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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/15 17:06
1998年8月13日 1015 大阪市東淀川区付近


周囲にBETA群が集まってきた。 定数大幅割れの2個大隊―――実数では1個大隊程か?―――が、サークル・ワン陣形を取る。
中央にはダウンした機体が数機、それを守る様に円周陣形で防御戦闘を展開している。

『ごっ・・・ ごふっ・・・』

『・・・まずい、中佐のバイタルが低下! 早く後方に下げないと・・・!』

『包囲網を突破出来ん! 光線属種がまた・・・ くそう!』

突撃砲が唸る、36mm砲弾が絶え間なく吐き出され、120mm砲弾が命中した大型種の体表に大穴を開ける。
もう誘導弾は無い、補給コンテナはBETAの群れの中だ。 突破の機会を狙うが、なかなかその機会を掴めないでいた。
突撃級の群れの突進を交し、数機がかりで左右から挟むように突撃砲を放ち、撃破する。
要撃級も同様、小型種は36mmの掃射を数機がかりで薙ぎ払う様に、撃ち込み侵入を阻止する。

≪BETA群、尚も増加中! 約4800!≫

181の第1大隊CP将校、江上聡子大尉の悲鳴のような声が響く。 無理も無い、先任指揮官の広江中佐が負傷、しかもBETA群の重包囲下で脱出もままならない。

≪BETA群、一部が摂津市へ突破! 第5師団、迎撃を開始しました!≫

≪新たなBETA群、約2800! 向かってきます!≫

各中隊のCPからも、次々に戦況の報告が入る―――どれもこれも、悪い方向ばかりだ。

≪141連隊第3大隊、181連隊第3大隊より入電! あと数分で到着予定!≫

『こちら≪ライトニング≫! 岩橋少佐! 木伏! あと3分保たせろ! 森宮少佐!?』

『今、神崎川のラインだ! ≪ホーネット≫が北から突き崩す! 宇賀神さん、岩橋さん、南と東を抑えていてくれ! 木伏! 何とか堪えろ!』

『長門! 貴様の中隊は先行しろ! まずは連中の気を引け、移動速度を落とさせろ!』

増援の2個大隊をそれぞれ率いる宇賀神少佐と、森宮少佐の声も切羽詰まった声だった。

『ゲイヴォルグ』大隊が、円周陣形で辛うじて壊滅を防いでいる。 重光線級を3体始末したとはいえ、その代償が大隊長機の大破破損・大隊長負傷と、指揮小隊の全滅。
ダウンした大隊長機を、後続していた第13中隊長の葛城大尉が指示して、急ぎ回収した。 しかし直ぐにBETA群が迫った為、後送出来ないでいる。

今は淀川北岸に移動した岩橋少佐の大隊が、291連隊の大友大尉、国枝大尉の2中隊を指揮下に入れ、8個中隊―――実質戦力4個中隊で、東への突破を阻止している。
全てを阻止出来る訳ではない、半数以上は突破される。 その半分以上を後方の第5師団が後方で砲火を並べ、迎撃していた。

『しっかし・・・ 元気だぜ、こいつら!』

南から付き上げる様にして、淀川を噴射跳躍で押し渡った長門大尉が、中隊をBETA群の側面に突き入れながらぼやく。
突撃砲を並べ、残存全機の36mm砲の掃射をかけて小型種を掃討する。 ランディングポイントを確保した長門大尉の≪アレイオン≫中隊が、そのまま多角機動で群れの中に突入した。
長刀や短刀は使わない。 只でさえ酷使し続けている機体だ、打撃の衝撃に機体の緩衝機構が保たないかもしれなかった。

『ちっ! アウト・オブ・アンモ!』

残弾が切れた、まだ群れの中だ。 こうなったら近接格闘戦しかない。 しかし今回は長刀を装備していない、両アームから短刀を取り出し装着する。
目前に迫る要撃級、その前腕の攻撃をバックステップで交し、掠め過ぎた前腕を根元から切り落とす。

『く・・・ そったれ!』

アラームがまた鳴り響いた。 機体ステータスを確認するまでも無い、左腕がロックした。 酷使し過ぎた。
部下の機体が中隊長機を中心に、サークル・ワン陣形を取る。 河を渡って間もないと言うのに、早くもBETAの群れの中で孤立状態だ。

『アンタは! 何やってんの!』

北の方角から砲弾が飛び込んできた、1群の戦術機が突っ込んでくる、森宮少佐指揮の1個大隊。 
その先頭を切って突っ込んで来る『不知火』のデータを確認して、長門大尉が呆れたように言う。

『中隊長が、突撃前衛長をしてどうする? 大体お前、突撃前衛の経験は無いだろう!?』

部下の機体の背後から前腕を振り上げる要撃級、その背後に短距離噴射跳躍で迫り、後部胴体の後ろに短刀を突き立てて倒す。

『アンタが馬鹿な事やっているからよ! 馬鹿みたいに乱射して! アンタは直衛か!?』

『・・・あいつが聞いたら、怒るぜ?』

『うるさい! そんな所で孤立して! 私が行くまで死んだら、承知しないからね!』

喚きたてながら、181連隊第32中隊長の伊達大尉が中隊を突っ込ませて来た。 
普段の戦い方とは全く異なる強引さで、BETA群の壁を突き破る。 2個中隊が合流した。

『伊達! そのまま、そこを確保しろ!』

『長門、そのまま待て! 大隊、突入!』

後続の両大隊主力が南北から突入してくる、一時的にBETA群の列が分断される。

『第5師団本部だ、141、181連隊! 15分保たせてくれ! こっちに流れ込んだ個体群を殲滅する!』

『第27師団より、第141、第181連隊! 今より支援面制圧砲撃開始する! 但しこっちも前面にお客を抱えている、1-5-5ホテル(155mm榴弾砲1個中隊)だけだ!』

後方から重い砲撃音、やがて100m程遠方に着弾する。 後続のBETA群が吹き飛ぶ。

『有り難いが・・・ 1個中隊だけじゃ、砲撃力不足だ。 15分、支えられっかね?』

『意地でも支える!』

『・・・愛姫、何でそう気合入っているんだ?』

『アンタが馬鹿な事するからだよ! あんな無茶苦茶な突進! 死ぬよ!?』

伊達大尉が、自機の予備突撃砲を長門大尉機に渡す。 全弾装填済みだ、これで暫くは時間を稼げる。
見ると、円周陣形を敷いた≪ゲイヴォルグ≫大隊も、陣形をウェッジ・スリーに転換していた。 但し、大隊長機を守る様に奥に入れて。
これで4個大隊、定数を遥かに割ったとはいえ、何とか生き残れそうか?

