1999年・7月15日第二帝都・シミュレータールーム「お疲れ様~駿、さっきは惜しかったな。」「うぅ…もう少しだったのに…」シミュレーター訓練を終えて、流れ落ちる汗をタオルで拭くタケル一方、しょぼーんと落ち込む駿、最後の最後で撃墜されてしまい、表情を暗くする。『明星作戦』に備えて、訓練が最終段階に入った。『明星作戦』では、突入部隊は『反応炉破壊』ではなく、『反応炉確保』をしなければならない。幾らフェイズ2とはいえ、其処には数万単位のBETAが居る事は間違い無い。『確保』するという事は、少なくとも、BETA達を全滅する事。もしくは、BETA達を『退散』させるしかない。しかし、『退散』は反応炉を破壊した場合のみ反応炉が健在な限り、BETA達は戦い続ける。そこで、今回の作戦は反応炉に『ある装置』を取り付けて、強制的に『停止状態』にする事で、BETA達を横浜ハイヴから撤退させ、その隙にハイヴ制圧と残存BETAを殲滅する事にしたのだ。先程のシミュレーターでは、とりあえず作戦は成功したが、戦力を半分程失う結果になった。理由は、やはり普通の突入部隊とは違い、装置を運ぶ部隊を護衛しながらの突入な為、通常以外に難易度が上がっていたのだ。『桜花作戦』時のようなコンテナを2小隊分運ぶ為、その部隊は武器があまり装備してない為、自分を守る時以外は戦闘は出来ない。その『2小隊分』の戦力不足で、結果苦戦に繋がったのだ。先程の駿もそれが原因反応炉近くで、要撃級・戦車級の『偽装横坑』スリーパードリフトで、コンテナ部隊が奇襲にあい、その救出の際にやられたのだ。(やっぱり桜花作戦とは違い、凄乃皇が無いから、装置を運ぶのが大変だな…)そう…下手に装置を使えない為、S11の爆発の衝撃波で故障する危険性もある故に、運搬の際は気をつけねばならない。それ故に突入部隊のスピードは落ちる事になり、それが原因で、BETAとの戦闘も増えるのだ。 (けど…一番の問題は…米軍だよな…突入してる最中に『G弾』を撃たれたら、俺達全員がオダブツになっちまう。)----そう、問題は米国のG弾これ次第では、作戦が台無しにもなり、尚且つ『明星作戦』に参加してる衛士達の命が大勢失う結果になるのだ。 突入してからG弾を撃たれたら、最期。みんな仲良く蒸発する結果になる。 かといって、G弾を先に撃たれてからでは遅いのだ。(あとで先生に聞いてみるか…)「タケルさん…どうしたんですか?」「ん?ああ…少し考え事。気にしないでくれ」「ハイ…」心配する駿に謝るタケル。ドリンクをちゅーちゅー飲みながら歩いていると、キョロキョロしている純夏・美冴・唯依・クリスカ・イーニァ・まりか・佳織の7人が居た。 「…おっかしいな~…確かこの辺に置いといた記憶があるんだけどなぁ…」「うーん…見当たらないねぇ~…」「聞いてみるしか無いな…」「……何してるんだ、お前達…」純夏達に声をかけるタケル。すると純夏のアホ毛がピキーンと反応しながら、『タケルちゃ~~ん』と涙目になりながら、近寄る。「タケルちゃん…ピンク色のタオル見なかった?」「コレだろ?タオルの端っこに名前書いてたから、預かってたぞ。」「あ~り~が~と~(泣)これで神宮司軍曹に怒られずに済むよ~…」涙を流しながら感謝する純夏物を無くして、まりもにお仕置きを喰らう事を恐れていた。 「……………純夏…残念だが…このタオルを見つけたのは…………まりもちゃんだ。」「……………………………………………へっ?」カキンッと硬直する純夏…そして… 「鑑…貴様…忘れ物をするとは、随分と気が弛んで余裕だな…」そして、純夏の背後には、ステキな笑みでドスを効かした声で近寄るまりもそしてプルプルと震える純夏は、涙を滝のように流し、『終わった…終わったよ…』と心の中で呟く。 「軍曹…強化装備を着ているという事は…先程のシミュレーター訓練に参加してたのですか?」純夏を救おうと、話題を変える唯依唯依の質問に対して答えるまりも「そうだ、近々とある作戦に参加する事になってなその為、訓練に参加してたのだ。」「とある作戦ですか…何故軍曹が…?」「真耶さんが妊娠したろ?だから、代わりとして神宮司軍曹が参加する事になったんだ。以前も言ったが、神宮司軍曹は、衛士としても優秀な人だ。それこそ大尉や少佐クラスの実力を持つ神宮司軍曹ならば、問題は無いと先生や紅蓮大将達が判断したんだ。」