2000年・5月28日――――「実は……明日から総戦技演習に入る事が決まった。」「「「「「はっ?」」」」」タケルの一言で教室にいる訓練兵及び、教官でもあるまりもすら唖然とした声があがる。例の香月博士の爆弾発言から3日後―――準備がギリギリ間に合った事から、総戦技演習を始める事になった。今回は発表したタケルですら、数十分前まで知らなかった事実。コソッと霞を通して知った為、深い溜め息を吐きつつ今発表したのだった。一応タケルとナスターシャは例の爆弾発言の件を知っていた為、『そろそろかなぁ~…?』と予想はしていたが、実際に直前に告げられると、やはりへこむモノがある。「あの…その話…私…聞いてないんですけど…。」「俺も数十分前まで知らなかった事実です。まあ…そろそろかなぁ~…と思いましたけどね。」「どういう事ですか…?」まりもがタケルに近寄り、質問(尋問?)する。ビビりながら、まりもを落ち着かせようとする。「実は…数日前に吹雪・改が完成しましたよね?」「ええ。」「その完成した日に先生が『明日総戦技演習やるわよ』と爆弾発言したんですよ。」「…………夕呼ったら…。」例の爆弾発言を告白すると、さっきまでの迫力が萎えまくって、へこむまりも。その後、タケル・ナスターシャ・結城が説得して期日を伸ばした事を知り、全員が三人に感謝する。「さて、気を取り戻して、総戦技演習の説明をする。今回の総戦技演習の内容は『戦術機による退却戦』だこれは以前説明したと思うが、簡単にいえばゴール地点まで一人でも逃げ切れば合格だ勿論、戦術機を失っても、ベイルアウトも可能であれば、強化装備及び、機械化歩兵装甲によるゴールも認める。但し、お前達を追跡する仮想敵部隊は、お前達以上の実力者達だ。人数で勝ってても、けして油断はするな。」「「「「ハイッ!!」」」」「説明は終わりだが、質問はあるか?」「ハイ」「って…まりもちゃん?」「私…今回の総戦技演習の事……ぜんっぜん聞いてないので…。」「お、怒らないで下さいよ…。」今回の総戦技演習の説明を終えるが、質問を受け付けると、まりもが不機嫌そうに挙手する。「今回の総戦技演習のルールとかはわかったわ。けど、今回の仮想敵部隊って何処なの?」「………不機嫌なのはわかりますけど、そういうのは訓練兵の前でする事ではないのでは…?」「いいのっ!!もし、文句あるんなら、酔っ払いながら博士の元に問いただしてくるわ。」「…………お願いですから、それだけはやめて下さい。すごくとても切実にお願いします。」『狂犬になって夕呼の所に殴り込むわよ?』と脅迫され、陥落するタケルそれが実現すれば『横浜基地に明日はない』と考え、折れてしまう。「仮想敵は6人その内の一人は冥夜です。」「め、冥夜がっ!!」「「「め、冥夜様がっ!?」」」流石に冥夜参戦と聞き、驚愕するまりも未来の主と敵対すると聞き、巽・雪乃・美凪の三人も驚愕する。「まりもちゃんは特に知ってるけど、冥夜は第17大隊の第四中隊に所属している現役衛士だオレと一緒にエレメントを組んでいて、実力はエース級以上はっきりいえば、お前達の敵う相手じゃない。だから、冥夜と遭遇した場合は、距離を取りつつ、防戦しながら退却しろ。」「め、冥夜様が敵役なんて…」「ひ、酷すぎですぅ~…!!」「わ、私達…攻撃出来ないよぉ~…。」(…………だめだこりゃ……。)冥夜の実力を知り、ドン引きする訓練兵達特に三バカは『冥夜様に攻撃出来ない』…などと言って、タケルの頭を痛める。「冥夜の他の五人は、実は香月博士の下にいる奴らでな…。とある理由で明かせないが、オレや冥夜が極秘に育てた奴等だ。」「博士の…?私にも言えない機密?」「ん~…まぁまりもちゃんは、いずれ知る事だから…じゃ、まりもちゃんだけ教えます。」タケルはまりもに耳打ちしながら小さな声で喋る。勿論、その姿を見て物凄く気になる祷子達だが、無視する。(来年…悠陽が訓練兵と一緒に参加する事は知ってますよね?)「え、ええ…その話は知ってるわ…。」(その際の護衛として、来年の訓練兵の中にも護衛を入れる事になったんですよ…。勿論、オレや冥夜も入りますし、警備小隊として数名護衛しますけど、万が一を考えて、今のうちに数名だけ育ててたんです)「ええっ!?」(勿論、極秘に進めてた事ですので、たまにしか教えてませんけど、少なくとも戦術機の実力は新任少尉ぐらいから少し上ぐらいの実力です。A‐01とかぶつけるよりはまだマシかと思います。)「まあ…それぐらいの実力なら、問題は無いわね…。」((((いっ、一体何の話をしてるのっ!?))))タケルとまりもが堂々と内緒話をしている為、凄く気になる祷子達訓練兵まりもの言葉がモロに聞こえる為、尚更気になってしまう。「あの、質問良いでしょうか。」「なんだ、ナスターシャ?」「今回の演習の場所はどのような場所でしょうか?あと、仮想敵部隊の機体が公開可能でしたら、教えて頂きたいです。」次にナスターシャが演習場所や仮想敵部隊の機体の質問をする。「今回は箱根の塔ヶ島離城~厚木基地までのルートで演習を行う。機体性能上、時間のハンデとしてお前達が出撃した一時間後に仮想敵が出撃する予定だ。お前達訓練兵の機体は吹雪・改だか、仮想敵は不知火・改但し、冥夜だけは武御雷・羽鷲に搭乗する予定だ。