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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 伏流 帝国編 最終話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/19 23:03
2001年5月11日 0415 マレー半島東岸 タイ王国・チュムポーン県中部 ガルーダス北部第2軍司令部


轟音と共に、無数のヘリが飛び去っては飛来し、また飛び去ってゆく。 世界最大の大型軍用ヘリ・Mi-26が機外ハードポイントに4個の補給コンテナを吊り下げ、着陸する。
飛来したMi-6ヘリは機外に2個の補給コンテナを吊り下げると同時に、機内に整備要員2個小隊・60名を収容していた、ゆっくり、ゆっくりと高度を下げて来る。

「―――移送完了予定は?」

「―――3時間20分後になります」

大東亜連合軍・北部第2軍司令部で、軍司令官のタイ陸軍大将が、参謀長の南ベトナム軍中将の応答に無言で頷いていた。
3時間20分後―――良い数字だ、夜間、それも緊急のやっつけ輸送作戦、それでその時間ならば。 問題はそれまでの間、最終防衛線前に屯しているBETA群が動かなければ・・・

「―――現在、西海岸からの個体群も、続々と東海岸に集まりつつあります。 しかしBETAの進撃速度、及び第2防衛線と最終防衛線前の日本軍よりの報告では・・・」

「―――うん。 『BETA群、集結は4時間後の見込み』か・・・ 時間を稼げるのは有り難いが、その代わりに5万近い大群を一手に引き受ける事になるな、連中は」

「―――国連軍の苦戦を座して見ているよりも、展開できる戦力は展開させる事に吝かでは無い・・・クラ海峡防衛軍集団司令部の回答は、見物でしたな」

「―――普段の確執、今回も最後尾に籠った事への当て付け・・・まあ、実際に出来る事は、こんな事しかないのだがな」

ここ、北部第2軍だけでなく、北部第3軍でも、稼働戦術機戦力の後方移送が急ピッチで行われていた。
今やBETA群は第1防衛線の前後に姿は無く、既に第2防衛線を破って最終防衛線前に集まり始めていた。 
この状況で使える戦力―――戦術機戦力を、交通網分断を理由に遊ばせては、後々の国連軍からの難癖を回避できない。
第2防衛線後方に退避した北部第2軍・北部第3軍司令部は、上級司令部であるクラ海峡防衛軍集団司令部からの緊急命令により、第1防衛線で生き残った戦術機戦力を後送する。
それは戦術機単体だけでなく、支援部隊―――整備・補給・通信・衛生―――そう言った部隊をも、一気に後方へ空輸移送しようと言うのだ。

現在、BETA群が集まっている、或いは集まろうとしているマレー半島中東部沿岸付近は、平坦な地形が多く、その周囲も精々が標高200m程の低山地帯が続く。
例え重光線級に頂きに陣取られても、その地平線見越し距離は精々60km前後。 第2防衛線から南のBETA群集結地までは30km程の距離がある。
だから高度100m前後の低空飛行ならば、例え航空機やヘリでの飛行であっても、レーザー照射を受ける可能性は限りなく低い(はぐれの光線属種が居れば危険だが)
上昇危険限界高度は、第2防衛線に近づくにつれて下がって行くから、空輸部隊は事前に受けた情報に従い、徐々に高度を下げて第2防衛線まで器材と人員を空輸する事になる。

「―――最低限の警戒部隊を除いて、第1、第2軍団からは戦術機24個中隊。 無論、定数割れですが194機を。 第5軍団(北部第3軍)からは10個中隊・84機を。
併せて278機を後ろへ移送させます、これに第2防衛線での生き残りが30個中隊に、最終防衛線に合流した日本軍を含む従来の第2防衛線戦力が48個中隊・・・」

合計112個中隊。 定数割れを考慮しても、930機近い戦術機が南北に再集結する事になる。 第2防衛線に残された戦術機戦力は18個中隊のみ、完全に警戒部隊だ。
大戦力だが、戦闘開始前―――あの地震の前には216個中隊があった事実を考えれば、約半数近い数の戦術機甲中隊が消滅した事になるのだ。

他に最終防衛線まで押し上げて来た(ようやくの事で!)国連軍は、東南アジア少数民族出身者で固められたUN第121、第122、第123の3個師団。
他にフィリピンがマレー半島に唯一派遣している大規模戦力である、フィリピン軍第7師団。 生き残りが日本・ハワイ・オセアニアに分散している韓国軍からは、第25師団。
合計5個師団の戦術機甲戦力が、45個中隊(各師団は1個戦術機甲連隊を編成に含む)。 他に先行上陸を果たした、日本帝国海軍第22聯合陸戦団の3個戦隊(大隊)の9個中隊。

現在はBETA群の北に64個中隊・548機と、南に102個中隊・1194機の、総数で166個中隊・1742機。 これに半島の東西洋上に集結しつつある、戦艦を含む各国艦隊。
北側は統制のとれた支援砲撃は望めないが、南側からはかなり濃密な支援砲撃を行える体制が、着々と整いつつある―――もう少しの時間を与えられれば、ようやく反撃が可能だ。

「―――大地震に、交通網の分断、相互支援の断絶。 そのタイミングでのBETAの襲撃。 悪い事が悪いタイミングで、次々と発生したが・・・どうやら悪い厄は全て落とせたかね?」

