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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 伏流 米国編 4話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/16 23:27
2000年10月25日1930 合衆国 N.Y.マンハッタン、ミッドタウンセンター マディソン・アヴェニュー 『ザ ニューヨーク パレス (The New York Palace)』


18世紀か19世紀を彷彿とさせるエントランス、街灯と窓から漏れる光が一層、時代を感じさせる。 ゆったりとした音楽、さざめく会話、グラスの鳴る音にシャンデリアの輝き。
このホテルはニューヨークのほぼ中心に位置し、500m 以内にセント・パトリック大聖堂、ロックフェラーセンター、近代美術館へは徒歩でアクセスできる。
室内はこれまた、格式と歴史を感じさせる意匠の数々。 一瞬、数年前に少しだけ任務で居た事が有る、スコットランドのカントリーハウスを思い出した。

東欧州社会主義同盟に属するルーマニア社会主義共和国。 亡命政府は他の東欧諸国同様、イングランドのマンチェスターに拠点を置いている。
ただし、軍事的に『国連軍』の指揮下で戦っている関係上、国連政府代表団は当然ながら派遣しており、ワシントンには大使館も継続して開いていた。
そしてこのN.Y.にも、僅かながら(本当に僅かだが!)『正式に』避難して来た自国民の為に、在N.Y.ルーマニア総領事館が有る。
今日、10月25日はルーマニア軍の軍隊記念日(日本帝国なら、陸軍記念日とか、海軍記念日に相当する)。 1944年10月25日、ルーマニア全土の解放が達成された。
ワシントンでは、ルーマニア大使館主催の祝典が開催されている。 米国国務省、国防総省、各国の大使や首席武官たちがこぞって招待されているだろう。

「―――こういう場は、初めてです。 少し緊張しますね」

横で前田大尉が、苦笑気味に周囲を見渡している。 散々文句を言ったが、上官命令で出席させた。

「―――余り固くなるな、どうせ周りは殆どが同業者だ。 とは言え、俺もこの格好は慣れないな・・・」

自分の姿を、鏡に映して思わず苦笑する。 礼装用の金モールとも言われる、金地の礼装用階級章にブラックタイ。 黒のメスジャケットの上下にオレンジ色のカマーバンド。
胸には略綬の代わりにミニチュアメダル。 これが結構、ずらっと並んだものだ。 帝国軍のは当然ながら、国連軍時代のも付けなきゃならないからな。

「―――随分とまァ、ズラッと並んだものですね、周防少佐」

「―――うん、我ながら、驚いている・・・」

勲功章が勲五等旭日章に、勲六等瑞宝章。 これはまあ、生きて無事に軍務年限を務めれば、半ば自動的に貰える。 同期生達も殆どが貰っている勲章だな。
後は従軍記章。 大陸派遣軍従軍記章(満洲派遣と満洲・半島派遣の2回)、京都防衛戦従軍記章に甲22号作戦従軍記章、シベリア派遣従軍記章の、各従軍記章。
戦功章は、帝国のは、京都防衛戦後に受勲した功五級金鵄勲章と、シベリア派兵の後で少佐に進級してから受勲した、功四級金鵄勲章と帝国軍武功章。
国連軍時代のは、国連軍殊勲十字章(1等級、バトル・オブ・ドーヴァーで)、国連軍名誉戦傷章(イベリア半島で)、国連軍殊勲十字章(2等級、カラブリア半島で)
他国から貰ったのが、カヴァリエーレ(cavaliere:カラブリア半島・シチリア防衛戦でイタリアから)、ミリタリー・クロス(Military Cross、武功十字勲章:イギリスから)
あ、ドーヴァーの戦いでついでに、西ドイツから一級鉄十字章(Eisernen Kreuzes I)も貰ったな。 貰えるモノは貰っとけで、有り難く頂戴したが。

前田大尉も礼装なのは同様で、異なるのは俺がスラックスなのに対し、彼女は踝まであるロングスカートだと言う事。 つまり2人とも、帝国陸軍第2種礼装に身を包んでいる。
ドレスコードが『タキシードで』なのだから、帝国軍人としてはこの礼装しか無い。 普段は仕舞い込んでいるが、海外出張の為に慌てて箪笥の奥から出して持ってきた代物だ。
そしてその礼装を着る羽目になった理由、ルーマニア政府の国連代表団(付きの武官団)が、ルーマニア軍記念日祝賀パーティーをN.Y.でも開催して、招待状が来た為だ。
ワシントンの大使館と違い、N.Y.には武官は少ない(政府代表団と、出張事務所に少数)から、自然とこっちにも出席要請が入る。 ま、頭数合わせだ。
しかも間の悪い事に、同じ日に統一中華でも台湾が『台湾光復節』の祝賀パーティーを開催しており、ワシントンとN.Y.の外交官・武官に動員がかかっている。
台湾は1944年以降も暫く日本の海外県だったが、1949年の国民党の台湾脱出、そして翌1950年の日華和平条約と、台湾住民総投票の実施。
その結果、1951年のサンフランシスコ講和条約に伴い、正式に日本帝国からの独立と相成った。 これが1951年10月25日。 『台湾光復節』だ。

