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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 幕間2~彼は誰時~
Name: samurai◆b1983cf3 ID:ad831188 前を表示する / 次を表示する
Date: 2019/01/06 21:49
2001年12月29日 0930 日本帝国 千葉県 陸軍松戸基地 第15師団


昨日未明、最後の戦術機甲部隊が基地に帰還した。 師団での被害総数は、TSF全定数240機に対し、被撃破89機、大破・中破36機。 戦死84名、戦傷31名。
残余は115機、衛士125名。 機体損害率52.08%、衛士損失47.92%に達し、師団TSFは半壊、実質的に戦闘力を失っている。

「151、152、153に、それぞれ36名で108名。 残りは他師団からの転属者で埋めるか・・・」

「機体の転換訓練も早急にしなければ、ですね・・・取りあえず、大隊長には第3中隊をお願いします」

「久しぶりだな・・・中隊指揮も」

人員の問題で大隊指揮小隊が編制できず、大隊長が1個中隊を直率する形になった。 その為、第1中隊を摂津大尉が、第2中隊を八神大尉が指揮をし、第3中隊を周防少佐が直率する。
本来の第3中隊長である遠野大尉は、臨時で周防少佐指揮の第3中隊で第2小隊長を努めることになっている。 5年以上昔の編制に逆戻りだった。

周防少佐と摂津大尉が、大隊の戦術機ハンガーのキャットウォークから見下ろしているのは、急遽再編された大隊の戦術機群。 激戦の跡も生々しい機体もある。

「佐野君達の部隊も、新米達の受け入れに、てんやわやだった」

「基幹要員は残りましたが、ほぼ新米達の錬成部隊になりますから・・・」

佐野少佐の154大隊、間宮少佐の155大隊、有馬少佐の156大隊は、戦闘部隊の任を一時的に解かれて、新米達の錬成部隊に再編されている。
それぞれ、大隊長や中隊長を含めて5~6名は、幹部基幹要員として残っているが、他はほぼ、新米達という有様だ。 小隊長要員ですら、他部隊から引っ張ってくる予定だった。

周防少佐の大隊にしても、大隊指揮小隊の人員の手配が終わるのは、年明けの予定だ。 恐らく明年1月中旬頃か。

「摂津、データの摺り合せは午前中に終わらせろ。 午後から中隊単位で、シミュレーター訓練。 機材は抑えてある」

機体を見ながら、本日の予定を伝える周防少佐。 伝えられた摂津大尉も、やはり機体を見ながら簡潔に応えた。

「了」







2001年12月29日 1000 日本帝国・帝都 統帥幕僚本部


統帥幕僚本部、第1局第2部(国防計画部)の第3課(国防計画課)課長と言えば、日本の対BETA戦争の全貌を取り仕切る総元締めとして、幕僚本部内外の発言力は絶大だ。
藤田直美陸軍大佐は、日本帝国の健軍以来、初の女性第3課長に任じられた『女傑』と言える。 そんな彼女にとって、『同業他社』として気の抜けない相手は何人か居る。

まず、国防省軍務局第1部第2課、国防政策・軍備・編制を担当する。 同じく兵備局第2部第3課、出師準備・動員等を担当する。 
そして陸軍参謀本部第1部作戦課と、海軍軍令部1部1課、航宙軍作戦本部1部2課。 いずれも作戦担当課である。
更には同じ統帥幕僚本部でも、同じ第1局第2部の戦争指導課、兵站課。 第1局第1部の各作戦課(第1~第3課) 第3部(編制動員部)も気が抜けない相手だ。

今日、この場に非公式、且つ極秘に集まったのは、国防省軍務局第1部第2課長(国防政策・軍備・編制)、同兵備局第2部第3課長(出師準備・動員)
そして統帥幕僚本部第1局第2部第2課長(戦争指導課長)と第1課長(兵站課長) 召集したのは統帥幕僚本部第1局第2部第3課長(国防計画課長)・・・藤田大佐だった。

