<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20952] 終章 前夜
Name: samurai◆fb16190c ID:d442e510 前を表示する
Date: 2021/03/06 15:22
2001年12月30日 0025(日本時間12月30日1425) アメリカ合衆国 ニューヨーク 国連本部ビル


「ならば、合衆国は『餌』に食いついたと・・・」

「ああ・・・『アトリエ』攻略を独占できるのだ、どちらに転んでも損は無い・・・」

「日本の国連全権大使も、渋々、の様子だったな・・・」

「あれはポーズさ・・・『アトリエ』攻略を米国に独占させる代わり、第4計画の接収を認めさせたからな・・・」

各国の代表団の間で囁かれる話。 全世界は急遽、大博打以外の何物でもない大作戦を決行することとなった。 その信ぴょう性はUNCSC(国連統合参謀会議)が示した。
国連へ派遣されている各国軍人も、同じだった。 この異常な作戦、その真意、その意味、その影響・・・少しでも自国の国益に利する情報の収集に努めている。

ただ時間がない。 作戦発起は2001年12月31日1500(日本時間2002年1月1日0500)、あと38時間30分しか残っていない。
その間に戦闘序列を決定し、動員し、兵站準備を整え、部隊を移動させ、作戦を周知させ・・・軍事的には『素人の妄想』と称して良いはずだ。

「リヨンは大西洋総軍第1軍。 ロヴァニエミは大西洋総軍第3軍が多少の陽動か・・・」

「ロヴァニエミは仕方あるまい。 北欧諸国には余力が全くない、ミンスクも同じだ。 東欧の連中と、ソ連軍の一部がちょっかいをかけるだけだ」

「ブダペストは地中海総軍第1軍。 マシュハドとアンバールはインド洋総軍。 定期便以上の事は出来まい? 下手に突けば今度こそスエズを越されかねん」

「マンダレーは太平洋総軍第12軍だが・・・敦煌も担っている。 無理だな、あそこはH21に抽出した戦力が、未だ日本に残っている。 ましてや敦煌まで、など・・・」

「重慶、鉄原、ブラコエスチェンスクの3か所は太平洋総軍第11軍だが・・・論外だ、先日の横浜で戦力を消耗しすぎた。 日本もそうそう大規模な派兵は出来まい」

「北樺太のソ連軍は、流入阻止に必死だしな。 妥当な線で、日本軍主体で鉄原への陽動か。 統一中華はどうかね?」

「福建の大陸橋頭堡の確保が精一杯の連中だぞ? 重慶まで直線距離でさえ、1400㎞だぞ?」

「愚問だったな。 まともな陽動を仕掛けうるのは、リヨンへの大西洋総軍第1軍とEUの連合軍。 ブダペストへの地中海総軍第1軍とアフリカ連合派遣軍だけか」

「鉄原へは、日本軍の西部軍集団と九州軍集団(第2総軍)から、数を出すそうだ。 代わりにまだ日本にいる国連軍第11軍の指揮権を寄越せと」

「飲まねばなるまい? 今からガルーダスへ帰しても、間に合わん。 せめて東西で陽動を仕掛けねばなるまい」

「ただし、横浜の指揮権は、今作戦終了までは国連に属する事で、日本を了解させた。 何せ、あそこの魔女殿の立案案件だ。 まだ指揮権移譲は出来ない・・・横浜だけは」

「それ以外は? 米太平洋艦隊は?」

「ごねている。 が、海上作戦の統一指揮権を、日本海軍の小澤大将から第7艦隊のヴァン・ヴァスカーク中将に移管する方向で調整中らしい」

「小澤提督では、米国も感情的に納得しないだろう。 陸上と、統合作戦指揮は?」

「日本の嶋田大将だ。 昨日、予備役編入されたのだが・・・即日招集、部隊を押し付けるそうだ。 もっとも大将クラスで、野戦を任せうる人材が、今の日本は払底している」

「・・・あのクーデター騒ぎか。 統合作戦指揮は嶋田大将、陸上作戦指揮は誰が?」

「宮嵜中将。 第2総軍の司令官、今邑大将は日本本国に留まる」

「妥当か。 あの将軍は戦上手だ」






2001年12月30日 1645 日本帝国 若狭湾 舞鶴 戦術機揚陸艦『松浦』


「艦長、いったい何なのでしょう、今回の出撃は・・・?」

「副長、俺程度では、そこまでの情報は判らんよ」

戦術機揚陸艦『松浦』は、多忙の極みの中にいた。 大量の物資の搬入。 『松浦』は完全充足の1個戦術機甲大隊を『運搬』出来る艦だが、今のままでは半数しか運搬できない。
運搬作業を見つめる、艦橋内の艦長と副長。 海軍内での傍流ゆえに、こういう時は情報が少なすぎ、言い知れぬ不安感が拭えないものだ。

「なんにせよだ。 正月の0500には半島東岸の、旧江陵市沖合50㎞の海上に達しなければならん。 巡航20ノットで丸1日、明日(12月31日)0400に出港だぞ」

「あと11時間ですか・・・」

副長としては、甲21号で受けた損傷が、応急修理だけと言うのが気にかかる。 機関も出来ればオーバーホールさせたいと、機関長より懇願されている。
甲21号作戦後、12月26日に若狭湾に入泊して4日。 応急修理と負傷した乗員の後送、及び半減上陸(と言っても、BETAに食い荒らされた市街は何もないが)

