<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20952] クーデター編 動乱 3話
Name: samiurai◆b1983cf3 ID:0ffa22e1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/03/08 20:28
2001年12月6日 0420 日本帝国 伊豆半島 伊豆スカイライン跡 巣雲山南麓


「随分と不細工な状況だな・・・」

「否定はしませんよ、岩橋中佐。 私とて、嗤いたい位です・・・自分の馬鹿さ加減を」

「それを言うのならば白根中佐、まず嗤われるべきは、わが陸軍だ・・・」

天幕の中で岩橋譲二中佐と白根斐乃中佐、2人の陸海軍中佐が、互いに苦虫を潰した表情で戦術地図を見下ろしている。 周囲には複数名の陸海軍少佐達が控えていた。

天幕はCP部隊が用意した。 戦術機甲部隊の本隊に追従して来た、通信支援部隊。 主にCP将校が指揮官を務めるが、地上車両以外に大型ヘリを使用する場合も多い。
日本帝国陸軍では、アグスタウェストランド AW101をライセンス生産の形で多数採用している。 通信支援・輸送ヘリだ。 有効積載量は5.4トン以上にもなる。
大量の機材と長大な航続距離を求めた結果、3発のエンジンと巨大な床下燃料タンクを搭載する大型機だ。 全周監視レーダー、双方向データリンク、統合作戦システム等を搭載する。

本隊に追従して来たCP部隊が、AW101に搭載している野外指揮システムを降ろし、臨時の指揮所を設営。 そこに各大隊指揮官級の佐官たちが集まっている。

「しかし・・・エアボーンか。 確かに前線以外では、まだまだ有効だ。 迂闊に過ぎる、と言う奴だな・・・」

「先入観と言うのは、恐ろしい・・・そう言い聞かせて戦って来た筈が。 ふふ・・・情けないにも、ほどが有る・・・」

そう、地球は球体なのだ。 そして佐渡島から南関東は、直線距離で凡そ340~350km 佐渡島の最高標高は金北山の1,172mだ。
BETAによる標高浸食が無いとして、その標高からの最大水平線視界距離は130km弱。 とても南関東、その最南端に位置する伊豆半島を視認出来ない。

逆もまたしかり。 南関東、いや相模湾から伊豆半島を飛行高度5000m前後の中高度で飛行しても、最大水平視認距離は約270kmほど。 
但し、それは『最大水平線距離』であり、ちょうどその距離に当たる場所に、越後山脈が聳えるのだ。 更にはその前に、関東山地の中心部を為す奥秩父山地もある。
奥秩父山地も越後山脈も、元々は標高1500~2000m級の標高であり、BETAによる標高浸食は見られるものの、それでも未だ標高1200~1800m級の山地・山脈だ。

距離の制約・地形(遮蔽物)の制約をクリアし、『相模湾や伊豆半島上空から、佐渡島の標高1,172m地点を視認』出来るのは、高度8,000から8,200mでようやくなのだ。
詰まる所、佐渡島の光線属種BETAのレーザー照射の危険性が発生するのは、高度8000m以上の高高度飛行の場合のみ。 それも照射距離の関係から重光線級BETAの照射のみ。

太平洋岸でさえ、飛行高度8000m以下、高度5000~6000mの中高度飛行は実のところ、『安全飛行高度』になっている。
例えBETA群が新潟に上陸したとしても、距離と地形の制約を受けるから、飛行の安全性に問題は無い。 詰まる所・・・

「・・・軍人ゆえか、平素の軍の宣伝が、刷り込まれてしまっていたか・・・」

「エアボーンの飛行高度は、精々が高度3000mほどでしたのに、ね・・・事前情報から、十分考えられる話でしたわ・・・」

「源君の部隊から、情報も入っていたものを・・・」

「あれは致し方ありません。 こちらは通信封鎖で、結局は師団本部経由になったでしょう?」

延々と続きそうな上官たちの愚痴に繰り出し合いに、流石に辟易したのかどうか、それぞれ先任の陸海軍少佐達が口を挟んだ。

「岩橋中佐。 やってもうたんは、しゃあないですわ」

「それよりも至急、対応策の確立を、白根中佐」

陸軍の木伏一平少佐、海軍の鈴木裕三郎少佐が、横合いから戦術地図の前に進み出て口をはさむ。 鈴木少佐はともかく、木伏少佐は『自分の柄や無いんやけどなぁ』と苦笑気味である。

「まずは、状況確認でっしゃろ? こっちの手持ちは、外縁包囲部隊に陸軍が4個戦術機甲大隊と、海軍も4個戦術機甲大隊・・・戦術機甲隊やったっけ? 計8個大隊。
後は三島と沼津に、戦術機甲試験審査大隊が展開しとりますわ。 源が部隊を動かした様でんな。 今のところ、こっちに協力して封鎖網を敷いてくれとります」