「財布が底をついた」

兵站課長の第一声は、それだった。 ちらりと国防計画課長・・・藤田大佐を見る。 が、当の彼女は戦艦のアーマー並の面の厚さで、ポーカーフェイスを守っている。

「少なくとも、大規模作戦はあと半年以上先でないと、戦略物資の備蓄がままならん」

「動員後の教育も、急ピッチで進めているが・・・促成栽培も極まれり、だ。 それでも時間が足りない、あと最低でも4ヶ月、出来れば6ヶ月」

と、兵備局第2部第3課長が言えば。

「機械というモノは、使えば疲労するし、壊れもする。 艦艇の修理にはあと4ヶ月、補充を含めて慣熟訓練に3ヶ月。 7ヶ月は掛かる」

国防省軍務局第1部第2課長も渋い顔だ。

皆が統帥本部第2部3課長・・・藤田大佐を見た。 彼女は部内外での評判通りの切れ者だが、時に鋭い舌鋒で相手を切り裂く。

「戦略物資の備蓄、重要よ。 動員訓練、大いに大切ね。 機材や艦艇の修理、必要不可欠―――答えは兵站課長の言葉の通り。 財布は底をついたわ、逆さに振っても何も出ない」

臨時予算に次ぐ臨時予算、明年の税収を見込んだ上での前借り、国債の大量発行・・・正直、この時期の日本は財政破綻一歩手前まで追い込まれている。

「とは言え、中途半端な充足率の部隊を多数抱えていても、仕方の無い話しよ」

「重点は西日本に、は、変更無し?」

「その為の、佐渡島だったのよ?」

「了解した。 北海道や日本海岸には、一部の部隊は変わらず常駐させねばならんが・・・関東や東北南部、東海地方の部隊を解隊し、西日本に再編可能だ」

「関西地方を後方拠点に、九州と中国・山陰地方に縦深陣地を敷くように部隊配置を?」

「関東は2個師団だけ残す。 ああ、斯衛もな。 東海は兵站拠点に」

参加者の発言を受け、藤田大佐が他の問題を提起する。

「国防省人事局1部1課に話を通さないと。 何人か、将官や佐官を予備役編入・即時召集する事になるわ」

将官や佐官の人事権は、国防省人事局第1部が握っている。 特にその1課は将官人事を決定する部署だ。 今回、何人かの将官の『リストラ』を行おうとするのだから。

非公式の、しかし日本の国防政策の実務を取り仕切る各部署責任者達の了解がなった後で、それまで口数が少なかった兵站課長が口を開いた。

「鉄原は早くとも明年夏以降と考えて欲しい。 それまでに兵站を確立する必要がある・・・と言うより、それ以前の兵站確立は不可能だ。 宜しいか?」

全員が頷いた。

しかしこの予測は、大きく遅延することになる。






2001年12月29日 1500 日本帝国 千葉県 陸軍松戸基地 第15師団


シミュレーター訓練の結果は、周防少佐に渋面をさせる結果となった。 寄せ集めの臨時部隊を率いる難しさは、これまでも散々経験している。 判っていたことだ。
個々の技倆はさして差は無い。 元々、同じ師団で戦ってきた衛士同士なのだ。 しかし、大隊が違えば、それまでの微妙な連携などで違いが生じる。
それは生死の境の局面などで、顕著に表れる・・・つまり、元から151大隊に属していた衛士と、154,155,156大隊から移動してきた衛士とで、その微妙な差が出ているのだ。

