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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] クーデター編 動乱 4話
Name: samiurai◆b1983cf3 ID:0ffa22e1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/04/20 01:45
<D-45分 遡る事『開演』45分前>
2001年12月6日 0415 日本帝国 神奈川県横須賀 国連第11軍横須賀基地


「中佐殿。 解析、完了です」

「よくやった、軍士長」

国連軍太平洋方面総軍第11軍、横須賀基地戦術機ハンガー脇の管制塔。 その一室で戦術機甲隊司令・兼・作戦参謀の周蘇紅中佐は、部下を讃えた。
電子戦担当下士官(二級軍士長、他国の上級曹長/先任曹長に相当)だが、実際、この短時間で(恐らくは)CIAの特務工作戦コードを解析するのは、並大抵の技量ではないだろう・・・

流石は、61398部隊(PLA Unit 61398)から引っ張ってきた男だけはある。

中国人民解放軍総参謀部第3部2局61398部隊(PLA Unit 61398)は、中国軍の電子戦部隊で、2001年の今なお、全容が不明な部隊だ。 
尚、日本帝国軍にも同様の組織が有り、国防省情報本部の通信部、陸軍参謀本部第3部通信システム隊、海軍軍令部第3部電子通信作戦部隊、国家憲兵隊電子防衛任務部、等が有る。

「なに、大した事ではありませんよ。 美国(アメリカ)ってな、何事も大味過ぎていけない。 連中の『厳重』は、我々にとっては列車のトンネルが空いている様なものです。
小日本(シャオリーベン、日本の蔑称)の連中の方が、よほど遣り辛いですな。 連中、細かすぎる上に、トラップも根性が悪い。 解除する事で発動するトラップとかですな」

「・・・頭が痛くなるな、私には無理な世界だ」

「まあ、これもまた、ひとつの世界大戦って奴でして・・・おや?」

「ん? どうした? 何か異常か?」

軍士長が僅かに怪訝な表情を見せたのを、周中佐は見逃さなかった。 そして軍士長もまた、長年にわたり『この世界』で生き残って来た男だ。

「はっ・・・! ははっ! 成程な、成程っ! そう来るか・・・っ!」

「うん?」

モニターを覗くが、周中佐から見れば無味乾燥な数字と記号の羅列に過ぎない。 が、軍士長は好敵手を見出した勇者の如き表情だった。

「中佐殿、CIAってのは、やはり『エゲツない』ですな。 これ・・・ここです。 『レシーバー』の脳波を受信して、解析しています」

「つまり?」

「小日本の特戦隊が『レシーバー』を消したら・・・同時にここ、この『スリープ』が解凍して、別の『オーダー』を、『レシーバーⅡ』の脳にダイレクト・オーダーしますよ・・・」

