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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 伏流 帝国編 7話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/30 18:53
2001年5月10日 1800 マレー半島 大東亜連合軍・マレー半島第1防衛線 大東亜連合軍・北部第2軍第1軍団・タイ王国軍第5戦術機甲師団第51砲兵連隊


『FO(前進観測班長)よりFDC(砲兵大隊射撃指揮班)! 座標1520-2350! 標高200! 観目方位角4700! オーヴァー!』

『BETA群、射撃中のATM陣地正面、180! 縦深不明! 効力射には92CTV! オーヴァー!』

『FOより射撃要求! 修正射、座標1520-2350!』

『大隊長! FOから要求のあったBETA群を、速やかに制圧する必要がありますっ! 1中隊の修正射、効力射には92VT! 弾数10発を撃ち込みます!』

『修正射! 基準砲、M557、装薬白6! 方位角1058、射角320! 各個に撃て!』

『・・・よ~い、撃えっ! 基準砲、初弾発射!』

『戦術機甲連隊より要請! 座標1680-2905! 大隊規模BETA群への、突撃支援射撃要請です!』


連続する砲撃音、腹に響く発射の衝撃波を残して、203mm、155mm榴弾砲がバースト射撃で、1分間に4発と言う高い発射速度で撃ち込まれる。
向うで甲高い飛翔音を上げ、虎の子のMLRS大隊から227 mm ロケット弾が発射された。 迫り来るBETA群に対し、懸命の突撃破砕射撃が続いている。
BETA群が来襲してから、かれこれ2時間が経過する。 第1防衛線各部隊は死力を尽くして、防衛戦闘を戦っていた。 

「ですからっ! 整地道路は各所で分断されて、我々の戦略機動が阻害されているのですっ! は? ノンプラップへの移動!?
師団長! 道路はこのハウイサットヤイから、東5kmの地点で寸断されています! 周りは走破不能な不整地です! 逆に我々が、孤立してしまっているのですぞっ!?」

タイ王国陸軍・サリット・タナラット砲兵大佐は通信機越しに、事態を把握しておるのか疑ってしまう上官に向かい、噛みつく様に怒鳴っていた。
タイ王国軍第5戦術機甲師団の所属する、大東亜連合軍北部第2軍第1軍団の正面には、BETA群3派のうち最大数のマンダレーA群の内、約2万1000が殺到して来たのだ。
幅50kmに渡る担当戦区を守るのは、第1軍団のタイ軍第4師団、第5師団、第15師団の3個師団。 しかし重圧に耐えかね、第4師団と第5師団との間を抜かれかけている。

それだけではない、第1軍団の東に隣接する第2軍団とを繋ぐ道路が、大地震のお陰で数箇所に渡って寸断されてしまった。
工兵隊が復旧さそうにも、余りに最前線に近過ぎて復旧作業が出来ない状況だ。 工兵とはスペシャリストの同義語だ、養成に長い時間がかかる。
彼等はBETAに対して有効な防御火力を持たない、戦術機甲部隊も、機械化歩兵装甲部隊も、直接打撃戦力はBETA群との混戦状態。 機甲部隊も突撃破砕射撃と言う有様だ。

「最早、戦況は前進支援射撃でも、突撃支援射撃でもありません! イニシアティヴは完全にBETA共に握られました! 突撃破砕射撃! 突撃破砕射撃なのですぞ、師団長!」

片耳に受話器を当てて片耳を塞いで、目を血走らせるタナラット砲兵大佐が再び怒鳴る。 彼の砲兵連隊は砲弾残量など、気にする贅沢も与えられない状況で、猛射を強いられている。
非常に不味い状況だ、第4師団と第5師団の間隙を埋めようと、後方から第15師団が戦線を押し上げ塞ぎに掛った。 しかしその為に、隣接する第2軍団との間隙がガラ空きだ。
第1軍団もBETA群、A群の一部と重慶C群、約1万9000体を迎え撃っている。
こちらはミャンマー軍主体だが、BETA群はA、Bの両群が1万程度の4群に分散し、波状侵攻して来ていた。 タイ軍とミャンマー軍との連携が、混乱で乱れている。

「ミャンマー軍第10師団の砲兵部隊に、突撃破砕射撃を要請出来ないのですか!?」

『無理だ、連中もA群、B群の約半数、約1万9000の波状侵攻に晒されている! 主正面はホアヒンとヒムレックファイの間だ、BETA共、最も平坦な場所に集中している!』

第2軍団―――ミャンマー軍3個師団は、その主正面防衛に必死だ。 軍団予備のミャンマー第10師団もまた、タイ第15師団同様に最前線の穴埋めにしゃかりきになっていた。

「第2軍団との間を突破されると、第2防衛線まで遮る防衛線力は有りませんぞ!?」

『判っておる! 軍団本部は軍司令部と協議のうえ、作戦プランB-04への移行を決定した! タナラット大佐、何としてもBETA群の侵入を阻止するのだ! 連中を南へ逸らせろ!』

「っ!―――了解しました、閣下!」

南へ逸らす―――作戦プランB-04は、BETA群に第1防衛線をわざと突破させ、第2防衛線を50km程後退させる。 そして最終防衛線を50km北へ押し上げ合流させるのだ。
第1防衛線戦力はBETA群を南へと逸らした後に、その尻を追いかけて南へと戦線を下げる。 そして南北約100km程の地域にBETA群を囲い込み、南北から挟撃を掛ける。
この間はマレー半島の東西の幅が狭まり行く場所であり、必然的に戦力の集中を図る事が出来る。 さらに言えばタイ湾、アンダマン海からの海軍戦力の支援も受け易くなる。

(・・・だが、早々に上手くゆくか?)

