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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/06 15:37
1998年8月14日 0710 大阪府大阪市 淀川防衛線南岸


「・・・動き出した、北西方向、河沿いに京都方向に向かい始めました!」

対岸の僅かに残された建物の残骸―――廃墟の中に陣取っていた観測班が、その動きを確認した。
密集して動いていないかのように見えたBETA群、その中の一部がゆっくりと、しかし確実に動き始めていた。

「・・・中隊本管に連絡。 『山動く、都、0710』、急げ」

―――0710時、BETA群、京都方面に移動開始。

明け方前から小規模な動きを見せていたBETA群だが、ここにきて一気にその動きを加速するかもしれない。
そう判断した第2軍司令部は、対岸の数か所に設置した観測点をさらに増強して、BETA群の動きを注視していた。
一見、迂遠に思えるかもしれないが、衛星情報は前線部隊に辿り着くまで、そのシステム運用上時間がかかり過ぎる。 無人偵察機はこの戦場では、光線属種の単なる的だ。
従って、ある程度の隠密性を確保出来るのであれば、人海戦術的な偵察・索敵部隊による監視手段が有効とされる。 それが当ったようだ。

この移動でどれ程の数が減るかは、未だ不明だ。 だが南部防衛線から見れば、目前の圧力が減じる事は有り難い。
大阪湾中南部の工業地帯も、守りきれる可能性が飛躍的に高まる。 それに背後にはまだ1000万を越す民間人が残っている。
しかしそれは反対に、京都方面の南の入口を守る中部防衛線―――第7軍団にとっての悪夢となる。 京都を守る第1軍にとっても同様だろう。

(・・・それはお偉方の考える事だ、俺達の考える事じゃない)

観測班の指揮官―――歩兵小隊の指揮官である少尉は、自分ではどうしようもない『戦略状況』を、軽く頭を振って振り落そうとした。
今は自身に課せられた任務に集中すべきだ、それが自分に求められた責務であり、部下に対する責任なのだから。

双眼鏡の倍率を上げて、対岸をもう一度見た。 外宇宙から来た異形の侵略者の群れが醜悪な、おぞましい姿で地響きをたてて動いてゆく。
それは古今東西どの宗教の宗教画でも描き切れなかった、生々しい『地獄絵』そのものである様に思えた。










1045 奈良県奈良市 上空200m


『ドライドン・リーダーより全機! 突入経路は毎度同じの、奈良上空経由! 随分な数のBETA共が、既に大阪と京都の境に達している! 壁になる生駒山系を抜けて直ぐ攻撃態勢に入るから、気を抜くな!』

―――『了解!』

攻撃隊第13派を指揮する鈴木裕三郎大尉は、8機に減った戦術戦闘隊全機から応答が有るのを確かめ、操縦スティックを握り直した。
ややもすれば、集中力が散漫になりがちになりそうだった。 洋上支援を開始してから丸2日、ほとんど休みなく出撃・帰還、少しの休息の後、再度の出撃、この繰り返しだった。
常にBETAと戦場で向き合う陸軍とは違い、こちらは一撃離脱が主な戦い方とは言え、光線属種を避けての地形追従低空飛行と低空突撃。
地に足を付けての戦い方とどちらが神経を使うか、戦術機乗りなら自ずと判る。 低空突撃時は、下手をすれば光線級の格好の的になる。 それを2昼夜。
墜された3機の部下達にせよ、集中力が切れた時につい高度を上げ過ぎて、レーザーに絡め取られてしまったのだ。

―――今まで以上に、集中しなければ。

損害がより酷くなってしまうだろう。
もう、最初の頃の様にまとまった機数での力押し、と言う訳にもいかなくなってきた。 前線からの支援要請は、ひっきりなしに入って来る。
最早、戦隊単位での出撃は不可能。 艦単位での出撃も昨夜辺りから無理な話になった。  今は戦術機甲戦闘隊(陸軍の戦術機中隊に相当)単位での出撃だ。
それだけ、支援要請を送ってくる場所が多く、間隔が短くなってきたのだ。 そして比例する様に、損害も増えてきた。
今も同じ艦から、長嶺少佐の≪セイレーン≫が大阪湾沿岸部への支援攻撃に飛んでいる。 僚友の加藤大尉の≪ネプチューン≫は、30分前に京都方面の支援に飛び立って行った。

(・・・正直、そろそろどうにかしてくれないとな、こっちも弾切れ寸前だ)

海軍母艦戦術機部隊の主任務である面制圧、その手段としての95式誘導弾が残り僅かとなってきたのだ。
後方に控える補給船団から何度か補充を受けたが、それさえも使い果たしそうな状況だった。 作戦開始前の予想を大幅に上回る、弾薬消費増加率だった。
米第7艦隊は、フェニックスの使用制限さえ開始し始めている。 当然、F-14Dの出撃回数は減少し、その分『流星』、『翔鶴』の負担が増大し始めた。

やがて前方に戦場が見えた、野砲が砲火を吐き出し、MLRSが白煙を噴きながら誘導弾を射出している。 野戦重砲部隊の射線上を避け、突入経路をやや北寄りに変える。 
奈良盆地上空を突破し、そのまま京田辺から木津川沿いに巨椋池上空で急速左旋回。 目前には今まさにBETAを迎え撃っている最中の友軍部隊が見えた。
眼下遥か前方には、地形を巧みに利用し、光線級のレーザーを避ける様にダックインした戦車部隊が、大型種に向け戦車砲を放っていた。 
重金属雲高度、約500m その上に『乗りながら』、毎度の心臓が鷲掴みになる気分の突撃準備に入った。