「・・・その、『レシーバーⅡ』とやら、判別は可能か?」

「無理ですな。 探ろうとすれば、即、解凍します。 探るのは不可能・・・他の奴ならね」

「なら・・・やれ、軍士長」

「是、中佐殿」






<D-30分 遡る事『開演』30分前>
2001年12月6日 0430 日本帝国 伊豆半島 伊豆スカイライン跡


「大隊は外縁包囲網の先鋒として、『敵』の攪乱任務となる」

指揮所から大隊本部に戻った周防少佐は、部下の中隊長たちに作戦を説明していた。

「陸軍と海軍、双方から1個大隊ずつが『敵』に突っかかる。 目的は『玉』からの引き離しと、友軍正面への『誘導』だ」

「って事は・・・」

上官の説明に、第2中隊長の八神大尉が、少しだけ思案顔で虚空を見上げて考えてから、口に出す。

「機動砲戦で、突っかかっては離れ、離れては突っかかり、のヒットアンドウェイ―――もしくは、嫌がらせ攻撃」

「重要なのは、各中隊間の間隔の確保と、相互連携ですね」

第3中隊長の遠野大尉も、上官の作戦説明から、重要視すべきことを抽出する。

「他の大隊との連携は、どうなりますか? 大隊長。 戦車部隊が展開する前面は、長門少佐の第152が張っておりますが・・・」

全体の連携を確認する、先任中隊長の最上大尉。 大隊の次席指揮官として、大隊長を補佐して来た歴戦の指揮官だ。

「戦車部隊は、戦術機に狙われたら、それで終わりだ。 だから一撃を加えた後、早急に離脱する」

車体の大きさ、2次元での機動と言う制約、攻撃範囲の制約。 戦車にとって戦術機は天敵になり得る。 故に、その前面におびき出して一斉射撃。 その後で全力後退。

「後は岩橋中佐、木伏少佐の大隊と連携し、それぞれの前面に誘導する。 機械化装甲歩兵と、機動歩兵がそれぞれ、中MATと軽MAT、LAMをお見舞いする」

ATM-3(87式対装甲誘導弾/中MAT)と、ATM-5(01式軽対装甲誘導弾/軽MAT)は、戦術機クラスの装甲ならば、容易く撃破できる。 LAM(パンツァーファウスト3)もだ。
夜の山中、暗闇に潜んだ歩兵部隊・機械化装甲歩兵部隊から、足元からこれらの誘導弾を発射されては、戦術機はその大きさが仇となる。

「格闘戦は捨てろ。 機動砲戦に徹する。 我々の任務は『敵の殲滅』―――この1点のみだ」






<D-15 遡る事『開演』20分前>
2001年12月6日 0440 日本帝国 伊豆半島某所


伊豆半島の山中、ほんの僅かな星明り以外、暗闇を照らすものが無い。 そんな暗闇の中を、黒いわだかまりが少しずつ動いている。 

やがて大木の陰に潜むと、背後にハンドシグナルで伝えた。

『・・・そうだ。 ターゲットとは完全に切り離された。 ジャップのエンペラーの一族が出張って来たんだ、海軍大佐だ。 ウォーケン少佐も、表だって楯突けない。
ああ、ああ・・・そうだ・・・ターゲットは連中が囲った。 我々は態の良い盾にされた・・・うん? いや・・・無理だ・・・有視界戦闘では、如何にラプターでも・・・』

暗闇の先から、英語が聞こえる。 そして音も無くにじり寄ったもうひとつの影が、ハンドシグナルで結果を教えてきた―――『ラット』割り出し完了。

伝えられた方が―――指揮官だ―――部下の一人に向かって、ハンドシグナルで指示を送る―――『消す』、準備為せ。

『そうだ・・・そうだと言っているっ! ああ、ああ・・・前をクーデター部隊、後を日本海軍の『督戦隊』にだぞ!? どうやって・・・あ、ああ・・・判った』

蟠る影が、そっと近づいて行った。






<D-15 遡る事『開演』15分前>
2001年12月6日 0445 日本帝国 神奈川県横須賀 国連第11軍 横須賀基地


「よしっ! よしっ! GHOST系が臭いと睨んだ通りだ! 連中の攻性防壁はDDoS攻撃には対応出来ちゃいるが、まだまだ脇が甘いっ!
紅客連盟も、ナイトドラゴンも(世界中に散らばる、中華系のハッカー集団。 人民解放軍総参謀部との係わりも有る)、俺には及ばないっ! 出ました、中佐殿っ!」

異様なハイテンションに、些か引き気味の周中佐だったが、それでも『手札』が増えたことには変わりない。

「よし、軍士長。 至急、司令部の『宅急便』経由で東京に送ってやれ。 ああ、『横浜』からの横やりには気を付けろよ?」

「ご心配なく、中佐殿。 横浜の『ゴースト・チャイルド』は確かに凄腕ですが、どこかしらガキっぽい、間が抜けたところが有ります。
あとは・・・『魔女』殿も良い腕ですが・・・専門家ってほどじゃ、有りませんな。 結構、バレていますぜ、『香小姐』(横浜・香月博士の、サイバー戦での『コード』)は・・・」

「知らんよ、彼女の事など。 横浜への情報漏洩だけは、絶対に防げ」

「是、中佐殿」

貸しはひとつでも多い方がいい。 使うか使わないかは、向こう次第だ―――報告を台北(統一中華戦線本部)に入れておかねばならない。
それと横浜には絶対に気取られるな。 同じ『国連軍』だが、彼女とこちらとでは『母屋』が違う。 これは『政治』だ。 嫌な事に『政治』だ。 夢見る科学者の舞台じゃない。