「俺もヤキが回ったか・・・こんな初歩的な間違いを犯すとか・・・全く」

情けない―――思わず口にした言葉に、大隊副官の来生大尉が困惑した表情で問う。

「しかし、大隊長・・・練度でも左程変わりません。 元は154から156大隊だった者達です。 これほどチグハグになるとは・・・」

「・・・来生、貴様も衛士上がりだから判るだろうが・・・戦術機乗りは中隊で1つの結束をしている。 生死を共にする、な・・・」

厳しい訓練を共にし、結束を固め、生死の戦場を共にする。 そして更に結束を深め、連携を密にさせ・・・その基本にして絶対の単位が、中隊なのだ。

「そして大隊は、中隊と中隊の結束を、だ・・・俺には俺のやり方で。 佐野君や間宮や有馬には、彼らなりのやり方でな。 どれが正解という訳じゃ無い」

その大隊のやり方で結果的に生き残ったならば、そのやり方がその大隊にとっての正解だったのだ。 そして、それはそれぞれ違うのだ。

「いきなり、俺のやり方に合せるようにしても、連中は戸惑う」

周防少佐の渋面は、そんな初歩的な事を考慮できずに、部下に余計な混乱を起こさせた己の不手際に対してだ。 昨日、今日に大隊指揮を始めたわけで無いのに。

「来生、摂津と八神に伝達。 まずは中隊での編隊行動に注力。 ああ、遠野にも伝えておいてくれ」

「遠野には、大隊長からお願いしますわ。 彼女、先ほどの中隊シミュレーション訓練で、まともにサポート出来なかったと言って、ちょっと落ち込んでいますから」

「・・・君は、同期だろう?」

「同期だからこそ、ですわ。 では、摂津大尉と八神大尉へは、早速伝えておきますので」

来生大尉は思った。 私の上官は、大抵で理解のある、信頼できる上官なのに。 どうしてこう・・・そう、女性心理となると鈍くなるのか。
これでよくもまあ、あんなに出来た奥様を射止められたモノだ・・・師団の女性士官達の間での『七不思議』と言われる所以だ。 ほかの六つは何か知らないけれど。

それと、同期生に対しても、いつまでも未練タラタラしているんじゃ無い。 どこかで良い男を捕まえろと言いたい。 素材は上々なのだから・・・

(ま、それが出来る性格じゃ無いのよね、彼女の場合・・・)

そして、それに気づいてくれて、それとなく断念するよう仕向けてくれるほど、敏感な上官でも無し。 戦場では戦場の、後方では後方の、副官ならではの心労は尽きない・・・

最近の来生大尉は『大隊のおっ母さん』化してきたと、八神大尉などが影で話している。 もっとも彼女に聞こえないように。








2001年12月29日 1700 日本帝国 高崎 日本帝国陸軍地中震動観測所


「おい・・・! これ、この波形・・・!」

「どうして判らなかった!?」

「周辺で火山性の微振動が継続している! それがシャドーゾーンの役目をしていた・・・!」





2001年12月29日 1725 日本帝国 帝都 中央管制気象・測候司令部


「高崎からのデータは!?」

「出ました!」

「長野、前橋、熊谷、甲府、それに秩父! 各地中震動観測所からのデータ、転送完了!」

「照合しろ! 大至急だ!」





2001年12月29日 1835 日本帝国 帝都 本土防衛軍司令部


「詰まるところ、佐渡島の残余BETA群、推定でおよそ3万以上が・・・大深度地中侵攻を仕掛けてくる、ほぼ100%確実に、と言う訳か?」

「はっ! 閣下!」

本土防衛軍総司令官代理(総司令官・野々村尚邦海軍大将は12.5事件で負傷・加療中)、岡村直次郎陸軍大将の無表情の威圧に、報告した参謀が思わず背筋に冷たい感触を覚える。
参謀長の国武三雄陸軍中将、高級参謀の丹生栄治海軍少将も厳しい表情だ。 同席している第18軍団長の福田定市陸軍中将も、渋面を作っている。

元々、甲21号作戦の後に『依願退役』を申し出た嶋田豊作陸軍大将への引止め工作をどうするか、が、今日の会合の主題だった。
多大な損害を出したとは言え、兎に角、甲21号目標は消滅した。 帝国は直面の危機からは、ひとまず逃れることが出来た。
その作戦を総指揮した嶋田大将を、このまま依願退役・・・予備役に編入することは、あり得ない。 そして日本帝国軍は階級として、元帥の階級を有していない。
ならば年明けにでも、嶋田大将を『元帥陸軍大将』として、皇主陛下の最高軍事顧問として元帥府に列する。 但し、現役の役職は全て退いて頂き・・・様は終身名誉職だ。