『リーダーより全機! 重金属雲は、BETA群主力上空まで形成されている! このまま突っ込む、距離ゴーマル(500m)で全弾一斉発射、即時反転! いいか!?』

―――『了解!』

『よぉし―――突撃!』





後方警戒レーダーが、迫りくる多数のミサイルを捉えた。 同時に回避勧告警報がけたたましく鳴り響く。

「中隊、300後退!」

指揮官の咄嗟の命令に関わらず、全機が統制のとれた即時後退で誘導弾の危害範囲から離脱する。
次の瞬間、100発近い誘導弾がBETA群の中ほどで一斉に着弾した。 弾け、吹き飛び、切り刻まれ停止する個体が続出する。
その上空、地表スレスレにも思える高度を、海軍の戦術機部隊がM-88支援速射砲を滅茶苦茶に撒き散らしながら、全速でフライパスして行く。

≪VFA-207だ、陸軍、この後は少し支援攻撃が途絶える。 再開は1時間後だ、洋上補給にいったん下がる!≫

「了解した、さっさと済ませて、パーティーに参加してくれ」

≪固い甲羅や、蟹バサミを喰うのは好きだけどな! 目玉焼きは苦手だ、始末しておいてくれ!≫

飛び去る海軍機の後には、多数のBETAの残骸が散らばった。 節足部を吹き飛ばされ、動けなくなった突撃級、内臓物を吐き出して停止している要撃級。
前衛集団と中衛集団の間に空白が生じた、その間隙に向かって両翼から戦車砲が一斉に放たれる。 120mm砲弾と105mm砲弾が飛翔し、大型種BETAの横腹に大孔を空けた。

『よし、今だ! ≪イシュタル≫、≪チンロン≫、≪チルソン≫、各中隊は間隙に突っ込め! 拡張戦闘だ! ≪ファラン≫、≪フラガラッハ≫は201大隊(第20師団戦術機甲大隊)の支援だ、穴を塞げ!』

指揮車両から戦闘の指揮管制を行っている指揮官の指示に即応する様に、3個中隊の戦術機甲部隊が大きく開いたBETA群の間隙に向かって突っ込んで行く。
同時に2個中隊の戦術機部隊が左右に分かれ、それぞれ斜め前方からBETA群の前衛集団に向かって、攻撃を再開した。

「201! こちら≪フラガラッハ≫、左側面支援に入ります。 右翼に≪ファラン≫!」

『頼む! 201、≪バトルアクス≫、近藤少佐だ。 ≪フラガラッハ≫―――181の22中隊だったな? 周防大尉? 宜しく頼む、この数を1個大隊では面倒見切れん! 
それに≪ファラン≫・・・ 韓国軍か!? 助かる、友軍! 右を抜かれると山間部に入りこまれる所だった、感謝する!』

『・・・아니예요(アニエヨ:いえいえ)』

既に30機を割るまでに激減した『撃震』で構成される戦術機甲大隊の両翼を、それぞれ12機の『疾風弐型』と、F/A-92Ⅱ-Kの2個中隊が側面支援に入った。
これで正面戦力は50機以上、BETA群内部を引っ掻き廻し始めた別動隊が36機。 その直後に、後ろに展開していた27師団の戦術機甲連隊の内、『撃震』の1個大隊32機(8機減)が増援に駆けつけ、正面戦力に更に厚みを加える。
淀川と北側の山間部に挟まれた狭い地形の南北両側では、20師団、27師団の機甲連隊の全稼働戦車が、山間の傾斜面や運河南岸の堤防斜面にダックインしつつ、砲門をズラリと並べて一斉に発砲を開始した。

反転して来た海軍戦術機部隊が9機、上空から重金属雲を突っ切ってM-88支援砲を連射し57mm砲弾を叩き込みつつ、轟音を残して高速で北東へフライパスして行く。
その直後に甲高い飛翔音。 後方の師団砲兵連隊、軍団砲兵群から重砲とMLRSによる誘導弾が殺到する。 たちまち立ち上るレーザー照射。
その照射のタイミングを見計らうように、楔としてBETA群の前衛と中衛の間に割って入った3個戦術機甲中隊が更に中衛集団を内から撃ち倒し、斬り刻んで行く。

『バトルアクス・リーダーより≪フラガラッハ≫、≪ファラン≫、陣形・ウィング・ダブル・ファイヴ。 中央をバトルアクス、左翼はフラガ、右翼をファラン』

「フラガラッハ、了解。 突撃級を側面から崩すぞ、中隊陣形・ウィング・スリー」

『・・・ファラン、ラジャー。 ウィング・スリー』

山間部と河川に挟まれた狭隘な地形では、BETA群もその突進力を先端化せざるを得ない。  厚みを持たせた中央部で受け止め、同時に両翼から包み込む陣形は有効だった。
大きな鶴翼が3個集団、瞬く間に出来上がった。 そこに向けて直接砲撃で数を減じながらも、前衛集団の突撃級BETAが突っ込んで来る。
それを正面から迎え撃つ形で、201大隊の『撃震』が120mm砲弾を連射で浴びせかける。 更には制圧支援機から誘導弾が一斉に発射される。
同時に両側面の鶴翼を構成する2個中隊も、側面を急速移動しBETA群を包み込むように陣形を変えつつ、柔らかい横腹や節足部を狙って120mm、36mm砲弾を叩き込んで行く。
その横を27師団の『撃震』で構成される戦術機甲部隊が通り過ぎてゆく。 先程突入した3個中隊の後を追って中衛集団との間隙に突っ込んだ。 戦果をより拡張する為に。