「詰まる所、右手はお友達、左手は財布を抜こうと伺っている・・・ま、仕方ない」

周中佐は、日本に居る『友人たち』の顔を思い浮かべながら、苦笑するしかなかった。






<D-10 遡る事『開演』10分前>
2001年12月6日 日本帝国 帝都・東京 国家憲兵隊秘匿司令部


ボヘミアンカットの灰皿の中で、報告用紙が勢い良く燃えていた。

「・・・何事も、きっかけは必要だな、大佐?」

「はっ・・・先手は米国に、帝族への弓引くは、クーデター部隊に。 最悪、賀陽大佐は『戦死』なされますが・・・」

帝族を万が一にでも・・・と危惧する腹心の部下の言葉に、右近充大将は表情すら変えずに、無機質に言い切った。

「先の大戦で海軍は、帝族をお二方、最前線に送り込んで戦死させている」

クエゼリン島の激戦において、自ら陣頭に立ち最後の突撃を敢行し、殲滅戦を指揮して玉砕戦死した、宮家出身の帝族侯爵の海軍大尉。

蘭印の第三連合通信隊司令部付として赴任の途上、搭乗機がセレベス島南部・ボネ湾上空で米軍機に捕捉され、撃墜戦死した宮家出身の帝族伯爵の海軍大尉。
こちらは本来なら『武家貴族第一等』で有った筈の(五摂家より上位の)旧幕府主宰者・徳河家当主の娘を母に持つ、生粋の『公武合体』の血筋だった。

「陸軍も、内蒙古戦線で1人、死なせておりますな・・・」

こちらは内蒙古戦線の視察中に航空機事故に遭い『戦死』した、宮家嫡男の王(親王の子)で、正真正銘の帝族だった。

右近充大将は、部屋の中の薄暗い虚空を見つめたままで、無感情に言い放った。

「・・・『戦争という国の大事において、帝族は命を落として当然である』・・・畏れ多くも、大帝陛下(今上帝の曽祖父帝)の御言葉だ」

「承知」






<D-5 遡る事『開演』5分前>
2001年12月6日 0455 日本帝国 伊豆半島某所


『ぐっ!?』

忍び寄った陰に気付くことなく、『彼』は左の鎖骨辺りに灼熱感を感じた―――と同時に急激に血圧が低下し、一瞬にして意識を失う。
意識を喪った『彼』は、そのまま暗闇の陰に引き摺られて・・・深い谷底に、死体が投げ込まれた。





『ハンター3・・・ハンター3! サヴォ中尉! アレックス・サヴォ中尉! どうしたっ!? 応答しろっ! サヴォ!』

ハンター1、第66戦術機甲大隊長にして、第1中隊長を兼ねるアルフレッド・ウォーケン米陸軍少佐は、不審極まる部下の行動に問いかけるが、全く応答が無かった。
日本海軍の大佐(日本のエンペラーの血縁者だ!)の命令で、クーデター部隊と対峙するポジションに移動せねばならなかったのは、作戦上のイレギュラーだった。

しかしまだ、リカバリーは出来る、そう考えていた。 混戦となれば、外周部の日本軍部隊は、エンペラーの一族を必ず守らねばならない。
そしてあのエンペラーの一族の海軍大佐は、実戦を知っている・・・つまり、最も弱い部分をいち早く離脱させねばならないと、結論するはずだ。

そしてこれ以上、我が米軍が(国連軍の衣を被っていても)日本軍と交戦する事は、非常に微妙な日米関係に陥る、と言う事も・・・離脱の護衛は、米軍の中隊が行わねばならない。

だが・・・

『サヴォ! どうした、応答しろっ・・・ダムッ!』

あの、ハンガリー移民上がりの中尉。 難民出身将校だが、腕前は良かった―――胡散臭い男だったが。 恐らくCIAの非公式工作員に取り込まれていたのか?

『うっ・・・ううっ・・・』

『うん? ハンター2、どうした・・・? バイタルパターン、異常・・・ハンター2!? 止めろっ! テスレフ少尉!』





彼女は戦術機の管制ユニットの中で、身悶えていた。 どうしたのだろう? 急に・・・急に、何もかも判らなくなってしまった。 自分の自我を保てなくなりそうだった。
頭が痛い、急にどうして・・・え? BETA? 違うわ、あれは日本軍・・・BETAじゃなくて、戦術機・・・くうっ! 頭が割れそうっ!
撃て? え? どうして?―――い、痛いっ! 何なのっ!? 誰よ!? 私に命令するなっ! くうぅ・・・っ、ママ、助けて・・・アルマ・・・お姉ちゃん、絶対に帰るからっ!