「―――面倒そうな台湾の方は、篠原さんに任せたけど・・・こっちもまぁ、みんなやる気満々だな」

「―――武官外交の、言わば主戦場ですし。 頑張って下さいな、周防少佐」

「―――お前さんも、精々愛想を振りまいて、情報集めて来い。 前田大尉」

ホテル内の、ちょっとした晩餐会が開かれるその部屋では、各国外交官や武官に同伴の、ローブ・デコルテを着た外交官夫人や武官夫人達が華やかに談笑している。
当然ながら外交官もいる事は居るが、圧倒的に数が多いのは各国の軍人たちだ。 メスドレス(軍人の礼装)姿が男女問わず、あちこちに目につく。
多いのはやはり合衆国軍人、それとルーマニアと同じ東欧州社会主義同盟に属する各国軍の軍人達。 東ドイツ、ポーランド、ハンガリー、ブルガリア、チェコスロバキア・・・
東欧諸国の『大家』である英軍の将校も居るし、西ドイツ軍、仏軍、イタリア軍にスペイン軍、デンマーク軍や北欧諸国軍も居る。
向うで固まっているのは、中東諸国軍にトルコ軍とイラン軍。 AU(アフリカ連合)軍や大東亜連合軍の連中も見える。 英軍と居るのは、英連邦諸国軍の連中か。

日本からは、N.Y.の政府代表団に臨時でくっ付いている交渉団の一部の連中と、出張事務所からは俺と前田大尉の2人。 それでも全部で4人だけだ。
参加している帝国軍人の中の最高位、海軍の徳河照子中佐が頑張っている。 五摂家とは毛色の異なる上級武家貴族出身だが、それでも流石は貴族、場慣れしている。
徳河中佐は、死んだ兄貴とは同期になる人だ(出身軍学校は違うが) お陰で随分と穏やかに接してくれている。 同じ兄貴の同期の長嶺中佐とは、随分と違うな、お淑やかさが。
そんな、見た目は穏やかなお姫様の徳河中佐だが、これでも潜水母艦艦長として、佐渡島や明星作戦にも参加した古強者だ。

大東亜連合の連中に捕まっているのは、俺と同じ陸軍の松永浩一郎少佐。 陸士出で、ウェストポイント(米陸軍士官学校)留学経験も有る、参謀本部内の国際派の1人。
統制派や少数残っている国粋派の参謀とは、日々苦労をしている人で、同じく短期だが米国留学経験のある俺とは、話の合う数少ないエリート将校。
大陸派遣軍では、機械化歩兵装甲部隊の指揮官として、悪戦苦闘をした経験を持っている。 前線部隊と、後方の要職をバランスよく経験している、若手の俊英だ。
後は俺と前田大尉だけ。 所長の篠原少佐と、あと3人を台湾の祝賀会に出して、半数を事務所に残さなければならなかった為、俺と前田大尉がこっちに来た。
最初、前田大尉は堅苦しいのを嫌がっていたのだが、篠原さんに2人しか居ない女性将校の内、もう1人のWAVE(女性海軍士官)の大尉を持って行かれた。
『できれば』婦人同伴、と有ったので選択肢としては必然的に、残る1人の女性士官で唯一のWAC(女性陸軍将校)の前田大尉を、引っ張って来るしか無かったのだ。

シャンパングラス片手に『友軍』の戦況を観察していると、脇から声を掛けられた。 振り返ると3人の他国軍の軍人達が歩み寄って来ていた。
二言三言、挨拶を交して雑談に入る。 今日初めて会ったばかりの相手だが、そこは軍人同士、色気も味気も無い話題はお互い事欠かない。


「―――ですから、私はその英軍将校にこう申し上げたのですよ。 『結婚前には両目を大きく開いてみよ。 結婚してからは片目を閉じよ』とね!」

「―――トーマス・フラーですかな? 確かに、東欧諸国を受け入れた英国も、結婚した男と同様ですな」

「―――多少の欠点は、見過ごす寛容さが大切ですな。 そう思わないかね? 周防少佐?」

ちょっと鼻にかかった英語で話すのは、ポーランド軍のクリシュトフ・ヴォシニャク中佐。 2m近い長身の、砲兵将校と言っていた。
他に東ドイツ軍のコンラッド・ヘルメスベルガー少佐と、ハンガリー軍のペーテル・エステルハージ中佐。 ん? ハンガリー人は日本と同じ、姓が前だったかな?
とにかく、その3人が英軍の吝さ(今に始まった訳でない)、東欧州社会主義同盟に対する要求の(英軍にとっては当然の)多さ。
そして相手に要求して来る改善点(東欧州諸国にとっては、無理難題と言っている)の、多さ加減を皮肉った話題を振って来た。

