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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 佐渡島 征途 3話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:ad831188 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/01/30 23:35
113分後―――2001年12月25日 1045 日本帝国 佐渡島東部 小佐渡山地中央部 上新穂ダム跡


「引き付けろ、引き付けろ!・・・よぉし・・・撃てッ!」

上新穂ダム跡の地形、かなりの面積が兵站に均されていたが、それでも戦闘車両が身を隠し、ハルダウンする程度の起伏が十分にあった。
小佐渡山地中央部の南部寄りまで進撃した第15師団、中央部の第14師団、北部の第10師団の、ウイスキー上陸部隊第2派別働隊(第17軍団)
この3個師団は1万を超すBETA群と激戦を展開しながら、それでも順当に進撃速度を維持しつつ、作戦目標を達成しつつあった。

普通の戦車砲より甲高い発射音。 そして重機関銃並みの連続した発射音。 1000m先で次々と撃破されてゆく突撃級と要撃級BETAの群れ。
その周囲の小型種BETAの群れもまた、機関砲を搭載した改造戦闘車輛からの斉射を受けて、赤黒い『何か』として霧散していった。

「指揮官車よりカク、カク! 第12斉射―――撃て!」

『試作01式駆逐戦車』―――旧式化した74式戦車から旋回砲塔を撤去し、代わりに固定式戦闘室に変更して、試作された105mmライトガスガンを搭載した試作駆逐戦車。

駆逐戦車―――第2次大戦後に、戦車より圧倒的に優速・高機動で、戦車砲を越える長射程の対戦車ミサイルを装備し、軽装甲車輌並みの防御を施した攻撃ヘリに取って代わられた。
その途絶えた系譜は、対BETA戦争の中で復活しようとしていた。 光線属種の存在である。 戦場で低空を低速・高機動で飛び回る攻撃ヘリにとって、光線属種BETAは悪夢だ。

そして対突撃級、対要撃級BETA戦闘での防衛戦は、かつての対戦車戦闘と同じであった。 通常の戦車から旋回砲塔を撤去し、代わりに固定式戦闘室に変更。
同格の戦車に比べ、より大型・大口径・長砲身で威力の高いものに換装―――ヘリウムガスを作動流体として用いる新型砲である、長砲身ライトガスガンだ。
ライトガスガンは理論上、ヘリウムガス使用の場合、火薬の燃焼ガスよりも大きなエネルギーを伝播させることができ、理論上の上限は7.8倍になる。 実用上では5.3倍。

いずれも長距離からの一撃で、或は数発の命中弾で、突撃級BETAの正面装甲殻さえ、射貫が能う事が証明されている。

防御戦闘に使用する為、戦車の様な旋回砲塔は必要ない。 無砲塔構造は砲塔内容量、旋廻リング荷重制限などを受けない。 砲塔構造に比べて、より大口径の火砲を搭載できる。
旧式化し、最早、対大型種BETA戦闘では威力不足を露呈した旧式戦車の再生案。 機甲部隊以外の兵科の『守護神』として復活しつつあった。

『―――2中より指揮官車! 右翼の突撃級10体、要撃級26体撃破!』

『―――3中より指揮官車! 左翼の突撃級8体、要撃級31体撃破!』

『―――1中、正面の突撃級21体撃破!』

各12輌(3個小隊)、3個中隊36輌に本部2輛の、合計38輌から成る第1001教導駆逐戦車大隊。 本来は第17軍団直轄の予備隊だった。
それがこの最前線で、BETA群に砲火を浴びせかけている理由。 第17軍団の上級司令部である上陸第2軍、その更に上級である地上作戦総司令部からの命令である。

地上作戦に全責任を負う、地上作戦担当副司令官・ロブリング米陸軍大将からの、第17軍団へのダイレクト・オーダー。 『カミニイホ・ダムを絶対に確保せよ』

第17軍団は、当初予定の無かった戦術予備部隊を、一気に投入する事になった。 第1001教導駆逐戦車大隊の他、各予備隊が戦闘に参加した。
試作01式火力戦闘車(155mmライトガスガン搭載)、12輌装備の第2001教導機甲中隊。 試作01式野戦自走高射砲(57mmライトガスガン搭載)、57輌装備の第3001教導高射大隊。

