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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 明星作戦 6話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/19 23:52
1999年8月6日 0315 日本帝国 旧横浜市本牧付近


「米軍・・・ いえ、『国連軍』の揚陸が完了しました。 米軍が本牧埠頭を中心に、第2師団と第3海兵師団。 その西にフィリピン軍が2個師団」

「これで取りあえず、戦域確保の頭数は整えられたか。 海軍(聯合陸戦第3師団)は?」

「はっ、残る1個戦術機甲戦隊(聯隊)を中心に、西側の警戒に当ります。 フィリピン軍だけでは、何とも・・・」

「・・・クラ地峡やインドシナ半島への『出張』経験が有るとはいえ、な。 確かに陸戦隊が居てくれた方がいいか。 ハイヴ内は?」

「第5層でかなり盛り返しました、一部は第6層への逆襲に転じております」

「無理はさせない方がいい。 まだ総軍司令部から、大方針さえ下りて無い状況だ。 押すのか、引くのか・・・」

広江中佐と、宮元少佐、九重少佐の声が聞こえる。 その脇で、同僚達と現在の戦力、BETAの出現状況、彼我の損失、兵站線の再構築、通信網の整備状況・・・
継戦の為の諸要素の確認と、その確保に向けての他部署との再調整・交渉、そして現地部隊との連絡と、ハイヴ内情報の収集に解析・検討。
恐ろしく地味な作業だが、しかしこれを行わないと、それも間違いなく行わないと、師団は例え1時間でもまともに戦えない。 戦術機甲連隊はハイヴ内で壊滅しかねない。

師団参謀職を拝命して以来、自分の中で何が変わったかと言えば、『全体を見て、どれだけの要素=兵力を投入し、押すか、引かせるか』、言ってみればどれだけの損失を許容するか。
それによって、戦線を押すのか引くのか、はたまた転じるのか。 僚隊である第14師団や、軍団司令部の動きはどうか? 軍の他の軍団とは? 孤立しないかどうか?
そんな事を常に考える様になった。 戦術機中隊を指揮していた頃も、全体像を少しは考えたものだが、それはあくまで中隊をどう動かすべきか? が大前提で有って。
言ってみればそのソースとして、入手しうる範囲での情報を基に、時折考えていただけだったかもしれない。 今は全体を考えるのが仕事になった。

「兵站確保は、第4層までは再確立した、通信網も同じく。 ただ、予備器材が払底したと、工兵隊から言ってきている」

「整備については、ようやく一部の混乱が収まりました。 軍総予備の支援兵団から、89式『陽炎』の整備中隊が器材と共に到着。 脱出した機動降下兵団の整備は何とか。
ただし、手が少ないので整備には時間がかかりそうです。 89式は整備時間が少ない分、77式などよりずっとマシですが・・・ 他はまだ、右往左往」

戦術機や戦車に自走砲と言った可動・装甲兵器は恐ろしく精密で、デリケートな兵器だ。 連続稼働をやらかすと、必ず後には十分な整備が必要になる。
メーカーのスペックなど、最も条件の良い状況でソロバンを弾いた数字だ。 戦場ではかなり割り引かねばならない―――これは、実戦経験から良く判る。
それに当然ながら、弾薬は消費すれば無くなるし、推進剤や主機の燃料も使えば減る。 補給や整備が無ければ、兵器は只の鉄の塊に過ぎなくなる。
補給と整備、これは継戦の上で最も重要な要素だ。 これを無視しての戦闘は、有り得ない。 そしてこの二つは十分な安全を確保した上で、行う必要が有る。

「突入機動大隊群が使用していたのは、94式に92式、それに77式の混成だったしな。 豪州軍のF-18については、上陸した米海兵隊に任すしかない」

「92式の整備と部品は、今は師団整備連隊から供出させているが、じきに底を突くぞ。 そうなれば、ウチの戦術機甲連隊への整備が出来なくなる。
軍後方支援兵団からの回答は? まだ? ・・・一体、何時まで待たせる気だ。 18師団も14師団も、94式や77式は配備されていないのだぞ?」

兵站線の再構築は、軍団司令部兵站部と、14師団、18師団司令部兵站部とで、何とか第4層まで形を整えた。 もともと4層までは、BETAは侵攻していなかったからな。
通信も同様、工兵隊が再調整と予備器材を投入して、何とかハイヴ内通信網の確立を確保している―――腹立たしい事に、何割かは国連軍用に供出させられた。
整備に関しては、14師団、18師団共に94式、92式、77式の運用経験が有る為、この3機種の整備資格を有する整備科の将兵は多い。
従って軍後方支援兵団から、89式の整備資格を有する整備部隊が派遣された事は、非常に助かる。 これは問題ないのだが、しかしこの両師団の現行配備機種は92式だ。 
整備用の部品は全て92式用で、94式用も77式用も、更には89式用の整備部品は一切無い。 整備要員は居ても、整備部品がひとつも無ければ、整備は出来ない。