「―――『青春の失策は、壮年の勝利や老年の成功よりも、好ましいものだ』、ベンジャミン・ディズレーリ。 
ああ、失礼。 『40歳を過ぎた人間は、誰でも自分の顔に責任を持たねばならない』、エイブラハム・リンカーン。 仰る通り」

ちょっと引っ掛けてやった、別に諧謔と洒落こんだ訳じゃないが。 最初の警句は、逆説的に青春時代の挫折を励ました言葉。
次は人の容貌は、当人の教養や経験で如何様にも変わる、と言う意味で。 詰まる所・・・『文句垂れる前に、行動して実績を残したら如何?』と。
別に英軍の肩を持つ訳じゃないが、土地から兵站から、何から何まで、厄介になっている『大家』に、流石にそれは無いだろ? と少し思った訳で。
ヴォシニャク中佐とエステルハージ中佐は、ちょっとムッとした表情をするも、直ぐに持ち直して冷ややかに苦笑する。
1人、東ドイツ軍のヘルメスベルガー少佐だけが、面白そうな表情でこっちを見ていた。 やがて大した話題も出ないので、その場を断って離れる事にした。

「周防少佐」

給仕から飲み物を受け取って、さて何処の輪に入ろうか、どこに挨拶でもしようか(国益の為の情報収集は、武官の任務だ)、そう考えていると背後から声を掛けられた。

「ヘルメスベルガー少佐、何か?」

見た目は30代前半、と言った所だろうか? 人口の激減、人材の減少が叫ばれる東欧諸国軍に有っては、そろそろ中佐目前と言った所か。
くすんだアッシュブロンドに灰色の瞳の、無駄な肉を削ぎ落した様な鋭い印象の男だ。 しかし何の用だ? 東ドイツに関わる様な記憶は無いんだが?

「いや、少しお話したいのだ。 宜しいか?」

宜しいも何も、そんなあからさまに周囲を気にする素振り。 そして小声で囁く様に、意味深に話しかけて来る。

「・・・まだ決定では無いのですが、来年からの我が軍・・・東欧州社会主義同盟軍に対する兵站量が増えると言う情報、ご存じか?」

―――欧州での、東欧諸国群への兵站量? それが増加? だからどうしたのだ? 帝国には関係が・・・待てよ?

「・・・貴国の、東欧諸国の『大家』である英国の後ろに居るスポンサーは、随分と気前が宜しい様だ」

スポンサー、つまり合衆国だ。 表向き、東欧諸国は『国連軍指揮下』として参加している。 当然ながら国連軍大西洋方面総軍の指揮下だが、兵站は実質、合衆国持ちだ。
英国は『店子』である東欧諸国の面倒を、単独で見切れるほどの経済力は無い(帝国と同レベルだ) 西ドイツやフランスなど、自国だけで精一杯、いや、自国分も賄いきれない。
当然、欧州で不足する兵站量は後方から合衆国が一手に引き受けて、大西洋を渡って補給し続けている。 欧州各国がアフリカ大陸に持つ各種プラントの建設・保守整備もだ。
当然ながら、兵站は奪い合いだ。 各国ともに少しでも多くの取り分をと、裏では激しい分捕り合戦を繰り広げている。 その兵站の充当が増える? 
合衆国も無尽蔵に、資源と資金と物資を有する訳じゃない。 こっちが増えれば、あっちを減らすしかない。 特に経済的に天井が見え始めた今となっては・・・

「―――我々は、訝しがっておるのですよ。 その増加分は、どこかを削る以外に流石の『かの国』もそうそう捻出できまい、とね。
時にとある家庭では、別の家庭に対するプロポーズに、夫婦間の見解が分かれていると側聞するが、家庭内不和は収まりつつあるのでしょうや?」

「―――ご心配なく。 夫婦の愛情ってものは、お互いがすっかり鼻についてから、やっと湧き出してくるものなのです」

現実には、鼻に着くどころか、夜毎の夫婦喧嘩状態だが。 江戸の小話にも有る、『婚礼が終わって10年、亭主が怒鳴り、女房がわめく。 それを隣の人が聞く』だ。
国際社会ってのも、随分と安普請で壁が薄い様だな。 もっとも帝国と合衆国の今の関係は、世界中の諸勢力にとっての関心事だからか。
にしても、どう言う事だ? 東欧諸国にとっても、兵站量の増加は有り難い話だろうから、その辺の真意の確認か? だったら合衆国の連中にでも、当たれば良いものを。

「―――その不和に付け込み、後添えを企みおる企てが有るとか。 ご存じか・・・?」

「―――流石に国民の3割近くの耳が長いと、色々と話も聞こえて来るようですな?」

こいつ―――この少佐、情報関係者か? どう言う了見だ?

