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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 北嶺編 1話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/30 20:27
1999年11月14日 1425 日本帝国領 南樺太 樺太県敷香支庁北部 日ソ国境線付近 北緯50度


「―――デビル・ワンより各リーダー、『向うさん』の要請が有り次第、一気に国境線を越すぞ、準備はいいか?」

『ドラゴン・リーダー、準備よし』

『ハリーホーク・リーダー。 何時でもどうぞ』

指揮下部隊の応答を確認した後、直率部隊の状況を再確認する―――部下の11機、全てスタンバイを完了していた。 幌内川から西に5km入った場所だ。
北緯50度、亜寒帯に属する樺太の11月中旬はもう、完全に冬だ。 シベリアからの季節風が寒気をもたらし、外気温マイナス6℃、明け方にはマイナス15℃近くまで冷え込む。
網膜スクリーンに映し出された、データ上の国境線。 その向うにはソ連国境軍(KGB所属)の国境警備司令部(大隊相当:NO)の要員が、こちらをチラチラと見ていた。
戦術情報を拡大情報モードに切り替えると、隣接してスタンバイしている戦術機大隊の位置も判明した。 場所は30km程西、樺太山脈沿いに展開している。

豊かな自然だ、カラマツの大森林地帯が生い茂り、その中を幌内川がゆったりと貫流する。 姿は見えないが、数知れない野生動物が冬籠りに入っているだろう。
ユーラシアの周辺地域に残された、数少ない大自然。 これからの任務を、思わず忘れてしまいそうになる程、美しく、大地の力強さを感じさせる風景だと思った。
その中に聳える様にして立つ、36機の異形―――戦術機の姿が、周りの光景から酷く浮き出ている気がする。 そう思うのは、俺が怠けたせいか?

≪CPよりデビル・ワン。 『友軍』よりの支援要請有り!≫

―――来た。 これで今日も『出張』が決定した。

「デビル・ワンよりCP、詳細知らせ」

≪CPよりデビル・ワン。 BETA上陸予想地点は、オハ西方22kmの海岸線一帯です。 H19・ブラゴエスチェンスクハイヴよりの飽和BETA群の分派が約3900、旅団規模です。
既にソ連軍第119自動車化狙撃旅団、第77戦車師団、第60独立自動車化狙撃旅団の防衛部隊第1派が展開を開始。 海岸線に向けて、高速移動中です。
大隊はアレクサンドロフスク・サハリンスキーで補給の後、東から北上。 BETA上陸地点を南から攻撃。 なお、同時に第102大隊『アレイオン』も出撃します≫

H19、ブラゴエスチェンスクハイヴ―――またなんとも、懐かしい名を聞いたものだ。 まだ10代後半の、少年だった頃の記憶が蘇る。
満洲、大陸派遣軍。 様々に彩られた俺自身の古い記憶。 懐かしく、哀しく、そして忌まわしい、その象徴―――ブラゴエスチェンスク。

迎撃地点は北樺太最北端の間宮海峡(ソ連名:タタール海峡)を、ユーラシアを挟んで、ほんの10数kmの場所だ。 真冬には完全凍結して、BETAが押し寄せる『氷路』となる。
旧中ソ国境のブラゴエスチェンスクハイヴから溢れだしたBETA群は、南下する個体の他、アムール川沿いに周囲の大森林地帯を喰らいながら、オホーツク海のアムール湾を目指す。
そこで狭い間宮海峡を渡った先が、北樺太最北端部分になる。 現在、北樺太北部はソ連軍しか駐留していない。 そして南樺太の日本軍は、『友軍』への支援出撃を行っていた。

「増援はウチと、102の『アレイオン』だけか?」

ローテーションでは、103と104は今頃、豊原市(樺太県庁所在地、樺太最大の都市で人口38万人)近郊の基地で休養中だ。 『主力』の第55師団が動く規模では無い。
となると、『南―――日本軍』からの増援は、2個戦術機甲大隊だけか? BETA群の規模は4000弱、旅団規模だ。 2個旅団に1個戦車師団、2個戦術機大隊なら十分か?

≪ティモフスク(中部樺太、ソ連領南部)から、ソ連軍第57独立親衛戦術機甲大隊『レーベチ(白鳥)』が出ます≫

―――第57独立親衛戦術機甲大隊『レーベチ』 北樺太のソ連軍中唯一、『親衛』の名誉称号を有する部隊だ。 配備機はSu-27SM『ジュラーブリク』
他のソ連軍戦術機甲部隊が、Mig-27『アリゲートル』や、準第2世代機のMig-23MLD『チボラシュカ』なのに対して、流石は『親衛称号』部隊、良い機体を貰っているものだ。

「・・・よし、大隊、北上してアレクサンドロフスク・サハリンスキーの東から、北部海岸線に出る! 途中で『アレイオン』と、戦場の直前で『レーベチ』と合流する。
BETA群は旅団規模、光線属種は40体程が確認されている。 残念だったな、これがH25やH26からだったら、楽が出来たんだがな!」