『許さないからね! 私をその気にさせたんだから! 死んだりしたら、絶対、絶対許さないからね!』

『・・・自分の女に守って貰うのって、けっこう新鮮だわ・・・』

『うっさい! 恥ずかしい事言うなぁ!』


だが、所詮は定数を大幅に割った4個大隊に過ぎなかった。 徐々に数を増してゆくBETA群に押され始める。
後方ではまだ、第5師団が全面のBETA群の殲滅を終えていない。 対岸では第27師団が突進して来た新手のBETA群の相手に、手が一杯だった。

『くそ・・・ 第5師団だけじゃ! 後詰の第20師団は!?』

『茨木市方面に行った! あっちにも新手だ! 最後の第40師団は山崎から動かせん、最後の護り手だ!』

『淀川前面からの釣り上げ作戦が、上手いっているのは良いが・・・ 圧力が・・・!』

『仁科! そっちに500! 行ったよ!』

『ッ! 千客万来は勘弁して!』

―――その時だった。

『陸軍! 退きな! 怪我するよ!』








まだ距離がある。 まだ突っ込める―――網膜スクリーンに映る光景と各種情報を睨みながら、長嶺少佐は自分に言い聞かせていた。
本音は、直ぐにでも荷物をぶっ放したい。 幾ら低空突撃とはいえ、飛行中は光線属種の格好の的になるからだ。 米海軍の指揮官達も、幾分顔が強張っている。
とは言え、まだ少し距離がある。 ここで発射すれば、下手をすると乱戦中の陸軍部隊を巻き込みかねない。 今は光線級が地上部隊に、気を取られているようだった。
それに先程通信回線に流れ込んできた声―――どうやら陸軍の先任指揮官機が損傷したらしい。 広江中佐―――満洲時代、『女帝』の異名を馳せた、歴戦の指揮官がだ。

(―――ちょっとさ、ヤキが回り過ぎだよ、広江さん・・・)

面識のある陸軍将校の顔を思い浮かべる。 何時だったか、大連で痛飲し有った事がある。  陸さんは余り好きじゃないが、それでも気持ちのいい女だったな。

不意に管制ユニット内に、レーザー照射警報が鳴り響いた。 内心で心臓が飛び跳ねる。

「ちっ、宮部! 距離!」

『7500!』

7500―――全弾発射には、まだ少し遠い。 よし。

「セイレーン・リーダーより205、207、209! 95式を半分ぶっ放せ! 宮部、パターンR1!」

『ラジャ、パターンR1―――ファイア!』

機体背後の兵装担架システムから、95式自律誘導弾が18発、発射された。
自機だけでは無い、36機の『流星』全機から各々18発ずつ―――648発の中型誘導弾が発射された。 白煙を引いて前方のBETA群に向かう。
途端に地上から大小2種類のレーザーが天に伸びる。 光線級と重光線級、やはりまだ生き残っていやがった。
誘導弾が次々に、レーザーに絡め取られる。 前方のそこかしこで爆発炎、しかしそれは織り込み済みだ。 広範囲に、且つランダムな軌道で発射した誘導弾、一度に迎撃出来ていない。
レーザー照射迎撃自体は、ほんの数秒で終わった。 しかし目的は達成された、レーダーがキャッチしたレーザーの本数と、推定光線属種個体数が一致したのだ。

「よし、これで最低でも12秒稼いだ! 突っ込め!」

96式『流星』と、F-14D『トムキャット』が更に距離を詰める為に突進する。
網膜スクリーンに、米軍の指揮官3名の姿が映った。 マクガイア少佐が感心したような表情で笑う。

『成程! 半数をデコイにして、時間を稼ぐと言う事か!』

『半数をデコイで使っても、まだ半数―――650発近い誘導弾が残る。 これが本命か・・・!』

『数こそ正義―――やられたな! 我々の十八番を、まんまと取られた! フェニックスじゃ、こうはいかんな!』

ウィンクラー少佐、アイマール少佐も感心したように、そして興奮している。
そんな3人を見ながら、長嶺少佐は苦笑しつつ答える。 『本番』はまだなのだから。

「只の苦し紛れさ・・・ それよりこれからだ! こっちも結構な制圧力だけど、フェニックス! 期待しているよ!」

『任せたまえ』

ようやく破顔する。 よし、これまで嘘の様に上手くいっている。 何しろ、低空突撃を敢行して、被撃墜機はまだ1機も無いのだから!―――あと8秒

距離が詰まる、4500・・・ 4000・・・ 3500! あと6秒!

『≪セイレーン≫リーダーより全攻撃部隊、全弾一斉発射。 その後は低空をフライパスしつつ、掃射をかける―――いいね!? ケチって残弾残すんじゃないよ!?』

―――『イエス! マーム!』

英語と、日本語の様な英語で、全員が唱和する。 いつの間にか米軍の指揮官達も、その場の雰囲気に当てられたようだ、自然と長嶺少佐が全体の指揮を取っている。
攻撃ポイントを確保する為、更に高度を下げる。 高度100m 76機の戦術機がその速度を一気に上げる。 轟音と共にヴェイパーコーンが発生していた。

直前で一気に機体態勢を変え、高度を稼ぐ。 距離3000!

高度100―――誘導弾兵装システム、起動。 95式自律誘導弾兵装担架システム起立。 92式改弐型多目的自律誘導弾システム、カバーオープン。  F-14Dもフェニックスの発射態勢に入った。
高度200―――目標、同時ロックオン。
高度300―――逆噴射制動。 発射態勢、OK。 残り2秒!

『いよぉし・・・ 放てぇ!』

『発射! 発射!』

『オール・ファイア!』

北東より轟音を上げて飛来して来た数10機の戦術機から、一斉に大型・中型ミサイルが放たれた。 その数、実に860発以上。
当然何割かは、インターバルを終え、生き残っている光線級のレーザー照射によって爆散する。 しかし全てを捉えるには、時間が無さ過ぎた。
海軍機はレーザー照射の危険を冒してまで、通常攻撃距離よりずっと突っ込んで来たのだ。残った何割かのフェニックスと95式誘導弾が殺到する、それを確認した地上の陸軍戦術機甲部隊各指揮官が、声を枯らして部下を後退させた。

『ッ! 後退! 後退!』

『巻き込まれるぞ! 急速後退!』

『中佐の機体を!』

陸軍部隊の頭上を飛び越した直後、フェニックスミサイルが四散する。 同時に無数の子弾が広範囲にばら撒かれた。
瞬く間に地上に無数の火の玉が降り注ぐ、それは放射状の火網を形成して、BETA群の上に降り注いだ。
小型種BETAが消し飛ぶ、闘士級や兵士級が雲散霧消し、焼き潰される。 戦車級が細切れの物体へと瞬時に変わる。

大型種も只では済まない。 要撃級が上方からクラスター弾子を多数直撃され、穴だらけになって倒れ込む。 突撃級さえ、節足部を損傷して動きを止める個体が続出した。
更に95式誘導弾の直撃―――メタル・ジェットを生成させて装甲殻を溶解射貫させる。 直後に遅延信管が作動し、開けた穴にサーモバリック爆薬が入り込んで炸裂した。
そのサーモバリック爆発は、一部が外部に向け拡散爆発してゆく。 大型種の周りに居た小型種BETAがその爆発に巻き込まれ、飛散する。

全弾命中した訳ではない、何割かがレーザーで撃ち落とされた。 
それでも尚、戦域制圧に特化した兵装を有する海軍部隊が出現させた地獄は、集まりつつあった1万以上のBETA群、その大半を一気に葬った。


『喰らえ!』

『イ~~ヤッハァ!』

『YO! HO! ファッキン・バスタード!』

一瞬のうちにその戦果を出した戦術機群―――日米の海軍機の一群が頭上をフライパスしつつ、M-88支援速射砲を地上に向けて撃ち込む。
真上から撃ち込まれる57mm砲弾に、突撃級の装甲殻さえ射貫される。 あっという間に無数のBETAの骸を作って飛び去る96式『流星』と、F-14D『トムキャット』


