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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 暗き波濤 4話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/05 01:09
『消費税率、更なる引き上げ。 政府案は15%か? 世論は大反発―――「帝都新聞」』

『日米再安保準備交渉、ハワイにて局長級会議始まる。 与党内でも反発の声―――「東都日報」』

『国内インフレーション率、年上昇率18%に。 日銀、打つ手無し!?―――「帝国経済新聞」』

『難民支援予算削減。 国防予算は増大。 難民の5%が飢餓線上に―――「旭日日報」』

『中部山岳地帯で、火山性群発地震活発化。 気象庁、噴火警戒レベルを3(入山規制)から4(避難準備)に引き上げ―――「日本政経新聞」』





2001年10月18日 1630 日本帝国 東京・府中基地 帝国陸軍第1師団・第3戦術機甲連隊


「・・・おい、誰だ? あれは?」

すれ違った基地管理部隊の要員を捕まえ、第3連隊の久賀少佐が尋ねた。 尋ねられた相手(基地主計隊の中尉だった)は、少佐が指し示す方向を向いて、苦笑交じりに答える。

「ああ・・・視察に来た議員先生ですよ。 国防委員会所属の、あの議員です」

主計中尉が口にした名前を聞いて、ああ、あの男か、と久賀少佐も気が付いた。 連立政権を組む小勢力政党出身ながら、バリバリの国防族議員として知られる男だ。
どうやら『視察』とかこつけて、上層部との密談でもしに来たか。 そう言えば軍需企業からの政治献金疑惑も有る男だ。 どうせリベート絡みの密約だろうが・・・

「・・・脇にいる女性秘書、あれは軍人上がりだな。 地方人(軍以外の一般社会人)にしては、妙に姿勢が良過ぎる」

「判りますよねぇ、やっぱり・・・あれって、軍が送りつけた愛人兼用の秘書だって話ですよ」

そう言ってから、その主計中尉は余計な事を言った事に気づいた。 久賀少佐の無表情の中に冷たい視線を感じて、思わず首を竦める。

「いや、あの・・・はぁ、そう言う噂です。 主計なんかやっていると、金の動きとか、まあ・・・で、あちこちの同期生の間で、そう言う噂が流れていまして」

主計中尉の話によれば、軍中央が国防族議員をより『包括』する為に、後方勤務の女性将校を退役させて、その議員の元に『贈呈した』私設秘書だそうだ。
見ればまだ20代半ば過ぎくらいか、少し冷たい美貌だが、男なら10人中の半分以上、7割は振り返るだろう美女だ。 慎ましくその族議員の後ろに控えている。

「結構なご身分ですよ。 軍と軍需企業と、議会の中で国防予算の分捕り調整をしていれば、軍からは美人の秘書を宛がって貰えるわ、企業からは秘密の献金がどっさりだわ。
あの議員、選挙区は元々北九州・・・博多だったらしいですがね。 98年のBETA上陸で『妻子を犠牲にしてでも、選挙区民を守ろうとした硬派議員』で売っているんですよ」

「・・・98年? BETA上陸? 九州戦の事か?」

「はい、そうらしいです。 奥さんと子供、選挙区に残していたらしいんですよ。 で、その奥さんと子供はBETA上陸後の避難中に、軍に護衛されて避難しようとして・・・
結局、原因は判りませんが、友軍誤射の巻き添えで死亡したとか。 あの議員、『私の妻子も、選挙区の避難民と同じ』とか何とか言っていて。 軍の手落ちと言われたアレです。
結局、選挙区は変わりましたけれど、同情票とか集まったらしいですね。 新しい選挙区でトップ当選だそうですよ。 ま、こっちに妾さんと、その子供もいるそうですが」

本妻と子供を喪っても、妾とその子供が無事なので地盤を継がせられますしね。 それに加えて、あの愛人兼用の秘書ですよ。 まったく、世の中不公平ですな。
不公平感を愚痴る主計中尉の横で、久賀少佐は別の感情に支配されていた。 どす黒い負の感情。 愛した妻が、血塗れになって戦場で死んでゆく情景―――優香子。

(『―――原因は判りませんが、友軍誤射の巻き添えで死亡したとか』)

(『―――こっちに妾さんと、その間の子供もいるそうですが』)

(『―――同情票とか集まったらしいですね。 新しい選挙区でトップ当選だそうですよ』)

性根の優しい、よく笑う出来た妻だった。 一目惚れして、一緒になった妻だった。 心から愛した妻だった―――俺の妻は、己が手落ちで死んだとでも言うのか!?

「・・・精々、予算を分捕って貰わにゃならん相手だろう? 軍も気を使うのだろうさ」

「はあ・・・次の内閣改造じゃ、国防副大臣と言われている程ですしねぇ・・・」

国防副大臣―――榊政権の、国防副大臣、閣僚。

「今の政府は、ごちゃ混ぜの連立政権ですし。 バランス調整も難しいんでしょうけど、あの俗物議員が、国防副大臣閣下とは・・・ですよ」

じゃ、失礼します―――そう言ってその場を離れた主計中尉の言葉が、久賀少佐の頭の中でリフレインする。 国防副大臣閣下、国防副大臣・・・閣下?
気が付けば、久賀少佐はその族議員と部隊首脳部が入って行った建物を、ずっと睨みつけていた。 まるで餓狼の様な表情で。




同日 2200 帝都・東京 某難民キャンプ内


「城内省官房長官の神楽子爵が、五摂家長老の崇宰公爵家先代と密会した」

その言葉に、居合わせた2人が眉をピクリと跳ね上げた。 重要度としては大きな情報だ、この国の伝統的上流社会―――旧支配社会がどう動くか、その指針になる。

「・・・どこからの情報かしら? 未だ巣穴を見つけられていないと言うのに?」

「大方、『ビジネスパートナー』からの情報だろう? ええ?」

相手の反応に、まあ当然だろうな、と先程第一報を話した男は内心で思う。 まったく、この国は工作がしづらい国だ。 どこへ行ってもこの外見は目立って仕方が無い。
それに工作のイニシアティヴをあの男に握られるのも、ゾッとしない。 作戦上、妥協している訳だが、本来は多くの場面で敵同士だった連中だ。