まだ若いハイヴのH25、H26からの飽和BETA群に、光線属種はまだ確認されていない。 理由は不明だ、だがそのお陰で、ソ連軍極東軍管区は持ち堪えられている。

「よし、大隊出撃する! 続け!」

跳躍ユニットを吹かして飛び上がる直前、国境の向こう側の監視哨の前で、ソ連国境軍の将兵が、帽を振って大声で、何かを叫んでいる姿が見えた。





俺の機体に、35機の92式『疾風』弐型乙(冬季戦仕様)が続く。 跳躍ユニットから発炎光を煌かせ、薄暗い北の冬空と大地を照らす。
92年の採用以来、マイナーチェンジを続け、93年に改良型の弐型を。 96年から98年にかけて、海軍の『流星』と同じ『AK-F3-IHI-95B』を搭載した、『準第3世代機』だ。
先程、アレクサンドロフスク・サハリンスキーとノーグリキでの補給が完了した。 戦術機の足は、特に噴射跳躍で飛び続ける限り、極めて短い。 精々が200km強程だ。
ここから戦場まで、100km強。 戦闘が終われば、向うで用意している補給コンテナから推進剤を補充しなければ、帰ってこれなくなる。
中部・南部の山岳地帯を抜け、北部の低地地帯を高度50でNOE飛行をする。 ちょっとしたスリルだ、もっとも経験の浅い若い連中にとっては、かなりの恐怖だろう。

「大隊長機、デビル・ワンより各リーダー。 ジャク(未熟練者)の様子を、良く見ておけよ。 下手して地上に激突、なんて不細工な真似はさせるな」

『了解―――こんな低空突撃さえしなけりゃ、大丈夫なんですがねぇ?』

『ハリーホーク、了解。 誰かさんの無茶が、また始まった・・・』

―――酷い言われ様だ。

「無茶? 俺が少尉の頃には、こんな事は散々やらされたぞ?」

『だからって、何も『夜叉姫』と同じ事、せんでも良いでしょうに』

ドラゴン・リーダー、第2中隊長の最上大尉(最上英二大尉)が、ため息交じりに言い返して来る。 因みに『夜叉姫』は、衛士時代の広江直美中佐の異名だ。
大尉で中隊長の頃の彼女には、新米少尉だった頃に散々扱かれた。 今やっている低空突撃も、当時の所属中隊『ゲイヴォルグ』で、散々やらされた機動だった。

「だが、光線属種が予想される戦場に突っ込むのに、何も高度を稼ぐ必要は有るまい? 予定ではこの後は、30(30m)まで下げる。 最後はサーフェイシングだ」

網膜スクリーンの先で、首を竦める最上大尉と、『ハリーホーク』中隊長の八神大尉(八神涼平大尉、1999年10月1日進級)。
その隅に小さく映る直率小隊の面々。 2番機の美竹(美竹遼子少尉、24期A)に3番機の曽根(曽根伸久少尉、24期B)はまだ、余裕が有るか。 
ただし4番機の高嶋(高嶋慶子少尉、25期A)はもう、必死の形相だ。 今年の春に訓練校を卒業し、軍の方針で半年間、練成部隊に放り込まれて、実戦部隊配備は初めての奴だ。

「・・・4番機、高島。 スティックを握る手の力を抜け。 震えが伝わって、機体の挙動が不安定になる、RCS(姿勢制御)にある程度任せろ」

『りょ、了解!』

帰ってくる返事は、元気が良いのだが・・・相変わらず、必死の形相だな。 こればかりは・・・

「高島、エレメント・リーダーのケツに、照準を合せて飛べ。 美竹のケツにかますつもりでな―――おっと、貴様、バイの気は無かったか」

『は・・・ はあ!?』

『・・・大隊長、セクハラです・・・』

間髪入れずに、美竹が独特のけだるそうな表情と、少しばかり艶っぽい口調で言い返してきた。

「だと思うのなら、僚機の面倒は見てやれ、美竹。 貴様、女が好きなクチだろう?」

『いいえ、女『も』好きなだけです。 基本、快楽主義なモノで』

『ひっ! ・・・み、美竹さん・・・』

しまった。 高嶋がヘビに睨まれた、カエルの状態になっている。 もちろん、ヘビは美竹だ―――まあ、いいか。

「高島、新しい世界に旅立ちたく無ければ、しっかり飛行するんだな。 これ以上貴様がフラフラすると、本気で美竹の毒牙に与えてやる」

『ひい! りょ、了解です!』

『・・・いったい、どっちの『了解』なのよ?』

美竹が舌舐めずりする表情で、高嶋をからかって遊んでいる。 それを、俺の列機を務める3番機の曽根が、苦笑して見ていた。
指揮下の第2、第3小隊も、少なくとも見た目は危なげなく、全機が追従していた。 ここまで1機も失うことなく来れた事に、正直驚いている。
何せ、この10月に新編されたばかりの中隊だ。 その時点で実戦経験1年以上の連中は、居る事は居たが、半数は実戦経験半年以下か、全くの初陣だった。

目標地点から20km手前で、僚隊と合流した。 第102大隊『アレイオン』と、ソ連軍の第57独立親衛大隊『レーベチ』
これで戦術機は92式『疾風』弐型乙が72機に、Su-27SM『ジュラーブリク』が33機の105機。 4000弱のBETAを殲滅するには、充分だ。