『陸軍! 海軍第205戦術機甲戦闘隊、長嶺少佐だ! 第1次はこんなもんだね! 今日中にあと確実に3次! 損害が少なけりゃ、4次も来る! 頑張りな!』

『アメリカ海軍、VFA-102“ダイヤモンド・バックス”、グイド・マクガイア少佐だ。 ヤンキー・ステーションにオン・ステージ。 
安心しろ、“アラモ砦”にはさせん、諸君には友軍がまだ居る、その事を忘れんでくれたまえ!』

『VFA-195“ダムバスターズ”だ! BETAの津波は止めて見せる!』

『“ジョリー・ロジャーズ”、VFA-103だ。 但し“バスターズ”の連中は、ダムまでぶっ壊すからな。 ご用命は我々に何時でもどうぞ、淑女なら尚の事、歓迎する!』

まるで通り魔の様な攻撃―――しかし、絶大な局地面制圧能力。
その遠ざかる機影に敬礼を送りつつ、今や最先任指揮官となりおおせた宇賀神少佐が下命した。

『―――突破せよ!』

大幅に数を減らしたBETA群、そしてその重包囲網が完全に破れた、チャンスだった。

『ソードマン03! 大隊長機の自律制御を渡す! 後方へ移送しろ、大至急だ!』

『了解!』

1機の『不知火』が、損傷した広江中佐の機体を引きずって噴射跳躍に移る。 中佐は負傷している、余計なGを加えない為に巡航飛行で南へと飛ぶ。

≪広江中佐機、離脱しました! 中佐は負傷ですが、意識は有り!≫

CP将校の、江上大尉がバイタル・データを確認する。 何とか助かるかもしれない、このまま野戦病院まで運び込めれば!

『141、181! 第5師団第51戦術機甲連隊だ! 遅れて済まない! ご苦労、下がってくれ!』

『第27師団、第271戦術機甲連隊! 対岸の掃除が終わった、これより渡河する!』

後方と、淀川の対岸から77式『撃震』配備の、2個戦術機甲連隊が進出して来た。 第7軍団の第5、第27師団だ。
第1世代戦術機、しかし後方の支援部隊は未だ健在だ。 機甲部隊に砲兵部隊、自走高射砲部隊。 機械化歩兵部隊も揃っている、何とかなるだろう。

傷つき、ボロボロになるまで何とか戦線を支えた94式『不知火』の横で、古強兵の77式『撃震』が、その機体を庇うように前面に出て攻撃を開始する。
見ると機甲部隊の一部が前進していた、右翼方向―――北西の方向に迂回しつつ、側面から大型種に向け戦車砲を放っている。
その背後に自走高射砲、そして機械化歩兵部隊。 砲兵部隊は遠方の、後衛集団に向けて榴弾砲を撃ち込んでいた。

やがて戦線が前進した頃、第5師団、第27師団双方から戦闘工兵部隊と野戦衛生部隊が出張ってきた。 戦術機改修器材で、損傷した戦術機を回収する。
ダウンした戦術機から救出された衛士―――その中には広江中佐も居た―――を、機内に担架を装備した救急用のUH-1H・イロコイに運び込んで、超低空で飛び去る。

その様子を見ながら、森宮左近少佐が宇賀神少佐、岩橋少佐に問いかけた。

『・・・宇賀神さん、岩橋さん、向うの様子は・・・?』

向う―――師団本隊が防戦している、大阪湾沿岸部、大阪市内への入口方面の事だ。

『どうやら、功を奏したようだ。 これで、この辺りで殲滅したBETAの数は、凡そ1万程か。 
洋上支援―――戦艦の艦砲射撃と誘導弾の猛射で、大方1万以上を削ったそうだ、1万3000前後。 併せて2万2000から2万3000は削った』

『作戦開始前の戦線正面のBETA群は、およそ4万2000程だった、これで残るは2万前後だ。 米海兵第3師団が上陸した、大阪市内中心部への突破は阻止出来る』

第2軍第9軍団正面戦力は、現在は第31、第38、第49の3個師団に、海軍連合陸戦第1、第3師団。 そして米海兵隊第3師団の6個師団。
第14、第18、第29の3個師団は、主力たる戦術機甲部隊が半減以下にまで落ち、機甲連隊、自走高射砲部隊も4割の損害を被った。 機械化歩兵連隊は6割減だ。
その為、現在も戦線を支える6個師団の後方に下がり、大至急の再編制をしている所だった。 もっとも補充は殆ど無きに等しい、今の戦力では各々1個旅団以下と言った所だ。
その代わりに、中韓の4個機甲旅団が前面に出ていた。 これで2個師団相当の戦力になる、防衛線は8個師団相当の地上戦力を以って、洋上支援を受けつつ戦況を挽回していた。


『そうか・・・ なんとか市内中心部や、大阪市以南の重工業地帯は守れるか・・・』

『ああ、何とかな。 それと連隊本部から連絡があった、負傷した荒蒔君、大丈夫だ。 数か所骨折をしているが、どれも単純骨折らしい、復帰は早い』

その言葉を聞いて、森宮少佐は心底ほっとした。 141連隊も先任大隊長の早坂中佐を失ったが、まだ歴戦の宇賀神少佐と岩橋少佐が健在だった。
2人とも、94年から大隊指揮官を務める、中佐進級5分前と言うべき古強者だ。 早坂中佐を失ったとは言え、この2人が残っていれば連隊の再建は問題ない。
翻って我が181連隊は? 先任大隊長の広江中佐は、何とか助かるだろう。 しかし衛士としてはどうか? 重光線級のレーザーが機体を擦過し、あちこちが爆発してしまった。
自分は軍医では無い、しかし過去の経験上、あの機体破損の状況では中の衛士はとんでもない重傷だろう。 もしかすれば、衛士資格を失う程の重傷であったら・・・

それに対して自分はどうか? 97年の10月に大尉から少佐に進級したばかり、大隊を指揮してまだ1年未満の、最も若い部類に入る少佐だった。
そこまで考えて、自嘲する。 情けない、何と情けない事だと。 自分は部下の命を預かる大隊長だと言うのに。 それがどうした、こんな弱気で。
これでは、部下に命じることなど出来やしない―――『森宮君、気にするな。 なあに、その内に嫌でも板に付く、余計に意識する事は無いぞ?』―――広江中佐に言われたな。

それでも、3人いる大隊長の内2名が負傷し、その内の1名は復帰が怪しまれそうなほどの重傷とくれば・・・ 荒蒔少佐の負傷状況にホッとしたのは本心だった。
彼は森宮少佐の、陸軍士官学校の1期先輩に当る。 年も近く、同じ若手の少佐同士と言う事も有り、常から気が合う相手だった。

『・・・何とか、それまでは、何とかせねばなりませんね』

『ああ、そうだ、何とかせねばならん。 森宮君、君がだ』

宇賀神少佐の声に、振り返り戦場を見回す。 飛散した、あるいは弾けたBETAの残骸で埋まった、かつての市街地。
立ち上る黒煙、見渡す限りの瓦礫の山、そして戦術機の残骸、破壊され、齧られた戦車。 隠れて見えないが、そこかしこに死体も有る事だろう。

