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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 伏流 米国編 最終話【前編】
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/20 20:00
2000年11月3日 1015 合衆国N.Y.マンハッタン チェルシー


「―――うっひゃーい! 気っ持ちいいー!」

「ちょっと! アルマ! 飛ばし過ぎよ、周りに当ったら・・・!」

「そんなヘマ、しないよっ! お姉ちゃん、イルマ! 軍に入って鈍った!?」

「なっ!? このぉ! 見てなさい!」


目前のローラー・スケート・リンクでアルマが、姉のイルマと一緒に楽しんでいる。 ここは10番街の29丁目と30丁目の間にある、ローラー・スケート・リンク。

「直衛ー! 直衛もやんない? 楽しいよー!」

「・・・いや、いい。 君等で楽しんでおいで」

「ぶー! なによ、年寄り臭い・・・もう小父さんだねー?」

「ちょっ! アルマ、何て事を! す、すみません、少佐! この子ったら・・・!」

苦笑しか出ない。 第一、リンクに入って楽しんでいるのは、精々がティーンの若者が大半、後は多分、大学生くらいまでかな?
ジーンズに明るい色のセーター、ヤンキースのキャップを被ったアルマ。 クリーム色のスリムパンツとシャツの上に、ブラウンのカーディガンを羽織ったイルマ。
流石に姉妹、顔立ちが良く似ている。 姉の方は5年前のあの日、チラッと見ただけだったが、2人とも母親似なのだな。
俺? 俺は普通に、黒のタートルネックセーターに、ジーンズ。 上は薄灰色のジャケット。 足元はスニーカー。 普段着は余り持ってない。
見上げれば秋の晴天が見える、気温もまだあまり下がっていない、気持ちのいい休日。 今日は土曜日、その1日をテスレフ姉妹と一緒に過ごしていた。

「―――余りはしゃぐなよー? 今日はまだ予定が有るんだろう?」

「―――大丈夫、大丈夫!」

大はしゃぎするアルマ。 ま、仕方が無いか、久しぶりに家族が休暇で帰ってきたのだから。 それより、後で大騒ぎするだろうから、飲み物でも買っておいてやるか。
近くのスタンドで、ソフトドリンクを2人分とコーヒーを1人分。 後はホットドックを2本。 育ち盛りだ、どうせ直ぐにお腹も減るだろう。

―――日米の大筋交渉が為った後、N.Y.の臨時出張事務所は正式に、日米安全保障高級事務レベル協議委員会(SSC)連絡事務所に格上げになる予定だった。
今後は国防省だけでなく、外務省や内務省、他の関係省庁からも人を出して、SSCの業務をサポートする総合支援事務所となる。
ただし、俺達はそこに参加はしない。 全員が駐米任務を解かれ、今月の半ばの帰国命令が出た。 今は次の先発隊との引き継ぎ業務がメインになっている。
仕事も以前に比べれば、のんびりしたペースに落ち着いた。 これまでのデータや資料を整理して、申し送りの準備をするだけ。 休日もしっかり休める。

で、どうして休日にアルマ達と遊んでいるかと言うと。 事の発端は2日前、交渉締結の2日後の11月1日の事だった。
定時になって、帰宅する為に事務所を出たら、アルマとジョゼが待ち伏せしていた(最近、彼女達は事務所の所在地を、割り出したようだ)

『―――お兄さま、Thanksgiving Day(感謝祭)は、どうなさるの?』

ジョゼの第一声に、一瞬何の事か判らなかったとは、内緒にしておこう。 何せ5年前はこの時期、米軍関連の軍教育学校に放り込まれ、感謝祭もクソもなかったし。
にしてもそうか、感謝祭か。 『Day After Thanksgiving(感謝祭休日)』 合衆国の感謝祭は11月の第4木曜日(カナダは10月の第2月曜日)
全米が祝日となる全米祝祭日(National Holiday)のひとつだ。 ニューヨーク州も近年、他の州と同じく感謝祭の翌日の金曜日も祝日扱いとして、4連休となる。
感謝祭が過ぎるとクリスマスまで約一カ月、街はクリスマス・シーズンに向けて華やかさを増していくと言う。 クリスマス商戦が始まると言う訳だ。

