2000年・4月9日京都・月詠邸--- 「ただいま~。」「お帰りなさい、タケルさん」今日の仕事を終え、我が家に戻ってくるタケル主の帰りを玄関まで迎えに来るやちるが、トテトテと走って来る。 「あら、お客様ですか?って…アラアラ、クリスカさんにイーニァさん、純夏さん、お帰りなさい☆」「ただいま~☆」「ただいま☆」「…ただいま。」元気良く返事を返す純夏とイーニァそして照れながら返事を返すクリスカに『はうっ!?』と萌ダメージを受けるやちる「やっっっっっと来れたよぉぉ~…」「ヨシヨシ、泣かない泣かない♪」特殊な位置に居る純夏達は、簡単に来れない為、電話連絡はしていたものの、やはり『タケルちゃん成分』に飢えていた純夏。 そんな純夏を姉のように慰めるやちるは、純夏の頭を優しく撫でて慰める。 「ホラホラさっさと上がりなさい。私はお腹を空かせてるのよ?」そして唯我独尊な彼女・香月博士も護衛のみちる・水月・遙・美冴と共にやって来る。「では、上がって下さい。やちるさん、スミマセンが、みんなの分もお願いします。」「わかりました♪では、お先に失礼致します。」「とびっきりの美味しい料理期待してるわ~☆」「任せて下さい♪」香月博士の注文に笑顔で答えるやちるそのまま再びトテトテと小走りで台所という名の『戦場』に向かっていった。 「ただいま。」「お帰りなさい、タケル。あら、夕呼じゃない。」「しばらくね、まりも」居間に向かうと、嫁達の冥夜・まりも・沙耶・真耶が居た。まりもは、テーブルを布巾(ふきん)で拭き掃除を、冥夜は護の面倒を、真耶は身重の沙耶の面倒をみていた。「まりも、聞いたわよ?伊隅達をボッコボコにイジメたんだって?」「イジメぢゃないわよっ!?」早速香月博士のいぢりが始まるまりもも否定しつつ、顔を真っ赤にしていた。 「けど……流石にアレは私でも予定外だったわ…。……………流石にアレを見たら、私でも伊隅達に『悪い事をした』と反省したもの…。」先日のシミュレーター訓練での映像を帝都城のモニターで見た香月博士嫌な汗をダラダラと流しながら『……アレ…?ナニコレ?』と予想外過ぎる映像を見て、チラッと伊隅達を視線をずらすと、ヴァルキリーズ全員が部屋の隅っこで、体育座りをしながらトラウマをゴリゴリと思い出してヘコんでいた。流石の香月博士も、みちる達に『ゴメン……貴女達…』と小さな声で謝罪していた。 「お腹大きくなりましたね、沙耶さん。」「ええ、あと1~2ヶ月に出産予定よ。」「良いなぁ~…私も欲しいなぁ~…『悠陽さん』も身ごもったって聞いたし…。」純夏の言葉にピクピクと反応を見せる冥夜・まりも・クリスカの三人やはり彼女達も早くタケルの子を宿したいようだ。「そういえば先生、霞は?」「今結城の所で仕事してるわよ。今忙しいから、少し遅れてから来るわよ。」「そうでしたか。」「FX-01も進行してるみたいよ?そのせいで遅れるみたいよ?」「そっか、あとで霞にナデナデしないとな~…」自分の専用機の為に頑張ってる霞に感謝してるタケルちなみにタケルは知らないが---- 「----早く白銀さんから、ナデナデしてもらいます…!!」「か、霞ちゃん…すげぇよ…!!」静かに、そして激しく燃える(萌え?)霞タケルからのナデナデをやって貰うために、凄まじい速さのタイピングを見せつけ、そばにいた結城すら驚愕していた。 「ん~☆ヤッパリ貴女の料理は美味しいわね~♪」「あはっ☆ありがとうございます。」やちるの手料理を食べて絶賛する香月博士「これだけ美味しい料理作れるなら、一流の料理人になれるんじゃない?」「いえいえ、其処までは…♪」「けど、本当に美味しいわ。これだけ美味しい料理なんて、京塚さん以外無いわね。」「京塚さん?」「ホラ、真耶さんの出産の時に来た産婆さんの一人だよ。」「ああ~!!あの方ですか~!?」横浜の母・京塚志津江の存在を思い出すやちるそしてその料理の腕を絶賛する香月博士に続き、ウンウンと頷くみちる達。 「なる程~…。今度お会いしてみたいものですね…。」「何時でも来て良いわよ。横浜基地じゃ、私は副司令だから、それぐらいの権限は簡単に出せるわよ?」「では、今度お暇な時にお願いします♪」京塚のオバチャンとの再会を楽しみにするやちる。