「・・・今度は、いったい何を運ぶのですかね・・・」

「副長、本艦は『戦術機運搬艦』だぞ? それ以外、何を運べと?」

「そして、半島東岸へ、ですか・・・ああ、嫌だ、嫌だ・・・」

「正直は美徳だがね、副長。 その言葉は、俺の前だけにしろよ?」






2001年12月30日 1700 日本帝国 松戸 第15師団駐屯地


「嫌だ、嫌だ・・・本当に、嫌だ・・・」

どこかで、誰かが呟いたセリフと同じ言葉を、周防少佐が顔を顰めて呟いている。 周囲の部隊長級も同感だが、周防少佐ほど『素直に』なれないでいる・・・苦笑していた。

「いや・・・直衛。 お前、その年と階級になって、嫌だ、嫌だ、は、無いだろ?」

僚友にして親友の長門少佐が、呆れ口調で混ぜ返す。 大隊最先任戦術機甲指揮官の荒蒔中佐も同感のようで、表情に苦笑を張り付けていた。

「しかし・・・鉄原ハイヴへの陽動作戦、ですか・・・」

佐野少佐が、今一つ納得のいかない顔で呟くと、間宮少佐、有馬少佐も同感だと頷く。

戦術機甲部隊指揮官が使う会議室。 急遽、師団司令部経由で入ってきた命令に、各部隊長も困惑していた。

「参加戦力は第2総軍、西部軍管区から第5師団(甲編成)、第31師団(丙編成)。 九州軍管区から第19師団(乙編成)の3個師団。 それに海軍の聯合陸戦第4陸戦団(舞鶴)」

「米軍から『ラファイエット(第11戦術機甲師団)』と・・・国連軍第12軍からの助っ人で来ていた『インドシナ(UN第23師団)』と『グルカ(UN第123師団)』ね」

「6個師団と1個旅団(海軍陸戦団)、2個軍団・・・ぎりぎり、1個軍相当の戦力。 これで鉄原に・・・?」

佐野少佐、間宮少佐、有馬少佐が読み上げた戦力表。 荒蒔中佐が付け足す。

「上陸はしても、深部侵攻は無しだ。 日本軍は北の旧襄陽郡、米軍と国連軍は西の平昌郡、それぞれの境目までだ。 陽動だからな」

「侵攻距離にして、40㎞行くか、行かないか・・・」

「海軍戦力は第1艦隊と、米第7艦隊? 第2艦隊は、滅茶苦茶叩かれましたしね」

第1艦隊と、第3艦隊から第3戦隊、第2航空戦隊と第12戦隊が分派・合流する。 これに米第7艦隊のうち、第75-2任務群と、第70-1任務群が加わる。

「戦艦6隻(大和、武蔵、駿河、遠江、アイオワ、ニュージャージー)、空母(戦術機母艦)が5隻。 その他諸々・・・まあ、対地支援は受けられますか」

「にしてもだ。 1900に出撃、戦術機での高速移動で、舞鶴まで行け、それも明日の0330までに・・・8時間で松戸から舞鶴だ。 行けるけどな、行けるけれど・・・」

「着いたら、丸々半日、機体の整備が必要だな」

「整備班はヘリに押し込んで、数か所中継して運ぶしか・・・」

甲21号作戦、そして横浜基地防衛戦。 立て続けの激戦。 そろそろ部下たちを休ませなければ。 機体だってオーバーホールが必要だ。

「だから、今回は『選抜中隊』だ」

そう言う荒蒔中佐も、疲労の色が見える。 第15師団、戦術機甲部隊から選抜した中隊規模の部隊を『東部軍の面子が立つために』派遣する。
他にも第14師団、第37師団など、『生贄』にされた主力師団からの選抜中隊も存在する。 が、それで気休めになる訳でもない。

「とはいえ、何時までも愚痴の言い合いではな。 選抜は旅団長(藤田准将)から、俺が一任された。 今から言う、済まんが異論は無しだ」

他の5人の部隊長も、頷く。 実際、軍務なのだ。 そして彼らは部隊長なのだ。

・第15師団選抜中隊
中隊長(兼第1小隊長) 荒蒔中佐
第2小隊長 周防少佐
第3小隊長 長門少佐

留守部隊指揮官 佐野少佐
留守部隊指揮補佐 間宮少佐、有馬少佐

「各小隊の選抜は、周防と長門に一任する。 内容が内容だ、留意してくれ」

「判りました」

「了解です」





「で!? 何故、私が留守部隊指揮官なのですか!?」

第151戦術機甲大隊長室で、遠野万里子大尉が周防少佐に食って掛かっている。 珍しい事もあるものだと、先任の摂津大介大尉と、次席の八神涼平大尉が面白そうな表情だ。

周防少佐が編成表から顔を上げ、平静な表情と声で遠野大尉の『抗議』に反論する。

「・・・うちの大隊からは、突撃前衛小隊を出す。 俺も、摂津も八神も、元は突撃前衛上がりだ。 連れてゆく半村(半村真里中尉)は、現役のストームバンガード・リーダーだ」