『うっ・・・あああっ!!』

突如、突撃砲―――AMWS-21の銃口から、 36mm突撃機関砲弾が発射された。





『米軍の発砲を確認! 第1連隊、応戦!』

『馬鹿なっ!? くそっ、鉄火場だっ! 周防! 突っ込め!』

『鈴木! 加藤! ボトムアップ! 菅野! 突入!』





<D-ゼロ 『開演』>
2001年12月6日 0500 日本帝国 神奈川県伊豆半島 伊豆スカイライン跡


40機の戦術機―――『94式不知火丙Ⅲ型』、1個大隊が夜の闇に噴射炎を鮮やかになびかせ、突進した。 対峙する相手も『94式不知火丙』そのⅡ型とⅢ型の混成部隊。
ロシアンカラー、富士教の精鋭たちだ。 こちらの突進に即応して、陣形を整えている。 発砲はまだだ、引きつけての一斉射撃を目論んでいる―――AH集団戦のセオリー通り。

(が・・・セオリーだけに忠実ではな)

距離800、高速噴射地表面滑走を続けつつ、右に、左に、地形の起伏を利用して部隊の全容を晒さず機動させる。 同時に敵勢の布陣を確認しつつ、とるべき戦術行動を模索する。
距離500、しかも起伏のある地形に沿っての高速噴射地表面滑走。 ターゲットは地形の陰に瞬時に見え隠れするだけだ。 周防少佐の中で、戦術が確定した。
距離300、制圧支援機が誘導弾発射。 同時に大隊は『敵』正面から11時方向・・・北向きにやや進路を変える。 丁度、起伏の頂点が有る場所だ。

「大隊、一斉射・・・撃てっ!」

轟音と共に40機の戦術機が、距離220で突撃砲を短く放つ。 多数の36mm砲弾、一部の57mm砲弾が、曳光弾の光と共にばら撒かれる。

「距離150で転針! エリアB5R、進路NW-55-125! 噴射5秒!」

起伏の頂点から高速で姿を現した40機の戦術機は、そのままサーフェイシングで射撃しつつ横方向に起伏を利用して移動すると、今度はやや離れた北西方向へ高速移動を開始する。

「流石に、1度くらい舐めたからって、挑発には乗らんよな・・・なら・・・」

40基の戦術機の内、1個中隊が反転し、再度の突入を図る。 富士教導隊の戦術機群がそれに応戦する姿勢を見せるや、急反転で離脱―――当らない突撃砲を放ちながら。
その騒ぎに乗じて、別の戦術機中隊が起伏を利用して高速機動で迂回。 側面から中距離砲戦を仕掛ける。 即応する富士教導隊。 
その正面に今度は、先ほどの中隊ともう1個中隊が突入する姿勢を見せる。 それを繰り返す事、10数度。 今度は1個小隊のみで堂々と正面から突入する。

「さて・・・見えるだろう? 機体肩部の帯が・・・」

戦術機の右肩、太い1本の帯と、細い1本の帯。 指揮官を示すマーキング。 細帯1本はエレメントリーダー。 2本は小隊長。 太帯1本は中隊長・・・

「ッ! くっく・・・獲物に気付いたか? なら、仕留めるのが獣の本能だな・・・?」

太帯1本と細帯1本のマーキングは、大隊長機。 機体胸部の部隊エンブレム『槍持つ戦士(ゲイヴォルグ)』は、帝国陸軍部内でも有名な部類に入る。
盛んに砲戦を仕掛ける富士教導隊の砲火を前に、距離300を保ちながら『ダンス』を続ける大隊旗機。 護衛の指揮小隊3機は、その後方100mで砲口を向けたままだ。

「馬鹿者が・・・高速機動目標への、未来位置予測射撃すら、満足にできないのか・・・?」

これもまた、近接格闘戦偏重の弊害と言えた。 逆に米軍相手ならば、周防少佐もここまでの『自殺行為』は絶対に行わない。 何が何でも近接戦闘に持ち込むだろう。
日本帝国軍・・・特に第1連隊、そして斯衛軍戦術機甲部隊は、偏執的なほど近接格闘戦闘を重視する。 他の日本陸海軍部隊が呆れるほどに。

無論、周防少佐の部隊でも近接格闘戦の訓練は行っている。 が、それはあくまで『BETA群包囲下での脱出手段』としての戦技訓練だ。
装備する74式近接戦闘長刀にせよ、65式近接戦闘短刀にせよ、あくまで『脱出戦用戦技の為の、補助兵装』に過ぎない。 主兵装では決してないのだ。