『・・・ええ・・・!』

―――頼るのではない、頼られる立場なのだ、自分は。










1998年8月13日 2230 京都・大阪府境 三島郡 某ゴルフ場跡地


「周防」

元々はゴルフ場のクラブハウスだった建物。 今は臨時の戦術機甲戦闘団本部と化している。
夜半に本部の外に出ていたら、背後から声をかけられた。 先任の水嶋大尉だった、美園も居る。

「周防、ちょっといいかい?」

「水嶋さん、何です? 美園も?」

手招きしている水嶋さんの方に歩み寄る。 連日の戦闘の疲れか、やや疲労の見える顔に苦笑を張り付けつつ。 美園は渋い顔だ。 3人集まった所で、水嶋さんが話を切り出した。

「周防、アンタのとこ、何機残ってる?」

「・・・9機ですけど?」

今更言われるまでも無い、さっきまで一緒に出撃していたのだ、水嶋さんも把握している筈だが? そんな疑問を余所に、さっさと話しを進めて行く先任中隊長。

「だよね? 私の中隊は8機残っている。 美園の中隊は今日の損失で、残り7機・・・」

合計24機、2個中隊分。 大隊戦力と言うにはお粗末な数字だ、中隊戦区には多過ぎ、大隊での阻止戦闘では不足する。

「それにさ、どこも中隊にしては機数が足りない。 どこかで無理が出るよ、実際今日の戦闘じゃ、美園のトコがそうだったし」

8機では組めて2個小隊、前衛にも、後衛にも負荷が大きくかかる。 9機だと無理をすれば3個小隊を編成できるが、小隊毎の負荷が嵩む。 7機では・・・ 論外だ。

「でしょ? じゃあ、周防も賛成だね?」

「・・・美園が渋い顔をしているのは、この事ですか」

「仕方ないでしょ、アンタのトコは3機不足、私のトコは4機不足、併せて7機の不足。  で、美園のトコが7機・・」

その言葉に、それまで渋面をして無言だった美園が、頭をクシャクシャとかき混ぜながら、溜息をつきつつ言った。

「はあ・・・ 判りました、判りましたって。 私の中隊、一時解隊しますよ」

「悪いね、美園。 一時、アンタの指揮権を預からして貰うよ。 でもこうしなきゃ、生還率が下がる一方なんだよ」

結局、こうするしかないな。 エレメントを組めれば、3個小隊が充足出来れば、中隊戦闘での成果も、生還率も上がる事になる。
とは言え、美園はあくまで第2大隊所属であって、他連隊の中隊指揮官である水嶋さんが、その指揮権をどうこう出来る訳では無かった。
なので、建前上は美園自身が自分の隊の『一時的な解隊』と、『指揮権の一時委譲』を宣言する他、編成上なかったのだ。

「じゃあね、早速だけどさ。 美園、アンタは4機でウチの中隊に入って頂戴。 丁度、ウチの突撃前衛長が負傷して離脱したんでね」

「了解。 ま、元々私は突撃前衛上がりですし。 良いですよ」

水嶋さんの中隊の突撃前衛長が、美園か・・・ 綱引きが手強そうだ・・・

「周防、アンタのトコには3機編入するけど・・・ 配属は?」

「・・・制圧支援2機に、強襲前衛が1機ですか。 制圧支援は1機残ってますので、ちょっとバランスが悪いな・・・」

「あ、それなら大丈夫。 前は砲撃支援やっていた奴ですから」

組み合わせに悩んでいる所に、美園から助け船が出た。 それなら丁度良い、戦死した倉木が打撃支援、負傷した宇佐美は制圧支援で、浜崎が強襲前衛だった。
これで俺と水嶋さんの中隊が、定数を充足させる事が出来た。 編制上、3個中隊が2個中隊に減った訳だが、それでも定数減・戦力減で戦うより余程良い。

「後は・・・ 周少佐に報告するとして、だ。 問題は・・・」

「はあ・・・ あの、『政治協理員(連隊付政治将校)』ですよね・・・」

厄介な話だ、国内でこんな問題を抱える羽目になるとは、考えもしなかった。 
今、俺達は分派されて中韓連合軍団(4個旅団で構成)の、独立機甲戦闘団の指揮下に入っている。

元々、『国連軍』の大枠の元で増援として派兵されたのは、大半が米軍なのだが(陸軍、海兵隊、海軍)、他に大東亜連合から1個師団(インドネシア軍第2師団)と中韓連合軍団がある。
この内、米軍の第2師団は壊滅した(後々、厄介な事にならなければ良いが・・・) 米第25師団と第6空中騎兵旅団は淀川の対岸、八幡辺りで戦略予備と言う名の引き籠りに入った。
インドネシア軍は米第25師団と共に、淀川南岸の防衛線を担当している。 『引き籠り』と揶揄する者も多いが、実際あそこを抑えなければ、奈良盆地への入口がガラ空きになる。
そして中韓連合軍団本隊は、現在の所は南部防衛線―――大阪市内中心部への突破阻止を戦っていた。 
あそこには第2軍主力と海軍陸戦師団が2個師団、それに米海兵第3師団が陣取っている、大丈夫だろう。

そして北部防衛線は、亀岡盆地からの約3万のBETA群の圧力を支える第1軍が、激戦を展開中だった。 
その南北両戦線の間隙を突く様に、約1万のBETA群が川西市から高槻市北部へと侵入して来たのだ。
この方面の本来の防衛部隊は、第2軍第7軍団。 しかしその第7軍団も指揮下の4個師団の内、2個師団を南部防衛戦の増援に出していた。 
1個師団は山崎の辺りで、対岸の米軍・インドネシア軍と防衛線を張っている。 残るは1個師団―――第20師団のみが即応出来るに過ぎなかった。

そこで急遽、中韓連合軍団から6個中隊の戦術機部隊と、4個中隊の機甲部隊、2個中隊の自走機関砲部隊が抽出された。
規模的には大隊以上、連隊以下。 取りあえず連隊相当の独立機甲戦闘団として、第20師団の増援にかけつけた訳だ。

そこに、本隊から分離された俺達3個中隊が臨時に分派された訳だが・・・ 大陸でも経験はしたが、各国合同部隊は指揮系統が難しい。
取りあえず、戦闘団長(連隊戦闘団司令)は最大兵力を抽出した中国軍から、杜月栄(ドゥ・ユェロン)大佐(上校)
彼に下に戦術機甲中隊8個(中国軍3個、日本軍2個、韓国軍2個、台湾軍1個)と戦車4個中隊(中国軍2個中隊、台湾軍2個中隊)、そして韓国軍の自走機関砲2個中隊が配された。
戦術機甲部隊指揮官は、周蘇紅(チュウ・スゥホン)少佐(少校)。 戦術機甲中隊は当初9個だった。 だがこちらの都合で今は8個中隊、この説明が面倒くさいのだ。

戦闘団の指揮権は一応、中国軍の杜大佐が持っている。 戦術機甲部隊の元締めも、中国軍の周少佐だ。
ここまでなら、取り立てて厄介な話にはならない。 事後承認にはなるが、杜団長も周少佐も承認してくれるだろう。
ところが中国軍、いや、共産圏の軍には厄介な存在が居る、『政治将校』と言う奴だ。 ご多分に漏れず、今回も同行してきやがった。
しかも厄介な事に、中国軍の政治将校は共産圏の軍隊の中で、最も権力を有する事で知られている。 歴とした副指揮官なのだ。
主に部隊長の次席として政治工作を担当するが、第二梯隊や予備隊を指揮する職責でもある。 それに副署権限を有していて、政治将校の署名無き命令は無効だと言う。
この厄介な政治将校、今回は団(連隊)規模なので『政治教理員』と言うらしいが、その担当官の羅蕭林(ルゥオ・シャオリン)中佐(中校)が、これまた堅物だった。