「・・・くそ、数が多い。 フラガラッハ・リーダーより≪バトルアクス≫、左翼南岸には国連軍が布陣しています、陣形を変形させて後背を突くべきです。 左翼の安全は確保出来ます」

『・・・右翼はそのままでもいい、ってか? イルボン(日本人)?』

「そうは言っていない、郭大尉。 寧ろ右翼は少し後退して中央と合流すべきだ。 突撃級は『山登り』は全く不得手だ、この際は地形を包囲網に利用するべきだ」

『・・・よし、左翼はそのまま迂回前進し、BETA前衛集団の後背を取れ。 中衛から抜け出してきた要撃級と戦車級には、十分気を付けろ。
郭大尉、韓国軍はそのまま後退。 我々と合流してくれ。 27師団から更に1個大隊を送ってくれる段取りだ、十分保たせる事は出来る』

『了解・・・ 中隊、陣形そのまま、300後退する!』

3個の鶴翼の内、左翼の1個が時計回りに急速機動でBETA群の左側面を迂回し、その後背に出る。 同時に右翼の1個が後退して中央に合流した。
陣形はBETA群の突撃方向に大きな鶴翼が1個と、その後背に小さな鶴翼が1個の形となった。 北は山間部の斜面、南は河川、事前の地形を利用した包囲陣形が完成した。

「よし、裏を取った・・・ 中隊、全力射撃! たっぷり喰らわしてやれ!」

突撃級BETA最大の弱点―――固い装甲殻に覆われていない、柔らかい胴部がむき出しの後背部分に次々と120mm、36mm砲弾が叩き込まれる。
射貫孔から体液を噴出し、内臓物を吐き出しながらもなお、数10mを慣性で突き進みながら、次々に突撃級がその突進を止めてゆく。
正面の鶴翼を形成する友軍部隊からも、連続射撃で装甲殻を撃ち抜き、節足部を吹き飛ばして更にその数を減じて行っている。

「・・・ッ 放っておくのは、流石に拙いか」

不意に『フラガラッハ』中隊指揮官―――周防直衛大尉が戦術レーダーに視界をやって、呟いた。 
後方から10数体の要撃級が接近している、中衛をかき回していた連中が取りこぼした個体群か、流石に全滅さすのは不可能だ。

「摂津、四宮、ここを平らげろ。 淀川方向に行こうとする個体は、特に念入りに始末しておけ。 A小隊、俺に続け、要撃級を殺る」

『B小隊、了解』

『C小隊、了解です。 お気をつけて』

―――貴様等もな、ここで死ぬのは任務に入れてないからな。

そう言って周防大尉が直率小隊を引き連れ、迫る10数体の要撃級と、数10体の戦車級の群れに突入して行った。










1345 大阪府島本町 中部防衛線


『―――独立機甲戦闘団より日本軍20師団、27師団へ。 このまま、まずは推す事を進言します』

『―――20師団より独機団、所定の行動通り、繰り返す、所定の行動通り。 7軍団単独で、3万からのBETAを押す事は適わない』

『―――軍団司令部より27師団、20師団、独機団へ通達。 南岸の国連軍が南西に移動中、 枚方の北部地点で側面攻撃開始。 それまでは所定の作戦行動と為せ』

『―――20師団より軍団司令部! 前面のBETA群、尚も増加中、約3万5000! 堪え切れない!』

『―――第2軍司令部より第7軍団! 南部防衛線前面のBETA群が、ほぼ総出で北上を開始! 30分後の推定個体数、約4万以上!』

『―――第7軍団司令部より緊急信入電! 第9軍団主力を北上させて欲しいとの事です! 現有戦力での維持は不可能だと!』










1425 大阪市内 中部軍集団司令部


「無理だ! 1個軍団だぞ!? それをそんな短時間になどと! 戦闘部隊だけじゃ無い、支援部隊に大量の各種物資、移動にどれだけの時間と労力が必要だ!?」

司令部内で、一人の兵站参謀が悲鳴を上げた。 彼の職掌から見れば、前線から届いた要請はまさに悪夢以外の何物でも無かった。

「せめてまだ戦力が十分残っている31師団と38師団! この2個師団だけでも分派すべきだ!  元々第7軍団は九州から引っ張ってきた予備部隊だ、こんな正面きっての戦線を任す事は、想定していなかった!」

そんな様子を尻目に、作戦参謀が卓上を激しく叩きながら、即時移動を力説する。
叩いた拍子に巨大な作戦地図上の駒が散らばる。 それを見た参謀部付きの若手大尉参謀が、そっと眉を顰めた。

「駄目だ、駄目だ! ここで徒に戦力を潰してどうする!? この南部防衛戦力が半減するのだぞ!?」

「盲しいたか!? 目前を見ろ! どこにBETAが居る!? 連中、こぞって淀川沿いを北上中だ! 6個師団に4個旅団、これだけの大兵力が、ここで案山子にでもなっておれと言うのかっ、貴官は!」