「にしても、軌道降下兵団の生き残りが50機に、突入機動大隊群が208機とは。 派手に失ったものだな・・・」

「ハイヴ内は、限定された極めて狭い空間です、戦術機が機動する空間としては。 そこに真下や側面から、いきなり突っ込まれて混戦になっては、まともな迎撃戦は不可能です」

「主坑以外の地下茎・・・横坑の直径は、フェイズ2相当だと言うしな。 噴射跳躍もままならない場所が大半だ。 『広間』でしか、実質的な阻止戦闘が出来ない、か・・・」

榊原大尉、佐久間大尉、田宮大尉と仙波大尉。 同僚達の声も、かなり疲れている。 無理も無い、昨日の早朝以来21時間以上も、この緊張感が続いている。
戦闘中の部隊の参謀団が、まともな休息を取れる道理は無い―――交替でほんの少し、休息を取る事はあってもだ。 実戦部隊指揮とは、また異なる疲労を覚える。

そして同僚達の疲労感に満ちた検討風景を尻目に、俺が今読んでいるのは上陸した米軍から来たレポート。 
相互に融通をつける事の出来る範囲の物資とその量、及び輸送手段。 そんな事が記載されている。

こういう時は必ずと言っていいほど、俺が指名される。 何も帝国軍人、それも将校団が語学に不自由している訳じゃない。 そこは寧ろ、徹底的に教育を受ける。
英語のみならず、共闘している国の言語。 昔からの中国語や朝鮮語、そしてロシア語。 他にマレー語やタイ語、ベトナム語なども、少ないが話す者は居る。
欧州系ならば英語の他にドイツ語やフランス語が主流で、イタリア語とスペイン・ポルトガル語が専門の者も居る。 流石に東欧・北欧の言語やアラブ語を解する者は、余り居ないが。

そんな中で、俺の場合は国連軍に出向経験があって、米国での留学経験も一応有る、英語は確実に話せる。 少なくとも、大学学部の論文発表レベルの英語は。
他にはドイツ語も何とかなる。 中国語(北京語)とフランス語、イタリア語、トルコ語も日常会話なら何とか、と言うのは重宝する訳か?
目前のリエゾン(リエゾン・オフィサー:連絡将校)の米軍大尉をチラッと見てから、またレポートに目を落す―――内容に文句は無い。

『・・・推進剤、燃料と弾薬。 運搬手段としてM91エレファントⅢ(ドイツのSLT 50-3 エレファント多脚輸送車両と同じ:協同開発)を18輌。
我々は88式多脚輸送車輌を38輌保有しますので、これでハイヴ内輸送車両は56輌。 他に国連規格の補給コンテナ、これは有り難い』

正直言って、師団の補給物資は恐ろしい速度で消費され続けているのが現状だ。 あと数時間ほどで払底しそうな勢いだ。 そうなれば師団は、戦闘力を完全喪失する。
そして改めて思った、レポートに記載された補給物資の、その膨大な量に! 国連軍時代も地中海方面で思ったが、改めて思う―――米軍の兵站将校団は皆、悲観主義者だ!
帝国軍ならば4基数(4会戦分の兵站物資を意味する)か、5基数分に相当する膨大な兵站物資を、1回の会戦用に用意する。

それだけではなく、後方支援全般―――通信、輸送、補給、医療、搬送―――に驚くほど注力しているのも、米軍の特徴だと言える。
戦場で負傷しても(BETA相手に、戦死と負傷の割合は、それまでの経験則を修正しかけているが)、米軍の支援体制は頭抜けている。
専門の救出部隊を有し、1時間以内には応急治療を受けられ、2時間以内に軍医が治療し、4時間後には後方の野戦病院のベッドの上で休める、これが米軍だ。
帝国軍は、場合によっては半日以上、応急措置だけで放ったらかしになる事もある。 人命軽視と言う訳ではない、単にソースの量の差だ。 いや、やはり意識の差か?