「―――いえ何、捨てられた亭主と言うのも悲惨なもので。 もっとも妻の方も、正妻に迎えられるとは限りませぬが?」

ワシントンと、N.Y.に跨る軍産官複合体が? 帝国に介入をすると?

「ヘルメスベルガー少佐―――貴官は一体・・・」

そう言いかけた所で、視線の片隅に新たな人影が入った。

「―――女に懲りるのは一度でたくさん。 誰もがそう思いながら、二度三度と繰り返す。 然るにそろそろ、学習をした方が良い場合も有る。 ホモ・サピエンスならば」

綺麗に撫でつけたブロンドの髪、これまた整えた口髭。 顔立ちは端正な方だろう。 英軍の将校がそこに立っていた。

「等価交換とは、与太話には当て嵌まらぬでしょうな。 周防少佐、ヘルメスベルガー少佐、如何かな? 両君?」

ある種の猛禽の様に鋭い目、皮肉がたっぷり効いた口元。 典型的な『英国貴族将校』、そのものの外見を裏切らない、その口調。
国連英国政府代表部附武官、バーフォード伯チャールズ・クリストファー・ボークラーク英陸軍中佐。 駐在武官の中では、『大物』の1人だ。
すると、ヘルメスベルガー少佐が意味深な苦笑を残し、ボークラーク中佐へ一礼だけを残し、早々にその場を立ち去って行った。
一体何だったのだろうか? そう疑問に思っていると、ボークラーク中佐がヘルメスベルガー少佐の後ろ姿を無表情に眺めながら、呟く様に言った。

「ふむ、今回はコンラッド・ヘルメスベルガー少佐か。 3年前のベルファストでは、ライナルト・シュローダー大尉と名乗っていた。 
NVA(東ドイツ人民軍)参謀本部第3部(情報部)だよ、あの男は。 シュタージとの関わりまでは、DISもSIS(旧MI6)、SS(旧MI5)も、洗い切れていないようだがね。
気を付けたまえ、君。 情報部と言う人種は、虚実織り交ぜて無意識に『刷り込み』をやって来るものだ」

「―――小官は一介の、ただの臨時派遣将校ですが? 中佐」

東ドイツの軍情報部、か。 頭では承知してはいるんだが、俺もご多分に漏れず、情報機関の人間に対しては、余り良い印象を持っていない。
しかし、本当にどうして俺などに? 仕掛けるならば、ワシントンの方に出席しているお偉方の方が確実だろうに。 しかし何故また、東独が日本帝国に?
改めて疑問に思った事を言う。 暫く口髭を弄りつつ、俺の言葉を表情も変えずに聞いていたボークラーク中佐が、一瞥を投げかける様にして言った。

「そこそこの立場、そこそこのポジション、そこそこの階級。 これ見よがしな工作は、必ず失敗する。 気がつけば・・・と言うのがベストだ。
つまりは少佐、君はその『都合が良い』立ち位置に居ると言う訳だ。 少佐と言う階級は、決して高官ではないが、その報告を組織が無視できるほど軽くは無い」

「・・・『外套とナイフ』、その歴史が語る、ですか」

「なに、先祖代々の教訓だよ。 君、我が家の先祖は王家に繋がるが、かと言って、ロンドン塔と無縁だった訳ではないのだよ」

どうやら、俺は知らずに包括されかけていたらしい。 しかしどうして、この英軍中佐は助け船を? ベターなのは状況を更に利用して、ダブル・トリプルに抱き込むはずだ。

「ふむ、理由か。 極めて個人的見解―――気まぐれだと思ってくれたまえ」

どうせまともに言う筈も無かろうが、敢えて理由を聞いてみれば、そんな人を食った理由とは。 それを信じろとでも?

「信じんだろうな。 訳か・・・ローズマリー・フィリパ・ヴィア英陸軍少佐、今は予備役に入っている。 ヴィア男爵家令嬢、覚えているかね?」

「・・・英軍の、ヴィア少佐?」

なんだろう? 少しその名には聞き覚えが有る、だけどはっきりと思い出せない。 その名からして、帝国軍人としての俺が会った相手では無いだろう。
大陸や半島の戦場に、英軍は出張って来ていないのだから当然だ。 可能性が有るとすれば、国連軍時代。 どこだ? アレキサンドリア? ジブラルタル? マルタ?
地中海でないとすれば、英本土か? ウェールズ? ベルファスト? グロースター? カンタベリー? どこかの基地か? スコットランドじゃない筈だ、記憶に無い。

「1996年の4月。 北フランス、ブーロニュ・シェル・メール前面。 プリンセス・オブ・ウェールズ・ロイヤル連隊(PWRR)、その第3大隊『ローズ』―――覚えているだろうか?」

ボークラーク中佐の言葉を、脳裏で反芻する。 1996年の4月、北フランス。 『PWRR』 ・・・『バトル・オブ・ドーヴァー』か!