タナラット大佐は懐疑的だった。 この作戦は南の底、つまり第2防衛戦戦力と、最終防衛線戦力とが合流する事で、非常に分厚い縦深防衛帯を東西に布陣さす事が出来る。
反面、連携が難しく(第2防衛線は大東亜連合軍、最終防衛線は国連軍が主体)、ここを抜かれたら最後、クラ海峡が丸裸になる。 文字通りの背水の陣だ。

(南部の道路状況がはっきりせぬが、こちら同様に部隊の移動は困難を覚える程だろう。 だとすれば、各所で孤立したまま各個撃破される部隊が、多数出るやもしれん・・・)

現実にこの第1防衛線でも、道路の寸断や土砂崩れなどで移動がままならず、師団内での連携すら困難を覚える。 先程、機械化歩兵(機動歩兵)1個大隊が、孤立して全滅した。

(くそう、この地獄が前世の業だとしたら、一体人類はどれ程の愚かしい因果を、輪廻転生させたと言うのだ!?)

敬虔な仏教徒だったタナラット大佐は、生まれて初めて己の信仰に疑問を抱いていた。










2001年5月10日 1830 マレー半島東岸沖10海里 日本帝国海軍南遣艦隊


『―――30ノット出ぬ艦は、後から付いて来いと言え!』

南遣艦隊司令官・城島高治海軍少将はそう一言叫ぶと、麾下の全艦艇に第5戦速(30ノット)での突進を命じた。
BETA群の南下が確認されたのが、1130時。 それから緊急出撃で泊地を抜錨・出撃したのが1300時(艦艇は車輌と異なり、即時発進は出来ない)
泊地から第1防衛線沖合まで、約162海里。 30ノットの高速で艦隊を突進させても、5時間半はかかる。

「―――タイ海軍は、続航しているな?」

CICではなく、戦艦『出雲』の夜戦艦橋に陣取った第5戦隊司令官・周防直邦海軍少将が、夕焼け空に燃える海原をちらりと眺めて幕僚に聞いた。

「はい、司令官。 5海里後方を続航しております」

「よし、戦艦『トンブリ』に『スリ・アユタヤ』―――『金剛』と『榛名』、老いたりとは言え、14インチ砲(356mm砲)16門の砲撃力は捨てがたい」

周防少将は今回、日・タイ連合艦隊の砲戦副調整官―――対地砲撃戦司令官だったから、乗艦の『出雲』、僚艦の『加賀』の他に、2隻の戦艦が加わる事にホッとしていた。
インドネシア海軍の2戦艦、『サマディクン』と『マルティダナタ』―――元々は『扶桑』と『山城』―――はずっと後方だ。 この2隻は機関を乗せ換えても、最大速力は26ノット。

インドネシア艦隊は、艦隊速力24ノットで後方を追尾中だった。 速度差6ノットでは、1時間当たり10km以上、5時間半で61km以上の距離の差が生じる。
日・タイ両国艦隊が戦場海域に到達しても、インドネシア艦隊がBETA群を主砲の射程圏内に収めるのは、更に1時間20分後と言う事になる。
城島少将は、巧遅よりも拙速を選んだ。 統合指揮官として日・タイ両艦隊の高速戦艦群と駆逐艦群を突進させ、その後を戦術機母艦群と護衛汎用駆逐艦群に追わせた。

『―――ワレ、30ノットで続航セリ』

タイ海軍戦艦部隊司令官・ソンチャエ・タライミット少将が発した電文を見た時、周防少将は思わず笑みが浮かんだ―――そうだ、海の武人は、海軍軍人とは、こうでなければな。

『CICより艦橋! BETA群捕捉! 距離、2万8000!』

『ガルーダス軍より要請! 戦区BA-115への面制圧砲撃です!』

『主砲射撃指揮所より、艦長。 弾種、九四式(九四式通常弾) 主砲発射準備、宜し』

「艦長よりホチ(砲術長、主砲発射指揮所に詰める)、了解―――司令官?」

艦長の問いかけに、無言で前方を見つめていた周防少将の右手が軽く振り上げられ、そして陸地―――BETA群に向かって振り下ろされた。

「よし―――主砲、撃ぇ!」

突如として、巨大な『出雲』の艦体を軽く振動させるほどの轟音と共に、50口径460mm砲が火を噴いた。 続航する『加賀』もまた、50口径406mm砲を射撃させる。
タイ海軍の2戦艦、『トンブリ』と『スリ・アユタヤ』からも、やや控えめな砲声が鳴り響いた。 50口径356mm砲が2隻合計で16門、一斉砲撃を敢行したのだ。

第1防衛線の北部第2軍から『我、BETA群と交戦を開始せり』の緊急信を受けた城島少将が発した返信電文、『我、31ノットで急行中』の通り、
日・タイ連合艦隊の高速戦艦群は突進を重ね、夕日が落ちる赤く燃えるタイ湾の戦場海域に突入した。