そこへ、この凶報だ。

「情報参謀・・・聞くがな、連中の地表到達予測地点、判るか? それと、その予測時刻もや」

いち早く、現実の問題、それも最も切実な情報を欲したのは、福田中将だった。

「はっ! それにつきましては、中央管制気象・測候司令部での算出結果が出ました。 確度は98%以上とのことです。 
まず、地表出現予測地点は・・・旧町田市、沢谷戸公園・・・鶴見川付近の半径1km圏内。 推定出現時刻は2200時プラスマイナス30分です」

「と言う事はや・・・早くてあと4時間、遅くてもあと5時間で・・・関東のど真ん中、帝都のすぐ側に、3万以上のBETA群がお出まし、と言う訳やな?」

「はっ・・・はっ!」

穏やかな口ぶりとは裏腹に、福田中将から漏れる殺気に、情報参謀が思わず身を縮める。 そんな情報参謀の姿を尻目に、福田中将は岡村大将に向き直り、言い放った。

「閣下、帝都の臣民を避難させる時間的余裕は、全く有りません。 更に言えば、今、この時点で避難指示を出せば、未曾有の大混乱が生じます」

すかさず、国武参謀長が異議を問いかける。

「しかし18軍団長、そのまま帝都を、臣民を、BETAの脅威に晒すのか? 皇主陛下は? 皇族の方々をどうする?」

「参謀長、儂が思うに、BETAの到達点は帝都やないと思う。 佐渡島からのコースも見てやけれどな、恐らく・・・十中の九か、それ以上で横浜や」

「横浜・・・『あれ』か!」

岡村大将、国武中将、丹生少将も、福田中将の導いた結果に同意せざるを得ない。 なぜなら、横浜には、佐渡島を失ったBETA群が絶対に必要とする『あれ』が今も存在する。

「横浜の防衛戦力は、TSFが7個大隊を基幹に、機甲連隊、戦闘ヘリ大隊数個、機械化装甲歩兵連隊1個に、機甲連隊と軽歩兵連隊各1個、他に支援部隊で1個師団ほど。
これに近隣の横須賀(国連軍横須賀基地)にも、TSFが6個大隊と、他も横浜とほぼ同等の戦力が駐留しとる・・・2時間あれば、横浜前面に2個師団の戦力展開が可能」

福田中将は続ける。 横浜自体の防衛は、国連軍に丸投げする。 どうせ連中、我が軍の基地内への介入は絶対に断るだろう。 誰よりもあの『魔女』が。
とは言え、横浜の陥落は再び『甲22号目標』の復活であり、今の日本には、再びその攻略の余力は無い・・・少なくとも現時点では。 全く、極めつけの悪夢だ。

「よって、我が軍としては、横須賀沖、及び川崎沖に艦隊を展開。 水上打撃部隊による艦砲射撃支援と、母艦戦術機部隊による大型誘導弾支援攻撃。
そして陸上では・・・多摩川の東岸に砲兵部隊を並べて砲撃支援。 機甲部隊とTSFは・・・そうですな、鶴見川辺りを攻撃限界として、側面から削るだけ削る」

「洋上支援と、側面支援は行えるだけ行うが、積極的な正面防御は一切しない、と・・・?」

「そんな余力、残念ながら、有りませんからなぁ。 予測からの防衛プランは・・・火力制圧エリアの開始線を旧東急沿線・・・あざみ野から南町田、長くて中央林間までの線で。
南端は鴨居から、いずみ野のライン。 そこから横浜新道跡までのエリアが『ダンスホール』でしょうな。 それ以降は旧横浜駅周辺から保土ケ谷、上大岡に至るライン・・・」

その先が、つまり横浜基地ですな。 我々はその側面を削れるだけ削る―――福田中将が即案で出した防衛案は、以上の通りだった。

「・・・参謀長、どれだけ出せるか?」

福田中将の案に、岡村大将が出しうる戦力がどれだけあるか、聞いてくる。 参謀長・国武陸軍中将は、高級参謀の丹生海軍少将に目配りした後、答えた。

「東部管区で、佐渡島に参加していない師団は6個師団。 そのうち3時間以内に多摩川対岸に展開可能なのは、第1師団、禁衛師団の2個師団です。 第3師団は再編成中です。
第44師団、第46師団は、西関東防衛部隊として帝都の防衛に・・・主力の第13師団は佐渡島から戻ったばかりです、十分な戦力発揮は難しい。
北関東の第40師団と第56師団は、少なくとも6時間は必要となります。 こちらも主力の第12と第14師団が佐渡島から戻ったばかりで、即時移動は困難です。
他に独混(独立混成旅団)8個のうち、4個が即応可能ですが・・・TSFは各々、1個大隊のみです。 残りはやはり5~6時間必要です」