「―――そう、信じたいですな。 前半戦は、連中の完勝でした。 しかし、後半戦は我々の番です。 
それよりも、シンガポール(大東亜連合理事会所在地)は米国の圧力を跳ね返した、そう言う事ですかな?」

米国が極秘の外交ルートで、クラ海峡の一時放棄と、その再奪回計画を大東亜連合へ打診していた事は、軍の高官の間では公然の秘密だった。
確かに米軍の全面支援を受けられれば、その案もまた可であっただろう。 純粋に軍事の面で考えれば。

「―――アメリカの紐付きになる事は、それだけは、ガルーダス各国、全国民が承服せんだろうね。 それと、日本との付き合いもある」

「シンガポールの日本帝国大使は、連合理事達へ連日連夜の折衝で飛び回っていたらしいですな」

「ここで、我々がアメリカの紐付きになってしまえば、日本は南からの脅威―――BETAよりも、国際政治の―――に、対抗し切れない、それは確実だからね。
日本企業の更なる工場移転、或いは新設稼働と、それに伴う現地大量雇用。 勿論、雇用条件の大幅な日本側の譲歩・・・我々もまた、食っていかねばならない」

ガルーダスは何も、全くの善意で日本と付き合っている訳ではない。 そして日本もまた同様。 様は生き残る為には、どこと、どの様な利害関係を結ぶかだ。
その結果が、ガルーダスが米国の提示案を撥ね付けた事と、今やBETA群の最前線に立った最終防衛線に日本軍が含まれる事への、緊急の戦術機戦力大移動支援に繋がる。

「スポンサーのご機嫌は、誰しも取っておかねばなりません」

「スポンサーもまたしかり、だよ。 最新鋭機はなるだけ、後ろに回してくれ。 警戒部隊はF-5Eでも十分務まる」

「承知しております。 F-18、F/A-92、生き残りは根こそぎ、後方へ移します」

また1機、ツインローターの轟音を立てながらMi-26が、整備装備が満載されたコンテナを吊り下げ、機内に整備要員を満載して飛び立っていった。
中には補給コンテナを背中に背負った、戦術機回収機(老朽化した第2線級機体を改装した、工兵隊使用の元戦術機)が1個中隊、運搬役宜しく飛び立って行くのも見える。
使える手段は何でも使ってでも、この交通網が分断された状態で唯一、有効な機動打撃戦力たり得る戦術機戦力を、1機でも多く後方へ―――これもまた、戦争だった。









2001年5月11日 0430 マレー半島 タイ王国・チュムポーン県北部・ドンヤン西方20km バンラン・タッポーン 日本軍南遣兵団仮設基地


「―――第1中隊、完全損失4機。 小破修理中が1機。 第2中隊の完全損失3機、小破修理中1機。 第3中隊、完全損失3機、中破戦闘不能1機・・・」

副官の来生中尉が、まとめた大隊の損害状況を説明している。 声が乾いている、大隊戦力の25%が完全に失われたのだ。 隣の情報幕僚の向井中尉が、新たなペーパーを手渡す。

「小破機の2機は、あと1時間で戦列復帰が可能です。 大隊稼働戦力、第1中隊8機、第2中隊9機、第3中隊8機、指揮小隊4機・・・合計29機です。
この他、兵団予備から戦闘序列に含まれた第4中隊は、完全撃破2機、要修理1機。 この1機は、戦列復帰は不可能です、稼働9機。
ヴァン大尉の南ベトナム軍中隊は、完全撃破2機に大破1機の稼働9機。 合計で47機が戦闘団の全稼働戦術機数となります」

作戦開始前、5個中隊と1個指揮小隊とで、64機を数えた戦闘団戦術機戦力。 その内の17機が完全撃破されるか、中大破で戦闘参加が不可能となった。
衛士の戦死14名、重傷者3名。 損耗率25.56%・・・臨時の仮設基地に移動して、ようやくの事で強化装備を脱いだ周防少佐は、報告書に並ぶ数字を無感情に読んでいた。

5月11日の0430時、戦闘開始から8時間が経過していた。 遅滞防御戦闘を繰り返しながら、何とか後方の友軍に合流して収容された。
その後すぐに、機体の消耗状況を整備隊に確認させるとともに、他の指揮下部隊の状況確認に飛び回り、上級司令部への報告を纏め、部下へ休息を取るように命じ・・・

「・・・8時間の積極的防衛戦闘で戦術機は25%、機装兵は18.2%の損失。 戦闘車両・自走砲やロケット砲は、各1輌の損失。 悪くない数字だ」

周防少佐のその言葉に、脇で控える来生中尉の肩がピクリと震えた。 悪くない数字、そう言った。 25%の戦術機、18%の機装兵の損失を、大隊長は『悪くない数字』だと。
戦死した14名の衛士、その中には10名の大隊所属の衛士達も含まれる。 機装兵は2個中隊・560名の定数の内で、102名がBETAに喰い殺された―――『悪くない数字』だと。

「・・・116名の命は、失うに値する数字と言う事でしょうか?」

情報幕僚の向井奈緒子中尉が、乾いた声で聞いてきた。 普段はその様な事は言わない向井中尉だったが、今回は僅か半日の戦闘で、戦闘団で20%もの損失を出した。 
その事への上官の反応が冷淡過ぎるのではないか、一瞬、そんな感情が生じた。 向井中尉自身は、小隊長の経験も無かった。 傍らで副官の来生中尉が無言で見つめていた。