2001年5月10日 2010 マレー半島東岸 タイ王国・バーンサパーン・ノーイ県南部、チャンレク北方5km地点


『じゃあ、そっちは何とか予定地点まで、進出できそうなんだな?』

指揮通信車輌の中の、通信モニターの向こうで、僚隊指揮官の長門少佐が確認して来た。 周防少佐は各種状況を書き込まれた作戦地図を、チラッと見て頷いて返答する。

「ああ、進出は出来そうだが、その後だな、問題は」

『こっちは隣の戦区だ。 兵団予備から戦術機1個中隊を回してきたが・・・直衛、お前の大隊が抜けて、補充が1個中隊だ、計算が合わないぜ』

「苦労掛けるな・・・」

第15旅団は、周防少佐の第1戦術機甲大隊が分遣されたので、その穴埋めに兵団予備から1個中隊を回していたが、それでも2個中隊欠と言う状況だ。

『まあ、隣の第10旅団・・・左翼の棚倉の部隊と協同できる。 同期ってヤツは、こう言う時に融通が利くからな』

「一番左は、伊庭の部隊か?」

『ああ。 兵団司令部としては、俺と棚倉の2個大隊で戦線を形成させて、伊庭の大隊をBETA群の横っ腹に叩き込む予定らしい。 両翼が変わったら、伊庭の役を俺がやる』

いずれにせよ、守勢での粘りに定評のある棚倉少佐が指揮する戦術機甲大隊を中心に、両翼を長門少佐か伊庭少佐か、どちらかの大隊で叩く予定の様だ。
無論、第10、第15の各兵科部隊、それに兵団直轄の各連隊も加わり、戦線を形成する。 残る3個の独立戦術機甲中隊は、最後の予備兵力として手元に残すようだ。

『で、どうにも右翼が寒い。 お前のトコとこっちと、その間はどうなっている?』

周防少佐指揮の分遣戦闘団と、第15旅団との間隙の事だ。 側面が空いているのは、互いにゾッとしない。 本来ならガルーダスか、国連の部隊が埋めるのだが。

「最終防衛線部隊は遙か後方、サウィーの北15km地点で立ち往生だ。 南ベトナム軍第9旅団と、英連邦軍グルカ第1旅団だけだ、間に居るのは。
残りの第38軍団の2個師団(UN第123師団、韓国軍第25師団)、それにガルーダスの3個旅団は、道路網寸断で復旧次第・・・だな」

『ちっ・・・西岸も、国連の第37軍団(UN第121師団、UN第122師団、フィリピン軍第7師団)が立ち往生だ。 予備のガルーダス4個旅団もな。
おい、冗談じゃないぞ・・・第2防衛線部隊も、あちこちで立ち往生しているってのに。 これで戦線を形成できるのか!? 無理だぞ・・・』

事実だった。 第2防衛線戦力で予定のラインまで後退して来たのは、北部第2軍第3軍団の南ベトナム第4師団、第12師団。 第4軍団のカンボジア軍第3師団だけだ。
残る南ベトナム軍第19師団、カンボジア軍第8師団、ラオス人民軍第2旅団、第3旅団の2個師団と2個旅団は、道路網寸断で孤立してしまっている。
5個師団、2個旅団を擁していた、ガルーダス北部第2軍の第2防衛線防衛戦力は、実質戦力半減になっている。 西部防衛の北部第3軍も似た状況だった。

「とにかく、ディフェンスラインが復活して、一刻も早くオーバーラップを掛けてくれるのを、期待するしかないな」

『兵団の身軽さ(戦略機動力の良さ)が仇になったな。 ガルーダスの連中、俺たちほど足回りが良くない。 ったく・・・直衛、お前と一緒だと、どうしてこう修羅場になる?』

「そっくり、そのまま言い返す。 俺の平穏無事な戦場を返せ―――冗談はさておき、兵団主力が北部第3軍との間隙を埋めるなら、こっちも布陣を考え直さんと・・・」

『頼むわ。 側面がガラ空きってのは、歓迎しない』

正規の通信系統(旅団本部・兵団司令部)経由でない、現場の融通で話している。 旅団本部や兵団司令部からも、戦略情報は入ってはいる。
しかし実際に部隊を指揮する者同士、意志確認には手っとり早い。 本来は通信規定に抵触するが、そうは言っていられない状況だったし、旅団や兵団も半ば黙認していた。

通信を終えた周防少佐は、衛士強化装備姿で指揮通信車両から外に出た。 20mほど向うに、各隊長達を召集していたからだ。 
完全に陽が落ちた東南アジアの半密林地帯、特有の蒸し暑い夜の熱気が襲い掛かる。 簡単な折り畳みテーブルに、カンテラを置いただけの戦闘団本部。

『ゲイヴォルグ戦闘団』の前進は、一時休止状態だった。 戦闘の結果では無い、未だBETAは第1防衛線を食い破っている真っ最中だ。
それは戦闘団の前進速度に、兵站が追い付いていない事はひとつ(周防少佐はこの事を重視した。 戦術機も戦闘車両も、予備部品が無ければ早期に鉄屑と化す)
もうひとつは大地震の影響だ。 本来布陣すべき大兵力が、あちこちで足止めを喰らっている。 その為に『大隊以上、連隊以下』の戦闘団の、防衛地域が増大したのだ。