情報主任参謀と、作戦主任参謀が激しくやり合う。 お互いの言葉にそれぞれの理が有り、故に互いに一歩も引く気配がない。
そんな上官たちの様子を、遠巻きに眺めていた若手の参謀が、ややおずおずとした調子で『意見を具申』した。

「せめて、戦術機甲部隊だけでも急派しては・・・?」

「馬鹿か!? 貴様は! 戦術機だけ突出させて見ろ! ものの数時間で戦力が無くなる!」

「整備! 補給! 支援部隊が間に合わん! 第7軍団支援部隊は飽和状態だ! 居眠りでもしとったのか、貴様は!」

途端に、双方から罵声を浴びせ掛けられる。 
首を引っ込めるような無意識の仕草で黙りこくった若手参謀を無視して、作戦主任参謀が周囲を見渡して言う。

「ここで長々議論している暇は無いぞ。 既に4万以上のBETA群の猛攻に晒されて、20師団は壊滅寸前だ、27師団も満身創痍。 戦略予備だった後詰の40師団さえ、最前線に詰めねばならない状況だ」

「・・・第7軍団だけでは、あと2時間も保つまい」

「国連軍はどうした? 南岸に居る国連軍は?」

作戦主任参謀の怒気を含んだ声に、兵站主任参謀と人事主任参謀が中部防衛線を構成する『友軍』の所在を確認する。
しかし、帰ってきたのは情報主任参謀の、疲れた様な、困り果てた様な、そして苦り切った様な声だった。

「駄目だ、そっちも渡河しようとしてくるBETA群の対応に手が一杯だ。 第1軍から罵声と慇懃無礼が並んだ要請が来ておる。 
本来第1軍支援に回る筈の琵琶湖の戦艦群、その支援砲撃の半数が八幡(国連軍陣地)の支援に回った。 お陰で亀岡方面のBETA群の阻止が難しくなったと!」

琵琶湖の戦艦群―――第1艦隊の2戦艦『信濃』、『美濃』と共に、第1軍への制圧砲撃支援を続けていた米第3艦隊の2戦艦『ミズーリ』、『ウィスコンシン』
この2隻が国連軍―――端的に言えば、自国軍の米第25師団の支援に回ったと言うのだ。  そして米25師団は暫定的に第7軍団指揮下で戦っている。
第1軍からは『勝手に支援砲戦力を奪うな! 返せ!』と。 米第3艦隊からは『自国軍の窮地を助けて、何が悪いのだ!』と。

「とにかく半数、増援に出せ! このままじゃ、京都放棄作戦が崩れる!」

「馬鹿野郎! こっちはさっきから、その『京都放棄後』の淀川南岸地域の防衛戦力、それが不足すると言っているだろうが! 何の為に九州にあれだけの戦力を残していると思っているのだ!」

「馬鹿はそっちだ、この大馬鹿野郎! このままじゃ、『京都放棄後』もクソも無いんだ!  本土防衛戦略構想の根幹が崩れるんだよ!」

再び騒然となった作戦会議室。 皆が皆、今の危機的な状況を理解している。 しているのだが、一点においてその見解の違いが、意見の相違が生じていた。

つまり、『京都放棄』をどのように考えるか、だった。

他地域へ十分な戦力を残したまま、おびき寄せる『餌』として京都をBETAに与え、準備中の『工作』で3方向から一気に爆発力を盆地に叩きつけ、殲滅する。
戦術の根幹は、これに決まっている。 問題はその時期だ。 今京都方面に兵力を移動させれば、あと数時間は時間の余裕を加えられるだろう。
しかしそれでは、『京都放棄後』の南部地域防衛戦力が払底する。 出せるのは第9軍団の第31、第39、第49師団。
しかしこの3個師団を出せば、第9軍団に残るのは戦力半減か、半減以下の第14、第18、第29師団のみ。 
海軍陸戦隊の2個師団は、この後別方面に引き抜かれる。 米海兵師団は言うまでもない、中韓の部隊も同様だ。
つまり、ここで増援3個師団を抽出すれば、淀川以南の大阪地区は今後、丸裸となる。 九州にあれ程の戦力を未だ張り付けている理由―――半島の鉄原ハイヴからの備え。
その備えが、大阪地区では今後無くなってしまうのだ。 少なからぬ重工業地帯を何とか無傷で防衛できそうな現在、何としても戦力は張り付けておきたい。

しかし、今この時点で京都にBETAの大群に突入される事は、北部防衛を担う第1軍の損害を極大化してしまう事となる。
亀岡盆地からの突破を、あの手この手で防いでいるのは、最後の工作までの時間を稼ぐ事と、中部軍集団全体のバランスを考えての事だ。
ここで一気に京都盆地にBETAが流れ込めば、まず第1軍は孤立する。 そして京都から大津、そして東海道、乃至、琵琶湖運河伊勢水道が丸裸となる。
BETAにとっては、琵琶湖湖畔から北陸街道沿いに一気に北陸方面へ(1個師団半の戦力しか無い)、或いは伊勢湾に抜け、名古屋の横腹へ。
そうなっては、帝国本土防衛戦構想は根底から崩れてしまう。 何としてもまだ京都南部の入口は死守せねばならなかった。


