「ふぅ…やれやれ…まさか欧州…とはねぇ…。」突然の夕呼の一言に驚き、溜め息を吐くタケル 現在は自分の部屋に戻り、先程の話を思い出す。 詳しく聞けば、欧州にあるドーバー基地に向かい、XM3の教官として向かう事らしい。 期間は1~2週間程一応予定としては第17大隊ごと欧州へと向かう予定 これが欧州へ向かう『表向き』の理由『本来の理由』は別にある。 先程香月博士がタケルと内密な話があり、発覚する。 『実際はね、欧州がBETAに攻められる時に向かうわ。欧州がBETAに攻められ、危機に瀕した時に颯爽と現れる日本の守護者達…XM3や日本を宣伝するには丁度良いし、『借り』が出来るじゃない?』----後にタケルは語る(心の中で)。 『アンタ…鬼や…』フフフッ…と笑う香月博士を見て、素直にそう思ったタケルだった…。 「タケルさん、霞さんや他のお客様達が来ましたよ?」「あ、ハイ、今行きます。」すると部屋にやちるが来て、霞達が来た事を報告する。 そしてタケルも、立ち上がり、居間へと向かう。 「お疲れ様~。霞~…今日も頑張ったなぁ~☆」「ハイ、頑張りました…。」居間に入ると、霞の他に結城・唯依・正樹・真那が新たに加わっていた。そして、霞の頭を優しくナデナテしていると--- 「タケル、久し振りね。」「母さん!?」「俺も居るぞ?」「親父もっ!?」すると久々に影行と楓の姿もあった。 「丁度霞ちゃん達と遭遇してな、一緒に来たという事さ。」「そっかぁ~…」「母さんったら、護に会いたくて、今日という日をウズウズしてたぞ?」「か、影行さんっ!!」影行のチクりに真っ赤になりながらアワアワする楓周りのみんなも笑い声が響き、終えるとタケルは唯依と正樹の前に座る。 「済まんな、急に呼び出して。」「いえ、今日はこれといった用事は無いので。」「俺も同じです。」実は、正樹と唯依は元々今日月詠家に寄るようにと、タケルからの指示があった。 その際、丁度霞と結城が月詠家に向かう事を知り、護衛も兼ねて来たのだ。 「実はな、これは先生や悠陽は勿論、椿さんや真耶さん・まりもちゃんと話し合って決めた事なんだが…。---明日付けで、お前達二人は『中尉へ昇進』する事が決まった。」「なっ---!?」「ち、中尉にっ!?」突然の昇進に戸惑う唯依と正樹 「お、お言葉ですが、私達はまだ衛士となって一年と経ってない若輩者ですっ!!冥夜様が昇進という事ならばわかりますが、何故私達二人が昇進なのですか!?」唯依が戸惑いながらも、タケルに疑問をぶつける。正樹も唯依の言葉に同意する。 「勿論冥夜も明日から中尉に昇進する事になってる。お前達の昇進はな、実は理由があっての事だ。」「理由…ですか…?」「ああ、そうだ正樹。お前達もわかってる事だが、ウチの中隊は、正規の人数に満たない部隊だ。だが、『質』としては、何処にも負けないぐらいのメンバーが揃ってる。」タケルの言葉に同意する唯依と正樹自分達新任少尉四人は抜いたとしても、その実力はエース級以上の先任達。 確かに『数』では劣るが、『質』では何処にも負けない事は自分達が嫌って程身に刻まれた事だ。「今回の訓練兵が卒業すれば、数人は確実に入る事になる。そうなれば、正規の人数に届くだろう…。---だが、『来年』の事を考えれば、今の状態じゃダメなんだ。」「来年…ですか?」「そうだ。一応言っておくが、第四中隊は、まだまだ人数が増える予定だ。今は『中隊』だが、来年には『大隊規模』に増えるかもしれない…という事だ。」「「!!?」」タケルの言葉を聞き、驚く二人 「それに普通に考えたって、第17大隊はあくまでも『大隊』なんだ。なのに『四個中隊』もある事自体、異例中の異例なんだ。」そしてタケルに言われ、ハッと気づく。「第17大隊が『連隊』になるかは、まだ未定だ。もしかすると第四中隊は別部隊になるかもしれない。それは今はまだわからない。だが…間違いなく増員する事だけは絶対だ。」 まだ決定していない事だが、増員する事は間違いと宣言するタケル 「そして良く考えてみろ。