「・・・っ!」

周防少佐の淡々とした説明の前に、絶句し、言葉を失う遠野大尉。 彼女自身は打撃支援、又は砲撃支援上がりの衛士で、突撃前衛の経験は無い。
しかも、甲21号で自身の中隊の損害が大きく、横浜基地の防衛戦では大隊長に中隊指揮を委ねざるを得ず、自身は第2小隊(左翼迎撃後衛小隊)を指揮した。

その為に、今度こそは・・・の意気込みだったのだ。

「しかしっ・・・ですがっ・・・!」

「遠野。 貴様の中隊指揮能力に異議を言っているのではないぞ。 貴様は冷静に戦場を俯瞰できる能力がある。 今後、より大きな規模の部隊を指揮できる能力がある」

周防少佐が、諭すように言う。 最近の『強面』大隊長ぶりとは、打って変わって穏やかな声だ。

「要は、適材適所だ。 俺も、摂津も、八神も・・・半村も、いわば『鉄砲玉』上りだ。 逆に戦場では、その辺の空気を互いに読み合える。
そして今回は選抜中隊だ。 俺たち『突撃前衛小隊』の手綱は、中隊長として荒蒔中佐が握る。 支援を長門少佐が率いる小隊がする・・・」

そこで、言葉を区切る。

「貴様も、部下を見ているだろう? フリッカ(第3中隊)の鳴海(鳴海大輔中尉)の小隊だ。 互いにどう動くのか、体に感覚で染みついている。 俺たちもそうだ」

次第に俯き加減になる遠野大尉。 そんな姿に、周防少佐は内心で苦笑する。

(・・・やれやれ。 こう言うと、法務部が五月蠅いが・・・国連軍出向の頃から、女性の部下の扱いは苦手だ・・・俺も進歩が無いな・・・)

そう言えば、初めて死なせた部下は、女性衛士だった。 国連軍時代、イベリア半島。 だからと言う訳ではないのだが。 不意に思い出すものだ。

「不在の間、大隊長代理を命じる。 再建途上の部隊で難しいが、貴様なら任せられる。 もし、俺や摂津、八神が未帰還となれば・・・遠野、貴様が大隊長だ」

「そんなっ・・・ことはっ!」

「ああ、早々、死ぬ気はない。 これでも10年間、しぶとく生き抜いてきた。 俺はせめて、息子や娘が、孫の顔を見せに来るまで、死ぬ予定はないからな」

「うわ・・・フラグ立てたよ、この人・・・」

「いや、案外、立てては自分でへし折ってますぜ?」

「野暮天2人は、黙っていろ・・・遠野、俺からの頼みだ、大隊を暫く頼む・・・」

「・・・卑怯ですよ、そんな物言い・・・」

それでも、渋々ながらも、遠野大尉は抗議を引っ込めた。





「万里子!」

完全に納得はしていないが、それでも大隊長から話を聞き、仕方がないと無理やり内心に押し込めた遠野大尉は、中隊事務室へ戻る途中の廊下で名前を呼ばれた。

振り向くと、同期生が走り寄っていた。

「・・・しのぶ? どうしたの?」

遠野大尉の同期生で、大隊副官兼第2係主任(情報・保全)である、来生しのぶ大尉だった。

ロシア人の血が入ったクォーターの来生大尉は、日本人離れした美貌の持ち主だ。 遠野大尉にとって仲の良い同期の友人だが、内心で見比べられることに、少し自信が無い。

「その様子だと、大隊長に撃破された様ね」

「・・・何よ? 人聞きの悪い。 ええ、ええ! 私が浅はかでした! それでいいのでしょう!? ふん!」

普段は大隊一の『淑女』で通っている遠野大尉だが、親友の前では着ている毛皮の数枚は脱いでしまうものだ。 そんな親友の姿に、来生大尉が苦笑する。

「そうじゃないわよ・・・今回は、何時にも増して、本当に大変。 生き抜くことが大変な作戦。 だから大隊長も、生存の可能性が最も高い編成をした。
そして大隊も大変。 再建途上で、大隊長と中隊長が2人、抜けるなんてね。 だから、誰かがやらなきゃいけない。 中尉、少尉たちを安心させ、士気を保ち、再建を継続する」

横から来生大尉の顔を見ていた遠野大尉が、割と真剣な親友の表情に少し考え込む―――そうなのだろう。 私の場所は、今回の選抜中隊じゃない。

「・・・摂津大尉や、八神大尉に任せていたらって・・・ちょっと怖いわね」

「そうそう。 あの2人より、万里子に任せる方が正解なのよ」

ここに摂津大尉と八神大尉がいたら、大いに異議申し立てをするだろうが・・・やはり、自分は残って、大隊長の後顧の憂いを払拭するのが役目のようだ。
そう考えた途端、すべき事が山のように脳裏をよぎる。 戦死・負傷した大隊員の報告を師団人事部へ。 補充要員の申請もまだだ。 機体の整備の手配も必要。 後は・・・

「こっちも戦場よ、万里子」

「しのぶ、貴女、逃がさないからね?」

吹っ切れたような表情で、中隊事務室へ向かう親友の背中を見て、来生大尉は思う。 

(・・・万里子の『あれ』は・・・恋愛免疫のないお嬢様の『麻疹』の様なものよね・・・)

親友が、上官に対して好意を抱いている事は承知している。 それが決して実らない事である事も(何せ、上官の夫人には、散々お世話になってきたのだから!)