それまで部下の参謀達の罵声と言うか、議論を黙って聞いていた中部軍集団参謀長・田村守義中将が、手元の予備戦力リストを見つつ、司令官に具申する。

「閣下、やはり大阪前面から3個師団を引き抜く事は無理でしょう。 しかし山崎方面への増援は、焦眉の急です。 そこで・・・」

田村参謀長は一旦視線を司令官から外し、戦況地図の上の駒を幾つか動かした。

「本来、第7軍団の所属である第5師団。 この部隊は守口辺りに張り付いております、これをこのまま北上させ、第7軍団の側面援護に回します」

駒を移動させる。 大阪府三島郡水無瀬付近で、BETA群前面に張り付いている3個師団(今や2個師団半)、そしてその対岸の樟葉付近で、渡河BETA群を防いでいる国連軍2個師団。
国連軍部隊の後ろを回して、双方の支援が可能な八幡市駅近辺に布陣させる。 そうすれば樟葉方面へ押し出すにも、水無瀬方面への側面援護にも、急展開に対応可能だ。
今居る森口付近からの距離は約20km、部隊移動は大よそで3時間も有れば済むだろう。 無論、支援部隊も込みで。

「・・・しかしながら、その時間を稼ぐ必要がある事も確かであります。 そこで・・・」

比較的小さな駒を数個、図上で移動させる。 大隊規模、連隊規模の部隊を複数、集めては移動させた。

「現在、国連軍の機動防御支援に海軍第5艦隊から第13戦隊の一部・・・ 第215戦術機甲戦闘団(VFA-215)が回っております。
そこでこの南部からも、戦略予備として取っておいた2個戦術機甲戦闘団、第204と第217の2個戦術機甲戦闘団を急派します。
更には比良山系に張り付きの第323戦術機甲戦闘団も、第7軍団指揮下とします。 支援部隊は、軍集団総予備の中から機甲大隊、機械化歩兵連隊、自走砲大隊を幾つか。
それぞれ組ませて、独立機動旅団戦闘団を3つ、4つ作れば、火急の火消しに役立ちましょう。 大阪湾の海軍部隊へは、今後は中部戦線への支援に重点を移すよう、要請します」

湾に展開する戦艦群から、今の主戦場までは大体35~40km。 戦艦主砲の通常最大射程に近いが、面制圧支援できない距離では無い。
ロケット砲弾を使用すれば、京都方面まで届かせる事は可能だ。 艦載の大型誘導弾は射程距離にまだ余裕が有る、艦載戦術機部隊の戦闘行動半径も、まだ何とか圏内だ。

「・・・良いじゃろ、それでやって呉れたまえ」






「急げ、急げ!」

「自走車両はそのままついて来い! おい、弾薬車輌は優先順位第一だぞ!」

「戦車トランスポーター? あとでついて来い、戦車は自走しろ、20kmかそこいらだ、それに舗装道路だぞ」

「おい、交通整理は誰がしてくれるんだ!?」

≪ザッ・・・ 増援を早く! 喰い込まれている・・・ ザッ・・・ 保たん、早く・・・!≫

「1号線は第5師団でごった返している、門真まで南下して第二京阪に乗れ! 京田辺松井で降りて、そのまま251号線を北上、旧京阪国道から迂回して八幡だ!」

「兵站部隊は、独立戦闘団の後に続け。 1号線は使うな、渋滞するし、BETA群の脅威に近過ぎる!」

≪撃て、撃て! 連中の脚を狙え、装甲はここからじゃ、撃ち抜けん!≫

≪本部、本部! こちら1中! 中隊長車が殺られました!≫

「戦術機甲部隊! 海軍! 一足先に行ってくれ、支援部隊の到着は1時間30分後!」

『了解―――なるべく早くしてくれ、こっちも支援も補給も無しでは、幾らも保たない』

「判っている、何とか1時間少々で到着して見せる、それまで粘ってくれ!」










1515 大阪府島本町 水無瀬付近


「防げッ! ここを抜かれたら、京都の下腹をまともに突かれる!」

あらん限り声を振り絞って、周防直衛大尉は中隊の部下を叱咤する。
ひと山越した山麓に布陣した軍団砲兵旅団から、155mm 自走榴弾砲とMLRSが猛砲撃を加えていた。
彼方から鳴り響く重低音は、大阪湾に遊弋する戦艦部隊の艦砲射撃―――大口径主砲の発射だろう。 甲高い飛翔音はVLSから発射された誘導弾か。
第7軍団の総力を挙げた防衛戦闘が展開中だった。 既に北の京都西部では、一部の防衛線が破られて市内にBETAが浸透し始めている。
桂に展開していた斯衛第2聯隊がその掃討戦を行っており、花園の斯衛第1聯隊も急遽移動して掃討戦に先程加わった。

そかし、もうそろそろ限界だ。 

≪戦闘管制よりフラガラッハ! ゴルフ場跡から迂回して採石場に出ろ! 小型種が多数、79号線に侵入した!≫

「ッ! フラガラッハ、了解。 中隊全機、噴射跳躍をかけろ! 西北西からゴルフ場跡に入る、そこから逆落としだ!」

―――『了解!』

12機の戦術機が一斉に跳躍ユニットから噴射炎を吐き出し、左側面の斜面を一気に駆け上ってゆく。
なだらかな緑が場違いな程鮮やかな緩い地形を高速サーフェイシングで移動し、その縁で一旦停止する。
戦術レーダー、そして網膜スクリーンに投影された視覚情報でも確認出来た―――戦車級を含む、約300体程の小型種の群れ。