だが---- 「「………………」」 タケルとまりもだけが、香月博士を見つめながら沈黙する。 「どうしたの、白銀にまりも?」「……いや、随分と先生『機嫌が悪い』なぁ~…と思って。」「!?」「そうね…私も同じ意見よ。なんていうか…誤魔化しながら作り笑いしてる…感じがするわ…。」「………まりもならまだしも、まさか白銀まで見抜くとは…私もまだまだね。」深い溜め息を吐き出し、本音を語る香月博士。 「実はね、『XM3』の関係で、ソビエト軍との契約が上手くいったのその事自体は良い事なんだけど…連中、気に食わない契約条件を出してきたのよ。」「気に食わない事?」「ええ、当初はソビエト軍に『XM3』を売る代わりに、代金として『Su-37M2チェルミナートルを一個大隊分』か『Su-47ビェールクトを一個小隊分』かのどちらかで交渉してあげるって言ったの。」「ブブゥゥゥッ!!」「うわっ!?汚いわね、白銀!?」香月博士の爆弾発言を聞き、口に含んでいた茶を華麗に吹き出すタケル他の者達も、絶句し、時が止まる。 「あああ…アンタは阿呆かっ!?第2・5世代機36機分か第3世代機4機分のどちらか寄越せって、アンタ…無茶苦茶な注文でしょう!!」「そ、そうよっ!!そんな無茶な注文頼めば、ソビエト軍側だって渋るに決まってるじゃないっ!!」「そんなに怒鳴らなくても良いぢゃないっ!!私だって本気で言った訳じゃないわよっ!!」「「………………本当に……?」」「………………………………………半分は本気だったわよっ!!」「「ハァ~…。」」香月博士の無茶っぷりに頭を痛めるタケルとまりも「私も当初は、せいぜいチェルミナートルを二個中隊分貰えれば御の字と考えてたのよ。それをわざとに一個大隊分ってふっかけて、二個中隊分まで値切らせる予定だったのよ。…まあ、半分の気持ちで一個大隊分貰えればラッキーって思ってたけど…」「先生…無茶言わんで下さい。」「うっさいわね~…そしたらソビエト軍の連中ったら、『まずはその性能を確かめる為に我が軍の部隊を其方に寄越すので、ソレ次第で決めます』って言うのよ。まあ、其処までは予測していたから、良いんだけど、その後が問題なのよ。」表情を険しくする香月博士本気で苛ついていた事がはっきり解るぐらい表情に出ていた。 「寄越す部隊名は第3軍第18師団第211戦術機甲部隊『ジャール大隊』白銀…この意味わかる?」「えっ…確かジャール大隊って…ナスターシャの…?」「そうよ。そしてジャール大隊の使う戦術機そしてジャール大隊の部隊の人数は…?」「…………ちょっと待って下さいよ、先生……まさか連中…」香月博士の言葉に反応して、タケルの表情も険しくなるそして--タケルが考えを肯定するかのように、香月博士の頭が縦に振る。 「---そうよ、白銀連中…ジャール大隊を『売る』つもりよ。」「「「!!!?」」」「…理由…聞いて良いですか?」険しい表情で香月博士に質問するタケル 「元々ソビエト軍ってのはね、ロシア人を最優先した所でね。それ以外の異民族は『使い捨て程度』にしか考えて無いのよ。」「「「なっ!?」」」「けど結果として、ソビエト軍の前線は崩壊寸前それに対する対応策が『家族としての絆』だったの。上層部の連中は、異民族の誕生したての赤子を民族ごとに教育施設に収容し、其処で収容した子供達を『教育』と言う名の『兵隊』を創っていたって訳。そして子供達が成長すれば『家族愛』が芽生え、同じ民族の仲間達との絆を強め、『家族を守る為に』という感情を利用して屈強な継戦精神を根付かせる事で立て直したの。」「「「………っ!!」」」「けど、やっぱり上層部は、ロシア人以外の民族は『便利な使い捨て』としか考えてないの」ソビエト軍の非情な事実にギリリッと歯を食いしばるタケル冥夜や真耶でさえ、眼を鋭くしながらも、怒りを面に出す事に耐えていた。 「ジャール大隊はロシア人以外の民族で出来てる部隊唯一ロシア人であるラトロワ中佐だけど、色々な困難に打ち勝って部隊の隊員達から『母親』と認められる程の人物他の衛士達もなかなかの腕前部隊の人数もフルでは無いにしろ、二個中隊以上は居る。そして機体もチェルミナートルそして私が条件に出したのも『チェルミナートル一個大隊分』………全く…口に出すだけでもイラつくわ。」