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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 本土防衛戦 西部戦線 5話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/24 00:34
0655 福岡県北九州市 小倉南区 第9師団


『転進、転進、また転進! 一体どうなっているんでしょう、中隊長?』

曇天と驟雨の支配する薄暗闇の中、迫りくる戦車級の群れに、突撃砲の36mmを一斉射浴びせかけて穴を開ける。 
そこに後方から砲撃支援機がキャニスター砲弾を浴びせかけ、BETAをなぎ倒した。
後退中―――遅滞防衛戦闘の最中、部下がそう問いかける。 部隊は今、九州自動車道を苅田北九州空港ICで降り、南の大分県内を目指している。 
そこから国道10号線に入り南下。 師団の本拠地である築城を通り越し、大分の中津で第4軍第10軍団と合流する予定だった。

倒したばかりのBETAの残骸を見下ろしながら、久賀直人大尉は北の方角―――BETAが上陸した北九州市内を見ながら答えた。

「・・・既に第57師団は全滅だ、関門海峡はBETAの支配下になった。 残る戦力を結集して、九州中部から南を死守しようと言う所だろう」

唐津でも第13軍団が、相当酷い損害を出している。 松浦半島にもBETAが上陸した結果、各個撃破された形になってしまったのだ。
残存戦力は伊万里市に展開していた第25師団が、長崎県佐世保まで後退した。 第21師団と第34師団は佐賀平野まで後退し、第8軍団(第4軍)に合流している。
第32、第39の2個師団は、文字通り全滅したようだった。 5個師団を数えた第13軍団も、実質戦力は2個師団相当まで激減している。

もっともこれは第3軍団とて同じだった。 未だ辛うじて戦闘力を残す部隊は、第9師団、第12師団のみ。 
第23師団は第8軍団に『お預け』となったし、第33、第57師団は全滅した。 実質戦力は1個師団半を少し越す程度の状況だった。

「・・・俺達は、九州北部防衛に失敗した。 そう言う事だ」

ぶっきらぼうに答える久賀大尉の顔を、部下が凝視する。 不安、困惑、苛立ち、そして恐怖。 
初の実戦を経験し、そしてこうしてBETAに押され後退し続けると言う事態に、誰もが慣れている訳ではない。

「いいか? 試合の序盤戦は連中に先制された。 だが、まだ中盤戦以降が残っている。 
九州にも第4軍が無傷で残っているし、俺達も1個師団を越す程度の戦力を残した。 まだやれる、まだ戦える。
先は長い、先制された事は仕方が無い、事実は事実だ。 それよりも次を見据えろ、連中に逆転してやる手を考えろ、それを強く想像しろ」

何より心配なのは、士気の低下だ。 緒戦で叩かれ、意気消沈したままズルズルと消耗して行き、大敗北を喫した例は数多い。

≪CPよりサラマンダー・リーダー。 BETA群先頭集団は前進を停止。 集団の本隊は北九州市内に留まっています≫

どうやらBETAは、都市と大人口と言う餌に喰らい付いたか。 
これで後退して防衛線を再構築する時間が稼げる―――その餌は北九州市と、未だ残っていた数10万人の民間人の命だったが。

『俺達・・・ 軍人なんですよね? 宣誓して、誓約を誓った、帝国軍人なんですよね・・・?』

茫然とした声色の主は、この4月に訓練校を卒業して配属されたばかりの、新米少尉だった。
誰も、何も言えない。 この向う、僅か数10km北では、軍が『見捨てた』北九州市の地獄絵図が展開されている筈だった。
第9師団が到着する寸前に、第57師団司令部からの通信が途絶えた。 最後の通信は『これより、師団本部、突撃す』、だった。
ただの自動車化歩兵師団でしか無い、機械化歩兵師団でさえ無い第57師団にとって、単独でのBETAとの交戦は、全滅を意味していたのだ。
それでも数時間の時間を稼いだ。 関門海峡を渡り、下関市へと逃げ延びた民間人が少なからず居た事が、第57師団がこの世に残した存在の証になった。

『・・・57師団、皆、やられたのかな・・・?』

『支援部隊の一部しか、合流出来なかったし・・・ 南側はもう、BETAに遮断されていたし・・・ 駄目だろ?』

なのに、自分達はどうだ? 当初防衛する筈だった博多を放り出し、増援として赴く筈だった北九州市を脇に見つつ、南へと移動中―――後退中だ。
情報では、博多防衛の第33師団は全滅したようだ。 師団本部は情報を封じているが、そんなモノは古兵達の手にかかれば、ザルも同然だ。
唐津や松浦でも、第13軍団の中には全滅するまで、防戦を行った部隊が有るらしい。 彼等は全滅し、誓約は守れなかったが、宣誓は守った。