「―――いくら諸兵科連合部隊と言っても、連隊以下の戦力なんだ。 手が回り切りやしないぜ」

言葉使いと逆に、割と整った顔立ちにいらつきの表情を露わにして(日越混血とは、ヴァン大尉から聞いた)、南ベトナム軍のレ・カオ大尉が忌々しげに言う。
戦闘団が担当する戦区は、東海岸線から内陸に20kmの幅が有った。 第2防衛線から下がって来たガルーダス北部第2軍、その3個師団の後ろで穴を塞ぐ役目だ。

「正面打撃力は、そこそこ・・・だけれど、支援火力は正直言って心もとないわ。 せめてあと1個師団・・・いいえ、1個旅団でも良いから、居てくれれば・・・」

小柄な、どうにかすると少女のようにも見える、ネパール軍のサハリナ・プラダン大尉も眉をしかめて、親指の爪を噛みながら呟いている。

「―――諸君。 私は今、諸君に対して防御体勢の意見を聞いている。 今の所、我々は第2防衛線後方の数少ない機動予備戦力だ。
第2防衛線を破ってくるだろうBETA群を、この付近で叩かねばならない。 つまり、現時点でクラ海峡防衛のゴールキーパー、その矢面なのだ」

周防少佐が敢えて感情を出さない様に、一気に話す。 多国籍部隊の通例か、各自が自分の置かれた状況に関係の無い、或いは現時点で臨み得ない事柄をしゃべりたがる。
周防少佐は『部下』達が何か脱線しかける事を言う前に、口を挟む前に、現状を再確認させ、意識を主目的に集中させる為に、敢えて発言を遮る様に言ったのだ。

「・・・現状で考えられるのは、南ベトナム軍第12師団と、北部第3軍との間を抜かれた場合の対処ですな」

古くから、周防少佐の片腕をしていた事のある最上大尉が、上官の意図を察して作戦地図に指を這わせながら言った。 傍らの八神大尉も頷く。

「或いは、南ベトナム軍2個師団とカンボジア第3師団との間。 こちらは平坦地ですので、『圧力』を受けた場合に突破される危険性が高いです―――兵団司令部からの命令は?」

「・・・『適切なる位置にて、状況に対処せよ』だ。 最上、要点は?」

「相手が人類―――対人戦争ならば、常識の範囲で対処すればいいのですがね。 主攻は海岸線、つまり戦力の小さいカンボジア軍を叩いて、南に突破する。
その場合は別動戦力で内陸部の南ベトナム軍に対して、牽制攻撃を仕掛けて足止めをします。 無理押しする必要は有りません」

「迂回包囲すれば良いのだしな、或いはそのまま一気に南へ突進を掛けるか」

ロケット砲中隊を指揮する、ブータン軍のソンツェン・ガンポ大尉の指が、作戦地図上で2箇所を差しながら動く。 

「しかし、相手はBETAよ?―――牧野、BETA群の予想到達時刻と、兵站の到着時間は?」

戦術機第1部隊(2個中隊)を指揮する真咲大尉が、戦闘団先任幕僚の牧野大尉に確認する。 牧野大尉は私物の腕時計を見ながら、ごく簡潔に言う。

「―――BETA到達予定、2130時。 兵站を受けられる位置まで連中が来るのは、2140時から2200時の間だ」

「要は、どこまで継戦を想定するかです、戦闘団長」

大隊長と言わず、戦闘団長―――寄せ集め部隊故に、その指揮権を強調せざるを得ない。 真咲大尉が殊更に『団長』と強調したのはその為だ。

「差し当たり、後続の大兵力の支援を早々に受けられるならば、兵站部隊は後方に待機させておいて、カンボジア軍の後詰に入るべきです。
しかし現状は、それを許しません。 我々は第2防衛線の後詰と、兵団主力との間隙の双方を、南ベトナム軍と英連邦軍グルカ部隊と協同して防ぐ必要があります」

「つまりだ、俺達はカンボジア軍が下手打った場合と、俺のトコロの連中がヘマした場合と、両方に対応せにゃならねぇ―――そう言うこったろ? 美人さんよ?」

「真咲櫻、です。 レ・カオ・クォン大尉。 戦闘団長・・・」

真咲大尉が発言する前に、手でそれを止めて周防少佐が乾いた声で言った。

「―――レ・カオ大尉の言う事は正しい。 全く気に入らん、腹立たしい玉虫色の中央配置だ。 状況の意図を読み切れん、自分の情けなさが腹立たしいな」

「しかし、相手はBETAです、団長」

工兵部隊を率いるマトリカ・バンダリ英連邦軍中尉が、女性にしては精悍過ぎる声で、はっきりした口調で周防少佐に向かって言った。

「最上大尉も仰っておられましたが、相手はBETAです。 意図を見抜けるのならば、我々は・・・」

自分の故国は、むざむざBETAに食い荒らされはしなかった。 貴方の故国もそうでしょう?―――マトリカ・バンダリ中尉は、言外にそう言っていた。
実のところ周防少佐は、腹立たしさと言うより、相変わらず主導権をBETAに握られる戦いを、多国籍部隊を率いて戦わねばならない事に、もどかしさを感じていたのだ。

