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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/24 23:10
1998年8月14日 0435 大阪・京都中間点 中部防衛線 京都府大山崎町 山崎


「・・・何とか、ならないかな?」

「無理だ、直やん・・・ あいや、中隊長。 中隊は12日の夕方からずっと連続稼働ですよ?」

「・・・『直やん』でいいよ、『修さん』。 今更アンタに、畏まられてもな」

お互いに苦笑する。 知り合ったのは俺が新米少尉の頃。 向うは整備伍長だった。 今は中隊長の大尉に、中隊整備班長の整備少尉。 お互い長い付き合いだ。
2人の目前には、中隊の稼働戦術機が並んでいた。 どの機体も整備兵が取りかかり、付きっきりで整備をしている真っ最中だった。

「じゃあよ、直やん。 この前の出撃で、連続36時間稼働だ。 その前に簡易整備したのは何時だ? 10日だぞ、2日前だ。 更にその前は連続38時間稼働。
如何にお前さんが、機体の負荷をかけない乗り手だって言ってもな、本格的なオーバーホールも無しに、74時間も稼働させているんだ。 関節部分なんかは、悲鳴を通り越してるぜ?」

中隊整備主任―――児玉修平整備少尉の言葉に、ぐうの音も返せない。 確かに言う事は判る、実際搭乗していても機体ステータスは、かなりがイエローだ。 レッドも点灯している。
それでもだまし、だまし、使ってきたのだが、ここに来てとうとうガタが来た。 数時間前の小規模阻止戦闘の帰還途中、遂に機体の左脚部関節がロックした。
辛うじて逆噴射パドルを小刻みに微調整しながら、緩やかに着地したお陰で、機体の破損は免れたのだが・・・

「いいか? 直やん。 俺が見る限りお前さんは、機体に負担をかけずに乗り回す技術じゃ、大したものだ。 多分、陸軍の衛士の中でも有数だろうよ。
それでもな、そんな芸当を、それも戦場でやれる奴は一握りだ。 余程戦場慣れした、ベテランじゃなきゃ無理だ。
中隊を見てみろよ、アンタの次に経験のある摂津中尉の機体ですら、もうオーバーホール確実な状態だ。 他の若い連中の機体は、殆どスクラップヤード行き、5分手前だぞ?」

それは判る、判るんだが・・・

「・・・何とか、ならないかな?」

「あ~! も~! アンタはオウムか!? さっきから、そればっかじゃねぇか! 俺だってどうにかしたいよ! してやりたいよ!
でもなぁ、予備パーツが届かないんだよ! 『不知火』の! 向う(南部防衛線)でも不足気味なんだ、それに京都の第1軍も消耗は半端じゃ無い、余分が無い!
しかもよりによって、今ここに居る第7軍団は・・・ 『疾風弐型』と、『撃震』の運用部隊ばっかなんだよ、『不知火』の予備パーツが無いんだ!」

修さんが頭を掻き毟っている。 彼は彼なりに、整備の責任者として胃が痛くなる以上のプレッシャーと格闘しているのだ。 無理は言えない、言いたくない、だけど・・・

「・・・このままじゃな、中隊の稼働戦術機は、7機にまで落ち込む事になるんだ。 衛士は居る、居るんだが、機体が無い」

「・・・連隊本部には?」

「とうに言ってある、水嶋さんの中隊も同じ様な状況だしな。 でも良い返事は来なかった、連隊も人員・機体共に枯渇状態だと・・・」

「・・・広江中佐に、荒蒔少佐が負傷したんだってな。 連隊の戦術機も、とうとう半数を切ったと聞いたよ。 
それも予備機を総動員してだ。 くそう、打つ手は無いのかよ・・・」

美園の中隊を解体して定数割れ3個中隊を、完全充足2個中隊に再編成したまでは良かった。 だが機体に蓄積された疲労度は、こちらの予想を上回った。
水嶋さんの中隊は12機中、稼働6機。 俺の中隊が12機中、稼働7機。 11機が何らかの不具合を起こして、稼働できない状態だ。
それだけでは無い、稼働状態とされる13機にしても、機体ステータスの大部分がイエローだ。 正味の所、あと1回か2回の戦闘で故障する事、請け合いの状態だった。

本隊が死闘を展開している南部防衛線で、戦術機の消耗が恐ろしい程その比率をはね上げているのが原因だった。 完全破損には至らなくとも、出撃の度にどこかを損傷する。
その内、修理部品が底を尽きかけて来る。 師団や軍団、果ては軍の兵站・補給関係者の顔が渋くなってくる。 それでもBETAとの戦闘は続く、堂々巡りだ。
お陰で合同独立戦闘団に派遣された俺達、日本軍戦術機甲部隊の兵站物資―――主に戦術機の予備パーツが底をついた。 修理もままならない。

「―――どうするよ、直やん? 冗談じゃ無く、このままじゃ中隊壊滅だぞ?」

「・・・ちょっと時間をくれ、そう長くは待たせないから」





0445 独立戦闘団 日本軍戦術機甲部隊 野外戦術機ハンガー付近 


『おい、四宮。 連中は、休んでいるか?』

『ええ、とにかく横になる様に命令しておきました。 摂津さんと瀬間は、休まないのですか?』

『お前さんが休んだら、俺も横になるよ。 おい瀬間、お前さんはいいから、さっさと横になれ』

『・・・まだ、大丈夫です』

『あのな・・・ 『まだ』じゃ、ねぇんだよ。 『まだ』が来てからじゃお終いなんだよ、その前に回復させておけって』

『・・・』

『瀬間、言いたくないけれど・・・ 中隊長の事、恨んだりしちゃ駄目よ?』

『・・・四宮さん?』

『倉木の事は、仕方がなかったわ。 あの状況では、どうやっても助けだす事は不可能だったし、あの状況に陥ったのも仕方がなかった。
貴女の感情も、理解出来なくは無いわ。 エレメント・リーダーとして、倉木は瀬間の直接の部下だったのだしね。
でもね、考えてみなさい、私達の中隊が相手取っていたBETAの数を。 あの時の戦況を。 あれでよく、中隊が壊滅せずに生還できたと思うわ』