「さっさと・・・他に男を見つけなさい。 全く、手のかかる子だわ・・・」






2001年12月30日 1830 日本帝国 帝都・東京 市ヶ谷 国防省ビル


「祥子」

呼ばれて振り返ると、同期の親友と、1期後輩の親友、2人が連れ立って現れていた。 国防省機甲本部第2部第2課戦力分析班長の綾森祥子少佐は、珍しいものを見る目だった。

「沙雪? 愛姫ちゃん? どうしてここ(国防省ビル)に!?」

同期生の和泉沙雪少佐、1期後輩の伊達愛姫少佐。 2人とも戦術機甲部隊指揮官で大隊長を務めている。 早々、国防省に顔を出す用事など・・・

「・・・ああ、そうか、そうね。 2人とも、戦術機を降りたのだったわね」

ホッとしたような、寂しいような、そんな綾森少佐の表情を見て、和泉少佐が苦笑する。

「だってさ、年が明ければ、私は・・・あんたもだけど、29歳だよ? 愛姫だって28歳のお母さんだよ? いつまでも戦術気乗りって訳にもね」

「でも正直、沙雪さんが統幕3部(統帥幕僚本部編制動員部)の編制課とは、驚きましたけどね」

「私はね、愛姫。 あんたが中央訓練校の『期指導官』になるって人事の方が、腰を抜かしかけたわよ?」

綾森少佐の同期生の親友、和泉沙雪少佐は、年が明ければ戦術機を降り、統帥幕僚本部第3部(編制動員部)編制課勤務を拝命している。 
1期後輩の親友、伊達愛姫少佐も戦術機を降り、こちらは中央(衛士)訓練校の教官、それも『期指導官』と言う重要な役割を任じられていた。

「そうね、期指導官ともなれば、学校長(少将)、副長(大佐)、教務主任(中佐)、訓練主任(中佐)に次ぐ、訓練校のNo.5だものね」

「訓練生にとっての期指導官って、一番影響を受ける相手よ? 誰が考えた人事なのやら・・・」

「いやぁ・・・我ながら、帝国陸軍も度胸があるなぁ、ってね・・・それを言えば、沙雪さんだって。 本来なら陸大(指揮幕僚課程)出身者のポジションじゃない?」

「陸大出の高級将校が払底しているのよ。 私たちの期も1年3か月後・・・再来年度から陸大に放り込まれるし・・・祥子もでしょう?」

「ええ。 来年度は16期が訓練校出身として、最初に陸大入校の期になるわね」

綾森少佐と和泉少佐は訓練校第17期、伊達少佐は第18期だった。

「私も、その予定で言えば2年後の春に放り込まれる予定・・・って、上官から言われたなぁ。 推薦されればだけれど」

「大丈夫でしょう。 愛姫ちゃん、第1選抜に戻ったし。 士官学校出だけじゃ、定員が埋まらないのよ」

そんな話で、しばらく時間がつぶれたが。 そこは現役の陸軍少佐同士。 差し迫った『作戦』の話になった。 和泉少佐が、親友を値踏みするような目で見て、問いかける。

「国防省には、情報回っていなかったの?」

「ええ、事前には、全く。 情報本部が矢面に立たされて、気の毒になってきたわ」

「横浜の発案でしょ? 連中、事前に把握していたのかな?」

伊達少佐の独り言の様な発言にも、綾森少佐は無言で首を振った。 どうやら今回、横浜は『シロ』の様だ。 とは言え、前例にないほど急遽決定した作戦だ。

「祥子・・・あんたのトコ。 愛姫もだけど。 15師団選抜は・・・?」

「課内回覧されたわ。 突撃前衛小隊を指揮するようね。 昔に戻って、無茶しなければいいのだけれど・・・愛姫ちゃんも心配でしょ?」

「まあ、ウチの宿六は・・・その辺、要領良いですからね。 迎撃後衛だから気楽だ、なんて考えているんじゃないですか?」

第14師団でも、和泉少佐と伊達少佐の第37師団でも、選抜中隊が編成されている。 だがそこに彼女たち2人の名前は無かった。

「来年早々の異動が決定している者を出せるか、って言われたわ・・・森宮少佐に」

「本当なら、先任の沙雪さんと私が出るべきなのだけどね・・・美園と仁科には、申し訳ないなぁ・・・」

第37師団選抜中隊は、最先任の森宮少佐が中隊の指揮を執り、第2小隊を美園少佐が、第3小隊を仁科少佐が、それぞれ指揮を執るらしい。 留守部隊指揮官は源少佐。

「源をね・・・押し止めるのが、ホネだったわ」

「最近は落ち着き始めているけれど、まだ『冷たい熱さ』があるかなぁ・・・」

もう1人の同期生の事を聞き、内心で安堵する綾森少佐。 今彼を戦場に出せば、何の感情もなく死地に飛び込むかもしれない。
亡くなった彼の妻も、綾森少佐、和泉少佐の同期生の親友だった。 あれ以来、源少佐がいつも浮かべてきた、穏やかな微笑を見た者はいない。