この他にも、旧式化して退役した60式装甲車に、4連装対空銃架に設置されたブローニングM2・12.7mm重機関銃を搭載した戦闘車両である60式自走機関砲。
同じく旧式化して退役した60式装甲車に、35mm・2連装高射機関砲 L-90を搭載した、60式自走高射砲。 いずれも『制式採用』ではなく、現地部隊での『無許可改造』に近い。

しかし旧式の車体・装備ながらも、小型種BETAに対しては、猛烈で濃密な弾幕を展開でき、製造コストも安く大量に配備できることから、歩兵部隊の『守り神』的存在である。
それらの『無許可改造戦闘車輛』を配備された、独立自走機関砲・自走高射大隊が3個大隊。 教導隊を囲むようにして、小型種BETAの浸透を防ぎ激戦を展開していた。

当然ながら、車輌部隊だけでは防ぎ切れない。 独立機械化歩兵大隊、果ては軽歩兵である独立自動車化歩兵大隊まで投入しての、上新穂ダム跡の奪取戦。
更にその外縁部ではトルーパーズ―――機械化装甲歩兵部隊が戦車級BETAと激戦を繰り広げ、戦術機甲部隊が突撃級、要撃級BETAの後続と激突していた。

「トルーパーズ(機械化装甲歩兵)より通信! 『戦車級50体、阻止能わず。 貴方へ向かう、注意を要す』 左翼側面からです!」

「独立機械化歩兵第2大隊、独立第51自走高射中隊、左翼に緊急展開中!」

第1001教導駆逐戦車大隊の大隊指揮所(戦闘指揮装置用車に改造した73式大型トラック)の指揮所内で、大隊本部要員のオペレーターが緊張した声で次々に報告する。
何せ、距離を取ってなんぼの、遠距離砲撃戦部隊なのだ。 懐に入り込まれたら最後、後は散々に食い殺されるだけだ(比喩では無く、物理的に)

機械化歩兵大隊の89式装甲戦闘車の90口径35mm機関砲KDEが、96式装輪装甲車の96式40mm自動てき弾銃(A型)や、M2・12.7mm重機関銃(B型)が火を噴いた。
重迫撃砲中隊の96式自走120mm迫撃砲からも、次々に120mm迫撃砲弾が発射される。 それだけではなく、自走高射砲中隊の4連装M2・12.7mm重機関銃が猛烈な弾幕を張った。

『無理に狙うな! 連中の動きは素早いぞ! 阻止弾幕を張れ!』

自走高射中隊指揮官の声が通信に流れてきた。 他にも機械化歩兵大隊の各級指揮官達の声もだ。

『本管より1中! 右翼の10体を潰せ!』

『2中より本管! 食い込まれた! 食い込まれた! くそっ!』

『3中隊より本管! 左翼の11体を阻止成功! 2中の支援に回る!』

『51自走高射より歩兵! 頭を低くしろ! 掃射する! 撃て!』

連続して鳴り響く重低音、怒声と悲鳴の戦場音楽。 そのさなかで新たな展開が生起した。

『軍団司令部より緊急電! 新たなBETA群、突撃級250、要撃級380! その他小型種1800! 急速接近中!』

「くそったれ! 残弾!?」

「APFSDS 、9発!」

たったそれだけか! 第1001教導駆逐戦車大隊指揮官の少佐は歯ぎしりする思いで、指揮下の中隊の状況を確認した。 散々だった。

『1中より本管! 残弾数、各車8発!』

『2中、全車、残弾数7発』

『3中、残弾数10発が4輌、9発が2輌、6輌は残弾8発です! 補充を!』

38輌、全車輌が生き残っているが・・・全てを一撃必殺しても、304発。 突撃級は仕留めても、要撃級に突っ込まれる・・・

『3001本管(第3001教導高射大隊本部管理中隊)より、1001本管! こちらだけでは要撃級の始末は無理だ! 残弾は20%!』

『2001(第2001教導機甲中隊)です。 残弾数、5発が6輌、4発が6輛。 突撃級を50、引き受けます。 運が良ければ、巻き込みで60。 しかし、それでアウト・オブ・アンモ!』