『・・・それは、そうです。 でも、あいつは最後まで助けを・・・』

『そして、最後は覚悟を決めやがったじゃねぇか。 自分を助けようとすると、小隊も中隊も道連れにしちまうって。 そう覚悟を決めやがったじゃねぇか。
俺はな、倉木に引導を渡した中隊長を、悪し様に思う事は出来ねぇ、逆に敬意を表すべきだと思っている―――誰だって、部下を死なせたくねぇよ、だからな・・・』

『中隊に対する責任、部下全員に対する責任、そして―――死に行く寸前の、部下が抱く恐怖。 全てを全う出来る指揮官など、いないわ。
だから、出来るどれかを選択して、確実に為さなくてはならない。 その為に中隊長は・・・ 判るでしょう、瀬間?』

『・・・』

『兎に角よ、不満が有るなら生き残ってから、後で言えよ。 今ここでは封印しておけ。  じゃねぇと・・・』

―――俺が、お前を排除する事になるぞ。

摂津の内心が聞こえたようだった。 目的地に向かう途中、中隊幹部には言っておこうと思い、衛士詰め所のテントの前まで来て、漏れ聞こえてきた会話。
ある程度の予想はしていたが、だからと言って俺が一から十まで、説明するでも無い事だ。  あいつは中尉―――指揮官の一人なのだから。
そう自分に言い聞かせて、言葉にして言いたい内心を押さえ込んだ。 瀬間にとっとも、そして自分にも、それは甘えになる。
少しの間をおいて、声をかける。 漏れ聞こえた話の中身は、当面は仕舞っておく事にした方が良いだろう。

「―――中隊長?」

摂津がテントから出てきた、後ろに四宮と瀬間が続く。 少しだけ意識して表情を隠し、事実だけを伝える。
流石に3人とも難しい顔になった、当然だ、生死に直結する問題だ。

「では、どうするのですか? 稼働機は大幅に定数割れ、残存機も急速に稼働停止状態になると予測されます」

四宮が細面の顔を少し傾げて、表情を曇らせながら聞いて来る。 肩口辺りで切り揃えた髪が、少し顔に張り付いている。 こいつもかなり、消耗しているな・・・
摂津と瀬間も、難しい表情で問いかけて来る。 恐らくBETAの再侵攻はもう余り時間が無いうちに始まる予想だ、そして中隊戦力は半数に近い。

「・・・この方面の戦闘が、あと1回、2回で終わる可能性は無い。 そうなれば我々は戦う術を失う」

一旦言葉を切る。 今更説明する事でも無い、しかし敢えて言う。

「連隊本隊もかなりの損害を被った、予備機も予備パーツも払底している、こちらに回す余裕は全くない、141も同様だ。 戦線維持の為には、軍団予備から回して貰う事も出来ない」

一旦ここで言葉を切る。 軍団予備レベルまで回して貰う事が不可―――この言葉には、流石に3人とも顔色を変えた。 最後の頼みの綱が、切れたのだから。
だとしたら、どこか余所から引っ張って来るしか無い。 こう言う時にモノを言うのは、階級は上でも経験の浅い若造・小娘ではなく、軍歴に苔の生えた古強者なのだが・・・
そちらは余り心配していない、了解さえ取れれば、古参の整備将校は何処からともなく必要な物資を集めて来るだろう。 それが出来なければ、軍で叩き上げの将校にはなれない。
問題は、どうやって了解を取るかだ。 今は20師団と協同しているが、あそこは丙師団だ、戦術機は定数で1個大隊。 予備機もそれに見合った数しか無い。

「・・・第7軍団兵站部に、直接掛け合う。 第5師団が第9軍団の支援に入っている関係で、向うで兵站支援を受ける立場になっている。
1個師団分の兵站負担が減っている、当然、戦術機の予備機も含めてだ。 その分の機体を回して貰えるよう、交渉しに行く」

「7軍団は、『不知火』を使っていませんぜ?」

「機種は問わない、戦えればそれで良い。 この際『撃震』でも構わない、『疾風弐型』ならオンの字だ」

スクラップ寸前の機体で戦うより、準第3世代機、準第2世代機とは言え、完調の機体の方が良いに決まっている。
それに『疾風』系列の機体なら、部下達も馴染みが有る。 大陸派遣軍時代の搭乗機だ。 それに『撃震』は訓練校で散々搭乗している筈だ。

「まあ、『疾風』系列でも『撃震』でも、整備された機体で有れば助かります・・・ が、『撃震』かぁ、操縦、覚えてっかな・・・?」

「・・・『撃震』は正直、訓練校以来ですが・・・」

「私もです・・・」

―――そうか、『撃震』で実戦を経験したのは、この中では俺だけか。 『疾風』系の機体はかなり早い時期から、大陸派遣軍の主力機として使われてきたからな。
ただ、それについては、実際は楽観している。 第7軍団では『疾風弐型』で、戦術機甲戦力を装備しているのは、第5師団のみ。
第20、第27師団は『撃震』装備の丙師団。 第40師団は『疾風弐型』1個大隊に、『撃震』2個大隊で編成された戦術機甲連隊を有する乙師団。

「さっきも言った通り、第5師団が今は第9軍団の指揮下で戦っている。 第7軍団には、その分の『疾風弐型』の予備に余剰が有る筈だ」

「その分、本来俺達が受け取る筈の『不知火』の予備機が第5師団に流れていると・・・ 
連中、大丈夫ですかね? 初めての機体だし、システムデータリンクも最初は戸惑いますぜ?」

「システムについては、それはこちらも同じだが・・・ 戦場でそんな贅沢は言えないな、死にたく無ければ、人間がシステムに合せなければな。
取りあえず俺と水嶋さんとで、話を付けに行く。 摂津、お前は美園と水嶋さんトコの・・・  前田中尉と3人で、整備主任と同行して機体管理部に先に行け。 後で連絡を入れる」