今は、あまり触れたくない。 綾森少佐は意識して他の話題に持ってゆく。

「14師団は、豪華メンバーよ・・・中隊指揮を宇賀神中佐が。 第2小隊を岩橋中佐が。 第3小隊を若松中佐が。 だって・・・」

「なに!? その鬼神と、武神と、戦神の組み合わせは!?」

「うわぁ・・・14師団の3個戦術機甲連隊、その最先任部隊長ばかり、持ってきたかぁ・・・」

流石に和泉少佐も、伊達少佐も驚いている。 今、名の上がった3人は、現在の日本帝国陸軍戦術機甲部隊指揮官中、確実に5本の指に入る猛者ばかりなのだから。
15師団の荒蒔中佐もその中に入るし、周防少佐や長門少佐も、10本の指には数えられる歴戦の猛者だが・・・14師団の3人の名前と実績には、まだ及ばない。
そして14師団にも、彼女たちの見知った顔は多い。 と言うより、14師団の前身だった部隊に、期間の長短はあれ、以前は身を置いていた彼女たちだ。

「木伏さんは外された様よ。 永野(永野蓉子少佐)から、悲鳴のような連絡があったわ」

「永野、ご愁傷様。 まあ、木伏さんはねぇ・・・来春に退役だしね・・・」

「永野、骨は拾ってあげる・・・少佐にもなって、少尉の頃と同じように、鬼から怒鳴られたくないよねぇ」

宇賀神中隊の第2小隊第2分隊長(3番機)は、永野少佐の様だ。 和泉少佐も、伊達少佐も、薄情なコメントしかしない。 自分がその立場には、今更、絶対に戻りたくない。

「いずれにせよ、『主力』は第2総軍の3個師団と海軍の陸戦団。 それと米軍と国連軍の3個師団。 選抜中隊3個の運用、どうする気だろ?」

「現場の司令官、宮嵜中将でしょ? 何かしら、考えられるわよ」

綾森少佐も、伊達少佐も、内心では不安でいっぱいだ。 彼女たちの夫が、選抜中隊に選ばれている。 甲21号、横浜基地防衛戦。 この半月でどれほどの激戦を。 そして今回。

「まあ、今更、戦場で固まる様な繊細な神経は、擦り切れて無くした面子ばかりだし。 テンパって弾切れ起して、近接戦する羽目になるほど、素直な性根も持ち合わせていないし。
大丈夫じゃない? 前頭葉は産まれてくるときに、ちゃんとお母さんのお腹の中から、一緒に持ち出さなきゃいけなかったのよ、あの面子は」

「沙雪・・・酷い言い様ね、人の旦那を・・・」

「沙雪さんも同じだからね?」

「祥子、顔が怖っ! って、どういう意味よ、愛姫!?」

(・・・気が紛れるなら、付き合ってあげる)

和泉少佐は同期の親友と、1期後輩の親友の顔を見ながら、京都防衛戦で戦死した1期先輩と、クーデター騒ぎで殉職した同期生に話しかけた。

(美弥さん、麻衣子・・・支えになる女を喪った男って、ホント、面倒だったよ。 源は、現在進行形だけどさ・・・だけど、女も同じかもしれないからさ、だから・・・)

「―――あのバカ野郎2人を、そっちに連れて行かないでよね。 お願いだよ?」

小さな、小さな小声だった。 綾森少佐と伊達少佐の耳には、入っていなかった。 





2001年12月30日 2200 日本帝国 若狭湾 舞鶴鎮守府 兵站部事務棟


「で? 何を、どれだけ持って行けるのさ?」

「ビッグ・マム。 取りあえず、手あたり次第、ですよ」

舞鎮(舞鶴鎮守府)兵站部の兵站参謀に、半ば食って掛かるような勢いの沙村予備主計少佐に対し、舞鎮兵站参謀の主計中佐は肩をすくめながら言う。
階級で言うと沙村少佐は『陸軍予備主計少佐』で、兵站参謀は本職の『海軍主計中佐』だ。 陸海の違い、本職と予備の違い、何より中佐と少佐の階級差。
だが新任少尉の頃に艦で庶務主任をしていた彼は、当時の大陸戦線で地上に取り残された際、沙村予備中尉に助け出された事がある。 補給隊のトラックに拾われたのだ。

「何処にあるのさ? そんな物資。 この舞鶴も再建途上でしょうに。 余裕はないはずだね?」

「仰る通り」

1998年のBETA本土進攻で、舞鶴鎮守府は『半壊』の損害を受けた。 山陰から流れてきたBETA群の分派と、海軍連合陸戦第4陸戦団(旅団)が死闘を演じた結果だ。
1999年より再建が始まったが、2年近く経過した現在でも、往時の7割程度の機能しか回復していない。 とは言え、完全に壊滅した呉や横須賀鎮守府よりマシだが。