無味な数字―――人間の人生が終わった数―――が書き込まれた書類から顔を上げた周防少佐が、チラッと部下の顔を見た後で、また無感情に言った。

「―――失うに値する。 彼等はその失った命で、防衛線を守った。 そしてこれからもまた、命は失われる」

―――戦争とは、膨大な資源の浪費の場であり、その中には膨大な数の人命もまた、同様に浪費される。

軍隊と言う国家の暴力装置の中で、特に実戦を経て人がましい、それなりの地位まで上がって来た者にとっては、それは必然だった。
将官達はそれを常識以前の必然と捉え、佐官達は受け入れるべき必然と捉える。 それは彼等の経験であり、付きつけられる現実であり―――詰まる所、それ故に生き残って来た。
同僚や部下の死に直面し、苦悩して自己の中で納得の(いや、自分を信じ込ませる為の)何かを見出そうとするのが、尉官や中堅・新米の兵達だ。
古参兵は―――特に甲羅に苔むすほどのベテラン下士官たちは、およそ将官達に似た、醒めた現実感を持っている。

「支援部隊以外の各隊に通達。 1時間交替で半数ずつの大休止・・・仮眠を取らせろ。 2時間後に各中隊長と小隊長は、ブリーフィングに集合。
整備隊には2時間半で整備を完了させろ、と伝えておけ。 状況から見て、3時間後には戦闘が再開される公算大だ。 旅団本部に行く、来生、来い。 向井、何かあれば知らせろ」

素っ気なく臨時の戦闘団本部―――野外テントを出てゆく周防少佐。 それに付き従いながら、副官の来生中尉が目線で、向井中尉に何かを合図していた。
2人が出て行った後、向井中尉は先程、来生中尉が視線で示した場所を振り返った。 そこにあるモノを見た、大隊長の仮設の執務机―――山積みの書類の中にあった。

『―――拝啓前略、御免下候。 御令息名誉の戦死を遂げられし事、御承知為れしも、邦家の為とは云へながら、御両親様始め御家内様、何程か悲歎の事と御察し致します・・・』

『―――御愁傷はさる事乍ら、強いて御諦め下されし御令息の御冥福を祈らるる事こそ、御遺志の存する所と・・・』

それは、戦死した部下1人1人の、残された遺族に対して、周防少佐が直筆で書き綴った、お悔やみの手紙だった。
普通ならば、ただ単に『名誉の戦死』の通知が配られるだけ。 残された遺族はそれだけで、息子や娘、兄弟や姉妹、父母の死を認めねばならない。
家族の死の様子を(正確には書けないが)知らせ、同時に丁寧なお悔やみの言葉も添えられた部隊長からの手紙は、遺族にとっては哀しい手紙であると同時に、感謝の言葉も無い。

手紙は全部で14通。 日本語で書かれた物が10通と、英語で書かれた物が4通。 他に似たような文面だが、まだ書きかけの手紙が100通ほど―――散乱していた。

―――向井中尉は、それをそっと、整理した。






「防衛線陣地が、果たして役に立つかな?」

兵団司令部会議の席上、第15旅団長の藤田伊与蔵准将が、呟く様に疑問を呈した。 

「だが、運動機動戦だけでは、BETAを殲滅出来ん。 それは判っておるだろうな、藤田君」

横合いから僚隊である第10旅団の旅団長・能上佐門准将が、藤田准将の言葉にこれまでの戦訓を滲ませた言葉を返す。
その場に居並ぶ高級指揮官・幕僚達―――兵団参謀長の熊谷岳仁准将、第10旅団副旅団長の遠野明彦大佐、第15旅団副旅団長の名倉幸助大佐―――が唸る。
他にも兵団参謀の大佐や中佐達。 第10、第15旅団参謀の中佐達もまた、藤田准将の言葉と能上准将の言葉、双方に理有り・非有り、と悩んでしまう。

マレー半島中部東海岸線に集結しつつある、約5万近いBETA群に対し、南方を主防御線とした10個師団(日本軍陸海軍陸上戦力は、師団相当)を主力とする防衛線を再構築した。
他に側面防御・予備兵力として、ガルーダスの8個旅団。 後退の際や、大混乱の最中での強行前進でのあれや、これやは有ったが、一応の戦力は整った。
それとは別に、北方には生き残った第2防衛線各部隊を核とした、拠点防御(地図上ではある程度の『面防御』に近い)地点を確保した。

確かに急ごしらえの防御線にしては、見事なものだった。 極力相互支援が可能な様に考慮された防衛線は、どこでも2箇所以上の拠点から突入して来るBETA群を叩ける。
しかし、本当に事前の想定通り上手くいくだろうか? 例えば師団と師団の境界線の受け持ちは? 同国軍では無く、他国軍同士が隣り合うこの状況で?
ガルーダス―――大東亜連合と言えど、結局は域内『協同』体だ。 大家と店子、国土を維持している国の軍と、亡命政府の軍の集合体に過ぎない。
恐らく今まで通り、BETA群は幅広い範囲で圧力を同時にかけて来るだろう。 必ず2箇所か3箇所は、そうした『ほつれ』の場所が出て来る。