「ちょ…白銀中尉ッ!?」ベタ誉めのタケルのセリフに真っ赤になりながら慌てるまりも 「けど、確かに神宮司軍曹の実力は凄いですよ。前に模擬戦で、月詠中尉と戦った時なんて、互角の勝負をしてたじゃないですか。」「それに、伊隅大尉や沙耶さんも撃破してるし、やっぱり、優秀な事には違い無いですよ。」「そ、そんな…」タケル・駿の二人にベタ誉めされて、照れてるまりも純夏達から尊敬の眼差しを受けて、そそくさと退散する。 結果、純夏のお仕置きは免れる形になり、『良かったぁ~…』と喜ぶ純夏「ところで、白銀中尉…先程の『作戦』とは…?」美冴が『作戦』の事をタケルに質問すると---真剣な眼差しで答える。 「そだな…教えても良いって、先生からも言われてるし…大丈夫か。」そして---純夏達に告白する。 「8月5日---この日に大規模な作戦が決行される事が決まった。作戦名は『明星作戦』作戦内容は---横浜ハイヴ攻略及び本州島奪還その作戦に俺や神宮司軍曹が参加する事になった。」「-----えっ?」タケルの言葉を聞いて、思考が停止し、驚愕する純夏唯依達も、タケルの一言で言葉を失う。「タケルちゃん……その話……本当なの…?」「こんな嘘ついてどうする…マジで本当の話だ。」「----ッ!!」流石に不安そうな表情を隠せず、暗い顔をする純夏を見てタケルは--- 「タケ…イタタタッ!?」「お前…俺がやられる事を考えただろ~(怒)」純夏の両側のこめがみに、グリグリと拳を捻り込むタケルその姿を見て、重苦しい空気が飛んでしまい、ポカーンと唖然とする唯依達。 「痛いよタケルちゃ~ん…」「当たり前だ、痛いようにしたんだからな。」「ひ~ど~い~よ~!!」いつものような雰囲気になり、アハハッと周りから笑い声が出て来る。「---純夏俺はそんなに弱い奴か?」「えっ…タケルちゃん…?」「確かに俺は、まだまだ未熟者だ。けど、BETA如きにやられるつもりは無い。」先程の様子とは違い、真剣な眼差しで、純夏に問うタケル 「俺にはまだやる事が沢山ある。衛士として、軍人として、そして---白銀武としての『生きる理由』が沢山あるんだ。それを果たすまでは死ねない---いや、死ぬ事すら許されない。」そばに居た唯依達すら、ゴクリと息を呑み、タケルの『覚悟』を背負った姿を見る。 「俺のこの手…この背中には…沢山の責任と運命や『命』を背負ってるんだ。今、ここで死ねば、沢山の人達の命や『幸せ』が簡単に無くなってしまうんだ。衛士になれば、その命は自分だけの命『だけ』にはならないんだ…」思い出す記憶と後悔と無念…大切な人達の命を守る事が出来なかった--- 尊敬する人達の幸せや命を守れなかった--- 自分を愛してた人達を守れなかった--- そして…愛してた人を、幸せに出来ず、守れなかった---もう…二度とあのような『未来』を迎えないと誓い、今度こそみんなを守り抜くと誓った。「軍に入って、色んな出逢いや出来事があった…戸惑いこそあったけど、『楽しい』と感じた日々だった…」決意が籠もった眼をしたタケルの姿を見て、魅とれる純夏達---「だからこそ『死ねない』だからこそ…『死ぬ事が許されない』んだ…唯一、死ぬ事が許されるとしたら、それは…目的を果たし、大切な人達の幸せや命を守り抜き…天寿を全うした時だ。」タケルの決意の言葉を聞いて、先程までの不安が殆ど無くなる。むしろ、不安そうな表情をしてはならないと、やせ我慢しながらも、強がる純夏「まあ、こんな俺の言う事を信じてくれるかは、しらんけど---」ポンと純夏の頭に優しく手のひらを乗せ--- 「---俺が必ずお前を守り抜いてやるよ。」「----ッ!!?」ある意味告白にも似たタケルのセリフに真っ赤になり、あうあう…と戸惑う純夏周りのみんなからは、黄色い声援と『いいなぁ…スミカ…』と、小さく呟くクリスカの声が上がる。「それにみんなが居るから大丈夫だよ。俺は一人じゃない、みんなが居るから『強く』なれるんだ。」ポンポンと優しく純夏の頭を叩くタケルそのまま『反省会あるから、行くわ』と言って駿と共に立ち去る。その背中は---おおきくて---ひろくて---すこし、さみしそうな背中だった…「………初めて見たな…あのような姿の白銀中尉の姿は…」寂しそうな表情になる美冴普段なら、笑顔でクールな表情の美冴も、タケルの言葉の『重さ』を感じ、立ち去る後ろ姿を見て、暗い表情になる。 