『―――直衛は家族がこっちに来ていないしさ。 どうせだったら、一緒に感謝祭をお祝いしようよ!』

アルマが期待感たっぷりに、そう言った。 流石に2人からそんな表情で期待されると、罪悪感を感じてしまう。

『あー・・・えっとな、実はその前、今月の中頃に帰国する様、本国から命令を受けてね・・・感謝祭の頃にはもう、ここには居ないんだ』

その時の2人の顔。 驚きの表情に次ぎに、信じられないと言った表情が来て、最後は2人とも膨れっ面で怒った様になって・・・

『―――せっかく、今年の感謝祭はお兄さまに、ターキーを切り分けて貰えるって、思っていたのに・・・!』

『―――そうだよ! 連休だから、どこかへ遊びにって、楽しみにしていたのに!』

―――あー、2人とも。 勝手に人のスケジュールを決めてはいけません。

『―――仕事なんだ、ゴメンな? でも遊びにならホラ、今度の週末でも行けるし・・・』

判っているよ、判っている。 俺がこの子達に甘過ぎるって事は。 大体が今度の土日は、帰国の準備をしようと思っていたのだが・・・
お陰さまで土日の2日間連続で、アルマとジョゼと、2人のお供をする約束をしてしまった。 帰国準備は仕方が無い、平日に睡眠時間を削ってするか・・・

『―――うーん、しょうが無いね、それで手を打つか! 直衛も遊びで来ているんじゃないし、命令なら仕方ないし』

『―――はぁ・・・残念。 ね、お兄さま。 今度来る機会があったら、絶対、絶ーッ対! 一緒にお祝いしてね!?』

『―――その機会があったら。 うん、判ったから』

そんな調子で、2日連続強行軍で遊びまわる羽目に。 そして偶然と言うか、アルマの姉のイルマが、休暇で家に帰って来る事ができたのだ。
彼女、今は米軍北方軍(NORTHCOM)の首都地域統合部隊司令部(JFHQ-NCR)に属する部隊に居るらしい。 
驚いた事に、彼女の部隊指揮官は俺の旧知の米軍将校―――アルフレット・ウォーケン少佐だと言う。 普段はワシントンのフォート・レスリー基地と言っていた。

『―――偶々ね、フォート・ハミルトンに移動していたの。 そこで休暇に突入となった訳。 ラッキーだったわ』

フォート・ハミルトン―――米陸軍ハミルトン基地は、N.Y.にある。 マンハッタン島の目と鼻の先、エリス島やリバティ島と同じアッパー湾のガバナーズ島に有る。
その昔、独立戦争当時、英海軍に対する沿岸防衛砲台として機能し、英軍のマンハッタン上陸を阻止した上で、とうとうより南部での上陸を余儀なくさせた、殊勲の基地だ。
今は昔の砲台跡と、ささやかな基地機能が有るだけだと聞いたが、時折移動中の部隊が『宿泊所』代わりに利用する事が有ると聞く。
ここで2日間の休暇が出たとか。 まあ、なんだ。 米軍もマンハッタンを目の前にして、指を咥えているだけ・・・は、士気も下がるとの慣例なのだろうな。

で、今日はアルマとイルマの、テスレフ姉妹のお供をする羽目に。 活発で、それでいて創造的なものが大好きな、妹のアルマが選んだコースはと言うと・・・

「直衛、楽しかったー! 次行こうよ、次!」

「お待たせして、すみません、少佐」

「余りはしゃぎ過ぎるなって、アルマ。 逃げやしないよ。 テスレフ少尉、今日は休暇だ、そう畏まるな。 それと『直衛』でいい、休みの時くらい階級は余所に置いておけ」

「―――判りました。 では、私の事はイルマと」

「―――了解」

アルマが先頭になって進むのは、近年N.Y.の新たなホットスポットになっている空中回廊公園、『ハイ・ライン』(The High Line Elevated Park)だ。
元々は1930年代に高架鉄道として計画されるも、その後半世紀もの間は計画中断で見向きもされず、放置された無用の長物だった。
片手にソフトドリンク、片手にホットドック。 後ろ姿からでも、ワクワク感が丸出しのアルマが、あちこちを楽しそうに見ながら進む。

「―――あ、見て、見て! あれ、面白そう!」

「―――何かしら、あれ? ええ!? 裸にアートを描いているの!? こんな街中で!?」

それが90年代に入り再開発が行われ、グリニッジ・ヴィレッジの北西、食肉卸市場(ミートパッキング・エリア)を起点に、チェルシーを通りミッドタウンの33丁目まで。
全長約2.3kmの空中回廊公園に変わった。 元々が街角まるごと、アートなイベントをしているグリニッジ・ヴィレッジや、チェルシーのギャラリー街がメインのエリアだ。
面白そうなギャラリーやアート・イベント見つけたら、空中公園から地上にひょいと降りて、じっくり見てくるって寸法だ。