『喧しいぞ、ヒヨコ共。 何だったら、今からでも引き返すか? 貴様らなら包囲網を突破して、防衛戦を完遂できるとでも?』

『軍人だったら、まず命令を完遂する事を覚えろ。 あれこれ考えるのは、その後だ』

小隊長達が諌める。 大陸での悲惨な撤退戦の経験が無い、それどころか、BETEとの本格的な交戦は今回が初めてという連中が殆どだ。
バイタル・パートをチェックする限りでは、少なくとも2名がかなり不安定な心理状態であることが認められる。 他に1名も、その兆候が出ている。
既に3名を喪っている、ここでまた3名を後方送りにするのは、中隊戦力の半減を意味する。 それは流石に拙い。


≪CPよりサラマンダー・リーダー、師団はこれより南下、築城を経由して中津へ転進します。 
大隊は殿軍で後方警戒、サラマンダーは右翼に占位。 なお、ROEは“タイト”≫

CPから、後退開始の連絡が入った。 BETA群の最進撃が確認されるまでは、武器の使用は“タイト―――限定”だ。

「サラマンダー・リーダー、了解。 早く後退しろと、前方部隊に言っておいてくれ。 それと、1番風呂は確保しておけよ?」

中津には、耶馬溪と言った温泉の名所もある。

≪CPよりリーダー、職責範疇を越えています! そ、それに、こんな時に不謹慎です!≫

「なんだ、融通が利かないな」

そう言って、笑いながら通信を終える。
そんな指揮官を見て、古参の部下達から冷やかしが入った。

『何て言いますかね? やっぱ結婚すると、こうまで違うもんですかね? 中隊長』

『着任当時の、熱血健児って感じからは、想像もつかないですよ』

「ほざけ」

そんな言葉に、自分でも苦笑する。 確かに言われてみれば、昔からこの手のちょっとした冗談なんかも、期友達と比べれば『暑い』方の部類だった。
欧州に飛ばされている間に、すっかり向うの水に馴染んだ(染まった?)2人の同期生と比較してもだ。
それが今では、こんな戦場のちょっとした合間でも、軽い冗談が出る様になったものだ。

(『―――あなた、もう少し、柔らかくなった方が良いわ』)

妻にも、良く言われた。

『にしても、あれですね。 CPがいきなり変わるのも、何か異和感有り、ですね』

『そうそう、今までずっと“奥さん”が、やっていましたしね』

2人の小隊長が、殊更に自分をダシにしている気がしてきた。
それでも、ここで石部金吉のような模範的態度は、ちょっと気拙いだろう。

「おいおい、元々のCPに戻っただけだぞ? そんな事言っていると、いざって時にヘソ曲げられて、オペレートしてくれなくなっても、俺は知らんからな。
それとだ、俺の嫁さんは元々が大隊付通信士官だ。 本来なら、拝めるのは中隊長以上。 お前らなんかにゃ、もったいなくてな」

その言葉に、小隊長達も、他の部下達もブーイングを飛ばす。 何しろ相手は、美人で聞こえた女性士官だ。

≪・・・CPより、リーダー。 申し訳ありません、後任は全然、もったいなく無い、十人並みで・・・≫

「むくれるな、きっと誰か引っかかる。 なんだったら、宣伝してやろうか? 西部だけじゃ無い、中部軍集団にも、知り合いは多いぞ?」

≪けっ、結構ですッ! CPよりサラマンダー! 早く、移動を開始して下さい! アウト!≫

顔を真っ赤にしたCP将校―――まだ、管制官学校を卒業して2年も経っていない、若手の女性少尉が、頬を膨らませて通信を切ってしまった。
隊内に笑い声が湧きあがった事を確認して、久賀直人大尉は改めて部下に周辺警戒態勢を取らせ、ゆっくりと陣形を維持しつつ後退を開始させた。


視界が薄明るくなってきた。 風雨は相変わらずだが、夜は明けたのだ。 厄介な台風も、多分もう直ぐ通り過ぎる筈だろう。
そうすれば―――また、本格的なBETAとの戦闘の再開だ。 何時間後になるか判らない、何日後かもしれない、だが確実に地獄は再開される。

「向うに着いたら、体が空いている連中は眠らせろ。 睡眠導入剤を使っても良い。 時間が有る時に、食事を取り、睡眠を取る。
一人前になる前に、死なさない為にな。 せめて半人前になるまで、生き残らせる為にな」