他の2つの教導部隊の残弾数も、推して知るべし。 ここまで予備隊の自分たちだけで、押して来たのだ。 しかし悲しいかな、独立部隊。 弾薬の補充が間に合わない。

「近いのは・・・14か、15師団・・・どうか?」

「15師団、152トルーパー(第152機械化装甲歩兵大隊)が急行中、あと2分! 14師団のTSF、2個中隊があと3分!」

「よぉし・・・1001本管より、哀れな予備隊諸官らへ! 苦しい台所事情だが、14と15師団からの増援が、あと2~3分で到着する! トルーパー1個大隊にTSFが2個中隊!」

『2001本部です、大型種を優先して潰すしかない! ギリギリですが、残弾全部、一撃必中しかないか!』

『3001本管だ。 偶に撃つ、弾が無いのが、玉に瑕・・・貧乏人の器用さ、思い知らせてやるぞ!』

周囲を固める、3個自走高射砲大隊と、1個機械化歩兵大隊、1個自動車か歩兵大隊も腹を固めた。 ここまで来れば、やるしか無いのだ、今まで通り。
本来ならば直接護衛についている筈の、2個機械化装甲歩兵大隊は、他所で戦闘に巻き込まれて不在だ。 軍団が直援に付けてくれたTSF2個中隊も、外周での阻止防御に必死だ。

やがて振動波を捉えた。 同時に上空のドローン(付近に光線属種が居ない証拠だ)から、映像情報が入った―――2500体近い、連隊規模のBETA群がまっすぐ急接近してくる。
各戦闘車両がハルダウンの姿勢に入った。 距離5000、まだ少し遠い。 155mmライトガスガン装備の2001教導中隊でも、4000から攻撃開始したい。

距離4500―――2001教導中隊が照準。

距離4000―――12輌の試験自走砲が、12門の155mmライトガスガンを射撃開始。 

凄まじい反動で、一瞬車体が後退する。 突撃級BETAに全弾命中。 中には1体を『潰して』、後続の1体をも圧壊させた砲弾さえあった。 
そして継続砲撃。 2発目、3発目、4発目。 半分が残弾ゼロ。 5発目、全車輛、残弾無し。 この時点で突撃級BETAを56体撃破。

「2001、下がれ! 下がれ! 1001、各中隊、射撃用意!」

距離3500―――38輌の、105mmライトガスガン搭載駆逐戦車が、照準を合わせた。

距離3000―――「本管よりカク、カク、射撃はじめ!」

1発、2発、3発・・・突撃級BETAの正面装甲殻に大穴が開く。 射孔から赤黒い体液を噴き出して、ガクッと停止する被撃破個体群。 まだ続いている。
発射速度は先ほどの2001より遥かに速い。 瞬く間に残弾が減る。 6発、7発・・・第2中隊、残弾無し。 8発目、第1中隊全車と、第3中隊の半数が残弾無し。

「9発・・・10発! 残弾無し!」

「確認戦果! 突撃級242撃破! 要撃級318撃破! 突撃級8、要撃級32、小型種1800、向かってきます!」

「3001、全車両、射撃用意! 2000で殺る!」

「自走高射砲部隊、弾幕射撃開始!」

「大型種BETA、停まりません! 距離2000! 突っ込んでくる!」

57mmライトガスガンの連続した発射音、37mm機関砲弾、20mm機関砲弾の発射音が鳴り響いた。 要撃級BETAが数発の57mm砲弾を胴体に受け、どうっと倒れる。
37mm砲弾でも、10数発を受ければ固い前腕でガードされない限り、要撃級を仕留めることが出来る。 20mm砲弾の斉射を受けて爆散するように弾け飛ぶ戦車級BETAの群れ。

「もっと集弾させるんだ! 無駄弾は1発も無いぞ!」

声が震える、恐怖だ。 何も出来ず、蹂躙されて食い殺される恐怖だ。 くそ、まだか、まだか、まだなのか・・・!? 2001教導大隊長の頭の血管が切れかけた、その時だった。

『予備隊! 遅れて済まない! ラビアンローズ(第14師団第143戦術機甲連隊第3大隊)だ! 下がれ! 掃射する!』

94式『不知火壱型丙Ⅲ』が40機近く―――実際は37機―――到達した。 突撃砲の36mm砲弾を浴びせかけ、120mm砲からAPFSDSを撃ち出して、大型種を仕留める。
その内に北北西から、トルーパー(機械化装甲歩兵)が、『鋼鉄のマウンテンゴリラ』と称される姿を現せた。 こちらもブーストジャンプの連続使用で急行してきた様だ。

