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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 前兆 2話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/28 22:29
1998年5月20日 1425 日本帝国 北大阪 能勢・豊能


比較的低い山、と言うか丘陵と言うか。 そんな地形が折り重なった様な場所。 日本ではどこでも見かける地形。
木々の緑が深く鮮やかだ。 梅雨に入る前の晴天、気候は穏やかで、気温も平野部と違い涼しく感じる程だ。
視界は余り良くない、もっともこれは戦闘行動という前提でのものだが。 折り重なった小山や丘陵が連続して入り乱れ、遠方の視界を防いでいる。


≪CP・フラガラッハ・マムより、フラガラッハ・リーダー。 BETA群前衛はエリアC7GよりルートN-28-36をN-33-42方面に移動中、個体数約200≫

「距離、速度、会敵時刻、知らせ」

≪距離1万2000、約70km/h、会敵予定、10分25秒後。 敵中衛は距離1万7000、個体数約2700、50km/h、会敵予定、20分22秒後。
敵中衛にレーザー属種確認、光線級です、約30。 レーザー照射危険圏内侵入は22分45秒後≫

「フラガラッハ・リーダー、了解」

CPからの報告と、網膜スクリーンに映し出した戦術MAPの地形情報とを見比べる。
BETAは蛇行する国道沿いを移動中。 こちらはその南側の終点付近で、3箇所に分かれて布陣している。
普通に考えれば、位置関係はこちらが圧倒的に有利。 周囲の狭さ、占位した高度、共に相手の行動を著しく制限する。

「・・・筈なんだがな」

この地形ならば、敵前衛を片付ける事はそう難しい事では無い筈だ。 BETAの動きを制約する狭隘な地形、部隊が占位した地形高度。
ただ問題が無い訳じゃない。 そもそも戦場に『完全』など無い、今回のこの状況での問題点・・・
そこまで思考を進めた時、通信表示ログと共にC小隊長―――第3小隊長の四宮の姿が、網膜スクリーンに浮かび上がった。
向うも情報を確認しつつなのだろう、視線を俺と周囲と、せわしく動かしながら聞いて来る。

『中隊長、このままでは、敵前衛の殲滅戦闘の後半で中衛と接敵。 中衛との戦闘開始直後に、レーザー照射被弾の危険性が大きくなります』

―――それは、そうだが・・・

『フラガラッハ04より03、しかし、この後ろは既に最終防衛ラインです。 
それも地形が開けています、前面の狭隘な地形で可能な限りの殲滅、これは大方針なのでは?』

『04、結局は直ぐに押し出されるわ。 レーザー照射を避けようとすれば、後方に下がる以外に無いわよ。
北向うの尾根筋を取られたら最後、こちら側との間に遮る地形は無いわ』

中隊副官の瀬間が、四宮の提言に異議を唱えた。 それに対して四宮も反論する。
どちらも理が有り、非が有る。 さて、どうしたものか?―――敵前衛会敵まで、後8分20秒。

『フラガ02より、03、04 井戸端会議じゃねぇンだ。 意見なら、ちゃんと具申しな。 
02よりリーダー、兵力分散になりますが、前後同時挟撃を具申します』

「ふん・・・」

BETA群の侵入経路、連中は比較的平たんな谷間の、国道沿いの場所を突進してきている。 ただ問題は、後続のBETA群中衛にレーザー級が確認されている事だ。
前衛との会敵時間は約10分少々、そこから敵中衛の会敵時間まで約10分。 つまり、前衛の突撃級にかまけられる時間は約10分少々。
となれば、中隊長としての俺のすべき事は―――


「―――フラガラッハ01よりユニコーン・リーダー、意見具申」

『ユニコーンだ。 フラガ、周防、何か?』

網膜スクリーンに、大隊長の荒蒔少佐の姿がポップアップする。 唐突な意見具申にも、別段驚いていない様だ。 
部隊の方針、『現状に計画が合わないと判断すれば、意見を具申しろ。 但しそれは上級者の権威を蔑にするものではない』
その他にも幾つか方針が有るが、基本的に少佐は大方針を曲げる事にならない限り、部下の意見具申をよく考慮して、修正を加えるタイプの指揮官だった。