「―――ねえ、ねえ、ここから街並みを見下ろしながら、ちょっと休憩できるよ!」

「―――素敵なロケーションね。 古い歴史的な建物も、一杯有って。 あら? あれ、あそこって何時の間にギャラリーに?」

「―――半年前だよ。 お姉ちゃんが軍に入ってから、倉庫を改修する工事を始めたみたい。 昔住んでた時は、普通の倉庫だったよね」

建物と建物の間をすり抜け、通りの頭上を眺めて歩く。 元々は高架鉄道の高架だから、それなりに高さも有るし見晴らしも良い。
所々が強化ガラスの壁になっていて、必ずベンチと植え込みが有った。 そこで寝そべりながら、アートの街を見下ろして読書に耽る様な人も居る。
途中でアイスクリームなんかを買って、食べ歩きをして楽しむ。 気に入った、面白そうなイベントなりが有れば、ちょっと降りて顔を出す。 で、また戻って進む。
アルマもイルマも楽しそうだ。 あのアートは斬新だ、あの絵は面白そう、あの服のデザインはなかなか、あっちの建物は素敵。

微笑ましい、そう思う。 この姉妹は多くの難民同様に、言葉に言い表せない辛酸を味わって来た。 それこそ年端のいかない子供の頃から。
故国をBETAに喰い荒らされ、父親は北カレリア戦線でMIA(作戦行動中行方不明)―――ほぼ100%、KIA(戦死)だろう。
母と姉妹だけで、あちこちの難民キャンプをたらい回しの揚げ句、このN.Y.では一時不法居住難民をしていた。 不法居住だから就業規約など無視の重労働で。
結局は移民局の摘発に引っ掛かって、再び難民キャンプへ、それが5年前のあの日。 それから姉が市民権を得る為に、合衆国軍へ志願入隊した。

市民権を得られれば、家族にも市民権が与えられる。 軍の将校として正式任官した時点で、家族は制限付きながらキャンプを出られる特権を得る(市民権はまだだ)
だけど出るのは少数だ。 出ても職の当ては無いし、僅かな生活保護に頼って貧乏暮らしが関の山。 教育も満足に受けられず、裏の世界に入って行く子供も多い。
そんな中、ほんの少しの幸運が重なってテスレフ母娘は、贅沢は出来ないが、それでも慎ましく生きていく事が出来た。
姉のイルマは家族を思って軍に。 妹のアルマはそんな姉の期待に沿いたいと、頑張って勉学にも励んでいる。 母親は娘達を見守る為、病気がちの身を押して働いていた。

「―――今度さ、お姉ちゃんの休暇の時にさ、ママも一緒に買い物に行こうよ」

「―――ん~、クリスマス休暇は貰えるだろうから、その時にね。 た・だ・し! それまでちゃーんと、ママを手伝って、勉強もしっかりする事! いい!?」

「―――ま・か・せ・て!」

だから、せめてこの姉妹だけは、この家族だけは、そう思う。 全ての難民に、等と言うのは誇大妄想だろう、世の中そこまで砂糖菓子で出来ていない。
ならば、身近な者達の幸福を願いたい。 姉が生きて軍役を終え、市民権を取得出来る事を願う。 妹と母親が再び、娘と、姉と、一緒に幸せに暮らせる事を願う。

(―――お前も、そう願っていたのだろう? イヴァーリ・・・)

昨日、久しぶりにイヴァーリ・カーネの墓を訪れた。 小さいが、綺麗にした墓だった。 多分、テスレフ母娘が手入れしているのだろう。
死んだ父親が願ったであろう、家族の無事。 イヴァーリが叶えたかった、家族の幸せな団欒。 父親もイヴァーリも居ないが、せめてこの街の片隅でそれが実現されますよう・・・


朝から飛びまわって、流石に昼前になるとアルマもお疲れになった様で。 マンハッタンを随分と南に、ハドソン川へ。
ハドソン川岸のこの辺は、ダウンタウン23丁目の西端でチェルシー桟橋(チェルシー・ピア)と呼ばれる複数の桟橋の集合体に出る。 
かつてはタイタニック号も到着を予定していたと言う、ニューヨークを代表する旅客船港だった。 今ではマンハッタン一の多目的スポーツセンターが有り、散歩スポットだ。
そこで一端休憩して昼食に。 チェルシー・ピア周辺にプカプカと浮かんでいる多数の水上レストラン、そのひとつに入った。