例えポーズだとしても、『軍と政府は、将兵を決して見捨てない』―――この事が、米軍将兵の戦意の高さ、その要因のひとつだろう。
もっとも『持てる後方国家かつ、世界最大の超大国』と言う現実があってこそ、そのポーズも取れる訳だが。

『・・・心苦しいが、オハマ大尉。 こちらから融通をつける事の出来る物資は無い。 戦闘開始から20時間以上、補給を受けているが、消耗の方が早い状況でしてね』

正直、目のやり場に苦労する。 Fカップの双丘、コンバット・ドレスを突き破らんばかりだ。 反対に括れたウエストと、形の良いヒップライン。
ウェーブの金髪に憂いの有る緑眼、白磁の肌と赤い唇―――間違いなく、美女と言える。 米第2師団のリエゾン、プリシラ・モードリン・オハマ合衆国陸軍大尉。

『ご心配なく。 ハードの面では、我々は貴軍から供与を受けねばならない物は、ありませんわ、周防大尉―――苦労している様ね、直衛?』

『しているよ、もうずっとね。 それこそマクスウェル(アラバマ州・マクスウェル米陸軍基地)以来、ずっとね―――君もどうだ? プリシラ?』

『ご愁傷さま、全力でご遠慮するわ。 貴方、確かマクスウェル以降は欧州だったわね? 何時、帰国したの?』

『96年の6月、3年ほど前だ』

『風の便りで聞いたわ、日本に残していた婚約者と、晴れてゴールインしたと―――おめでとう』

『何時、リコールされるかと、冷汗ものだったけどね―――有難う』

隣で一緒に確認していた新井君が、怪訝な表情でこちらを見ている。 無理も無いか、いきなり米軍の将校と、プライベートな話を始めれば。
何の事は無い、種を明かせば彼女―――プリシラ・モードリン・オハマ大尉は旧知なのだ。 国連軍時代の95年、国連軍将校教育課程の一環で放り込まれた米軍の教育機関でだ。
アラバマ州・マクスウェル陸軍基地(と言うより、基地群と言った方がいい、広大なエリアだ)に有った、『アイラ C.・イエイカー・カレッジ』
N.Y.での6か月間の学部聴講生―――ニューヨーク大学(NYU)での教育を終えた後、軍事アカデミーの『アイラC』に移って、『指揮官用専門的開発学校』に放り込まれた。
内容は・・・ま、色々だ。 帝国じゃ勉強できない類の事も、学ばせて貰った。 お陰さまで今や俺は、ちょっとした異端だ―――プリシラは、その頃の『同期生』だった。

その説明を受けて、新井君も得心した様だ。 彼も米軍とは、大陸派遣軍時代の一時期、共に戦った事が有ると言う―――93年だけだそうだが。

『では質問ですが、オハマ大尉。 米軍は熱核兵器をどれ程持ち込んでいるのです? 海軍は確実でしょうが、陸軍は? 横須賀の旧米軍跡地に、M85を揚陸したそうですね』

―――いきなり、その話に持っていくか?

新井君が際どい話題を口にする。 横須賀の米軍跡地に数門のM85・240mmカノン砲が揚陸された情報は、あっという間に帝国軍内に拡散していた。
このカノン砲は、60年代に退役予定を70年代まで延命して米軍で運用していた、M65・280mmカノン砲の後継砲であり―――『アトミック・カノン』の方が通りは良い。
W9、W19と言った『核砲弾』の射撃専用に作られたM65の後継だけあって、M85もそれ以降のW32、W48、W74、W82と言った核砲弾専用のカノン砲だ。
核砲弾の核出力は、小型化したが低下はせず、大体15ktから20ktの威力―――ベルリンに投下された原子爆弾と、ほぼ同等の威力を有する。
最大射程は30km―――3万mに達する。 横須賀から横浜ハイヴまで、直線距離で20km弱。 確実にその射程圏内に収めている。 情報では6門、揚陸したと言う。

『その件につきましては、私は情報アクセス権限を有しません。 貴軍司令部より、我が軍司令部へお問い合わせくださいな、新井大尉』

ツン、と澄ました表情で、そっけなくプリシラが対応する。 
その昔(と言っても、ほんの4年ほど前だ)、『同期生』達の間で『啼かせてみたい、クール・ビューティ』と言わせた、あの表情だ。
そんなプリシラの態度に関わらず、新井君は表情も変えずに『そうですか。 では上申しましょう』と、これまた素っ気ない。
しかし・・・ やはり米軍は持ち込んだか。 使い勝手が案外悪いし、使いどころも難しい核遅滞攻撃だが、成功した際の威力は大陸の戦場で実証済みだからな。