『アレイオン・ワンよりデビル・ワン。 このまま突き上げるか?』

問い掛けに、戦況MAPを呼び出して、今の戦況を確認する。 BETA群は西のユーラシアから狭い海峡を渡って、遠浅の海岸線に上陸した。

『漠然と突っ込むなんて、愚の骨頂よ。 サハリン(樺太島)北部は低地が多い、光線属種から身を隠す場所は殆ど無いわ。
こちらから話を付けている。 砲兵の一斉砲撃と同時に、サーフェイシングで一気に突入する。 その後は、思いっきりBETA群の中に潜り込む』

第57独立親衛戦術機甲大隊長のサーシャ―――アナスタシア・アレクサンドロヴナ・ダーシュコヴァ少佐が提案した。
何の事は無い、昔、北満州で散々やった方法だ。 近年は、特に本国に戻ってからは、山岳が多い本土防衛戦の戦い方が身に付いてしまっていたようだ。

「それは、そちらでお願いする、サーシャ。 文句は言わせないでくれよ?」

『あっちの砲兵部隊は、国境軍(KGB所属)だろう? 陸軍の言う事を、ちゃんと聞いてくれるのか?』

『問題無いわ。 カムチャツカやシベリア、アラスカと、このサハリンは違うわ。 連中、軍の機嫌を損ねれば、生きていけない事は、身に沁みているから』

日本側の指揮官2人の要望にも、全く問題無しとばかりに即答してくる。 不敵な笑みを浮かべるサーシャ。 ま、彼女がそう言うのならば、任せよう。 
残り20km。 高度30m、そろそろサーフェイシングに移行しなければ。 重光線級がいたら、見越し照射の範囲に入ってくる頃だ。 部下に命じて、地表スレスレを行く。
それにしても助かったものだ。 ソ連軍側の指揮官が少佐、と言う事で、多少のやり難さを覚悟したのだが・・・ 何せ、こちらは2人ともまだ大尉だ。
だが、いざ蓋を開けてみると、大方7年ぶりに再会した旧知の相手だったとは。 向うも昔は新米少尉だった。 北満州で一時、一緒に戦った間柄だ、『双極作戦』の時だ。
お陰で、余り階級の差を気にせず、共闘する事が出来ている。 サーシャの方も、余りとやかく言う気も無さそうだ・・・そんな性格だったかな?

やがて10kmラインを突破した、まだ迎撃レーザー照射は無い。 この距離でまだレーザー照射が無いと言う事は、重光線級は居ない様だ、光線級だけか。 
更に進む、5kmラインを突破。 その瞬間、東から少なくとも連隊規模の重砲とロケット弾が複数個所から、一斉に撃ち出された―――急加速を命じる。
途端に立ち上る迎撃レーザー照射。 だが、20本も無い、14・・・いや、15本。 光線属種の半数以上を、ソ連軍は片付けていた―――重金属雲発生。
すでに全個体が上陸していた。 他の2人の大隊長と無言のうちに合図しあって(作戦は決めていた)、一斉に散開する―――最初の12秒が経過。

「デビル・ワンより『デビルス』全機。 予定の通りに動け」

『『『了解!』』』

俺の指揮する大隊の役目は、残った光線属種の殲滅。 既に最初の12秒は使い果たし、2回目の12秒に突入している―――残り、9秒。
直率中隊全機に、水平噴射跳躍を命じる。 ドンッ、と衝撃が来た、突き出される様な衝撃と共に、機体が急加速する―――8秒。
目標捕捉、制圧支援機にALM全弾発射を命じる。 1機当り32発、中隊の2機で72発のALMが、光線級に向かって白煙を引きながら、高速で迫る―――7秒。
照射していなかった3、4体が、迎撃レーザー照射を行った。 だがALMの数の方が多い、全弾迎撃と行かず、20数発がレーザーをかい潜り、着弾した―――6秒。
もう、ここまでくれば貰ったも同然だ。 今回の賭けは、こちらの勝ちだ、光線級の小さな群れとの距離、500m―――5秒。

「各機、弾種キャニスター。 攻撃開始!」

36機の戦術機が持つ突撃砲から、36発の120mmキャニスター弾が一斉に吐き出された。 ほんの数瞬後、小さな花火の様に空中で炸裂し、子弾を広範囲にばら撒いた。
それだけで、残っていた20体程の光線級はケシ飛んだ。 噴射跳躍から着地し、陣形をサークル・ワンにさせる。 周辺状況―――大丈夫、他に光線属種は居ない。

「―――デビル・ワンより『アレイオン』、『レーベチ』 光線級は始末した」

『アレイオン・ワン、了解。 さっさとこっちを手伝え!』

『レーベチ・ワン、了解。 後ろから削って頂戴』

戦域MAPに映し出されるBETA群は、既に3000を割り込み、2500程までに減少している。 これで前後から挟めば、殲滅まで然程の時間を要さないだろう。

「了解した―――『デビルス』、全機、BETAのケツを蹴り上げろ!」










1999年11月15日 2130 日本帝国領南樺太 樺太県敷香支庁 敷香市近郊 帝国陸軍敷香基地


夜になって、また冷え込みが激しくなって来た。 外はマイナス10度を下回っている。 基地の大隊長室から、窓の外を見た―――寒い、寒さが増すようだ。

「内陸の北満州の方が、余程寒かったですよ」

最上が温めた麦芽飲料(合成品だ)のカップを手に持って、苦笑する。 俺が余りに『寒い、寒い』を連発するからだ。
満洲は、南満州しか経験のない八神も、同様に苦笑している。 だが寒いのだ、本当に。 確かに北満州の方が気温は低い。
それに比べて、僅かでも海流の影響を受ける樺太の方が、『多少はマシ』な筈なのだが・・・ どうした事か?

