「ようこそ、ドーバー基地へ」アイヒベルガー少佐を先頭に、ツェルベルス大隊が並んで敬礼する。彼等の前には-----「帝国陸軍第7戦術機甲大隊・大隊長の白銀影之少佐です。」「同じく帝国陸軍第7戦術機甲大隊の白銀楓大尉です。」白銀夫婦がビシッと敬礼し、自己紹介をする。そして-----「国連太平洋方面第11軍横浜基地所属の『前島みちる』大尉です。」「同じく国連太平洋方面第11軍横浜基地所属の白銀純夏少尉ですっ!!」…ヤッパリというか…欧州の地にやってきた純夏その純夏の護衛にみちるが同行する。そしてみちるもつい最近、やっと正樹と婚姻出来た為(まりかも)、『前島』の名前を名乗る事に喜びを感じていた。表情には出さないが、内心幸せタップリほわわん…と喜んでいた。その様子をわかる者は……ツェルベルス大隊の後ろで、正樹達と並んで敬礼していたまりかだけだった…。「あ、あの……タケルは…白銀武大尉は…?」やっぱり『母親』の楓が心配そうにタケルの様子を質問する。「シロガネ大尉ならば、現在治療の為医務室に居ます。ご安心ください、治療と言っても頭部の傷の治療と軽いリハビリを行っているだけです。」アイヒベルガー少佐の説明を聞いて、深い溜め息を吐き出し、安堵する楓影之も肩の荷が降り、安堵の表情を見せる。そして純夏も安心はするが、やはりタケルに会いたい気持ちが強い為、ウズウズする。「では、案内致します。こちらです、ついて来て下さい。」ジークリンデ中尉が影之達を医務室まで案内する。カツカツと足音を響かせる一同。無言で歩いてる為か、足音だけが響く。「ところで、スミカ少尉はもしかしてシロガネ大尉の…?」無言の沈黙を破ったのは、ジークリンデ中尉少し重苦しい空気を無くす為に、あえて純夏に声をかける。「あ、ハイ…その…タケルちゃんの…「奥さんだと?」……ハイ。」顔を真っ赤にし、モジモジとしながら答えるそんな姿を見てか、影之や楓の表情に笑みが少し浮かべる。「そんなに照れなくて良いのよ、スミカ少尉。」「そうなんですけど……ヤッパリまだ馴れてないっていうか…。」「まぁ、その件に関しては時間が経てば解決するわ。最初はやっぱり初々しかったりするものよ。」モジモジする純夏にフォローを入れるジークリンデ中尉楓も会話に参加して、経験談を語る。そんな姿を第三者視点で見ていた影之は、『ヤレヤレ…』と苦笑いをしながら呟く。しかし、ジークリンデ中尉のおかけで空気が軽くなり、内心では感謝していた。「つきました。コチラの部屋になります。」「ありがとうございます、ジークリンデ中尉」医務室に到着し、影之が医務室のドアをノックしてから開けると---「失礼しま………はっ?」影之が見た光景は------「タケル、今度はリンゴだぞ、ア~ン」「ボクはオレンジだよ、ア~ン♪」「わ、私はイチゴです、ア~ン」「もう、そんなに食べさせたら、喉が詰まるでしょ?…ホラ、タケル水よ。」「わ、私は…別に…。ホラ、口元が汚れてるわよ?」------何?この幸せ空間は?影之が見た光景は、タケルの介護に我先にと乙女達が奮闘する光景だった。冥夜・美琴・美姫によるア~ン攻撃と、まりもの水分補給千鶴もツンデレ発動しながらも、口元をタオルで拭いたりと世話をする。勿論他の者達も隙あれば、あれこれと世話をしていた。そして当のタケルは………窒息寸前で顔色が真っ青になっていた。「アッハッハッハッハッ♪ヒー…ヒー…腹が痛くて…息が出来ないや…。」そして第三者視点で見ていた結城が、腹を抱えながら爆笑していた。…勿論ビデオカメラで撮影は忘れない。----------------「----アナタ達、反省はしたかしら?」「「「「ハイ、スミマセンでした。」」」」