「………」唯依は、以前タケルが京都で言ってた言葉を思い出す。『例え---オリジナルハイヴを攻略に成功しても---大切な人達や愛する人を失えば--意味が無いんですよ、俺は…。』そしてその後、叔父・巌谷榮二中佐が口にした言葉--- 『オリジナルハイヴの話云々は例えだろうが---『大切な人達を失う』というのは事実なのだろう…』(白銀中尉は一体…どれだけの悲しみを体験したのだ…)悲痛な言葉すら失う程、タケルの背中は寂しそうに見えた唯依そして、以前タケルに感じていた印象も今は無く、現在は『尊敬出来る人・どこか寂しそうな人』と印象を改めていた。タケルの後ろ姿が見えなくなるまで、全員が見続け、姿が見えなくなると、沈黙しながら…その場で立っていた。全員が、様々な想いや考えをしていると… 「アンタ達何やってるの、こんな所で?」すると、純夏達の前に香月博士が現れる。「香月先生…」「実は…」純夏と唯依が香月博士に訳を話す。そして、理由を知った香月博士は『なるほどね…』と理解する。 「一応白銀の軍歴は機密になってるから、喋れないけれど…これだけは言えるわ---アイツは、色んな絶望や悲しみを体験して来たわ。一度逃げ出した事もあったけど、それでもアイツは『覚悟』を背負って戻って来た。そして、衛士としては最強クラスかもしれないけど、中身は『臆病』なのよ…」香月博士の言葉に衝撃を受け、ゴクリと息を呑みながら話の続きを聞く。 「だからアイツは『強く』なろうと全身全霊で頑張ってるの。普段、ふざけた場面も見せたりするけど、アイツはアイツなりに懸命に『前』に進んでるの。知ってる?アイツ『明星作戦』が決まってから、周4日ぐらいのペースで、出来る限り夜遅くまで一人でシミュレーター訓練してる事を?」「「「えっ!?」」」「アイツだってね、最初っから強い訳じゃないわ。躓いて転んで、壁や絶望に何度もぶつかり、諦めかけたけど、アイツは諦める事なく、前に進んだわ。---だからこそアイツは強いのよ色んなモノを背負って、色んなモノを体験した事で、初めて『強く』なれたのよ…」香月博士の言葉を聞いて、少しだけ『白銀武』を知る唯依達純夏もタケルがそのような体験をした事を初めて知り、ギュッと手のひらを握り締める。 「白銀を支えたいなら、強くなりなさい。衛士としても…軍人としても…人としても強くなりなさい。それこそがアイツを救う手段だと私は思うわ。---現に…速瀬は知ってるわね?アイツも白銀を支えようと…白銀と同じ位置に立てるように…と懸命に前に進んでるわ。」「速瀬少尉が?」水月の名前に反応する美冴その様子を見て、笑みを浮かべながら説明する香月博士「アイツ、白銀の事を尊敬してるのよ。衛士として、『超えるべき壁』として何度も挑んでるわそしてこの間、白銀に『あるセリフ』を言われて、一層訓練に打ち込む事になったわ。」「『あるセリフ』とは…?」「『お前なら、オレを超える事が出来る。それぐらい、お前は凄い奴なんだから…---早くオレを超えてくれ。』…だってさ…それ以来、速瀬の奴やる気満々になって、白銀と同じように、遅くまで訓練に打ち込む事になったわ。」「そうですか…。」少し水月を羨ましく思う美冴自分達は、そんな言葉すら言って貰えない事に悔しく思う唯依「香月先生…私…強くなりたい。…ううん、私…絶対に強くなりますっ!!」強い決意と想いで、先程までの暗い表情を吹っ飛ばす純夏その強い眼を見て香月博士は---「良い顔よ、鑑。フフッ…クリスカ、私の研究室から『アレ』持って来て貰うかしら?」「まさか---!!!」「そうよ…研究中の『アレ』よ今の鑑なら大丈夫よ。」「…わかりました。」戸惑いながらも、香月博士に言われた通りに『アレ』とやらを取りに行くクリスカそして、しばらくして、クリスカが抱えて持って来たモノは---「香月先生…『コレ』って何ですか…?」恐る恐る質問する純夏…すると--- 「アンタ専用の『零型特殊強化装備』よ。コレはまだ開発中の段階だけど、コレが完成すれば…間違い無くアンタは白銀の支えになる事が出来るわ。」赤い強化装備の『零型特殊強化装備』を受け取る純夏そしてコレこそが---『00ユニットになる強化装備』だった…