「甘いっ! 馬鹿者っ! それでよく、射撃徽章持ちが居るものだな!」

富士教導隊ともなれば、射撃徽章持ちも居るはずだ。 だが砲弾の曳光弾は、周防少佐の機体の後方を流れていくばかり・・・
つまり、『未来位置を予測しての射撃』が全く出来ていないのだ。 戦術機の射撃管制システムは、対BETA戦用にチューニングされている。
BETAはどれ程早くとも、地表面を時速300km/h超でぶっ飛んだりはしない。 ましてや複雑な戦闘機動を行ったりもしない。
これに命中させるには、日頃から機動砲戦の戦術機機動を頭と体に叩き込み、その経験と引出しから、無意識に相手の未来位置を予測し、『何もない空間』に射弾を放り込むのだ。

「AH戦でっ・・・機動砲戦を仕掛けてくる相手に、5秒以上同じ場所に留まるなっ! 3秒以上同じ直線機動を行うなっ! 馬鹿者っ!」

まるで吸い込まれるかの様に、周防少佐の機体が放った57mm砲弾の射弾に突っ込み、撃破される富士教導隊の戦術機が出始める。
完全撃破ではなく、脚部や跳躍ユニットを中破・大破させられて、行動不能になる機体が出始めた。 この頃になると流石に、富士教導隊も迂闊に姿を晒さなくなる。

「そうだ・・・自機の被弾面積を最小に、敵機の未来位置を能う限り正確に予測しろ・・・!」

次第に激しくなる放火の豪雨の中を、まるであざ笑うかのように回避し続ける大隊長機。 垂直軸反転で紙一重で砲火を躱し、ショート・ブーストでタイミングを外す。
逆噴射制動から噴射起立機動で機体前面ギリギリに砲弾を躱し、垂直跳躍からの反転全力噴射と水平噴射跳躍で急速に迫ったかと思えば、微妙なスローダウンで射点を外す。

まるで、これまでの戦歴で得た戦場機動の『引き出し』を播き散らかすかのような、高難易度機動のオンパレード。 訓練ならともかく、砲弾に晒された『実戦』で行う機動では無い。

『周防、あまり楽しむな。 そろそろ連中の痺れが切れる様子だ。 部下の胃に穴が開くぞ?』

「ご心配なく、それほど上品な胃の持ち主はおりません―――最上、遠野! 斉射3連! 八神、B(突撃前衛小隊)を連れて、付いて来い!」

『了解―――俺は、上品ですが』

『・・・不本意です。 了解です』

『なんだよ、遠野? その間は?―――了解! これでも突撃前衛上がりですよ! 北里(指揮小隊長)! 俺のトコに合流しな! Aを任す! 相模(C小隊長)、中隊指揮任せた! B(突撃前衛小隊)、いくぞっ、ダンスだ!』

今度は1個小隊強(6機)での挑発。 高速機動で至近距離まで砲弾を躱しながら、直前で普段をばら撒きつつ急速変針。 地形の起伏を利用しつつ最接近。 
それに気を取られると、いつの間にか制圧支援機が放った誘導弾が迫って来る。 急速回避を行う隙に、再度の急接近を許してまた砲弾をばら撒かれ、急速離脱される。

激突寸前での急速離脱と、その隙の誘導弾攻撃。 そして再度の、つかず離れずの機動砲戦。 業を煮やした『敵』が、一部部隊を割いて相手進路上を塞ごうとするが・・・

『そっちには、行かせんさ。 大隊! 牽制射撃開始!』

『ほらほら! アンタらの相手は、こっちだよ!』

陸軍の長門少佐率いる1個大隊が、その進路上を塞ぐように中距離牽制射撃。 海軍の菅野少佐率いる1個大隊が、別方向から同じ様に無茶な機動で突入を繰り返す。
命中率は落ちるが、それでも弾幕に突っ込めば被弾は必至だ。 それなのに、それを無視して搔き回す『相手』 そして別方向から突っ込んで来る連携部隊。 

『敵』は別働隊を動かす空間を、徐々に、しかし確実に喪う。

『周防! もうちょい、東に誘導してくれ!』

『了解』

『戦車隊、篠原少佐。 最初の誘導ルートに乗った。 用意は宜しいか!?』

『荒巻中佐、何時でも! 一撃だけですが!』

『中心部、米軍と1連隊の交戦、米軍中隊、押されています! 海軍部隊は『玉』を確保中!』

『氷川から1個中隊を回せっ!』

今度は周防少佐率いる1個大隊全機が、バーチカルターン(垂直軸反転)で『敵』正面に突進する。 その大胆で急激な部隊機動に戸惑い、富士教部隊の連携が乱れた。

『大隊単位で、一斉旋回頭なんてよ・・・!』

『中隊、陣形を崩すな!』

『各小隊! 間隔を維持しろ!』

八神大尉、最上大尉、そして遠野大尉の各中隊長たちも、流石に中隊陣形の維持と中隊間隔の維持に必死だ。 戦術機の機動にバーチカルターンは良く使われる。 旋回頭もだ。
しかし、それは精々が小隊単位だ。 中隊単位でのバーチカルターンによる一斉旋回頭など、ほとんど行われない。 ましてやそれを、砲弾飛び交う敵前面で、大隊規模で行うなど。