「しかし、寒冷地の冬季戦と言うのも、厄介なものですね。 燃料や推進剤だけじゃなく、機体の配管系統に電装系統まで、放っておくと寒気にやられてしまう。
見えない所で装備も、あれやこれやと・・・ 自分は南満州駐留経験だけですが、大陸は。 北満州も、こんな調子だったんですか?」

「・・・これより酷いぜ、本当は。 だもんで、これ位で根を上げかけている大隊長は、鈍っているとしか言いようが無い」

―――俺は92年の春から、最上は俺が満洲を去った93年の10月から、北満州駐留だった。 もっともその翌年には、北満州は放棄されてしまったが。

「・・・俺はな、この地で人の世の諸行無常を感じているんだ。 かつては強大だったソ連が、今や極東の僅かな地域を、それこそかつての『敵』に縋って守っている。
まさに『諸行無常の響き』じゃないか? 俺はそんな、高尚な感覚でもって、寒さが増すんだよ。 鈍感な限りのお前さん等と、一緒にするな」

「・・・何が、高尚ですか。 そんなのとは、縁遠い人でしょうが、アンタは・・・」

「良く言いますよ。 俺が少尉時代の頃の中隊長は、一体誰だったって言うんです?」

―――好き勝手に言いやがって。 まあ、自分が少し鈍っている事は認める。 どうにも己の士気ってヤツが上がらない事は確かだ。
1999年11月、俺は日本帝国領の最北端、樺太に居た。 正確には北緯50度以南を領域とする、日本帝国『樺太県』だ。
8月に攻略した、甲22号目標―――『明星作戦』の終了後、俺の、いや、俺を含めた数人の立場は、少しばかり微妙になっていた。
ハイヴ最深部への突入を果たした部隊の指揮官である、俺と圭介、それに愛姫。 俺の場合、国連軍との協定を破って、ハイヴ内情報を勝手に解除した独断専行も含まれた。
それは圭介も同様で、奴も第141戦術機甲連隊への情報制限を、只の師団参謀の立場で勝手に行った。 俺と同罪だ。 因みに祥子も、同じ理由で微妙な立場になっていた。
流石に銃殺刑は無いにせよ、長期に渡る拘束は最悪、覚悟した。 軍法会議の上で、降格の上、予備役編入・即時召集で島流しも最悪は有り得る、そう覚悟した。

結果は、と言うと。 『半年ほど、仙台(国連の例の計画の仮所在地)から目の届かない所で、骨休めして来い』との、作戦課長の言葉通り、この最北の地で骨休めしている。
どうやら軍上層部も、今回ばかりは国連や米軍に(米軍へは前々から)含む所が有ったようだ。 当然ながら、厳しい緘口令を課せられたが、軍歴自体に傷は付かなかった。
そして現在、北の護りの見直しが行われると同時に部隊が設立された、『第101独立戦術機甲大隊』の指揮官として、この南樺太に駐留している。

「しかし帝国軍中でも、大尉で大隊長ってのは、珍しいですよね。 ソ連や中共なんかじゃ、時々聞きますが」

八神がこれまた美味くもない、コーヒーモドキを飲みながら、少し笑って言う。 こいつもかなり無理をしている筈だが、暫く様子を見ようかと思う。

「確かにそうだよな。 ウチだけじゃなくって、102(独立第102戦術機甲大隊)の長門大尉(長門圭介大尉)、103の棚倉大尉(棚倉五郎大尉)・・・
104の伊庭大尉(伊庭慎之介大尉)もそうだ、4人とも大尉で大隊長だよな。 みんな、大隊長の同期生でしたっけ? 18期のA?」

最上の問いに、叩頭して答える。 そうだ、みんな俺の同期生達だ、訓練校の18期A卒。 大尉の古参組で古い順で言えば、半月後には大尉の中での序列が上から2番目になる。
半年先任の17期Bや、1年先任の17期Aでは既に、大隊長のポストに付いている者が居る。 それより上の代は、士官学校卒も訓練校卒も、戦死者数が半端じゃなくなってきた。
当然ながら、大隊長ポストは本来なら少佐か中佐だ、大尉は中隊長を務める。 が、その佐官級の戦死者が増え、ポストの数に、生き残りの数が足りなくなってきたのだ。
これは明星作戦が形上どうであれ、なんとか制圧に成功した事を受けて、本土防衛軍が大規模な戦力の再編成と、建て直し計画を計った事に起因する。
その為に、まだ中隊長ポストで有る筈の18期A卒の大尉までが、『大尉大隊長』の範囲に含まれ始めた、と言う事だった。 俺達4人はその第1陣・12名の中の4人だ。