0700 博多市


曇天の空に、一斉に大音声の重低音と、空気を切り裂く様な発射音が鳴り響いた。 空港の方角からだ。
福岡空港に展開している砲兵部隊が、203mm、155m榴弾砲とMLRSの一斉射撃を開始したのだ。
かれこれ2時間近く続く、突撃破砕射撃。 個体数の割に光線属種の比率が高い為か、半数以上が空中でレーザー照射による迎撃で蒸発してしまう。
既に那珂川以西は陥落した。 今現在は川にかかる橋を全て落とした上で、鹿児島本線を死守する戦いが展開されている。
しかしそれも、間もなく終わろうとしていた。 第12師団はこの後、南東方面―――大分方面への転進を命令されている。
僚隊の第9師団も移動中だ。 結局、北九州市へは間に合わなかったのだ。

『第38射、今!』

第12師団第121戦術機甲連隊に所属する、“ベア”中隊は、残存全機が博多駅の次の駅―――竹下駅付近の那珂川の『西岸』に布陣している。
ここは川筋と鹿児島本線が非常に近い。 その為に防衛重心を師団が置いたためだった。 
しかし、最早6機にまで減少した戦術機甲中隊と、1個小隊4輌の90式戦車、そして僅か1個中隊の機械化歩兵部隊で、防衛も何もあったものではない。

『こちら“アックス”。 “ベア”、そろそろ終わりか?』

いや、戦術機は6機だけでは無かった。 全滅判定を受けた第33師団の師団戦術機甲大隊の生き残り、4機の『撃震』が、“ベア”中隊の横に布陣していた。

「こちらベア。 予定ではあと2射で終わりだ。 その後は尻に帆をかけて、トンずらするしかない。 そう言う事だ、“アックス”」

博多市内だけでも、昨夜だけで推定で約40万人以上が死んでいる。 恐らくその数字は、那珂川以東の避難民を合せて、今後100万のオーダーを越す事になるだろう。
だが、自分達の受けた任務はあと少しの間の、目の前の川を守る事。 そしてその後は九州中部防衛線を確保する事。
例え目の前で民間人が戦車級に喰い殺されようと、入院患者が未だ脱出できていない病院の側壁に、突撃級が突入しようと。 赤子が兵士級に喰われようと。
それが防衛計画に影響しないのであれば、全てを見捨ててきた。 そうする事によって、今までの時間を稼いできた。
そう、今のこの時間になっても尚、博多市東部を維持できているのは、市内西部の全てを切り捨てた結果だ。

もう、人間らしい感情が失せた気分だった。 何を見ても、感じられなくなっている。

『戦術広域MAPが正常作動しているのなら、南区・・・ 若久通り辺りから、戦術機の集団が押し上げてきている。 判るか?』

「さっき、大隊本部から連絡が有った。 太宰府に陣取っていた斯衛の連中だ、1個聯隊戦闘団。 戦術機72機、戦車2個中隊と自走高射砲1個中隊、機械化歩兵2個大隊」

『連隊って割に、結構叩かれているな。 ま、太宰府からここまで血路を切り開いたんだ、当然か。
それに制圧支援兵科―――砲兵が居ないのが、ご愛嬌と言うか、斯衛らしいと言うか』

「元々、戦車部隊だって保有に際しては、陸軍の反発が大きかったしな。 京都の第1、第2に次ぐ、有力な部隊だって事だが・・・」

『・・・で? 何しに来たんだ? あの連中は?』

「武門の誇りとか何とか、そんなホコリを被ったモノの為だろう?」

『ふうん? ご苦労な事で・・・ ま、お陰でこちらは、太宰府まで撤退する道が出来たって事か』






司令部内に設けられた通信ブース。 先程から師団本部と、とある部隊との間で、指揮官同士の実りの無い会話が続いていた。

『では、第12師団は撤退なさると、そう仰られますのか、師団長閣下?』

「撤退、転進、敗走、どう言われても良い。 好きなように呼びたまえ。 しかし斯衛大佐、言っておくぞ、我々は未だ戦う事を放棄したのではない」

疲労を滲ませた、しかし眼の色だけは未だ失っていない師団長は、突如の来援に駆け付けた斯衛第3聯隊戦闘団長に対してそう言い切った。

『それは結構、大変に、大いに結構な事です、閣下。 我等とて、戦う事を放棄に来た訳では有りませんからな。
が―――閣下の部隊と、小官の部隊とでは、戦う事の方向性が些か異なっている事が、不幸と言えば不幸でしたか』

12師団長は、その言い様にムッとする。 陸軍と斯衛、所属は違えど、こちらは少将、向うは大佐。 
2階級も下の佐官風情に、戦略判断を感情だけで断じられる謂れは無い。 例え相手が、山吹を纏う武家であろうと!