「・・・信頼できる筋、とだけ言っておくよ。 どうやら五摂家は割れた様だ。 崇宰、九条と斉御司の3家は、現状維持で静観する姿勢だそうだ。
斑鳩は家宰(旧家老)の洞院伯爵家が事実上の実権を握った。 斑鳩の現当主は、まだまだ若い。 そして斯衛軍内での目も有る、良い意味でも、悪い意味でも」

「煌武院家は? 現将軍は政治的に微妙になる発言は、極力慎んでいるようだけれど?」

「ああ・・・賢い少女だよ、彼女は。 少なくとも理想と現実の区別は、暴走しがちな他のタカ派の武家より、ついているようだね。
だが、やはり未だ10代後半の少女だよ。 家中・・・煌武院家内の実権を、分家筆頭の聖護煌武院家に半ば以上握られている様だ」

「本来ならば、家中譜代の重臣でもある神楽家は、どうやら旧主家とは距離を置く様だしね。 まあ、城内省高官ともなれば当然だが」

「残る名門譜代は・・・月詠家は武門の家で、政治向き、それも裏の政治向きの腹芸が出来る家じゃないね。 
神楽家と同格の篁家は、前当主が死んだ後はまだ10代後半の娘が当主、それも今は日本に居ない・・・か。 後見役は確か、帝国陸軍の中佐だったな?」

「詰まる所、煌武院は斑鳩と同調する、そう予想される、と言う事ね?」

「と言うより、止める力が現将軍には無い、と言うべきだね」

そこまで話した後、3人揃って(偶然だろうが)カップを手にして香り高い黒い液体を喉の奥に流し込む。 今では帝国内では贅沢中の贅沢品になった、天然モノのコーヒーだった。
暫く無言が続く。 今のこの状況を、どう利用すべきか? 己の益の為に、誰をどうやって、生贄の羊として、謀略の神の御前に捧げるべきか?
彼等は彼らで、それぞれ別々の組織に属し、別々のクライアントの依頼で動いている。 偶々この国では協同し合った方がやり易いだけだ。

「・・・精々、国粋派を煽りたてておこうか。 丁度明後日から、帝国軍との合同訓練が始まる」

ガルーダス―――大東亜連合軍―――の中佐の階級章を付けた軍服を着た男、RLF極東地区指導者の『カオ(高)』は、そう言ってカップの中身を一気に飲み干し、席を立つ。

「良い事さ。 私も丁度、3日後からWCRP(世界宗教者平和会議)の日本委員会との会合が有る。 神祇院(帝国内務省の外局)からも人が来る。
この国の上流社会は、余り知られていないがカトリック贔屓だからね。 プロテスタントの過激派に行動には、常に神経を尖らせているのさ」

カトリックの僧服を着た僧侶―――『ヴァチカンのインクイジター(異端審問官)』もまた、席を立つ。 最後に一人残った人物、カトリックのシスター服の修道女が言った。

「・・・『恭順派』に、アラスカの騒ぎを起こした『あの男』に率いられた、RLFの過激派(Provisional Refugee Liberation Front:PRLF、RLF暫定派、『プロヴォ』)
今の所、『向う』の手札でこの国の組織が把握し切れていないのは、その辺りでしょうね。 どうするの? 情報を流すの?」

恭順派もプロヴォ(RLF過激派、暫定派)も、裏では報酬で動くイリーガルズ(非合法活動組織)の面を持っている。

「そこはそれ、ある程度の黙認と言うか、融通を付けて呉れる様だよ」

「デリートは自分達で、と言う事ね?」

「そうさ。 他人の庭先を汚したならば、綺麗に掃除するのが礼儀だろうね」

プロヴォ(RLF過激派)は、日本国内の難民キャンプにも影響力を伸ばし始めている。 彼等は1990年代初頭、国連と『休戦』を結んだRLF(通称『オフィシャル』)から分離した。
恭順派は主にプロテスタント系教会を隠れ蓑にして、密かに行動していた。 そのプロテスタント系の中のメソジスト教団に、秘密構成員が多いと言われる。
1968年に北米メソジスト監督教会から分離した、アメリカ変革メソジスト教会が温床になっている―――FBIの報告では。 メソジスト系教団は全米で2番目に信徒数が多い。

「難民キャンプ、教会、信徒・・・いったい、どの位の人数がいると思っているのだろうね」

「少なくとも、最大公約数で1000万人は下らないわね」

「その中から『モール』を探して潰して、糸を引き手繰れと?」

「関東近辺だけなら、100万人程よ」

「神よ・・・」

帝国内務省特別高等公安庁(特高警察)、帝国国家憲兵隊、国防省情報本部、この国のカウンターインテリジェンス、カウンターテロ組織も、深い深海を密かに這回している。
そして敵の敵は味方、ではなく、敵でない時は外套の裏の短剣は向けない、と言うこの世界の慣習に従い、お互いの利益を確保する為に仮初の協同体制を敷いているのだ。

「国粋派が騒げば、連中は心情的にRLFに同情的だからな、プロヴォも姿を現す」

「政変ともなれば、この国のカトリックの影響力を削ぐ為に、恭順派も何らかの動きを示す」

「共和党はネオコンを切りたいのね。 次の総選挙で負けない為にも。 この国を抱え込むのは国内の同意が取れない、民主党に恰好のネガティヴ・キャンペーンに使われるわ」

3人はそして、頷き合った。 それを彼らが所属する『組織』に依頼―――命令とも言う―――して来たのが、『三極委員会』 大元は『ビルダーバーグ会議』の保守穏健派達だ。
合衆国大統領、英国の宰相、EU事務総長に世界銀行総裁。 欧州の各王室関係者にロートシルト、モルガノ、ロートウェラー、メロウズ、デュポント。
欧州系の様々な、世界的に有力な大財閥の指導的立場の関係者。 エネルギー資源を牛耳る国際的コングロマリットの代表者に、NATOの事務総長・・・
そうした連中の中で、合衆国の一部―――CIAタカ派とネオコン―――による世界地図の書き換えは、このBETA大戦下にあって利無く、害有り、と判断した連中が居たのだ。