『152トルーパー(15師団第152機械化装甲歩兵大隊)、グラップラーズだ! 予備隊、1000下がれ! ラビアンローズ! 戦車級まで頼む!』

急遽駆け付けた、15師団第152機械化装甲歩兵大隊長の志摩右近少佐が、14師団のTSF(戦術機甲部隊)に告げた。

『グラップラーズ、了解した。 ラビアンローズ、美薗杏少佐です。 本年の10月です』

『そうか、俺は3年前だ。 こちらが先任か』

美薗少佐は、今年の10月に少佐へ進級したばかり。 対して志摩少佐は、4年目少佐。 同一階級の場合、先に任官した者が先任者となる。 その場の先任指揮権を有するのだ。

『指揮権、移譲します。 志摩少佐』

『渡された、美薗少佐・・・ところで、うちの突撃役2人とは、君は旧知だな?』

『残念なことに・・・2中隊! 側面に迂回しろ! 1中隊正面、3中隊は南! 半包囲を敷くぞ!』

14師団第143戦術機甲連隊第3大隊『ラビアンローズ』、指揮官は美薗杏少佐。 訓練校19期A(前期)卒。 26歳の最年少陸軍少佐のクラスの1人だった。





「・・・なんとか、助かったか」

第1001教導駆逐戦車大隊の指揮官は、後方に下げた車輛の中で、大きく息をつきながら、声を絞り出すように言った。 全身に嫌な汗をかいている。
何とか、全車輛無事だ。 何しろ、高価な新型の試験兵器を預かる身としては、ここで全滅などしては目も当てられない。 コンバット・プルーフ・・・情報を持ち帰るまでが任務だ。

もっとも、全予備隊が無傷だったわけでは無かった。 例の『無許可改造自走高射砲』部隊は、3個大隊の内、2個中隊分の戦闘車輌と、その人員を失った。 損耗22.2%だ。
機械化歩兵部隊、自動車化歩兵部隊も、それぞれ2個小隊と、1個中隊分の兵員が食い殺され、失われた。 最後の最後に、小型種BETAの浸透を許してしまったのだ。

機械化装甲歩兵部隊も、3個独立中隊のうち、激戦の最中で2個小隊分の損耗を出した。 しかし、それで食い止めた・・・

「・・・TSF、1個大隊出してくれたのが効いたな。 14師団に感謝だ・・・15師団も台所が苦しいだろうに、トルーパーを1個大隊・・・戦線に穴が開いていなければ良いが」

教導駆逐戦車大隊長が、戦線全体の心配をしていた頃(何とか援軍がBETAを殲滅したからこそ、だったが)、その援軍の指揮官同士では、会話が嚙み合っていなかった。

『ではな、美薗少佐。 周防と長門に、宜しく言っておくぞ―――会いたがっていたとな』

『止めて下さい、志摩少佐。 冗談でも言わないで・・・』

『はははっ! なんだ? 照れくさいのか? かつての先任だろう?』

『や、だから! 碌な事になりませんから! 聞いています!? 志摩少佐!?』

『判った、判った。 そう照れなくてもいいぞ! ではな、周防と長門には、色々と伝えておくぞ。 ではな!』

『ちょっと!? 聞いてよ!? ねえ!? 聞いてないよ、この人ってば!?』









124分後―――2001年12月25日 1100 日本帝国 佐渡島北東部 両津湾沖 エコー支援水上部隊


冬の日本海は波が荒い。 この日は晴天であったが、それでも『本日天気晴朗ナレドモ浪高シ』であった。

その真冬の日本海の荒波を、鋭く引き裂いて進む鋼鉄の艨艟。 シャープな艦型の艦首が荒波を切り裂き、上甲板は波に洗われる。
巨大な艦だった。 毎時12ノットの速度で南進しているのだが、その甲板上に人影は無い。 まるで無人のようである。