『・・・戦術機部隊にとっちゃ、大した相手じゃありませんが・・・』

『しかし、ここに自走高射部隊はいません、機械化歩兵部隊も下の戦場で手が一杯です。  残弾数が少し心もとないですが・・・』

摂津中尉と四宮中尉が、眼下を見下ろしながら忌々しげに呟く。 本来は自走高射砲か、自走機関砲部隊の仕事だ。 火力の大きい機械化歩兵でもこなせる。
しかしどちらも低地の『主攻正面』の対応で手が一杯だった。 こっそり脇道に入ってきたBETA群の対応まで手が回らない。
しかし、この道を抜かれたら最後、背後の長岡京市に入り込まれてしまう。 大型種が通れるような地形ではないが、対応する為に部隊を避けねばならなくなる。
その分、防衛線正面は確実に手薄となる。 背後の小型種を気にしつつ、その殲滅を行いながら正面の圧力に耐える―――悪夢だった。

「・・・蟻の一穴から、とも言うしな。 ここは確実に殲滅する、貴様たちも今まで嫌と言うほど味わっただろう?」

周防大尉の眼下に、狭い林間道路一杯に小型種BETAの群れが這い上がって来るのが見えた。 人工物と言わず、自然の木々と言わず、食い散らかしながら迫りくる醜悪な姿。
一瞬の、何分の一かのごく短い瞬間、嫌悪感を露にして、直ぐに表情を平静に戻す。 そして簡潔に命令を下した。

「殲滅しろ、一匹漏らさず」

その声と同時に制圧支援機から、誘導弾が一斉に発射される。 白煙を引きながら短い距離を飛翔し、BETA群の先頭から中ほどで炸裂した。
同時にB小隊が噴射降下をかけ、採石場からほど近い路上に着地する。 そのままトレイル陣形で狭い舗装道路上をサーフェイシング。 頭上からA小隊、C小隊が砲撃支援にあたった。

『馬鹿正直に近接格闘戦に入るなよ!? このまま一気に駆け抜けろ! 駆け抜けざまに撃ち倒せ!』

摂津中尉の機体が直線に近い、しかし細かな軌道修正を行いつつ、一気に採石場付近から79号線へと抜ける。 
エレメントを組む機体と、バックアップのBエレメントもそれに従う。 前面に兵士級の群れ―――脚で踏み潰した。
残りのBETA群が反転し、79号線に戻ろうとする。 その背後に残っていたA、C小隊が噴射降下をかけ、一気に着地し背後を取った。

「摂津、そのままそこを維持。 四宮、キャニスターで始末をつける」

『了解です。 C小隊、左側の集団を潰せ!』

「A小隊、右側だ。 79号線に出ようとする個体は集中的に潰せ―――撃て!」

背後からの集中砲撃に、それまで以上に数を減じていた小型種の群れが、吹き飛ぶように殲滅されてゆく。
36mm砲弾の直撃を喰らった小型種は、殆ど原形を止めない赤黒い霧状の何かと化して、霧散していった。
やがて全個体の掃討を完了する。 低い山間でも、砲声の轟音が殷々と木霊していた。

「・・・フラガラッハより戦闘管制、C9Dの掃討完了」

『戦闘管制、了解した。 周防、悪いが次だ、対岸に渡ってくれ。 米第25師団の一部がBETAに突破されそうだ、男山(鳩ケ峰:143m)を何としても死守』

「男山・・・ 確か、石清水八幡宮が有る場所ですか?」

『そんな事、中国人の私が知る筈ないだろう? とにかく、あそこを光線級に取られると京都市内は一望にされてしまう。 日本軍からのリクエストだ、頑張ってくれ?』

男山(鳩ケ峰)は決して標高の高い山では無い、むしろ丘に毛が生えた程度の低山である。  しかし問題は標高では無く、周囲の地形だった。
大阪方面から北上した場合、北摂や生駒の山々によって地形は淀川に沿って、大阪と京都の間で急激に狭くなる。
その中で京都の最南端にあるこの低山は、平坦な地形の中でポツンと標高を稼ぐ形に聳えていた。
そして南の底から、西は宇治から伏見、北は京都市内全域、東は長岡京市、向日市から京都市西京区まで。 『帝都』だった地域のほぼ全域を満遍なく、射程に収める事が出来る。

「・・・喰えない人だな。 中隊、ENE-45-18から東北東へEN-52-25に噴射跳躍で抜ける、そこからESE-60-12までサーフェイシング。
“トロピック・ライトニング(米第25師団)”が樟葉の河川敷付近を突破されそうだ、木津川合流点の少し前を渡る。 海軍部隊も支援に入る、交錯するなよ?」