「最終的なシナリオは、この国の誰かが描いている。 三極委員会経由、ビルダーバーグ会議の承認の元にね」

誰か―――限りなく想像出来る、1人の男がいたが、口にする事は憚られた。










2001年10月22日 1400 太平洋上 伊豆諸島近海 


「ゲイヴォルグ・ワンより全機! 高度が高い! あと10m下げろ!」

轟音と共に跳躍ユニットを吹かせ、数十機の戦術機が冬の荒れた洋上を高速で低空飛行を続けていた。 高度は40mも無い。

「機体の爪先が、水面を叩くつもりで高度を下げろ! その高さでは光線級の良い的になるだけだ! 死にたいか、貴様ら!」

とは言え、冬の海の波濤も結構な高さだ。 少しでも操作を誤れば、そのまま海中に突進してしまいそうな程だった。

「ドラゴン、ハリーホーク、そのままの高度を維持! フリッカ! 高度を10下げろ!」

『―――ラジャ』

『了解』

『くっ・・・りょ、了解ですっ・・・!』

案の定、練成の度合いが最も低い第3中隊“フリッカ”の高度が高い。 無理も無いかもしれない、“フリッカ”は3個中隊の中で最も補充の多い中隊だった。
危なかしい機動で冬晴れの荒れた太平洋上を低空突撃する、40機に達する戦術機の群れ。 平均高度は30mほど、先頭を行く指揮官機は恐らく、高度20m程の超低空飛行だろう。
やがて前方の水平線にうっすらと、ゴマ粒の様な黒い点が見え始め―――やがてそれは明確な地形を持った陸地へと変わった。

「距離1600で制圧支援機は全弾発射! その後、最大速度でフライパス、下方攻撃! バランスを崩すなよ? それと高度は絶対に上げるな、喰われる―――行くぞ!」

指揮官機が跳躍ユニットを、一気に最大推力まで持っていった。 遷音速度域(トランスソニック、マッハ0.75~)に達した。 遷音速であって、音速には達していない。
機体の後方でヴェイパーコーン(Vapor Cone=水蒸気の円錐)が発生する。 機体周辺で減圧(断熱膨張)が生じて温度低下が露点を下回り、水蒸気が一時爆発的に凝結したのだ。
(ソニックブームとは別の現象である。 水蒸気が一時的に、一気に凝結する現象が機体と共に移動するもので、特異なものでは無い)

『くっ・・・!』

『うわっ! うわっ!』

『ひっ・・・ひっ!』

時折、声にならない悲鳴が聞こえる。 そして・・・

『CPよりゲイヴォルグ・ワン。 フリッカ08、09、レーザー直撃。 次いで10、11、12、レーザー直撃。 ドラゴン09、10、11、12、レーザー直撃。 ハリーホーク09、10、11、12、レーザー直撃』

あっという間に13機―――大隊戦力の約1/3が失われた。 顔を顰める指揮官の耳に、また損失が広まった事が報告される。

『CPより、アイリス03、レーザー直撃。 大隊損失、14機』

レーザーが直撃したのは、いずれも高度を上げ過ぎていた機体だ。 何とか低空突撃を維持している機体は、未だレーザーの直撃を受けた機体は無い。

『CPよりゲイヴォルグ・ワン。 制圧支援機は4機が失われています、このまま続行しますか?』

制圧支援能力の2/3が失われた、もう当初の計画での制圧力は望むべくも無い。 目前に海面が猛速で迫り、このまま海に激突しそうな錯覚になる。

「・・・変更する。 距離1000mで全弾、乱数発射。 このままの高度で高速低空突撃、強襲制圧に切り替える」

『・・・了解。 突入進路を1-5-8に変更して下さい。 距離1800・・・1600・・・1400・・・1200・・・1000!』

「制圧支援、全弾乱数発射!」

たちまち生き残った2機の制圧支援機から、30数発の小型誘導弾が発射された。 それは乱数プログラムに従い、各々が複雑な機動を描きつつ、目標に向かって飛翔する。
目標から一斉に強烈な光の帯が伸びる。 そしてその光に絡め取られた誘導弾が、次々に爆発していった。

「くそ・・・まだ700か・・・!」

目標までの距離は700m、十分至近距離と言えるが、今の『戦況』ではもっと距離を詰めたい。 このまま攻撃を開始するか? それともあと300程度、距離を詰めるか?

「・・・攻撃、開始!」

指揮官は巧遅よりも拙速を選んだ。 一気に高度を100m程上げて、目標に対して全機が120mm砲弾を突撃砲から発射し始める。

『フリッカ04、06被弾! ドラゴン05被弾! ハリーホーク07被弾!』

1秒間に約90m。 攻撃を仕掛けながら700mを突破し、安全圏の高度20mでの距離3000mに達するまで約40秒強。 大隊は更に8機を喪っていた。





「目視情報を過信するな! 計器をよく見ろ! 計器は貴様らの節穴よりも、余程優秀だ!」

荒れた海面でピッチングとローリングを繰り返す艦、更には艦尾を振るヨーイングまで発生している。 全長300m近い巨艦でも、高度1000mからでは煙草の箱程度に見える。
訓練を終えた大隊は、ここまで運んでくれた海軍の戦術機揚陸艦へ着艦すると言う、ある意味でこの日最大の『試練』に向かおうとしていた。

「慌てて推力を絞るな! 失速するぞ! LSO(着艦信号士官)の指示に従え! 勝手な判断はするな!」

『その通り、こちら『八丈』着艦管制だ。 陸軍さん、いいか? 着艦手順はレクチャーした通りだ。 ボール(戦術機着艦管制システム情報)の通り、機体を持っていけばいい』