「勝手にするがいい。 だが未だ九州全域には、900万人近い民間人が残っている。
陸軍―――本土防衛軍は、ここで守るべき国民をむざむざ失う愚だけは犯さぬ、そう言う事だ」

『博多に残る100万人も、閣下の仰る『守るべき国民』である、そう愚考しますが?』

痛い所を突く―――感情的にだ。 戦略判断的には、無慈悲だが切り捨てる事は妥当だ。 そう、軍事戦略的には。
そして、師団長ともなれば、戦術行動に伴う感情などに、関わっていられる贅沢など許されない。
そんな余裕は無いし、そんな事にいちいち関わっていては、精神が保たない。 これは指揮する部隊の規模が上がれば上がる程、顕著に表れる。
従って師団長もその『原則』に従い、務めて『盤上の駒』に対して感情を持たないよう努めてきた。

無論、部下達に対する愛着は有る。 善き上官たれ、そう自らに言い聞かせてきた。 
しかし詰る所、将官クラスでの『善き上官』とは、部下を極力消耗せずに、最大の戦果を出す、これに尽きる。
部下の死に幾ら涙しようと、どれほど温情的に接しようと、いざ戦場で損失を出し過ぎてしまっては、部下にとっては『最悪の上官』なのだ。

そして今現在で、師団長として求められる行動とは、もはや防衛は不可能と判断される九州北部から、如何に損失を押さえて友軍の待つ九州中部へと撤退するか。
そこでは未だ健在な友軍が存在する。 その友軍と協同して、残る国土を、そして守るべき国民を、如何に多く守り切るか、それに限る。

「・・・戦略判断に縁遠い斯衛で有らば、そう判断する事は致し方無い。 存分に、自らの戦術的欲求を堪能し、満足しろ。
だがこれだけは言っておく、斯衛大佐。 この戦いがどの様な結末を迎えるにせよ、同じような悲劇、上回る悲劇は必ず生じる。
その度に、貴官の様な判断をしていれば・・・ それこそ、この国は瞬く間に消滅する事だろう」

『・・・『世の中には勝利よりも、もっと勝ち誇るに足る敗北があるものだ』―――モンテーニュ。 
我等は、我等の誓約に従う以外の道は有りません。 これ以上は平行線かと。 小官と部下達は、これより博多防衛の一端を担います』

そう言って、一方的に通信が切れた。
最後の最後まで、上官を上官と思わぬその不遜さに腹も立ったが、それ以上にその思考が腹立たしかった。
もはや通信の切れた装置の画面を見つつ、師団長は忌々しげに吐き捨てる。

「・・・勝手にくたばれ! この戦争屋め!」









0715 山口県下関市 油谷湾外 角島灯台沖3海里(5.56km) 帝国海軍第2艦隊 旗艦『出雲』


「両舷前進、原速黒15(12ノット+1.5ノット)」

「よーそろー、両舷前進、原速黒15」

艦長の繰艦命令に、脇に控える航海士が復唱する。 直ぐにデジタル運転指示装置により、機関指揮所へダイレクトで命令が伝わる。
一昔前ならば、エンジンテレグラフをいちいち操作して、それを機関指揮所へと伝えていたモノだが、今や完全デジタル化され、姿を消している。

風速20m、波高4m、随分と『穏やかに』なった海面を眺めつつ、艦長は後続する各艦を艦橋内モニターで見ていた。
第5戦隊の戦艦『穂高』、『高千穂』。 第8、第10戦隊の重巡(イージス/打撃)『最上』、『三隈』、『足利』、『羽黒』。 更に第2駆戦の2隻のイージス駆逐艦が続く。
その後ろから、中型戦術機母艦『雲龍』、『神龍』、『瑞龍』、『仙龍』の4母艦に、最後に第2駆戦の残り8隻の駆逐艦が続いていた。

基準排水量で7万トンを超す改『大和』級であるこの『出雲』や、巡洋戦艦から高速戦艦へ、最後に近代化改修を受けて6万トン超級となった『穂高』、『高千穂』の2戦艦。
そしてやはり5万トン級の『中型』戦術機母艦である、4隻の戦術機母艦。 3万トンの『最上』級2隻、2万トン『足柄』級2隻の4重巡は、この波濤にも危なげなかった。
だが、基準排水量で7000トンを超す『秋月』級イージス駆逐艦である、第2駆戦の2隻以外の駆逐艦は、基準排水量4600トンと3800トン。 この荒天で苦労していた。