「―――戦術機戦力で、塞ぐ?」

「おい、馬鹿を言うな。 専門外の俺でも判る、連中は機動打撃力に特化した兵種だ。 粘り強い防衛戦闘には、最も不向きだぞ?」

第10旅団先任参謀の神部章仁中佐の言葉に、第15旅団副旅団長の名倉大佐が呆れたように言う。 名倉大佐は『明星作戦』で、戦術機甲連隊を率いて戦った経験があった。

「・・・仮に師団と師団の間、その後方に旅団や連隊戦闘団で塞いだとしてもだ。 所詮は旅団に連隊だ、師団程の抗甚性は無い。 それにそんな潰れ役、誰が引き受ける?」

第10旅団副旅団長の遠野大佐もまた、防衛線構築には懐疑的だった。 第一、日本帝国軍はBETAの本土侵攻以来の苦闘の中で、一体何度、防衛線を食い破られてきた事か!
高級将校達が皆、一様に呻いたその時、それまで発言を控えていた兵団参謀長の熊谷准将が席から立ち上がり、戦略地図―――マレー半島中部―――を指して説明を始めた。

「―――確かに、防衛線に籠っての防御線は諸君の危惧する通り、困難を伴う。 しかしながら運動戦もまた、それだけに固執する事は愚の骨頂―――動き回るだけではな。
諸君、思い出したまえ、本土防衛戦を。 あの時、本当に何が必要だったのかを―――鉄量だ。 鉄量、これあるのみ。 戦場に必要な物は鉄量、そしてそれを生かす為の状況だ」

そして最後まで無言だった、南遣兵団長・竹原少将が口を開いた。

「諸君―――本職は兵団長として、ガルーダス北部第2軍司令官、プレーム・チナワット大将閣下に意見具申を行った。
チナワット閣下はそれを是とされ、クラ海峡防衛軍集団司令官、ザビド・アフマド・ザイナル大将閣下へ意見具申された」

そこで一度、言葉を切る。 そしてマレー半島中部東海岸を含む一帯を、地図上で指差しながら、居並ぶ部下・幕僚達を見据えて続けた。

「先程、参謀長が言った通りだ。 戦場に必需は鉄量。 いかなる時もこれは変わらん、そしてそれを生かす為の状況を作り上げる事―――ならば、必要な事は何か?」

「―――未だ中部山岳地帯に張り付いている、光線属種の排除」

真っ先に、第15旅団長・藤田准将が口を開く。

「BETA群を必要以上に、南部へ誘引しない―――北部の第2防衛線への援護、及び側面支援」

第10旅団長・能上准将が続けた。

「南遣兵団全体では、タイ=ミャンマー国境地帯の山岳地帯を防衛する事―――山間部からのBETA群の浸透阻止」

第10旅団副旅団長・遠野大佐が地図を見ながら、骨の折れる仕事ですな―――そう苦笑しながら言う。

「BETA群の光線属種が固まっているのは、ここから60km程北方の山岳が平野に落ち込む付近―――ガルーダスの協同部隊は? 4人の戦術機甲大隊長を宥めねばなりませんな」

最後に、第15旅団副旅団長・名倉大佐が肩を竦めながら言う。 第10旅団副旅団長・遠野大佐が同調した。 
光線属種殲滅任務―――戦術機甲大隊長達への宥め役は、副旅団長の役目だ。 あのひと癖も、ふた癖もある若い連中を、さて、どう言って丸め込もうか?

「北部防衛第2軍と第3軍のガルーダス軍からは、30個中隊・266機が参加する。 これは陽動役だ、損害を無視した陽動だ。
南部からは我々南遣兵団の戦術機甲戦力から12個中隊・124機と、海軍聯合陸戦隊から2個戦隊(大隊)・80機を出す。 
他にガルーダスと国連軍から26個中隊・241機が参加する。 そしてこの南部からの445機で、光線属種を叩き潰す」

兵団長・竹原少将の言葉に、各指揮官・高級参謀たちも無言で聞き入っている。 壮大な、そう、壮大な犠牲を前提にした作戦だ。 だがそれ以外で『状況』は作り出せない。
竹原少将の概略説明を受け、再び兵団参謀長の熊谷准将が説明を始める。 自然の脅威、連合内の確執、国際政治故の空白―――BETAの前では、どれ程の犠牲も容認される。

「BETA群の総数、約5万。 光線属種の総数は推定で約1000体。 恐らく北部の陽動部隊は、時を経ずして全滅するだろう。
しかし、最低でも2射は稼ぐ。 彼等はそれまで全滅を許されない。 そしてその損害の引き換えに、我々は光線属種の位置情報を掴み取る」

―――まさに、鉄量を正義とする戦い。 その状況を作り出す為の犠牲は、容認されるのだ。









2001年5月11日 0755 マレー半島 タイ王国・バーンサパーン・ノーイ県南西部山岳地帯


半島山岳部にまで達する、連続して途切れない轟音の大波。 洋上から、南北の彼方の陸上から。 
次々に撃ち込まれる大量の鉄量。 それを迎撃するべく立ち上る、数百本ものレーザー照射。