「私、ハンバーガーとカラマリ(イカフライ)! お姉ちゃんは?」

「あ、私もそれで。 少・・・直衛は、何になさいますか?」

「あ、俺も同じものを・・・」

ハンバーガーが2個で6ドル、カラマリが1人前7ドルとお手ごろだし、味も普通のダイナーとかで食べると変わらないか、もしかするとこっちの方が美味しいんじゃないか?
うーん、知らなかった。 これは結構な穴場だったのだな。 この辺は余り来なかったからなぁ、何せ事務所とはマンハッタンの反対側だし。
川に浮かんでいる状態だからか、微妙に波に揺れているのもいい感じだ。 向こう岸はニュージャージー州。 景色のせいもあるかもしれないけれど、美味い!

取りあえず腹ごなしを終え、地元ニューヨーカーの休息地となっているそこを、トコトコと歩いて南下すると、ハドソン・リバー・パークに入る。
マンハッタンのほぼ最南端からミッドタウンの59丁目までの川沿いがハドソン・リバー・パークで、ダウンタウンのハドソン川沿いが丸ごと全部この公園だ。
楽器を弾く人、読書をする人、昼寝をする人、景色を眺める人・・・など、たくさんの人々が思い思いに過ごす自由な時間。
秋空の穏やかな風に流されてゆく白い雲。 ゆっくり、ゆっくりと動いていく姿は、まるで羊の群れの様だ。 リラックス・ムード満点。
が、目的地はまだずっと向う。 折角の気持のいい景色をズンズン無視して、途中でタクシーを捕まえて向かった先はマンハッタンの南端、バッテリーパーク(Battery Park)だ。

「―――折角、景色の良いところなのに、ハドソン・リバー・パーク・・・」

ちょっとばかり未練、何となくもったいない。 あんな感じの良い公園は、帝国には無いし・・・

「えー? だって私の高校、あそこの近くだもん。 しょっちゅう行っているし」

そうか、スタイヴァサント高はハドソン川岸にあったか。 くそ、アルマめ、少しくらい良いじゃないか、ブツブツブツ・・・
そしてそんなやり取りをしている妹と俺を見て、慌ててフォローしているイルマ。 根がしっかりした娘さんだ、本当に。
バッテリーパーク(Battery Park)に着く。 スペルが同じ『電池』で、何か関係あるのかな? とアルマが言ったから、バッテリーとは『砲兵隊』という意味だと教えてあげた。
ニューヨーク港に面したこの公園には、かつてオランダ軍やイギリス軍と戦った際に、砲兵隊が配置されていたのだ。
フォート・ハミルトンの有るガバナーズ島も含めた、沿岸砲兵陣地群の名残だ。 独立戦争当時にまで遡る、合衆国の『歴史的史跡』だ。

そこからリバティ島行きのフェリーに乗り込んだ。 自由の女神像のあるリバティ島や、移民博物館のあるエリス島を巡って、またバッテリーパークに戻って来るコース。
現在、午後3時。 フェリーが桟橋をゆっくりと離れる。 次第に遠ざかって行く摩天楼群、そして潮風が冷たく感じてきた頃、はっきりと自由の女神像が見え始めた。
アルマはいち早く、見晴らしの良いフェリー最上階へ移動した。 イルマもリバティ島へ近づくにつれ最上階へ移って行った。
女神像がどんどん大きく見えて来る。 ルートの関係上、一番見晴らしの良いとされる右手先端をアルマが確保済みだ。
姉妹揃って、無言で自由の女神像に魅入っている。 かつてまだ少女の頃、まだ幼い子供の頃に、欧州から命からがら逃げのびた時も見ただろう、その姿を。
何を思っているのか、計り知れない。 俺がその胸中を計り知る事は出来ない事だろうし、立ち入るべきじゃないだろう。 そのまま姉妹の後ろ姿を眺める事にした。