「熱海と伊東を、陸軍の2個戦術機甲大隊で押さえました。 戦闘による損害が出ておるとの事でしたので。 他に『千歳』、『千代田』の両艦から2個陸戦団が揚陸完了」

海軍陸戦隊を乗せた強襲上陸作戦指揮艦の『千歳』、『千代田』は、各々30機の戦術機を搭載している。 発艦能力は無く、揚陸方式だが、それでも5個中隊の戦力だ。

「氷川を陸戦隊の4個戦術機甲中隊が押さえました。 指揮官は陸戦隊の工藤少佐です。 これでほぼ、全周包囲が完了なのですが・・・」

「逆に、こっちも『玉』を連中に包囲されてしもうたな・・・周防、アメちゃんの配置は?」

木伏少佐が、CPとの間で情報のやり取りをしていた、周防直衛少佐に向かって確認する。 網膜スクリーンで無く、軍用の情報端末で確認していた周防少佐が、顔を上げて報告した。

「元の戦力は1個大隊規模。 うち、1個中隊は、1連隊や富士の連中との交戦で、ほぼ壊滅状態。 1個中隊は監視付きで函南まで下がらせました。 間宮の隊で見張らせています。
問題は、残る1個中隊・・・指揮官の直率中隊です。 米陸軍第66戦術機甲大隊『Bounty Hunters』―――指揮官、アルフレッド・ウォーケン米陸軍少佐」

米海軍では無く、米陸軍。 それも最新鋭戦術機のF-22A『ラプター』装備部隊・・・壊滅された1個中隊は、F-15E装備部隊だった様だが。
そのラプター運用部隊―――あから様に、特殊作戦の紐付き―――が、事も有ろうか『玉』に接触し、更に包囲網の最内縁部に存在している。

「それについては、海軍側のミスね・・・アメちゃんの牽制任務を与えられていたわ・・・」

F-22A『ラプター』・・・ステルス戦術機(明らかに対人戦重視の開発コンセプトだ!)の長所を生かされてしまった。
囮の2個中隊(F-22AとF-15A各1個中隊)に吊り上げられて、残る1個中隊を伊豆の山中でロストしてしまった。
そのロストした1個中隊が大隊指揮官の直率中隊で、その部隊にまんまと『玉』に接触されてしまったのだ。

「クーデター部隊の戦力は、富士の1個大隊に、1連隊の残存が1個大隊・・・残り2個中隊か。 1連隊は1個中隊が、周防の大隊との交戦で撃破されている―――よくやった、周防」

「仮にも第1連隊を相手に、同数で33%を撃破。 こちらはほぼ無傷・・・やるわね、周防君?」

2人の中佐の言葉に、首を竦め乍ら答える周防少佐。

「・・・後退戦闘中の相手に、それも同数の相手に、機動砲撃戦かましながらの追撃戦闘です。 あれで損害を出していたら、もう一度、新米少尉からやり直しですよ・・・」

古来より、撤退戦闘程、難しいものは無い。 歴史を紐解いて見ても、数多の名将・勇将が率いる精鋭部隊が、撤退戦闘の最中に壊滅し、殲滅されている。
日本史でも、例えば長篠の合戦で武田家が被った大損害の大半が、撤退途中の追撃戦で生起しているのだ。 高名な武将の討ち死に場所が、撤退路上に点在している。

「やろうと思えば、今からでも連中を殲滅可能ですよ。 こちらは8個大隊・・・氷川の海軍さんを含めれば、9個戦術機甲大隊の戦力です」

「対して向こうさんは、1個大隊半・・・損傷機を除けば、精々そんなトコロでしょう。 戦力比は9:1.5・・・ランチェスターによる実質戦力比は、81:2.25です」

陸軍の長門圭介少佐と、海軍の加藤瞬少佐が、現実の戦力比から交戦した場合の彼我の損失予想を立てる。 理論値では有るが、それは経験則から導かれているのだ。
ランチェスターの第2法則からすると、そうだ。 実際の戦力差は81:2.25となり、向こうを殲滅した後で、こちらには8.8個大隊分の戦力が残る。
予想損失は8機。 9個大隊、360機のうちの8機。 損耗率2.2%・・・部隊指揮官ならば、躊躇せずに受け入れるべき『数字』だった。 だったのだが・・・

「問題は、2重包囲網の中心に『玉』と『保安官』がいるって事ですよね。 『保安官』っていっても、西部開拓時代は、『ならず者』の兼業だったそうですし?」

海軍の菅野直海少佐が、意味ありげな口調で言う。 そしてそれは、この場に居る部隊長の全員が認識している事でもあった。 『ならず者』―――恐らくカンパニーの紐付き部隊。