艦の左舷後方端にあるステーション(プラットホームとも言われる、着艦管制指揮所)から、着艦信号士官の声が通信回線に流れた。

『高度100、侵入速度130ノット(約240km/h)、艦の直近で高度40、速度80ノット(約150km/h)まで落とせ。 
計器に映っているだろう? ボールが送るレクチュアルのど真ん中に、機体を持っていけばそれで良い!』

陸上基地への着陸と異なり、洋上の母艦や揚陸艦への着艦は非常に難しい。 艦自体が航走している上に、波濤でローリングやピッチング、ヨーイングを混ぜた複雑な揺れをする。
更に戦術機自体、推進力と揚力の低下によるバランスの悪化を制御しつつ、慎重に艦に接近してお互いのモーメントを一致させなくては着艦が出来ない。

『心配するな、モーメントやら何やらは、システムが演算してくれる! アンタらは余計な事をせず、ボールの指示に従って機体を操縦するだけだ。
・・・だから! 余計な事をするんじゃない! やり直しだ! 跳躍ユニットを吹かせ! 最大推力でだ! 離床したら第4旋回からもう一度!』

着艦しようとした戦術機の1機が、直前で跳躍ユニットを吹かして急上昇に移った。 どうやら計器を全面的に信用出来ず、目視情報で判断して・・・着艦ラインを外れた様だ。

『こちら、ステーションのLSOだ! もう一度言う! 陸軍機! 余計な事を考えずに、計器飛行に専念しろ! 目視情報での着艦なんざ、50年以上昔に終わった!
いいか!? 不安でも何でも、計器が示す情報だけを信じるんだ! それしか正確に着艦する手段は無い! 海軍機はそうやっているんだ! よし、再侵入を許可! しくじるなよ!?』

部下達の着艦―――1隻だけでなく、都合2隻の戦術機揚陸艦へ―――を見守りながら、指揮官機は上空を旋回し続けていた。
やがて指揮下の3個中隊の着艦が終了した。 残るは指揮官と指揮小隊の4機だけだ。 改めて洋上を航行する艦を見降ろし、部下に命ずる。

「―――“アイリス”、3番機から順次着艦せよ」

『―――アイリス・リーダー、了解しました。 リーダーより各機、03より順に着艦する! 宇嶋、焦るな、艦側の指示に従えば良い! 行け!』

『りょ、了解! アイリス03、着艦、行きます!』

若干上ずった声を出しながら、1機の94式『不知火』が螺旋降下飛行で高度を下げてゆく。 やがて高度300に達した後、大きく旋回を始めた。
第1旋回―――第2旋回―――第3旋回―――艦の中心軸線上に乗った。 “アイリス”の3番機は徐々に高度を落としつつ、速度を絞り始め、そして・・・

『グーッド! 一発で決めたな! そう、それで良いんだ! よーし、のこり3機、さっさと降りて来てくれ!』

「―――ゲイヴォルグ・ワンよりLSO、了解した。 萱場、行け。 北里、もう暫く俺と旋回飛行だ」

『アイリス02、了解。 着艦します』

『リーダーより02、着艦を許可。 アイリス01よりゲイヴォルグ・ワン、了解です』





『ヨーソロー、ヨーソロー・・・よぉーし、タッチダウン! 良い腕ですよ、少佐! 海軍でも通用しますよ!』

「・・・有難う」

甲板上に緑のジャケットを着込んだ射出・着艦装置員やフック操作員、青のジャケットを着込んで牽引トラクターに乗り込んだ牽引担当員などが、わらわらと群れて来る。
それを見ながら周防直衛少佐は管制ユニットのシステムを待機モードに移し、ユニット・コクピットをエジェクトさせる。 ワイヤーに掴まって甲板に降りた。

艦のクルーが機体を固定し、艦内のハンガーまで搬入するのを見届けた後で、左舷側の連絡階段を降りる。 そのまま重いスチール扉を開いて艦内へ。
ドレスルームで強化装備を外し、軽くシャワーを浴びる。 これだけでも上級指揮官の特権だ、部下達は2日に1回しか浴びれない。
軽く身支度を整え、艦尾方向に進む。 1層下った所にブリーフィング・ルームが有る、部下達はそこにいる筈だった。 通路を進む周防少佐に、誰かが背後から声をかけた。

「・・・なんだ、鴛淵少佐か」

「なんだ、は、無いんじゃない? 周防少佐? せっかく貴方の大隊に、洋上飛行と発着艦訓練のレクチャーをしてあげているのに?」

「感謝、感激、感無量・・・」

「ムカつく男ね」

今回、海軍との合同訓練で海軍側から大隊に付けられた『教育係』は、鴛淵貴那海軍少佐だった。 周防少佐とは旧知の、海軍の古参衛士だ。

「何とか発着艦も、こなせるようになったんじゃないの? それとモニターで見ていたけれど、あんな低高度を、あんな高速での低空突撃なんて、海軍でもそうはしないわよ?」

経験あるの?―――視線で鴛淵少佐に聞かれた周防少佐が、少しだけ苦笑して答えた。

「国連軍時代、東地中海で少しだけ。 英軍の『アルビオン』に1カ月乗組んで、ギリシャからトルコ西部の侵攻阻止作戦に参加した事が有る。 英海軍の連中から散々絞られた」

「ま、英海軍の底意地の悪さだけは、相変わらず世界に冠たる、だからね・・・で、今からブリーフィング?」

「ああ、1530から小隊長以上を集めてのね。 海軍からの指摘事項は、済まないがそれまでに作成して欲しいのだが・・・」

「良いわよ。 1週間前に比べると、随分上達したわ。 なんとか洋上侵攻作戦は出来そうじゃない? 少なくとも、行って、帰ってくる程度は」

「お願いする。 出来るだけ、客観的に」

そう言うと周防少佐は、ブリーフィング・ルームに向かった。 その後ろ姿を見ながら鴛淵少佐は、不慣れな洋上作戦は、流石に陸軍の古参でも神経を使うか、と同情していた。





「・・・第1中隊、損失5機。 第2中隊、損失6機。 第3中隊、損失9機。 指揮小隊、損失2機・・・損失合計22機。 『生還』は18機・・・」

周防少佐の不機嫌そうな声が、艦内のブリーフィング・ルームに響く。 居並ぶ小隊長の中尉達が、戦々恐々とした面持ちでその声を聞いている。 3人の中隊長も例外ではない。