フェリーはやがて、リバティ島を離れエリス島に。 ここは昔からこの国にやって来た移民たちが、最初に足を踏み入れた『新大陸』だ。 今は移民博物館が有る。
もっとも、遅い時間に乗船したからリバティ島へも、エリス島へも降りていない。 それぞれの停泊時間は5分から10分だし、本格的に見歩けば次の便になってしまう。
陽が暮れて来て、夕焼け空に変わりつつあった。 船上は随分と寒い、それでもまだデッキで頑張っているアルマに、船内の売店で買った熱いコーヒーを持って行ってやる。

「―――アルマ、風邪をひくぞ? ほら、熱いコーヒー」

「あ、ありがとう。 大丈夫だよ、私、この光景が大好きなの・・・」

この光景? 確かに真っ赤に映える夕空が、自由の女神像を綺麗に浮き立たせている。 向うには夕日を浴びた水面を従えた摩天楼群が、真っ赤に燃えている様だ。

「―――うん、確かに綺麗だけどさ・・・それだけじゃないの。 私、辛い事があったり、落ち込んだりした時にね、このフェリーに乗るの。
それでね、港を一周して、そして最後にマンハッタンを見るの。 『よし、まだ頑張れる。 私、まだ頑張れる!』って、そう思えるんだ、あの時みたいに・・・」

あの時、とは多分、難民としてこの国にやって来た時の事なのだろう。 今でもエリス島は、国際難民受け入れの窓口のひとつだしな。
地獄の様な欧州から、散々その地獄を見ながら命からがら脱出し、ようやくたどり着いた新大陸。 幼かっただろうアルマの目に、目前の摩天楼はどう映った事か。
そうなのか。 ここは、この風景は、アルマの『聖地』だ。 何としても生きていく、父も、義父になるかもしれなかったイヴァーリも居ない。
姉は自分達の為に、軍に志願入隊した。 もしかすると死んだ父同様、戦場でBETAと戦う事になるかもしれない。 母は体が弱い。
誰かに弱音を吐く事も出来ない、出来なかった彼女が、それでも必死に生きていく為に必要な儀式、それを行う為の『聖地』だったのか。

「―――うん、私、頑張る。 まだ、頑張れるよ」


アルマの後ろ姿を見ながら、船内に戻ろうとすると、入口に姉のイルマが立っていた。

「―――元々、このフェリーに乗り出したのは、私なんです」

「君が?」

そうか、この娘はそれこそアルマよりずっと前から、体の弱い母親と幼い妹の面倒を見てきた娘だった。 その苦労は一言では言い表せないだろう。

「―――難民だからって、国が無いからって、随分悔しい思いをしました。 働いても、働いても、ちっとも暮らしは楽にならないし・・・
いつ、移民局や市警の摘発に遭うかって、ビクビクしながら生きていました。 絶望で押し潰されそうになったり・・・」

多くの難民が、そんな希望の見えない暮らしをしている。 それはこの国もそうだし、帝国でもそうだ。 キャンプから抜け出した不法居住の場合、更に摘発の恐怖が加わる。
それでも彼女達の母娘は必死になって生きてきた。 母親は体調を崩しながら働いていた様だし、姉のイルマも碌に学校へも行けず、働き詰めだった筈だ。

「せめて、父が生きていたらって・・・イヴァーリさんに再会する前だったし。 そんな時、私もよくこのフェリーに乗ったんです。
フィンランドから何とか生きてアメリカに着いた時、初めて見た光景でした。 『生きてやるんだ、頑張るんだ』って、あの時そう思いました」

その後、アルマも一緒にフェリーに乗る様になったと言う。 訂正、アルマだけじゃ無い、イルマにとってもこの光景は『聖地』だったか。
夕焼けの空に、自由の女神像がその祝福をずっと掲げていた。 カモメが数羽、夕焼け空に向かって飛び去って行った。





その後、イルマとアルマ姉妹の家に招待された。 88丁目のヨークヴィルのアパート。 彼女達の母親も、最近は体調が良い様で、始めた手芸店を切り盛りしていると言う。
こじんまりとした、しかし清潔で快適に整えられた感じのいい家の中。 夕食に招待されて、食卓に出てきたのは、伝統的なフィンランドの家庭料理。
ライ麦で作った生地を餃子の皮のように延ばした上に、米のお粥を載せてオーブンで焼いた『カレリアン・ピーラッカ』 モチモチしていて、美味かった。
雌牛のチーズを焼いて、イチゴジャムをかけた『レイパユースト』、フィンランドのドーナツ『ムンッキ』、エンドウ豆のスープ『ヘルネケイット』
メインはジャガイモと魚の炒め蒸し。 それに一瞬『月見団子みたいだ・・・』と思った丸パンの『サンピュラ』
それに『グロッグ』と言うグリューワイン(ホットワイン) アルマが顔を真っ赤にしている。 食後はコーヒーと『プッラ』と呼ばれる甘い菓子パン。