「・・・あの『冷血女』が、果たして部隊数減に納得するかどうか・・・」

「聞いた話じゃ、所謂『太子党』らしいですし。 団長の杜大佐も、強くは出られないとか」

「さっき、周少佐を面罵していましたよ、あの女・・・」

羅中佐(中校)の一族は過去、中国共産党中央政治局委員や全人代常務委員長、更には共産党中央政治局常務委員を輩出した、超一流の『名門』だそうだ。
実父は党中軍委(共産党中央軍事委員会)委員だと聞く、親戚には党のお歴々が並ぶとも。  夫は上海閥の党経済官僚だ、立派な『太子党』―――特権階級だった。

団長の杜大佐は所謂叩き上げで、大陸で戦っていた頃はもっぱら地方の集団軍に居たらしい。 見かけはうだつの上がらない50男だ。
悪い事に、周少佐は上海出身で・・・ 上海閥を抱え込む『太子党』には頭が上がらないそうだ。
彼女の父親は普通の、中堅の党経済官僚らしい。 ここで無茶をすれば、台湾に避難した父親に火の粉が降りかかる。
羅中佐もその辺の身辺情報を把握していて、周少佐には強気で出て来るから始末に負えない。

「さっき、台湾軍の曹大尉(曹徳豊大尉)と、韓国軍の韓大尉(韓炳德大尉)からも相談を受けましたよ。
我々は臨時的に指揮下に入っているが、中国共産党の『政治指導』を受ける立場では無い、と・・・」

「場合によってはさ、こっちは本隊に連絡して、20師団の指揮下に入り直す事は出来るね。   台湾と韓国も誘う?」

「最悪はそうですが、その前に連隊本部に連絡して・・・ 師団か、軍団本部から正式な『一札』を貰った方が良いんじゃないでしょうか?
台湾軍と韓国軍も同じでしょう、ここで下手にあの『冷血女』を刺激したら、周少佐に迷惑がかかりますし」

部隊編制上、機甲部隊と自走機関砲部隊は、杜大佐が直接握っている。 そして戦術機甲8個中隊の内、中国軍の3個中隊は予備隊として羅中佐が握っていた。
問題は、日本・台湾・韓国の5個中隊が周少佐の指揮下だと言う事だった。 我々があの羅中佐に面と向かって対立すれば、それは周少佐に跳ね返ってくる。

「判った、じゃ、私からウチの連隊経由で貰う様に話してみるよ。 曹大尉と韓大尉には周防、アンタから話して」

「了解です」

「んじゃ、私は趙大尉(超美鳳大尉)と、朱大尉(朱文怜大尉)を慰めてきますよ~」

―――唐突に、美園が変な事を口走った。

「美園・・・ なんだ? それ・・・?」

「いやね、あの『冷血女』が握る予備隊じゃないですか、2人とも。 胃に穴が空きそうだって、さっき。 もう1人の梁大尉(梁光順大尉)は、取り入ろうと露骨だし」

そう言えば、美園も遼東半島撤退戦以来、あの2人とは面識が有ったな。 
物おじしない所が気に入られたか、2人には結構懇意にして貰っているらしい―――どこか、翠華を連想する所が有るのかね?

「・・・ああ、じゃ、頼む。 くれぐれも梁大尉や郭大尉(郭鳳基大尉・韓国軍)と喧嘩するなよ?」

「まさか。 周防さんじゃあるまいし」









「日本軍に韓国軍、おまけに台湾軍まで。 ふん、ご丁寧にまあ・・・」

3通の電報文を見ながら、羅蕭林中校は縁無しの眼鏡を片手で僅かに上げつつ冷笑する。  見た目は美人と言えるだろう、艶やかな髪をアップに纏めている。
しかしその冷笑する口元が、如何にも冷淡さを示している。 目に宿す光も冷たい性を示す様に、冷え冷えとした印象を与える。
電文を読みながら、羅中校(中佐)は内心でせせら笑っている。 大方、党の制約を嫌った資本主義の走狗共が浅知恵を発揮した、そう言う事か。

「・・・ならばそれでも良い、私にとって京都の防衛など、どうでもよい事だしな」

本国にBETAを迎え撃ったこの国が、一体何時まで保つと言うのだ。 日本帝国自体が消滅しかねないこの状況で、京都に固執してどうなる。
私は純粋に、生きて戻りたいだけ。 そうすれば無事、総政治部入りが出来る。 生きて帰る事だ、極力自国戦力を維持して。 それが最優先されるのだ。 
その為に、自国の戦術機甲3個中隊を『予備隊』として自分の手元に置いた、いざとなれば自分を守らせる為の『盾』としても使える。
もしかしたらあの2人―――超美鳳と朱文怜は反発するかもしれない、しかしだからどうだと言うのだ? 所詮何の後ろ盾も持たぬ野戦将校だ。
いざとなれば尻尾を振ってきた狗―――梁光順を督戦として使う手も有る。 小娘の一人や二人騒いだところで、どうだと言うのだ。

(今更この国で武勲を挙げてもね。 死に体一歩手前のこんな国に、旨味は無いわよ。 外交カード? この国が保てばいいのでしょうけれどね)

そして周蘇紅、あの女は必死に、それこそ命がけで指揮するだろう。 それだけの餌は与えてやった、後はその餌を喰らう為に命をかけるだろう。
あの女の内心など知った事では無い、その結果が大切なのだ。 それはすなわち、自分の身の安全がそれだけ保証されると言う事。 
ああ、そうだ。 あの老いぼれが形式上指揮している戦力も、握っておいておく必要が有るだろうな。

(その為には周蘇紅、頑張りなさい、潰れたって構わない。 大丈夫よ、いざとなればお前の子飼いの部下・・・ 趙美鳳と朱文怜も一緒に潰してあげる、寂しくは無いでしょう?)

所詮は手駒だ、軍内非主流派の将校を2、3人潰した所で影響など無い。 団長の杜大佐(上校)は、戦死させるのは少し拙いかもしれない。 
いや、いざとなったら『名誉の戦死』も有りか? 自分が団の総指揮を手に入れる事が出来る。 あの男にとっては望外の将官への昇進だ―――戦死後、2階級特進で。
まあいい、余程邪魔にならない限り、放っておいても良いだろう。 予備隊の梁光順大尉、あの男はしっぽを振り続ける限りは、飼っておいても良いだろう。

とにかく、生きて帰る事だ。 日本が保てば、それはそれで喜ばしい事だ。 短い派遣期間だったが、それなりの人脈は作れた、何より日本の参謀本部に繋がる人脈が。
彼女が内示を受けている次の部署―――人民解放軍総政治部連絡部(諜報機関)では、持っておいて越した事は無い、いや、持っておいた方が良い人脈だ。
それにこんな僻地に飛ばした相手こそ、自分が戦わねばならない『敵』だ―――党内部こそ、己が生きる場所であり、戦う場所なのだ。
なんとしても、総政治部内の競争を勝ち抜かねば。 党の頂点への階段、その有力候補の党中央軍事委員。 その枠は総政治部と総参謀部が、最も多く握っているのだから。