「側面尾根筋の外側をC8Eまで、ルートN-30-38から北西を迂回してN-32-43から尾根を越せば、BETA群中衛の後背に回り込めます。
光線級は敵中衛の最後尾付近と推定されます。 BETA群前衛との接敵と同時に最後尾へ攻撃開始、飛び道具を潰すべきと考えます」

『・・・前衛の突撃級は約200だ、2個中隊は欲しいぞ?』

「言い出しっぺですから、迂回攻撃は自分の『グラガラッハ』が。 突撃級相手には『セラフィム』、『ステンノ』と本部小隊で対応可能でしょう」

大隊長は暫く思案顔だった。
ここで兵力を分散させて、前後同時攻撃を行うか。 それとも事前計画の通りに攻撃を行うか。
事前の迎撃計画では、まず突撃級を大隊全力で殲滅した後に遅延後退戦闘を行い、BETA群主力を後方の地形出口まで誘導。
出てきた所を、後方側面に配置された戦車・自走高射砲部隊と協同して叩く。 この際、地形高度を取られないように、戦術機部隊は左右の尾根筋出口に占位する。

『計画の変更は、特に必要無いんじゃないですか?』

通信回線に第23中隊、『ステンノ』中隊長の美園―――美園杏大尉が割り込んで来た。 

『下手に兵力を分散させちゃ最悪、BETAの前衛を取りこぼしますよ? そんな状況になったら、後方左右の機甲部隊への『護衛』が必要になります。
最低でも2個小隊、左右両翼に送らなきゃなりません。 取りこぼした数によっては、1個中隊を割く事になります』

どうやら美園は、事前計画通りに迎撃を行うべきとの判断らしい。

「どの道、取りこぼしは出る。 この地形だ、BETAが動きを制限されるのと同様、こっちも機動空間は制限される。
10分で200体全ての突撃級は、始末できないだろう。 密集されたら、後ろを取る事もままならない。 120mmも数に限りが有る」

『結局はこの地形を出た後で、突撃級の始末をしながら、光線級の排除を同時進行させなければならない事態に陥る、と?』

『セラフィム』リーダー―――第21中隊長の祥子が、更に割り込んで来た

「最悪の場合は。 似たようなケースは過去にも有った、遼東半島―――大連と旅順でも。
遡れば大陸戦線でも他に、腐るほどあったのでは? 俺はペロポネソス半島で経験した」

『南満州で2回』

美園が間髪入れずに答える。 但し口調は乾いた口調だった。

『1回は成功。 1回は失敗して、機甲1個大隊が喰われましたよ。 こっちも光線級に背後から狙い撃たれて、中隊で3機損失』

「・・・こっちは光線級が出張って来るまでに、突撃級を始末しようと無理をした。 お陰でベテランが1人、再起不能の重傷を負った」

―――94年の2月、ペロポネソス半島。 南部のスパルチィ(スパルタ)での間引き作戦、あそこでイヴァーリ・カーネがリタイヤした。
一瞬過去の記憶に想いをはせ、次の瞬間に脳裏へしまい込む。 語るべきは彼等の生き様、戦い様で、感傷では無いのだから。
無意識に一瞬だけ目を瞑っていた。 再び現れた視界に、大隊長の姿が映る。

「大隊長、最大の脅威は、最初に除くべきです。 突撃級への対応は2個中隊、取りこぼしへの対応は、1個小隊で可能でしょう。
とにかく、ここを抜かせる訳にはいきません。 第1、第3大隊戦闘団の後背にBETA群を送り込ませる事になります」

『貴様は、上官でも遠慮なくこき使う男だな、周防? よし、綾森、美園、敵前衛迎撃は右翼の『セラフィム』と、左翼の『ステンノ』で対応。
地形の底に長居はするな、斜面を有効に使え。 取りこぼしは本部小隊で片付ける。 周防、言い出したのは貴様だ、きっちり後ろを始末して来い』