「―――判った。 戦闘団はカンボジア軍の後背、チャイ・カセム方面と、左翼の南ベトナム軍後背に通じるヴァン・サン・ヤイク方面と、双方に対処出来る布陣を取る」

「前方15km位の所に、チャイ・カセム方面とヴァン・サン・ヤイク方面と、両方に繋がっている、程度の良い道の交差地点が有ります。 ロンソンの町です」

先行偵察小隊に同行して、道路状況を確認していた戦闘団G2(情報担当幕僚)の向井奈緒子中尉が、地図上の1点を差しながら各指揮官の顔を見渡して言った。

「ここからですと、両方向への対応が可能です。 カンボジア軍、南ベトナム軍との情報交換でも、道路網は維持されている事を確認しています」

周防少佐が少し考え込む様に、作戦地図を見る。 確かにロンソンの町はチャイ・カセム方面とヴァン・サン・ヤイク方面、双方向への分岐路だ。

「海岸線から約10km。 北西から道路沿いに川が流れ込んで、町の南で西からもう1本の川に合流し、そこから東のバーンサパーンの河口までか。 小さいながら港湾もある。
川を挟んで、町の西と南は小高い地形・・・利用できるな。 バンダリ中尉、町の北側と南側に、対小型種用地雷を埋設したい。 できれば南の橋、その橋脚にも爆破用の爆薬を」

「―――1時間下さい、団長」

「よし、直ぐに掛れ。 真咲大尉、ヴァン大尉、戦術機部隊は現地に到着次第、即応待機に入れ。 状況次第だが、右翼を真咲大尉、左翼をヴァン大尉。 中央は俺が直率する」

「了解です」

「うん・・・おっとぉ~・・・了解です、団長」

つい、昔の癖が出るヴァン大尉の表情に、周防少佐は苦笑しながら、最後に機装兵部隊に指示を出す。 レ・カオ大尉はふてぶてしそうに、ユカギールは寡黙に、命令を待つ。

「機装兵部隊は戦術機甲部隊後方、5kmにつけろ。 大型種は相手にするな、小型種の掃除だ。 レ・カオ大尉は左翼、ユカギール中尉は右翼、それぞれ支援部隊の前面を守れ」

「了解」

「はっ」

いずれにせよ、進出地点まで進んで、その後は戦況次第で穴が開きそうな戦線への助っ人だ。 最終防衛線の主力が北上して来るまで、進出地点を固守しなければならない。
現在の第2防衛線東部戦線の実質戦力は、ガルーダス軍3個師団と2個旅団。 帝国軍が師団以上、軍団以下の南遣兵団。 何とかなるかもしれない―――そのギリギリのライン。

「事前情報だ、インドネシア艦隊が1時間前に反転・南下した。 戦艦2隻と戦術機母艦1隻を主力の打撃艦隊だ、洋上支援は1時間後には受けられる。
いいか? 南部の道路網の仮設復旧が済むのは、明0330時予定だ。 そこから兵力を100km近く北上させ、展開させるのに6時間。 
つまり明0930までは、我々は壊滅する事を許されない。 交戦推定時刻は2130時前後、半日だ、半日、死力を尽くして貰いたい―――指揮官からは、以上だ」










2001年5月10日 2115 マレー半島東岸 タイ王国プラチュワップキーリーカン県・サームローイヨート。 南ベトナム第19師団


『西の斜面から小型種多数! 約200! 兵士級と闘士級!』

『擲弾手! LOGIRロケット弾! 距離350!』

『こちらデバウチー33!(第3小隊第3分隊)! デバウチー03! デバウチー03! 小隊長! イエン少尉(イエン・ズン・シュク少尉)! 目の前がBETAだらけだ!』

『デバウチー03より33! それがどうしたのっ!? 貴様の役目は、そこの突破阻止よっ! 泣き言言っていないで、さっさとケツを上げろっ!』

『くそっ、あのアバズレッ・・・! 33、了解っ! 野郎どもっ! 我らが女王様のご命令だっ! ここで死ねとよっ! 
誘導弾手! M98・APKWSAB! 距離800の要撃級2体に全弾叩き込め! 擲弾手! フレシェット(フレシェット弾頭LOGIRロケット)、向うの戦車級だ!
いいか、まだだぞ、まだ・・・まだ・・・発射!―――クソったれどもっ! クソBETAをぶっ殺せっ! 噴射跳躍、躍進距離150! いくぞっ!』

セミアクティブ・レーザー誘導弾が白煙を引いて、高速で夜空を突進する。 瞬く間に2体の要撃級BETAが直撃を受け、体表が破裂する様に内蔵物をぶち撒いて停止した。
その時にはフレシェット弾頭LOGIRロケットが10発、迫り来る戦車級の群れに殺到していた。 距離150でフレシェットが放出される。
矢状の鋭い弾体が超高速で140m飛翔し、6.5度の範囲で拡散する。 フレシェットは無数の鋭い矢を40m四方にばら撒き、都合200m四方の範囲内の戦車級すべてをズタズタにした。