夜空を窓から見つつ、結局は国益、そして個人の欲望。 それしか確かなものは、この世には無いのだと、羅蕭林中佐は確信していた。










1998年8月14日 0215 大阪市内 大阪城内 元第6師団司令部ビル 本土防衛軍 中部軍集団司令部


「・・・拙い状況、そう言うべきかな・・・」

中部軍集団参謀長、田村守義中将が戦況スクリーンを見つつ、渋面で呻く。 その声を聞いた傍らのG3(作戦主任参謀)も、無言で頷いた。
司令部G2(情報主任参謀)がスクリーンを操作し、戦況を報告する。

「現在、南部戦線(大阪市内前面)のBETA群―――A群は約2万まで削ぎました、南部戦線防衛戦力は陸海、そして米軍と中韓連合併せて約8個師団。
これに第9軍の3個師団―――第14、第18、第29師団を戦略予備として有します。 もっとも最後の3個師団は、戦力50%減ですが」

皆が頷く。 この方面は大丈夫だろう、何と言っても他に日米両艦隊の洋上支援を受ける事が容易な位置だ。
第14、第18、第29の3個師団を安易に潰してしまったと言う苦い思いは有るが、それでもこのまま後方に置いておけるだろう、再建は可能だ。

「北部戦線(京都西部)のBETA群はB群の約3万、これを第1軍(第1軍団、第2軍団)が防戦中です。 状況は推され気味であると、先程参謀長の笠原閣下(笠原行雄中将)より報告が」

「・・・それでも、あの方面は亀岡から通じる狭隘部を抑えれば、まだまだ抵抗は可能だ。   山間部が多い」

田中参謀長が横合いから口を挟む。 その言葉にG3(作戦主任参謀)がやや遠慮勝ちに異論を返した。

「お言葉ですが、参謀長閣下。 逆に申せば支援部隊―――特に機甲部隊の展開が困難な地形でも有ります。
戦術機甲部隊だけでは全てを掃討できません、山間部の残敵掃討―――小型種の掃討は機械化歩兵装甲部隊が行いますが、その損害も無視できません」

それはそうだ、如何に戦術機が、現在人類が持ち得る最良の対BETA兵器で有ろうと、決して万能ではない。
無数とも言える小型種の補足・殲滅は、地形が険しい程、複雑な程困難となる。 実際に見落として後方へ侵入されるケースも目立ってきていた。
それに対応するには、平地で有れば機甲部隊や自走高射砲・自走機関砲部隊をズラリと並べての阻止砲火を展開する所だが、山間部はそうもいかない。
結局は機械化歩兵装甲部隊、或いは機動歩兵(自動車化歩兵部隊)で『戦線』を構築して対応するしか方法が無いのだ。
そこが悩み所でも有った。 視界が限られる山間部では、歩兵の視認範囲も限られる。 咄嗟に出現した小型種との肉薄戦闘、歩兵の精神を蝕んでやまない状況だ。

戦況報告が続く。

「現在は第1軍団が右京区の愛宕山(924m)を中心に、亀岡盆地出口の北側を押さえております。 第2軍団はその南、老ノ坂峠を北端に西京区に布陣、阻止戦闘を展開中。
後詰に斯衛第1聯隊戦闘団が花園に、斯衛第2聯体戦闘団は桂に布陣。 なお、斯衛第1聯隊から1個警護中隊が、将軍家居城に残留しております」

この方面も、実質8個師団相当の戦力。 それに琵琶湖には先日来、海軍第1艦隊第2戦隊(戦艦『信濃』、『美濃』)を主力とする水上打撃戦部隊が入って支援砲撃を行っている。
昨日夕刻には、米第3艦隊第35任務部隊(CTF-35)の戦艦『ミズーリ』、『ウィスコンシン』と大型巡洋艦『ハワイ』、そしてイージス巡洋艦が3隻、琵琶湖に展開した。
他に第30任務部隊(CTF-30)の戦術機母艦『ニミッツ』、『エンタープライズ』の2隻を中心とする、米第3艦隊主力が伊勢湾に展開中だった。
伊勢湾には他に、第1艦隊から分派された第3航戦の戦術機母艦『雲龍』、『翔龍』が展開している。 米第3艦隊のイージス巡洋艦3隻、イージス駆逐艦10隻、日米の打撃(ミサイル)駆逐艦10隻が随行していた。
他には海軍第5艦隊(基地戦術機甲部隊)の5個戦術機甲戦闘団(大隊規模)が、各所に布陣している。
北陸の小浜に1個、滋賀県の比良山系に2個、そして淀川防衛線後方に2個。 今の所、動かせられる部隊は淀川防衛線の、2個戦術機甲戦闘団のみ。

「第1軍の負担は大きいモノが有ります、しかし琵琶湖からの艦砲射撃、伊勢湾からの長駆強襲支援のお陰で、何とか戦線を維持出来ております。 問題は・・・」

G2がそこで言葉を区切る、そして皆の視線が一点に注がれた。

「残るBETA群のC群1万2000に、南部戦線に居たBETA群5000と北部亀山方面から迂回南下したBETA群約4000、併せて2万1000が高槻市北方で合流。
大部分が淀川まで南下後、北東方面―――京都の『柔らかい下腹』に殺到しかけております」

BETA群総数、約7万1000。 先月18日から再開されたBETAの大規模侵攻時、近畿西部域に居た約9万4000程だったBETA群を、一時は7万を切る程まで猛攻を加えた。
しかし2日前の8月12日夕刻から夜にかけて、九州に居たBETA群のうち、約1万5000が長駆加わった事により、再び個体数が8万を越したのだ。
この際に南部防衛線の精鋭部隊である3個師団―――第14、第18、第29師団が継戦能力を喪失する程の損害を受けた。
これを受け、中部軍集団は京都の放棄を前倒しにする事を決定。 本土防衛軍総司令部も承認を下した。
現在京都では、最後の脱出作業が行われている。 しかし未だ残る22万の市民、そして38万の周辺市町村の住民は、間に合わないだろう。

そんな矢先の、南北両戦線の中間地点への、BETA群の強襲であった。

「現在は第7軍団(第2軍)が急遽防衛線を構築しております。 しかしながら第5師団(第7軍団)は南部防衛線に増援として派遣しており、動かせません。
残るは第20、第27、第40師団の3個師団。 ただこれだけでは如何にも戦力が不足します。 このうち第20と第40個師団は丙師団、保有する戦術機部隊は各々1個大隊です」

呻き声が漏れる。 対BETA戦闘の要とも言える戦術機部隊が、合計で5個大隊しか無いとは。 これでは阻止出来ない。
その時、G2に変わりG3(作戦主任参謀)が前に出た。 手にした紙にチラリと視線を落とし、説明を始める。

「確かに第7軍団のみでは、2万以上のBETA群を阻止する事は不可能です。 如何に周辺の地形が狭隘な(軍事的に見て)地形で有ろうとも。
今回これに、八幡市に予備として展開中の大東亜連合軍1個師団(インドネシア『シリワンギ師団』)と米軍第25師団を加え、5個師団で防衛線を構築します」