だが実際は、その巨体の中に2000名近い乗員がひとつの目的に為に、活発に活動しているのだ―――『勝利』という目的のために。

『シーホークより最終データ受信。 システム転送開始―――転送終了』

『目標、変更無し。 TA/TA(戦術目標)D6R、185-22-108 旧両津港跡』

『TERCOM(地形照合システム戦術MAP)、変更無し』

『迎撃光線級、確認されず』

『D時、変更無し。 攻撃開始予定通り』

『戦術情報システム、データ照合完了。 全データ、交戦級システム(射撃指揮システム含む)に転送、オーバー』

『交戦級システム、オールグリーン』

各オペレーター達によって、全ての情報はひとつの目的の為にシステム上のリンクが完了した。 Gunnery Officer―――砲術長が艦長に報告する。

「サー、システム、オールグリーン」

「オーケイ。 では、第2幕を始めよう―――オープン・ファイアリング!」

『オープン・ファイアリング!』

3隻の戦艦が主砲の一斉射撃を開始した。 国連軍太平洋艦隊・・・その実態は、アメリカ海軍太平洋艦隊第7艦隊。 その水上打撃部隊である、第75任務部隊(CTF-75)
その麾下に4個水上打撃任務群を要する。 第75-1から第75-4までの任務群(Strike Group 75-1~4,SG-75-1~SG-75-4)だ。
このうち、戦艦戦力を有するのはSG-75-1からSG-75-3の3個任務群。 戦艦『ミズーリ』、『アイオワ』、『ケンタッキー』の3隻を有する。 

改良された『Mk.9』55口径16インチ(40.6センチ)砲は、日本の超々弩級戦艦群の主砲には劣るものの、長砲身された事により砲口初速が862m/秒で撃ち出される。
最大射程は5万ヤード(約4万5700m)に達し、また日本海軍から技術供与のあった対地クラスター砲弾(九四式通常弾)を、自国規格に合わせ開発した。

『アラスカ、グアム、砲撃開始』

艦砲射撃を行っているのは、3隻の戦艦だけでは無い。 『大型巡洋艦』、他国だと巡洋戦艦と呼ばれる艦種の2隻、『アラスカ』、『グアム』が各々60口径12インチ砲9門を放つ。
戦艦の主砲に比べて小さいとは言え、12インチ―――30.5センチ砲だ。 ほぼ全ての陸軍砲より大口径の砲である。 それを2隻合計で18門、毎分4発の発射速度で放っていた。

『―――『ヒュー・シティ』、『シャイロー』、『レイテ・ガルフ』、『バージニア』、『バンカー・ヒル』、『フィリピン・シー』、『テキサス』、SLAM発射!』

『―――DDG(イージス駆逐艦)、DD(ミサイル駆逐艦)、SLAM発射!』

CTF-75に属する7隻のイージス巡洋艦、ミサイル巡洋艦と、20隻のイージス駆逐艦、ミサイル駆逐艦からSLAM(Standoff Land Attack Missile:対地ミサイル)が発射された。

『―――JIN(日本帝国海軍)、1St.フリート、『ヤマト』、『ムサシ』、砲撃開始! 『タカオ』、『アタゴ』、『トネ』、『チクマ』、SLAM発射!』

日本海軍第1艦隊―――今回、第2、第3艦隊に本来の麾下部隊を派遣し、規模が小さくなっている―――田所中将指揮の戦艦2隻、イージス重巡、打撃(ミサイル)重巡各2隻。
エコー水上部隊の支援として派遣された日本艦隊もまた、米艦隊に続いて対地打撃戦を開始し始めた。 戦艦『大和』、『武蔵』の両艦が、各々55口径46センチ砲9門を放つ。

そしてアメリカの『タイコンデロガ』級ミサイル巡洋艦とは、『準同型艦』である『高雄』、『愛宕』(他に『摩耶』、『鳥海』 『妙高』型は1998年に全艦戦没)のイージス重巡。
更に『バージニア』級原子力ミサイル巡洋艦をベースに、機関を通常動力推進艦とした打撃(ミサイル)重巡『利根』、『筑摩』、この4隻が米国の同族と同じく、SLAMを放っていた。

戦艦5隻、大型巡洋艦(巡洋戦艦)2隻、イージス巡洋艦7隻、ミサイル巡洋艦4隻、さらには日米で30隻のイージス駆逐艦、ミサイル駆逐艦が一斉に佐渡島へ攻撃を開始した。
エコー上陸第2派―――米陸軍2個師団、国連軍2個師団からなる上陸第2陣の為の『地ならし』攻撃である(既に米海兵隊1個軍団が、第1派として上陸していた)