「フラガラッハ・リーダー、了解」

『セラフィム・リーダー、了解です』

『・・・だったら、楽しい方をやらせて欲しいんだけどな・・・』

『ステンノ・リーダーは異議有りか? 美園大尉?』

『周防大尉が、是非に綾森大尉と協同したいと・・・』

「言ってない」

『・・・美園?』

俺の一言よりも、祥子の氷点位まで温度の下がった笑みの方が、怖かったようだ。 美園は首を竦めて『異議無し』とやりやがった。
とにかく計画は微修正、大隊CP経由で協同する機甲部隊へ通達。 大隊長以下の指揮小隊が地形出口へ移動して、両翼の21、23中隊がスタンバイ・・・

「22中隊、『フラガラッハ』 ルートN-30-38から北西を迂回してN-32-43から右の尾根を越す。 丁度敵中衛の最後尾付近だ、光線級を狩る!」

―――『了解』

部下達の復唱が、間髪いれずに入った。 連中、有る程度予想していたな・・・?

『ユニコーン・リーダーより大隊全機、行動開始!』

『セラフィム各機! 国道右手の400高地に布陣する、続け!』

『ステンノ全機、こっちは左手だよ、500高地! 
北北東の550高地に光線級が陣取ったらタイムリミット、谷間の戦闘は止めるんだよ、いいね!?』

大隊指揮小隊が国道沿いに南南西に下がり、『セラフィム』、『ステンノ』各中隊が左右に展開を始める。

「リーダーよりフラガラッハ全機、NOE開始。 制限高度、300」

中隊12機の94式『不知火』のFE108-FHI-220が一斉に咆哮を上げ、噴射跳躍からNOEへと移る。
高度を気にしつつ、地形をなぞるように飛行するのは、毎度の事ながら気を使う。

『うっ、おっ!』

『ん~!』

ヘッドセットから聞こえる無意識の声からも、大体誰か判る。 まだ経験の浅い連中、B小隊の浜崎と、C小隊の鳴海か。
昨年9月末に訓練校卒業後直ぐに、半島撤退戦に投入されながらも、辛くも生き残った2人だが。
まだ技量の面ではB-評価か、甘くてB評価といった所。 俺としてはせめてあと3カ月で、B+評価までは向上させたいと考えている。

「11、浜崎。 12、鳴海。 ドジを踏むなよ? 操作ミスで斜面に激突、墜落死じゃ物笑いの種になるだけだ」

急速に次の斜面が近付いて来る。 機体の上半身をやや上げ揚力を増しながら、推力を少し増す。 
上昇に移ったと同時に機体を左に傾けながら、左前方の稜線鞍部をフライパスする。
越したと同時に推力を抑え、機体姿勢を元に戻しながら機首を針路上に戻す。 N-31-40を通過。

「リーダーより各機、最終フライパスポイント、前方2時、500!」

12機の『不知火』が一斉に右手の尾根をフライパスして、パワーダイブに入った。
同時に網膜スクリーンに飛び込んで来る情景、狭い平地一杯に広がった多数のBETA群。
戦車級、闘士級、兵士級、そして光線級!

「タリホー! エネミー、インサイト! 『フラガラッハ』、エンゲージ・オフェンシヴ! オールハンズ、アタック、ナウ!」

『セラフィム、エンゲージ・ディフェンシヴ!』

『ステンノ、エンゲージ! アタック・ナウ!』

3個中隊がBETA群の前後で、同時挟撃を開始した。
レクチュアルに小型種の群れを捉える。 120mmキャニスターを着地地点へ叩き込み、数10体の小型種を粉微塵にしてスペースを確保する。 
同時に逆噴射パドルを全開放して降下速度を急激に殺し、着地と同時に背部兵装担架の突撃砲をも前面展開して、36mm砲弾の弾幕を張る。

「制圧支援、前方に誘導弾を叩き込め。 特に戦車級の接近を許すな! B小隊、突撃! 光線級を狩れ! A、C小隊、周辺掃討開始!」













大阪平野北部の千里丘陵から北、箕面、豊能、能勢に至る丘陵・山岳地帯には、広大な陸軍の演習場が広がっている。
隣接する兵庫の猪名川、川西の演習場区域を含めれば、実に約141平方キロメートル。 
富士演習場が北と東を合せて約134平方キロメートルであるから、その広大さが知れよう。