『代わりに情報を。 軍司令部経由のではなく、現場の情報共有を。 共有が困難でも、出来るだけ密な情報交換を』

やはり、そちらになるか。 結局、軍事行動は規模の大小を問わず、何を為すにも情報だ。 米軍も戦域確保任務として上陸したは良いが、情報が絶対的に不足している。

『それについては、師団G2(情報参謀部)に当たってくれ。 こちらからも極力、都合をつける。 可能なら前線の、戦術機甲連隊のG5(第5科長・管制)からも』

『お願いできるかしら? 『生の情報』に飢えているの。 ブラディ・シットでマイルドスィング(スラング、解説不能!)な参謀達が、ファッキン頭で選別したネタじゃ無くて。
ああ、ミートヘッド(脳筋のスラング)のレザーネックのは、いいわ、要らない。 クールな情報よ、直衛。 下半身に響く様な、クールでキッツいヤツをお願いね!』

―――思い出した。 この女、外見とは違って生まれ育ちは、シカゴの下町だった。

流石に新井君も、ちょっと目を剥いている。 ぱっと見、上品そうなレディの米軍女性将校が、下士官兵もかくや、と言う程のスラングで捲し立てるのだから。
とにかく、情報面での最大限の融通を付け合う、と言う事で合意した。 当然ながら『オフレコ情報』にも期待したい所だ、向うも同じだろう。

『出来る限りは、情報は流す。 そっちも頼む、オフレコも』

『首が飛ばない範囲でね。 いいわ、協力しましょう。 あ、それと直衛、貴方って3rd.MBCT(第3機動旅団戦闘団)の2/7TSFB(第7戦術機甲連隊第2大隊)
ここの2nd・Sq(第2中隊)のカーマイケル大尉って、知り合いなの? ここに来る前、彼から聞かされたのだけれども?』

『ん? ああ、オーガストか? そうだよ、N.Y時代の友人だ』

『あ、そうなんだ。 彼から伝言よ、『妻がシアトルで、意外な人に会ったと言ってきた。 国連軍のマクスウェル少佐と、バレージ大尉』 そう言えば判るって。 そうなの?』

『・・・サンクス、『了解した』とだけ、言っておいてくれ。 ああ、それと『遅ればせながら、結婚おめでとう』とも。 彼の妻は、俺の以前の同僚なんだ』

『? ええ、判った、そう伝えるわ』





その後、細々した所を確認し合って、切り上げる事にした。 彼女―――プリシラは当面、作戦課内に居候を決め込む事になる。 通信班の部下を引き連れて。
その準備の為に、場を離れたプリシラを見送った後、少し外の空気を吸いたくなった。 司令部天幕を出る、新井君が一緒に出てきた。
テントの外で煙草の火をつける。 外の空気を、何て言いつつ、どうしてわざわざ煙草を? などと以前に祥子からよく言われたものだが・・・スモーカーとは、そんなモンだ。
新井君も煙草を取りだしたので、火を貸してやる。 2人して暫く、黙々と煙草を吸っていた―――サボっている訳じゃないぞ?

周囲は瓦礫が多い、残っている建築物はごく少数だ。 この辺りがBETAに荒されてから、もう1年近くが経つ―――兄貴がこの沖で、戦死した時期だ。
深夜に関わらず、周期的に打ち上げられる証明弾のお陰で、周りは明るい。 北に目を向けると、僅かに移動中の戦車部隊が見えた。 周辺警戒中か、機動歩兵を随伴している。

「・・・周防さん、さっき、最後でオハマ大尉からの伝言、ちょっと考えていましたね。 何だったのです?」

同じように北の『門』付近を見ながら、新井君が聞いて来る。 ちょっと勘が鋭いな。

「いや・・・別に。 随分懐かしい名前を聞いたからさ、昔の、国連軍時代の同僚でね」

国連欧州軍(大西洋方面総軍・地中海方面総軍を統括)総司令部・副官部第3副官室。 あの『何でも屋』の第3副官室が、何も無いのにわざわざ北米の西海岸に人を出すか?
それともう一つ気にかかったのは、マクスウェル少佐と、バレージ大尉、この2人だったと言う事。 ローズマリー・ユーフェミア・マクスウェル少佐とドロテア・バレージ大尉。
物理学が専門の、実際は技術将校のマクスウェル少佐に、恐らくSISMI(イタリア情報・軍事保安庁)当りの出身だろう、バレージ大尉。
俺が最後に会った時は、この2人は有る人物の国連側担当秘書官と、警護連絡役をしていた筈だ。 確かニューメキシコ州に移るとか言っていた。
『グレイ・マザー』、或いは『破滅の聖母』―――ロス・アラモス研究所での、量子重力理論研究の首席研究者、準男爵・バロネテス・レディ・アルテミシア・アクロイド。

(・・・レディ・アルテミシア、マクスウェル少佐、バレージ大尉。 スコットランド、N.Y、それと・・・ロス・アラモス・・・G元素研究!)