「そうだ、周防少佐。 君が、我らが女王陛下よりミリタリー・クロス(Military Cross:武功十字勲章)を叙勲された、あの戦いだ。
PERRの第2、第3大隊は、突出の揚げ句に危地に立たされていた。 その第3大隊の危機に対し、後退の殿軍を務めたのは国連欧州軍―――国連大西洋方面総軍所属の1部隊。
第1即応兵団第1旅団戦闘団、その団本部直属の遊撃部隊、第13強行偵察哨戒戦術機甲中隊『スピリッツ』だったな? 周防少佐、貴君が当時、所属していた部隊だ」

ボークラーク中佐の俺への呼びかけ方が『貴官』や『君』から、尊称を帯びた『貴君』に変わっている。

「第3大隊は定数の1/3を失いつつも、何とか後退する事が出来た。 周防少佐、感謝しているのだ、私は」

「―――感謝、と?」

「そう、感謝だ、恩人に対しそれを厭うものではない。 ローズマリー・フィリパ・ヴィア、今はバーフォード伯夫人ローズマリー・フィリパ・ヴィア・ボークラーク。
私の遠縁にして、今は妻である。 彼女が生きて今、私の妻となっている事が出来たのは、あの戦場で生還できた事以外に、価値の有る理由は他に無い」




テラスの近くで、複数の相手に囲まれながら談笑している。 あれからボークラーク中佐の紹介で、次々と欧州各国の外交官、武官に紹介して貰えたのだ。
にしても、我ながら驚いた。 何年も前の死闘の結果が、今こうしてN.Y.の一角でこの様な形―――概ね、好意的な歓迎―――となって返ってくるとは。
外交官や武官たちだけではなく、彼等が同伴させてきた夫人達からも、内心興味本位かもしれないが、歓迎された。 伯爵夫人は上流階級の世界でも、友人・知人が多いようだ。

「―――少佐は、お独りですの?」

「―――いえ、妻と双子の子供達が。 この夏前に、産まれたのですが」

「―――まあ、それはお目出度い事ですわね。 そうですわ、伯爵夫人の恩人である少佐のお子様のお誕生に、何か形の有る物を・・・如何かしら? 皆様?」

「―――そうですわね、それでは少佐の奥様にも・・・そう、何か素敵なメッセージでも添えてみては?」

「―――よろしいですわね。 いかがかしら、少佐? もし、御迷惑でないのでしたなら。 伯爵夫人は、私達の親しい友人ですの」

「―――恐れ入ります、奥様方。 妻も、喜びましょう」

こう言う場は、気が疲れる―――欧米のこういう世界はまず第1に、ご婦人方の支持を取り付けるモノ、そうは聞いているのだが。 やっぱり慣れない。
それに高々、3年程度の俺の欧米滞在歴じゃ、全くの付け焼刃だ。 ボロが出ない内に、何とかしてご婦人方のご機嫌をとりつつ、戦線離脱しない事には・・・

「―――皆さん、少しばかり彼をお借りして宜しいかな? 少々、気の置けない話をしたい所でしてな」

焦っていると、背後からボークラーク中佐の救援が入った、助かった。

「―――まあ、伯爵様。 せっかく、お話の最中でしたのに・・・」

「―――殿方だけで、何か良からぬお話を、なさるお積りですの?」

「―――なに、『男というものは美の国の庶民であるが、女はそこの貴族である』 彼が皆さんの美に溺れぬよう、私としては同輩に警句を与える義務が有りましてな」

では、失礼―――そう言うと、俺へ目線で合図して、その場を離れる様に促している。 並み居るご婦人方に一礼して、ようやく離脱に成功できた。

「なかなか、慣れていない様だ」

「面目ない次第です」

離れたテーブルで、ウィスキーグラスを二つ、給仕から受け取り1つを俺に渡す。 それを受け取って、気付け代わりにひと口飲む―――息を吐き出し、ようやく一心地ついた。
会場の部屋から出て、ロビーエントランスを見下ろせる回廊で一息つく。 見下ろせば、様々な人々が居る。 白人、アジア系、アフリカ系、アラブ系、ラテン系。

「―――まったく、世界の縮図だ、この国は」

ボークラーク中佐が、グラス片手に見下ろしながら、少し皮肉っぽい口調で言う。 どうもこの中佐の癖の様だ。

「どこで、誰が、どの様に繋がっているものか。 面白いと思わないかね? かつて奴隷だった者達の子孫が、今や支配者層に食い込む。
片や、貴族だった者達の子孫が、日雇いの労働者たり得る。 興味深いね、私の様な者から見れば、実に興味深い」

「―――中佐?」

「その様な者達が創り出す、或いは創り出そうとしている秩序とは、一体どの様なものなのか・・・ 気を付けたまえ、『会議』も1枚岩では無い」

―――『会議』? 一体、何の事だ?

