2000年・5月30日厚木基地・ブリーフィングルーム「異例ではあるが、お前達の総戦技演習を合格とする。」「「「「ハイ?」」」」突然合格の報告を受け、唖然としているナスターシャ達。突然のハプニング発生した今回の総戦技演習。中止の報告を受け、がっっっつり落ち込んでいた梼子達だったが、いきなりの実戦・生死を分ける戦闘を体験し、演習どころではなかったのだが、無事に終わってみると『……そういえば…演習中止になったんだっけ…?』と思い出してしまい、全員がへこんでいたのだ。そしてその翌日に『お前達、合格ね。』などと突然言われれば『………………何故?』という反応も当たり前である「今回の合格は、まあ…ギリギリ合格って所だな。突然の実戦とはいえ、色々と問題点があったわけだし。」「「「う"っ!!」」」「演習中も、誉める所は多々有ったが、状況的には早々に大多数撃破されてピンチだった訳だし。」「うっ。」「色々悩んだが、今回の結果を上と考えた末、ギリギリ合格になったって訳だ。」タケルに痛い所を指摘され、唸る巽・美凪・雪乃・ナスターシャ「あの…合格になった理由を聞いて宜しいでしょうか?」すると梼子が挙手し、質問する。「ん、良いぞ。まず、今回の総戦技演習の内容は『戦術機による退却戦』だ。合格条件は『1人でも厚木基地に到着』だ。確かに突然のハプニングにより演習は中止になり、この条件をクリアする事は出来なかったが、お前達は実戦で誰1人失う事にならずに生き残った。これはある意味演習より厳しい条件でクリアしたとも言える。」「しかし、それは白銀大尉や他の衛士達が守ってくれたおかげで…。」「確かにそれも生き残った要因の一つだ。だか、どれだけ優秀な衛士達を仲間にして守って貰っても、死ぬ時は死ぬんだ。特に戦場では、仲間が優秀だからって生き残れるなんて保証は無いんだ。」「…………」「『死の八分』って言葉を知ってるな?初めて戦場に出た衛士がまず乗り越えなければならない時間。今回は対人戦ではあったが、お前達はこの『死の八分』を乗り越えたんだ。これについては、自慢するがいい。お前達は戦場での『恐怖と重圧』に打ち勝ち、生き残ったんだ。これが合格の要因の一つだ。」一つ目の要因を教えて貰う梼子達戦場での『死の八分』を乗り越えた事が一つの理由として上げられる。「2つ目は…演習中、オリジナルの隊形を牽いて、仮想敵部隊に対策した案。恐らくはナスターシャあたりが出した案だろうが、その役割を果たし、僅かな時間とはいえ、前衛を逃がし、後衛の部隊だけで仮想敵部隊を抑えていた事には称賛する点だ。」2つ目は巽達を逃がし、ナスターシャ達が冥夜達を抑える作戦を称賛される。「結果とすれば、成功とは言い難いが、それでも現役の衛士を抑え、他の仮想敵に奇襲をかけた作戦は合格点をやれる。強いていうならば、巽達は奇襲が失敗した際、無理して榊達を倒す事をせずに逃走すれば良かったんだ。そうすれば厚木基地に到着する可能性がまだ高かったとも言える。」タケルの言葉を重々しく聞く巽達『確かに…』と頷き、少し悔やむ。「三つ目は、お前達が覚悟をを持ち、戦う事が出来た事戦場とはいえ、今回は人間同士の『殺し合い』だ。『人を殺め、自分が死ぬかもしれない』という恐怖に打ち勝ち、戦う事が出来たお前達は戦場で戦える事を証明した。きっかけはどうであれ、お前達は衛士としての覚悟を持った……とはいえ、いくら戦場とはいえ、お前達は『人殺し』をした事には違いない。だからこれだけは言っておく。―――その罪から逃げるな。殺めた罪を背負い、そして償う為にも戦い続け、そして生き残るんだ。いいな?」「「「「ハイッ!!」」」」タケルの言葉を重く受け止め、大きな声で返答を返す訓練兵達。「とはいえ、ギリギリ合格な訳だし、不安点は多い。明日から今まで以上にしごいてやるから覚悟しろよっ!!」「「「ハイッ!!宜しくお願いしますっ!!」」」合格した事で笑みを浮かべる訓練兵達大きな声で返答を返し、更なる修練を誓うのだった。―――――――――――――――――――――――――――――――――「失礼します。」「待ったわよ、三人共。」とある一室に入るタケル・まりも・ナスターシャその部屋には香月博士を始めとして、鎧衣課長・ラトロワ・椿・真耶がタケル達を待っていた。「さて、揃ったみたいだから、今回の件の話をするわ。