『くたばれっ! クソBETA!』

『オック! 右だ! 兵士級!』

『くっそ! 寄るなっ! くそっ!―――ぎゃあぁ!』

『ッ! てんめぇ! よくもオックを! 喰らえっ!』

M3M/GAU-21重機関銃から、12.7mm機銃弾が横殴りに斉射される。 夜目に鮮やかな光の帯が、所々で散見された―――小型種BETAとの、悪夢の様な夜間戦闘が行われている。

南ベトナム第19師団・第191機械化装甲歩兵連隊第2大隊、その第3中隊『デバウチー』は、残り136名に減じた戦力で、サームローイヨート東岸に面した高台を守っていた。
ここは平坦な地形が続く半島東部の中で、標高400m級の切り立った岩山が南北8km、東西6kmほど連なる格好の防御地形になっている。
海岸線に隣接し、南北の狭い『入口』から入った東側は、これまた南北8km、東西4kmほどの平坦地が有り、小さいながらも防波堤を備えた港湾施設が有った。
道路網の寸断で半ば孤立した第19師団は、ここを防衛拠点として北から南へ突進するBETA群、約1万8000の横腹を叩き続けていた。

「・・・とは言え、そろそろヤバいな・・・」

中隊長のサイ・カン・ミン大尉は、甘い香りのする巻煙草を吸いながら、眼下の戦況を眺めて呟いた。 強化外骨格の前面装甲を跳ね上げた顔に、陰影が強く映る。
真っ暗な闇夜に、ゆらゆらと揺れながら強烈な輝きを発する光源が、幻想的な情景を映す。背後から照明弾が引っ切り無しに打ち上がっている為、視界に苦労しない。

「中隊定数、196名。 現存は136名・・・今、33分隊が3名殺られました、133名。 損耗率32.2% ま、立派に負け戦ですね」

傍らから、Type-97MAP(97式機械化歩兵装甲)を装着した部下が、癇に障る言い方で状況を説明する。 サイ・カン・ミン大尉は、思わず地の部分で反応していた。

「ミリ(ボー・ミリ曹長)、手前ぇ、しまいに犯すぞ。 けったクソ悪い戦いだ。 後ろでジープンと宜しくやってるクォン(レ・カオ・クォン大尉)を、ぶっ殺してやりてぇ・・・」

「はん! 阿片がないと勃たないアンタに、アタシを犯せるもんかい。 それよかミン、アンタ、阿片を吸い過ぎよ。 それ、巻いてんでしょう!?」

「やかましい、女房面すんな、ミリ。 1個小隊、あそこの・・・ドン・ヤイ・ヌーに投入しろや、兵士級の群れが高射砲中隊の側面に来やがった」

実は阿片を巻いた巻煙草を吸っていた、ほとんどジャンキーのサイ・カン・ミン大尉が、南部防御線内に入り込んできた小型種の1群を危険視し、指揮下の小隊に投入命令を出す。
中隊先任下士官であるボー・ミリ曹長が、伝法な口調とは裏腹の、整った美貌に皺を寄せて、上官の指示を確認した―――牽引式高射砲中隊の側面、距離500に兵士級の群れ。

「あれね・・・第3は西の崖でドンパチだし、第1は南西部に取り付いた戦車級とやり合っているよ、第2で良いね?」

「それしか無ぇだろうが、このアマ。 さっさとぶっ込め、ヤバくなったら、川沿いの小山に隠れさせろ」

陣地の東、タイ湾に流れ込む小さな川の北側に、標高150m程の小山が2つ、南北に並んでいる。 そこならば遮蔽地形としては最適だ。

「―――判った。 ミン!」

「何だ?」

「このドンパチ終わったら、抱いてよね―――第2小隊に突破阻止戦闘を下命、了解しました、中隊長!」

強化外骨格のアーマー・フェイスガードを上げたボー・ミリ曹長は、まだ22歳の若い娘相応の笑みを一瞬だけ残して、『マウンテンゴリラ』、『ギガンティ』と呼ばれる装甲姿を消す。

「けっ・・・こちとら、もう30代のオッサンなんだ。 そう毎晩じゃ、腎虚で死んじまうぜ。 ったくよ、俺もヤキが回ったか。 何を好んで、あんな小娘に手ぇ出したんだか・・・」

(『ぎゃははっ! デバウチー! お前ぇも腐った垢、ようやく落とす気になったかよ!? にしても、傑作だぜ! お前ぇがあんな小娘になぁ? ええ? デバウチーよォ?』)

クソったれ。 クソったれの、阿片の売人野郎め―――サイ・カン・ミン大尉は、何故か腐れ縁になってしまったクソったれな男の声を、不意に思い出して不機嫌そうに顔を顰めた。
まあいい、あのクソ野郎に言い返すのは、このドンパチが終わってからだ。 その後でたらふく阿片をきめて、散々ミリを泣かして、その後で・・・

(・・・クソったれ! 勝手に死ぬんじゃねぇぞ、スネーク! 手前ぇがお陀仏すんのは、俺の目の前でだ! 手前ぇがくたばる様を、俺は散々、嘲笑ってやるんだからよっ!)