「君は知るべきではない、そう、知らぬ方がよかろう。 だがもし、君が然るべき要路への道を持っているのならば、そう伝えたまえ―――『魔王』の甥よ」

―――『魔王』だと? 甥? ・・・あの人の事か?

「まったく・・・今回の使い走りは、東独か。 いったい、どんな餌を与えてやった事やら・・・」










2000年10月27日 1500 合衆国ニューヨーク州ウエスト・チェスター郡 ニューロシェル


土曜日、旧友たちからお誘いが有った。 マリア・レジェス。 NYU時代の同級生、今は『USAトゥデイ』紙の記者。
他にドロテア・シェーラーと、フェイ・ヒギンズ。 そしてルパート・フェデリク。 ルパートはブルッキングス研究所で研究員をやっている。

「・・・アメリカの記者って、随分と高給取りだな・・・」

ニューロシェルはN.Y.の北に位置し、ロング・アイランド湾に面した街だ。 そして中心からやや北上すると、静かで緑豊かな高級住宅街だった。
その中の一軒家、まるで古い小説にでも出てきそうな、3階建ての小奇麗な家。 それがマリアの自宅だ。 今日は旧友たちが集まって、ホームパーティーを、と相成った。

「馬鹿言わないで、直衛。 元々、祖父母が住んでいた家よ。 父も私も、ここで生まれ育ったわ。 両親は今、フロリダに居るけれど」

「フロリダ、羨ましいわ。 シカゴは湖からの風が冷たくって・・・」

シカゴ生まれのフェイが、心底うらやましそうに言う。 行った事は無いけど、冬ともなればそれはもう、N.Y.の比では無い寒さだそうだ。
ここは丁度、俺が今、仮住まいしているブロンクスビルとは同じウエスト・チェスター郡。 直ぐお隣だ。 車だと直ぐだし、普段利用しているメトロノース鉄道を使ってもいい。
最寄駅のブロンクスビル駅から、マンハッタン寄りに7駅目のフォードハム駅で、同じメトロノース鉄道のニューヘイブン線に乗り換えれば、3駅目の近さだ。

今日は秋の良い天気。 午後の日差しも心地よい。 と言う訳で、広い庭にテーブルを出してお茶の時間だった(パーティーは終わった)

「会議? ・・・会議、ねえ? うーん・・・」

「他に何か言っていたの? その英軍の中佐」

雑談の中でふと出た一昨日の祝賀会での一幕。 その中でボークラーク中佐の言っていた『会議』の一言に、皆が首を傾げている。

「あー、特には。 ただ、内容からして余程の要職か、高官じゃないと、それもごく一部の。 そんな連中じゃないと、知らなさそうな・・・」

ちょっと自信が無い。 でもあの時の感じでは、そんな気がした。 俺などでは到底、その存在さえ伺い知れない様な。 そんな縁遠い、世界の底の底に存在する、そんな感じだ。
それに確か、『魔王の甥』とか何とか言っていたな。 それはあれか、右近充の叔父貴の事を言っている訳か。 あの叔父貴が、職務の上で非常に恐れられる人物なのは知っている。
そんな事を考えていると、マリアがふと、何かに気付いた様な素振りを見せた。 暫く考え込んでいたが、やがてポツリと呟く様に言った。

「・・・ビルダーバーグ会議・・・」

「ビルダーバーグ会議?」

―――何だ? それは?

「・・・欧米各国で影響力を持つ王室関係者や欧州の大貴族、政財界・官僚の代表者なんてメンバーがね、北米や欧州の各地で会合を開いていたの。 今は北米だけだけど」

「マリア、ちょっと・・・」

マリアの言葉に、ドロテアが微妙な表情で止めようとする。 でもどうしてだ? どんな不都合が? 俺に聞かれたら、余程拙いのか?

「いいじゃない、別に。 直衛が知ったからと言って、どうこうなる訳じゃないわ。 つまり、そう言った世界中の実力者たちがね、世界情勢や政治経済・・・
そんな多種多様な国際問題について、討議する完全非公開の会議なの。 『影のサミット』何て呼ばれ方もするわ」

「・・・1954年よ、ポーランド生まれの社会主義者と、オランダ女王の夫が中心となって、そこに当時のCIA長官も加わって、NATOとアメリカの橋渡しの為に作られたと言うわ。
参加者は合衆国大統領、英国の宰相、EU事務総長に世界銀行総裁。 欧州の各王室関係者にロートシルト、モルガノ、ロートウェラー、メロウズ、デュポント・・・
他にも欧州系の様々な、世界的に有力な大財閥の指導的立場の関係者。 エネルギー資源を牛耳る国際的コングロマリットの代表者に、NATOの事務総長・・・」