楓の前で正座させられる嫁達&候補の乙女達。その中には純夏も入ってたりする。理由は簡単。ラヴリーな空間を見て、怒りゲージMAXになった純夏が『ぱんち』を放ち、タケルが欧州の大空を飛びだってしまったからだ。勿論その事も原因だが、それ以前にタケルが窒息寸前まで追い込まれてた事も説教の原因だ。タケル?タケルは------「へぶらっ!?」只今着地(落下)したようだ。その様子を初めて見たジークリンデ中尉は『…日本の乙女はあんなパンチを放てるの…?』…などと勘違いをさせてしまう。…しかし、まぁ…確かにそういった事が出来る者が多々いるから、そう思われても仕方ないのだが…。「…まったく、話を聞いた時は心臓が止まったかと思ったぞ…。」「ゴメン…オヤジ」そしてタケルと影之は今回の事の会話をする。影之も理解はしてるが、『父親』として、『息子』であるタケルの行動に怒りを抑えつつ、接していた。「確かに突然発生した任務だから今回の事は理解してる。衛士としてならば、その行動も結果による代償も当然考えられる可能性だ…仕方ない。----しかし、『父親』としては、今回の件はどんな理由があっても、そう簡単には『ハイそうですか』と納得出来る事ではないのだぞ?」「…ゴメン」「自分の命より大切な1人息子が死にそうになったんだぞ?お前だって、護や春夏が同じような事になったらどう思う?」影之の静かな怒りと不安を言葉として伝え、タケルの心に響かせる。楓も今回の影之の姿を見て、参加する事すら出来ない程、影之は怒り---タケルの無事を安堵していた。「だからタケル…今以上に強くなれ…皆に心配をかける事が無いぐらいに強くなるんだ。」「ああ…わかった。」この二人の間に割って入る者は、誰一人いない…。そう-----よっぽど『空気を読めない奴』以外は----「ああ~…ゴメンねぇ。親子の会話に割らせてもらうよ?」いた。この入り込めない空気にズガズガと入り込んだ奴が。突如として結城が二人の間に入り込む。しかし、その表情はいつものイタズラな小悪魔的な表情ではなく、至って真面目な表情であった。「結城さん…?」「ゴメンね、本来は白銀クン達の話に割り込む気は無かったんだけど、これだけは伝えないといけない事だからね。」「伝えないといけない事…?」タケル・影之は勿論、周りにいる者達も結城の言葉に戸惑う。「今『強くなれ』って話が出たよね?それについてだけど-----僕は反対をさせて貰うよ。」「「「「えっ!!?」」」」突然の言葉に全員が唖然とする。「以前から言ってるよね?白銀クンは、その余りの機動特性の成長の早さにより、搭乗出来る戦術機に限定されてしまう事に。撃震・陽炎・瑞鶴・吹雪・不知火は勿論、現在に至っては不知火・改や吹雪・改ですら実戦には搭乗出来なくなってしまっている。…はっきり言ってしまえば、武御雷や武御雷改・羽鷲だってギリギリの所なんだから。」結城の言葉に衝撃を受ける影之達。タケル自身もその言葉の意味をよく知っている為、無言で聞いていた。「ギリギリって意味もね、『全力で機動出来る』って意味じゃないの。『抑えて戦闘に出れる』って意味なの。今現在全力で戦闘出来るのは、試作機の神威だけその神威だって---下手したら完成する前にお払い箱になる可能性をちらつかせてるんだよ?」「そ、そんなっ!?」あの化物クラスの神威ですら、搭乗の危機に陥っていた事に驚愕するすると、まりもが前に出て結城に質問する。「結城クン…その…抑えて戦闘する訳にはいかないの?」「出来なくはないけど、いずれその『代償』はやって来るよ。」「代償って…?」「今回の墜落の件----ハッキリ言ってしまえば、白銀クンが全力を出せる事が出来れば、あんな結末にはならなかった可能性があったかもしれないって事だよ。」