まりもちゃんは、本来は『国連軍所属』だ。理由あって今は斯衛に居るが、万が一なんかの理由が出来れば、まりもちゃんは国連軍に復帰する事にもなるんだぞ?」「あ…!!」「そういった理由も有るから、今回話し合った結果、お前達の昇進が決まったんだ。---だからって浮かれるなよ?今のお前達は『形だけの中尉』という事を忘れるな。来年のその時の為に、今は中尉としての仕事を必死に学ぶんだ。」今やっと知る二人今回の昇進は重大な『任務』であるという事に---「来年から中尉になるなんて意見は聞かんぞ。もし、来年から中尉になったとしても---ヒヨコの中尉殿が部下達を護りきる事が出来ると思うか?もしかすると、お前達が小隊長になり、部隊を仕切る可能性だってあるんだぞ?---その時、お前達は部下達の『命』を守れるのか?」「そ、それは…」出来る、と言葉に出す事が出来ない唯依と正樹例え、数十年という経験の持つ紅蓮大将達ですら、部下を失う事はあるのだ。ヒヨコ成り立ての衛士である自分達では、下手をすれば、部下達全員の命を失う可能性だってある。「明日から中尉になるのは、お前達が『経験』を得て貰う為の早期昇進なんだ。今から中尉としての仕事を経験すれば、来年から中尉になるよりは全然違うと思うが?」「た、確かにそうですが…」「不安なのはわかる。けど、1%の可能性でも多く、仲間の命を救えるならば実行するべきだ。それは必ず無駄にはならないし、お前達にとっても良い経験になる。」不安な気持ちを持つ唯依と正樹そんな二人に説得をするタケルの言葉が不安を少しずつ取り除かれる。 「お前達にも以前言ったが、来年ウチの第四中隊は国連軍に一時的に属する事が決まってる。その際、訓練兵が卒業して新任少尉になれば、お前達は先任としての責任を負わなければならない。ならば、今の内経験を積んで来年の新任少尉達を導く先任になれ。お前達なら出来ると信じて選んだんだ。」「先任として…導く存在…」一言呟く唯依そして正樹と共に周りの先任達を見る。 『私達にこの先任達のように導けるのだろうか---?』自分達にとって、尊敬する先任達と自分達を見比べ、不安に思う二人 だが--- 「大丈夫だって、オレなんかにも大尉やってけてるんだ。お前達なら出来る。」「白銀大尉…」チラリと一瞬水月を見て呟く言葉『二度目の世界』で、あの桜並木の墓標の前で『速瀬中尉』の言葉を思い出し、その言葉をそのまま使い、二人に伝える。 (速瀬中尉…今ならあの時の中尉の気持ち…少しわかります。)緊急とはいえ、少尉でありながら小隊長と突撃前衛長という重責を背負った自分の緊張を和らげるのに使った言葉改めてその意味と気持ちを少しだけ理解する。 (やっぱり貴女は凄い人です…。あの時の言葉を伝えただけで、二人の雰囲気が変わった。)事実、二人の雰囲気が変わり、表情から戸惑いが殆ど消える。改めて尊敬せし先任達の存在の凄さを思い知るタケル 心の中で、タケルは『ありがとうございます…中尉。』と感謝の言葉を贈る。 「白銀大尉…俺…やります。」「私もです、白銀大尉」「うっし。なら…篁唯依少尉、及び前島正樹少尉。明日付けで貴官等は中尉へと昇格する事を命ずる!!」「「ハッ!!了解致しました。」」再度二人に中尉昇進を告げるタケルそして迷いの無い表情で受理する唯依と正樹 そんな二人を見て、内心ホッと一安心する。「さて、篁達の昇進話が終わった所だけど…実はね、速瀬と涼宮の二人も今日付けで中尉に昇進したのよ。」「本当ッスか!?」「ええ、本当よ。まあ、この二人に関しては実戦は一度だけだけど、ハイヴ攻略って実績があるからね。あとは色々努力した結果、昇進に繋がったって訳」「へぇ~…そっかぁ…」水月と遙の昇進話に笑顔になるタケルその表情を見てか、真っ赤になりながら照れる二人を見て『ちょっと新鮮だな』と思ったりする。「私達の他にも孝之や慎二も中尉に昇進したんですよ♪」「成る程、今度なんかご褒美でもしてやるか。」「ヤッタァァッ♪白銀大尉からご褒美よ、遙♪」「お、落ち着いて水月~。」