「了解。 うへぇ・・・ 美園大尉とかぁ・・・」

摂津が心底、苦手な表情を見せる。 もっとも否定的な言い方ではないのだが。 
その表情が少し可笑しくて、俺も四宮も、そしてずっと無言だった瀬間も笑いが漏れた。

「どうした? 仮にも以前の上官だろう?」

「・・・誰かさんの仕込みのお陰で、新任当時の俺が、どれ程苦労したと思っているんですか・・・」

美園は俺が2年目少尉の頃に、小隊の新任少尉として配属されてきた。 ああ、仁科も居たな、あの頃は。 小隊長が祥子で、先任少尉が俺で・・・
そこまで思い出して、頭を軽く振る。 意識して封じ込めていた想いが、溢れそうになったからだ。

「・・・俺が居なくなってからは、間宮が代わりに先任で。 その後か? お前が新任で入ってきたのは?」

「そうですよ。 小隊長が当時の綾森中尉、先任が間宮少尉で次席が美園さん、俺が下っ端・・・ どれだけ振り回された事か・・・」

確か、美園のエレメントをしていたと言っていたな。 美園は俺のエレメントをしていた、だとしたら・・・

「文句を言うな、この『孫弟子』」

「孫弟子!?」

今度こそ、心底嫌そうな顔をした摂津の顔を見つつ、笑いながらその場を立ち去った。
時間が無い、部下の様子も確認出来た、次の仕事に取り掛からなければな。


「・・・俺は、あんな『吶喊野郎』じゃねぇよ・・・」

「自覚ないのですか? 摂津さん?」

「誰しも、自分の事は見えなくなるモノですね」

「おい!? 四宮、瀬間!?」

背後に、部下の声を聞きながら。






0520 京都府長岡京市 国鉄長岡京駅付近 第7軍団司令部・兵站部


「・・・こっちもな、言う程余裕は無いのだ、大尉」

もう何度目になるか。 第7軍団G4(兵站参謀部)の参謀中佐が、苦り切った声で繰り返し言う。
だがこちらも死活問題だ、おいそれと引き下がる気は毛頭ない。 だから延々と押し問答が続いている。

「ですので、予備全機をとは申しておりません、中佐殿。 こちらの機数分、24機。 その予備パーツの補充。 2個中隊分です、何とかお願いします」

横で水嶋さんが喰い下がっている。 彼女の方が先任の為、主に交渉はさっきから彼女がやっていた。

「しかしだな、水嶋大尉。 正直言って、第5師団の支援を止める訳にはいかない。 先程も予備機を8機、急遽送り出した所だ。
ああ、そうだ、確かに5師団は9軍団が兵站支援の面倒をみる。 その前提で増援に出した。 だがな、考えてみろ。 戦場でいきなり別機種への乗り換えが、如何に難しいかを」

―――君等も衛士なら、その辺は判るだろう。

言外にそう言っている。 それは判る、判るがそれは平時の理屈だ。 戦時の、最前線では通らない。

「・・・失礼します、中佐。 我々は独立戦闘団に派遣されております、その兵站は第7軍団が行う事と、第2軍司令部より通達が来ておる筈ですが」

「ああ、来ているよ、来ているがな・・・」

「独立戦闘団は、当初戦術機甲部隊は9個中隊でした、今は8個中隊。 そこから更に2個中隊が戦力を喪失しようとしております。
1個連隊規模から、1個大隊分の戦力減です。 桜井(大阪府島本町)の最前線に布陣する20師団は丙師団。 その機甲戦力の増強として見込まれた部隊です」

段々、参謀中佐も俺が何を言いたいのか判って来たらしい。 
少し表情が変わる、そうだろう。 正面戦力、それも戦術機甲戦力が手薄になるなど、悪夢だ。

「後詰の40師団はおりますが、正直対岸の国連軍(大東亜連合軍、米軍)と比べて戦術機甲戦力が手薄気味なのは、第7軍団司令部が良くご存じかと。
確かに本来の指揮下部隊である第5師団への兵站補充は重要では有りますが、最悪でも向うには第9軍団が控えております、第2軍司令部も」

中佐が少し嫌な顔をする、誰しも『身内』には肩入れをしたくなるのは心情か。
俺の言葉を受け、水嶋さんが後を引き継いだ。

「独立戦闘団の使用機種は、他には中国軍の『殲撃10型』と台湾軍の『経国』、それに韓国軍のKF/A-92Ⅱ(F/A-92Ⅱのライセンス生産モデル)です。
中国軍は兵站部隊を引っ張ってきておりますが、台湾軍と韓国軍にはそれが有りません。  今は8個中隊ですが、じきに6個中隊、時間が経てば3個中隊にまで減ります」

今は4個大隊規模の戦術機甲戦力が布陣しているが、さほど長い時間がかからずに、それは2個大隊にまで減少する。 戦闘での喪失では無く、整備不良の為に。
目前の参謀中佐が、腕組みをして無言で宙を仰いでいる。 彼の主管は兵站管理だ、戦況に対応する戦術・戦略作戦の検討は入っていない。
しかしそれでも軍団参謀だ、この方面の状況、そして全体の戦略状況は把握しているのだろう。 自分の主管と戦略状況を、天秤にかけているのだろうか。

ややあって、参謀中佐がゆっくり口を開いた。

「・・・第2軍司令部から、正式に命令は出ておる。 9軍団からも、確かに言付かっておる。 最終的な判断は参謀長(第7軍団参謀長・鈴木啓次少将)に伺うが・・・
確かに北摂から京都南部への防衛線が手薄になるのは、いただけない。 その辺は軍団司令部も判っておる」

「では・・・?」

「どれだけ出すかは、俺の主管範囲だ。 7軍団の兵站が維持される範囲で、出してやろう。ただし『撃震』は需要が多い、5師団用に取っておいた予備の『疾風』だ。
ところで、君等は14師団と18師団だったな、親部隊は。 ウチは『不知火』じゃないぞ?」