そこには、指揮下の第4駆逐戦隊の姿は無い。 彼等はこの後、油谷湾で補給作業が終了した第2補給任務部隊の護衛として、舞鶴軍港までエスコートする事になっている。
やがて艦隊は原速(12ノット)から強速(15ノット)、第1戦速(18ノット)へと増速して行った。 既に艦隊位置は、左舷に神田岬を望む響灘に出ていた。

「長官、現在地、神田岬沖10海里(18.5km) 艦隊速力18ノット。 変針点まで40分、攻撃可能海域まで55分」

旗艦艦長からの報告を受け、同じように洋上を見つめていた第2艦隊司令長官は、僅かに叩頭し、確認する様に行った。

「・・・情報参謀、陸軍が九州北部の防衛を放棄した、この情報は確かだな?」

「はい、長官。 本土防衛軍陸軍部より、3時間前正式に海軍部へ通達が有りました。 統合軍令本部でも、承認されております。
GF(聯合艦隊)司令部からは『決六号作戦(九州防衛作戦)』の第3段階移行に伴い、『捷二号作戦』その第3段階が発令されました」

「捷二号第3段階・・・」

幕僚の誰かが呟く。 本当なら、ここまで移行する予定では無かった筈だ。
九州北部が早々に防衛不可能と判断され、そして未だ脱出し得ていない避難民が存在する時の、聯合艦隊作戦行動指針。

「・・・北九州、強行突入作戦か・・・」

ごくり―――何人かの息を飲む音が聞こえた。 確実に、主力艦が何隻か沈む。 下手をすれば、第2艦隊自体が消滅する。
そんな作戦を決行するのか? 既に放棄が決定した戦域の、如何に民間人が残っているとはいえ、戦略的に最早過去の存在となった場所へ?

「・・・閣下、先刻も申し上げましたが、小官は本作戦に反対です」

艦隊参謀長が、その場の総意として作戦に対する反対を言い出した。 その言葉に、艦隊司令部ばかりか、旗艦艦橋要員も無言で頷く。

「捷二号第3段階は、未だ陸軍が九州北部を保持している事が、大前提でした」

改めて、参謀長が艦隊司令長官へ向き直る。

「九州北部防衛が不可能であると判断されても、未だ脱出の為の港湾が確保されている事が、です。
しかし、今やその大前提は崩れております。 唐津湾は既にBETAで埋まっており、北九州市も同様です。 
博多市の港湾地区は、北西の糸島半島からの光線級によるレーザー照射の、格好の的となりました」

情報参謀と作戦参謀を振り返り見る。 2人とも無言で頷いた、戦域情報に誤りは無い。

「その様な場所への、艦隊突入など・・・ 民間人救出はおろか、博多湾が第2艦隊の墓場となってしまいます。
いえ、最悪の場合、湾への突入すら難しい。 この『出雲』に『穂高』、『高千穂』の3隻は耐熱耐弾装甲、レーザー蒸散塗膜装甲などの改修を受けております。
しかしそれ以外の艦艇は、重巡ですら、耐熱耐弾装甲の追加のみ、戦術機母艦や駆逐艦などは、レーザー照射を受ければ一気に艦内部まで貫通されます」

それでも、レーザー照射1発や2発で沈没する訳ではない。 艦の沈没は、そのほとんどが艦内に流入した大量の海水により、バランスが崩れた時だ。
しかし、当りどころが悪ければ即、轟沈する場合も有る。 良い例が弾火薬庫―――保管されている砲弾の装薬や、ミサイルにレーザーが直撃し、一斉に誘爆した時だ。

その時、GFから連絡将校として来艦していた参謀中佐が、言いにくそうに口を開いた。

「・・・昨日深夜、政威大将軍、元枢府諸卿が宮中へ参内致しました。 今後の本土防衛戦全般についての、報告の為です」

宮中に―――皇帝陛下へ奏上申し上げた。 その一言で、知らず全員の背筋が伸びた様だった。

「縦深防衛作戦でゆくと、そう申し上げた所・・・ 『もう、九州や中国地方は救えないのか。 海軍に艦隊は無いのか、陸軍に師団は無いのか』、そう、ご下問が有り・・・」

全員が押し黙る。

「政威大将軍、奏上して曰く・・・ 『いえ、総軍を挙げて救出致します』と。 また、元枢府諸卿曰く、『帝国軍、なお逆撃を企図するものであります』とも・・・」

馬鹿な―――既に防衛作戦の大綱は固まった筈だ。 それ故に、その大綱に従い、帝国軍は作戦を展開していると言うのに。 しかし、そこで思考は停止した。
 
19世紀中葉、旧幕藩体制崩壊以降、近代国家建設の為の『象徴』として中世以降、埃を被っていた『尊皇思想』を利用してきたのは、代々の為政者達だ。
近代化初期こそ、五摂家の威光を盾に近代国家を構築しようとしてきたが、大半の民にとっては『余所のクニの殿様』に過ぎない摂家を敬う下地は無かった。