「・・・ウォーケン少佐は旧知です。 カンパニーはともかく、彼個人の資質としては、信に能う人物なのですが・・・」

周防少佐が、やや躊躇い乍ら言う。 個人としては信に能う人物であったとしても、作戦を実行する軍指揮官としては、それは別物だと判っているからだ。

「それはこの際、置いとくしか無いわな。 『玉』の周りの戦力ってぇと、陸戦隊の戦術機甲隊1個中隊に、米陸軍が1個中隊。 おまけの国連軍の訓練小隊2個に、斯衛1個小隊。
他の国連軍・・・横浜から横やり入れてきた中隊は、大竹君(大竹基少佐、訓練校17期B)の大隊が押さえとりますわ。 全く、充足未満の欠員中隊で、何しよとしてたんやら・・・」

「木伏君じゃないが、おまけはこの際、置いておくとしてだ・・・海軍さんは、エゲツないな・・・」

「そうかしら?」

木伏少佐の報告に頷きつつ、海軍の方針に嘆息する岩橋中佐に、白根中佐が白々しく答えた。 その言葉に恨みがましい視線を向ける岩橋中佐。

「白々しい・・・なんなのだ? あの指揮官名は? 思わず目を疑ったぞ・・・」

「アメちゃんの指揮官は少佐。 対してこちらは大佐。 階位は政威大将軍が正二位。 対してこちらは正三位・・・でもこちらは帝族よ。
階級でアメちゃんより上位者で、階位と『家格』で、政威大将軍に引けを取らないわ・・・あそこの主導権は日本側が取れる。 日本の軍部がね?」

「だからと言って、帝家の、帝族の方を、こんな『前線』に放り込むか・・・」

賀陽正憲海軍大佐―――日本帝国では、賀陽侯爵正憲王殿下、と言った方が通りは良いかもしれない。 東桂宮家の出身。
歴とした帝族であり、父親は先々帝の皇子親王で、先帝の弟宮の宮様。 今上帝の従兄に当たる人物だ。 帝族軍人の一人であり、帝族中唯一の戦術機乗りでもある。

なお、政威大将軍の位階は、歴史上の最高位で江戸幕府初代、2代目、12代目が従一位だが、それ以外は正二位右近衛大将が殆どだ。
室町以前の場合だと正五位から従四位あたりになる(後に従一位まで叙せられた者も、居るには居る) 対して賀陽大佐は宮家の次男で、臣籍降下である為、正三位を受けている。

「・・・『戦術機の宮様』か・・・」

実戦経験も豊富な衛士で、京都防衛戦時でも釈迦岳の激戦を、戦術機甲隊(大隊)を指揮して戦い抜いている。 国民人気では、政威大将軍を上回るかもしれない。

「そうよ、国民に大人気の方ね。 政威大将軍と、あとは小煩い斯衛を黙らせるのに、適任でしょう? 米軍に対しても上位階級者なのだしね」

斯衛軍は多くが、昔の大身武家、それも五摂家の家臣筋だった家柄の出身だ。 帝家からみれば、家臣(政威大将軍、摂家)の、そのまた家臣。 つまり『陪臣』に過ぎない。
身分・家格に異様に拘る斯衛なればこそ、帝家や帝族を前にしては、何も言えず、何も反論できなくなる。 彼らの本能に近い習性だ。

米軍にしても、対象国の帝族・王族を巻き込んでの特殊作戦の強行は、自分の首を完全に締める。 本来、特殊作戦とは、公然とした軍事行動が政治的に問題となる地域で行われる。
今回の件で賀陽大佐が負傷、或は『戦死』ともなれば・・・米国は『国際社会』から袋叩きの目に合う(ついでに、無償援助を無制限に強要されるだろう) 国庫が破綻する。

「クーデター部隊の連中にとっても、帝家と帝族はアンタッチャブルだ」

「そうね。 彼らにしても・・・いえ、国粋派の彼らだからこそ、将軍家や摂家よりも『上の』帝家や帝族は、全く無視出来ないわ。
手を出すなど、以ての外。 狭霧大尉は判らないけれど、他の従っている連中にとって、帝家と帝族は絶対不可侵の存在に等しい筈・・・馬鹿げていますけどね」

古代の神権政治ではないのだ。 一体お前たちは、何時の時代を生きているのか? 本気でそう問い詰めたくなってくる・・・ともあれ、この一石で『玉』周辺の動きは封じた。

「後は、残りの展開次第か・・・周防?」

「伊豆の山中を歩きです、1時間はかかります。 あと、帝都から全力で急行中ですが、こちらも1時間半は時間がかかります」

「うん・・・現在時間、0315・・・作戦開始は0445・・・いや、0500時か?」

「妥当ですね。 それまで連中が暴発しなければ、ですけれど」










2001年12月6日 0425 日本帝国・帝都・東京 江戸川 本土防衛軍臨時司令部(第3師団司令部)