暗に機種変換訓練なしで、ぶっつけ本番の機種変更は大丈夫なのか? と聞いて来る。
思わず水嶋さんと顔を見合わせ、少しだけ笑みが浮かんだ。 よし、これで分捕った。

「ご心配無く。 14師団も18師団も、元々は大陸派遣軍の所属です。 『疾風』系の機体を、最初に戦場で使い始めたのは我々です」






0545 第7軍団 兵站部機体管理ハンガー


「・・・疾風か、何か久しぶりの気がしますよ」

横から美園が呟く。 彼女にとっては、初陣以来の長い時間を共に戦った機体だけあって、感慨深そうだ。
師団が再編制されて、搭乗する機体が『不知火』に変わっても、共に戦ってきた信頼感は格別らしい。

「それほど長い間、『不知火』に乗っていた訳じゃないだろう? 全員が搭乗経験有りなんだ、心配は無いだろう?」

「ええ、そうです。 一番心配なのは周防さんですけどね。 一体何年、『疾風』系の機体に乗って無かったんですか?」

「・・・93年の6月以来だ、もう5年前になるか」

「機種転換訓練なしで、大丈夫ですかね? この人は・・・」

美園がからかう様に言う。 全くだ、本当に久しぶりに搭乗する機体だ。 同時に昔の思い出が蘇る、色々と思い入れも深い機体だったしな。

「・・・見損なうなよ? これでも戦場でぶっつけ本番の機種変更は、国連軍時代に散々やってきた。 今更、そんなお上品な文句を言う気は無いさ」

「そうでした、そうでした。 誰かさんは、誰かさんを放っぽって、あちこちで色んな戦術機を乗り回して、喜んでいたんでしたっけね?
お陰さまで私、小隊長時代は誰かさんの落ち込みを、フォローするのが大変でしたよ? その内、精神的慰謝料を請求しますからね?」

「酒の1本で、手を打て」

「2本ですね」

そう言って笑いながら、美園は搬出指揮に戻って行った。
しかし、2本?―――で、済むだろうか? あの『隠れ酒豪』が、果たしてそれだけで? きょうび、まともな酒など大尉の薄給では、なかなか手を出し辛くなっているのに。

そこまで考えて、思わず苦笑してしまった。 この状況で、何と言う太平楽な事を、と。

F/A-92Ⅱ、24機。 それに予備パーツ一式。 更には韓国軍用に、24機分の予備パーツも。 これで当面は戦える、機体にも文句は無い、準第3世代機だ。
韓国軍は基本的に、同一の機体と考えていい。 細かい変更点は有るそうだが、F/A-92Ⅱ-Kは、ほぼ90%以上は同一の機体だ。

台湾軍の『経国』はどうしようもない、米国のF-18E/F『スーパーホーネット』をベースにした機体だ。 今この戦場でF-18E/Fを使用する部隊は、熊野灘の米第7艦隊しか無い。
台湾にも『疾風』系の機体は輸出しており、実際に新竹の台湾軍第499戦術機甲連隊と、台東の第737戦術機甲連隊はF/A-92Ⅱ-Tを配備している。
このどちらかから派遣されていれば、問題は無かったのだが・・・ 因みに台湾軍は残りをF-CK-1『経国』、別名『IDF戦術機』とF-5系の発展型が占める。
統一中華戦線と言えば、『殲撃』シリーズと思いがちだが、あれは解放軍の機体だ、台湾軍は使用していない。


「直やん、搬出は終わった。 これから向うで、超特急でシステム調整をやる」

背後から修さん―――児玉修平整備少尉が声をかけてきた。
両手を使って、部下達にあれやこれやと、指示を出している。 この辺の実務は彼に―――整備主任達に任せた方が良い。 俺達はその責任だけを取る。

「システム調整、どの位かかりそうだ?」

BETAも何時までも大人しく逼塞している訳ではないだろう。 この数時間ほど大人しかった、お陰で戦線の再構築に有する時間が稼げたが、それもそろそろだろう。
実際に南部と北部では、相変わらずの激戦が続いている。 この中部防衛線は、ちょっとした台風の目のような状態に過ぎない。

「・・・噂やで、あくまで噂やがな。 さっきこっちに居る、司令部付きの同年兵と会ってな。 あと、2時間程やそうや、京都放棄の命令が発令されるンは」

―――京都放棄。

いよいよか。 あと2時間程、恐らく0800頃になるか。 周囲を見渡す。 さっきから国鉄の列車が、ひっきりなしに通過していた。 
大阪市北部の淀川南岸辺りまで行って、そこから徒歩と電車とで生駒山地を越す。 最後の避難経路に残った民間人が殺到しているのだ。
それでも未だ京都市内には、10万以上の民間人が取り残されている。 周辺市町村にも、20万近い人々が―――恐らく、逃げ切れまい。
そしてその人々を救う余裕は、軍には無い。 戦力的にも、時間的にも。 そして背後に残った近畿の避難民、残り1100万人の安全確保の為にも。

「超特急でやる事はやるが、それでも中隊12機、全機の調整はギリギリ間に合うかどうか、やな・・・」

「まずは、若い連中の機体から完調させてくれ、次に中堅。 古参は後で良い・・・ 俺の機体は最後だよ、整備主任」

片方の目だけ、器用に釣り上げてこちらを見た修さんが、僅かに笑ったように見えた。

「・・・基本のインストールとアップデートだけは、何とか終わらせとくわ。 後は、な?」

「それだけやってくれれば、上出来だよ。 調整は戦場でやる」

「そう言う事が言える衛士も、年々減ってきよったなぁ・・・」









0610 独立戦闘団本部 大阪府島本町 水無瀬付近


「日本軍がF/A-92を2個中隊分、新規補充すると?」

「はい、同志中校。 先程日本軍から連絡が有りました。 連中の94式は、もう相当ガタが来ている状態でしたので、これは歓迎すべきかと」

部下であり、戦術機甲部隊付き政治教導員(政治将校)である馬大尉の報告に、少し首を傾げる。 連中、それ程余裕は有ったのか?
暫くして、日帝の第5師団が南部防衛線に張り付いていたのを思い出した。 そうか、それで余剰が。 それに韓国軍の機体も、ほぼ同じ機体だ。