『―――久しぶりに見ますよ、これだけ派手な面制圧砲撃は』

『―――そうだな、『明星作戦』以来か?』

『―――それよりも、京都防衛戦の前哨戦、大阪湾岸防衛戦の時の方が、近いわね』

部下の3人の中隊長達が、目前に展開される鉄と炎とレーザーとの、重金属雲と死の大パノラマを目に、押し殺した声で話し合うのが聞こえる。
確かに『明星作戦』や『阪神防衛戦(大阪湾岸防衛戦)』以来の、大規模面制圧砲撃だった。 口径はやや小ぶりとは言え、日本とガルーダスの艦隊合計で10隻の戦艦群。
その巨砲から叩き込まれる艦砲射撃は、壮絶の一言だ。 マレー半島の東西両岸の洋上から、ロケットアシスト砲弾が大量に撃ち込まれていた。

≪CP、ゲイヴォルグ・マムよりゲイヴォルグ・ワン。 軍集団一般命令―――『可及的速やかに、脅威を排除せよ』 北部第2軍命令―――『光線属種駆逐戦、開始せよ』≫

いよいよ始まる。 総数で1000体を数える光線属種―――人類が野戦で窮地に立たされている、その現況を排除する為の作戦行動が。

≪CPよりゲイヴォルグ・ワン。 続いて兵団命令―――『各部隊は協同し、目標の殲滅に当れ。 兵団作戦区はエリアF7Rの光線属種』 
最後に旅団本部より―――『勇敢なれ』、以上です! 作戦開始、カウントダウン、始まりました! 20秒・・・10秒・・・5秒・・・3、2、1、行動開始!≫





「―――司令官、陸で光線属種駆逐戦が開始されました」

情報参謀からの報告で、陸上での凄惨な光線属種駆逐戦開始を知った日本海軍南遣艦隊・第5戦隊司令官の周防直邦海軍少将は、無言で頷いた。
そしてまた、朝日に照らされた陸岸を凝視した。 口には出していないが、あのレーザー照射と炎と砲弾の炸裂する地獄の最中で、彼の甥が戦っている事は間違いない。

「―――戦隊、針路、速度、このまま」

私人の情としては、このまま突撃して支援砲撃のひとつもしてやりたい。 しかしここでは彼も甥も公人だった。 帝国軍人だった。 ならば、その義務に殉じようではないか。

「―――海岸線に接近するのは、陸軍から光線属種殲滅の報が入ってからだ」





「―――“セイレーン”全機! 高度30! 海に突っ込むな!?」

洋上突撃、その上に飛行高度制限は30m。 もう曲芸飛行の域さえ飛び越した無茶苦茶な低空突撃を仕掛けながら、日本海軍第6航戦所属の96式『流星』80機が突進する。
後続するタイ海軍、インドネシア海軍の母艦戦術機甲部隊―――各々24機のType-84『ショウカク』はおっかなびっくりで、高度100m付近を飛行中だった。

「―――ちっ! あの高度じゃ、狙い撃ちにされるよ! “セイレーン”よりタイ、インドネシア、両戦隊に告ぐ! 高度を下げろ! 繰り返す、高度を下げろ!」

だが帰って来た返答は、『馬鹿を言うな! そこまで下げたら、攻撃前に海に突撃して全滅する!』と言う、タイ、インドネシア軍両指揮官の悲鳴の様な声だった。
やはり、協同作戦は無理か―――日本帝国海軍の長嶺公子中佐は、内心の舌打ちと同時に次善策を高回転で脳裏から弾きだす。 光線属種は? 明後日の方向へレーザー照射中。
我々の進撃方向は? BETAが固まった海岸線の北方、5km地点を目指して進撃中。 このままではやがて、光線属種の認識圏内。 ならば―――よし、仕方ないか。

「―――“セイレーン”よりタイ、インドネシア、両戦隊! 海岸線南部から進入せよ! BETA群南部を迂回して、山岳地帯へ侵入を開始!」

『―――ラジャー!』

『OK、マム!』

48機のType-84『ショウカク』が機種を転じて南へと向かう。 今頃はアンダマン海からも同様に48機のF-4・ファントムが侵入している筈だった。
ガルーダス軍も日本軍南遣兵団も、信じられないが本当の話で、海軍母艦戦力をすっかり計算に入れ忘れていた。 総数で144機だけの数だが、彼らには長く多数の槍があった。

「―――95式誘導弾は、何も日本だけが配備しているんじゃ、ないってね・・・!」

陸軍同様に、或いはそれ以上に、日本海軍はガルーダス海軍との密接な協力体制を築いている。 その中にはガルーダス軍の中で少数派の、母艦戦術機部隊への武器供与も含まれる。

「―――1機で36発。 144機で5184発。 たっぷりとお見舞いしてやるよ、待ってな、BETA共!」

早朝の洋上を、海軍母艦戦術機部隊が、超低空突撃をかけ続けていた。





「―――旅団長閣下、各砲、射撃準備、完了致しました」

「うん―――後は、竹原閣下の開始命令次第だな」

「他の2個旅団も、準備は万端、整えております。 海軍からの技術提携で新規開発した、いわばクラスター砲弾・・・それも、20インチと15インチです」

15インチ砲は過去に海軍でも有るが、しかし、これ程の超長口径砲は無い。 今回は射程680km、十分有効射程圏内。 
そこへマッハ10に達する超高速で成層圏から降り注ぐ、大口径クラスター砲弾。 1発や2発では無い、3個旅団で36門。 1分毎にこれだけの火力が叩き込まれるのだ。