「海軍は第1、第2、第3艦隊共に、太平洋側に。 しかし即時出撃可能な艦となると・・・1戦隊(紀伊、尾張)、3戦隊(駿河・遠江)、5戦隊(出雲・加賀)、戦艦は6隻。
他には2航戦(飛龍・蒼龍)と5航戦(飛鷹・準鷹)、7戦隊2小隊(鳥海・摩耶)と12戦隊(大淀・仁淀)、13戦隊(矢矧・酒匂)・・・後は2駆と3駆のイージスです。
19戦隊(伊吹・鞍馬、艦載電磁投射砲搭載艦)も、4時間後ならばギリギリ・・・現在は相模湾です。 急行させます」

「陸は2個師団に、独混4個か・・・海軍は、それ以上は無理かね。 戦艦は半数か・・・」

「2戦隊(信濃・美濃)、4戦隊(大和・武蔵)共に、損傷しております。 特に『信濃』と『美濃』が・・・復旧には半年かかります。 6戦隊(三河・伊豆)は呉に回航しました。
他の航空戦隊も、艦載戦術機を地上基地へ下ろしており、再編作業に入っております。 即応可能は2個航空戦隊のみです」

暫く腕を組み、考え込む岡村大将。 その横顔を見ながら、福田中将が国武中将に問う。

「総予備はどうだ? 16軍団の3個師団は? 45(第45師団)と57(第57師団)は佐渡島に出してへんやろ? 39(第39師団)も損害軽微な筈や、あそこは府中やろ?」

「45師団と57師団は、臨時で北関東に回している。 佐渡島に12師団と14師団を引抜いたからな。 まだ戻っておらん、移動には半日以上掛かる。 
39師団は・・・うむ、3時間は無理でも、ギリギリ4時間なら布陣できるか・・・後は・・・酷な話だが、第15師団も出すしか無いか」

「15師団? それは・・・流石に殺生な話や無いか? 15は・・・あそこは佐渡島で殿軍を張った部隊やぞ? TSFなんぞ、あの歴戦部隊にして、半数喪失や」

「甲22号が再出現するか、しないかの瀬戸際だ。 軍人なら、無理と無茶と無謀は専売特許だ」

「あとで15師団には、大いに恨まれてくれ」

「参謀長のお役目だな・・・閣下、陸上展開戦力は3個師団に4個独立混成旅団、それに予備として半個師団(15師団) 砲兵は東部管区から根こそぎ、6個砲兵旅団。
それと、佐渡島で使った試験部隊、ほら、あれだ。 ライトガスガンの運用試験部隊があっただろう? アレも回そう。 今は確か富士だ、急げば間に合う」

「あれか・・・確かに、使えるか」

105mmライトガスガンを搭載した『試作01式駆逐戦車』配備の、第1001教導駆逐戦車大隊(38輌)
155mmライトガスガンを搭載した『試作01式火力戦闘車』配備の、第2001教導機甲中隊(12輌)
57mmライトガスガンを搭載した『試作01式野戦自走高射砲』配備の、第3001教導高射大隊(57輌)

駆逐戦車と火力戦闘車は、佐渡島で、射距離5000で、突撃級の正面装甲殻を見事に貫通して撃破してのけた。 自走高射砲も射距離3500で、突撃級の正面装甲殻を貫通した。
突撃級・要撃級ならば、射距離5000から撃破可能。 3500以内であれば、高射砲型でも撃破可能だった。 現在は試験部隊しか無いが、年明けから逐次、既存部隊に配備される。