「・・・喜ばしい事だな、これで『前線』の5個中隊の内、4個中隊は憂い無く戦えると言うものだ」

「台湾軍も、F/A-92系戦術機の運用実績が有ります。 いざとなればその分も・・・」

「流石に、そこまで融通は利かぬだろう。 連中も予備は出来るだけ確保したいはずだ、余り虫の良い事ばかり言えまい?」

その言葉に、馬大尉が最初吃驚した表情を見せ、次に苦笑する。
何しろ『中華文化圏』に於いては、まずはともあれ自己の主張を止める事は出来ない。 相手の事など知った事か、一歩引けば相手は百歩踏み込んで、根こそぎ奪ってゆく。
嘘も方便、白髪三千丈、面子が立つなら手段は選ばない、相手との協調や謙虚さなどは、悪徳であって美徳では無いのだから。

そんな文化背景を、マルクス・レーニン主義の皮衣に、毛沢東思想、鄧小平理論で味付けした『地球最後の専制王朝』である中国共産党。
その暴力装置である人民解放軍の『党の監視装置』である政治将校が、事も有ろうに協調や謙虚さなどとは!
しかし現実を見れば、余り大声ばかり出しても居られない。 何せこの地は、周りは日帝軍ばかりだ。 国連軍や統一戦線を組む台湾軍など、心細い限り。
ここで日帝軍の機嫌を損ねたら最後、下手をすれば全員、この東海の僻地で骸をBETAに喰われる事になりかねない。

「・・・周少校には、日本軍の『協力』をよく伝えておきましょう。 同時に我が党は、『友誼に篤く』なければならぬと言う事も」

「宜しい。 ・・・何か変わった所は?」

「特には。 任務に精勤しております。 少し前に前線の韓国軍1個中隊と台湾軍中隊を、我が方の2個中隊と変えるべきだと。
或いは予備隊3個中隊の内、1個中隊を前線に回すべき、等と言っておりましたが」

「・・・何と言い返したのだ?」

「は、取りあえず『あまり異機種混成部隊だと、指揮の効率が低下するのでは?』と。 それ以来、なにも言ってきませんが」

気になるセリフだ。 あの女、確実に自分の意図を見抜いているな。 その上で、形をしては申し分の無い『妨害』を仕掛けて来るか。
日本の本土防衛部隊に、統一中華戦線、そして韓国軍の各部隊が並んで共に戦う。 『戦闘』の結果はどうであれ、日帝軍の前線部隊からは好評を得るだろう。
後方の参謀本部や、この国の政府は違う。 連中は裏の政治的判断を働かせるだろうし、そうして然るべきだ。 しかし『国際協調』の美名の下では、模範回答だ。
暫く考え込んだが、その案は却下した。 何より当初の目的を覆す気は毛頭ない、それに周蘇紅も、これ以上煩く言ってこないだろう。

「・・・事前の計画通りとする。 部隊内の士気はどうか?」

「あれや、これやと餌をぶら下げました。 この地で『不法に』入手した物についても、余程ではない限り目をつむっておきます。 お陰でなかなか、良好では有ります」

「ああ、それで良い。 どうせそのままにしておけば、BETAの腹に収まる代物だ」

暗に、統一中華戦線将兵―――主に解放軍将兵が行った、不法侵入と略奪行為に対して不問にする、そう言っていた。
避難民が大慌てで脱出した無人の家屋。 その中に残された物品には、値打ちモノの残留品も少なく無かった。
本来であれば軍刑法に従い、厳罰に処すべき所だ。 だがこんな僻地まで派遣させられて、BETAと戦わねばならない将兵のフラストレーション、その捌け口として黙認していた。

「後はせいぜい、余計な摩擦を起こさせないようにしろ。 特に日本軍とはな」

「承知しました。 周少校は?」

「引き続き、手綱を握っておけ」

「―――はっ」

馬大尉がテントを出てゆく。 その姿が見えなくなった後、羅蕭林中校は小さな声で独り言を呟いた。

「超美鳳、朱文怜―――厄介な子飼いを持ったものだな。 だから貴様は、党から目を付けられたのだ、周蘇紅」

総政治部から『危険分子』候補としてリストアップされていたのは、超美鳳大尉と朱文怜大尉の2人だった。
2人とも国連軍出向経験が有り、そして主に欧州方面で大西洋方面総軍に所属していた、と出国前に総政治部のファイルを読んだ。
その影響でか、リラベル的な言動が目につく、とも。 共産党支配体制を存続させるためには、将来的に禍根を残す可能性あり、とも記載されていた。

その影響だろう、直属上官だった周少校のファイルにも『政治的信頼性は、かなり低い』と、解放軍に於いては致命的な評価が下されていた。
今回の派兵、多くがそう言った『政治的信頼性』の低い前線指揮官が多く含まれている。 あわよくば、激戦が予想されるこの国の戦場で『名誉の戦死』を、そう言った所か。
そして自分にお鉢が回ってきた。 であるならば、自分の思惑と党の裏の意向、それを満足させるためには、今のままが一番宜しい。

「・・・総政治部の基本的任務は中国共産党中央、中央軍事委員会の決議と指示に従って、軍隊全体の政治活動の方針・任務を確定し、
下級機関の執行を指導し、中国共産党中央、国務院、中央軍事委員会から軍隊に与えられた諸任務の完成を保障する事である」

小さく、『人民解放軍政治工作条例』の一節を口ずさむ。 
下士官兵、それに下級将校の士気の維持は、政治教導員(大隊付き政治将校)、政治指導員(中隊付き政治将校)の役目だ。 直接兵に接するのは、精々が大隊までだ。
自分の様な政治協理員(連隊付き政治将校)以上ともなれば、その任は如何に各級指揮官の政治的信頼性を見極め、党の任務を完遂する保障を作るかを求められる。
その意味で、政治教導員までは将兵を鼓舞し、指導し、時に信賞必罰を行う。 我々政治協理員や政治委員(師団付き以上の政治将校)は指揮官を監視し、助言し、未然に防ぐ。