その広大な演習場の一角に、いくつもの野戦テントが張られていた。 今現在、この演習場で演習中の第18師団、その本部テント群だった。
既に1830時。 日は殆ど傾き、日没間際の紅い夕空が広がり、濃い陰影をテント群に映し出している。

「・・・第2大隊前面の戦況はその後、光線級の殲滅を早期に為した事により、我が軍の優位に推移。 
突撃級の一部が第1防衛線を突破するも、第2防衛線の戦術機小隊と機甲部隊の協同にて殲滅」

演壇に立つ師団G2(情報主任参謀)が、本日の演習結果を報告している。

「敵BETA群本隊も、前後からの挟撃が功を奏し、狭隘部を抜ける頃には約2200まで減少。 その後は第2防衛線の火力に寄り殲滅。
結果として師団左翼戦線が安定化した事により、第1派は殲滅・撃退に成功した」

何とか面子を保った結果が出せたと思う。 いくらJIVESでの演習とは言え、難易度は落としていない。

「・・・しかし第2段階に入り、北方、及び北西方面からの大規模なBETA群に対する、流入阻止戦闘が生起。 
この際、隣接部隊との連携不備により、一部部隊が防衛線を突破される事態に陥った」

横目でチラッと、隣の列に座る愛姫を盗み見る。 案の定、渋い顔だ。 
突破された部隊とは、彼女の中隊だったのだから。 G2の戦況推移説明が続く。

「その結果、空いた穴よりBETA群前衛が雪崩込み、後方に配備されていた機甲部隊前面に殺到。
戦術機甲連隊は2個中隊を割いてこれに当るも、逆に防衛線に空いた穴を拡大する事態となり、全防衛線に渡ってBETAの侵入を許す結果となった」

―――その結果が、機甲1個半大隊分の壊滅と、機動高射大隊1個が全滅。 機械化歩兵連隊も機装兵部隊を投入して阻止に当ったが、4個中隊を失った。
戦術機甲連隊も、今回での演習で総計32機を喪った、120機中の32機。 俺の中隊も、3機が喪失判定とされた。

「最終的に師団防衛線は南東25km地点まで後退。 
この結果、阪神地区から帝都の西側面・亀岡盆地に抜ける477号線、423号線を含む能勢・豊能防衛ラインは陥落した」


苦虫を潰した表情のG2が、戦況報告を終わる。 
続いて壇上に現れたのは、作戦を担当する師団G3(作戦主任参謀)だった。

「戦況結果については、今しがたG2より説明の有った通りです。 この結果、中部軍集団(中部軍管区の戦闘序列名称)の戦略目的が危地に陥った事を認識して貰いたい。
近畿南部海岸線を進撃してくるBETA個体群と、北部山岳地帯を進撃してくる個体群、この2つが合流出来る要素が生起した。
この事により、軍集団の戦略目的である『帝都防衛』と、『大阪平野への侵攻阻止』、この双方が、非常に難しくなったと言わざるを得ない」

G3がここで一旦言葉を切り、周りを見渡す。 皆、一様に難しい表情だ。
中隊長級以上の指揮官が集まったこの場で、その状況を理解し得ない者など、1人も居ない。

「阪神防衛線に戦力を集中するのか? それとも帝都の側面である亀岡への防衛に注力するのか?
キャスティングボードはBETAに握られた。 我々はその時々の状況に引きずられながら、戦力の移動と逐次投入を繰り返す羽目になる」

そうなっては、近畿の防衛線は崩壊する。 帝都にはいずれBETAが雪崩込む事になるだろう。 
琵琶湖運河の『本流』、新淀川で阻止出来なければ、大阪市以南の堺泉北臨海工業地帯も危ない。

今回の演習の想定状況は、近畿中部での防衛。 
既に近畿西部の兵庫県は陥ち、播磨臨海工業地帯、阪神工業地帯はBETAに蹂躙されているという状況想定。
更には山陰方面からの浸透を図るBETA群が福知山・篠山方面に侵入。 一部が阪神方面へ南下の動きを見せ、残余は更に亀岡方面へ突進しつつあった。