タケルの『ご褒美』という言葉に反応してハシャぐ水月 そんな水月を落ち着かせようと恥ずかしがりながら実行する遙そんな二人を見て、みちるやまりもが『やれやれ…仕方ないな…』と少し苦笑する。 「ハイハイ、落ち着け速瀬今度四人まとめてご褒美してやるよ。勿論、お前達もご褒美してやるからな、篁、正樹」「あ、ありがとうございますっ!!」「えへへ…スミマセン白銀大尉」ハシャぐ水月を落ち着かせるタケルついつい嬉しくて、照れながら謝罪する水月と、思わぬ幸運に唯依と正樹も驚く。 「ところで…正樹…」「なんですか、白銀大尉?」「お前…何時になったら『式』挙げるんだ?」「「ブブゥッ!!」」「ウワッ!?汚っ!?」タケルの一言で茶を吹く正樹とみちるタケル以外は颯爽と回避した為、被害はタケルのみになった。 「い、イキナリ何を言うんだ白銀っ!?」「いや、だって…正樹だって明日から中尉だしぃ~…そろそろ正樹もいい加減にしないと……………………俺みたくナルゾ?」「白銀大尉のその手の話は、冗談じゃないから、尚更怖いですよ…。」正樹の事を思い、『いい加減結婚すれ』と説得するタケル慌てて反論するみちるだが、内心『私だって早く結婚したいわよっ!!』と呟くそして当の正樹はタケルの一言(実談)にビビり、『オレも婚姻届を持って迫られるのかな…?』と不安げに感じていた。「正樹…お前の為を思って言ってるからな?あんまり決断を遅くすると…………………嫁候補が増えるぞ?」「え゛え゛ぇぇっ!!?」「だだ…駄目だっ!!!」更にタケルの信憑性の高い一言(経験談)により、更に怯える二人タケルの目尻に溜まる液体を見て、更にその危険度(?)を語るには充分だった。 「孝之も大丈夫かなぁ~…アイツもオレや正樹と同種だし…」「ししし、白銀大尉!?」「これ以上駄目ですぅぅっ!!」今度は孝之に話を振り、ビビる水月&遙その様子を見て、香月博士の親指がグッと立てていた。 「霞…孝之の情報入ってないか?」「…現在、速瀬中尉・涼宮中尉・碓氷大尉が候補として知られてますが、とある情報によれば…Aさんも参入するとか…」「何っ!?A…だと…!?」「Aって誰っ!?誰なの、社、Aって誰ぇぇぇっ!?」タケルと霞の会話を聞き、Aという人物に怯える水月と遙 「霞…ちなみにその情報源は…?」「………………………鎧衣課長です。」「あのオッサンは……けど、一気に信憑性は高まったな。」「はうぅぅっ!?だ、誰ですか、そのAって人は!?」「「誰って………」」遙の一言に反応して凝視するタケル&霞その暗い瞳×2で凝視される遙は更に怯える結果になる。「な、何故私を見るんですか…?」「……………知らない方が幸せな時って…あるんですよ?」「や、社さんっ!?」「大変だな…涼宮中尉…」「白銀大尉ぃぃっ!?」「どどど…どうすれば…?」怯える二人に更にトドメを刺すタケルと霞そんな場面に---この人が黙ってる訳が無い。 「速瀬…涼宮…貴女達に『コレ』をあげるわ。」「コレは一体…………………これはっ!!!」思わずリアルな顔つきになる水月何かと思い、香月博士が渡した『紙切れ』を見ると--- 「えっ…………………『復重婚姻届』…?」「「「はっ!?」」」「コレでサッサと『結婚』しちゃいなさい。ホラ、妻の欄の方に名前を記入して…後は拇印だけでOKよ。」「遙っ!!記入するわよ!!」「えっ、あ、うん。」サラサラと素早く記入する水月と遙拇印も済ませ、準備OK そして--- (い、嫌な予感が…。)「残念だが…正樹、逃がすわけにはいかん。」「む、宗像っ!?」「済まんな、前島少尉。友のまりかの為にも、覚悟をしてくれ。」「た、篁っ!?」逃走しようとした正樹を美冴と唯依が拘束し---!!!「レバッ☆」「グハァッ!?」「今だよ、伊隅大尉!!サイン早く書いて!!」「済まない、純夏(やっと…やっと正樹と夫婦に…☆)」拘束された正樹の腹部に純夏のボディブローが炸裂し、グロッキーになった隙に、颯爽と婚姻届に記入するみちる乙女達の連携プレーの犠牲者となった正樹に、第三者として見ていたタケル達は南無~…と合掌する。 