「とは言え、正規師団の戦術機甲連隊はまだ、従来のバランスを保っているけどな。 田舎に駐留する独戦(独立戦術機甲大隊)くらいだ、まだな」

樺太に俺を含む4名、何とか仮設基地を設けた北陸に3名、九州に3名と、沖縄に2名の 同期生達が、戦術機大隊を率いてBETAとの防衛線の最前線で、体を張っている。
俺が任された『独立第101戦術機甲大隊』は、北方防衛を担う第11軍団(第53師団・北海道、第55師団・南樺太・千島)の直率部隊だ。 指揮系統で参謀長に直結する。
任務は色々。 第55師団の突破支援や、樺太駐留の独立旅団(第208、209、210)の攻撃支援、或いはこの間の様に、『友軍』であるソ連軍への『出張支援』などだ。

ホームベースは、『非番』の時は後方の、第55師団司令部が有る豊原基地。 『当番』の時はここ、南樺太北部の敷香基地をベースにする。 
そして半月交替で2個大隊ずつ、『当番』と『非番』をローテーションで繰り返す。 BETAの襲来は、10月初めの着任以来、数えて4回。 多いのか、少ないのか。
少なくとも、北満州の頃に比べると、俺自身はのんびりしている。 BETAの数も、今日の旅団規模は10月から今までで、最大だった位だ。 普段は1000体前後だ。

「ま、本土の、それも再建途上の師団や、最前線の師団に再配属されるよりは、のんびりできそうだし。 俺は気に入っていますよ」

「週に1回、有るかないかの、間引き攻撃の余りモノの上陸をぶっ叩くってのは、ストレス発散ですね。 光線級も滅多に出ないし」

同じ感想を持っていたらしい、2人の部下達の言葉に苦笑しながら、それぞれの報告書を受け取る。 ただ1点、書類仕事が増えたのは頂けないな。
最上と八神を退室させた後、色々と書類に目を通す事にした。 こればかりは誰かに任せる訳にはいかない、本当は大隊副官が居ればいいのだけどな・・・
だけど生憎、まだ着任していない。 って言うか、寄こす気が有るのだろうか? 呉れ、と言ってから早、1カ月が過ぎていると言うのに。

戦闘詳細に機体の整備記録。 備品の消耗報告と補充要請。 予算計画書と見比べながらの、補給品請求。 人事記録とその報告。 上級司令部への各種報告書・・・
気がつけば、1時間以上が経っていた。 備え付けのダルマストーブ(こんなものまで、ここじゃ現役だ!)の上の薬缶から、熱湯をカップに注いで、コーヒーモドキを作る。
味は兎も角、熱い飲みモノは嬉しい。 思わず数年前のアラスカを思い出す、あそこも寒さは、半端じゃ無い寒さだったな・・・

無意識に、部隊の事を考えていた。 実は実戦訓練を兼ねた予備部隊なのだ、ここは。 樺太はH19からの分派BETA群の来襲は有るが、小規模で間隔もかなり空く。
それにほぼ、北樺太の北部に限定されている(今の所は)。 練成部隊を出たばかりの新米達に無事、初陣を経験させて、かつ実戦度胸を付けさせるには最適、そう言う事だ。
それともう一点、『休暇配置』に似た配置でも有る。 今回、俺が引っ張ってきた中堅以上の連中は皆、旧第18師団の連中だ。
明星作戦で結構な損害を出した第14、第18師団の再建は、かなりの時間を要すると判断された。 その中で、最優先されたのは第14師団の至急の再建。
あの師団は早々に、『北関東絶対防衛圏』の要の部隊に指定されたから、尚更だ(同時に、甲編制の重戦術機甲師団に変更された)

その結果、第18師団は解隊された。 その人員は半分が第14師団にシフトされたが、残り半分は他の配置に転属となった。
14師団師団長の福田少将が、中将に進級して、新編軍団の司令官になるらしい。 18師団長だった森村少将が、福田中将の後を受けて横滑りで14師団長になった。
宇賀神中佐は、14師団内に新設される142連隊の先任大隊長・兼・副連隊長の予定で、荒蒔少佐も同様に142連隊に移る。 木伏少佐は大隊毎、141連隊だ。
大尉クラスでは最上を俺が引き抜いた他は、和泉さんと緋色が転出した。 訳は後で。 その他は源さんと三瀬さんか、転属したのは。

俺はまあ、その色々と有ってここに居るが。 その時に部下の中隊長として最上と、大尉に進級した八神を引っ張って来た。
最上の場合は、安定した指揮能力を見込んでだ。 気心も知れているし、右腕になってくれれば、そう期待した訳だ、新米大隊長としては。
八神は・・・ 元々の部下だった事も有るが、従弟から相談された訳だ、『ヤバいぞ』と。 俺から見ても、傍目にも、今すぐ死地に吶喊しかねない危うさを感じた、
だからこの『休暇配置』に引っ張った。 俺自身、かつて経験した事が有る。 原因は同じではないが、症状の大小は問わず、似た様なものだ。

(・・・横浜ハイヴ、か・・・)