「舞鶴の兵站は、日本海防備部隊・・・護衛総隊の艦艇に絶対必要です。 常に大和堆を突破してくる海底のBETA群を監視、攻撃しなければなりませんから」

生き残った佐世保鎮守府は半島に対する防御、そして攻勢拠点。 再建途上の呉と横須賀の両鎮守府も、将来の大攻勢拠点。 対して、舞鶴鎮守府と大湊警備府は、海域防備の拠点だ。
それなりの海面面積を有する日本海。 半島の鉄原ハイヴ、大陸のブラコエスチェンスクハイヴ。 この2か所から日本海に流入するBETA群を日々監視し、追跡し、時に攻撃し・・・

これを休む日無く、毎日繰り返さねばならない。 消費される物資は膨大だ。

「ですが今、この舞鶴・・・と、周辺の若狭湾内には、琵琶湖運河の通過待ちの艦が溢れています。 兵站物資を残した支援艦艇も」

「ふん・・・根回しは?」

「第2艦隊の兵站参謀に。 同期です」

「第2艦隊は、佐渡島で叩かれたからねぇ・・・どの艦だい?」

「第2補給隊から、AKE(貨物弾薬補給艦)の『本巣』と『余呉』 AE(給兵艦)の『浦河』、『静内』、『幌尻』 AO(給油艦)の『笠間』と『千振』です」

「AOE(総合補給艦)は?」

「まさか、『摩周』まで分捕れと?」

佐渡島から脱出の際に便乗した艦で、琵琶湖運河の通過待ち(と称して、夜毎上陸していたが)をしていた沙村少佐。
その彼女に、臨時編成戦術機甲部隊の兵站参謀の役目をして半島へ行け、と無茶振りの命令が入ったのは、今日の昼過ぎだった。

「そうは言わないけどさ。 でもさ、せめて1隻は欲しいところだよね?」

「はぁ・・・何とか2番艦の『淡海』を回してもらえないか、調整中です。 『摩周』と3番艦『相模』は、第3補給隊と九州に急行中ですよ。 第2総軍向けに引っ張られました」

「ま、こっちで編成されるのは、2艦隊の生き残りから『鈴谷』と『矢矧』、それと『長波』、『巻波』、『秋霜』、『清霜』だそうだよ。 それと『松浦』と『渡島』に『志摩』さ」

「大型イージス巡1、イージス巡1、打撃駆逐艦4、戦術機揚陸艦3、これに随伴するのが補給支援艦艇7・・・これで手を打ってもらえないでしょうか、マム?」

「洋上補給は私の範疇外だからね。 陸上でまともに補給してやれるコンテナが確保できれば、あとは海軍さんの問題だね・・・『淡海』の件、部内で恨まれたくなきゃ、頑張れ」

「アイ、マム」

立ち上がり、部屋を出ようとした沙村少佐が、ある事に気づいた。 兵站参謀を振り返り尋ねる。

「支援艦艇の補給物資搭載率は・・・佐渡島分を差し引いての量かい?」

「運河を通過する補給艦艇から、『通行料』として根こそぎ降ろさせました。 後は政府がアメリカにおねだりすれば宜しい・・・搭載率は、95%に達しています」

あの時の沙村少佐の笑みは、まるで獰猛な女豹の様だった―――後に兵站参謀の中佐は、そう回顧していた。






2001年12月30日 2300 日本帝国 帝都・東京 本土防衛軍総司令部


「またぞろ、面倒な事を言ってきおった」

「豪州に居る亡命政府ですか。 鉄原ハイヴ陽動作戦に、兵力参加させろ・・・ですか」

苦虫を潰した様な岡村総司令官(岡村大将)と、冷ややかな笑みを浮かべる右近允国家憲兵隊司令官(右近允大将)

「まったく・・・『七星(UN第25師団)』は、第1陣で27日に琵琶湖運河を通過した。 今は太平洋上・・・硫黄島東方50海里の海上だ」

「琵琶湖運河を再通過するにせよ、九州を回るにせよ・・・半島までどんなに急いでも2日半、現実的には3日かかりますな。 作戦は終わっております」

「自国領内で行われる、大規模な陽動作戦・・・それも、全世界規模で行われる大作戦の一部。 それに自国軍が参加しないのは、国連軍憲章上、認められない、とな・・・」

「苦情は、国連に言って貰いたいものですな・・・で、閣下?」

「お引き取り願ったよ。 作戦日程の遅延を、貴国の全責任において、UNCSC(国連統合参謀会議)を説得し、了解と正式な承認を得る事。 書面にて正式通知される事。
そして・・・これはまあ、私の嫌みだがね。 参加兵力を派遣するのであれば、その兵站は全て貴国の責任の下、貴国が準備し、運用する事、だよ・・・」