そして時間が経ち、みんなが月詠家に泊まり込み、寝る段取りをしている時--- 「タケル…」「ん、どうしたクリスカ?」「ちょっと…相談がある。」クリスカが表情を暗くして、タケルの下に尋ねる。 そして場所を道場へと移すと、話が始まる。 「実は…あのナスターシャというソビエトの衛士についての相談なんだか…」「あ゛あ゛~…ヤッパリ揉め事になったか?」コクリと頷くクリスカを見て『ヤッパリかぁ…』と溜め息を吐くタケル 「リーディング…したのか?」「うん……本当はやりたくはなかったけど、何故揉め事になったのか知りたくて…。」「気にするな…とは言えないが、けどそれはお前達が悪い訳じゃないだろ?」「けど…あの者にしたら…私達は『仇』だ。大切な人の命を奪った『怨敵』になる。」自分達とナスターシャの問題に、不安を持つクリスカ違う並行世界とはいえ---洗脳されていたとはいえ--- 自分達は彼女の大切な人の命を奪った『怨敵』な事には間違いない。 無論、今の自分達は、そのような事はするつもりは無いが、彼女にとっては、自分達は『敵』なのだ。 「……今のナスターシャはな…確かにクリスカ達を恨んでいるけど、同時に戸惑っている状態なんだ。」「戸惑う…?」「確かにナスターシャにとって、クリスカとイーニァは『怨敵』だ。例え洗脳されていたと知っていても、ラトロワ中佐の命を奪った『仇』には間違いない。けど---この世界は違う。この世界のラトロワ中佐は生きてるし、ジャール大隊だって健在だ。そしてクリスカ達は洗脳もされてないし、今はソビエト軍ではなく、国連軍だ。つまり、この世界のクリスカ達を恨む事は『筋違い』になるんだ。」タケルの隣に座り、説明を聞くクリスカナスターシャの現在の状況を知り、複雑そうな顔になる。「今のナスターシャは迷ってるんだよ。この世界のクリスカ達は『仇』じゃないと解ってるんだけど、『前の世界』でラトロワ中佐の命を奪ったのもクリスカ達。つまり、『仇であって、仇じゃない』という矛盾した状態に悩み続けるんだよ。多分、お前達に睨みつけたり、罵倒しても、その後には『なんで私はあんな事を…』って後悔して悩み続けてると思うぞ?」「そんな…」今のナスターシャの状態を知り、尚更罪悪感を感じるクリスカ そして、ふとした疑問を感じる。「……何故タケルはそれがわかるんだ?」「ん~…まあ…俺も同じ状態な感情になってるからな~…」「えっ?」「ほら…『12・5事件』の件でな…」「あっ…!!」『12・5事件』--- 『二度目の世界』で起きた日本のクーデター事件。日本の未来の為に立ち上がった帝国軍の決起部隊が起こした事件内閣総理大臣・榊是親を含んだ官僚を暗殺事件を始めにし、決起部隊がクーデターを発動する。 首謀者は帝国軍本土防衛軍・沙霧尚哉大尉結果は沙霧尚哉大尉の討ち死と同時に降伏し、鎮圧はされるが、クーデター軍の起こした結果により、政威大将軍の威厳は復活し、復権する 「あの事件のせいで、仲間達が悲しみ、涙を流し、不幸になった。どんな理由であろうとも、その事に関しては俺は許さない。けど---この世界は違う。『二度目の世界の沙霧』と『この世界の沙霧』は同じであって全く違う存在だ。だからこの世界の沙霧を恨む事は筋違いだけど、だからって簡単には納得は出来ないんだ。まっ、それが人間の心情なんだろうけどな。」「タケル…」落ち着いて語るタケルだが、その拳は力強く握り締め、冷静を保っていた。 それを見てクリスカは、小さく『ゴメンなさい…』と呟きながら、タケルに寄り添う。 「だからナスターシャの事も信じて待ってやれ。これだけはアイツの問題だからな。」「うん…わかった…」タケルの言葉を信じ、少しだけ表情を明るくするクリスカ 「はぁ~…仕方ないなぁ…今日は許してあげるか。」「ウン☆…ありがとうね、タケル♪」そして影でコッソリと出歯亀をしていた純夏とイーニァがコソコソと退散していった。