そして近代国家としての日本帝国は、『国民・臣民』としての意識が必要だったのだ。 『国民国家』として成長する為に、必要不可欠なその意識が。
その為に思いつかれたのが、幕藩体制末期に勃興した『尊皇思想』だった。 新政府はこれを徹底的に利用した。

その影響は、20世紀が終わろうとしている現在においても、未だ強烈な呪縛として残っている。
五摂家や将軍家に対し、内心で不満を持つ者、公然と異を唱える者は、先の大戦以降急激に増えている。
しかし、1世紀以上に渡って教育の名のもとにすりこまれた意識は、そうそう消えるものではない。 ましてや海軍は殊の外、尊皇意識が強い組織だった。

「・・・艦隊進路、変わらず」

司令長官の声に、幾人かの幕僚が唇を噛みしめる。 
海軍軍人として、その用兵論に於いて明らかに誤ってはいるものの、意識が反対できない。

「旗艦より、艦隊全艦に達する―――『天佑を信じ、突撃せよ』、以上だ」










0755 博多市 福岡空港


「第2大隊! 滑走路北端、大井中央公園との間の空港通りを死守せよ! 第3大隊は二又瀬の交差点、突破を許すな!」

第1大隊残存11機、第2大隊残存13機の『瑞鶴』が、サーフェイシングで高速移動してゆく。
どの機体も、あちこちを損傷していた。 中には戦車級に齧られたのだろう、装甲が露出している機体も有った。

「第1大隊、筥松の小学校校庭に展開! 橋を渡ってくるBETA共、1匹たりとも通すな!」

太宰府からBETA群を撃破しつつ、博多防衛線に合流した時点で、戦術機72機、戦車2個中隊と自走高射砲1個中隊、機械化歩兵2個大隊を数えた斯衛第5聯隊戦闘団。
現在は3個大隊で戦術機35機、戦車7輌、自走高射砲2輌、機械化歩兵2個小隊を残すまでに減少していた。

既に博多市内中心部は放棄された。 第12師団が撤退を開始したのは、約40分前。 25分前には那珂川の渡河を許し、鹿児島本線は使用不可能となった。
それから僅か25分の間に、博多駅にBETA群が殺到し、県庁も突撃級の突進で崩落した。 犠牲となった避難民の数は、80万人を越した。
現在は篠栗線の柚須を確保し、辛うじて生き残った市民を誘導しつつ、筑豊本線の桂川を目指す列車に押し込んでいる最中だった。

「最後の鉄道路線は、これだけは何としても死守せよ! 未だ脱出できておらぬ、10万の民を救う為にも!」

斯衛第5聯隊戦闘団長・伊集院斯衛大佐は、自ら戦術機『瑞鶴』に搭乗し、部下を叱咤し続けていた。
僅かに残った戦車―――2輌の74式―――が、105mm砲を橋の対岸に向けて発砲した。 丁度、突進しかけていた突撃級の節足部に命中し、横転させる。
損傷を負った個体が、橋を塞ぐ形で停止した為、後続の個体群がそれに詰まり、ちょっとした渋滞状態になっている―――好機。

「左門! 4機を率いて右翼から押せぃ! 隼人、吾主は3機にて右翼! 行けい!」

部下である嘉納左門斯衛中尉、来嶋隼人斯衛大尉が、各々指揮する隊を率いて、すし詰めになっている突撃級の群れの両翼から迫る。
小さな川を一足飛びに飛び越え、突撃級の群れの後背を占位した7機から、120mmと36mm砲弾がばら撒かれ、柔らかい後部胴体を引き裂かれた突撃級が行動を停止さす。
よし、いける。 このままここで粘り切れれば。 後方に避難した民だけは、何とか救う事が出来る。

網膜スクリーンに映った光景、視線を南に向ける。 博多市内の阿鼻叫喚は、つい先ほどの事なのに。 もう随分と昔の様な気さえする。

目前で、老若男女問わず、多くの民がBETAに襲われた。 
首を引き抜かれた者。 体を半分喰い尽された者。 我が子を護ろうとその小さな体に覆いかぶさり、突撃級に踏みつぶされた母子。
いや、最早その様な感傷さえ無意味だ。 惨劇は無数に発生し、そしてその情景は人としての何かを喪わさせるに、十分過ぎる。
山吹の武門の一族に生を受け、定めに従い斯衛に身を投じ、戦場にその身を晒す事に、何ら疑問を持たない半生を生きてきた。
我が身は、我がものに非ず。 我が命、我がものに非ず。 代々受け継がれてきた武門の伝統、先祖の為した誉を胸に、一身を忠義として捧げて生きてきた。