「……えっ?」今回の墜落の件の話が出てきて、言葉を一瞬失ってしまう。「一応データ上なら、白銀クンはあの状況を持ち直して無事な着地を出来る事を証明してるんだ。但し、機体は神威って条件付きだけどね。」「----!?」「現にそういう訓練をさせてるの。音速機動をするって事は、あらゆる条件化の中で『墜落しない』事が使用条件なの。神威に搭乗するにしろ、XM3-EXTRAの解放状態にしろ、そのスピードやGに耐え、操る事が最低条件なの。解放状態に関しては、元々レーザー級対策や奇襲攻撃の際の一瞬だけに使うのが本来の目的みたいなモノだから、普通の衛士はある程度耐えられれば大丈夫だけど、白銀クンみたいに限界ギリギリとなれば話は別。常時音速機動となれば、機体もそうだけど、人体にだって影響はあるんだよ?…まぁ…白銀クンの場合は、純夏ちゃんの『ぱんち』とか『ふぁんとむ』を毎度毎度喰らってるおかげもあって、耐えられるけど…けど、墜落したら元も子もないからね、あらゆる条件化でのシュミレーターで墜落しないように訓練してるの。」結城の説明を聞き、納得するまりも。確かに音速機動をするからには、墜落に対する対策をするのは当たり前。そして、それと同時にある『答え』も浮かび、結城が言わんとする『問題』も理解する。「結城クン…神威の完成は…まだなのよね…?」「勿論、っていうか完成出来ないよこのままだったら夕呼に言われた期限迄には間に合わないだろうね。」「期限…?」「来年の12月だよ」「-----ッ!!!」残り時間の少なさに絶句するまりも。事情を知っているタケルや他の数名も、表情を曇らせ、沈黙する。「…結城クン。なんか解決案は無いのかしら…?」「解決案っていうか、そもそもパーツの強度に問題があるの。今ある戦術機のパーツの骨格部分や外装部分の強度さえ解決すれば…」「神威の可変式シールドみたいな素材?」「あ~…アレなら問題無いね。けど、アレはそもそも素材不足だから戦術機には使えないんだよねぇ~…。」ふむぅ…と苦い顔になる結城一応素材は有るが、素材が滅多に手に入る素材でないが為、頭を悩ます。「ねぇねぇ、結城さん。そもそもその素材が採れない理由って何なの?」すると、純夏が疑問を質問する。他の一同もその問題に同意するかのように結城に注目する。「いやね、その素材は横浜ハイヴを調査してた際に発見した素材でね、元々地球上の鉱物なんだけど、BATEがハイヴ建造する際に至る所掘った為その素材が余り手には入らなかったの。けど、この素材は掘れば必ず出るって訳でもなく、元々かなり希少な鉱物だとわかったらしいよ?」「そっかぁ~…。」「まぁ、掘るにしたって莫大なお金がかかるから、そう簡単には出来ないんだけどね。」結城の説明を聞き、皆が同意し、納得する。純夏も諦め顔になりながらトホホ…とする中-----タケルは『何かが』引っかかってた。「………」「どうしたの、白銀クン?」「……結城さん…。その素材って、かなり深い地層にあるんですか?」「ん~…そういう訳でも無いみたい。地層の深さに関しては、幅は広いみたいだけど、そうだね…浅い所なら、地下100mぐらいから出るみたいだよ?勿論浅い場所故に発見する確率も低いみたいだけどね。」「そうですか…。」結城の説明を聞き、頷くタケル。しかし、タケルの頭の中には『何か』が違和感に似た感覚が残る。「タケル…余り無理するでない。今は身体を療養をするのが先だ。」「済まない冥夜---------」心配した冥夜がタケルに声をかける。そしてタケルも謝りながら、冥夜の顔を見ると---モヤモヤしていた違和感が無くなる。「ああ…アアアッッッッッ!!」「うわっ!?」「ど、どうしたのだタケル!?」