あの2人が、ペトラと会った?―――それ自体は偶然だろう、今やペトラはオーガストと結婚して、合衆国の市民になっている。
言い方は悪いが、ペトラ自身には最早何の『価値』も無い、ただの一市民だ―――彼女自身の幸運によるものだ。
いやいや、考え過ぎか? うん、考え過ぎだろう。 向うにはレディだけじゃなく、母親のアクロイド夫人、娘のミズ・アクロイド、孫娘のジョゼも居る。
休暇か何かで、一家が西海岸に・・・多分、そんな所だろうか? そうなのだろう、考え過ぎだ。 ああ、もう4年半以上前になるのか、あの一家と別れてから。
ジョゼは・・・もう13歳になった筈だ。 初めて会った時はまだ8歳だった、それからもう5年か。 ジュニア・ハイの7年生(中学1年)になるのか・・・

「何でも無いよ、本当に。 昔お世話になった、懐かしい名前だったものでね」

煙草を消しながら、そう答える。 気がつけばまた1本、煙草を取り出して咥えていた―――妻に、祥子に怒られるな。 最近本数が増えてきたと、説教されているしな。

「そうですか。 いや、失礼しました。 ・・・ところで、どう判断しますか? 押すか? 引くか?」

奪回総軍がこのまま力押しを続けるのか、それとも一旦ハイヴから身を引いて、BETAが地上に湧き出た所を狙っての、大規模破壊兵器での攻撃か、と言う事か?
ああ、また補給隊が到着したな。 これからハイヴ内の兵站デポまで運びこむのか、工兵や輸送隊も大変だ―――どうやら、力押しの可能性が高い様だぞ?

「・・・純粋に戦術視点から考えれば、引くだろうな。 大陸の広大な平原戦じゃ無く、有る程度固まる事が期待できる地形の本土だ。
大陸で5、6発、ばらけさせて使用した戦術核も、ここじゃ纏めて2、3発も有れば、確実に数万単位で消せる―――ハイヴ内から確実に引っ張り出せれば、の話だけどな」

「外縁部のBETA群は、残存3万をどうやら切った様です。 17個師団―――損耗率は35%近くに達した様ですが、まだまだ戦える兵力が有る。
それで残るBETA群を殲滅出来れば・・・ ハイヴ内の4万からのBETA群を、一気に地上に引っ張り出せれば。 あとは数発の熱核兵器で、一気に片がつく」

ああ、そうだ。 純粋に戦術だけを語れば、その通りだ。

「だけどな・・・まず、政府がそれを許容するかどうか。 それに軍上層部にも、力押しは無理と判断しても、本土で熱核兵器を使用する事に、反対する高官はいるだろうな」

その言葉に、新井君が少し馬鹿にしたような笑いを浮かべた。 珍しいな、彼がこんな笑い方をするとは。

「大陸での核使用にケチを付けずにいた、我が軍が? 自国内での使用になって、それは無いでしょうよ。 統一中華戦線やソ連、この辺りからの支持を失いますよ?」

―――九-六作戦、俺が国連軍の『グラム中隊』で戦っていたあの当時。 最後は総力戦で何とかBETA群を殲滅したが、きっかけは数発の戦術核だった。
1993年9月8日、今から9年前のあの日。 韓国軍第5戦術機甲師団と一緒に突入したあの戦いの直後、中国軍は数発の戦術核を戦線外周部のBETA群に撃ち込んだ。
そのお陰で破滅は防がれ、翌9日の南部海岸線付近での殲滅戦に、どうにかこうにか、間にあったのだ。 北方からのBETA群を、無視できる状況が生み出されたお陰で。

古くは西安攻防戦でも、中国軍は自国領内での核使用を躊躇わなかった。 その結果として、BETA東進の速度が鈍ったと言う研究結果も出ている。
帝国は正式派兵前だったが、BETA大戦の何たるかを知る為の『軍事顧問団』(実質派遣部隊)を出していた。 西安で『壊滅』する筈だった連中は、生き永らえた。
97年の大陸陥落まで、時間を稼いだのだ、核でも何でも用いて。 時には自国民1000万人を、時間稼ぎの餌にしてまでも。

統一中華だけでは無い。 北方戦線で共闘しているソ連軍だとて、ウラルからシベリアに至る後退戦の中で、何度か核を使用している。
最大は1987年、欧州陥落の翌年に西シベリア低地で使用した『ツァーリ・ボンバー』だった。 あの核出力50Mtと言う、世界最大威力の水素爆弾を使った。
そのお陰で86年にリヨンハイヴが出来てから、次のボパールハイヴ、そして敦煌、クラスノヤルスクの両ハイヴ建設まで、各々4年と6年の時間を稼げた、そう言われる。
カナダに至っては、米国との了解のもと、自国領内に落ちた降着ユニット破壊に為に、戦略核の使用さえ認めたのだ。 でなければ『第2のオリジナルハイヴ』が出現するからだ。
広大なカナダ国土の半分は未だ、10数発も撃ち込まれたミニットマンⅢのW62(当時の米軍戦略核弾頭、核出力170kt)から放出されたプルトニウム239に汚染されている。

―――散々、我が国での核使用による時間的恩恵を受けてきた日本が、今更自国での核使用に反対するのか!?