色んな話をした。 イルマが無事に兵役を終えて、将来やりたい夢。 アルマの教師になりたいと言う夢は、母も姉も初耳だったようで、でも喜んでいた。
フィンランドと日本について、皆よく知っていた。 日露戦争で日本が帝政ロシアを破った時、フィンランド人は大喜びして希望を見出したとか。
ああ、あの事は確か、フィンランドはロシア帝国領だったな。 ロシア皇帝がフィンランド大公を兼ねていた筈だ。 
大っぴらに喜びは出来なかったろうが、それでも先祖(曾爺さんの頃か?)の活躍が、遠い外国で喜ばれたのは嬉しいものだ。

俺も知っている僅かな、フィンランドに因む知識を話した。 大半は国連軍時代、ユーティライネン大佐と、オーガストと結婚したペトラ・リスキから教えて貰った事だ。
あとはイヴァーリか。 ユーティライネン大佐もイヴァーリも、そしてペトラも陥落前のフィンランドを良く知っている、彼らの美しい故郷を。
トーべ・ヤンソン、ラルス・ヤンソン兄弟の童話と絵本の『ムーミン』は、帝国でも子供達は、一度は親に読んで貰った事が有るだろう。 俺も有る。
あの作家兄弟は(弟のラルスは絵本作家だが)フィンランド人だ。 あの作品の舞台もフィンランドだったしな。
フィンランド人の自称の『スオミ』の事。 先の大戦でお互い残念ながら敗戦国同士になった事(ラップランド戦争)
カール・グスタフ・エミール・マンネルヘイム元帥(後に大統領)、ジャン・シベリウスの交響詩管弦楽曲『フィンランディア』・・・





深夜のメトロノース鉄道、そのハーレム線。 休日なので流石にこの時間、車内は閑散としている。 窓の外は真っ暗だが、所々灯りが見えた。
あの灯りは家庭の、家族の団欒の灯りだろうか。 そう有って欲しい、そう思う。 アルマの家を辞し、今帰宅の途についている。
こんな世界だから、余計にそう有って欲しいと思う。 安っぽい感傷と笑われるかもしれないが、あの灯りのひとつに、アルマの笑顔が有って欲しい、そう思った。










2000年11月4日 1045 合衆国N.Y.マンハッタン セントラルパーク


前日に引き続いての、2日目の強行軍。 今日、日曜日はジョゼとの約束の日だ。 流石にジョゼは、アルマ程のお転婆力は無いから、少しだけホッとする。
同じアウトドア志向でも、活発で能動的なアルマに対して、ジョゼはどちらかと言えば自然に癒しを求める様な子だ。 今日はのんびりと『プチ・ハイキング』だった。
今はジョゼの家の近くでも有る、セントラルパーク。 その東南角に来ている。 ただし、『公園』と侮るなかれ。 南北4km、東西0.8kmの広さがあるのだから。
ピンと来ないかもしれないが、この広さは実に、現在帝都で大規模改修中の『帝都城』、その全関連敷地(禁衛師団や斯衛軍の占有地含む)の、3倍程の面積が有る!

「―――綺麗・・・ ねえ、お兄さま、綺麗・・・」

「ああ、本当に。 ・・・どこか、スコットランドを思い出すな」

「・・・ええ! ええ、思い出すわ!」

『The Lake』―――セントラルパークで2番目に大きな湖にボートを浮かべて、周囲の景色を楽しんでいる。 ジョゼも周りを、うっとりとした表情で眺めていた。
紅葉に彩られた森と、そこに掛る小さな橋が見える―――『Bow Bridge』だ。 映画のロケにも良く使われるし、ポストカードのデザインにも定番で使われる有名な場所だ。
陽の光が水面に反射してキラキラと輝いていて、それが木々の隙間から木漏れ日となって見えてくる、その光に照らされた美しい橋。 もう140年以上前に造られたそうだ。
どことなく、ジョゼの故郷のスコットランドの森と湖を思い出す。 そう言えばあの時、屋敷近くの森に有る湖水まで『ハイキング』に行ったのも、丁度こんな時期だったな。