一斉旋回頭は陣形を維持しつつ、各機がその場で一斉に同時旋回する陣形機動だ。 順次回頭の様に高速を維持しつつの場合と異なり、最小の旋回半径で部隊を旋回させる。
当然ながら、高い技量を求められる。 個々人だけでなく、部隊としての連携を高いレベルで求められる機動だった―――それを大隊規模で。 各中隊長が悲鳴を上げるはずだ。

「ずらすなよ? 最上、Cの間隔を10(メートル)詰めろ! 八神、ブースト05(コンマ5秒)! 遠野! 間隔を20(メートル)詰めろ!」

高速順次旋回を予測していた富士教導隊は、不意の一斉旋回頭による敵部隊機動に翻弄され、一瞬だが無防備な側面を晒す事になった。

「んっ、くっ・・・よしっ! 斉射、3連! 撃てっ!」

高速で突っ込みつつ、大隊の戦術機40機全機が、弾幕を張る様に斉射を3連射放つ。 36mm砲弾、57mm砲弾に射貫されて、跳躍ユニットを爆発させる戦術機。

「転針! エリアC8R、進路NNW-25-025! 噴射3秒!」

更に誘導する為に、複雑な大隊機動を行う。 周防少佐の大隊と連携するのは、陸軍の長門少佐の大隊、そして海軍の菅野少佐の大隊。
岩橋中佐、木伏少佐の大隊は、未だ発砲を控えている。 やがて3個大隊に翻弄された富士教導隊の1個大隊は、ものの見事に『玉』から吊り上げられてしまう。

『周防! エリアC7D前面に誘導開始! 戦車隊、砲撃用意!』

「了解―――長門少佐、牽制射撃を! 2秒で良い! 菅野少佐! 左側面から圧迫を!」

『了解。 大隊、斉射3連・・・撃て!』

『りょーかい! 全機、突貫!』

相手は何とかして、近接格闘戦に持ち込もうとしている。 部隊の練度では引けは取らないつもりだが、AHでの格闘戦の技量では、流石に富士の連中に及ばないだろう。
冷静に彼我の戦力分析を行っている制圧部隊の各大隊長たちは、絶対に格闘戦に持ち込まれないよう、見た目と裏腹に脳内で目まぐるしく状況を観察し、部隊機動を決定する。

『海軍! 白根中佐! こっちは吊り上げましたで! 『玉』の確保と1連隊の排除、頼んますわ!』

『了解した! 鈴木! 加藤! 続け! 1連隊を排除する! 『流星改』が『不知火』に勝ると、思い知らせてやれ!』

『応! 大隊、突入開始!』

『了解。 大隊全機、支援に回りながら突撃する! 中佐、陸軍さんがむくれます。 発言はご注意を!』


包囲網の輪から富士教導隊が切り離されたその瞬間、海軍の3個戦術機甲大隊が『玉』の確保の為、包囲網内周部に突進を開始した。
包囲網内周部では第1連隊残存部隊―――約2個中隊―――が、米軍1個中隊と海軍1個中隊を相手取って、交戦をしていた。 

米軍中隊は早、半数近くまで減っている。 如何な最新鋭戦術機とは言え、有視界戦闘で、かつ近接戦闘技術を磨き上げてきた日本帝国陸軍、しかも第1連隊相手は荷が重い。
海軍にしたところで、その主任務は広域制圧、上陸地点の強襲確保だ。 陸軍ほど、近接戦闘に重点を置いていない。 『玉』の周りの2個中隊は苦戦していた。

