「只今帰ったぞ」「お帰りなさい、叔父……誰ですか?」巌谷中佐の声を聞いて、パタパタと玄関まで迎える唯依だが、タケルの存在に唖然とする。「さあ、遠慮しないで上がりたまえ…最も、妹の家だが。」「お…オジャマシマス…」強制的に連れてこられて、既に諦めモードに入るタケル。申し訳なさそうに、上がっていく。 「……お茶です」「……本当にスミマセンでした…」せっかくの休暇を取って、巌谷中佐とゆっくりしようとした唯依だったが、タケルが来日した為、不機嫌になる。「せっかくの休暇の邪魔をしてしまって…本当に済みませんでした。」「……もういいです。」タケルに悪気が無い事を理解し、タケルを許す唯依だが、違う理由でタケルの印象を悪く見る (斯衛軍の中尉みたいだけど…軍人『らしくない』わ…)ペコペコと謝るタケルを見て、『軍人らしき威厳』を感じず、少し不快感を持つすると、着替えた巌谷中佐がタケル達の居る居間にやってくる。 「強引に連れて来て済まなかったね、白銀中尉。」「いっ、いえ…」「食事の件もそうだが、色々『話』がしたくてね…」「話?」「ウム」興味津々にタケルをマジマジと観察する巌谷中佐時折鋭い視線を向けるが、怯む事無く、巌谷中佐の顔を見る。 「マジマジと見て済まないね。色々と興味が有ったので、観察したのだ」「興味…ですか?」「ウム。君は齢18でありながら、あの凄まじい戦術機の機動技術を持ち、尚且つ我々の想像を覆すモノを作り出した。日本にとって、この上無い『起爆剤』となる存在で、喜ばしい限りだ。」「オレが…起爆剤…ですか?」「そうだ。もし、君が戦場で活躍すれば、君の名は有名になるだろう。戦術機に改革とも言える新OS・XM3を提案し、全ての衛士達の命を何時間…数日間…と生き延びさせる事の出来るモノを誕生させた。そして君のあの凄まじい機動技術でBETAを粉砕していけば、噂は広まり、斯衛軍・帝国軍の起爆剤となり、若者達に火が点き、互いに腕を上げていくだろう。」「そうなりますかね…?」巌谷中佐の話を聞いてもまだ実感の湧かないタケル。しかし、巌谷中佐のこの話は、『本心』で語り、そう思っていたのだ。「その事に関しては、私や斉御司大佐が保証しよう。斉御司大佐も君の成長を喜んでいたよ」「斉御司大佐が…」意外な人物の名を聞いて驚くタケルしかし、巌谷中佐の話はまだ続く。 「実は、私は君のような存在を待っていたのだよ。」「お、オレみたいな奴を…?」「ウム、現在…帝国軍及び斯衛軍は、厳しい上下関係や規律で、思考などが固いのだ。日本製のパーツはまだ世界から見れば、まだレベルは低い。外国製のモノを積極に使えば、現に不知火や瑞鶴の問題点も解消されたかもしれないにも関わらず、上の連中は『純国産品』にこだわり、変なプライドを持ったりする…もし、そんな差別や固い思考などが無くなれば…救われた命が有ったのでは…?そして、新たな可能性が有ったのでは…そう思う事が良くあるのだ…」「成る程…」巌谷中佐の言いたい事を理解するタケル。現に、不知火の問題を電力消費の少ない米国産パーツを使い、そして跳躍ユニットをジネラルエレクトロニクス製に変え、推進剤タンクと戦術機の巨大化する事で、問題点を解消し、後に『type-04不知火・弐型』が正式に撃震の後を継ぐ、次期主力戦術機に採用されたと以前香月博士が言っていた事を思い出す「だがキミは、そんな固っくるしい現実を粉砕するかの如く現れた。キミの柔軟な考え…そして、キミのその接し方に、今帝国や斯衛は変わろとしているのだ。」「お、オレ?」呆然とするタケルに首を縦に頷く巌谷中佐。 「全く…キミは軍人らしくないだが、そのお陰で周りに良い方向に変化していく。」「ぐ、軍人らしくないって…」しょぼーん…とするタケルに『私も同意見です』と追い討ちを入れる唯依。タケルのライフポイントはゴリゴリと削られてた。「白銀中尉…キミは上官や殿下に忠誠を持ってないだろ?」「えっ!?」流石にこの事に関しては驚愕する唯依。しかし、意外にもタケルは苦笑いしながら答える。 「ハハハッ…バレました?」「勿論、ただ、君の場合は『忠誠心』の代わりに『仲間意識』が非常に高く見えたのだが…?」「ハイ、オレの場合、帝国や斯衛より『国連軍寄り』な人間ですから、どうしても『忠誠心』とかって持ってないんですよ。けど、一度でも同じ部隊内になれば、大切な仲間ですから、命がけで守りたいんですオレにとって、同じ部隊内の仲間は、『家族』みたいな大切な存在なんです。」素直な気持ちで答えるタケルに驚く唯依巌谷中佐も『ほほぅ…』と唸る。「キミにとって、『戦う理由』は何かね…?」「最初は『元の場所に帰る事』でした。そのうち、仲間達と出会い、『人類の勝利』なんて言ってた時も有りました。」「それで…今は…?」再びタケルに問う巌谷中佐。「----大切な人達を守りたい…。自分にとって『かけがえのない人達を守り抜く』事が、今オレが見つけた戦う理由です今のオレにとって、『全人類の命』より『大切な人達の命』の方が大切なんです。」