最後に一言に、右近允大将も人の悪い笑みを浮かべる。 自国を喪失した彼らには、造船能力は存在しない。 家主の豪州も聖人ではない、貸し出しは不可能だろう。

「で、問題は?」

「便乗する連中が現れた。 美麗島(フォルモサ)に居候する、片割れの方だ」

「あの連中も、状況は同じはずですが? 総統府からも?」

「もう片方は、非常に親日的で友好的だ。 無理は言ってこない・・・外交ルートではなく、大使館の武官経由でな、UNに居る部隊で、顔を立ててくれないか、とな・・・」

「横須賀の連中ですか? あの連中は先日の横浜戦で、半壊の損害を受けておりますぞ?」

「両方とも、党上層部にとっては、外交政争の駒にすぎんよ」

それは、そうですな―――右近允大将もあっさり引き下がる。 参加させるとしても、せいぜい1個中隊規模になる。 戦術機揚陸艦を追加で1隻、見繕えば済む話だ。

「あとは、現場に任せましょう。 過保護は不要だが、あざとい駒扱いも禁止すると」

「影響の無い範囲で、勝手に動き回ってくれてよい。 その結果、全滅でもしてくれれば、尚の事宜しい」

その結果、多少でもこちらに損害が生じてくれれば、益々宜しい。 連中の頭を押さえつける材料にもなる・・・国家間の付き合いと言うものだった。






2001年12月31日 0430 日本海海上 旧京都府京丹後市 経ヶ岬沖10海里 戦術機揚陸艦『松浦』


「いやぁ、またお会いするとは、周防少佐」

「また、今度もお世話になります、艦長」

艦内の狭い士官室。 『松浦』艦長(海軍中佐)と副長(海軍少佐)、そして戦務長(海軍少佐) 戦務長は艦内の情報・管制を一手に担っている。 
陸軍側は荒蒔中佐、長門少佐、そして周防少佐。 陸海軍とも、中佐が1人ずつに、少佐が2人ずつ。 大尉クラスの陸軍側幹部は、逃げた。
正確には、艦内での戦術機整備にかかりきりでもある。 同乗している整備科(『棟梁』の草場信一郎少佐、『オヤジさん』の児玉修平大尉、他)に拉致されている。

「本艦の搭載能力から言えば、あと戦術機甲1個中隊とCP部隊1個、その他少々・・・くらいの空きは合ったのですが」

「補給コンテナを搭載しています。 射出機付きで。 ですので、丁度、1個中隊が定員一杯になります」

副長と戦務長の説明に頷く、陸軍側幹部3人。 強行軍で松戸から舞鶴まで移動してきて、乗艦するや否や、即出港したのだ。 

「整備の予定は、本日1500までの予定です。 それ以降は・・・」

「夕食は、1630にご用意します。 1730から2330まで、休息してください。 明0130に夜食をご用意します」

「ご配慮、有難うございます。 助かります」

艦長と荒蒔中佐の遣り取りの後、軽く懇親。 とは言え、酒は飲まない。 合成食とは言え、海軍の飯はかなりのものだ。 その工夫を、陸軍の給食部隊に教えて欲しいと思う。
牛乳寒天に、密柑を汁ごと合わせたデザート(繰り返すが、合成食だ。 なのに、どうして、ここまで美味なのか) 熱い紅茶。 3人の佐官は、食事だけは海軍になりたいと思った。

「いやぁ、佐渡島では・・・周防少佐の部隊を送り出した後は、急速後退したので被害は無かったのですがね・・・」

「隣で、僚艦がボカ沈喰らいまして。 流石に青くなりましたよ」

「撤退時には、今度は島から帆をかけて逃げ出してくる上陸部隊を収容しろ、と。 また急速前進で・・・と言っても鈍足な艦ですから、ヒヤヒヤものでしたね」

「そうしたら、最後の最後に、誘導を無視して着艦する戦術機が・・・」

戦務長の海軍少佐が、悪戯っぽい笑みで周防少佐を見る。 その視線に気づき、頭をかきながら申し訳なさそうな表情を浮かべる周防少佐。

「あ、いえ、その節は・・・大変、無礼をしてしまい、申し訳ありませんでした・・・」

その様子に、こいつ、また無茶をしたな、と気づいた荒蒔中佐と長門少佐。 

後任が、大変失礼を・・・と、艦長に謝罪する荒蒔中佐。 今度、こいつが無茶をすれば、構いませんから日本海に叩き込んでください、と笑って副長と戦務長に言う長門少佐。
いやいや、陸上で苦闘されたのですからな。 遺恨は全くありませんぞ―――笑って答える艦長と副長、そして戦務長。 1人、小さくなっている周防少佐。

暫くの寒暖の後、陸海の幹部たちは、自分の仕事に戻っていった。






2001年12月31日 1500 日本帝国 博多 第2総軍 九州軍管区司令部


『・・・と言う訳だ、宮嵜君。 寄せ集めの部隊を押し付けて申し訳ない。 が、2総軍で君以上に、こういうイレギュラーな用兵を指揮しうる者を思い浮かばん』

「有難うございます、閣下。 まあ、何とかやり繰りしてみましょう。 福田さん、助言、感謝します」

『ええて。 大した助言も出来へんで、申し訳ないなぁ、宮嵜君・・・』

鉄原ハイヴへの陽動作戦、その総指揮官兼陸上部隊指揮官に任じられた、九州軍管区第3軍司令官の宮嵜中将が、通信モニター越しに話す相手は、第2総軍司令官の今邑大将。
そして、佐渡島、横浜防衛線と、激戦を連続して指揮した、東部軍管区第7軍司令官の福田中将。 とは言え、福田中将は年明け元日に、大将昇進が決定している。