「重金属雲形成は、艦隊の方で請け負ってくれますので、我々は最初から効力射で始められます」

「そうだな―――そろそろじゃないかね? 戦術機部隊による、光線属種駆逐戦は?」

「はっ―――丁度今、始まりました」






「―――ゲイヴォルグ・ワンより“ドラゴン”、“ハリーホーク”! ポイントB-220からB-228までの光線級を叩け! “バルト”はB-231からB-235!」

濃密な重金属雲の下、尾根向うに身を潜ませていた部隊を一気に突入させ、周防少佐指揮下の3個戦術機甲中隊が、光線属種に襲い掛かった。

「インターバルはあと8秒! 6秒で北西の尾根向うに退避しろ! “フリッカ”と“アイリス”は俺に続け!」

同時に直率する1個中隊と指揮小隊を率い、手近な場所に群れる10体程の重光線級へ向けて、猛速で噴射降下して行く。
網膜スクリーンに投影された、重光線級の巨体(戦術機より、若干大きいのだ) その商社被膜のど真ん中に照準レクチュアルのピパーが合わさる。
まだだ、まだ距離がある。 あの連中の皮膜は、あれでいて結構な防御力を持つ―――距離、50! 両腕に保持させたBK-57近接制圧砲から、57mm砲弾が吐き出された。
3点バースト射撃を素早く3連射。 18発の57mmAPFSDS弾の直撃を受けた重光線級のレーザー照射被膜が破れ、頭部が弾け飛んだ。

―――あと4秒。

素早く周囲を確認し、直率部隊の状況を確認する。 真咲大尉の“フリッカ”は、2機エレメントで1体の重光線級を葬っている。 既に4体を始末した。
指揮小隊の“アイリス”は、北里中尉と茅野少尉のエレメントが1体を葬った。 小隊長の遠野中尉は周防少佐機に追従して、周囲に少数残っていた戦車級の群れを掃討し終えた。

「―――掃射後、一端離脱する! 続け!」

目前の重光線級に急速に迫りつつ、直前でフルオート・モードにしたBK-57を1体の重光線級に向けて猛射した。 瞬く間に体液を撒き散らして倒れ込む重光線級BETA。
他の“フリッカ”と“アイリス”も、それぞれ4体と2体の重光線級を葬っている。 これで13体の重光線級―――このエリアの重光線級BETAの全てを、殲滅した。
轟音と共に跳躍ユニットを吹かして、次々と北西の尾根向うへ離脱する。 見れば西からも光線級殲滅任務を終えた3個中隊が戻って来ていた。

≪CP、ゲイヴォルグ・マムよりゲイヴォルグ・ワン。 目標殲滅率、68%に達しました≫

445機の戦術機が2度の強襲を行って、約680体の光線属種を殲滅した。 損害は約18%―――80機程がレーザー照射にやられている。 残り、360機と少し。

『大隊長、最後のエリア・・・北か西か、どちらかから、面制圧砲撃出来ませんかね?』

部下の第2中隊長、最上大尉が忌々しげに言う。 最後のエリアB-331からB-337のエリアは、南と東を断崖に囲まれた地形になっている。
その断崖沿いに張り付いた光線属種の群れは、南からの猛烈な砲撃も、東からの艦砲射撃からも、丁度断崖が盾になって、全く損害を受けていない。
逆に、“ゲイヴォルグ”戦闘団が強襲突入するには、西側からやや長い回廊を通らねばならない。 高度を上げれば他エリアから狙い撃ちされるからだ。

「―――残念だが、北も西も、あそこを有効射撃圏内に収めた砲兵部隊が居ない。 制圧支援機は何機残っている?」

『―――“フリッカ”は1機です』

『―――すみません、“ドラゴン”は制圧支援機、全滅です』

『―――“ハリーホーク”、1機』

『―――“バルト”です、2機健在』

都合、4機。 西から侵入して光線属種が群れる屈折部に達し、そこから北の尾根向うへと抜ける以外に攻撃手段は無い。 
どうする? 4機の制圧支援機だけでは、如何にも弾幕不足だ。 推定でエリアB-331からB-337には重光線級が16体に、光線級が100体ほどいる。
誘導弾を、全弾、乱数機動モードで全力発射。 同時に3次元高速機動に秀でた連中を率いて、弾幕射撃と同時に突入。 重光線級は無理だが、光線級の穴は開けられるだろう。

(―――その直後に、主隊を突入させる・・・前衛は、半数は喰われるか・・・?)