「新潟と九州の状況は?」

「はっ! 第5軍(北陸・信越軍管区)司令部よりの報告では、第8軍団(信越防衛部隊、第23、第28、第58師団)がBETA上陸地点の前面を押さえたとの報です。
南より第25と第29師団(第5軍第17軍団、北陸防衛部隊)が北上・側面を突きました。 また援軍の第13師団と39師団も、北の迂回に成功しました」

「旅団規模だったな? 上陸したBETA群は?」

「はい。 約4800体です。 現在の所、要塞級、重光線級、共に確認されておりません。 光線級が約50体。 突撃級約400体、要撃級約750体。 残りは小型種です」

「そうか・・・なら、完全に排除が可能だな・・・九州は?」

「第3軍(九州軍管区)からの報告では、上陸したBETA群の総数は、約3800体。 第3軍団(第19、第22、第26師団)が正面に展開し、旧博多市郊外で迎撃中です。
関門海峡を渡海した第34、第43師団(第8軍第12軍団、中四国防衛部隊)が側面攻撃に成功しました。 また九州南部の第8師団(甲編成)が、後3時間で到着します」

「ふむ・・・想定の範囲内、と言うところだな。 どうだろうか、右近充君?」

本土防衛軍副司令官・岡村直次郎陸軍大将が、隣に座る国家憲兵隊副長官・右近充義郎陸軍大将に向き直って聞いた。 階級は同じだが、岡村大将の方が右近充大将より4年先任だ。

「東と西の上陸BETA群・・・半年前からの観測結果は、ほぼ正鵠を射ておりましたな。 地中侵攻は無いと見て宜しいでしょう」

「ならば、私の仕事は東西の脅威を、このまま鎮圧する事だ。 そして、それは確実だ―――君の方だ、問題は」

鋭い視線で右近充大将を射る様に見つめる岡村大将。 数十年に亘り軍歴を重ねてきた歴戦の将軍の視線は、それだけで物理的な重圧さえ伴う。
その視線を右近充大将は、平静と変わらぬ表情で受けとめ、黙礼するだけだった。 右近充大将とて、数十年に亘り『裏の』世界で暗躍し、調略を仕掛け続けた、その世界の大物だ。

「・・・かねてより『飼って』いたと判断していた飼い犬が、どうやら自己の意志で動いた模様ですな。 ご心配無く、未だ想定の範囲を越してはおりません」

「・・・制御能うのかね?」

「状況に追従させれば、良いだけの事です。 大目標に変更は有りません」

「・・・了解した。 これまで通り、君に一任しよう」

岡村大将は戦場での戦略眼、戦術手腕、軍政・軍令のどれにも精通した、恐らく名将と称されるべき将軍である。 が、そんな彼も、諜報・防諜・謀略の世界は経験が無い。
一任された右近充大将は、内心であからさまにホッとしていた。 岡村大将は有能だが、謀略向きの軍人では無い―――餅は餅屋・・・一任されて良しとしよう。

「・・・君の言う『飼い犬』とは・・・あの男か? 今現在、第3戦術機甲連隊を率いてクーデターを起こした・・・」

「はい、その男です。 九州の戦場で、国粋派政治家絡みの『事故』で、妻を戦死で喪っていましてな・・・」

第1師団内部に蔓延しつつあった国粋主義、その『監視役』として、国家憲兵隊特務作戦局が接触した男だった。 あれこれ餌を提示したが、最後は『情報提供』だった。

九州戦当時、妻子を『選挙運動』の一環として九州に残した国粋派政治家(利権政治屋だが)、その利権繋がりで、本来の命令系統を飛び越した命令を発した帝都の上層部。
その中には今回の『事件』に絡み、身柄を拘束された元第1軍司令官・寺倉昭二陸軍大将や、元東部軍管区参謀長・田中龍吉陸軍中将なども居た。