「状況は、彼我の戦力は我が方が7個師団、BETA群の想定個体数、約8万5000。 大陸での戦訓から考慮するに、些か以上に心もとない。
今年初頭の朝鮮半島南部撤退戦では、約13万のBETA群に対して、11個軍団(約25個師団)の戦力で阻止しきれなかった」

俺は多分、思わず無意識に渋い顔になっていただろう。 あの戦いはどちらかと言えば、政治や国際外交に戦場での戦略が足を引っ張られた典型だ。
満洲での戦例を見ればわかる。 あれだけの戦力を集中していれば、13万前後のBETA群は阻止出来た可能性が高い。

「・・・光州の事かい? 僕はリハビリで参加出来なかったけど、正直どうだったんだい?」

横から32中隊長の源さんが小声で聞いて来る。 この3月下旬にようやく傷も癒え、部隊に復帰してきたのだ。
同時に転勤の季節ゆえか、32中隊の市川大尉が、東京衛士訓練校の教官として転出して行った。
市川さんは元々、教育者志望だった人だ。 うってつけの適材適所ではなかろうか? その交替として、源さんが32中隊長になったのだ。

「93年の1月、それに9月。 あの時と比較しても彼我の戦力比は、悪くは無かったです」

俺も自然、小声になる。

「・・・政治ですよ、政治。 それに噂では韓国軍や大東亜連合からも、泣きつかれたらしいです」

「それは何時もの事だけどな・・・ 光州は例外的かな?」

「ですね。 後は人口密集地が近かった、そしてその避難が全く進んでいなかった、この点も大きい」

「正に今回はその状況、そのものじゃないかい・・・?」

「そこは軍の管轄範疇外ですよ」

2人して苦笑しか出ない、正に問題はそこなのだ。
一体、何時になったら政府の疎開計画が軌道に乗るのか。 何時になったら、軍はその防衛計画を十全に実行できるのか。
俺達前線の将兵は皆、その点にやきもきしている。

いつの間にか、G3の『修正防衛作戦案』は、最後の局面についての説明に入っていた。

「・・・このように、都市部での防衛戦闘は非常に困難を伴う。 そして、その結果は捗々しくないと予想される。
最悪の事態では、『畿内中部防衛計画案』、その第5案の発動も視野に入れねばならない。 その第7項、『都市部に於けるBETA殲滅』 
都市と言う『エサ』に喰いついたBETAを、十分おびき寄せた後でのS-11飽和砲撃。 大阪市南部の堺泉北臨海工業地帯へのBETA群侵入阻止。
近畿に残された最後の工業地帯だけは、何としても防衛せねばならん」

これには軍集団砲兵任務群の全てと、大阪湾に展開予定の海軍第1艦隊からの、戦艦主砲によるS-11砲弾の一斉砲撃を含む。
400年前からの商都は、これで草木1本残らない焦土と化す、か・・・ 
第1大隊の木伏さんが、怖い表情だ。 当然だ、大阪は彼の故郷だ。 その故郷を公然とBETAの餌とし、消滅させる作戦など、気分が良い訳が無い。

それにこの計画も、まだまだ検討を行わなければならない点は山ほどある。 果たしてBETAが大人しく、大阪市内に釣り込まれてくれるだろうか? 
もしも針路を新淀川沿いに北東方向へ曲げられたら最後、帝都の下腹を突かれる事になる。 その際の防衛戦力は、第6師団といくつかの独立混成旅団のみ。 
そこを突破されれば、最後の綱は帝都防衛任務の第1軍団にかかって来る。

結局今回の演習後検討会では、部隊間連携の齟齬と、初期部隊配置の問題点が指摘された。
そして再度の部隊間連携の確認と、状況に対する初期部隊配置の見直し。 その上で明日以降の再度の演習、そしてその結果の検討。
―――これが後1週間続く事になる。 