段々とイラつく香月博士ガブッと強引に茶を一気に飲み、『お茶おかわりっ!!』と大声で注文する。「連中はね、ジャール大隊を売って、そして日本を『格下』として見下してるのよ。勿論ロシア人の全てがそんな下品な連中とは言わないけど、此方を舐めきってるのよ。これが頭に来ない訳無いぢゃない!!」本気でキレてる香月博士を『お、落ち着いて下さいっ!?』と抑える遙とみちる。 しかし----予想外にも、この場に相応しくない声が響く。 「フフフッ♪落ち着きなさいよ、夕呼」「………何よ、まりも随分と機嫌が良いわね。」意外にも、笑い声の主はまりもその突然の笑い声に全員が驚く。 「だってそうじゃない。あの夕呼が、こんなにも感情を表に出すなんて珍しいわ。」「な゛っ!?」まりもの一言に先程までの怒気は失せ、一気に顔が真っ赤になる香月博士 「夕呼の性格上、そういった感情は隠すじゃない?本当は誰よりも優しくて、頑張った子にはそれに見合う報酬がなければ納得しない。けど、素直じゃないから、何時もそんな感情を隠してるわ。けど---今回の件は、まだ会った事の無いジャール大隊の事で腹を立てて、つい感情を現した。勿論舐められたって事で腹を立てたのも事実だけど、それすら感情を殺してるのがいつもの夕呼よ?しかも立場上、そういった感情は隠さないといけないけど、今回の夕呼の場合、やっと少しは丸くなって『素直』になってくれたって証拠じゃない?立場上としては複雑だけど、『親友』としてなら---嬉しい事よ?」「ま、まりもっ!?」親友として一番香月博士を見て来たまりもの一言に、何時もは見せない表情を見せ、真っ赤っかになりながらも、ガァァァッ!!と吠える香月博士無論、まりもの方が優勢な為、いつもとは違い余裕の表情を見せる。 「………けど先生…?」「なによ……白銀……」香月博士に声をかけるタケルジト目でハアハア…と息切れしながら睨む香月博士「---これって…チャンスですよね…?」「……そうね。色々策を考えてだけど、まさか向こうからやって来るんだからね…都合が良いわね。」元よりジャール大隊を引き入れる考えを持っていたタケルと香月博士不本意の形とはいえ、まさかの展開にチャンスを掴む。 「こうなった以上、『アレ』を早急に完成させるわよ。だから今回はヴァルキリーズを帝都城に連れて来たんだからね。」「ハイ、勿論です先生一刻も早く完成させますよ。」不敵な笑みを浮かべる香月博士とタケルその意味を知らないまりも達は気になり、質問する。 「ねぇ…夕呼…『アレ』って何…?」「そうね…まりもにも手伝って貰うつもりだから、丁度良いわね。」少し考えてから、まりも達にも公開する事にした香月博士。 「実はね、『XM3』を世に広げる事を決めたの。けど、それには色々と問題をクリアしなければならないの例えば、今回はソビエトだけど、あまり日本とは良い関係ではないわ。そんな所に『XM3』を渡すって事は、『それに対する対応策』が必要って事なの。」香月博士の説明に納得するまりも達そして--- 「かといって『XM3』に何かしら仕込んでおく訳にもいかないわ。万が一、それが悪影響を及ぼした場合、国との関係が悪化する恐れが有る。だから---今回ソビエト軍の連中に『XM3』を渡す前に『ヴァージョンアップしたXM3』を創る事にしたのよ。」「「「「!!!!?」」」」「ヴァージョンアップしたXM3の名前は…『XM3-EXTRA』パワーアップしたXM3を製作する事にしたのよ。」「XM3-EXTRA…ですって…!?」遂に公開された新型OS・XM3-EXTRAその事実に今まで知らなかったまりも達はおろか、みちる達すら驚愕する。 「もう…新型OSですか…!?」「ええ、そうよ伊隅。今回のXM3-EXTRAは、従来の『コンボ』と『キャンセル』を強化し、更には『ディレイ(遅延)』を追加したわ。」「『ディレイ』…ですか…?それは一体…?」「そうね、分かり易く例えると、戦術機の操作に『パンチボタン(P)』と『キックボタン(K)』があるとするわ。戦術機を操作する際、『P・P・P・K』と間隔を入れて入力すると、『右パンチ・右パンチ・右パンチ・右キック』になるとするわしかし、間隔を無くして『PPPK』と連続して入力する事で『右ジャブ・左ジャブ・右ストレート・左後ろ回し蹴り』というコマンドになるわ。