「・・・突入時の損失が14機。 攻撃中の損失4機、退避行動中の損失が4機」

壇上の不機嫌そうな上官が、どの時点での損失を、最も重要視しているのか。 それが判らない連中では無い。 突入時に最も多い損失を出した、第3中隊長の顔が強張る。

「・・・攻撃中の損失、そしてその後の退避行動には、その全責任は大隊長にある、諸君らでは無い。 だが・・・」

周防少佐は、そこで一端言葉を切る。 前に押し黙る様に、気まずそうに着席している部下達を見回し、そして何名かの部下を名指しで指名した。

「北里中尉、鳴海中尉、楠城中尉、城野中尉、三島中尉、半村中尉、香川中尉・・・諸君等の耳は、節穴か? 攻撃開始前に、小隊の半数を撃ち落とされている。
私は言った筈だ、『高度を下げろ』と。 レーザーの直撃を受けた機体は全て、想定高度より20mは高かったのだ。 どうなのだ、鳴海中尉? 三島中尉と香川中尉も」

最後に呼ばれた3人の中尉達―――鳴海大輔中尉、三島晶子中尉、香川由莉中尉が起立し、緊張した面持ちで答える。

「はっ! 小官の・・・指揮不足、指導不足であります!」

「部下を掌握し切れておりませんでした!」

「小官の指導の徹底不足、であります!」

槍玉に挙がった3人の中尉達は、訓練校の23期B卒者だ。 この10月1日に半期上の23期A卒が大尉に進級した現在、中尉の最古参で有り、最先任の小隊長達だった。
最古参の中尉達を敢えて槍玉にあげる事で、後任の中尉達にも事の重大さを判らせる。 少佐の部隊掌握方法はまず、上級者から叱責する。

「そうだ、諸君等の指導不足、指揮不足だ。 それが大隊戦力の大幅な減少をもたらし、制圧力不足をもたらし、強襲により更なる損失を生んだ」

周防少佐はここで初めて、表情を厳しいものにして3人の中尉達を睨みつける様にして言った。

「明日の訓練、及び明後日の訓練最終日、本日の様な様を晒さない事を、大隊長は切に願う。 諸君等に無能の烙印を押さぬ為にもな」

3人の中尉達以外の、残る4人の中尉達も、無意識のうちに背筋を伸ばし、強張った顔で頷いた。 先任達が身代わりに叱責されている事を、後任の4人も判っていたからだ。

ブリーフィングはその後も続き、作戦の実現性、その運用方法、妥当性など、様々な角度から検討され、分析された。 海軍側からの意見も添えて。
全体の作戦結果の評価では、3人の中隊長達も散々に叱責された。 そればかりか、作戦自体の妥当性においては、周防少佐自身が己の非をも、客観的に列挙して酷評していた。
全体的に言えば、部下達には各々の部隊の掌握を求め、その結果に責任を負わせる。 それ以外の作戦全般の結果は、全ての責任を少佐が負う。
訓練校を出て間もない新米少尉達には・・・上官からの命令に対する実行能力と、その結果―――突きつめれば己の生死―――だけを問う。

「権限と責任は、表裏一体だ。 各指揮官にはそれを念頭に置いて、今一度、己の責務を果たす努力を期待する―――早急に。 以上」

こうして全体ブリーフィングが終わった。 後は各中隊毎に、小隊ブリーフィングになる・・・が、その前に周防少佐は3人の中隊長達に残る様、命じた。
上官たちの後ろ姿を見ながら、各小隊長の7人の中尉達は首を竦めてその場を去った。 きっと、自分達がやられた以上の厳しい言葉が、上官を襲う事が目に見えていたからだ。





「―――大隊長、失礼します」

夜、周防少佐が宛がわれた大隊長室で書類の確認をしていると、部下で第1中隊長の最上英二大尉がノックをして入って来た。
室内で大隊長に書類の報告をしていた、本部第2係主任(情報・保全)の来生しのぶ大尉(10月1日進級、大隊副官兼務)をチラッと見る。

「ん? ああ、ちょっと待ってくれ、最上・・・来生、これと、これはOKだ。 こっちは再確認してくれ。 あと、これは牧野(牧野多聞大尉、第3係主任(運用・訓練))に・・・」

「はい、了解しました。 では、失礼します・・・最上大尉も」

「悪いね、来生大尉」

来生大尉が退出すると、最上大尉は大隊長室の脇のソファに座りこみ、少し沈黙してから口を開いた。

「・・・少佐、ご想像の通り、遠野が落ち込んでいましたよ」

「そうか・・・」

今や右腕となった、古くからの部下の言葉に、周防少佐も嘆息する。 大隊は今月に大幅な人事異動が有った。 指揮官クラスが4名、他部隊へ転出したのだ。
まず、10月1日付けで先任中隊長だった真咲櫻大尉が少佐に進級し、他部隊に転出した。 その後任として、第39師団から遠野万里子大尉が『古巣』に中隊長で復帰した。
他にも古参中尉だった宇佐美鈴音中尉、上苗聡史中尉、堂本岩雄中尉の3名が、それぞれ大尉に進級して他部隊に転出した。 
その穴は、これも少尉から中尉に進級した半村真里中尉と楠城千夏中尉、それまで小隊長職に就いていなかった城野裕紀中尉が埋めている。
全体的に指揮官の経験値、それに伴う質的な低下は免れない。 先任の第1中隊長は最上英二大尉、第2中隊長は八神涼平大尉、第3中隊長は遠野万里子大尉と言う布陣だ。