「周蘇紅、超美鳳、朱文怜・・・ 残念だよ、本当に残念だ。 私は本心から、そう思っているよ」

貴重な歴戦の衛士にして、部隊指揮官。 今の党には、宝石並みに貴重と言える。 羅中校の内心の一部は、本当にそう思っていた。
しかし彼女は、党の人間だった。 総政治部は党の政治的監督機関であり、解放軍は党の軍隊なのだ、この事実は変わらない。
それ故に、彼女の内心の他の部分では、今回の処置を是としていた。 繰り返すが、彼女は党の人間なのだ。


そこまで考え、不意に喉の渇きを覚えた。 この国の夏は蒸し暑過ぎる、台湾もそうだ。 何もかも、故郷の北京―――今は無い北京とは、大違いだ。
急須からお茶を入れる。 生憎と台湾から持ってきた茶葉は既に切らして久しい、仕方なくこの国の茶葉で我慢している―――緑茶と言うのは、どうも好みに合わないな。
そんな感想を思いながら、これまた私物の茶器を手にテントから出る。 既に東の空は白みがかっていた、真夏の暑い1日の始まりだ。
その空に時折、爆発光が見える。 明け方の空に立ち上る、鮮やかな光の筋も。 南部防衛線は今も戦闘が続いているのだ。
不意に砲声が聞こえた、北西方向だ。 恐らく日本軍の第2軍団、その面制圧砲撃だろう。 あの方角の山岳地帯には、日本第1軍の第2軍団が布陣している筈だった。


戦場の遠景と音楽を意識しながら、熱いお茶を飲み、漠然と考える。
日本に派遣される前、密かに入手した情報。 米下院が騒ぎ出している。 米上院も米日安保条約の見直しを、いや、批准の見直しをと言い出していると聞く。
ワシントンにばら撒かれている、中国の情報網に引っかかった機密情報。 情報源は上院少数党院内総務―――民主党上院院内総務を務める大物議員だ、確実な情報だろう。
可能性として、米軍の日本撤退も有り得る。 そうなればこの国はお終いだ、後はBETAの胃袋に収まるだけ。

党も極力、兵力を日本で潰したくないと考えている。 統一中華戦線―――台湾との建前上、派兵こそしたが本音は乗り気では無い。
それにここで戦力をすり潰せば、自分とて無傷と言う訳にはいかない。 いずれ総政治部入りは果たせるだろうが、下手をすると回り道を強いられる可能性もある。
いざとなれば、父に・・・ とも思うが。 しかし他の兄弟姉妹の手前、余り弱みを見せたくない。

(―――結果だ、何よりも結果だ。 それを示さねば何にもならぬ)

この場合の結果とは、増援として派遣された日本本土の防衛を達成する、と言う事では無かった。







0640 独立戦闘団 戦術機甲部隊 野外戦術機ハンガー付近 京都府大山崎町


「・・・台湾もな、一枚岩じゃないんだよ」

曹徳豊(カオ・ドゥオフェン)大尉が呟いた。 場所は野外の仮設ピスト―――只の野外用テントの中だ。
俺の他には、韓国軍の韓炳德(ハン・ビョンドク)大尉、郭鳳基(カク・ボンギ)大尉。  水嶋さんと美園は、野外駐機場に行っている。

先程、補充機体の搬入が終わった。 今は整備班が総出で、各調整作業に入っている。 それが終わるまでは、専門外の衛士は待機状態。
最前線の警戒は20師団が行っている、周囲には27師団が師団司令部ごと前進して来たし、最後尾に40師団も布陣を完了させた。
対岸の南岸には国連軍が2個師団、展開を完了させた。 ついでに良いニュースも有った、南部戦線に出戦していた海軍部隊が1個大隊、増援に駆けつけてくれた。
元々は奈良の大和基地を本拠にしていた、海軍第204戦術機甲戦闘団。 陸軍の編制で言えば戦術機甲大隊に相当する。
奈良県北部の基地から、支援部隊込みで駆けつけてくれた。 それも今のこの状況では予想もしなかった第3世代機『流星』の近接・高機動型(AB-17A)が40機。

文句が有るだろうか。 現在世界中を探しても、この機体以上に高性能の第3世代戦術機は存在しない。
欧州の実証試験機はややもたついているし、スウェーデンのJAS-39は総合性能でAB-17に一歩及ばず、が定評だ。
フランスの第3世代機、漏れ聞く所によると『ラファール』と言う機体は近々、今年中に配備が始まるそうだが、まだ実戦を経験した機体では無い。
ソ連のSu-37『チェルミナートル』は2.5世代機、或いは準第3世代機だ。 米国の第3世代機は、未だEMD(先行量産型)のフェイズ2相当機が9機だけだ。

―――何はともあれ、後は整備班の仕事待ち。 その後は死力を尽くして戦うだけだった。
そんな中、台湾軍の曹大尉と韓国軍の韓大尉の、何気ない会話から、統一中華戦線が内部に持つ様々な歪みの話になったのだった。


「元々、歴史的にも内省人と外省人の対立も有ったし、政治的にも泛藍連盟派(『邦連制』を主張し台湾独立には反対)と、泛緑連盟派(台湾本土派および独立派)が有ったし」

クソ暑い真夏の夜中、強化装備を脱ぐ事も出来す待機するのは厳しい。 クーラーボックスからペットボトルのドリンクを出して、盛んに水分を補給する。
数本取り出し、他の連中に手渡す。 飲み易い様に辛うじて味が付いているが、妙に甘い感じがする飲み物だ。

「でもなぁ、今更『独立反対』は無いだろう? 中共は国土のほとんどを喪失した、今は台湾対岸の福建省の沿岸部を残すのみだし」

「そこさえも、橋頭堡として軍事的に維持しているだけで、住民はいない筈だ。 どうして共産党が、あれ程の影響力を持つ?」

韓大尉と郭大尉が訝しげにそう言う。 それはそうだろう、中国共産党は大陸の国土のほぼ全てを喪失している。
そこを逃げ出して台湾に避難した、言わば『亡命政府』がどうして避難先で、言わば大家に対して強く出れるのか?