『―――JINより入電! 『付近海底にBETA群を探知せず』です!』

今回、米海軍は水中の敵―――昔は潜水艦、今はBETA―――を探知し、攻撃を行う対潜艦(今でもそう言う)を連れてきていない。
その任は日本海軍の汎用駆逐艦・・・『DDA』の4隻、『白露』、『時雨』、『村雨』、『夕立』と、豪州海軍のフリゲート(FFG)『アデレート』、『キャンベラ』、『シドニー』が担う。

両津湾は最深部で水深が200m有るが、どこもそうでは無い。 水深の浅い海底から、BETAに『飛び付き』をされては、大型艦でさえ艦艇に損傷を受ける。 最悪、竜骨を折られる。

「やれやれ・・・こんな場所での対地砲撃戦は、神経が疲れるね・・・」

CTF-75司令官、カーライル・アーコイン米海軍少将が、戦艦『ミズーリ』のCDS(戦闘指揮所)の司令官席で呟く。 今回、アーコイン少将の立場は非常に微妙であった。
本来なれば、第7艦隊・・・第75任務部隊司令官として、第7艦隊における水上打撃戦副調整官―――殴り合いの責任者―――が、彼の責務である。
しかし今回は合同任務部隊(Combined Joint Task Force,:CJTF)で、第7艦隊の他に日本の第1艦隊と、豪州、ガルーダスの艦隊が加わっている。

豪州とガルーダスの艦隊は、精々DD(ミサイル駆逐艦)やFFG(ミサイルフリゲート艦)の任務隊程度だ。 隊司令も海軍大佐クラスだ。 彼らはそのまま指揮下に入った。
問題は日本海軍だ。 数を減らしているとは言え、第1艦隊―――頭号艦隊である。 しかも海軍中将が指揮している。 第7艦隊司令官と同格である。

しかし、戦艦、イージス巡洋艦、ミサイル巡洋艦といった『主力艦』の数は、今回は第7艦隊の方が多い。 エコー支援水上打撃戦部隊の中核は、CTF-75なのだ。
結果、様々な問題を棚上げし、今回『CJTF-1』、国連太平洋艦隊水上打撃戦部隊司令官は、アーコイン少将が務めることとなった。 だが遣りにくい事に変わりは無い。

「・・・アドミラル・タドコロが、話の判る人物で良かった・・・」

他国の、しかも1階級下の者の指揮下に入る・・・軍人として、認めがたい。 それを完爾として笑って了解してくれた、年上の異国の提督に、アーコイン少将は感謝した。

「なれば、我々の仕事は、見事完遂しようじゃ無いか・・・ESG-7(第7遠征打撃群)に連絡! 『来訪に失礼無きや?』だ」

エコー上陸第2派、第11戦術機甲師団(ラファイエット)、第30戦術機甲師団(ブラッド&ファイアー)、UN第21師団(ガルーダス)、UN第25師団(亡命韓国軍第7師団)
次々と戦術機が飛び立ち、エアクッション艇や上陸用舟艇が海岸線を目指し、全速で海面を疾走していく。 国連太平洋方面軍第2軍団の上陸が開始された。








149分後―――2001年12月25日 1125 日本帝国 佐渡島西部 旧真野町 真野御陵(まののみささぎ)跡地付近 第15師団第151戦術機甲大隊


外の光景は血生臭い、そして地獄のような情景を呈している。 荒涼たる大地。 醜悪な姿を晒す、撃破されたBETAの骸の数々。 撃破された友軍の車輌に戦術機。 そして死体。
そんな光景を無視して、戦術機の管制ユニットの中で、コペルニクスC4Iシステムの情報画面を網膜スクリーン状に移しだしていた周防直衛少佐は、無意識に顔をしかめ始めた。

「・・・なんだ? これは・・・?」

上位の作戦級システムからの概要情報が展開された、作戦指揮系(OPS)戦術級システム。 そこから投影される共通作戦状況図(COP)と、共通戦術状況図(CTP)
作戦級システムは作戦を指導する作戦術の遂行を支援するシステムである。 戦略級システムと同様、扱われる情報は兵力調整精度のものであるが、扱うのは師団司令部以上。
各軍種内・兵種間で共通作戦状況図(COP)を生成することで、作戦指揮官の意思決定を支援する。 戦術単位とはいえ、最小単位の大隊指揮官クラスに詳細は不明。 概要だけだ。

「順調すぎる・・・?」

言いしれぬ不安感が襲う。 現状は一言で言えば『順調に推移』そのものだ。 少なくとも周囲に脅威となるBETA群は確認されていない―――島の中央部近くまで進撃したのに!