「―――ねえ、覚えている? まだ私が小さかった頃、グラスゴーで暮らしていた頃。 ほら、私とお兄さまと、ペトラに爺やも一緒で、近くの森に行ったわ・・・」

「ああ、行ったね。 何せその前に、お姫様がご機嫌を損ねていたからなぁ・・・」

「ああ! 酷い! 最初に約束を破ったのって、お兄さまじゃ無かったかしら!?」

ジョゼがプッと膨れっ面で抗議する。 そんな表情も可愛らしく微笑ましかったので、自然と俺も笑みが出た。 今日も秋晴れ、良い天気だ。
オールを漕いで、ゆっくりボートを進める。 水面に陽の光が反射して、それが湖水に映った紅葉の赤や黄色の色彩を輝かせて、本当に美しい。
ジョゼは珍しくラフな格好だ。 ピンクのシャツの上に、クリーム色の厚手のセーター。 下は普通にジーンズとスニーカー。 髪はこれも珍しく、ツインテールにしている。
俺はと言えば、実は昨日とほぼ変わらない。 タートルネックセーターが黒から濃茶に変わっただけで。 実は近所のフリマ(フリーマーケット)で、安く買った代物だよ。

「ごめん、ごめん、そうだったね。 じゃ、今日は前みたく、1日お供させて頂きます、お姫様?」

「うむ―――苦しゅうない!」

2人して笑い合う。 暫くボートからの景色を楽しんだ後、岸に戻ってまた、深い紅葉に包まれた森の小道を散策する事にした。
ここは本当に広い、木々が深く生い茂る『森』だ。 道も曲がりくねった坂道や、小さな橋が有り、小道が有り、深い紅葉に包まれた森。
世界最大の大都会のど真ん中に、こんな自然が有るなんて。 いや、こんな自然を残して、維持し続けているなんて。 国情の違いとは言え、そんな努力が出来る事自体が羨ましい。

「あ―――見て、見て、お兄さま! リスよ、リス!」

「お、本当だ―――食い気に一生懸命だな、逃げやしないぞ?」

「もう直ぐ、冬だもの。 あの子達も今は一生懸命、たくさん食べないと。 ね? そうだよね?」

1匹のリスが、ベンチの上で木の実を抱え込んで食べている。 ジョゼはその前にしゃがみこんで、まるで友達に話す様にして話かけている。 楽しそうだ。
モコモコの、ふわふわ、とジョゼが言うように、そろそろ冬毛に覆われているリスが4、5匹、あちこちで木の実を食べていたり、それを巣に持ち帰ったりしている。
セントラルパークにはこう言った、野生の小動物が実に多い。 先程の湖には、カルガモの親子が列を為して泳いでいたし。 みんな、冬に向けて秋の大食欲大会の真っ盛りだ。

ちょっと道から外れて水辺ギリギリまで行ってみると、木々の香りと土の匂い、それに湖の風のコンビネーションが実に良い。
しかも目前には、対岸の木々の上に聳え立つ摩天楼のビル群が水面に反射していて、いかにもニューヨークな景色だ。
そしてよく見ると足元には、リスやカモなどの小動物が、これまた楽しそうに遊んでいたりして・・・

「あっちに行きましょうよ、お兄さま! ほら、早く!」

「はいはい・・・ジョゼ、走るなよ? 危ないぞー?」

「もう、子供じゃ無いモン!」

―――いや、充分、まだ子供だって。

『The Mall』―――先程の『Bow Bridge』から南東に進んだ、大きな楡の木の並木道がずっと続いている。 紅葉と落ち葉の絨毯、木漏れ陽で、世界が鮮明な赤に染まっている。
途中で色んな人達に出会う。 赤ん坊連れの親子や、祖父母に手を引かれたヨチヨチ歩きのお孫さん。 元気な腕白坊主たちや、元気一杯の小さな女の子たち。

ふと思う。 彼等はこの国以外の惨状を全く知らないだろう。 今、自分達の周りの世界が、あの子達の全て。 世界は光に照らされて明るく、優しく、前途に満ちている。
それで良いと思う。 それを非難する事は間違っていると思う。 いずれ大人になって、自分の価値観や認識を持った時に、別の世界が有る事を知れば良い、そう思う。
自分の子供達の事を考えてみた。 まだ会っていない我が子たちは将来に必ず、自分と、自分の国が置かれた困難な局面を認識するだろう、否応も無く。
それは親としては残念なことだ、そして出来ればその状況を少しでも改善しておいてやりたい、切にそう思う。 
だけれども、目の前の小さな子供達を目にして、我が子たちを不憫とは思いたくない。 そして目の前の子供達を、恨めしく思いたくも無い。
人は産まれて、育って、生きて、老いて、そして死んでゆく。 遥か昔から繰り返してきた、それに差は無い。
生きていく上で、何がどう違うのか、何をどう努力すべきなのか、その違いだけだ。 そしてそれを、その不満を他者にぶつけても仕方のない話だ、それだけだ。