ならば、前衛部隊は突撃前衛上がりの、回避機動に秀でた者達を―――八神大尉、マイトラ大尉も突撃前衛上がりだ。 主隊は真咲大尉と最上大尉に指揮をさせる。

(―――指揮小隊も、主隊に組み込むか。 あの3人は支援向きの衛士だ、前衛に入れればかなりの確率で落とされる)

そして、前衛部隊の総指揮は、周防少佐自身が行う―――そう腹を括ったその時、指揮官専用通信帯に別部隊からの緊急コールが入った。

「―――ん? 誰か!?」

この、修羅場と言う時に―――思わず、そんな言葉を飲み込んで誰何する。 同時にIFFを確認、海軍機だ。

『―――誰か、とはまた、ツレナイねぇ。 せっかくお姉さんが、助けてやろうってのにね』

「・・・長嶺中佐、その言い様は、止めて頂きたいと・・・」

『―――周防少佐、アンタはアタシの死んだコレス(同期生)の弟さ。 ならアタシにとっても、弟の様なモンさ! さ、良い子だから、頭を低くしておくんだよ?』

「なっ・・・そこからっ!? 無茶だ、長嶺中佐! 光線属種から丸見えだぞ!?」

『―――これが、アタシら母艦乗りの仕事さ! いいから見てな! 全機、高度20! 突入! 突入! 突入!』

轟音と共に、峡谷の北側から数10機の戦術機―――海軍の96式『流星』の一群が、信じられない地面スレスレの超低高度を、ほぼ全速で突入してきた。
同時に光線属種が一斉にその存在を認識し、レーザー照射予備体勢に入る。 海軍機の方でも、レーザー照射警報は鳴りっぱなしだろうが、針路を変える気配は全く無かった。

『少佐! 援護射撃を!』

『海軍機が狙い撃ちされますぜ!?』

『大隊長! 発砲許可を!』

『レーザー照射、あと3秒で・・・!』

4人の中隊長達が、口々に援護射撃の許可を求めて来る。 だがその要請を、周防少佐は一切無視した。 海軍を犠牲にして、陸軍だけが生き残って戦果を―――ではない。
95式誘導弾の大量発射、その衝撃は半端ではない。 ここで身を踊り出していたら、例え戦術機だとしても、その衝撃に断崖に叩きつけられてしまうだろう。
長嶺中佐が『頭を低くしておけ』と言ったのは、何も例えでは無いのだ。 それに・・・それに、あれが海軍機だ。 あれこそが、海軍母艦戦術機甲部隊だ。

「―――黙れ」

周防少佐がそう言い放った直後、光線属種のレーザー照射が始まった。

『―――2中隊、3小隊、2機爆発!』

『―――3番機、直撃!』

『―――乱数回避を切れ! 断崖に叩きつけられる!』

『―――3中隊、7番、8番爆発!』

『―――くそっ! 1中隊10番機、激突炎上!』

地表面噴射滑走では無い、そんな『ちんたら』した突撃では全滅する。 もはや高度何10mとかでは無い。 本当に地表スレスレを残速噴射飛行で突入していた。

『―――馬鹿野郎! 高度を上げるな・・・!』

『―――やりやがった・・・! 9番機、地表に激突!』

『―――目標、800!』

通信回線に飛び込んで来る、海軍母艦戦術機部隊の怒声と悲鳴。 やがて総指揮官の長嶺中佐の声が、はっきりと聞き取れた。

『よぉし! ここからが最後の地獄だよ! 全機、ビビるんじゃないよ! 急速上昇! 高度100!―――誘導弾兵装システム、起動! ロックオン!―――逆噴射制動!―――全機・・・撃てぇ!!』

48機から、僅かな時間で32機にまで激減した母艦戦術機部隊の『流星』から、1000発を越す95式誘導弾が、光線属種の至近から発射された。
発射後の勢いのまま、一気に身を翻して離脱を計る『流星』の群れ。 直後に1000発を越す誘導弾が着弾する。 尾根向うからでさえ、凄まじい震動が伝わって来た。

ビリビリと空気を揺るがす振動と共に、通信回線から長嶺中佐の声が聞こえて来た。

『―――周防少佐、我々が手助けできるのは、ここまでだ―――お姉ちゃん、ちょっと疲れちゃったよ、あはは・・・』

「ッ! 中佐、陸軍の野戦基地の方が近い! 緊急着陸を! 機体から火が出ています!」

『・・・ちょっと、無理だね・・・下手打ったよ、最後の最後で、かすったみたいだね・・・後席はもう、戦死したよ。 アタシも・・・保たないね・・・』

「中佐! おい、海軍! 聞こえるか!? 陸軍の周防少佐だ! 長嶺中佐機を誘導しろ! 野戦基地はここから南へ50kmだ!」

『無理だよ、周防少佐・・・部下には、攻撃後は何が何でも、低空離脱しろと命じてあるんだ・・・例え、アタシが死のうともね。 アンタ・・・判るだろう?』

そう言うやいなや、長嶺中佐の『流星』は中空で機体を急転させて、一気に噴射降下に入った。

『だからさ・・・あの、残った重光線級・・・あの1体だけは、道連れにしてやるさ・・・後は光線級が・・・ひい、ふう、みい・・・11体だけ。 自分で何とかするんだね』

「くっ・・・!」

『じゃあね・・・思えば、結構長かったね、アンタとも。 向うで、アンタの兄貴と酒でも飲んでいるさ・・・アンタは、まだ来ちゃダメだよ・・・むううぅぅ!!』

最後の爆発音が聞こえた。 同時に戦術レーダーから1機の戦術機の輝点と、重光線級を示した赤い点が消滅する。 その輝点が消滅した瞬間、周防少佐が吠えた。

「―――制圧支援機、全弾発射! 全機、最大出力で噴射跳躍! 続け!」


エリアB-331からB-337の光線属種が殲滅されたのは、それから僅か1分後の事だった。









2001年5月11日 1155 マレー半島 タイ王国・チュムポーン県北部・ドンヤン西方20km バンラン・タッポーン 日本軍南遣兵団仮設基地


まだ砲声が鳴り響いている。 しかし昨夜来の、どこか腰の引けた砲撃では無く、本格的に殲滅をかける気の全力射撃だった。
その砲声を聞きながら、周防少佐が仮設基地の戦術機ハンガー脇で、折椅子に座って目を瞑っていた。 時刻はそろそろ、正午になろうとしていた。
ふと、近づいて来る足音を耳にして、薄眼を開いてそちらを見る。 1人の衛士が近づいてきた。 陸軍では無い、海軍のネイヴィブルーの強化装備を身に纏っている。