「不幸にも、あの男はまだ若かった・・・悔恨と恨みと・・・復讐の情念を、抑え切る程に枯れる年では無かった・・・甥と同年でしてな」

「・・・20代後半くらいか? 若いな・・・そして、不憫でもある。 それだけだ」

「そう、不憫です。 が、それだけです」

愚かしさでは、2人の初老の高級軍人達の方が、クーデターを起こした年若い青年将校達が比べ物にならない程、愚かしい。 そして、その愚かしさを自覚する程に枯れている。

岡村大将が卓上に置かれたシガレットケースから1本取り出し、火をつけた。 そしてゆっくりとその香りを楽しみ・・・ゆっくりと紫煙を吐き出しながらポツリと言った。

「何を想ったのであろうか、あの若い少佐は・・・」

その言葉を、ソファに深く身を沈めた右近充大将が、これもシガレットを1本咥え、火を付けた後に、少しだけ自嘲めいた表情で返す。

「怨讐、悔悟、慙愧、自己嫌悪、自虐・・・全て愚かしいと判っていながら、全ての行動が無意味と判断できる能力を持ちながら、全てを終わらせたいと願う狂気の衝動・・・」

「理解は出来る。 右近充君、君は経験が無いかね? 私は有る。 未だ中佐の頃だ、部下の若い中尉が戦場からの帰途、拳銃自殺を遂げた」

「・・・」

「中隊の殆ど全てを喪い、そして想い人を喪った。 我々の様な老人からすれば、若い者の軽挙に映る・・・が、あの時、あの若い部下にとって、世界は終わったのだよ」

「・・・有りますな。 私も若い頃は武装憲兵隊として、前線で戦いました―――佐渡島で息子・・・次男を喪いましたが、20年若ければ、どうなっていたか自信はありませんな」

「私も、京都で息子を・・・横浜で次女を喪ったよ。 残ったのは既に嫁いで退役していた長女だけだ。 ふむ・・・私も君も、悪どい具合に枯れたと言う訳だ」

2人の陸軍大将は、無言で椅子に身を沈め乍ら、暫し目を閉じていた―――目を開いた岡村大将が言った。

「大目標に変更は無い。 国防省、統幕は元より、大蔵省、内務省、外務省、軍需省、各省の事務次官以下の総意でもある」

「―――ならば」

右近充大将は、目を閉じたままでそれだけ言うと、いったん言葉を切った。 そして再び目を開き・・・

「ならば、あの若い少佐に、本懐を遂げさせましょう。 あの男が本心、どう思っているのか、どう考えているのか、それはどうでも宜しい事です」

「それは、彼にも判らない事だろうな」

判っていれば、こんな騒ぎに首を突っ込まぬ―――岡村大将が素っ気無く呟いた言葉に、右近充大将もまた、表情を変えずに頷くだけだった。










2001年12月6日 0435 日本帝国『臨時首都』仙台市郊外


臨時政府が置かれた仙台。 夜明け前の時間、郊外から市の中心部へ向かう2台の乗用車―――1台はSPの乗車だ―――が、急制動を掛けて停車した。

「どうした!?」

「倒木です! 道路に・・・!」

「なんだと・・・?」

SPの班長が、咄嗟に背広の脇のホルスターから拳銃を抜く。 従軍経験のある予備役大尉の警部だ。 彼の『勘』が、けたたましく警報を発したのだ―――『戦場の勘』が。

「対象を囲め! 本部に至急、緊急信を!」

「了解しまっ・・・かっ!?」

「おい!?」

「がはっ!」

「何だ!?」

「くっ! 狙撃だ!」

一斉に遮蔽物に身を寄せる生き残りのSP。 だが『対象』―――前を走っていた要人用高級車に乗っていた政治家、仙台臨時政府のある閣僚は、SPの様な緊急時の訓練を受けていない。

「おい! どういう事だ!? 俺はこれから緊急の会合で・・・げかっ!?」

制止を振り切り、居丈高に車外へ出て護衛に怒鳴り散らす『対象』 遮蔽物の陰から『車内に戻って!』と声を張り上げるSP班長が静止する間も無い。 
頭部を高速弾で撃ち抜かれたその閣僚は、銃弾の射入孔と反対側の側頭部が爆発したように弾け、血煙と脳漿を盛大に撒き散らして死んだ。

「班長・・・!」

「まだだ・・・! まだ出るな・・・!」

護衛対象を射殺された時点で、SPの任務は失敗だ。 そして後は過酷な事情聴取と懲罰人事が待っているだけ―――それでも、今ここで、むざむざ狙撃される訳にいかない。

(失敗した・・・これまでだが・・・軽々しく死ぬほど、素人でもないのだよ!)

我が身は最早、栄達など望めない。 だが職務は最後まで―――生き残り、微かでも情報を持ち帰る―――彼らもまたプロだった。

「・・・全員、周辺警戒しつつ、『対象』を確保」

「「「・・・了解」」」

銃口を周囲に向け乍ら、数人のSPが射殺体に駆け寄る。 恐らく7.62×51mmNATO弾。 人の頭部など、熟れたトマトも同じだ。

「一体、誰が・・・」

「判らん・・・」

部下の呟きは、どうでも良かった。 粗方見当はつく、死んだ閣僚は国粋派寄りの利権政治家だった。 そして帝都の・・・東京に居残った統制派高級官僚達は、排除したがっていた。

(いずれにせよ、真相は闇の中だ)

もしか知ると自分は、懲罰人事後に本件の捜査担当にされるかもしれない―――どこからも協力を有られず、砂漠の中の一粒を探し出す如く、不毛の余生を強いられる。
そう思うと、途端に虚脱感に襲われる。 どこかの誰かが、何を思ったのか『対象』を消した。 多分、かなりの組織力で―――自分の手に余る範囲で。