ウイスキー、エコーの両上陸部隊は、艦隊の支援攻撃の元、予定通りに上陸を果たし、その後も順調に戦果を拡大してゆき・・・タイムスケジュール通りの戦闘を継続している。
周囲の状況を再度、確かめるように視線を流す。 荒れ果てた地表、食い尽くされた建築物。 撃破され、赤黒い体液を吐き出し倒れているBETAの残骸の数々。
所々で黒煙が上がっている。 爆散した戦闘車両、撃破された戦術機、撃ち込まれた砲弾や対地ミサイルによる大穴・・・そして袋に収められた、多数の戦死者の死体。

何も変わらない。 10年近くの間、見慣れた戦場の光景がそこにあった。

無意識のうちに、右頬をなぞっていた。 昔の古傷―――もう7年以上も前になるのか、国連軍派遣時代に、イベリア半島での戦闘で負った戦傷の痕。 そこがひりつく。

「・・・嫌な空気だ」

管制ユニットの中で、周防少佐は無意識に右頬の古傷をなぞりながら、再び呟いた。 何かが、そう、何かが・・・くそっ! 己の言語表現力の未熟さに、無性に腹が立ってくる。
周防少佐自身、確たる論拠は無い。 データを示せと言われても、何も提示出来ない。 論理的な説明は不可能だ―――経験から来る『戦場の勘』なのだから。

不意に通信回線が開いた、秘匿回線だった。

『―――やばいぞ、これは』

ポップアップしたバストショットの人物は、僚隊・・・第152戦術機甲大隊の指揮官、長門啓介少佐だった。 少しだけ目を細め、やや斜に構える、彼が不機嫌さを無意識に示す仕草。

『―――やばいぞ、これは。 直衛』

周防少佐、でも、周防、でも無い。 秘匿回線を使って、そして名前で呼んでいる。 僚隊の指揮官としてでは無く、中等学校以来の悪友にして親友、そして戦友としての呼びかけ。
第152戦術機甲大隊は、周防少佐指揮の第151戦術機甲大隊と共に、先陣を切るA戦闘団(増強旅団)の切っ先として、全師団の先鋒を努め、ここまで戦い進撃してきた。

途中、多少規模の大きなBETA群との交戦はあったが、それも瑕疵にさえなっていない。 大隊は上陸直後の戦闘で1機を失ったが、その後の戦闘では3機の損傷で済んでいる。
現在の大隊戦力は36機。 第3中隊が現在10機と損失が多いが、第1中隊は12機が全機健在、第2中隊も11機を保持している。 指揮小隊は周防少佐の大隊旗機を含め3機。

長門少佐の第152戦術機甲大隊も、定数40機の内、35機を保持していた。 2個大隊で71機の戦術機戦力。 損耗率11.25%、旅団の先鋒はまだやれる。

「・・・ウイスキーは旧八幡新町、旧河原田本町確保した後、旧沢根、旧高瀬に戦線を構築すべく、戦闘中・・・順調の一言だ。 あと30分ほどで戦線を構築出来るだろう」

『―――エコーは第1派が両津港跡に上陸後、旧北松ヶ崎を確保すべく攻勢を掛けている。 第2派が上陸を開始、兵站主地を確保しつつある。 ウイスキーも同様だ』

「俺たちウイスキー上陸2派別動部隊は・・・10師団は旧新穂村の行谷まで進軍した。 エコー部隊と手を握るのはもうすぐだ。 14師団は畑野村の北端、旧国道65号線に達した」

『―――そして15師団は、先頭の俺たち2個大隊が真野町の北端近くまで到達した・・・もうすぐ、確保線の旧国道65号線、そして国府川だ。 ウイスキー本隊は目の前だ』

周防少佐も、長門少佐の言いたいことは判っている。 このいい知れない不安感、その正体が何なのかもだ。

『―――92年と93年の満州での大侵攻、そして遼東と華北(九-六作戦) 94年のギリシャのペロポネソス半島と、イベリア半島、それにイタリアのカラブリア半島の大騒ぎ』