…さっきから知りたくてウズウズしてる奴も居るしね。」「……当然だ。今回の事件、祖国も関係しているとなれば。」イタズラっぽくラトロワを見る香月博士ちょっとイライラしてはいるものの、表情は冷静さを崩してはいなかった。「話す前に言っておくけど、これから話す内容は重要な機密情報だから覚悟して聞きなさい。勿論、我が身を大切にするんなら、今この席を外す事になるわよ。さあ…どうするラトロワ中佐?」「私は別に構わない。……しかし、他の子達には…。」ジャール大隊の子達を心配するラトロワそれに香月博士は『安心なさい』と声をかける。「あくまでもアンタだけだから安心なさい。とはいえ…ナスターシャは既に関わってるから無理だけどね。」「なんだとっ!?」香月博士の一言に驚愕した、ナスターシャを見るラトロワ少し済まなそうにコクリと頷く。「ナスターシャの場合は互いに交渉した結果の事。勿論、お互いに納得した事だから誤解しないでね。」「……交渉だと?それは一体…。」「『例の件』の時にね、ナスターシャがアンタ達ジャール大隊を助けたいって言って来た時があったの。まあ、その件については私も原因を作った一人だから乗ったんだけど、殿下とは違い、タダでは助けられないから交渉したの。その内容は『ジャール大隊を全力で助ける代わりに、ナスターシャは『計画』に参加する事』って内容よ。」「なんだと…。」「ナスターシャに感謝しなさいよ?今アンタ達ジャール大隊が無事に居られるのは、ナスターシャのおかげでもあるんだからね。」驚愕の事実を知り、言葉を失うラトロワとはいえ―――――(うわ……相変わらず先生ったら、紛らわしい言い方するな…。絶対ラトロワ中佐、ソビエト軍に売られた件の事だと思ってるよ…。)内容を知ってるタケルとナスターシャ香月博士の言ってる意味は勿論『2001年・8月19日のカムチャッカ・ジャール大隊壊滅』の件であり、先のソビエト軍の件ではなかったのだが、勿論ラトロワはそんな『未来の情報』を知るわけもなく、誤解しながら驚愕していた。しかも決して嘘は言ってない為、更に質が悪い。香月博士も『試作99型電磁投射砲』で間接的に関わってる為、一応無関係ではなかった。「まあ、兎に角これから話す事は相当な内容だから覚悟しなさい。」「……ああ、わかった。」複雑な気持ちを押し殺し、軍人としての仮面を被り、香月博士の話を聞く。「今回、ソビエト軍や様々なテロ組織の犯行と聞いてるわね?その話は真実なんだけど…実はその後ろにとある組織が居るの。」「何者だ、それは?」「―――『第五計画派』とある計画の組織で、私の最大の敵でもあるわ。私は『第四計画』の計画総責任者でね、第五計画派とは対立している立場なの。」「計画とは何なのか聞いても宜しいか?」「残念だけど、今は駄目よ。ただ、言える事は、BETAに対する計画…と言う事よ。既に第一・第二・第三は失敗。しかし、それなりの成果は残す事は出来た。そして今回、私が計画する第四計画に対立するのが、米国の次期計画である第五計画なの。」上手く機密を隠しながら語る香月博士そして今回の事件に繋がる話をする。「けどね、第五計画は現在勢力を弱めてるの。理由はとある作戦を失敗し、自爆したの。結果、第五計画が危険だと反第五計画派が増えてしまったの。そのせいもあって、第五計画派は巻き返しを図って、今回日本に上陸したの。」「では…今回の件は…。」「ええ、第五計画派の仕業よ。ソビエト軍やテロ組織達に甘い汁吸わせて、裏で操ってたって訳。勿論、ソビエト軍やテロ組織達も警戒していたから、逃げ道作った上でやってたのよ。」「愚かな…。」機密情報は伏せられてはいるが、そのせいもあって今回の事件が発覚したと告白する。「まあ、前もって鎧衣から情報を得てたから、むしろ利用してやったわよ。」「……ちょっと待て。『前もって』だと?それは一体何時の事を言ってるのだ?」「そうですな…確かジャール大隊が売られて間もない頃でしたかな…?ホラ、陛下や殿下がジャール大隊の為に動いてくれた時です。」「…なんだと?」「それ本当ですか、鎧衣課長!?」突如ラトロワの質問に答える鎧衣課長その内容に流石のタケルも知らなかった。「勿論本当だとも、シロガネタケルただ、この話は例の陛下がお帰りになった後に私が香月博士や殿下・雷電様に話したのでね、その場にいなかったシロガネタケルや社霞も知らなかったのだよ。