苦い記憶だ、色々な意味で。

かつての部下、四宮杏子中尉があそこで戦死した。 彼女の上官で、俺の同期生の恵那瑞穂大尉も戦死した。 中隊全滅、12名全員戦死は、181連隊ではあそこだけだ。
俺にとっても悔やまれる事だった。 ハイヴ第3層の防衛戦闘で、脇から突進してくるBETA群の阻止を、木伏少佐の大隊に割り振った。 それがいけなかったのか?
結果として2正面戦闘を強いてしまった(もっとも、大なり小なり、どの大隊も同じだったが) 期する所の有った恵那大尉が、志願して側面防衛に部隊を充てたのだ。
結果的に、それが原因になった。 正面からの大群に押される本隊の脱出の機会を作る為、恵那大尉の中隊は最後まで、側面を維持しようと奮戦した。
そして最後の脱出の直前、本隊との間をBETA群によって分断されたのだ。 地下茎情報をつぶさにモニタリングしていた俺からは、良く判った。

恵那がかつての『失敗』を、取り戻したがっていた事を。 そして何とか部下を生き残らせようと、奮戦した事を。 彼女は中隊の最後尾に位置していたのだから。
四宮が、隊長の恵那とはしっくり行っていなかった事も、知っていた。 それでも尚、生真面目に隊長を救おうとする奴だったと言う事も。 モニターを見ればよく判った。
結果として、あの中隊はBETA群を喰い破る事は出来なかった。 僚隊の摂津大尉の中隊が、途中反転しかけたが、大隊長の木伏少佐は厳に命令して行かせなかった。
あれはあれで、正解だったと思う。 残酷な話だが、そうしないと大隊全滅も有り得たのだから。 殿とは、そう言うものだ。 味方の為に全滅する事も、任務の内だった。

(・・・恵那、四宮、お前ら、納得のいく戦い方が出来たか? それで死ねたか?)

死んだ2人の事は、胸中に収めておくしかない。 いずれ、向うで会ったら、聞く事にする。 で、問題は八神だ。 惚れていた女が、自分の近くで死んだ、何も手助けできずに。
これは、あれだ、話に聞いたヴァルター(ヴァルター・フォン・アルトマイエル国連軍少佐)の時と似ているのか? とも思った。
彼の場合、翠華(蒋翠華国連軍大尉)が身近にいた事が、結果としてプラスになって立ち直れたらしいが・・・ どうしたものか、ここには相応の相手も居なさそうだ。

「・・・『惚れた腫れた、別れた振られた、死んだ死なれた。 全ては時間薬が癒してくれる』か。 確かにそんな一面は有ると思うぞ、八神・・・」

―――はて、誰の言葉だったか? ・・・思い出した、あの、姉の知り合いの、女傑の言葉だったな。

問題はさて、誰か背中を押してくれる佳い相手が現れるかどうか、と言う所かな?

気が付けばもう、2400時近かった。 明日は交替の部隊がやってくる、伊庭の第104だ。 引き継ぎや何や、書類を纏めておかない事には。










1999年11月17日 1945 日本帝国領 南樺太 樺太県豊原支庁 豊原市


「アナスタシア・アレクサンドロヴナ・ダーシュコヴァ・・・ああ、サーシャね? 昔、『双極作戦』の時にちょっとだけ一緒だった、ソ連軍の。
そう、彼女、生き残っていたのね、良かった・・・ それにもう少佐なの? 確か私の3歳年下だったわよね? 彼女」

「人員の消耗が激しいからな、ソ連軍は。 冗談抜きで、10代後半の大尉なんてのも、珍しくない。 20代も半ばなら、生き残ってりゃ、立派に少佐殿って訳だそうだ」

お陰さまで、少佐と大尉と言う階級差が有るにもかかわらず、彼女の部隊とは円滑に教頭が出来る。 
彼女もまあ、こっちが旧知で少なくとも2年は年上、と言う事は、『頭の片隅には』入れていて呉れている様子だった。

家族持ち用の官舎で祥子と2人、夕食を取っていた。 非番の時はこうやって、かなり早い時間に家に帰る事が出来るのが嬉しい。
祥子自身は、第55師団司令部勤務だから、彼女にとっては旦那が月の半分、出張している様なモノだろう。

「・・・でね、これは愛姫ちゃんが作ったのを、持って来てくれたのよ。 私はお返しに、煮物をあげたの」

基本、ウチの奥さんは、料理は和食が得意の様だ。 翻って、お隣さんは和洋中、何でもアリ。 美味ければ何でも、ドンと来い! な、豪快な食卓らしい。
お陰さまで、すっかり和食に馴染んだな。 実家は特に、どれかに編重していた訳じゃないし、軍のメシは色々だし、暫く欧米にも行っていたし。
肉じゃがを口に放り込んで、つかの間の至福を味わう。 料理の腕も、ウチの奥さん、同棲?を始めた頃からしたら、格段に腕を上げたしな。