(その尻拭いか・・・多分、『連中』だ・・・くそ、あいつらか・・・)

SPの警部が思い描く『容疑者』 それは仮にも『国家』の名を冠する政府組織だった。










2001年12月6日 0440 日本帝国 伊豆半島山中


1個大隊分の戦車が、トランスポーターから降ろされ、自走を開始していた。 追従するのは89式装甲戦闘車と、73式装甲兵員輸送車。 これも1個大隊規模。

「目的地まで、後どの位だ? 時間的距離で良い」

「約15分です」

「よし・・・電波吸収体はそのまま貼り付けておけ。 戦術機のミリ波レーダーを最後まで騙くらかしてやれ」

戦車部隊の指揮を執る篠原恭輔少佐は、欺瞞装備について指示を出すと、先遣部隊指揮官から指示が入った。

『サンダーボルト・ワンより『ヴェアヴォルフ・ワン』、『ヨッヘン・ワン』 予定地点5分前地点で散開開始、オーバー」

『こちらヴェアオルフ・ワン。 サンダーボルト・ワン、了解です。 オーバー』

「ヨッヘン・ワンです。 サンダーボルト・ワン、了解。 オーバー」

帝都の騒乱を14師団に押し付けた? 第15師団は、戦術機甲部隊に次ぐ高速機動部隊を、急ぎ急行させた。 高速機動が可能な装甲部隊と、装甲車両化した機械化部隊だ。
第152機甲大隊(篠原恭輔少佐)、第153機械化歩兵装甲大隊(高谷清次少佐)、第151機動歩兵大隊(奥瀬 航中佐)の3個大隊だ。 指揮官は奥瀬中佐。

『戦車隊は、伊東から19号線を山登りだ。 亀石峠から伊豆スカイラインを通って、巣雲岳南麓から位置に付け。 第152戦術機甲(大隊、長門圭介少佐)が付近を張っている。
機動歩兵は宇佐美から山登りだ。 旧伊豆スカイラインカントリーのゴルフ場跡で潜め。 『玉』に近い。 海軍の陸戦隊から1個海兵大隊(機械化歩兵)が並走して登る』

旧ゴルフ場跡地南側には、第151戦術機甲(大隊、周防直衛少佐)が陣取っている。 他にも陸海軍合計で、8個大隊の戦術機甲部隊が包囲している。
南端の氷川を、海軍陸戦隊の4個戦術機甲中隊が蓋をしている。 その『隙間』を、陸軍第15師団と海軍2個陸戦団(連隊戦闘団)の装甲部隊・装甲車両化歩兵部隊が埋める。

戦術機甲部隊は、堂々と、あからさまに、その存在を見せつけるようにする。 機甲部隊は静かに配置に付き、ヒットエンドランに徹する。
機械化装甲歩兵、機動歩兵は山中に潜み、ATM-3(87式対装甲誘導弾/中MAT)や、ATM-5(01式軽対装甲誘導弾/軽MAT)を、『足元から』お見舞いする。
最後は陸戦団の偵察中隊による、『玉』の確保。 その後、素早く東伊豆の川奈まで離脱し、陸戦団本部(旗艦『千歳』)に収容する・・・それが作戦概要だった。

『海軍さんの『戦術機の宮様』が乗り込んで、将軍と米軍、それにクーデター連中を押え込んでいる。 が、そう長くは無い。 作戦予定、0500時だ』










2001年12月6日 0445 日本帝国 新潟県新発田市付近 第39師団第391戦術機甲連隊


「フルンティング・リーダーよりB、C小隊、ダメージ・リポート」

『フルンティングB、損害なし。 周囲にBETAを感知せず』

『フルンティングCです、損失機なし。 BETA探知しません』

第2、第3小隊は全機健在だ。 勿論、中隊長直接指揮の第1小隊も同様。

「よし。 全機、別名あるまで現在地を確保。 第2小隊、要害山から加治川、坂井川周辺を警戒。 第3小隊は丸山から上中江、東姫田、下三光一帯を警戒」

第1小隊―――中隊本部は鳥屋ノ峰から海岸線を監視する。 12機の戦術機が分散すると同時に、大隊本部より通信が入った。

『キュベレイ・ワンよりフルンティング、アウロラ、クルセイダー。 リポート』

大隊長の声だった。

『アウロラよりキュベレイ・ワン。 中隊全機損傷なし。 秋葉山、黒石山、扉山の新発田南ラインを確保』

『クルセイダーよりキュベレイ・ワン。 1機が軽度の損傷も、戦闘行動に支障無し。 二王子から水谷の中央部を確保完了』

どうやら2つの僚隊も、無事任務完了の様だ。

「フルンティング・ワンよりキュベレイ・ワン。 要害山、丸山、鳥屋ノ峰の北部ライン確保。 中隊に損失無し、全機健在。 羽越本線側は、13師団がガッチガチに固めています」