―――『了解!』

「よぉし、中隊、続け!」










1550 『帝都』東京 市ヶ谷 国防省ビル


「京都を! 千年の都の帝都を! 貴公等は自らの手で、焼き払おうとてか!?」

1人の高級将校―――斯衛大佐が顔を紅潮させて、卓上を叩きつけた。 
帝国軍と斯衛の臨時合同会議の席上、遂に堪忍袋の緒が切れた、まさにその状態だった。

「このままでは、手をこまねいてBETAの腹の中に収まるのは必定! ならば予定通り京都を、あの醜悪な奴輩の墓場にしてやろうと言うものだ!」

「然り! それでこそ、我が日本民族、千年の都の矜持と言うもの!」

それに応じたのは、参謀本部所属の陸軍参謀大佐と、陸軍参謀中佐。 どちらも目が据わっている。
その強圧的な物言いにもめげず、先程の斯衛大佐が糾弾する様に断ずる。

「黙れ! 所詮、米国の核使用の代案に出したものであろうが! よりによって、千年の都を、我が日本の魂を、業火の元に売り渡すとは・・・!」

斯衛大佐の発言を受け、その言に同調する一部の陸軍高級将校達が、声を荒げて非難をし始めた。
その顔触れは、軍部内に於いて皇道派、乃至、勤将派と呼ばれる国粋派軍人が多かった。
但し、言っている内容は一理ある。 それにこの場に残った微かな理性は、彼等の方に有る様にも聞こえた。

「詭弁もたいがいにしろ! 米国の核使用の圧力を反らす為に、京都を生贄にしようと言うのであろうが! S-11は標準爆発威力では、戦術核に匹敵するのだぞ!?」

「それを纏めて6発もなどと・・・ 京都は盆地だ、相乗作用での破壊力は戦略核に匹敵すると言う想定も出ておる、そうなっては最早残骸も残らぬわ!」

「93年に中共が満洲でS-11の集中使用を行った時だ、相乗作用で通常の数倍の破壊半径となった事は忘れてはおるまい!?
京都盆地はあの当時の戦域より遥かに狭い、三方の山々に遮られたエネルギーが一体どう言う伝播変動を為すか、予想出来ないのだぞ!?」

「下手をすれば、友軍部隊を巻き込む! 93年当時も巻き込まれ壊滅した大隊や連隊は多かったのだ! あの愚挙を、今度は我々が本土でやらかそうと言うのか!?」

口々に非難する相手を、反対の立場に属する者達が冷ややかな視線で言い返す。 
その言葉は冷たさと、そして軍事が抱える救い様の無い『現実』が込められていた。

「可能な限りの想定は計算済みだ。 それに戦場に完璧な想定など、存在しない」

「許容範囲での損失ならば、それを許容する、それが軍であろう」

「このままでいけば、約6万から最大7万のBETAを京都に入れる事になる。 市街戦で一体どれだけ叩けると思っている?
2万も叩けんわ、精々が1万弱! 淀川=木津川防衛ラインを死守したとしても、北陸方面や伊吹山系にそれだけの数が流入してみろ、北陸や東海地方は全滅するぞ?」

ひとしきりの意見が出た所で、両者の睨み合いが再開される。 先程からこの繰り返しだった。
現地軍では、既に既定路線と認識されている京都放棄。 だが帝国上層部では実は、その手法の可否を巡り、未だ決着が付いていない。
詰る所、軍部の完全な暴走、政治上ではそう言っても過言ではない。 現実に照らし合わせれば妥当な方針であるが、ややこしい事に組織の数だけ、事なった面子が有るのは事実だ。
帝国内部での、静かな、しかし陰湿な内部工作合戦の結果、軍部主流派―――陸軍統制派と海軍艦隊派の連合―――が、主導権をほぼ握り始めていた。
当然、反対派はあの手、この手で反対する。 そこに城内省―――斯衛が割り込んできた(航空宇宙軍は、最初から我関せず、を貫いている)

主流派は、三方を山に囲まれた京都盆地にBETA群を引きずり込み、山間部に設置された指向性を持たせた複数のS-11を一斉起爆させ、一気に殲滅する腹案を出した。
これに対し反対派は、S-11の遠隔機爆は事態がどの様に流動的に動くか判らぬ状況では、信頼性に乏しい面を指摘。 そして有線での起爆は、不可能に近い事も併せ主張。
盆地の開けた出口である京都南部=巨椋池のラインを固守し、琵琶湖と大阪湾からの大口径艦砲の威力面制圧砲撃と野戦重砲の一斉砲撃案を出してきた。
(この案には、航空宇宙軍からも軌道爆撃を行う様、協力を取り付けても居る)
主流派はこの反対案の場合、それに伴い発生する友軍の損害を無視できないと主張。 確かにこれ以上の戦力消耗は、許容出来ないレベルにまでなっていた。

しかし、その両案共にクリアしなければならない懸案事項が有る―――『政威大将軍の京都脱出』であった。

主流派案も、反対派案も、京都を瓦礫の山と化すには違いは無い。 
しかしそれでも尚、その後の戦力投入での殲滅を図ろうとする反対派案の方が、まだ気分的に――日本人の心情的に、まだ傷は小さい。
主流派案では、根こそぎ『京都』と言う文明は、消滅するだろう(文化、では無い。 それは今後の日本人次第だ)
将軍も、その内心を大いに痛めつつも、何とか寛恕してくれるかもしれない。 してくれないかもしれないが、理解はしてくれるだろう。
しかし主流派案では完全に、感情が理性を押しつぶす可能性が高い、大いに高い。 聡いと言われる人物であっても、今だ10代半ばの女性だ、いや、多感な年代の少女だ。