「国連の安保理関係では、アメリカとイギリス、フランスに多いわね。 ソ連と中国は蚊帳の外。 そして中東諸国の有力王族や政府首脳も、参加する事が有るわ。
後は・・・イスラエルかしら。 あの国は会議の常連だと言うわね。 欧米のジャーナリストだけは招待されるけれど、会議での討議内容は非公開で記事になることはないの。
一度だけ、英国のフィナンシャル・タイムズ紙で批判記事が掲載されたのだけれど・・・70年代の頃ね。 書いた記者は辞職に追い込まれて、直ぐ後で『自殺』したそうよ」

なんだか、思いっきり胡散臭い。 マリアの説明に続いて、ドロテアとフェイが教えてくれたが、聞けば聞く程に胡散臭い。 そんな会議、実際に有るのか?
まるっきり、三文記事じゃないか。 『世界を裏で牛耳る、影の政府』―――はっ! 確か子供の頃に読んだ冒険活劇で、そんなのが出てきたな。
俺の表情は多分、思いっきり胡散臭そうな表情だっただろう。 ドロテアとフェイが、『・・・私達だって、聞きかじりよ』と、バツが悪そうに弁解していた。

「・・・実在するよ、『ビルダーバーグ会議』は」

「ルパート!?」

不意にルパートが、断定口調で言ったのに、皆がちょっと驚いている。 俺も驚いた、彼はこんな与太の様な話題に賛同する事は無かったのに。

「会議の参加者は、CFR(アメリカ外交問題評議会)のメンバーも多数重複しているよ。 CFRにはブルッキングスやヘリテージからも参加しているだろう? ドロテア?」

「え、ええ・・・」

「コーエン教授は、ランド研究所のゲスト・プロフェッサーでもある。 そしてランドは、CFRと強い繋がりが有る。 そうだろう? フェイ?」

「ルパート、あなた・・・」

「そして、CFRのメンバーには合衆国以外の国のメンバーも居る。 英国王立国際問題研究所や、日本帝国国際問題研究所からも参加しているよ。
そしてビルダーバーグと、合衆国・欧州・日本の3大地域を結び付けるのが、『三極委員会』だよ。 アメリカ、主に英国、そして日本帝国。 参加者は主にその3カ国からだ。
先進国共通の国内・国際問題等について共同研究や討議を行って、自国政府や民間指導者に政策提言を行う・・・事が建前の、ビルダーバーグの『外郭組織』だよ」

―――何だって? そんな繋がりが有ったのか? 

「・・・生憎と、俺は一介の職業軍人だ。 政治には一切関わらないし、関わってもいけない、興味も無い。 けど、それだと・・・」

今後、何らかの形で、世界のどこかから帝国内部に介入してくる可能性が有る、と言う事なのか? そう言う意図を持った組織なり勢力が有る、と?

「・・・判らないわよ、そんな事」

「マリア?」

マリアが何やら鋭い視線で、周りを見渡して言った。

「だって、招待されるジャーナリストはみんな、権力に擦り寄っているって評判の、御用ジャーナリスト達ばかりだもの。
でもね、今に見ていて。 いつかすっぱ抜いてやるんだから、私が! 完全な秘密なんて、有り得ないわ。 ピューリッツァーも夢じゃないでしょ・・・?」

「―――やめろっ!」

マリアの言葉に反応したかのように、突然、ルパートが激した様に声を荒げた。 
みんな吃驚している、俺も驚いた。 彼がこんなに声を荒げるなんて、ちょっと記憶にない。

「やめろっ! やめるんだ、マリア・・・!」

「ちょ、ちょっと、どうしたのよ、ルパート!? 私に何か文句でも有るのっ!?」

「ルパート! 急に大声出さないで、落ち着いて・・・!」

「マリア、貴女も落ち着いて頂戴な。 直衛、何か飲み物を・・・2人を落ち着かせないと」

「あ、ああ・・・」

フェイに言われ、慌ててテーブルの上の冷たいレモネードを2人に手渡す。 
ルパートは一気に飲み干したが、マリアは手に持ったまま、相変わらずルパートを睨みつけている。

「・・・先月だ、ずっと僕を指導してくれてきた上級研究員が死んだ。 飲酒運転で、100マイル(約160km/h)のスピードで道路から外れて・・・即死だった」

ルパートの上司が? 事故死か、それも飲酒運転で。 お気の毒だが、自業自得と言えなくも無いな。

「彼はずっと、国際安全保障の研究を続けていた。 僕はそっちの方面で随分と指導を受けてきた。 面倒見のいい、厳しいが公正な評価をしてくれる人だった。
彼は良く言っていた、『CFRの目指す国際連合世界政府、それに異を唱えるつもりは無い。 だけどそれが特定の方向性に集約される事は、世界の為にならない』と・・・
その論文を、ようやく完成させた矢先だったんだ。 それに第一、彼はアルコールを嗜まない。 先天的にアルコールを受け付けない体質だったんだ・・・」