恐らく国連総会辺りで、散々に叩かれるだろうな。 安保理でも中・ソを敵に回すだろうか? それか国際社会と言うものだ、それが国際社会が持つ『エゴ』と言うものだ。
逆にもし、核使用を政府・軍部が容認すれば・・・国民は激昂するだろう。 それは『社会軍事学』の領域だ―――何だかな、国連軍での留学時代の、復習をしている気分だ。

「国内外をどう調整するか、それは政府の仕事だな。 我々は取れるべき選択肢について、検討して準備するだけだ。 決定したなら・・・あとはスイッチを押す勇気だけさ」

「軍人は、国家の番犬たれ―――番犬が飼い主を引っ張って、無茶苦茶になったのは半世紀ほど前ですが。 帝国の精神年齢がそこから上がったとは、どうにも思えませんよ」

「・・・国粋派か?」

「国粋も、統制も、ですね。 周防さん、俺は93年、九-六作戦が初陣だった。 そこで瀕死の重傷を負った。 回復したけれど、衛士資格を失った」

・・・彼、元は衛士だったのか?

「だったんですよ。 ま、そのお陰で管制の方に転科して、生き永らえましたけどね。 お陰さまで結婚もできました。 同期生は半数近くが死にましたが、元は19期のAです」

「・・・俺の、1期下だったのか」

「ええ、そうです。 国に帰されて、入院とリハビリを続けて。 軍務期間が切れる前に管制官課程に移って・・・ ああ、俺は徴兵だったんです。
兵役期間はまだ、3年残っていましたから。 それに管制は何かと潰しが利きますしね、地方(一般社会の、陸軍隠語)に戻ってからでも。
で、CP将校になったんですが・・・ 衛士時代より、ある意味酷かった。 それからは散々、悲鳴ばかり聞いて来ましたよ。
泣き喚く奴。 絶望のあまり呪詛に近い言葉を吐きながら、死んで行った奴。 最後まで母親を呼び続けていた奴。 ・・・『帝国万歳』なんて言葉は、聞かなかった」

―――そりゃ、そうだ。 俺だって聞いた試しが無い。 幾ら政府や軍部がプロバカンダで糊塗しようが、武家連中が時代錯誤の戯言を言おうが、関係無い。
最前線の将兵は、そんな事の為に死んで行ったんじゃない。 そんな理由で、死に直面した訳じゃない。 国や民族、皇帝陛下や将軍なんて、後方で考えた後付けだ。
そんなのじゃない、ただ、守りたかっただけだ。 仲間を、そして大切な人を。 そしてその背景を。 だったら、使うべきだ。 核でも、何でも。

「考えましたね、どうして戦っているのかと。 国の為じゃない、民族なんて得体の知れない物でも無い。 皇帝陛下? 将軍殿下?―――残念ながら、全く知らない他人ですよ。
俺はね、孤児です。 守るべき何物も無かった、自分の命以外で―――初陣で負傷して、光線級に焼かれた『撃震』の管制ユニットの中で、朦朧としながら思い出した事以外は」

「何を思い出した?」

「婚約者、ですよ。 朦朧とした意識の中で、彼女の顔だけは、やけにはっきり思い出せた。 ずっと思っていたんだ。
それと通信回線が生きていたんでしょうね、僚機に向かってがなりたてる、1期先任の衛士の声も聞こえましたよ。 お陰で意識を失わずに済んだ、神宮司もそうでしょう?」

「・・・君、あの時の。 あの、大破した『撃震』に搭乗していた衛士か!?」

驚いた。 もう6年も前の事だ、神宮司はそれ以降も接点が有ったから、覚えていたが。 正直、あの時救出した他の2機の事は、全く忘れていたな。

「俺はね、周防さん。 俺と、妻と・・・それに子供が生きていけるのなら、どこだっていい。 家族がいる場所が、俺の『祖国』なんですよ」










1999年8月5日 1420(現地時間) 合衆国 ワシントンD.C 


薄暗い室内。 間接照明と流れる甘いメロディー、芳香をたてる琥珀色の液体、そしてシガーの紫煙。 ひと組の男女がベッドに横たわっていた。

「・・・日本はあの情報、本気にしなかったという訳なの?」

艶めかしい表情で、女の方が髪をかき上げ、聞いて来る。 手を伸ばしてサイドテーブルからウィスキーグラスを掴み、一口含む―――男に口移しで飲ませる。
男の方はシガー、合衆国産のシガリロ『キング・エドワード・パナテラ』を手に弄びながら、女の官能と、琥珀の液体を同時に楽しんでいた。