「富士からやったら、補給部隊も随伴できる。 佐渡島では弾切れを起こさせてもうたからなぁ・・・悪いことをした」

「海軍の母艦艦載戦術機は、4個大隊定数装備です。 戦域制圧任務型ですが、1機当り36発の瞬間制圧力を有します。 反復出撃も可能です」

4個大隊160機で、1機当り36発。 4個大隊全力で1度に実に5760発の誘導弾を一気に叩き込める。 フェニックス換算でも2560発になる。

「大型種は、海軍機、並びに戦艦群が請け負います」

「問題は、時間だな・・・散らばった中型・小型種をどれだけ早急に始末できるか。 それとやはり光線級か・・・居るだろうな?」

「居るでしょうな」

「居ると考えるべきかと」

よし―――岡村大将が小さく呟いた。 覚悟を決めた。

「参謀長、俺はこれから大至急、陛下の元へ参内する。 君は国連軍(太平洋方面第11軍)に大至急、話を付けろ。 特に横須賀の部隊の、横浜への移動についてだ。
ああ、それと福田君。 君を・・・臨時の第1軍司令官代理に任じる。 安達君(第2軍団長・安達二十蔵陸軍中将)、久世君(第7軍参謀長・久世四朗中将)とで指揮しろ」

「閣下・・・また、無茶振りですな・・・」

「仕方有るまい。 第1軍司令部は、例のクーデター騒ぎの容疑で、雁首揃えて査問委員会に召喚中だ。 寺島(第1軍司令官・寺島陸軍大将)は、ほぼ有罪確定だぞ?」

おまけに第1軍司令官と同格だった嶋田大将が、辞める、辞めないで、引止め工作中ときた。

「この騒ぎが収まれば、君も来春には、大将進級確定だ。 俸給が上がるぞ」

「俸給が上がるのは、素直に嬉しいですけどなぁ・・・はぁ、しょうがない。 拝命しました」

大物達の会話が終わるのを待って、情報参謀が最後の推測情報を報告した。

「・・・なお、現在も観測、演算中ですが・・・BETA群の地表到達後、横浜までは最短で20分、最長でも30分で到達となります」

岡村大将、福田中将、国武中将達が一瞬目を剥いた。 20分から30分! 最早、戦術をどうこう、ひねり回す時間はなさそうだったからだ。







2001年12月29日 1930 帝都 国家憲兵隊本部


「では長官、陛下を始め、皇族方のご避難は・・・」

「横浜の陥落が確定次第、早急に行う。 ルートは確立しておるな?」

「はい。 以前のルートを見直しました。 大手前から乗り入れ、埼玉の久喜まで直通の特急列車です。 そこから東北新線で仙台までのルートは確立しました」

「時間的猶予は?」

「横浜が陥落し、BETAが『満腹』したあと、飽和するまでに、最低でも数週間です。 今回のルートでは、脱出開始からご乗車まで15分。 久喜までおよそ1時間あれば」

帝都の臣民の脱出はそれからだ。

「・・・城代省への連絡は、如何しましょう?」

「君、向こうも俸給を喰む身だよ。 己の主人の身の安全確保は、彼らに任そうじゃ無いか」

とは言え、城代省官房長官とは、既に裏で話は付けてある。 後は向こうに任せよう。 帝都に残るも良し、脱出するも良し。 但し、陛下の後でだ。

それと、この機会にネズミの始末も行わねば。 ダブル、トリプルは当たり前の世界だが、それでも『使用済み廃棄予定』のネズミはいつまでも飼っておけない。
城代省、五摂家、斯衛。 反政府勢力。 アメリカ、欧州諸国、ソ連に台湾の藤一中華戦線、ガルーダス・・・様々な勢力との間で用いたダブル、トリプルスパイ。