「諸君らの懸念は判る。 師団としても、検討事項はすべて洗い出した後に、軍団、軍集団作戦会議に提言の予定だ。
だが我々に与えられた、人員と資材は有限なのだ。 その与えられた範囲に於いて、我々が為すべき義務を、責務を、我々は全うせねばならない。
諸官には、各々の職務・職責の範囲に於いて、最大限の努力を期待する」

最後に、それまで一貫して沈黙を保っていた師団長のその言葉で、本日に演習は終了した。











「周防大尉」

本部テントから大隊へ戻る途中、大隊長と話しながら歩いていると、後ろから第3大隊長の森宮少佐から声をかけられた。
ちょっと珍しいな、と思った。 直属上官では無い上、正直あまり接点の無い人だった(戦術機甲連隊の中では、だが)

「何でしょうか? 森宮少佐」

立ち止まって姿勢を正しながら問う。
向うも俺に傍らの荒蒔少佐に黙礼しながら(森宮少佐の方が、荒蒔少佐より後任だ)、少し言いづらそうに話しかけて来る。

「周防大尉、もしかしたら君なら知っているかもと思ったのだが・・・ 伊達君の事だ」

―――愛姫?

無意識に不審げな表情でも出たのか。 森宮少佐は無言で小さく頷くと、話を続けた。

「ここ数日、時折なのだがミスが続いている、彼女らしくない。 手を抜いているとかでは無いのだ、何と言うか、心此処に非ず、と言った感でな。
本日の演習でも、らしからぬミスをしている。 ミスを犯した後の挽回は、流石と言う程なのだが・・・」

「そう言えば、そうだな。 何もあそこで強襲する事も無かった。 一旦引いて、縦深陣形を連携して構築すれば、逆に押し込めて殲滅出来た。
確かに、伊達大尉らしからぬミスだったな。 森宮君、3大隊の事前方針は無論、強襲では無かったのだろう?」

荒蒔少佐も想う所が有るのか、思い出しながら不審げに言う。

「周防大尉、君、何か心当たりは有るか?」

森宮少佐が重ねて尋ねて来る。 
心当たりか・・・ もしそうなら、仮定出来る事は一つだけなんだが、ここで断定も出来ないしな。

「・・・済みません、森宮少佐。 はっきりとした事は、何も。 それとなく、伊達大尉に当ってみますが?」

「うん、そうしてくれると助かる。 僕から言っても、もしかしたら遠慮してしまうかもしれないし。
源大尉は先任だし、仁科大尉は後任でかつての部下だった。 もしかしたら同期生の君や、1大隊の神楽大尉になら、と思ってね」

少し苦笑を浮かべた、そして困った感じの笑みでそう言って、森宮少佐は荒蒔少佐に(俺にも)軽く目礼して自分の大隊へと戻って行った。
その後ろ姿を見送りながら、荒蒔少佐が視線を移さずに話しかけて来る。

「・・・心当たり、無いのか?」

「漠然とは、ですが。 しかし、断定も出来ませんし」

「この際だ、お節介焼いてみたらどうだ? 同期生同士だ」

「夕食後にでも、それとなく」

「そうしろ」

それだけ言うと、荒蒔少佐もさっさと大隊まで戻って行った。
何とまぁ、演習以外にちょっと面倒な事を頼まれたものだ。 知らず肩を竦めていると、ある意味一番声を掛けられたくなかった人物から、声をかけられた。

「おい、周防。 伊達と神楽の事で、聞きたいのだがな・・・?」

後ろを振り向くと、ちょっと不機嫌そうな顔の広江中佐が手招きをしていた。
思わず胃の辺りに圧迫感を覚える。 ホント、頼むよ、愛姫。 それに緋色もだと・・・?