「韓大尉、郭大尉、君等は台湾の複雑な状況を知らない・・・ 元々1944年までは日本領だった事は、君等のお国と同じさ。 だろう? 周防大尉」

そう来たか―――思わず苦笑しつつ頷く。 今ここで東アジアの歴史を持ち出されるとはな。 しかしそれを語らずして、東アジアは語れないしな。
横から睨みつける郭大尉の視線が痛い。 彼がどう言った経緯で、ここまでの反日感情を抱くようになったのかは、大体想像できるが・・・ 今は止めておこう。

「・・・1944年に帝国は、米国を始めとする連合国との戦争で、条件付き降伏をした。 そしてその結果として、幾つかの海外領土を放棄した。
その中で独立したのが大韓民国。 そして台湾は国共内戦後に、国民党が1949年に大陸から移転して、成立させた・・・」

「で、大陸と台湾と、台湾海峡を挟んで睨みあいか」

郭大尉が、少し横柄な口調で言う。 半島は1945年以降、統一政体を確立したのに、中華民族は・・・ と言いたい様な。
その言葉にも、曹大尉は苦笑するだけだ。 そう言われるのも、もう慣れっこの様だった。 そして気にした風もなく、話を続ける。

「台湾にやってきた国民党政府の余りの腐敗ぶりに当時、僕等の曾祖父や祖父達は驚いたのさ。 で、起こったのが国民党支配から独立を目指す、『台湾独立運動』だよ。
それが今は民進党や、国民党から分離した台湾団結連盟(台連)なんかの泛緑連盟派が受け継いでいる。 台湾は台湾、大陸の中共とは異なる国家だとしてね。
反対に大陸との統一を主張して来たのが、国民党や親民党なんかの泛藍連盟派さ。 『中国の正統政府』を主張して、『台湾の独立』には反対している。
最も近年は『邦連制』なんかを言い出していたけどね、その矢先の共産党の台湾移転さ。     国内は大混乱だよ」

ふむ? 『邦連制』とはあくまで、大陸と台湾、この双方が並び立つ方便、そう言う事か。
それが今や同居状態。 連邦制も何もあったもんじゃないな、確かに。 しかしな・・・

「・・・よく判らないのだが、その状況では共産党が影響力を持てるとは思えない。 言わば四面楚歌じゃないのか?
方や台湾独立派、方や中国正統政権主張派。 共産党が味方につけられる勢力は、無い気がするんだが・・・?」

思わず疑問を挟んでしまう。 聞けば聞く程、中国共産党に有利な政治条件が見えてこないからだ。 韓大尉も、郭大尉も頷いている。
それに対して曹大尉は、相変わらず苦笑をしたままだ。 いや、自嘲と言った方が良いのか? 溜息さえついている。

「君等は・・・ ああ、台湾の国土面積を知っているかい? 約3万5980km²だよ、これは日本の九州島よりやや小さい。 そこに元々2300万人程の『台湾人』が住んでいた・・・」

3人して頷く。 その位は軍教育でも、地誌概要として教えている。

「そうだな、我が国の関東地方に面積は近いか。 関東は3万2400km²位だった筈だ、人口は4240万人程だったか・・・」

「関東と関西の中間位だね、でも今はそうじゃない・・・」

「大陸からの流入?」

「そうだよ・・・ 流入人口はおよそ1655万人、今現在の台湾の総人口は、約3970万人。  日本の関東地方に似ている」

台湾の人口は、かなり増加していると言う事か。 最もその増加分、殆ど全てが大陸からの流入人口―――難民なのだろうが。 しかしそれでも、どの位の比率になるかだな。 

「え~っと? 元々の台湾人が、総人口の58%程。 で、大陸からの流入人口が約42%位か。 確かになぁ、無視出来る数字じゃないな、これは・・・」

「それでも過半数は維持しているだろう? 確かに国内のバランスは大幅に崩れているが・・・」

余りに多過ぎると、台湾政府の統制を嫌う人口がそれだけ大きくなっている事を示す。 それだけ国内の政情が不安定になりかねない。
しかし6割近くを確保しているのなら、取りあえずの過半数は確保していると言う事か。  難しいが、それでも台湾側が主導権を取れる数字だろう・・・?


「・・・台湾には、戦術機を開発・製造出来るメーカーが存在しなかった」

「ああ・・・?」

「韓国だって、アメリカや日本のメーカーが開発した機体の、ライセンス生産だけだっただろう?
確かに台湾軍はアメリカからF-18や、日本からF/A-92Ⅱを購入して装備している。 それに『経国』は純然な国産機じゃないよ」

「ああ、それはそうだな。 『経国』のベースはF-18E/Fだしな。 ライセンス料も馬鹿にならないか」

「TAIDC (Taiwan Aerospace Industrial Development Corporation)は台湾最大の軍需企業だけれど・・・ まだ戦術機の独自開発には至っていない。
そこへ瀋陽(瀋陽戦機工業公司:Shenyang TSF Industry Corporation、STIC)や、盛都(盛都戦機工業公司:Changhe TSF Industry Corporation、CTIC)が声をかけてきた。
連中もJ-10(殲撃10型)やJ-11(殲撃11型)の生産拠点が欲しい。 J-10はイスラエルのIEIでも生産は出来るけれど、IEI自体がアフリカに移転したとあってはね。
J-11はもっと厳しい、アラスカのソ連政府は余剰分を生産する程の余裕は無いし。 それにTAIDCにとっても渡りに船さ。
STICやCTICは元々、ボーニングやノースロック・グラナンのパーツ制作の下請けも請け負っていた。 その技術力は実際の所、高いんだ」