突然のタケルの大声に全員がビクンッと驚く。「そうだよ…何で今まで思いつかなったんだよ…?」「ど、どうしたんだい…白銀クン?」突然のタケルの行動にビクビクする結城ブツブツと独り言を呟く姿を見てか、より一層近寄りがたい雰囲気を漂わせる。「ジークリンデ中尉!!」「は、ハイ!?」突然呼ばれてしまい、どもるジークリンデ中尉「横浜基地に通信したいんですが、許可取って貰えないでしょうか?」「あっ、ハイ…それぐらいならば…。」タケルの頼み事に即座に行動するジークリンデ中尉近くにあった内線で、通信許可を貰おうとすると…。「シロガネ大尉、今許可を申請した所、あと五分後にクジョウ少佐がコウヅキ博士と通信する予定だと…「ありがとうございますッ!!」…って…えっ?」ジークリンデ中尉の話を聞くと突然車椅子に乗り込み、猛スピードで部屋を出るタケル…。忘れてはいけない…彼は今…全身打撲だという事を…『ウギャ!?』部屋を出て数秒後…何やら壁に激突して、潰れたカエルのような声が聞こえて来る。勿論皆さんは何の声かはわかるのだが、余りのタケルの行動に反応が出来ないでいた…。---------------------「---という事で「失礼しますッ!!」って…えぇぇっ!?」『……随分と元気一杯ね…。』通信中に突然のタケル乱入に驚く椿。ズタボロのタケルの姿を見てか、香月博士も流石に唖然とするしかなかった。「先生先生先生先生ッ!!」『何よ突然?通信中に乱入とは、随分と慌ててるみたいだけど?』慌てまくるタケルを冷静に質問する香月博士一旦深呼吸をして、冷静さを取り戻し、『本題』に入る。「先生、『装置』はまだ作ってないんですか?」『装置?装置って一体何の-----』タケルの質問に首を傾げながら考えこむ香月博士しかし、直ぐにその意味を察し、表情がやや険しくなる。『……どういう事…?』「実は-----」理由を聞く香月博士にタケルは先程の専用機の件について詳しく話す。タケルの用件を聞き、『なる程』と納得し、考えこむ。「どうですか、先生…?」『可能って言えば可能だけど、不可能って言えば不可能の話ね。』「…どういう事ですか?」不可解な返事を聞き、問うタケル。『そうね…アンタに分かるように説明すると、人間数人程度ならば問題無いわ。けど、戦術機クラスの物量と人間となると問題有りなのよ。問題点としては、『電力の量』と『装置のサイズ』ね。『向こう』なら、装置のサイズの問題点をあっさりクリアしそうだけど、こっちはそういう訳にはいかないわ。こっちの場合、秘密裏に進めながらだから場所が限られてしまう。横浜基地の場合…そうね…『90番ハンガー』のような場所が必要だけど、彼処は今凄乃皇で使う事は出来ないわ。帝都城にしたって、今アンタ知ってる場所以外は無いし、大体にしても装置を作れる大きさの部屋じゃないわ。せいぜいシュミレーター用の管制ユニット十数機分でやっとよ。』香月博士の説明を聞き、苦い表情になるタケルしかし香月博士の問題点の説明は続く。『電力量についてはアンタも知ってるけど、人間一人でさえ基地の電力をかなり使ったわ。それを戦術機クラスの物量ともなれば、下手すれば原子力発電所一カ所分ぐらい使うかもしれないわね。そんな電力を『あっち』で自由に使える所あるの?あったとしても、『あっち』からこっちに運ぶ際に都合の良い場所に運べるとは限らないのよ?』「そっかぁ…」ガックリと肩を落とすタケル。そばにいた椿が慰めの言葉を言うが、やはりそう簡単には立ち直らなかった。すると-------「何の話かはわからないけど、神威に関連するんなら、僕も参加させて貰うよ。」「なっ!?」『結城!?』突如通信室に入って来てた結城に驚くタケル達だった…。