1小隊が押され気味だ、3小隊もちょっとヤバい。 中隊本部を投入するしかないか―――サイ・カン・ミン大尉は、『生き腐れた戦場』に、皮肉な笑みを浮かべて突入していった。









2001年5月10日 2145 マレー半島東岸 タイ王国・バーンサパーン・ノーイ県南部、チャンレク北方5km地点 『ゲイヴォルグ』戦闘団


「ッ!―――BETA群! BETA群! 方位0-4-5! 距離1万8000! カンボジア第3師団第12機械化歩兵連隊の防衛ラインを突破!」

「BETA群個体数、約850! 突撃級90、要撃級120を含む! 光線属種は未だ確認されず!」

「カンボジア第3師団、重迫中隊より援護砲撃!―――着弾!」

指揮通信車両の中で、戦況を確認していた周防少佐が直ぐ様、命令を下す。

「プラダン大尉、距離1万5000で自走砲、ロケット砲、砲撃開始。 バースト射撃はするな。 真咲、戦術機第1部隊を1万で待機させろ、面制圧終わり次第、側面から突入。
ヴァン大尉、第2部隊はヴァン・サン・ヤイク方面の山岳地帯から、後背に抜けろ。 挟撃を仕掛ける。 他は距離5000まで手を出すな、鉄火場が乱痴気騒ぎになる」

命令下命と同時に、背後から数発の照明弾が抜けた発射音と共に打ちだされた。 パアッと発火して光源をつくり、60万カンデラの光度で地表を照らす。

『BETA群、距離1万6000・・・1万5500・・・1万5000! 自走砲、ロケット砲、面制圧射撃、開始! 撃てぇ!』

サハリナ・プラダン大尉の射撃命令が、通信回路に流れた。 6輌の『プリマス』155mm自走榴弾砲が、重低音で155mmHEAT-MP(多目的対BETA榴弾)を発射する。
GMP-21自走多連装ロケット砲は2輌単位で、20秒間に40発の122mmロケット弾を轟音と共に発射した。 夜空に夥しい光の矢が伸びてゆく。

「5・・・3、2、1、着弾!」

「レーザー迎撃無し! レーザー迎撃無し! 光線属種を認めず!」

直撃で装甲殻をメタルジェットで融解された突撃級BETAが、暫く惰性で突進して急停止する。 それに後続個体群が激突し、一瞬の停滞を見せた。
と同時に、HEAT-MPの炸裂時に無数の鋼球が飛び散り、他の突撃級BETAの柔らかな側面や後部胴体に無数の弾痕を穿つ。
どうやら突破して来た戦闘集団には、まだ光線属種は追いついていない様だ。 立て続けに周防少佐の命令が飛ぶ。

「―――“ゲイヴォルグ”より“フリッカ(真咲大尉)”、北東の『207高地』の前方から大型種の前後に割り込め。 “アオヤイ(ヴァン・ミン・メイ大尉)”、迂回してケツを叩け。
機装兵部隊、“スネーク・シーフ(レ・カオ・クォン大尉)”は『207高地』、“ブーグニアフ(ヴァドゥル・ユカギール中尉)”は『354高地』、間を抜ける連中を始末しろ。
重迫、加藤大尉。 両高地の間にBETAが入ったら、射撃開始。 自走高射砲、陣前200に進出しろ。 “ハリーホーク(八神大尉)”、最後の掃除任す」

『―――“アイリス01(遠野中尉)”より本部。 我々も・・・』

“アイリス”―――ギリシャ神話の『イーリス』。 オケアノスの娘、エレクトラが生んだ虹の女神、翼を持った神々の伝令。 今は第1戦術機甲大隊の指揮小隊のコードネーム。

「却下する―――“アイリス”は直率に留まれ。 遠野、支援部隊の前に陣取れ」

小隊指揮官・遠野中尉が控えめに先頭参加を申し出るも、周防少佐が即座に却下した。 実際問題、支援部隊の前面がガラ空きになるのは拙いからだ。
遠野中尉もそこは判っているので、あっさり引き下がる。 と同時に変わらず大隊長の直衛任務を解かれなかった事に、少しホッとした表情を見せた。 

―――2番機の北里中尉が、スクリーン越しに意味深な笑みを見せる。

「BETA群、距離1万。 面制圧砲撃続行中!」

「戦術機第1部隊、攻撃発起点に到達しました! 第2部隊、迂回飛行中です!」

『―――“フリッカ”より第1部隊全機! “フリッカ”が頭を押さえる! “ドラゴン”、突撃級の後方に割り込め! 攻撃開始!』

『―――“アオヤイ”より第2部隊! このまま後ろに回るよー! “アオヤイ”は後ろの小型種掃討! “バルト”は北から他に来ているみたいだから、そっちをお願いねー!』

2部隊・4個中隊の戦術機が一斉に、二手に分かれて地表面噴射滑走で移動を開始する。 北東と北西に、それぞれ南北に長く標高140、150m程の丘陵部が伸びていた。
その地形を盾にして、第1部隊はBETA群先頭集団の突撃級の群れの前後に、第2部隊はBETA群全体の後方に回って挟撃を仕掛ける為だ。