「・・・ついさっき、長嶺中佐の戦死認定がされたわ。 貴方の報告が、陸軍から海軍に届いたの」

隣の折椅子に腰を降ろして、そう呟いたのは、海軍聯合陸戦団の鴛淵海軍少佐。 今回は未明からの最終防衛線構築後に、戦隊(陸軍の大隊相当)を率いて戦った。

「後席の宮部大尉の戦死認定もね―――知っている? 宮部大尉、彼女は初陣で貴方に助けられた事を?」

「―――初耳だが・・・?」

「93年の渤海湾が、彼女の初陣なのよ。 そこで機体を中破されて、戦場に残されたらしいの。 で、国連軍のコンバット・レスキューに救助されて・・・
記録を調べていたら貴方、当時はあの方面の国連軍だったのね。 『グラム中隊』、記録にはそうあったわ、レスキューを行った国連軍戦術機甲中隊のコードネーム」

「・・・グラム、か。 そうか、あの時の・・・」

過去に助けた相手が、今回戦死した。 その事に心を動かされる様な事は、最早ない。 無いのだが・・・

「総攻撃が始まったな、予備も根こそぎ動員しての、最後の締めか・・・」

「東西南北、4方向から総がかり。 ようやく仮設復旧させた道路網を使って、地上部隊の集結もほぼ終わったらしいわ」

「我々は総予備指定、つまりは『ご苦労様』だ・・・」

日本軍南遣兵団、聯合陸戦団を含む幾つかの部隊は、総攻撃には参加しない。 彼等はこの10数時間で、結構な損害の代わりに戦線を支え続けて来た。
そう、結構な損害だ。 周防少佐の大隊だけでも、10名の衛士が戦死し、2名が負傷した。 実に1個中隊分の戦力が失われたのだ。

「・・・兵団司令部で、小耳に挟んだ。 どうやらガルーダスを繋ぎとめておく事が出来そうだと」

「政治よ、政治・・・イヤんなっちゃうけど、それが現実よね。 私も、貴方もね・・・」

死んで行った部下達の顔が、脳裏をよぎる。 彼らだけではない、昔からの知り合いだった海軍戦術機部隊の指揮官の顔も・・・

「・・・ガルーダスからの出張組も、母国軍に戻って行った。 親部隊が壊滅した連中もいるがね」

ヴァン・ミン・メイ大尉、レ・カオ・クォン大尉、サハリナ・プラダン大尉・・・臨時に戦闘団に組み込まれ、昨夜来から朝方にかけて、共に戦った。
そして彼等もまた、どこかでこの砲声を聞いているのだろう。 湿った熱い風が吹いた、砲声と共に、南国の甘酸っぱい空気を運んで来た。

「・・・これもまた、日常か」

「そうね・・・日常ね」

照りつける南国の太陽の陽が、濃い陰影を作る。 遠くで砲声が鳴っていた。 2人の陸海軍の少佐は、巨木の木陰でその音を黙って聞き続けていた。









2001年5月30日 1530 日本帝国 帝都・東京 千住 周防家


「・・・お帰りなさい、あなた」

「ただいま。 子供達は・・・?」

「ふふ、お昼寝よ」

そっと襖を開けると、2人の赤ん坊がスヤスヤと眠っていた。 時々、寝返りを打つ仕草が愛らしい。

「もうすぐ、1歳か・・・」

「お義父さんも、お義母さんも・・・ウチの両親も、盛大にお祝いを、って言ってくれているけれど・・・このご時世でしょう?」

「・・・良いんじゃないか? このご時世だからこそ、子供にはさ・・・」

再びそっと襖を閉め、奥の部屋で着替えをする。 軍服を脱いで部屋着に着替え、寛いだ姿で妻が入れてくれたお茶を飲む。

「・・・明日、久しぶりに実家の方へ、顔を出すよ」

「・・・? はい。 休暇は取れたの?」

「1週間ほどね。 綾森のお義父さんやお義母さんの所へも、孫の顔を見せに行くか?」

「いいわよ、そんな。 それでなくとも、何かと理由を付けては、孫の顔を身に来ているのだもの」

笑いながらそれだけ言うと、それ以上何も聞かずに、黙って夫の隣に座って、こちらもお茶を飲む。 元々は彼女も、野戦の将校だった。
夫が戦場でどの様な経験を、どの様な思いをしてきたか・・・そんな事は聞かない。 聞かずとも良い。 生きて還って来た、それだけが大切な事なのだから。

「・・・1歳か。 これから、2歳、3歳・・・」

「まだまだ、これからですから。 頑張ってね、お父さん?」

「・・・頑張りますよ、お母さん」




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