「・・・にしても祥子、ついこの前までとは、別人の様な食欲だな・・・」

「いやだ、そんなに食べてないわよ! ・・・もうすぐ安定期に入るからかしらね? 食欲が元に戻ったみたい」

そう言って笑う妻の笑顔を見ていたら、そうなのだろうな、と思う。 ついこの前まで、つわりが酷くて、酷くて。 食も細くなって、随分心配したものだったよ。
祥子は―――妻は、現在妊娠4カ月、12週に入った所だ。 妊娠が判ったのは、豊原に着任したすぐ後だった。 気分がすぐれず、軍医に相談した所、判ったと言う訳だ。
今は豊原市内の軍病院(軍から指定を受けた、県立病院)の産科に、定期的に検診で通っている。 母子ともに順調だそうで、まずは安心だ。
身籠った事が契機なのかどうか、最近はずっと母性的な愛らしさを感じる。 俺の子供を宿してくれた女性、妻。 ああ、夫婦ってこういうものだったのか。
人の親となる事は、こういう実感だったのか。 改めて感じた。 そう言う意味では、この『休暇配置』は俺にとって(妻にとっても)、ひと時の安らぎに似ていた。

「お隣さんもね、順調の様よ。 もっとも愛姫ちゃんは、食欲は余り変わらなくって、つわりも、そう酷くなかったそうだけど」

―――羨ましいわ。

そう言って、ちょっと羨ましそうな表情の奥さん。 男には判らない辛さなのだろうな、月の半分を留守にして、申し訳ない、うん。
ふと、隣家を想像してみた。 圭介の奴は特に偏食が無い男だから、何でも食べるだろうけど・・・量がな。 一度、呼ばれてお邪魔した時は、ちょっと吃驚した。
愛姫はあれで、昔から良く食べる奴だったからな。 それこそ、新米少尉時代の『暴食娘』は相も変わらず・・・いや、少しはバランスとか、栄養を考える様になったらしい。

隣家は、長門大尉のお宅。 旦那の圭介に、『新妻』の、『長門愛姫』こと、伊達愛姫大尉の『夫婦』が住んでいる。
あの2人の結婚は、ちょっとした騒動だったな。 何せ、10月1日の着任時はプロポーズさえしていなかったのだから。
愛姫は当初、独立第103戦術機甲大隊長に補されての着任だった。 それが着任以来、体調が思わしくなく、なにより理由も無しに、食欲が落ちたのだ!
これは変だ、何かの病気か!? と、周囲の方が騒ぎだして、軍病院に引きずって行った所、こちらも『偶然に』ご懐妊が発覚。
しかし話はそれで収まらない、何せ彼女は『未婚』だったのだから。 で、関係各者の諸々の事情確認の結果、『長門大尉の犯行』が明らかになった。

それからがまた、ひと騒動だった。 とにかく、ここまで来たら双方ともに、身を固めるしかない。 
幸い、双方ともいずれ、そのつもりだったらしいから、当人同士は良いとして。 問題は双方の家族だ。
いやまあ、圭介のあの頃の表情は、悪いが見物だった。 まさに決死の形相、一世一代の覚悟で、愛姫の実家に(特別休暇を参謀長から貰って)挨拶しに出陣した。
何と言っても愛姫はあれでいて、地方の名家の娘だ。 娘を軍人にするのと、未婚の母にするのとでは、全く違う。 向うの親御さんが、事情を知った時の怒りはいか程に・・・
が、何と言うか、流石はあの愛姫の親と言うか。 最初は吃驚したそうだが、最後は豪快に笑って認めたそうだ。 『家族が増えるのは、良い事だ!』とか言ったらしい。
で、急遽、翌日に親族だけ集めて、略式の挙式を決行したそうだ。 圭介の家は、両親と祖母、看護師の妹に、叔母家族が同居して、仙台に疎開していた。
愛姫に聞いた所じゃ、圭介の親爺さん、まるで腹を切りかねない勢いで、申し訳無さがっていたらしい。 俺も知っているけど、おじさん、昔堅気だしな。
で、その昔堅気の親爺さんに、不埒な新郎は散々、ぶん殴られたそうだ。 挙式当日、青痣で出席したと、後日当人から悔しそうに報告を受けた、笑ったが。

で、流石に妊婦に戦術機甲大隊指揮官はさせられない、と言う事で、とばっちりを食って樺太まではるばる、転勤させられたのが、同期の棚倉(棚倉五郎大尉)と言う訳だ。
お陰で長門夫妻は、棚倉夫妻(棚倉自身は、昨年結婚していた)に頭が上がらないと言う図式だ(棚倉と奥さんは、気にするな、と言い続けて笑っているが)
愛姫は独戦(独立戦術機甲大隊)指揮官から、第55師団司令部総務課の、広報渉外班長に配置転換された。 人当たりは良いからな、あいつは。

「圭介と、愛姫の結婚にも驚いたけれど・・・ ほら、先月と今月、2組も知り合いが結婚したしな・・・」

食べ終わって、渋茶を飲みながら、思わず呆けた様に言ってしまう。

「そんな時期なのでしょうね。 もういい年だもの、私達と同年代よ?」

食卓を片づけながら、祥子が笑いながら言い返してきた。 確かにそうだ、もうみんな、20代半ばか、それを越したものな。

10月の半ば、源さんと三瀬さんが、ようやくの事で一緒になった。 こっちは俺たち以上に長い春だった、何せ8年越しのゴールインだからな。
同時に2人とも転属し、源さんは陸軍技術総監部・戦術機甲本部の戦術機甲審査部に転属した。 今頃はテストパイロット―――開発衛士をしている筈だ。
三瀬さんは同じく技術総監部の、第1技術開発廠・第1開発局第2部に転属となった。 有体に言えば、あの河惣中佐の部下だ。