そして第五計画派がやり易いように誘い込み、様々な工作もあえて見逃してたのだよ。大変だったぞ、なんせ敵にバレないように見て見ぬフリをするのだからな。」「それじゃ…無人機とかの戦術機とかの搬入は…。」「ウム、海路から国連や帝国軍宛に運ばれてきた戦術機だよ。無論、その中に第五計画派の人間で運ばれてきた物も混ざっていたのだから、運び先も『基地に運搬する』と嘘のあったそうだ。」「丁度私の方も米国の国連軍にサンダーボルトⅡを頼んだ事があったのよ。それを利用してサンダーボルトⅡで攻め込みに来たんだと思うわ。」「あのサンダーボルトⅡって、先生が呼んだんですかっ!?」「まあね。まあ、横浜基地の防衛に着けようと思ってたんだけど…。まあ、おかげでコッチが弱味を握ってオイシイ目にあうんだけどねぇ~☆ハア……なんて言いつけてやろうかしら…。…三個大隊分ぐらい、タダで貰おうかしら…。」「うわっ、鬼畜だっ!!」途中、香月博士が説明するが、話の後半から本音ダダ漏れに語る香月博士とても嬉しそうだ。その様子を見たタケルも、流石に引いて本音を漏らす。「『本土防衛戦』や『明星作戦』でかなり戦力が低下したでしょ?戦力増加の意味もあってね、他所の国連や欧州とかに戦術機を大量に買っていたの勿論それは横浜基地だけじゃなく、日本国内の国連軍基地や殿下も帝国軍の戦力補給の為に指示を出してたの。只でさえ、すぐそばには佐渡島ハイヴがあるからね、戦力補給は当然の事よ。だから第五計画派はそれを利用して今回の無人機とかを運んできたのよ。注文した戦術機を運ぶんだから、丁度良い隠れ蓑になるでしょ?XM3を奪った後は、コッソリと帰りの船に乗ってトンズラするつもりだったみたいよ。」「良くサンダーボルトⅡが横浜基地に直通しませんでしたね。」「それは当たり前よ。今横浜基地周辺の港は、BETAの残骸の運搬や、横浜基地建設とかの資材運搬で入れないのよ。だから名古屋や静岡・金沢とかの幾つかの港から戦術機を運ぶ必要があったのよ。」「……それって、帝都もヤバかったのでは…?」「それについては大丈夫でしょう。今の帝都は戦力が充実して、なおかつ練度が桁違いに高いもの。たかだか無人機四個大隊程度で帝都が落ちる訳が無いわ。勿論それについては向こうだってわかってるから、やるわけが無いわ。」香月博士の説明に納得するタケルしかしラトロワやまりもはまだ納得しきれてない様子だった。「博士、確かにテロ組織ならば今回の件に参加するかもしれませんが、流石にソビエト軍は動かないのでは?例え動く理由として魅力的だとしても、失敗した時の事を考えれば、参加しないのでは?」まりもが最もらしい発言をする。ラトロワもまりもの意見に賛同するが―――――「ソビエト軍だって馬鹿じゃないわよ。けど、もし―――ソビエト軍の上層部の中に第五計画派が居たとしたら?そして『捨て駒』を利用し、ある程度のリスクを覚悟して実行したとしたら?そして―――そのリスクに対する『報酬』が有るとしたら―――答えは分かるわよね?」「――――ッ!?」まりもやラトロワの疑問を粉砕するかのように答える香月博士その残酷で悪どい内容に背筋に悪寒が走り、同時に考えられる答えである事に無言になってしまう。「地位・金・名誉。色々考えられる欲望はキリがない程沢山あるけれど、多分一番の報酬は『自分の命』でしょうね。自分の命を最優先にしなければ、幾ら地位や金があっても意味が無いわ。ならば、『自分の命の保証』を報酬にして、他者の犠牲をもってしてギャンブルに勝つつもりなのよ、連中は。」「そんな…!?」第五計画派の考えと欲望を知り、絶句するまりもそしてラトロワは第五計画派の考えに対して多少ではあるが、怒りを感じていた。「勿論、第五計画派の人間が全てそういう考えとは言わないわ。けどね、少なくとも私は第五計画に関しては反対だし、させるつもりは無いわ。」香月博士の鋭い眼を見て、第五計画に対し、強い敵対心を感じ取る。「計画とかの詳しい話は信用次第で公開するわ。納得出来ないだろうけど、それだけの重要機密だから理解してくれると助かるわ。」「……それはわかった。しかし、ターシャは何処まで計画の事を知ってるのだ?」「ナスターシャ?別にそんな大した情報はまだ知らないわよ。