ああ、横浜にもこれを機会に、『新しい血』を入れる必要が有るな。

「推定されるBETA群は約3万以上か。 投入戦力は国連軍を併せれば5個から6個師団。 6時間以内に更に3個から4個師団の投入が可能だ。 殲滅は可能だ」

もっとも、帝国軍が『エサ』にする予定の横浜基地は、甚大な被害を被るだろう。 しかし甘受願いたい。 『大家』を守るためにも。

日本帝国国家憲兵隊長官、右近允陸軍大将は冷めた目で窓の外・・・横浜の方角を見ながら、心からそう思った。








2001年12月29日 2000 日本帝国 千葉県 陸軍松戸基地


「TSFと機械化装甲歩兵が先に布陣する。 攻撃発起地点は六郷土手と鶴見川の間。 攻撃終末点は保土ケ谷の手前までだ」

旅団戦闘団長を努める藤田准将が、各級指揮官を前に伝達する。 既に機甲部隊(第152機甲大隊・篠原恭輔少佐)と自走砲部隊(第151自走砲大隊・大野大輔中佐)は先発した。
自走高射部隊(第153自走高射大隊・井上佳寿子少佐)、通信部隊(第15通信大隊・加藤幸彦少佐)も、先ほど慌ただしく出撃していった。

そして戦術機甲3個大隊と、機械化装甲歩兵1個大隊。 これが現在、第15師団が出せる最大戦力だ。 本来の4割に達しない。

「良いか? 絶対に正面に立つな。 我々の任務は『側面援護』だ。 BETA群の横腹を、徹底的に削る。 防御正面は国連軍が担当する・・・いいなっ!?」

悲痛な面持ちの藤田准将の命令に、各部隊長が無言で頷く。 確たる情報は与えられていない。 しかしおおよその事情は汲み取れる。 その程度の情報アクセス権は持っている。

荒蒔中佐(153TSF)、周防少佐(151TSF)、長門少佐(152TSF)の各戦術機甲大隊長達、そして志摩少佐(152機装歩兵)の4人の大隊長が、旅団長に敬礼する―――別れ。

「大隊、進発用意!」

「兵装は制圧兵装!」

「10分後に全機出撃開始する!」

「TSF出撃前に、出撃開始する! 足は無いぞ、予備のタンクを担いでいけ!」

慌ただしい出撃模様。 それを見守る藤田准将の、苦渋に満ちた表情。 何しろ目前の部下達は4日前、地獄の佐渡島で激戦を戦い、殿軍を成し遂げて生還したばかりなのだ。
しかし3人の大隊長達は、一言も文句を言わなかった。 そう、かつての自分もそうしたであろう態度で、そう行ったであろう行動を、自分に目の前に見せている。

(・・・俺もなまったか。 違うか。 これもまた、違う困難か)

階級が上がれば上がるほど、『死んでこい』と言うに等しい命令を下す部下の数が多くなる。 そして自分は今や将官であり、もう直接戦闘を行える立場では無い。
ここまで弱い男だったのか―――我ながら情けなく、笑い出したくなる。 要はアレだ、戦場の地獄に身を置いた方が、精神的にずっとマシだ、そう感じているだけで無いか。

かつて、大陸戦線で名を馳せた歴戦の戦術機甲指揮官。 准将に進級してからも、幾度と旅団を率いて戦ってきた。 歴戦の勇将、等と言われたりもする。

(・・・嫁さんの方が、絶対に上に行くな)

藤田准将の細君は、統帥幕僚本部の藤田直美大佐。 彼女が非情というのでは無い。 実際は情の深い女性だ。 しかし、確実に自分より芯の強い人物なのは確かだろう。

(・・・取りあえず、今は振り払え。 泣き言は全てが終わってからだ)