「遠野は昔から、真面目な優等生でしたしねぇ・・・それに、転出した真咲さんと自分を、どうしても比較しようとしちまっている。
どだい、古参大尉だった真咲さんと、新米大尉の遠野とじゃ、経験値の差はでかいですから・・・気にするな、って言っているんですけどねぇ・・・」

「お前さんの経験上からもか?」

「ええ、新米中隊長だった頃の『周防大尉』が、当時の大隊長・・・広江少佐から、どれだけダメ出し喰らっていたのかも、ね」

「・・・要らんことばかり、覚えていやがって・・・」

96年から97年初頭にかけて、当時大尉に進級したばかりだった頃の周防少佐は、今は統帥幕僚本部国防計画課長の藤田(旧姓・広江)大佐が率いる大隊指揮下の中隊長だった。
苦笑する周防少佐。 最上大尉はその当時、『周防大尉』が率いる中隊で、第3小隊長を務める中尉だったのだ。 上官が、そのまた上官から、どれだけ扱かれていたか知っている。

「・・・目標を明確に持って、それに向かって努力している姿勢は、遠野らしいのだがな。 だが、今はそれがマイナスに働いている。
指揮官が焦れば焦るだけ、その空気は部下達にも伝わる。 第3中隊の練度が今一つ上がらないのは、そんな空気も有る訳だが・・・さて、な・・・」

「いっそのこと、八神を見習え、と言ってやったんですがね。 そしたら遠野の奴・・・」

「止めとけ。 余計に混乱する」

こればかりは、周防少佐も苦笑する。 そして頂けない。 八神涼平大尉は陽性の性格で大隊のムードメーカーでも有り、優秀な指揮官でも有るが、真面目な性格とは言い難い。

「滑って、却って落ち込みが激しくなるぞ、遠野の性格では・・・まぁいい、その事は俺の方で何とかする。 幸い、横須賀に寄港すれば直ぐ、在日国連軍部隊との合同訓練だ」

「自信を付けさせる? しかし、向うも結構な手練ですよ?」

「あいつの古巣の、第39師団も加わる。 新米大尉が『ドングリの背比べ』だと判らせてやるのも、ひとつの手だ。 お前や八神の様には、直ぐには出来ないからな」

「ああ・・・そう言えば居ましたね、向うにも『ドングリ』が・・・」

心当たりのある1人の新米大尉の顔を思い浮かべ、迂闊だったと苦笑する最上大尉。 周防少佐とも最上大尉とも旧知の、その新米大尉は今頃くしゃみでもしている事だろう。









2001年10月26日 1500 日本帝国・山梨県 北富士演習場


『だぁ! 94(94式『不知火』)の癖に、92(92式弐型『疾風』)に本気で殴りかかってくるなよ!? 手前ぇら第3世代だろ!? こっちは『準』第3世代なんだからよ!』

富士山北麓にある面積約4,597haに達する広大な演習場。 そこで数10機の戦術機が縦横無尽に飛び回っていた。 機種は複数確認出来る。

『リンラン(鈴蘭)リーダーより『フラッグ』リーダー! 間隔が空き過ぎよ! もっと詰めて!』

『フラッグよりリンラン! 無茶言うな! こっちは最新鋭機様の猛攻を防ぐので、精一杯だ! そっちが詰めてくれ!』

『無茶言わないで! こっちもType-94の猛攻を防ぐのに精一杯なのよ!? それも2個中隊も! 殲撃11型(J-11)ならともかく、殲撃10型(J-10)でなんて、無理よ!』

『だぁ! くそ! B小隊、脚を止めるな! 突撃前衛が脚止めて打撃戦してどうする!? C小隊、10時方向から回り込め! 連中の右側面を突け!』

機数は同じ中隊規模―――12機同士だったが、相手の方が推力も機動力も上手だった。 こちらの強みは近接戦になった時の俊敏性だけ。
前衛のB小隊の内、新米の搭乗した1機が砲戦で仕留められた。 2機がかりで囮におびき出され、その側面を撃ち抜かれた。

『CPよりフラッグ・リーダー! フラッグ08被弾、全損!』

『了解! って、残り6機かよ・・・!』

『くっ・・・! こっちは5機! 向うは3個中隊でまだ30機残っているわ!』

『指揮小隊が動いていねぇ! 残り34機だ、くそっ!―――フラッグ・リーダーより『キュベレイ』リーダー! ここはもう、無理ですぜ! 引きます!』

相手の猛攻を押さえきれず、独断で後退しようとした指揮官の耳に、途端に上官の怒声が聞こえた。

『こらっ! フラッグ! まだ引くなー! あと5分保たせな!』

『無理っす! 無茶っす! 限界っす! 大隊長、お手本見せて下さい! 不出来な部下は下がります! リーダーより『フラッグ』全機! 南西に後退しろ! 続け!』

『あー! あの馬鹿ー! ええい! 『キュベレイ』リーダーより全機! 押し出すよ! ムーラン(木蘭)リーダー、一緒に宜しく!』

『・・・事前打ち合わせも何も、有ったものじゃないわね・・・ムーラン・リーダーよりリンラン・リーダー! 桂英(陳桂英(ツェン・クェンイン)大尉)、戻っておいで!』

『りょ、了解です! 申し訳ありません、大隊長!』

後方に潜んでいた92式弐型『疾風』の2個中隊プラス1個指揮小隊、そして殲撃10型(J-10)の2個中隊と指揮小隊、合計56機の戦術機が偽装を破って一気に飛び出す。
それを確認した94式『不知火』の部隊―――1個大隊―――は、目前のボロボロにされた2個中隊をそれ以上追撃せず、一旦後方に距離を取った。