「それって・・・」

「やめてよ、そんな話! まるでタブロイドのゴシップ記事じゃないの・・・!」

―――『タブロイドのゴシップ記事』、マリアの言う通り、その通りだったらどれ程良かった事か。 ルパートが、小さく頭を振った。 何度も、何度も。
どうやら事実らしい、その事故は地方紙の片隅に小さく掲載されて、翌日には忘れ去られたと言う。 そしてその研究員の論文資料は、研究所の封印文書庫の中だとも。

「―――僕は彼の研究を受け継ぐつもりだ。 知りたいんだ、僕は。 世界の半分が地獄と化した今でも、人は、人同士で争い、疑心を育て、お互い判り合おうとしない。
知りたいんだ、その理由を。 知りたいんだ、判り合えるかもしれない、その道筋を。 今はまだ、出口さえ見えない、僕が生きている間に判るかどうかも、見えない。
でも―――知りたいんだ、僕は。 どうして彼は死んだのか。 その目前で一体何を見たのか。 希望なのか、絶望なのか。 だから研究を受け継ぐつもりだ、僕はそうする」










2000年10月30日 1630 合衆国 N.Y.マンハッタン・グラマシー パークアヴェニュー299 日本帝国国防省N.Y.臨時出張事務所


さっきから篠原さんが、隣の机でコツコトと、ひっきりなしに机を叩いている。 俺はと言えば、席に座ったまま目を瞑って、腕組みしたまま。 終いに眠ってしまいそうだ。
2人の机の前には、10人の部下達が各々の席に座り、チラチラとこっちを盗み見ながら仕事をしている―――違う、仕事をしている振りをしている。

「―――何時だ?」

「―――1632時、間の休憩抜いて、7時間32分経過」

俺達がさっきから、こんな会話しかしないから。 それも難しそうな表情で、朝からずっと。 そりゃまあ、上官2人がこの調子じゃ、空気も悪くなるな。
だが仕方が無い、今日の公式会議で今後の方向性が決定されるのだ。 決裂して、今後帝国は単独で、BETAと対峙して行くのか。
色々と飲み込んだ唾は多い、その代償も今後吹き出て来るだろうが、それでも兵站支援は取り付ける事が出来るのか。 それを突破口に、今後も継続交渉の道が開けるのか。
全ては後、数分から数10分の内に決まるだろう。 その瞬間を、今や遅しとずっと待っているのだ。 ワシントンの交渉結果次第で、この事務所もどうするか決まる。

「ッ!―――はい、N.Y.事務所。 はい・・・はい・・・」

突然、篠原少佐の卓上の電話が鳴った。 彼が俺に目配せする、こちらも秘話回線のスイッチを入れ、受話器を取り上げる。 受信オンリーだが、それで充分だ。

『―――ワシントンです。 交渉の結果をお知らせします』

大使館付武官補佐官の海軍少佐だ、交渉結果を伝えてきた。

『―――本10月30日、1638時、日米両国は『日米物品役務相互提供協定』、その締結準備交渉に同意。 来月の最終交渉に向け、準備に入ります』

その言葉を聞いた瞬間、腹の底から何か熱いものが込み上げてきた。 受話器を持つ手が、僅かに震えるのが判る。 行く手の前途は多難極まりないが、遥か遠くに光は見えた。

『―――同時に、今後『日米安全保障高級事務レベル協議(SSC)』委員会の設立準備に入ります。 これは最終的に『日米安全保障協議準備委員会(SCC)』を目指すものであり、
その声明文は本日2030時、合衆国国務長官、駐米日本帝国特命全権大使の署名入り声明文として、全世界に向けて発表されます』

思わず、天井を見上げて大きく吐息をついていた。 1998年の夏、1999年の夏、そして今尚、前線で苦闘を続ける戦友達よ。
少なくとも俺達は、君等が補給の心配なく戦える、その手筈だけは整える事が出来たぞ。 君等が戦う為の支援を、途切らせる事のない状況だけは、勝ち取ったぞ。

『―――お疲れ様でした、皆さん。 ワシントンより、感謝を』

「―――お疲れ様でした。 ニューヨークより、ワシントンの力戦に、感謝と敬意を贈ります」

篠原さんの言葉に、俺も内心で大いに賛同する。 腹の立つ奴も居た、視野が狭いと思った高級幕僚も居た、鼻持ちならない外務官僚も居た。
だが、そんな人々も含め、全てに感謝を―――帝国はこれでまた、今後も戦い続けられる。 そしていつの日か、そう、いつの日にか・・・

『―――この場を許して下された、皇帝陛下と全ての帝国国民に、感謝を。 以上、お伝えしました。 ワシントン、アウト』

「―――日本帝国に、感謝を。 ニューヨーク、アウト」




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