瀋陽(STIC)にせよ、盛都(CTIC)にせよ、中国が誇った3大半官半民軍需企業のひとつ、『中華航機工業集団(China Aviation Industry Group:CAIC)の傘下企業だ。
CAICは中華北方工業公司(North Industries Corporation:Norinco・ノリンコ)や、中華南方工業集団公司(South Industries Group Corporation:SIGC)に匹敵する。
国土を追われたとはいえ、この3つの企業群で世界中に散らばった、200社近い傘下企業を抱える一大企業群だ。 その規模はCAICだけで、未だにTAIDCを上回る程だ。

「つまりは、TAIDCに対しては戦術機関係技術、台湾政府に対しては経済力。 それをカードにしていると?」

「もうね、立派に『邦連制』さ。 まだ国内は完全な住み分けが為されている訳じゃないけれど、台湾人と中共人は交わりたがらない。
共産党も強気さ、人口の40%を支配して、台湾経済のかなりの部分まで浸透してきている。 総統府も立法院(議会)も行政院(内閣)も、扱いに苦慮しているよ」

未だに中国共産党が台湾でその存在を誇示している理由と、戦闘団司令部の羅中佐の強気な態度が判る様な気がした。
そして統一中華戦線内部の混乱も、この辺に起因するのかもしれない。 普通に考えれば台湾主導でと思われるのだが、共産中国は相変わらず一定の力を有している。
台湾にしても、自国の防壁たる『台湾海峡防衛線』を単独で守る事は困難なのだろう。 何と言っても兵力が足りない。
中国軍―――人民解放軍は台湾海峡防衛線の対岸、福建橋頭堡を死守する戦いを未だ継続している、ここを失うと台湾は風前の灯。 成程、共産党が強気な訳だ。

「・・・さっき、連合軍団本部から、1人の大尉が来ていただろう? あれは軍人じゃない。  いや、軍の階級を持っているが、共産党の人間だ」

「どう言う事だ、曹大尉? どうして中共の人間が、こんな戦場に?」

「知らないよ、知りたくもない、でもあいつは確かに共産党の人間だ。 台湾を出る時に見た、統軍委(統一中華戦線・中華統一中央委員会傘下・統一軍事委員会)だ。
こっち(台湾軍)の人間から聞いた、元は統中委(中華統一中央委員会)中央弁公処直属の人間らしい。 嫌な連中だよ」

「・・・キナ臭いな」

郭大尉が不機嫌そうに、鼻を鳴らして言う。 余りソリの合わない相手だが、今回ばかりは全面的に同意する。
そろそろBETAの本格的な前進が予想される状況で、政治的な厄介事は持ち込まないで欲しいものだ。






0650 独立戦闘団 戦術機甲部隊 野外戦術機ハンガー付近


指揮官達のテントから、会話が漏れ聞こえてきた。 台湾軍の曹大尉に、韓国軍の韓大尉と郭大尉、そして日本の周防大尉か・・・
自嘲がこみ上げる。 何をやっているのだ、私は。 階級が上がると、こういう面倒事が多くなって困る。

先だって、台湾に避難している母から便りが有った。 その中で弟の事を特に心配していた。
弟も軍人だ、福建橋頭堡を死守する戦いに赴いている。 そして家には男の後継は弟だけ、自分と妹は『女』だ。
もし弟が戦死する様な事になれば、一族の祭祀が途絶えてしまう。 女の私では駄目なのだ、儒教の教えでは、男の直系子孫の祭祀しか先祖は受け付けない。
そして一族の祭祀が途絶えると言う事は、漢民族にとっては死に勝る恥辱でも有るのだ。 両親はその事を、酷く恐れている。

(―――もっとも、そんな『恥辱』など、巷に溢れかえってもう、インフレ状態だけれど)

一体、何億人が死んだと言うのだ、中国だけで。 何億の家族が消滅したと言うのか、中国だけで。 何千万の一族が途絶えたと言うのか、中国だけで。
台湾に渡った人々の中には、何百万もの祭祀を祭れない人々が居る。 今更、特別な事でも無い―――それでもやはり、恐ろしい。 染みついた価値観と言う奴か。

多分あの女は・・・ 羅蕭林はそんな私の『弱み』を、突いてきた気でいるのだろう。
それならそれで良い、正直、親の事も心配ではある。 しかしそれ以上に、生き残りたい。 そしてあの2人を死なせたくは無かった。
超美鳳、朱文怜。 懇意にしているとある政治将校から、以前にこっそりと耳打ちされた事が有った。
国連軍から帰ってきて以来、何かと党批判とも受け止められる様な発言を、あの2人からしばしば聞いた事が有る。
その時は自分が注意をしておいたが、余所の場所での発言は、そして自分以外の者への発言は、流石に隠せない。
何度か呼び出して、それとなく注意を喚起したつもりだったのだが・・・ どこからか、政治将校の耳に入ってしまったのか。

多分、羅中校は私を含め、美鳳も文怜も、この地で使い潰す気だろう。 或いは党が暗黙のうちに、指示したのか。
だが、今の状況は味方につける事が可能だ。 日本軍の指揮官2人は旧知の仲だし、台湾軍の曹大尉とも話は合う。 韓国軍の2人は常識の範囲内で従ってくれればいい。
日本軍の2個師団も前後に居る、これを上手く利用すれば・・・ 美鳳と文怜は、予備隊に回されたのは却って良かったかもしれない。

(・・・友軍には悪いが、利用させて欲しい・・・)

贖罪にもならないが、その代わりに部隊指揮は全霊で打ち込もう。 もはや戦術機を駆る事の適わぬ身ではあるが、指揮官の責務は果たせる、果たして見せる。



大阪方面から砲声が鳴り響いている。 かなりの大音声だ、戦艦の主砲か? 
背後では京都市内への突破阻止の死闘を展開している、日本軍第1軍の砲兵部隊が砲撃を再開していた。 

夜はすっかり明けた、気温がじりじりと上昇してきているのが判る。 激戦の再開だ。 暑い1日になりそうだった。





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