『The Mall』を抜けて、広大な広さの芝生の広場、『Sheep Meadow』につく。 ここではみんな、思い思いに過ごしている。
走り回ってはしゃぐ子供達、何かの遊技を使って楽しんでいる若者たちのグループ、木陰でのんびりしている親子連れ。
丁度、昼前になっていたので、ここで昼食を取る事にした。 丁度いい木陰を見つけて、そこで持っていたバッグから、ビニールシートを取り出して広げる。
更にミネラルウォーターのペットボトル、コーヒーとホットレモネードの入った魔法瓶を2本。 ジョゼは自分のバスケットから、2つ、3つと箱を取り出した。

「ね、お兄さま、食べて見て。 私が作ったの!」

「―――ジョゼが?」

へえ、この子の家にもなると普段から料理は、昔は使用人、今はお手伝いさんと言うか、兎に角ジョゼや母親のミセス・アクロイドが、自身で作る事はほぼ無いだろうに。
って事は、『料理初挑戦』か? 期待と不安、両方が同居した様なジョゼの顔を見ていたら、そんな事もどうでもよくなって、バスケットの中に手を伸ばしていた。

「ど・・・どう?」

「・・・ん、これは美味いね、このコールドチキン。 ワカモーレソース、ちょっとレモンを利かせているかい?」

唐辛子の効いたワカモーレソースだけど、レモンの風味がピリ辛だけじゃなくって、爽やか感な風味も利いている。

「う、うん! 賄いのミセス・ヴォーグが作るのは、普段はもっと抑えているの。 でも、私、もうちょっとレモン味が強いのが好きかなーって・・・美味しい・・・?」

「美味しいよ、これ、全部ジョゼが作ったのかい? あ、そっちのハムサンド、貰うね」

「うん! 全部、私が作ったの!」

コールドチキン、生ハムと卵のサンドウィッチ、キュウリの酢づけにサラダ、リンゴは手の込んだウサギ風!にちゃんと切ってある。 全部ジョゼが作ったのか。
いや、美味いよ、お世辞抜きで。 ふと昔に、まだ独身時代に妻と初めて泊まりで旅行した時を思い出した。 あの時も弁当、作ってくれたよなぁ・・・
何て事を考えていると、ふとジョゼの左手、その指に巻かれた絆創膏が見えた。 さっきまで薄手の手袋をしていたから、気がつかなかった。
それに、時々目をしょぼつかせているな。 寝不足か、そして指の絆創膏・・・いや、野暮は聞くまい。 美味しく食べさせて貰おう。

「ジョゼ、食べないと、俺が全部食べてしまうぞ?」

「え・・・あ、ダメ! 私も食べる!」

晴天の秋空、暑くも無く寒くも無い、長袖で動き回るのにちょうどいい気候、昼下がりの芝生の上のランチ。 
チキンやサンドウィッチ、サラダなんかを食べ終わって、デザートのリンゴを齧りながらコーヒーを飲む(ジョゼはホットレモネード)
どこかで鳥の声がする、何て鳥かな? おやつがてら持ってきたナッツを放ってやると、どこからかリスが出て来て、美味しく頂いている。
ふとジョゼを見ると、もう目が虚ろだ。 多分、早起きの為に寝不足と、お腹が満腹なのと、この天気で眠気に負けそうな様子だ。

「―――ジョゼ、1時間ほど、ここでゆっくりしようか?」

「う・・・ん、おやすみなさい・・・」

―――今、あっさり『おやすみなさい』とか言わなかったか? と思っていたら、コテンと横になって、スー、スーと寝息を立て始めてしまった。
流石にこのままじゃ風邪をひく、俺のジャケットを掛けてやったから、まあ1時間ほどならこの天気だ、大丈夫か。 その間に片づけ物でもしておこう。

芝生の上を流れる、秋のそよ風。 天気も良いし、俺も眠くなりそうだ・・・








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