海軍は12機の内、3機を撃破されていた。 米軍は12機中の5機を撃破されて半減。 実質1個中隊規模にまで減らされ、なおも近接格闘戦を強要されている。

『ちっ! 砲戦は無理か・・・鈴木! 加藤! 各大隊でそれぞれ、1個中隊に当たれ! 私は中央をこじ開けて突破する!』

『了解です! 大隊、『敵』左翼中隊を潰す! 続け!』

『了解。 右翼中隊はこちらで叩きます! 大隊、接近戦闘用意!』

『拙ったかな・・・? 陸海軍、役割を別にしておけば・・・せめて『突貫娘』を・・・いやいや! 迷う場面じゃないだろう!? 続けぇ!』





『海軍、『玉』に突入開始!』

『目標、指定座標にあと5秒! 3、2、1・・・全車、撃てっ!』

周防少佐の戦術機甲大隊を追尾しながら、長門少佐と菅野海軍少佐の大隊の牽制射撃と追跡を躱しつつ、高速移動中だった富士教導隊の1個大隊。
その側面に、林の中から一斉に砲火が加えられた。 90式戦車の120mm滑腔戦車砲。 砲口初速1750m/hで撃ち出されるAPFSDS弾は、突撃級BETAの装甲殻さえ射貫する。

『がっ!』

『なにっ!?』

『退避っ!』

40輌以上の90式戦車から発射されたAPFSDS弾は、全弾が命中した訳では無い。 高速機動中の戦術機の群れに、その前方に横合いから弾幕を張ったに過ぎない。
それでも10機前後の戦術機が、戦車砲弾の直撃を受けて爆散する。 直後、水冷2ストロークV型10気筒ターボチャージド・ディーゼルを、全力で吹かして後退を始めた。

『全車! 後退! 後退! 全速で逃げろ!』

戦車大隊指揮官の篠原少佐が、声を張り上げて命令する。 このまま留まっていれば、戦車は戦術機のトップアタックに対応できない。 轟音を上げて一斉に後退する戦車隊。

『おっと! 悪いが貴様らの遊び相手は、こっちだ!』

またもや部隊を一斉旋回頭させた周防少佐が、指揮する戦術機大隊を混乱中の富士教導隊めがけて突進させる。 それも直前で、急速変針で進路を変えて。

『どうする? そこに居たら射撃訓練の的だぞ? 大隊、制圧射撃に切り替え! 撃て!』

戦車隊への対応と、周防少佐の大隊の突入。 『敵』の一瞬の混乱を見逃さなかった長門少佐が、指揮下の全機に対して制圧射撃を命じた。 40機の戦術機から放たれる、全力火力。

『海軍、菅野少佐! 『玉』へ向かえ! こっちは我々で対処できる!』

『菅野、了解です、岩橋中佐! 全機、変針! 真ん中に突貫する! 続けっ!』

『岩橋中佐! 池の周りの林に誘導してください! バタ(歩兵の陸軍内通称)、展開済ですわ!』

『了解した、木伏! 周防、長門! 判ったか!?』

『了解です』

『了解。 やっと派手に動けるか・・・』

既に富士教導隊の1個大隊と、第1連隊残存の2個中隊は完全に切り離された。 富士教導隊は1個中隊を喪い、第1連隊も6倍以上の海軍部隊に殴り掛かられ、数を減じている。

『TSF(戦術機甲部隊)、こちらMBA(機械化装甲歩兵)だ。 射程圏内に入った、攻撃を開始する・・・当たるなよ?』

『TSF、了解した。 周防、長門! エリアE7Rで90度反転! 巻き込まれるなよ!?』

網膜スクリーンのポップアップ上で、2人の少佐が頷いた。 部下に命令を出しているところで、動作だけで了解を伝える。 やがて歩兵部隊の庭に、富士教導隊が紛れ込んだ。





「散々、馬鹿なことしやがって・・・」

「全くだ。 佐渡島と九州じゃ、旅団規模の上陸が有ったらしい」

「貴様らの妄想の為に、俺の姉貴は旦那を死なせたんだ・・・と、後方の安全確認・・・これでも喰らえっ!」

LAM―――パンツァーファウスト3、日本軍制式名称『110mm個人携帯対装甲弾』 夜の闇の中、木陰に潜んでいた1個分隊から1発のタンデムHEAT弾が発射された。
するとほぼ同時に、林の中のあちらこちらから、最新の01式軽対装甲誘導弾(軽MAT)や、87式対装甲誘導弾(中MAT)までが発射された。

「退避! 退避!」

「ずらかれ! あとはTSFのお仕事だ!」

「ポイントデルタまで後退しろ! 死にたくなきゃ、走れ! 走れ!」

次々と爆散する、ロシアンカラーの94式『不知火』丙Ⅱ型とⅢ型。 既に残存機数は定数を大幅に割り込み、1個小隊強にまで激減していた。







2001年12月6日 0510 日本帝国 帝都・東京 『蹶起部隊』臨時司令部


「富士と1連隊は・・・壊滅は時間の問題か」

『こちらも、詰みです。 ほぼ全周包囲させました』

周辺への威力偵察に出していた高殿大尉から、楽しからざる現状報告が入ると共に、『伏魔殿』から情報のリークが入った。 一応、未だ自分の『雇用主』だ。
まだ一部で戦闘が続いている。 市ヶ谷の国防省ビルでは、ビル内部で銃撃戦が激しさを増していると連絡が入った―――中即連(中央即応連隊)や“S”(特殊作戦群)相手は無理か。