『むっ!? 逃げる?―――まさかね、あいつがそんな筈、絶対に無いよ!』

『同感ね。 きっと左右どちらかに、僚隊が潜んでいるわ―――愛姫! 2時方向! 熱源反応、大きい!』

『ちい! 文怜(朱文怜少佐)! 2時方向をお願い! 私は正面の舐めてくれた馬鹿を殺る!』

『気をつけなさい、愛姫! 彼、絶対に何か隠し玉を仕掛けて来るわよっ!?』

『百も承知! 9年以上の腐れ縁よ! それよか、2時方向は・・・アンタかぁ!』

『・・・ねえ、愛姫、旦那様をボコッても、文句は言わないでね?』

『徹底的に、ボコりなさい、文怜!』

部下達が冷汗をかきながら聞いている通信回線で、2人の大隊指揮官同士が即興の作戦を組んだ。 ここから向うは、比較的軟弱な地盤が続く。 
つまり、自重の大きい94式は噴射跳躍以外での機動が、大いに制限されるだろう。 反対にこっちの機体は自重が軽い。 向うよりも俊敏性で勝る、つまり・・・

『乱戦よ! 徹底的に乱戦に持ち込みなさい!』

『殲撃の近接機動力が伊達じゃないってところ、見せてあげなさい! ムーラン全機、続けぇー!』

正面の94式『不知火』が34機。 そして側面から強襲をかけて来た同じく94式『不知火』が40機の合計74機。 対してこちらは、後退中の2個中隊合わせて67機。

『数が何よ! 機体性能が何よ! 足りなかったら頭で補えー!』

久しぶりの部隊指揮に、妙なハイテンションになっている僚友の声をげんなりしながら聞いている朱文怜少佐の目前に、これまた手強い旧知の僚友の部隊が立ちはだかっていた。




「むぅ~・・・納得いかない」

演習場側に設けられた宿舎、その一角で伊達愛姫少佐がムクれていた。 今日の昼に行われたダクト(異機種間戦闘訓練)の結果にだ。
隣で僚隊の指揮を執っていた朱文怜国連軍少佐(統一中華軍から出向中)が、苦笑している。 彼女の場合、結果はまあ、妥当かな? と思っていた。

「仕方が無いわ、愛姫。 開けた場所で94式相手に、92式に殲撃10型の混成部隊が力勝負に出ても・・・ね?」

「う~・・・それは、そうだけど・・・こらっ! 直秋!」

伊達少佐が怒りの矛先を、視線の向うに居た1人の若い大尉に向ける。 その大尉は上官の怒声に、うんざりした表情で一応敬礼しながら答えた。

「しょーがないっすよ、大隊長。 威力偵察に出たら、いきなり藪を引っ掻き廻しちまったんですから。 まさか、大隊全力で突っ込んで来るなんて・・・」

そう言うのは、帝国陸軍第39師団、第391戦術機甲連隊第3大隊、第3中隊長の周防直秋陸軍大尉(22期B)。 伊達少佐の部下だ。
その横で大隊先任中隊長の天羽都大尉(19期A)が苦笑している。 もう1人の中隊長、上條新大尉(23期A)は障らぬ神に祟りなし、を決め込む様だ。 ソロソロと離れている。

「それでも、本隊到着まで支えるのが、威力偵察の任務でしょう!? それをあっさりとグダグダにされちゃ、意味が無いでしょーが!」

「通りすがりの通り魔宜しく、大隊全力の一撃離脱でズタボロにされて。 それでも全滅せずに頑張って、本隊に報告した部下への慰労は無しで?」

「アンタに慰労なんて、百年早いっ!」

「酷っ!?」

上官と部下とで漫才宜しく、その日の訓練の結果検討をしている古巣の様子を少し茫然としながら、第15師団第151戦術機甲大隊の遠野万里子大尉は眺めていた。
そう言えば、あの大隊はあんな雰囲気だった。 大隊長の性格ゆえか、フランクと言うか、大雑把と言うか。 でも最後にはちゃんと纏まる部隊だった。
そして不意に気づく。 今、伊達少佐から酷い言われ様をしている周防直秋大尉とは、自分もドングリの背比べ―――新米大尉同士、切磋琢磨したものだと。

「部下の手に負えないんすよ!? だったら上官にお伺い立てて・・・フォローしてくれるもんじゃないっすか!?」

「だから、したじゃんか! アタシの言いたいのはね、どうしてもっと早く、それこそ通り魔に遭った時に、言ってこなかったのかって事よ!
直秋、あんた、自分が大隊全力の攻撃を、僚隊との2個中隊で防ぎ切れる程の腕が有ると思ってんの!? アタシには無いよっ!?」

「・・・無いっす。 無理っす。 スンマセン、頼るタイミングを間違えました・・・」

その言葉に伊達少佐が嘆息する―――そして少しばかり、柔らかな表情になって言った。

「いい? 直秋。 私は部下にそんな全能を期待しない。 そんなの、無理。 私だって出来やしない。 だから無理って判断したら、直ぐに私に言いなさい。
私は―――私は大隊長だからね。 あんたよりずっと多くの戦力を掌握しているんだ、あんたの窮地を打開できる戦力をね。 無理せず、もっと頼りな? ん?」

「いやまあ、頼るのは頼りますよ。 今回はタイミングを間違えたって事で・・・」

「・・・何でもかんでも、は、駄目だからね?」

「・・・ちぇっ」

(・・・無理と判断したら、上官を頼る・・・部下に全能を期待しない・・・自分もそのような事は、無理・・・)

遠野大尉の脳裏で、その言葉が繰り返し、繰り返し、リフレインする。 そして不意に思い至った、自分の上官も、同じ事を言っていたのだと。

(『―――遠野、気張りすぎるな』)

(『―――それは、貴様が判断する事じゃない』)

(『―――焦るな、部下が委縮する』)

(『―――生真面目も良いが、時に毒だぞ?』)

自分の上官は―――周防少佐は、今も面前で部下達と騒いでいる伊達少佐の様に、直截的な言葉で感情を込めて話す人じゃなかった。
少なくとも、部下達の中で上級者へは時に厳しい態度を取る人だった。 だけど、部下の事を見ていない訳じゃ無かった。 それは指揮小隊長として接して来て良く判った。

(・・・あは。 どうしてこんな事で・・・私も、たいがい馬鹿ね・・・)