「----ッ!?」タケルの戦う理由を聞いて驚愕し、絶句する唯依。軍人を目指す唯依にとって、『全人類』より『大切な人達の命』を取ったタケルの一言に信じられなかった。「人一人では全人類を守る事は出来ません…どんなにオレが凄い衛士だろうと、救える命には限りがあります…。ですから、『そばに居る大切な人達』を守る事が---より大勢の命を救う事に繋がると信じてます。」「成る程…」タケルの答えにそれ以上問わないでいた巌谷中佐。ただ、そばに居た唯依は納得出来ず、タケルに質問する。 「お話の途中、口を挟んで済みませんが、何故『全人類』より『大切な人達』なのでしようか…?」その問いに対し、タケルは--- 「そうですね…例えば唯依さんが『オリジナルハイヴ』に突入作戦に参加したとします。作戦は成功、人類に多大なる希望を繋ぐ事が出来たとします。…しかし、その際に『愛する人』や自分にとって『かけがえのない仲間達』を失ったとしたら…貴女にとって、『納得の出来る結果』になるのでしょうか…?」「----ッ!!」タケルの言っていた意味を今、理解した唯依。そして、その際答えてたタケルの表情を見て悟る巌谷中佐。「自分は…弱い人間です。そんな結果は…納得出来ないし、満足出来ないんです。今、斯衛に入って、かけがえのない人達に出会いました。そんな人達を失って世界を救っても…オレは----納得出来ないんです。」「そうか…」巌谷中佐も、タケルの戦う理由を知り、これ以上は聴くまいと、この話を終わらせる。そして、時刻は夕方頃に周り、すっかり会話が先程とは違う方向に持ってかれ、賑わうタケル達。 その中でも『恋愛原子核』や殿下や香月博士の暴走話に会話が弾み、爆笑する巌谷中佐。その話を聞きながら料理を作っていた唯依は呆れていた。「巌谷中佐…オレ、どうすればマトモな人生を歩めるんでしょう…」「ハッハッハッ!!良いではないかっ!!このような愉快な波瀾万丈な人生、なかなか体験出来ないぞ?」「巌谷中佐…代わって下さい。」「断る!!私はまだ死にたくはないからねっ!!」「んがっ!!」真面目に相談した筈が、爆笑ネタになってしまい、る~る~…と悲しむタケル。 『お二方、食事の準備が出来ましたよ。』「おおっ!!!待ってました!!」「頂きます」台所から、巌谷中佐の妹が現れ、唯依と一緒に料理を運んでくる「おっ、美味しい!!」「だろう?妹や唯依ちゃんの料理は絶品でな、此処に居る時の楽しみのひとつなのだよ」「成る程~…それじゃあ、娘さんをお嫁に行かせづらいのでは?」「し、白銀中尉ッ!?」タケルの一言に敏感に反応する唯依だが… 「そんな事は無いさ。確かに、唯依ちゃんの手料理を手放すのは惜しいが…唯依ちゃんの花嫁衣装を見たり、産んだ赤ちゃんの名前を考えたり孫から『おじいちゃん♪』と可愛らしい表情で呼ばれる事を待ち望んでるぐらい期待してるのだよッ!!」「おっ、叔父様ァァァッ!!」巌谷中佐の発言に涙を流す程、恥ずかしい思いをする唯依タケルも『この人…根本的にタマパパと同じだ…』と親バカッ振りを悟る。しかし、タケルと唯依はまだ知らない…この時既にタマパパと同じく『孫イベント』のフラグを立ててしまった事に…「ご馳走様でした。今日は誘って頂きありがとうございます。」「ウム、また来たまえ。」食事を終えて、月詠邸に帰る事にしたタケル。玄関までタケルを見送る巌谷中佐や唯依に別れを告げ、帰っていく。 「…どうかね、唯依ちゃん。彼の印象は?」「最初は余り良い印象では有りませんでした…けど、あの話を聞いた後、少し変わりました」帰ったタケルの印象を唯依に訪ねると、辛口な返答が返ってきた。「…先程のオリジナルハイヴの例え…恐らく、あの話は『実話』なのだろう…」「えっ…?」巌谷中佐の言葉にピクリと反応する唯依 「勿論オリジナルハイヴ云々はあくまでも『例え』だろうが…少なくとも『大切なん人達を失う』という所は…実話なのだろう…あの時の彼の表情…深い悲しみに満ちていた表情だったよ…」「…………」「彼の戦う理由云々に文句は付けない…だが、これから先、彼を救い『幸せ』に出来る者が現れなければ…彼は救われる事は無いだろう」「そんな…」「あのような歳で…過酷な人生を歩んだのだな…彼は…」今は居ないタケルを思って、複雑な心境になる巌谷中佐…(私は中尉の心の傷を抉ったのかもしれない---)唯依もタケルの事を少し知り、先程の自分に反省をする。(今度、中尉に謝らなければ…)タケルの存在を少し気になる唯依だった…「やべ…少し遅くなったな…」速歩きで帰宅するタケル空が暗くなり、急いで帰宅する。 「彼処を曲がれば…ぬおっ!?」『うわっ!?』交差点を曲がると、突然人とぶつかる 「す、スミマセンでした、急いでたも…の……えっ?」『此方こそ申し訳有りませ……えっ?』お互いにぶつかった事に謝罪するが、お互いの姿を見ると、沈黙する そして、最初に沈黙を破ったのは--- 『タケ…ル…?』少し幼い姿をしていた『御剣冥夜』だった…