これを聞いてわかると思うが、機体性能でもお前達は負けている。そんな不利な状況下を乗り越え、合格してみせろっ!!」「ハッ、ありがとうございますっ!!」演習場所と仮想敵部隊の戦術機の情報を公開して貰い、感謝の言葉を告げるナスターシャこの瞬間、ナスターシャの脳裏にはとある作戦が浮かび上がっていた。「みんな、集まって。明日の演習の作戦会議をするわよ。」タケルとまりもが退室した後、ナスターシャはみんなを呼び集め、演習に備えての作戦会議を開く。「今回の演習は圧倒的に不利。機体性能もそうだけど、一人とはいえ、現役衛士が参加してる。しかも、あの白銀大尉のエレメントを組んでるエース級の衛士が武御雷・羽鷲に搭乗している。普通に考えれば、合格なんて、できっこないぐらい不利な設定だよ。」ナスターシャの説明を聞き、暗い表情を浮かべながら頷く祷子達。「―――けど、逆に言うと、その武御雷・羽鷲を抑える事が出来れば勝機はある。私に考えがあるんだけど、聞いてくれない?」全員がナスターシャの作戦内容をまじまじと聞く。「まず、部隊を前衛・後衛と2つに分けるわ。前衛は巽・美凪・雪乃の3人後衛は残った私達9人これは、後衛が仮想敵部隊を抑えてる隙に前衛がゴール地点である厚木基地に脱出する作戦」「ちょっ、ちょっと待ってよっ!!」「私達だって戦えるよ!!」「異議アリですぅ~!!」ナスターシャの作戦内容を聞き、異議を唱える3人それを落ち着かせながら説明をする。「ちょっと落ち着いて。三人を前衛に廻したのは考えがあっての事だよ。」「「「考え?」」」「うん。三人はこの訓練兵の部隊で一番連携が上手くて戦術機の操作も高い。仮想敵部隊が後衛を突破した場合の事を考えると、他のメンバーだと厚木基地に到着する前に撃墜される可能性が高い。けど、三人ならば仮想敵部隊が追撃して来ても生き残れる可能性が唯一あるんだ。」「それを言ったら、ナスターシャだってそうじゃない!!」「ナスターシャは、私達の中で一番戦術機を操ってるし。」「今すぐ衛士になれるぐらいの実力ですぅ~。」(いや……一応衛士なんだけどね……。)美凪の発言に心の中で突っ込むナスターシャ…とはいえ、そんな事言える訳ないので、抑える。「私は祷子と一緒に武御雷・羽鷲を抑えなきゃならないの。私が戦術機の操作が一番って言うならば、仮想敵最強の武御雷・羽鷲にぶつけるのは当然だよね?」「「「うっ!!」」」「流石に私一人は無理だから祷子とエレメントを組めば、抑える事も可能なの。例え他の不知火・改が突破したとしても、三人なら逃げ切れる可能性があるんだよ。」「ううっ…。」正論な説明な為、反論が出来ない三人(けど…油断は出来ない…。不知火・改の中で一番注意しないといけないのは…千鶴だね…。)幾度か一緒にシミュレーター訓練をした事があるナスターシャその中でも千鶴の実力は認める程。前回のシミュレーター訓練でも、最終的には千鶴は生き残れていた。例えそれが『偶々』であろうとも、あのオリジナルハイヴを生き残ったのだ。それだけの実力だと証明している。(実際、千鶴の能力を考えると、中尉クラスと考えて間違いない。茜の話でも『千鶴は伊隅大尉と似ている』って確か言ってたっけ?)親しかった友・涼宮茜の言葉を思い出し、千鶴への警戒レベルを上げるナスターシャ千鶴と冥夜をどう抑えるかで、今回の演習の成否は決まる。(けど―――何故冥夜の機体が武御雷・羽鷲なの?明らかにイジメってもんじゃないわよ。)ただひとつ、解せない謎があった。それが冥夜機である武御雷・羽鷲だ。冥夜機の武御雷・羽鷲は『紫』つまり将軍家仕様のハイスペックな機体その気になれば、冥夜機一機で訓練兵組を全滅させる事は容易い。それをわかってて出すからには『何か』があるに違いない。恐らくは香月博士辺りが関与してるに違いない。そう―――考えてたナスターシャだが……まさかその予想を裏切る事になろうとは、この時は思わなかった……。「いらっしゃ~い♪おや、まりもも一緒かい?」「結城君に色々聞きたいもので。」「…………喋るから、その笑顔で暗黒なオーラ放つのやめて…。」結城のいるハンガーの休憩所にタケルとまりもが訪れる。元々タケルは結城に用事があった為、来たのだが、まりもは今回の総戦技演習の事を結城は知っていると予想し、居ない香月博士に代わって問い質しに来たのだ。「結城君には色々と聞きたいけど、これだけは教えて。――――なんで冥夜の機体が武御雷・羽鷲なの?いくらなんでもやり過ぎよっ!!」まりもも冥夜の機体について質問してくる。余りにも訓練兵達には不利な条件例えナスターシャが大尉クラスの実力を持っていても、武御雷・羽鷲に乗った冥夜を倒すのは難しいと考えたまりもは、この真意を問い質す。「その事に関しては、実は裏があってね。以前、純夏ちゃん達が訓練兵だった時に『まりも投入』ってイベントがあったように、今回もイベントを用意してるんだ。」「こ、この他にまだっ!?」「まあ、『コレ』を見ればわかるよ。」「こ…これは……!?」結城の手元にあったパソコンのモニターには、まりもが驚愕する程のモノがあった。「ま、まさか…これは…!?」「そう――――コレの為に、武御雷・羽鷲を投入したのさ。」その映像に絶句するまりもを見て、妖しく笑う結城だった…。