「だからと言って、何時までもこう、押し問答している時間は無いのだがな!」

「現地軍からは、矢の催促だ。 もういくらも時間稼ぎは出来んとな。 それまでに何とか『やんごとなき』お方には退避して頂いて・・・ 
どちらの案にしても、工作状況を見られるのは拙い、またぞろ城内省が煩く言ってくる。 まったく、大人しく奥向きに専念すれば良いものを、政治や軍事にまで口を挟みおって」

「殿下は帝国の国事全権代理人者だ。 その輔弼機関とも有れば、ある程度は致し方なかろう?」

統制派高級将校の愚痴に、国粋派高級将校が些か怒気を含ませた声で返す。
その言葉への返答は、冷ややかさと侮蔑が入り混じったものだった。

「・・・ふん、貴様、取り込まれたか? 尻尾を振ったか? 見返りは『士族籍』か?」

「白の斯衛服でも、ぶら下げられたか? 山吹色ではあるまい。 ふん、今更そんな時代錯誤の名誉など・・・」

「貴様等ぁ! 愚弄する気か!?」






相変わらず、怒号と罵声の応酬と化した会議室を抜け、隣の控室に気付かれぬように2人の主流派将校が移動して来た。
普段は図上演習などの準備に使用する為の、割と小さな部屋だ。 今は小さめの机と椅子が数脚、その他には特に目ぼしい調度品は無い殺風景な部屋だった。
そして入室するなり開口一番、年かさの陸軍参謀大佐―――細面の、鋭い雰囲気を持った陸軍大佐が、隣の将校を向いて尋ねた。

「・・・見ていられんな、トサカを立てての喧嘩だ、まるで。 おい、海軍さん、誰か岡田閣下(岡田啓蔵、元帥海軍大将・元老)の所に、人を遣れないか?」

「一人、用意してある。 以前は周防(周防直邦海軍大佐・前国防省軍務局軍事部軍務課長)の下で、あれこれ動いていた奴だ」

軍令部から国防省に移動して来た、参謀飾緒を下げた海軍大佐が答える。 中背だが引き締まった体躯を持つ男だった。

「使える奴か?」

「使える奴だ。 そうでなくては、周防の下で動けんよ」

その言葉に陸軍参謀大佐が苦笑する。 周防海軍大佐―――思い出した、以前は同じく軍務局の同輩だった男の顔と名前を。 
剃刀の様な切れ味では無い。 鉈で叩き割る様な力感を持った、参謀にしては珍しいタイプの男だった。

「賢しらな奴ではない、どちらかと言うとズベって(「のっそりした」海軍隠語)いる奴だが。 それでも度胸と機転は保障する。 それにまあ、茶目な奴ではあるな」

最後の一言に、陸軍出身の大佐が苦笑する―――どうにも、海軍の判断基準は理解出来ない、と。

「どんな奴でも良い、こっちの言う通りにしてくれれば。 岡田閣下を動かして欲しい、参内して頂く」

「・・・玉を動かすのか?」

参内し、皇帝陛下に謁見を賜り、奏上申し上げ・・・

「言ってみれば、潔癖症で世間知らずの聡しい小娘の意地っ張りだ。 それでこの帝国がどうにかなっては、目も当てられん」

「玉声ならば、逆らえんか。 それでも留まれば、それこそ叛意有り、と言われても致し方ない。 うん、城内省も斯衛も、文句は言えんな」

一人納得する海軍将校を横目に見て、テーブルの上の水差しからグラスに冷水を注ぐ。 冷たい液体が喉を通り、火照った体と感情を冷ましてくれるようだった。
飲み干して空になったグラスを、タン! と音を立ててテーブルに置き、暫く何気なく突いた水滴を見つめていたが、数瞬後、顔を上げて言い切った。

「向うが将軍と五摂家を有するのならば、こっちは帝室を押さえるまでだ。 幸い、海軍さんは元老院や内府に近い」

「良いのか? この件じゃ、完全に陸軍は海軍の下風に立つぞ?」

「構わんよ。 陸軍は陸軍で、得意分野はちゃんと押さえてある」

「陸軍、と言うより、統制派だろう?」

「そちらこそ、海軍と言うより艦隊派が、だがな?」

最後に、陸軍も武藤閣下(武藤信好、元帥陸軍大将・元老)か、畑中閣下(畑中俊蔵、元帥陸軍大将・元老)を押さえておいてくれ、そう言って海軍大佐は小部屋を出て行った。
そうした方が良いな、そう思った。 元老たる元帥を押さえておけば、軍内部への睨みも利く。 只もう一手、欲しい。 他の元老・元帥で目ぼしい人は・・・
寺内閣下か? 駄目だな、あの人では政治家連中との折り合いをつける事は出来ない。 杉元閣下か? 駄目だ、あの人はどっしりしている様で、どちらからの風にも動く。
梨乃宮殿下? 在郷軍人会総裁で、日本武徳会総裁でもある。 伊勢の神宮祭祀も兼任している。 政治的には「殆ど忘れ去られた元帥殿下」だが・・・ 
しかし、何と言っても国民とは身近な帝族だ。 腐っても元老・元帥で帝族、よし、押さえるべきだ。

あとは海軍の河東閣下(河東友三郎、元帥海軍大将・元老)か、志摩邑閣下(志摩邑速夫、元帥海軍大将・元老)、この辺りを押さえれば何とかなるか・・・

最後にふと思う、果たして時間は間に合うのか?





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