「伊達大尉」

愛姫を呼ぶ声が聞こえる。 聞き覚えのある事だ。
野外テントで夕食を済ませ、部隊に戻る途中の愛姫を捕まえた途端の事だった。

「伊達大尉」

なのに愛姫は聞こえぬ振りで、すたすたと部隊の方へ歩いている。

「・・・おい、呼んでいるぞ? あから様に過ぎないか?」

「私は、話す事無いよ」

「向うは、有るみたいだけどな?」

ややあって、大きく(そしてわざとらしく)溜息をついた愛姫が振り返り、声の主に返答する。

「―――何か御用でしょうか? 神楽斯衛大尉?」

向うから追いかけてきたのは、神楽緋紗斯衛大尉。 俺達の同期の戦友、神楽緋色陸軍大尉の双子の実姉だった。
今回の演習で、陸軍・斯衛の協同の一環として派遣されている、斯衛の機甲聯隊戦闘団。 
その中で1個戦術機甲中隊を指揮していて、且つ最先任中隊長として、斯衛の3個戦術機甲中隊を統括指揮していた。
今回、彼女達の部隊の大隊長は来ていない。 聯隊の各大隊から抽出された3個中隊が、臨時編成を組んでいた。

双子だけあって、流石に顔立ちはそっくりだ。 が、性格は違うようだな。 93年9月の南満州。 国連軍への出向直後に、ひょんな事で共に戦った事が有った。
あの時にも思ったが、妹の緋色より何と言うか、思慮深い性格と言うか・・・ 緋色が聞いたら、また怒るな。
この演習場でさえ、山吹色の斯衛軍の軍服を着用している。 俺達陸軍の様に、野戦服着用で無い所が、斯衛らしいと言えばらしいか。

「伊達大尉、本日の演習での連携の齟齬、当方に非が。 謝罪します、それをお伝えしたくて・・・」

「神楽大尉、戦場に齟齬はつきものです。 あの状況下での対応をし切れなかった事は、私のミス。 謝られても困ります」

「しかし・・・」

「実戦でのミスは、死に直結する。 十分判っている筈なのに、私は今回ミスを犯しました。
その結果は私の中隊戦力半減と、斯衛の中隊で2個小隊が全滅。 自分の情けなさが腹だたしい限りです」

それだけ勢い良く言い放って、『それでは』と、話を打ち切って愛姫は歩き去って行った。
残された神楽斯衛大尉は、全くバツが悪そうだ。 そりゃそうだろう、謝罪に来て見れば、相手に全くされずに去られたのだから。

そして、そんな中に話の流れ上、取り残された俺の身にもなれって・・・

「あ~・・・ 神楽大尉、お気になさらず。 伊達大尉も自分の判断ミスだと言っておるのですし・・・」

「いいえ、私のミスです。 後任の、同僚の突出を抑えきれませんでした。 その結果、空いた隙間に突撃級に入りこまれ・・・
伊達大尉は無理をして、その間隙を塞ごうと。 その結果、彼女の中隊は戦力の半数を失う結果になりました」

―――演習後の講評では、愛姫の奴、連隊長から叱責されていたモノな・・・

離れていたから直接目撃した訳じゃないが、記録を見る限りでは神楽大尉の指揮する3個中隊のうち、左翼の迎撃任務中隊が何故か突出してしまった。
そのあおりを受け、隣接部隊である愛姫の中隊との間に突撃級の群れが殺到してしまったのだ。
戦術的に見れば、突出した中隊はそのままに、戦線をやや下げてでも、途切れた線を繋ぎとめるのが上策だった。
その場合、下がった底の阻止部隊を愛姫の中隊が務め、隣接部隊が各々間隙を詰める。 縦深陣形を形成すれば、前後左右から殲滅も可能だ。
突出した中隊?―――BETA群の中で生き残れば良し。 駄目なら囮役兼、縦深の蓋として消耗させる。 全滅は計算上許容できる。


「神楽大尉、記録を見る限りでは、それまでは実に良く左翼からの支援を、的確に行っていたと見ましたが。
失礼ながら、実戦経験のない指揮官としては、いかにJIVESとは言え、BETAの姿を目の当たりにして、あの指揮は上等かと。
なので余計に解せない。 どうしてあの局面で、左翼の迎撃中隊が前面に突出してしまったのかが」

お陰で、本来は突撃前衛役の中隊が、慌ててそのフォローに回る始末。 右翼で迎撃任務に当っていた神楽大尉の中隊も、急遽転進せねばならなかった。
確か左翼迎撃中隊の指揮官、あの女性斯衛中尉は、斯衛の赤ではなかったか?―――斯衛の赤か。 正直、別世界の存在だな。