だが―――違う、何かが違う。 この場所には、武門の誉れも、名誉も無い。 己が命をかけるに相応しい敵すらいない。 ただひたすら、破壊と殺戮のみ。

『義烈1番より、武烈1番! 空港南部より大規模なBETA群が侵入開始!』

第2大隊長機から、緊急の通信が入ったのは、まさにそんな感傷を抱いていたその時だった。

「武烈1番より、義烈1番! 防げ! 何としても防げ! そこを突破されれば最早、民の逃げ場は無い!」

『無理です! 数が多すぎる! 2小隊! 南西の要撃級を阻止しろ! 3小隊! 応答しろ、3小隊!』

『義烈33番です! 第3小隊全滅! 小隊長以下、2機喰われました! 自分だけです!』

『くっ! 2小隊、この場を死守! 1小隊、滑走路に侵入したBETA群を阻止する!』

伊集院大佐が戦術MAPを確認する。
11機に減じた第2大隊が守る福岡空港の滑走路に、少なく見積もっても4000体以上のBETA群が侵入してきている。
戦力は『瑞鶴』が11機、戦車3輌、機械化歩兵2個分隊―――10分もかからぬうちに、全滅するだろう。

『輝烈1番より武烈1番! 二又瀬にBETA群、約3500!』

『武烈2番より1番! 筥松の橋の対岸、光線級、15体確認・・・ うわあ!!』

『武烈3番より1番! 2小隊全滅! レーザー照射直撃! BETA群、約3000が動き出した、退避します!!』

『報国2号(戦車隊2号車)です! 突撃級が前進を開始! 阻止出来ないッ・・・』

―――カタストロフは、一気にやって来た。

まるで津波の様に、3方向から1万を超すBETA群が押し寄せる。
スウェイ・キャンセラーを効かせてさえ、機体から伝わる振動は管制ユニットを揺らがせる。

『輝烈3番です! 輝烈、残存4機! ・・・訂正、残存3機! 戦車全滅!』

『義烈隊、残存2機です・・・ 2機・・・ があ!!』

『義烈隊、全滅!』

『武烈12番より1番! 3小隊長機被弾! 残存4機! 全戦闘車輌部隊、全滅! 機械化歩兵、応答無し!』

次々に悲鳴の様な報告が入る。 最早空港方面の部下達は全滅した、直ぐ南の二又瀬の第3大隊―――輝烈隊も、『瑞鶴』3機の残すのみ。
大きく息を吐き出し、周りを見る。 直率する第1大隊、『瑞鶴』で構成する武烈隊も、自分を含め4機しか残っていない。 
残存全兵力、戦術機7機―――BETA群、約1万。

通信回線を、官用一般回線に繋いで相手を呼び出す。

「・・・こちら、斯衛第5聯隊戦闘団長。 柚須駅、応答乞う」

暫くして、相手の姿が網膜スクリーンに映し出された。 福岡県警の警部、もう定年近い年齢に見える。 
と言う事は、現場の叩き上げか。 単眼式網膜投影装置を付けている、疲労の色が濃い。

『県警地域課、迫水警部です。 大佐、こちらでも聞こえます、あの音は・・・』

博多駅から移動した後も、最後まで民間人の避難誘導という責務を全うしようと、危険を顧みずに居残った警察官。
今まさにその命が終わろうとすると言う時に、穏やかに微笑んでいられるのは、どう言う訳だろうか。

「済まぬ、我らが力及ばず、だ。 部下は残存7機―――たった今、6機になった」

『はあ・・・ 国防軍が尻をまくって逃げ出した後、1時間でも時間を稼いでくれたのは大佐、あなた方、斯衛です。
お陰さまで、全員とは言いませんが、数千人を大分県まで送り出す事が出来ました』

それが、どう慰めになろうか。 市の中心部では都合100万人以上の民が、BETAによって殺戮の憂き目にあった。
そして今まさに、残る10万人近い民が、目前に迫った死の恐怖に、慄いていると言うのに。

『これも、人生ってヤツですか・・・ 居残りの市民が出た事は残念です。 ですが、あたしら、神様じゃ無い。
結果は残念ですが、自分の仕事は全うできたと思っていますよ。 奉職以来30余年、最後の最後まで、自分に恥じる事の無い仕事をできた』