米第25師団―――その名に周りがざわめく。 G4(補給主任参謀)が躊躇いがちに発言した。

「G3に質問。 米第25師団を動かすとの事だが・・・ ライス大将(国連軍太平洋方面第11軍司令官・兼・在日米軍司令官)は了承したのか?」

ついこの前、今月の初旬に発生した米第2師団壊滅事件、『三田事件』の余波は未だ収まっていない。 現在、帝国軍と在日米軍の間には、微妙な壁の様な空気が有った。
ライス大将はあの事件の直後、怒り心頭で本国政府に対して、国連安保理での指揮権一元化を要求した程だ。 
帝国にとって幸いにも指揮権の独立は守られたが、反対に在日米軍の協力体制が微妙な変化を起こしている。

G4の質問に対し、G3はやや冷ややかな目で見据え、言い切った。

「そんなもの、あの頑固な将軍が承認する訳が無かろう? 確かに米25師団は『国連軍』指揮下だ、我が帝国軍が命令を下せる系統には属さない。
しかしな、彼等も馬鹿では有るまい。 今の位置関係を把握できる能力さえあれば、協力せざるを得ないこと位は判る」

そう、少なくとも将官の地位に達した者であれば、その位の結論を出せて然るべきだ。 出来ない者は―――知った事か、勝手に死んでしまえ。

G3の言に、G4とG1(人事主任参謀)が反対する。 如何にも後々、しこりを残し過ぎる決定だ。 今でもライス大将の堪忍袋が切れかけなのだ、これ以上の刺激は・・・
そこまで考え、G1もG4も押し黙る。 実際問題として、G3の言う事は『正しい』のだ。 ここで山崎から八幡にかけて防衛線を構築しなければ、南から京都を直撃される。
それだけでは無い、そこからもし南下されれば京田辺市、更に一直線に奈良市。 現在大阪に集中している避難民を脱出させる輸送経路が、BETAによって直撃されてしまう。
それでなくとも、京都と大阪府北部が戦場となった今、民間人の犠牲者数は推定で2000万人を越し、2200万人に達する。 近畿だけでも900万人がBETAに殺されたのだ。
この上、奈良を蹂躙されてしまえば、未だ脱出を果たせていない民間人の残り約2000万人も犠牲になってしまう。
光線属種の脅威が無視できる距離に、大規模な港湾施設は存在しない。 現時点では陸路を大阪から奈良に抜け、そこから三重、そして愛知県に脱出する経路しか残っていない。
東海道は未だ滋賀県までは健在であるが、このルートは完全に軍が占有している。 貴重な兵站路だ、ここを民間人に開放する訳にはいかなかった。

「・・・判っただろう? もう、動かすしかないのだ」

G3が腹から絞り出す様な声で言う、彼とて米25師団を動かすリスクは承知の上だ。 しかしここで動かさなければ、全戦線は崩壊する。
皆が押し黙ったその時、片隅から誰かが小さく呟いた。 その声は小さなものだったが、静まり返った室内で予想以上に大きく聞こえた。

「・・・だから、さっさと京都を放棄して、東京に脱出すればよかったのだ。 そうすればこんな事には・・・」

「ここで政治批判は止めたまえ! 我々は軍人だ、戦場を論じるは良いが、それ以上を―――『戦争』と『政治』を論じるのは止めよ!」

田村参謀長が厳しく叱責する。 その視線の先で、若手の参謀少佐がバツの悪そうな表情で頭を下げていた。
一連の流れを、それまで無言で聞いていた中部軍集団司令官の大山允大将が、ゆっくり口を開いた。 視線は戦況スクリーンを見据えたままだ。

「・・・第2軍に下命。 現時刻を以って第7軍団指揮下に大東亜連合1個師団、米軍1個師団を置き、防衛戦闘を為せ」

「はっ!」

参謀長の田村中将が一礼し、G3に合図する。 G3はそのまま命令文書作成を部下に命じ、更に詳細な戦力評価を命じた。
司令部内が慌ただしくなる、G2は各軍、各軍団に最新の戦況情報を知らせる様、部下に命じている。 G4は兵站本部へ走った、新たな戦場への兵站路を確立せねばならない。

「―――閣下、参謀長」

その騒ぎの中、G1がやや躊躇いがちに司令官と参謀長へ話しかけた。

「何かね? G1?」

参謀長が書類に視線を落したまま、聞き返す。 G1の口調は変わらず躊躇いがちだった。

「先刻、第2軍司令部より報告のありました・・・ その、分派されて第20師団と協同しております、独立機甲戦闘団の事で有りますが・・・」

その言葉に最初、司令官の大山大将も参謀長の田村中将も、一瞬どの部隊か判らなかった。 ややあって、田村参謀長が思い出したように言う。

「・・・ああ、あの部隊か。 それがどうした?」

「実は、中韓連合軍団司令官(司令員)の張震少将より連絡が入りまして・・・ 政治将校、厄介な存在だとの事です。 共産党要人の親や親族が多い人物だと。
出来ればその・・・ 後方へ回せないかと、相談が。 軍団政治将校の夏武大校(上級大佐・准将)からも内々に連絡が」

その言葉に大山大将は無言で首を振り、田村中将は呆れた口調で言った。

「おい、ここは日本だ、日本本土だ。 今更、中共の内部のゴタゴタを持ち込むなと言っておけ。 それに今や貴重な戦術機甲戦力だ、後ろに下げられる訳はなかろう?」

その言葉にG1はバツの悪そうな表情で敬礼し、その場を下がった。 司令部を出て自身の執務室に戻る間、さて何と言って断ろうか、思案が纏まらなかった。
それでなくとも、京都の城内省(の、残留部局)との折衝が続いている。 やるべき事は山ほどあった、確かに今更中共の内部事情に煩わされる余裕はない。
それに未だ政威大将軍が、東京への脱出を納得しないのだ。 さっさと逃げ出して貰わねば困る、最終的に京都盆地をBETAの墓場にする事が出来なくなってしまう。 
その為の準備は、決して将軍家や斯衛に気取られてはならない―――政治的に拙い。 国民感情的に拙い。

(―――『戦争』を語るな、か・・・)

先程の参謀長の言葉を反芻する。 『戦争』は外交手段の一環、『政治』に属する国家行為。
では一体、今の準備は何なのだろうか? 『政治的』に、『国民感情的に』、拙い―――これはもう、立派に『政治的判断』ではないのか?
滑稽だった、だがこの世の中に滑稽以外の事が有ろうか? どれもこれも、真剣に考え、事を為そうとする事は、何時でも滑稽そのものだ!