「・・・焦っているのでしょう」

「焦っている?」

自嘲気味に話す神楽大尉の横顔に、微妙な色が加わったように思えた。

「斯衛とは、実に面妖な組織なのですよ、周防大尉。 階級とは別に、家柄、家格、一族の伝統・・・ そして面子。
様々なしがらみに縛られているのです、我々は。 黒の者達は違います、彼等はただ一身をもって忠誠を尽くすのみ。
ですが、我々は・・・」

―――『我々』と言うのは、家格の認められた白以上の武家の事だろう。
そう言えば国連軍時代に、英国出身のロバート・ウェスター少佐―――当時は大尉―――から聞いた話を思い出した。 第1次世界大戦での事だ。
あの戦争で英国は(他の国もだが)尋常ならざる戦死者を出した。 そしてその傾向は、下級指揮官―――小隊長や中隊長に顕著だったと言う。
当時の英国軍の下級指揮官は、貴族やジェントリーの階層が占めていた。 『将校たる者、戦場で身を伏せるべきではない』
砲弾が炸裂し銃弾が雨あられと飛び交う中、身を晒したままでは、ただの標的に過ぎなかっただろう。

ウェスター大尉は、このBETA大戦でも欧州各国にはその残滓が色濃いと自嘲していたが、それは我が帝国も似たようなものか。

「焦っているのです。 彼女は普段では、斯衛でも恐らく3指に入る程に協調性の有る人物です。
およそ、人と争ってまで何かを為そうとはしない。 常に和を心がける人柄です」

―――なかなか、息苦しい生き方をしているのだな・・・

「ですが、彼女の家は、赤を纏うを許された家格の武家。 そして同じく赤の家格の武家には、代々高名な武門の一族が有ります」

「・・・正直、武家の世界に関心は無いのですが。 そんな自分でも知っている赤の武家と言えば、真っ先に出て来るのは月詠家ですね」

神楽大尉はこくり、と叩頭する。

「その月詠家の惣領の姫、その姫と彼女は同年代なのです。 常々、周りから比較されてきました」

―――向うは、何処の部隊だったか? それ程高名な家の出身なら、多分斯衛第1聯隊当りなのか?
ふぅん、比較されてきた相手が、斯衛の花形である第1聯隊だとしてだ。 で、自分はどちらかと言うと、斯衛の中では傍流の第5聯隊。
それも、本来の斯衛の任務ではなく、陸軍との協同部隊に抽出された臨編大隊。 例え演習でも、功を焦って先走ったか? 恐らくは無意識に。


「・・・ひとつ、話をしましょう。 私の知人である、あるドイツ貴族出身将校の話です。 少々長くなるかもしれないが、宜しいか?」

家柄、家格、伝統。 それはそれで尊重すべき事かも知れない。
先祖代々、その一族が守り伝えてきた証。 それを伝えていく事に非を唱える気は無い。
だが、人の生き方はそれだけでは無かろう。 それだけに縛られる事が、生き方の全てなのだろうか?
その葛藤に苦しみ、その中で答えを出し、その答えを失っても尚、前を向いて生きて行こうとしている一人の男を、俺は知っている。

もし、この話を伝え聞いたとしても、自分自身の答えを直ぐに出せるものでもないだろう。
しかし、今までの自分の世界以外にも、この世には他の世界が有る事だけは、知っておいても無駄ではないだろう。

本当は、愛姫を捕まえに来た筈なんだけどな? 
どうして俺は、今こうして斯衛のお節介を焼いているんだろうな?


「・・・彼は、欧州総撤退の中で、一度全てを失いました・・・」


―――ちょっと、話が長くなりそうだ。










1998年5月20日 2310 石川県輪島市 帝国国家偵察局 衛星情報センター 中部受信管制局


『重慶ハイヴ周辺の飽和個体群、約8万2000を計測。 旧上海から以北の旧江蘇省沿岸部に、個体群約2万4000』













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grenadier様 『等身大の戦場』



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