彼らは新潟戦線へ、予め増援として派遣されていた、本土防衛軍総予備の第39師団第391戦術機甲連隊(第39師団は乙編成なので、戦術機甲連隊は1個だけ)
その第3大隊だった。 使用機体は92式弐型『疾風弐型』、3個中隊36機と指揮小隊4機の、合計40機。 その全機が健在だった。

『・・・とは言え、婚約者を帝都に待たせて悶々としている周防さんのナニほど、ガッチガチでは無い、と・・・』

『きゃっ! 宇佐美さん、お下品~!』

『・・・前田は転属間もないから。 『種馬魔王』の直系の子分だし、周防さんは・・・』

『そんなに、アレ凄いんですか? 15師団のあの大隊長? ねえ? どうなんです? 大隊長?』

『はぁ・・・あたしが言えるかっ! ンな事! こら、周防! なに生暖かい表情になってんのよ!? 先任中隊長でしょうが、アンタはっ!?』

「はあ・・・何と言うか、どうしてウチの大隊は、こんなに下品な女ばかりなのかな、と・・・」

『むっ!? 私は下品じゃありません! 下品なのは宇佐美さんですから!』

『・・・周防さん、態度デカい・・・それと前田、後で覚えてらっしゃい?』

『ほほう・・・?』

思えば先代の先任中隊長・・・今は少佐に進級して、別の大隊を指揮している天羽都少佐も、こんなノリ・・・いや、もっと酷かった。 自分は女難の相でも有るのだろうか?

「・・・大隊長以外、どうしてこう下品な女ばかりなのかと・・・」

『ふん・・・少しは学んだ様ねぇ? でも、馬鹿話は後だよ! 阿賀野市南部も、第1大隊と第2大隊が押さえた! このまま最後まで、気を抜くんじゃないよ!』

大隊長―――第391戦術機甲連隊第3大隊長、伊達愛姫少佐の言葉に、2人の大尉―――宇佐美鈴音大尉と前田由貴大尉が頷いた。 第2、第3中隊長だ。

「・・・第1、第2大隊、共に損失無しの様です。 このままラインを押し上げですね―――第8軍団の攻勢と同時に」

部隊間通信を傍受していた第1中隊長・・・周防直秋大尉が、普段のやや軽い表情を引き締めて、精悍な『戦場の顔』で報告する。

『ああ、あたしも確認したよ。 森宮さん(第1大隊長・森宮右近少佐)も、沙雪さん(第2大隊長・和泉沙雪少佐)も、あの程度で下手を打つタマじゃないしね・・・』

網膜スクリーンに映し出された大隊長の表情は、それでも勝利を収めつつある部隊長の表情には、やや色が違っていた。

「・・・ご心配ですか、帝都が・・・?」

周防大尉が伊達少佐に、秘匿回線で話しかけた。 その意味を知っている伊達少佐は、秘匿回線使用について何も言わなかった―――押し黙ったままだ。

「どうやら長門少佐は、俺の従兄と一緒に制圧部隊の様ですね。 あの2人だから、下手は打たないと思いますが・・・」

そこでいったん言葉を切り、そして若干の逡巡を越して、言葉を続けた。

「俺は面識有りませんでしたけれど・・・久賀少佐は、その・・・高殿大尉は、同期です。 あの馬鹿、あれで思いつめる性質でしたので・・・」

帝都のクーデター。 反乱側にも制圧側にも、知己が多い。 クーデター部隊の久賀少佐は、伊達少佐とは同期の親しい戦友だった。 新任士官時代、満州で共に戦った。
高殿大尉は、周防大尉の訓練校同期生だった。 卒業後は同じ部隊になっていない為、付き合いは比較的浅いが・・・それでも苦楽を共にした同期生に変わり無い。

制圧部隊の長門少佐は、伊達少佐の夫だ。 そして周防少佐は、周防大尉の従兄であり、伊達少佐の最も親しい同期の期友で戦友の一人だった。

『・・・麻衣子さんがね、死んだそうよ。 河惣大佐もね・・・祥子さんは負傷したみたい』

師団からの情報の様だ。 もしかするとその上、本土防衛軍司令部からの情報か。 死亡が確認された2人の女性将校は、周防大尉も面識が有った。 
そして何より、負傷した女性将校は、従兄の周防少佐の夫人だった。 姉の様に接してくれる女性だった。 自分の感情が片側に傾いている事を、周防大尉は自覚しつつ、言った。

「彼らの擁護は、全く有りません。 もしかしたら、自分が気付いていない思いが有るのかもしれませんが・・・少なくとも、今、この眼前の光景を前に、何も許容できません」

多数のBETAの死骸。 撃破された戦闘車両、全損した砲座、死体袋に収まって運ばれる戦死者の『一部だったモノ』

運が良い少数の者は、トラック代用の救急車両で後方に運ばれている。

久賀少佐は九州の戦線で、妻を喪ったと聞いた。 高殿の奴は、広島の戦線で郷里の人々を・・・親類縁者を、突撃砲でBETAごと吹き飛ばさざるを得なかった。

(もし、彼女を喪ったとしたら、俺は・・・平静でいられるか?)