1998年8月14日 0350 大阪府高槻市北部 ポンポン山(679m)山麓 国道79号線付近


夜の闇の中、人工的に輝度調整された網膜スクリーンの視界は、どこか別の世界の様に感じる。 しかしその視界の先に有る脅威は、実在するのだ。
北摂の山岳部から平野部に降り立ったその場所は、京都の南に位置してその『柔らかい下腹』の入口であり、そして淀川の過ぐ近くまで山間部が迫る『防衛地形』でもあった。


淀川沿いに突進して来たBETA群に向け、中国軍の88A式戦車、台湾軍のM60A3戦車が、それぞれの105mmライフル砲を一斉に発砲した。 
120mm砲滑腔砲と比べるとパワー不足の感が否めない105mmライフル砲だが、近距離での砲撃なら充分突撃級の装甲殻を射貫通出来る。
横合いから一斉射撃を受けた突撃級が20数体、装甲殻や節足部を撃ち抜かれて内臓物や体液を撒き散らしながら数10mを進み、停止する。
次の瞬間、突撃級の後方を進んでいた要撃級、そして戦車級が一斉に方向を転換した。 戦車部隊を認識し、そちらに向かったのだ。
機甲部隊が3連射を加えた後、一斉に後退を始める。 全速後進で新幹線の高架下を潜り抜けかつては田畑で有った荒れ地に侵入し、そのまま停止。 
向かってくるBETA群に戦車砲を浴びせかけ、同軸機銃を撃ちまくる。 しかしその程度で全てのBETAを殲滅出来る訳ではない。 
ましてや戦車部隊は2個中隊しか居ないのだ。 対してBETA群は1000体以上、動きの速い小型種は捕捉も出来ない。

更に北西へ向かって全速後退を続け、やがて国道を越し、国鉄の線路をも超える。 左手に小高い丘陵を見つつ更に奥、山間部の麓近くまで後退したその時。


『フラガラッハ・リーダーより≪イシュタル≫! そっちに大型種! 要撃級50、抜けた!』

『イシュタルよりフラガ、了解! 美園、潰すよ!』

『了解! B小隊、突っ込め! 光線級はまだ居ないよ!』


北側の丘陵部から、一群の戦術機が噴射跳躍で一斉に飛びかかった。 
瓦礫と残った家屋、空き地、そしてBETA群。 その位置関係と最適な攻撃位置を瞬時に把握し、最適な位置取りを選び、ピンポイントで着地する。
BETA群の右側面を占位した戦術機群、2個中隊から突撃砲の砲弾が降り注ぐ。 節足部を撃ち抜かれて停止する突撃級。 無防備な横腹を射貫される要撃級。
小型種は120mmキャニスター砲弾からばら撒かれた子弾によって、ズタズタにされ、細切れの塊へと変貌する。

戦車部隊が後退する足を止めた。 混乱が生じたBETA群に向け、再び105mm砲を発砲する。 
いつしか丘陵部を隠れ蓑にしていた自走高射砲・自走機関砲も頭上の位置を占位して、40mm、35mm機関砲弾を浴びせかけ、20mmバルカン砲が唸りを上げる。
固い装甲殻を持つ突撃級や、それに匹敵する前腕を持つ要撃級と違い、比較的脆い小型種BETAが、この猛射で次々に飛散して行く。

『戦車隊、そのまま一旦後方の斜面を高台まで上がってくれ! 上から俯角を取って砲撃出来るか!?』

『出来ん事もない、しかし近づき過ぎた小さい連中には、ちょっと対応できんぞ!』

『それは、こちらに任せな!』

通信回線に割り込んできた声。 見ると自走機関砲部隊が1個中隊、道路上を高速で自走してきている。

『こっちは右手の高台に陣取る! 丁度十字火線を形成できる地形だ、小型種はこっちが引き受ける、デカイ奴は頼むぞ!』

そして北側の高台に上った戦車隊が、105mm砲を並べて突撃級や要撃級に砲火を浴びせ、東側の高台の自走機関砲部隊が20mm砲弾の猛射で、小型種をなぎ倒してゆく。
その状況を確認した戦術機部隊が動いた。 素早くBETA群の後方を迂回し、半包囲を構築する。 小型種には36mm砲弾を、大型種には背後から120mm砲弾を撃ち込む。
ほぼ全周囲の火網によって、BETA群の統制は完全に乱れた。 高速接地旋回をかけた要撃級が、突っ込んできた突撃級をぶつかり合う。
もつれ合っているその場に、複数の120mm砲弾が叩き込まれる。 小型種が密集した場所には、自走機関砲弾と戦術機の突撃砲から曳航弾が、細長い光の帯の様に降り注いだ。


やがて1000体程のBETA群の殲滅に成功する。 辺り一面、BETAの内臓物や体液で酷い有様だ。 
かつては人々の営みが為されていた家々、そして田畑。 賑わった商店街、子供達の笑い声が絶えなかっただろう通学路、公園・・・
今はBETAの残骸で埋め尽くされている、やがて凄まじい腐敗臭を放つようになるだろう。 上空からは重金属雲も流れ込んできていた。


『イシュタル・リーダーよりフラガラッハ・リーダー、この辺は片付いたようね?』

『フラガよりイシュタル、ええ、残存BETA無し。 戦車隊、そっちからは?』

『・・・見えねぇな。 少なくとも有視界範囲には居ない。 ま、2個戦術機中隊に2個戦車中隊、自走機関砲1個中隊で叩いたんだ。
光線属種の居ない1000程のBETAどもだったからな、これで店じまいだろうよ。 どうだい? 韓国軍?』

『同意する、ここにBETAはいない』

指揮官達が同意した。 念の為暫く全周警戒陣を敷き、周辺警戒に当る―――やはりいなかった。
やがて別方面から戦術機部隊が合流する、韓国軍の2個中隊と、台湾軍の1個中隊だった。

『チンロン・リーダーよりイシュタル、フラガラッハ、エリアC2Rの掃討は終わった。 600体程だった、時間はかからなかったよ。
ファラン、チルソン、各中隊とも損失無し。 そちらは?』

『イシュタル・リーダーだ、こっちも損失無し。 悪いね、曹大尉。 支援部隊の大半を回して貰っちゃって』

『ご心配無く、水嶋大尉。 我々の方は光線級も居ない、小型種ばかりの集団でしたし。 大型種の居るこの方面に支援部隊を回すのは、理に適っています』

あくまで真面目に対応する曹大尉。 チルソン中隊(韓国軍)の韓大尉も好意的な笑みを浮かべている。
反面、ファラン中隊(韓国軍)の郭大尉は面白くなさそうな表情だ。 しかし『仕事』はキチンとこなしている。 ここはあえて波風を立てる必要も有るまい。

『さて、じゃあそろそろ防衛線に戻りますか。 ここで何時までも居たら、へたすりゃ孤立する』

周防大尉が意識的に明るい声で言う。 深刻な表情はいずれ嫌でもする事だろう、ならせめて小さな勝利でも、喜ぶべきだ。

『そうだね、そろそろ戻っておかないとね―――イシュタル・リーダーよりCP、周辺掃討完了!』

≪CP、了解。 各隊は防衛線内に撤収せよ≫

『了解。 よし、各隊、撤収する!』

大阪方面からの流入も始まっている、そろそろ高槻市内に流入したBETA群の、本格的な前進も始まるだろう。
ようやく第7軍団、そして増援の大東亜連合、米軍部隊も布陣を完了した。 合計5個師団、そして独立戦闘団(旅団規模)、これで2万からのBETA群を支えねばならない。
いや、何とかなるか? 支えるにしても、この24時間程が勝負だ。 噂では、あと数時間後には京都撤退作戦が発令される見込みだと言う。

『・・・にしても、クソ、司令部の連中め。 中共の戦術機部隊は、きっちり温存してやがる』

『周少佐も、何を考えているのだか・・・ 前評判と違わないか? どう思う? 水嶋大尉、周防大尉?』

問われた2人も、苦笑しつつ首を横に振るしか無かった。 
何が有ったのかは知らない、しかし2人が知る周蘇紅と言う女性と、今現在、団の戦術機甲部隊指揮を執っている周少佐との乖離には、彼ら自身も戸惑いを隠せないでいた。





1998年8月14日 払暁―――最後の24時間の幕が上がる。





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