せいぜいA‐01が計画に関係しているぐらいの情報ぐらいよ。」「本当にまだそんなに計画の事は知らないんです。」「そうか…。」ナスターシャがまだ計画の情報をそれほど得て無いと知り、内心安堵する。「とはいえ、信頼次第では、これから色々と情報を公開するから覚悟して頂戴。」「「了解」」 とりあえず一区切りを着けて、話を終える。そしてタケルが違う話題に入る。「そういえば随分と早くに訓練兵の合格を出しましたね。」「そりゃ出すでしょうに。現役の衛士達に守られる形ではあったけど、実戦で生き残り、一応活躍だってしたと聞いてるわ。活躍に関しては別にしても、実戦で『死』を体験し、生き残った事に関しては合格点だと思うわよ?」「その点に関しては同意です。けど、突然の合格にアイツ等全員唖然としてましたよ?」「残念ね。そういう時にイタズラしたら面白いんだけどねぇ~…。」「……やめてください。」タケルとの会話で香月博士がイタズラっぽく怪しい笑みを浮かべる事に悪寒を感じ、『お願いしますから、やめてください。』と切実に願うナスターシャそしてラトロワ・まりも・ナスターシャが退室した後、香月博士・タケル・鎧衣課長・椿・真耶の五人が残り、密談をしていた。「さて、まりも達が居なくなったけど…鎧衣課長、そろそろ本題に入って頂戴。」「では…今回の作戦通り、国内にいるオルタネイティヴ5派の『処分』は完了しました。」「国内のオルタネイティヴって?」「日本国内の国連内に潜むオルタネイティヴ5が居てね、先の本土防衛戦後に潜入し、今回の件に関わっていたのだよ。中には関わって無い者もいたが、今回の事件をもって、国外へ追放、もしくは降格処分、厳しい物だと牢獄か重い刑になる。」鎧衣課長が詳しい説明をするが、その表情には余裕のある表情ではなかった。「これはあくまでも『殆どの者』であり『全て』ではない。中には難を逃れてまだ日本国内に潜んでいるようなのだ。」「なんですって!?」鎧衣課長の言葉に驚愕するタケル香月博士や椿・真耶の表情もやや険しくなる。「シロガネタケルよ、今回の事件で『違和感』を感じなかったかね?」「違和感?」「ウム。例えば…サンダーボルトⅡの部隊が35機しか居なかった事とか…。」「―――――ッ!!ありましたっ!!なんとなく違和感を感じましたが、CPにも確認しましたが、35機しか確認出来てないと聞いたので、警戒はしてましたが、何も起きなかったので気のせいかと思ったんです。」「ウム、そうか…。しかし私が確認した限りでは、サンダーボルトⅡの部隊は『36機』その内の一機が正体不明機なのだよ。」「正体不明機ですって?」正体不明機という言葉に反応する香月博士鎧衣課長も詳しく説明をする。「今回のサンダーボルトⅡとは違う別な機体で、何処の国、どの機体ともわからない物でした。」「写真とかは有る?もしくは特長は?」「写真はありませんが、特長としては…少しスマートになった撃震…という所ですかな?武装も外されていた状態でしたので、どういうタイプかはわかりませんが、少なくとも公に公開していない機体である事は間違いないかと。」「そう…引き続き捜索を頼むわ。」「勿論ですとも。」香月博士から依頼を受けると、帽子を被り直し、退室する鎧衣課長「ハァ…やっぱり上手い事ばかりは進まないわね…。」「そうですねぇ…。」鎧衣課長の退室後、溜め息を吐いてから珈琲を飲む香月博士「そうそう、白銀以前話した欧州の件だけど、7月前後に行く事が決まったわ。」「7月前後ですか…。」「欧州でアンタの変態機動を見せつけてやりない。欧州の連中に認められれば、後々の手札になる事もなるでしょう。」「ハイ。出来るだけ仲間を増やしてきます。」タケル達の欧州行きの件の話に変わり、後々の手札を増やすようにと念を押されるそしてしばらく雑談をしてタケル達も退室すると、1人残った香月博士が呟く。「……遂に大きな事件が起きたか…。いよいよ、『歴史』が動きだすかも知れないわね…。」先程まで飲んでいた珈琲を飲みきり、立ち上がる香月博士「―――もう、あんな歴史を起こさせないわよ。」脳裏に浮かぶのは、無残にも殺害される親友の姿。きっかけは自分にあるとはいえ、頭部から喰い千切られた親友の死は余りにも無残だった。「まりも……絶対に死なせないわよ…。」誓いを呟きながら、香月博士も退室していった。