自分がぶれては、部下が死ぬ。 そして今はその時では無い、それが許されるときでは無い。

指揮通信車輌に乗り込むために、外へ出ようとした准将は、ふと、不意に、自分が元々は軍人志望では全くなかった、と言う古い記憶を思い出し、苦笑しながら歩き出した。








2001年12月29日 2030 日本帝国 帝都


「済みません、お義母さま、子供達を暫くお願いします」

「はい、はい、判りましたよ。 心配しないで祥子さん。 直嗣ちゃんも祥愛ちゃんも、ちゃんと預かりますからね。 ほら、ママにご挨拶は?」

「ママ、ばいばい!」

「ママ、ママ!」

娘は元気に、あっさりしたものだ。 内心で思わず苦笑してしまう。 それに対して甘えたの息子は、むずがっている。 母親としては、ちょっと後ろ髪を引かれる思いだ。

「すぐに戻るからね、祥っちゃん、直ちゃん」

むずがって、遂に泣き出した息子をあやしながら、側に居た義姉に託す。 彼女の側で、既に小学生になっている甥っ子と姪っ子が、幼い従弟をあやしてくれている。

「祥子さん、大丈夫よ。 孫達は大丈夫。 あの子もね・・・安心なさい」

「・・・はい。 それじゃ、お願いします、お義母さま、お義姉さん」

何の根拠も無かろうが、女の勘というのだろうか。 義母は息子の・・・自分の夫のことも大丈夫だと。 義姉も微笑んでくれている。

「お願いします」

周防少佐夫人―――綾森祥子陸軍少佐は、緊急呼集の命を受け、これから職場・・・国防省へ急ぎ向かうことになった。
事前情報として『911事前警報』が出された事は聞いた。 恐らく夫の部隊は即応部隊として出撃だろうと言うことも。

(・・・どこから? 数は? 時間? 友軍は・・・?)

兎に角、国防省へ行かないことには。

回された車の後部座席に乗り込んだ綾森少佐は、既に母親の顔から、歴戦の佐官級の軍人の顔に変わっている。

そして今夜、多くの場所で綾森少佐と同じ様な光景が、あちこちで見られるのだった。





「大隊長、お早いお帰りで」

「子供を親に押しつけて、駐屯地にトンボ帰りよ、全く・・・直秋、大隊は?」

「いつでも。 行動開始できます」

「宜しい・・・あんた、婚約者は?」

「実家に避難させました・・・あ、俺の方の。 どうせ親爺は留守ですし」

「籍だけでも、早く入れてあげなよ」

「了」





「済まんな、非常呼集だ」

「お気を付けて、あなた」

「うん・・・ここはまず大丈夫だろうが、万が一の時は駐屯地に。 緋色、君をよく知る連中も多い。 緋音(あかね)、ママと一緒に、良い子にしていなさい」

「あ~、ぱ~!」

「ふふ・・・大丈夫よね、緋音? パパに行ってらっしゃいって、ほら・・・」





2001年12月29日 日本帝国 帝都


「ウィソ、どうしたの? 外で何かあるの?」

家の外で聞こえる音に耳を澄ませていると、中からナラン―――姉(正確には族姉だが)のナランツェツェグが出てきた。

「うん・・・ほら、ナラン姉。 聞こえるでしょ? あの音・・・」

「大勢の・・・車の音? え? 何、あれ?」

他の家(難民区にある家だ)からも、近所の人達が顔を出した。 不安そうな顔だ。 みな、昔に散々聞いた音だ。

「軍隊が移動しているな・・・それもかなり大部隊だ」

「どこだ? この辺で聞こえるなんて・・・まさか、第1師団?」

更には兄のユルールと、族兄のオユン・・・オユントゥルフールまで。

「姉さん、今夜は夜勤だから聞けないな・・・」

「夜勤じゃ無いにしても、流石に知らないと思うよ」

オユンの言葉に対して、ユルールが少し混ぜ返す。 オユンの姉、ムンフバヤルは国連難民高等弁務官局の東京弁務官事務所勤務だ。

「何だろう、ナラン姉・・・怖いよね」

「判らないわ・・・でもウィソ、ここは日本の首都だし・・・近くには、ほら」

「うん、直衛兄さんの部隊もいるし・・・」

彼らが幼い頃、祖国で死にかけていたところを助けてくれた若い日本の軍人。 逃げ延びたこの国で再会できた。 今では幼い双子の子供がいる、若い父親。

「大丈夫、大丈夫だって。 ほら、家に入れよウィソ、ナランも」

「そうそう。 ああ、今度の休み、兄さんに会いに行くか? 駐屯地は無理でも、家に行けばさ」

「祥子姉さんがいる。 祥っちゃんと直ちゃんも」

「うん。 久しぶりに会いたいね」



夜遅くの大規模な車輌音は、まだまだ延々と続いていた。





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