そしてそれが従来の『コンボ』なの。」「なる程。」香月博士の説明を理解するまりも達「けど『ディレイ』は『PP‥P‥K』と途中で入力を遅延する事で『右ジャブ・左ジャブ・右アッパー・左回し蹴り』と変化するの。これは、最初の説明に出した『P・P・P・K』の時の間隔より短い間隔で…そうね、『気持ち遅らす感じ』に連続入力する事で、『コンボ』とは違う動きを可能にしたのよ。」「そ、それじゃ…」「そうよ。これが完成すれば、戦術機は『賢く』なって、動きは更に選択肢が増えるって事だから従来白銀しか出来なかった『変態機動』も可能な限り、貴女達とかでも出来るようになるのよ。」更なる進化したXM3の性能を聞き、歓声が溢れて来る。 しかし---まだ香月博士の説明は終わってなかった。 「喜ぶのはまだ早いわよ、アンタ達。XM3-EXTRAの真骨頂はこれからなんだから。」「「「「えっ!?」」」」「まだ…あるの…!?」「ええ、むしろコッチが大本命よ。『ディレイ』に続いて新たに入れたのは『解放状態』このXM3-EXTRAの『切り札』とも言える機能よ。」「『解放状態』…!?」「そうよ、まりも。『解放状態』はね、従来戦術機にかかってる『リミッター』を5~6割解放して、従来以上の能力を発揮する事が出来る能力なの。例えると、撃震で『解放状態』を使うと、瑞鶴や陽炎以上の能力を発揮する事が可能なの。因みに能力の向上って意味は、戦術機のスピードやパワーが上がるって意味よ。但し、制限時間があって、連続使用時間は5分それ以上は強制的に『解放状態』は解除され、再びリミッターがかかり、再び使えるまでに5分必要な仕組みなの。元々は対光線級に対する離脱用の機能で考えたんだけど、一時的な解放をすれば、奇襲攻撃などの戦術も出来るし、対戦術機戦ならば十二分にも効果が期待出来るわ」「けど、それだと機体の方に負担がかかるんじゃないの?」「勿論それについての補強もするけど、XM3-EXTRAの方で、万が一機体に異常が発覚した場合、『解放状態』を強制解除し、修復するまで使用不可能にするわだから安心して使えるから大丈夫よ。」香月博士の『解放状態』の説明に唖然とするまりも達タダでさえ、先程の『ディレイ』で驚いていたのにも関わらず、更に『解放状態』などという機能まで追加し、驚きを通り過ぎて唖然とするしかなかった。「ちなみに…このディレイや解放状態なんだけど…発案者は白銀よ♪」「「「「ハアァァァァッ!?」」」」『ふぁ…オギャアァァッ!!』「あ…済まぬ護っ!?」大声で驚愕するまりも達しかし、そんな大声に驚いた護が大泣きしだす。慌てて冥夜があやすが、なかなか収まらず、結局はタケルが代わって泣き止む事になる。「アンタ達五月蝿いわよ。一応赤子が居るんだから、驚くのは良いけど、静かに驚きなさい。」「「「「………スミマセン」」」」「元々XM3は白銀の発案で作られた物よ?だから別に白銀が新しい機能を考えたって、別におかしい事ではないわよ?」「そ…そうでした…」「ス…スミマセンでした…白銀大尉」すっかりXM3の発案者という立場を忘れていたまりも達水月が小さくなりながらも謝罪の言葉を入れる。「今回私達が京都に居る理由だって、一番の理由は白銀が居るからよ。元々XM3は白銀の機動特性を元にした物だから、ヴァージョンアップするって事は白銀の存在が絶対不可欠って事なのよ。」「では、横浜基地に呼んだ方が早かったのでは…?」「今は無理よ。白銀の専用機の件もあるし、他にも軍事的な理由もあるから、今年一杯は帝都を離れる事は出来ないわ。まあ…余程な重要な時や出撃の時は別だけどね。」そういうと、少し考えてから、タケルに告げる。 「白銀---まだ決定事項ではないけど…もしかすると今年中に『欧州』に飛んで貰うかもしれないから。」香月博士の口から出た言葉に、流石のタケルも驚きを隠せなかった…。あとがき---- しばらくぶりです、騎士王です。 今回はちょっと謝罪を…前回、『何故みちる達が天狼を知ってたか?』の件ですが…途中ですっかり忘れてしまい、今回書けませんでした、スミマセン。