「本気にしなかった、と言うより、したくない、と言うのが本当の所だ。 政府は日米安保再開を望んでいる、軍上層部も本音はそうだ。
だからだよ、それが本当なら、国内のコンセンサスを取る事が不可能になる。 お上(皇帝)への宮中報告をどうしたものか。 将軍家や摂家もまた、煩く言ってくるだろう」

「エンペラーやショーグンなんて、もう有名無実じゃなくって? 確か憲法の上でも『象徴』だと、そう言っているわよね?」

「実の所、1世紀以上前の開国の頃からそうさ。 武家の実権は、1905年で終わったがね」

―――既得権益を守りたいだけさ、それと生存権もね。

男は自嘲交じりにそう言う。 明かりに照らされたその顔は、40代も後半と言った所か。 明らかにアジア系、それも東アジア系の顔立ちだった。
そんな男の言葉に、言い様も無い表情―――憐れみ、嘲笑、呆れ、そして自嘲を浮かべた女が、男の上に倒れ込み、顔を胸に埋めて囁く様に聞いてきた。

「せっかく、私が身の危険を顧みずに、カンパニーの目を欺いて知らせた情報よ? あのチシャ猫の様な悪魔、あの男に言われて、と言うのが癪だけれど」

「・・・チシャ猫の様な悪魔か、言い得て妙だな。 陸軍も巌谷あたりが使っている様だが・・・ 使い方を間違えると、劇薬にもなる男だ、あいつは」

「どうでも良いわ、あんな男。 私は貴方が望むから・・・だから情報を流したのに」

上目遣いで迫る女の、その頤を手にとって、ゆっくり唇を撫で回す。 女の唇が開いて、男の指を咥え込む。 それを嬲る様に扱い、そして限りなく優しく愛撫する。

「それは奇遇だ。 僕も君が望む事は何なのか、随分と探していた気がする」

お互いシニカルな笑みを浮かべたまま、唇を合せる。 暫くして顔を話した時、女が冷たい声で言った。

「・・・事実よ。 4日前の8月2日に、ケープカナベラルから打ち上げられて、『ユニティ』に運び込まれたわ。
運用艦がどれかまでは、参謀本部情報だから探れなかったけれども。 でも確実に2発の『G弾』が、宇宙に上げられたわ」

先程とは打って変わって、冷ややかな視線で男を見つめる女。 平然とその視線を受け止め、シガリロに火を付け直す男。

「今現在の戦況で、『あれ』を使用する場所は、1箇所しかないわ。 だから貴方も、私に接触して来たのでしょう?」

「・・・身も蓋も無い言い方だね、ムードの無い事だ」

「なら、奥様と別れてくれて?」

「無理だね、それは。 私は良き家庭人であり、同時に悪事に平然と手を染める組織人なのだ」

「知っているわ。 そんな所も、愛しているわ」

「光栄だ。 妻と出会う前に聞きたかったね」

「本気? その頃の私は、まだジュニア・ハイよ?」

「・・・犯罪だな、それは」


つかぬ間の逢瀬を切り上げ、ホテルを出る。 陽が明るい、なにせまだ、午後の2時過ぎだ。 別れ際、口づけをしながら女が耳元で囁いた。

「・・・合衆国政府の最終通告は、明日の国家安全保障会議で最終決定を下したその後で、日本大使館経由でする筈よ・・・」

「・・・いいのか? そこまで漏らして。 カンパニーも流石にモール(モグラ:潜入工作員の隠語)を探し始めるぞ?」

「いざとなったら、本当に国連情報部に飛び込むわよ、何もかも白状して、ね?」

「女は怖いな。 だが、その時はそうした方がいい」

「あら? 『俺の懐に飛び込んで来い』とは、言ってはくれないのね? やっぱり」

「定員オーバーでね、残念ながら。 じゃあ、また。 ヴィクトリア」

「ええ、また。 直邦」

最後まで演技を続けた男女―――在米日本帝国大使館付武官・周防直邦海軍大佐と、国連本部職員・ヴィクトリア・ラハトは別れた。
周防大佐の姿を見送り、その姿が見えなくなってから、ヴィクトリア・ラハトはある特殊な処置がなされた携帯電話を取り出し、電話をかける。
何度かコール音がし、相手が出た。 経過を伝え、次の指示を出して電話を切る。 その顔は先程とは打って変わった、冷淡な表情だった。