「最後の用意をする。 高殿、投降の準備をさせろ」

『了解です。 それと・・・戒厳司令部までのルートは確保しております。 約2個小隊』

「馬鹿か? 俺の勝手だ、貴様たちが付き合う道理はないぞ?」

『それこそ、こちらの勝手です。 少佐に、少佐の勝手が有る様に。 こちらにも、こちらの勝手がありますので』

「ふん・・・人生、自分勝手は大切だな? 中途半端では駄目だ、やるならどこまでも突き抜ける以外、勝手を押し通す道は無いな?」

『そう言う事でしょう。 では・・・ポイント『ノーリターン』でお待ちします』

「判った」

通信機を置いた久賀少佐は、窓の外へ視線を投げかけ・・・『伏魔殿』の方角を見やりながら乾いた表情で呟いた。 それは達観か、自棄か。

「そうだな・・・中途半端はいけない。 生煮えが今のこの国の状況を作った、中途半端は絶対にいけないな。 そうだろう? 大将閣下・・・?」

最初は部下達の極端な思想への憂慮。 説得の効無き無力感。 職務に対する責任感と徒労感・・・そして、『彼ら』の接触。
最初は嫌悪した。 蟻走感さえ生じた。 今まで純粋に野戦将校として生きてきた。 戦場で戦い、仲間を助け、仲間を喪い、部下を率い、部下を生き延びさせ、部下を喪った。
しかし現実は甘くなかった。 第1師団を蝕んだ『帝国の現実と幻想』は、久賀少佐1人がどうこう出来る水位を、とうの昔に突破していたからだ。

離れてゆく部下との心理的な距離。 葛藤の毎日。 そんなタイミングでの『彼ら』の接触と、知り得なかった内実情報・・・吐き気がした。
同時に何かが確実に変わった。 久賀直人と言う存在の何かが、永遠に変質した。 最早、多くの部下達も、同僚たちも、他部隊の者も・・・中途半端はいけない、絶対にだ。

「生煮えはいけない・・・やるなら、全てを業火の中で焼き尽くさねばな・・・だから、俺はアンタの手を裏で握った。 俺の中のケリを・・・自分勝手を通す為に」

知り得た極秘の内実情報。 軍と官界、政界上層部の唾棄すべき生存競争。 しかしそれ自体を非難するつもりは、今やない。 生きる為に他を喰らうのは、生物の本能だ。

「統制? 国粋? いいだろう、どちらでも好きにするがいい。 ただし、中途半端はいけない。 だから手を貸してやった・・・俺の中のケリをつける報酬としてな」

結局のところ、自分はケリを付けたかっただけだ。 それだけの唾棄すべき男だ。 彼女を―――最愛の妻を喪った・・・奪ってくれたケリを付ける為に。
それだけの為に、俺はこの大騒ぎに加担した。 狭霧? あんな青二才の事など、最初から見切りを付けていたさ。 馬鹿な奴だ、哀れな奴だ―――愛すべき青年になれた筈なのに。

あの男も俺と同じだ。 どんなに言い繕っても、あの男は未だ、『幻の光州作戦』の最中に居る。 彩峰中将の幻想を追い求めている。 いや、俺があの男と同じなのか?
その幻想と現実の体験とに、整合を付けられずにいる。 不器用な・・・そして素直すぎた男だ。 だから利用された。 全てはシナリオ通りに演じる役者として―――どうでもいい。

「報酬は貰う・・・そっちの黙認だ、いいな? 右近充大将閣下・・・?」

俺にドアを叩かせたのは、アンタだ、右近充大将。 中途半端なままだった俺に・・・中途半端でも良いと思っていた俺に、アンタはドアを叩かせた。

―――だからお互い、中途半端は許されない。 勝手を通す為には。

久賀少佐は長年愛用の自動拳銃―――『ベレッタ92』―――を握り締めると、無表情で部屋を後にした。




『俺は天国のドアを叩いた。 しかし神は何も答えなかった。 俺は地上を行く、その罪は神に問え』―――(ドン・ファン・テノーリオ)



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