彼は己と、残った民の命運をはっきり理解した上で、在りのままの自分を見据えて、そう言っているのだ―――神ならぬ身で、能うる限りを尽くしたと。

「立派なお心構えだ、警部。 失礼だが、心残りは無いのか? 最早、我等は・・・」

『このご時世、人生、半値八掛け、二割引き。 60歳近くまで生きました、女房子供も息災、孫の顔も見る事ができましたしね。
それに、家族は運が良かった。 此処に来る前に、博多から脱出する列車の順番に、乗り込めた様でね・・・』

恐らくこの警部の事だ、家族の為に一切の便宜は、図ったりしなかったのだろう。 そうか、では、幸運を喜ぶべきだ。

『それとですな、これは、誠に身勝手なお願いごとですが・・・ やはり、生きたまま喰い殺されるのは、良い気分じゃない―――お願い出来ますかな?』

「―――心得た」

伊集院大佐はそれだけ言うと、通信回線を軍用回線に切り替え、部下達―――最早、4機に減っていた―――に指示を出した。

「各機、柚須駅周辺に集合。 駅舎を中心に、半径300mの範囲に位置を取れ。 場所は―――今、転送した」

丁度、駅舎を取り囲むように5箇所。 『瑞鶴』が占位する。
片腕を喪った機体、管制ユニットが歪んだ機体、既に突撃砲も長刀も無く、短刀のみを装備した機体。

「各機に告ぐ、良く奮闘した。 最後まで諦めず、この弧軍の中、最後まで民を護る為の戦いを、戦い抜いてくれた」

BETA群が迫ってくる。 もう、時間は無い。

「我等、斯衛、その本分は将軍殿下の御身の警護と、摂家衆の守護。 その場に非ずして死するは、本来無念なれど―――」

部下達の表情を見る―――達観したような笑み、笑み、笑み。

「民の平安を願うは、将軍殿下の御心に沿う故な。 我等、斯衛、ここで民の黄泉路の灯明たらん」

S-11の起爆スイッチ、その保護カバーのロックを解除する。 
起爆シーケンス起動、同時に管制ユニット内に警報音が響き渡る。 網膜スクリーンに起爆警報の文字。

(・・・我が命、我がものに非ず。 だが・・・)

保護カバーを開ける。 赤い起爆ボタンを見つめつつ、ふと思った。

(だが・・・ 彼等も、そして我等もまた、民の一人なのだったな・・・)

人間、死を前にして、本心に嘘はつけないものだ。 
斯衛とて人の子、この防衛戦に、この全滅に、果たして意味は有ったのだろうか? 
自分と、部下達の死に、生きてきた事の終末に、果たして意味は?

「全機―――起爆!」

5発のS-11が、一斉に起爆した。
その内周に含まれていた多くの民間人、そして迫りつつあったBETA群を巻き込んで―――斯衛第5聯隊戦闘団は、最後の一兵に至るまで、全滅した。










0805 玄界灘 博多湾口から5海里 帝国海軍第2艦隊


「衛星情報、受信。 S-11弾頭の起爆を確認しました」

「斯衛第5聯隊戦闘団、応答途絶しました」

艦橋を静寂が包む。 聞こえるのは機関の音と、艦橋を切る海風の音。
全員が、艦隊司令長官を凝視する。 報告の内容は歴然としている。 最早、博多には救うべき何物も存在しない。

「・・・艦隊針路、0-1-5」

「・・・よーそろー、針路、0-1-5 おーもかーじ一杯!」

司令長官の一言の指示で、旗艦艦長が艦の進路変更を指示する―――針路、0-1-5 北北東へ転針せよ。

やがて艦隊は博多湾を背に、来た航路を辿り離れて行った。








0950 大分県 中津 第9師団


「残念だ・・・ ほんの少しの差だった。 だが、それが致命的だった」

師団参謀から状況を聞かされた久賀直人大尉は、無表情のまま、その声を聞いていた。

「君の奥さんの他に、30数人もの仲間が死んだ。 誰のせいでも無い、しかし・・・」

師団参謀はそこで言ったん言葉を切り、久賀大尉の横顔を見た。
普段は活力の溢れる青年士官。 実戦経験の豊富さから、師団の中核将校の一人と期待されている、歴戦の衛士。

だが、それが何だと言うのだ。 彼は今、人として限りない喪失感を味わっているというのに。

「・・・本当に、残念だ」

そう言って、悲痛な表情で久賀大尉の肩を叩いた師団参謀が離れてゆく。


背を向けて、暫く独りで佇んでいた大尉の背が、僅かに震えた。
ややあって、静かな、とても静かな嗚咽が、漏れ始めた。









九州北部、民間人犠牲者数、推定615万余人。 軍損失、戦死2万余、戦傷死1万5000余、戦傷3万5000余。







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