「・・・本当に、愛していたわ。 でも私の手を振り払ったのは貴方よ、直邦」

国連職員のヴィクトリア・ラハト―――いや、『カンパニー』の潜入工作員であり、上級工作監督官のヴィクトリア・シャロン・ゴールドマンは、ひとつだけ嘘をついた。

合衆国国家安全保障会議は、今まさに佳境を迎えている筈だったのだ。 最終決定は数時間後に出される事だろう。











1999年8月6日 0420 日本帝国 東京府 旧町田市付近 北部防衛線・インドネシア軍(大東亜連合軍)第3軍団 第4師団防衛地区


『・・・おい、何だ?』

『急に圧力が弱まった?』

『BETAの数は、まださほど減っていないぞ・・・?』



1999年8月6日 0425 日本帝国 神奈川県 旧綾瀬市付近 南部防衛線・日本帝国軍第16軍団 第19師団防衛地区


「BETAの進路、出ました! ・・・これは!?」

「なんてこった・・・ BETA群、反転! 横浜に向かっています!」

「大至急、総軍司令部に! 緊急の緊急だ!」



1999年8月6日 0430 横浜ハイヴ第6層 
『ヤバいぜ! 急に数が増えやがったんじゃないか? おい、周防!』

『間違いじゃねえ、確かに増えたぜ、古郷さん! これは・・・保たねえかもな!』

『う、うわあ! くそ! スリーパー・ドリフトだ! 隊長、前方50・・・ぐぎゃ!』

『なっ!? おい、本多ぁ! くそう、ソードCよりリーダー! 1機殺られました!』

『ソードBよりリーダー! 前方至近! 要撃級・・・500! 喰い止められません! 宮内、真部、美濃、100下がれ!』

『ぬう・・・! 古郷、周防、引け! 一旦引け! この後ろのS-06-02広間まで後退だ!』

≪CPよりソードダンサー・リーダー! 連隊命令、第5層を死守せよ! 制限時刻は0500! 国連軍『観測任務部隊』が、第3層まで後退します!≫

『あと30分!? 1個中隊でか!?』

≪フラッグとペガサスも、阻止戦闘中です! ライトニングが後詰に駆け回っていますが・・・指揮小隊は大隊長を含め、2機! 他部隊も混戦模様!≫

『馬鹿な! たったの2機で!―――周防! 中央、来るぞ! 古郷! 左翼は踏ん張れるか!?』

『中央、了解!―――了解っても、こんな数、一体どうしろって・・・!』

『何とかやってみせます! 周防、左翼から支援する! こっちの数は少ない!』

『頼ンますよ、古郷さん! 一瞬でも気を抜けば、あっという間にあの世行きだ、これは!』

『A小隊、右翼のスリーパー・ドリフトを警戒しつつ、中央へ全力支援攻撃! CP! 大隊長と連絡は!?』

≪電波障害域に入った様です、繋がりません! あと2分でフラッグの担当エリアに入る筈です!≫

『判った! くそ、連絡が取れれば、私が後退を進言していたと、そう伝えろ!』

≪CP、了解です!≫

『ソードB、周防です! 中隊長、海軍さんも応答しねえ! 向うも満員御礼ですよ、こりゃあ!』

≪ソードダンサー・マムよりセラフィム・マム!(181連隊管制班・第5科) 第6層で大規模なBETA群の逆襲有り! 第5層まで後退します!≫

≪セラフィム・マムよりソードダンサー・マム、了解。 誘導管制はS-06-02の東から第5層へ上げなさい。 リーダーとは繋がるの?≫

≪はい、お待ちください・・・リーダー! 神楽大尉!≫

『聞こえている! ソードダンサー、神楽大尉。 綾森大尉、祥子さん、こっちは随分楽しい状況です!』

≪確認したわ、緋色。 ごめんなさい、もう30分だけ押さえて!≫

『・・・了解。 あとで訳を聞かせて下さい』

≪・・・許可が下りれば、何時でも。 東隣の『広間』にフラッグとライトニングが居るわ、合流して!≫

『承知! よし、全機! まずは一斉射撃、開始!』





ハイヴの内外で、BETA群の異変が観測され始めた。
そして地球周回低軌道上では、合衆国航空宇宙軍所属の2隻のHSST、『キャラハン』、『スコット』が再突入回廊を目指し、最終周回に入って行った。



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