『海軍からは、第3艦隊と、第1艦隊からの分派艦艇。 それと米第7艦隊が支援を行う』

「はい。 ヴァン・ヴァスカーク中将とは、先ほど通信で話を。 米陸軍、国連軍の師団長達とも・・・陽動作戦は、やって見せます」

気負うではなく、淡々と、しかし静かな自信を目に浮かべ、言い切る宮嵜中将。

「第10師団の増派も決定下さり、有難うございます。 横須賀の国連軍1個中隊は、15師団から出張してきた藤田君に押し付けます」

東部軍の選抜中隊3個と、国連軍横須賀基地からの選抜中隊1個の統合指揮は、これまた『生贄』として出張させられた、第15師団の藤田准将が指揮を執る事となった。

『・・・7個師団で、半島へ行け、とは・・・本当に、申し訳ない、宮嵜君』

『ええか、宮嵜君。 部下の手綱を締めることも大事やが・・・君は、最後まで『冷たい熱さ』で戦況を見て判断せな、あかんぞ? 
まあ、君には『釈迦に説法』やろうし、上には嶋田さん(嶋田大将)が、老体押して出張って来て頂けるけどな・・・』

「・・・先輩、そこまで、おだてないで下さい。 思わず、その気になってしまう」

福田中将が、通信モニターに移っている訳は、東部軍からは大規模な戦力抽出が出来ない事。 選抜3個中隊が精々だったこと、そのことへの謝罪と、仲の良い後輩への気遣いだった。

(全く・・・福田さんは、相変わらず、下の者の使い方がうまい人だ・・・)

内心で苦笑する。 方言丸出しの柔らかい口調に、『恵比須顔』と称される、ニコニコした表情。 下士官兵や若い将校には、正に慈父(幹部には、それなりに厳しい)

「佐渡島、そして横浜・・・貴重な戦訓情報、感謝します。 では、最後の準備に取り掛かりますので、これで・・・」

『うむ・・・武運を』

『気張りや』

上官と先任の2人の姿が、通信モニターから消えた。

真っ黒になったモニターを見据えながら、宮嵜中将は脳裏で作戦要目を急速に修正し始めていた。






2002年1月1日 0330 日本海洋上 旧江陵市沖合100㎞洋上 戦術機揚陸艦『松浦』


真っ黒な海上。 何も言えない。

艦艇に乗る経験は何度もしている。 そして気付いた事は、自分は案外、海が好きだったのだ、という事。 考えてみれば、戦死した兄も、叔父も、従弟達も、海軍が多い一族だ。

陸軍将兵用に『特設』された煙草盆(喫煙スペース) 無論、船外だ。 真冬の日本海を吹き渡る寒風はかなりの寒さだ。 しかし、煙草を吸いたい。
ぼんやりと、夜の海や、寒天の夜空を煌めく星々を見ながら、ぼんやりとしている。 こっそり忍ばせたポケットフラスコ。 中身は秘かに手に入れたウィスキー。

喉を湿らせる程度に、口に含む。 立派な軍規違反だが・・・悪事の相棒が、隣で同じようにフラスコを傾けている。 喉を焼く熱い液体。
夜の洋上の闇に隠れて見えないが、付近の海域には他に、戦術機揚陸艦の『渡島』、『志摩』、そして『福江』が航行しているはずだった。
『渡島』には第14師団選抜中隊が。 『志摩』には第37師団選抜中隊が。 『福江』には国連軍横須賀基地からの選抜中隊が、それぞれ乗艦している。

「なあ、直衛・・・聞くところによると、横浜の連中は『オリジナル』を叩くそうだな」

「・・・米軍と一緒に。 さてさて・・・」

極秘の作戦内容。 本来ならば、現場部隊長の少佐では知りえない情報。 が、そこは軍隊だ。 同期生の繋がり、かつての上官・部下の繋がり。 様々なルートがある。
周防少佐と長門少佐。 10年来の戦友で、それ以前からの親友同士。 逝く共の激戦と共に駆け抜けてきた。 そんな彼らも、今回は妙に灌漑深い。

「成功すれば・・・30年は時間を得られるという話さ。 旅団長(藤田准将)が、どこからか、仕入れてきたネタだ」

「奥さんじゃないか? ま、失敗すれば即時、アメリカ主導のG弾集中攻撃か・・・軍内でも、重力異常の影響を精査しきれていないから、危険に過ぎる、って声もあるな・・・」

1本目を消し、2本目に火をつける。 フラスコから1口。

「俺は祈るよ・・・この星の全てに。 敬意を称するよ、米軍と・・・横浜の、実働部隊の連中に・・・」

「実働部隊の連中には、な・・・例え失敗しても、連中は紛れもない、戦場の勇者だな。 臆病でも、恐怖しても・・・紛れもなく、連中は勇者だ」

仄かな煙草の火の灯りと、暗闇に消し去ってゆく紫煙。 寒風の中、夜空を見上げる。 周防少佐が、ポツリと言った。

「あと1時間半・・・例え、卑怯と言われようと・・・自身と、部下たちを生きて還す指揮を執る。 そして陽動は達成して見せる」

「・・・『武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つ事が本にて候』 少し違う気がするが、俺もそんな気分だよ」


作戦決行時刻、2002年1月1日 0500 あと1時間半に迫っていた。




前を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.040140151977539