相変わらず騒がしい伊達少佐の部隊の面々に背を向けて、その場を出る。 通路に出た途端、次席中隊長の八神涼平大尉が壁を背にして突っ立っていた。

「・・・よう。 その顔だと、ようやく判ったかい? 最上さんが見に行けって、煩くてよ・・・」

「・・・気を揉ませてしまいました、済みません」

苦笑気味に答える遠野大尉に、八神大尉はどこか気恥ずかしげに話し始めた。

「俺の独り言だけどよ、『明星作戦』で惚れた女が死んじまった野郎が居た。 随分落ち込んで、自棄になって・・・クソ寒い土地で頭を冷やせって、引っこ抜いたお節介が居た」

恥かしいのか、自分の顔を見ずに話す八神大尉の横顔を、遠野大尉はじっと見つめながら聞いていた。

「なんやかんやと、クソ忙しかったな。 初めて中隊を任されて、右往左往したもんだ。 散々怒鳴られて、ダメ出し喰らって・・・でも、無茶はさせても無理はさせない人だった。
時には夜の街に繰り出して、朝まで痛飲したりな。 おかげで家庭争議になりゃしないかと、こっちが心配したもんだけどな・・・」

ああ、そう言えば・・・あの頃は、時々困った様な、弱った様な表情をしていたわね。 多分、奥様から叱られていたのね、きっと。

「・・・まだ、惚れた女の事は忘れられていないけどよ・・・誰かの前で、腹の底から溜まった言葉を吐く事は覚えたさ。
同時にな、自分じゃどうしようもない事が有るって事も、それは普段の任務でも同じだってことも覚えた。 そん時は、誰かに頼れば・・・協力し合えば良いんだ。
その内に、身の丈が服に合う様になる。 中身が階級章に合う様になる。 誰だって最初は新米さ、お前も最初はそうだったろ? 指揮官も同じってな・・・」

それにしても意外だった、まさか八神大尉がこんな・・・そして少し可笑しかった。

「・・・そうですね。 何せ、八神大尉は一番、周防少佐に『甘えて』いた人ですしね」

「・・・ひでぇ言い草だ」

2人の大尉は、どちらからともなく、笑いあっていた。






「ああ、今夜は気分が良いわ・・・」

「だからって、勝利の美酒が有る訳じゃないけどな」

「あら、圭介。 そこは気分よ? この所、訓練じゃ文怜の部隊に引っ掻き廻される事が多かったし」

「腕が上がったな、彼女も」

「直衛、あまり愛姫を苛めちゃダメよ? すごく悔しがっていたわ、今頃彼女の部下達は、貴方を恨んでいるわよ?」

「自分の未熟」

「もう!」

今日の昼の戦闘訓練では、最後の『隠し玉』として趙美鳳国連軍少佐(統一中華より出向中)の大隊が、後背から強襲を仕掛けて伊達少佐と朱少佐の2個大隊を壊滅させた。
3対2だったが、伊達少佐と朱少佐の僚隊はその時、事前計画通り迂回侵攻中で咄嗟の状況変化に間に合わなかったのだ。 結局は各個撃破されている。

「この訓練が終わったら、いよいよ『甲21号作戦』に向けての最後の出師準備ね・・・」

「やっと作戦骨子が纏まったしな。 兵站は事前に集結させていたらしいけど」

「あの大兵力用の兵站量だろう? お陰であちこちの駐屯部隊で、品薄状態らしい」

趙美鳳少佐と、帝国陸軍の周防直衛少佐、長門圭介少佐の3人が、上級将校用の集会所で談話中だった。
周防少佐の部隊も、長門少佐の部隊も、そして趙少佐の部隊もまた、何らかの形で『甲21号作戦』に参加する事が決定している。
最もこの作戦、現時点では部隊では大隊長以上、後方や本部では少佐以上の参謀や課員しか知らない。 少なくとも大尉以下の将校は、まだ知らされていない情報だった。

「明星作戦以来・・・ね。 大規模作戦は」

「俺達はマレー半島で、結構でかい戦争をしてきたけどね」

「軌道降下兵団無し、ハイヴ攻略無しの、純粋な阻止作戦だけどな」

とは言え、決して片手間に出来る作戦では無かった。 ガルーダスの参加兵力17個師団、国連軍5個師団。 日本帝国も3個旅団を派兵した。

「ミン・メイが居たそうね、無事で良かったわ・・・」

それでも、実戦経験豊富な、今や古参の前線指揮官である彼等にとっても、『甲21号作戦』は乗るか、反るかの大博打に思えてならない程、困難な作戦だった。
誰ともなしに黙ったその場に、1人の人影が見えた。 3人の少佐達を見つけて―――正確には周防少佐を見つけて、規則正しい足音を響かせて歩み寄る。

「―――少佐、周防少佐」

営内作業着―――迷彩服2型―――を着込んだ女性将校、遠野万里子大尉だった。 長門少佐と趙少佐が、興味津津、面白そうな表情で周防少佐と遠野大尉を見ている。

「・・・何だ? 遠野」

僚友たちの腹の中が解ってしまった周防少佐が、少しだけ固い声色で部下に聞き返す。 が、当の遠野大尉は気づかない。

「少佐・・・今後は、私も目一杯、甘えますので!」

一気にそれだけを言うと、遠野大尉は一礼して直ぐ、首筋まで真っ赤に染めて、足早に去っていった。 後にはポカンとした表情の周防少佐。 そして・・・

「あらあら・・・直衛、昔と変わらないわね、貴方って・・・」

「あ~あ・・・せっかく昔、国連軍時代のお前の悪行について、俺がお前の嫁さんに弁護してやったってのになぁ・・・」

茫然とその薄路姿を見送っている周防少佐には、2人の僚友の冷やかし75%以上のそんな言葉など、耳に入ってはいなかった。 
周防少佐としては、恐らく今のセリフを聞いていただろう、この集会所にいる他の上級将校達(妻の知り合いも居る)の『勘違い』をどうやって正すか。 それが大命題だった。




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