「96年のドーヴァー防衛戦、97年の遼東半島脱出に、98年の光州・・・そして本土防衛戦に、99年の甲22号・・・」

『―――去年、2000年のカムチャツカ半島に、今年5月のマレー半島でのクラ海峡防衛戦もだ。 おい直衛、今まで『予定通り順調に推移』した経験なんぞ、俺たちには無いぞ?』

いずれも、ハイヴ攻略作戦や、本土防衛戦、或いはそれに迫るBETAの大侵攻防衛作戦。 参加兵力は10万の単位でのオーダー、BETAの数も10万を超していた大激戦の数々。
周防少佐と長門少佐、彼ら両名はその最大規模の反攻作戦・防衛作戦を、実に10回以上(正確には13回)参戦し、最前線の激戦の数々を戦い抜き、そして生還し続けてきた。

それ以外の、規模の劣る『大規模』作戦や、中小規模の戦闘となると、彼らもはっきりと覚えていない。 戦闘記録を見直さねば、全てを言えない位だ。
彼らを上回る技量の衛士は、世界中を探せば他に幾らでも居るだろう。 単純に近接戦闘技量、或いは機動打撃戦技量で見れば、彼らは日本軍内有数ではあっても、世界最高峰では無い。

しかし彼らほど濃い戦闘経験を有する衛士は、日本帝国軍内には居らず、太平洋戦域を見渡しても、他に居ないかもしれない。 そして彼らは指揮官で、そして生還し続けてきた。
その経験―――多くが苦い思いと、涙を飲んだ負け戦―――が、最大限の警報を発しているのだ。 『BETAが裏をかいてくるぞ』 そう言って鳴り止まない。

『―――直衛、お前なら、どの辺りだと考える?』

長門少佐が問いかける。 BETAが人類の裏をかく行動をとるのは、どの状況であるかと。 普通に考えれば、それが判れば苦労はしない。 いや、予想はしても、裏付けが出来ない。

「・・・あくまで、今までの勘だ。 多分、フェイズ4以降。 連中の穴蔵に、『投身自殺志願者(オービットダイバーズ:第6軌道降下兵団)』が降着した後だ」

『―――同意する。 それもある程度の深さまで潜った後だ。 古くは78年のミンスク(パレオロゴス作戦)、92年のボパール(スワラージ作戦)、99年の横浜もそうだ・・・』

「BETAはハイヴ突入までは、積極的な行動を行っていない。 一撃を加えてくるのは、人類が穴蔵に深く入り込んで、身動きがとれなくなってからだ・・・」

『―――ハイヴ内での大侵攻だけじゃ無い、確実に他の地点への地中侵攻を掛けてくる・・・今回はどこだ? どこだと考える?』

「金井(旧金井町)辺りだろう、と予想する。 あの辺りに地中侵攻を食らえば、東西南北、全ての戦線の連絡が一撃で絶ち切られる」

BETAに思考する能力があるか否か。 両少佐には判らない。 しかし今までの経験からすると、高い確率で旧金井町辺りに地中侵攻を受ける、そう予想出来た。

『―――お前の考えに同意する、直衛。 忌々しい事に』

「こんな時くらい、お前と気が合わないでくれと、何度願っても無駄だった、圭介。 忌々しい事に」

未だ小規模な掃討戦が続いていた。 しかしそれは彼ら両少佐の仕事では無い。 中隊長が命令を下し、小隊長が指揮を執り、小隊の衛士達が戦う事だ。

周防少佐、長門少佐の両名は、先鋒部隊指揮官として、現地の戦況を上級司令部たるA戦闘団(15師団A旅団=増強旅団)司令部へ報告した。
戦闘団長(A旅団長)である藤田准将は、満州で戦術機に搭乗して戦い抜いた歴戦の猛者だ。 そして冷静で広い視野を有する作戦指揮官でもある。
周防、長門の両少佐の『私見』を受けた准将は、その『経験』を買った。 上級司令部である第15師団司令部に対し、佐渡島中央部での地中侵攻の危険性を上申した。

果たして、その上申がどのレベルまで達せられるかは、藤田准将でさえ、不明であったが・・・




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