「団長、後方の本部支援隊(指揮官・牧野大尉。 戦闘団G3)から通信です」

戦闘団CP将校を兼ねる長瀬大尉(長瀬恵大尉)から受話器を受け取り、周防少佐が後方を追従させていた団支援隊と話す。

「―――“ゲイヴォルグ”より“ホワイト・ストーク(コウノトリ)”、どうした?」

『―――“ホワイト・ストーク”より“ゲイヴォルグ”、牧野です。 少佐、本隊後方25kmの川にかかる橋が、崩落しました』

「―――なんだと?」

『―――現在、隣のグルカ旅団工兵隊に依頼して、仮橋を掛ける作業中ですが、3時間ほどかかる予定です』

「―――損害は?」

『―――幸いにも、崩落での損害は有りません。 修理部隊は通信中隊と共に、橋を渡っておりますので、そのまま本隊後方10km地点で支援陣地を構築させます。
ただし、兵站と衛生は時間がかかります。 それと、ひとつだけ良いニュースが。 94式のアビオニクス装備、一部を入手しました』

「―――何だと? 輸送船団がジョホール港に入港するのは、4日後の筈だぞ?」

『―――今回ばかりは、国防省と通産省の官僚に感謝ですよ。 インドネシアに建設されている光菱の工場、あそこで94式のパーツを生産しています。
霞が関と市ヶ谷、それに光菱とで話を付けた様です。 国内向け出荷分の一部を、こちらに回すよう手配したらしいです。 先行出荷分が先程、追いつきました』

「―――捨てたもんじゃないな、市ヶ谷に霞が関も。 よし、なら少々荒っぽい作戦でも繋ぎは出来るな」

『―――機体の全損だけは、修理は無理でしょうが。 児玉大尉にも知らせております、確認をお願いします』

「―――了解した。 仮橋が完成次第、追従しろ。 くれぐれも周辺警戒を怠るな、『はぐれ』が居るとも限らん」

『―――了解です。 オーヴァー』

通信を切った周防少佐の顔に、少しだけ安堵の色が見えた。 今まで戦術機部隊を率いて戦って来た経験は有るが、こうして諸兵科連合の部隊を率いての戦術指揮は初めてだった。
それまでの、戦術機大隊の指揮とはまた違う。 戦域の全体戦況を把握し、上級司令部より与えられた命令の範囲内で各兵科部隊を有機的に動かし、戦況を有利に作り上げる。
少佐でありながら、大佐が行うレベルの戦術指揮を行っているのだ。 困難さも覚えるが、反面で独立した作戦指揮を行える事に、軍人として純粋な喜びも感じていた。

「・・・今回は、戦術機に乗る暇は無いかな・・・?」

「は?―――少佐、何か?」

「いいや、何でも無い。 長瀬、BETA群の動きはどうか?」

小声で呟いた筈だが、長瀬大尉に聞かれた様だ。 こんな困難な状況なのに、俺は反面で純粋に喜びも感じている―――アンビバレンツに苦笑しながら、周防少佐が戦況を確認する。

「はっ! 第1部隊、先頭集団の分断に成功しました。 現在損失無し。 第2部隊が後方の小型種掃討に移りました。 
なお、前方のカンボジア第3師団防衛線から100体程の小型種が浸透しています。 第2部隊指揮官は“バルト”に掃討を命じました」

「判った。 引き続き、監視警戒を怠るな。 変化が有れば知らせろ、外で戦況を確認して来る」

「了解です」

そう言うと周防少佐は指揮通信車両を出て、団本部が陣取った場所の前方に位置する小高い丘陵部を高機動車に乗って登り始めた。 護衛の兵士が3名付き従う。
数分して頂上に着く。 手にした軍用双眼鏡で戦場をざっと見る。 照明弾が撃ち込まれているので、ナイトヴィジョンが必要無いくらいには明るかった。
陸軍が制式採用しているタイプでは無く、海軍が採用しているミルドットスケールと方位角が判るコンパス付きの、最大8倍率の物だ。 戦死した亡兄の遺品である。
コンパスで記された突撃級BETAの方位は345度、ミルドットスケールは2.8だ。 突撃級BETAの全高は約18mだから、18/2.8×1000=6500
BETA群の先頭集団は陣前距離6500を、やや南南西に向けて突進し続けている事になる。 真咲大尉指揮の戦術機中隊、その94式『不知火』の1機が後ろから1体始末した。
ざっと見ても突撃級BETAの数は、残り10数体に減っている。 しかしその後ろから、要撃級の群れが迫っていた。 強化装備アタッチメントのインカムで指示を出す。

「―――“ゲイヴォルグ”より“フリッカ” 突撃級の相手はもういい、後方の要撃級に当れ。 加藤大尉、重迫、射撃待て。 “ハリーホーク”、残る突撃級を始末しろ」

手持ちの予備戦力から、戦術機1個中隊で突撃級の掃討に向かわせる。 あと1500ほど接近してくれば、今度は左右の小山に潜ませた機装兵部隊に背後から奇襲させる予定だ。

「―――“ゲイヴォルグ”より各隊、最初のこの群れは、全て殲滅して見せろ!」





第1、第2防衛線は各所で、各部隊が善戦していたが、連携の取れた防御戦闘が困難な状況の中、あちらこちらで防衛網の穴からBETA群が波状的に来襲して来た。
日本帝国軍南遣兵団、第1戦術機甲大隊を主力とする分遣戦闘団もまた、機動予備部隊の戦線の火消し役として、暗闇に包まれた熱暑の東南アジアの戦場を駆けまわっていた。






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