そして今月初旬のサプライズ。 緋色がとうとう実家を飛び出して、宇賀神中佐と結婚した。 これは流石に、一筋縄ではいかなかった様だ。
彼女の場合、実家は山吹の家格の武家。 緋色自身は世が世ならば、『お姫様』なのだ。 親戚筋が猛烈に反対して、形としては『絶縁』されての結婚だった。
何しろ彼女の実家は、様々な姻戚関係から、上は赤、下は白まで、様々な武家社会での縁戚関係が有る。 対して宇賀神中佐自身は、全く普通の市民の家の出だ。

明星作戦が終わった直後、彼女自身が実家に打ち明けたらしい。 その直後から、一族・親戚縁者挙げての、慰留工作が展開された・・・らしい。
最後は、彼女の父親の黙認(『絶縁』は、父親として、当主として、最後の義務と親心だったのだろう)と、姉の周囲への説得とで、縁を切る事で縁戚達も黙認したらしい。

そして、『夫婦で同一部隊は、絶対不可』の、帝国軍の不文律からして、どちらかが転属すべきであって。
更には、再編成師団の中核幹部として、新編連隊での先任大隊長・兼・副連隊長予定者と、一介の中隊長とでは、重みが全く違う訳で。
緋色は訓練校の教官として、転出した。 もっともこの訓練校、来年には北関東に移転する予定だ。 いずれ夫婦揃って暮らせるだろう。
と言う訳で、親しい同期生3人目の結婚がなって、『宇賀神緋色』大尉の誕生と、あい為った訳だ。 まったくもって、目出度い。 けど、余り驚かさないで欲しい。
それと、祥子や愛姫と違い、緋色の場合は旦那がずっと上の階級(中佐だ、緋色は大尉)だから、混同する事もない、そう言って旧姓は名乗っていない(そもそも、名乗れない)
訓練生にとっては、さぞ厳しい教官になる事だろうな。 いや、反面、苦労して来た彼女の事だ。 案外、良い教官になれるかもしれない。

「あとは、沙雪ね。 彼女、本当にこればかりは、のんびり構えているのだから・・・」

和泉沙雪大尉は、損失の激しい第3師団に転属となった。 最初は第1師団との話も有ったが、『冗談じゃないよ!』と、国防省人事局に直談判に及び、第3師団へ転属となった。
周囲はまあ・・・妙に納得した。 確かに彼女は歴戦の衛士で、エースと言って差し支えない。 指揮官としても、現状で臨める最上の部類に入る。
が、彼女が第1師団・・・帝国陸軍の『頭号師団』で、となると・・・ 木伏少佐がいみじくも言った、『第1師団の規則が、あいつを嫌うやろうなぁ・・・』と。

「俺の交際範囲的には、3人の華人の『お嬢さん』方もな・・・」

そんな事を考えていると、不意に3人の女性将校の顔が浮かんだ、帝国軍じゃない、国連軍、元は中国軍(統一中華軍)だ。

「ああ、そうね・・・ 周少佐(周蘇紅少佐)に、趙大尉(趙美鳳大尉)と朱大尉(朱文怜大尉)・・・ どうするのかしら? 暫く母国には帰らない、って言っていたわね?」

「正確には、母国じゃないけどね・・・ もう、国際結婚でもなんでも、押しつけてやるか?」

「もう! まずは本人達の意志がどうか、でしょう?」

今まで、結婚前まで散々、こっちが弄られてきたからな。 覚悟しておけよ? 3人とも。 
後は何だ、その、木伏さんも気にはなるんだけど・・・これは、まあ時間に任せよう。

「来月にね、一度出張が有るの。 軍管区司令部に、各軍団・師団司令部の幕僚が集まっての会議があって。 私も末席に参加なのよ」

台所で洗い物をしながら、祥子が言った。 彼女の場合、師団司令部第1部勤務だから、そう言う出張も多いか。

「ああ、なら都合が良い、実家に顔を出して来い。 お義父さんも、お義母さんも、喜ぶだろうから」

「ええ、あなたの実家にも。 お義父様やお義母様にも、ご挨拶しないと。 お義姉様達にもね。 あ、子供達に、何かお土産買ってあげないと」

「・・・出費が痛い・・・」

「今月は、煙草もお酒も、節制して下さいな」

「・・・それは、無いんじゃないか・・・?」

以前は、オンとオフの切り替えは、馬鹿騒ぎを皆でやったりと、そんな風にしていた。 今はこうやって、家でゆっくりできる事が、最大の安らぎになった。
戦場ではギリギリの、存在をかけて戦う。 そして後方でこうして、愛する家族との団欒を持てる。 愛する妻と、生まれて来る子供を想って。

「・・・俺も、年を取った? オヤジになったのか?」

「え? 何か言った?」

「いいや、何でもない」

―――ま、いいじゃないか。 気負って『人類の為』とか、『人類の勝利を』とか、四六時中言っていたら、精根尽き果てるだろう?
それに好きな誰かと一緒になって、子供を作って育てて、次代の世界に託す。 それもまた、人の営みもまた、『戦い』なんだな、と思う。





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