既に息は通常に戻ってる…なのに、胸がすごく苦しい…けど、嫌じゃない…。一休みしようと、ベンチに座ると--- 『隣…良いかしら?』「……えっ?」眼鏡を掛けた、綺麗な女性が、私の隣に座って来た…『はい、缶コーヒーだけど、どうぞ。』「…ありがとう」隣に座った女性は、私に缶コーヒーをくれた…とても暖かい印象のある人だ… 「私はね、帝国陸軍の白銀楓中尉よ。実は、貴女にお話があるの…彩峰慧さん。」「……私に?父さんの知り合い…?」「うーん…ちょっと違うわ。確かに彩峰准将の事は知ってるけど、部下では無いわ。面と向かって話も数回程度だから、それ程親しくも無いわ。」「……じゃあ…なんで…?」帝国陸軍の人と聞いた時は、父さんの知り合いかと思ったけど、違った…父さんの知り合いじゃないなら、何故私に接して来たのか……そして、先程名前を名乗った『白銀』とは---? 「貴女…最近不思議な体験をしてるわね?体験した事の無い『記憶』を持っているとか…」「------ッ!!」--何故知ってるの?誰にも教えて無いのに、『記憶』の事を--!? 驚いて表情に出たのか、『ゴメンナサイ、驚かせて』と申し訳なさそうに謝ってくる。 「実はね、国連の香月夕呼博士が、貴女を調べてたのその際に、貴女が『記憶の継承』を持ってるみたいだから、今回私が貴女に会いに来たの。」香月夕呼---確かに『記憶』の中に登場する人物何故あの人が私を調べるの? 「…何故国連の人が帝国軍の貴女に頼むの?」「私は今、香月博士の下に出向してる身なのだから今回香月博士の命で、此処に出向いて貴女に会いに来たの。」なる程…それなら納得…。…なら、もうひとつ質問する… 「『記憶の継承』って何…?他にも同じ人居るの…?」「ええっと…私も詳しく知ってる訳じゃないけど…『記憶の継承』って言うのは、別の並行世界の自分の記憶が流出して来る事、もしくは『何か』の力が働いて、その記憶を受け継ぐ事を言うらしいわ…」…なる程…確かに、私の『記憶を受け継いだ』事と同じようだ… けど---どうやって私が『記憶を受け継いだ』事を知ったの?それについて質問すると、『ゴメンナサイ、機密だから喋れないわ』と申し訳なさそうに謝ってくる。 「それで本題なんだけど…貴女…国連軍に入る気無いかしら?」「…………えっ?」「勿論陸軍学校に通ってるみたいだから、卒業してからの話だけど…どう?」女性の申し出に少し考える……けど…そんな事をしたら--- 「もし、タケルの事を考えてるなら、大丈夫よ。貴女が国連軍に入隊する頃には、タケルも一時的に国連軍に出向するわ。」「それ…どういう事…?」まるで人の心を読んでたように、白銀の名前を出す女性… 「やる事があるのそれは国連軍、香月博士の下でないと出来ない事らしいわ…だから、タケルは国連軍に出向するの」白銀がやる事の為に、国連軍に出向する---ならば…私のやる事はひとつ「…いいよ…国連軍に入ってあげる……けど、条件付き。」「条件?」「白銀が…斯衛軍に戻る時…私も一緒に斯衛軍に入れる事……それが無理なら、入らない。」その提案にポカンと唖然としてる女性…そして…その後にクスクスと笑い出す。 「ゴメンナサイ…フフッ…どんな条件を出すかと思ったら…やっぱり貴女もタケルの事好きなのね。」「……………悪い?」「そんな事は無いわ。気を悪くしたら、ゴメンナサイ」…むう…少し酷い…真剣な事なのに、笑うなんて… ……けど、不思議と憎めない… 「だって、どうするの博士?」「フフッ…別に良いわよ。それにしても…一度しか逢ってないのにも関わらず、此処まで彩峰を動かすとは…流石は恋愛原子核ね~♪」すると、後ろの茂みからニヤニヤしながら現れる香月夕呼博士と…苦笑いしてる男性が現れて来た… 「久し振り…が正しいのかしら?とりあえず彩峰、貴女の条件は受けてあげる。けど、それなりの働きをしないと条件に呑めないから、先に言っておくわよ?」「大丈夫…役に立つ」「ならいいわ。とりあえず彩峰、今日はちょっとついて来て貰えるかしら?」「…何するの?」「『記憶の継承』を持ってる状態で、戦術機をどこまで操れるか…とか…今後の打ち合わせとか、そんなモノよ。二時間ぐらいで終わるから安心なさい。……場合によっては、白銀に会わせてあげても良いわよ?」「行く!!」白銀に会えるなら行く…そう返答すると、またクスクスと笑う三人… そして、三人が乗って来てた車に乗り、とある質問をする… 「……そういえば…白銀楓って言ったけど…白銀とはどんな関係?」「私?私はタケルの母親よ?ちなみに、この人は白銀影行って言って、私の夫であり、タケルの父親よ。」「…………………………………………………えっ?」嘘……母親には見えなかった… 父親の方は、わからんでもないけど…この女性の方は母親には見えなかった。最初は白銀の『奥さん』かと思った…。それぐらい、この女性の外見が若々しいからだこの事を話すと、車内で爆笑する香月夕呼と父親。母親の方は、嬉しいやら複雑な気持ちやらで戸惑う姿を見せてた。こうして、私は三人と一緒に三沢基地に向かって行った。目標は---白銀の居る場所に辿り着く事。待ってて…白銀…必ず行くから--- 慧side end---あとがき---遂に出しました。2人目の207B分隊のメンバー・彩峰慧の初登場です。『遅いよ、出すの!!』という意見の皆さん…スミマセンでした。けど207B分隊のメンバーの登場は慎重に考えてました。 当初、この話は彩峰の他、委員長(榊千鶴)も登場する予定でした。設定はループキャラしかも、冥夜・夕呼とは違い、『二度目の世界の鑑純夏』の力で三度目の世界に飛ばされたという設定ループした時期も『本土侵攻戦』で避難した頃でした。 けど…『あんまりループキャラ出すの…都合良過ぎじゃね?』と途中で書くのを止めて、考えた末、ボツにしました。もしかしたら、『記憶の継承』キャラが一人二人程度でるかも知れませんが、ご了承下さい。騎士王のマブラヴ小説を読んで頂き、ありがとうごさいます。