婚約者の顔を脳裏に描く。 最近、婚約したばかりだ。 もし彼女が・・・

(馬鹿野郎・・・下手な仮定でマイナスに落ち込むな。 仮定は現実じゃない・・・)

不意に、数年前まで派遣されていた欧州戦線で知り合った、1人のイタリア人衛士―――従兄の旧知だった―――の言葉が頭をよぎった。

(『なあ、直秋よ。 昔の偉そうな奴が、偉そうに言った言葉が有る。 『諦めるな。 一度諦めたら、それが習慣となる』ってな』)

あれは確か、同じ部隊の奴が戦死した日の夜だった。 あれは酷い戦闘だった。

(『でもよ、正直な話、俺達は明日を精一杯生きるより、今日を精一杯生きなきゃいけない。 それに死ぬよりも、生きているほうがよっぽど辛い時が何度もあるさ。
でも俺達は生きていかなきゃならないし、生きる以上は努力しなくちゃよ?  立派に死ぬことは、実はそう難しいことじゃない。 それよか、立派に生きる方が難しいぜ?』)

普段は女好きな、軽薄な印象を受けるイタリア男の典型の様な人物だが、それでも従兄と同じくらい激戦を潜り抜け、生き残ってきた歴戦の衛士だった。

(『んじゃよ、どうやって立派に生きるかだ? やり方は三つしかない。 正しいやり方。 間違ったやり方。 そして俺様のやり方さ。
どれが正しくて、どれが間違いなんだか判らなねぇからよ。 だから俺は、俺様のやり方で、ご立派に生き抜いてやるぜ? 直秋、お前はどうだ?』)

あの陽気でポジティヴな男は、何と言っていたか・・・

(『苦楽を共に―――良い言葉じゃないっすか。 ファビオ?』)

(『判っちゃいねぇな! 直秋! 共にするのは楽だけで良いのさ! 苦しみを連れて救いに来られた日にゃ、大迷惑さ! 冗談じゃないね!
望むのは問答無用のハッピーエンド! 失われた日々を上回る愛と幸福! ア・モーレ! それと幸福! これに尽きるさ!』)

惜しむらくは、帝都のあの2人の前に、その様な相手が再び現れなかった事なのだろうか? いやいや、事はそんな単純ではないだろう。 だが・・・

(ファビオ・・・アンタなら、どうしました? 久賀少佐はアンタの戦友だ。 長門少佐も、俺の従兄も・・・高殿は同期の期友だ。 なあ、ファビオ、あんたなら、どうしました?)

(『馬鹿野郎! 直秋! マイナスに囚われて、死んだ連中が喜ぶと思うのかよ!? 連中との記憶も全てひっくるめて、問答無用のハッピーエンド! 
失われた日々を上回る愛と幸福! ア・モーレ! それと幸福! 俺たちが目指すのは、この道しかねぇんだよ! 忘れるな!? 直秋よ!』)

思わず苦笑する。 自分の脳内妄想だ、それは判っている。 しかし実際にあのイタリア男なら、そう言う筈だった。

(だよな・・・ファビオ。 そうですよね・・・)

ある意味で周防大尉は、彼の従兄より、欧州派遣時代に知り合った外国軍の軍人達からの影響が大きいのだ。 ファビオ・レッジェーリ国連軍少佐は、その最たる人物だった。

『・・・何よ、直秋。 1人で納得したように笑って・・・気味悪いわよ?』

「酷ぇすよ、大隊長・・・いえね、『俺達は明日を精一杯生きるより、今日を精一杯生きなきゃいけない。 生きる以上は努力しなければ』とね・・・」

『ッ!? な、直秋・・・あんた・・・の、脳波パターンは!? 正常!? バイタルパターンのチェックも!?』

「ここでボケんでください! 大隊長!」

心のしこりは残っている。 問い詰めたい気分も濃厚だ。 だが、それは叶わない―――今、この瞬間は、すべき事が有るのだ。

『んッ!?―――各中隊! フォーメーション・ウィング・スリー! 連隊命令! 第1、第2大隊とで押し包みつつ、BETAを海岸線から駆逐する! 最後のお仕事だよ! 気を抜くな!』

「イエス、マム」

『ラジャ』

『了解です!』

やがて新潟防衛線の主力を張る第8軍団の各師団が、支援砲撃の元で前進を開始する。 同時に南の第25と第29師団(第5軍第17軍団)が側面攻撃を再開した。

『大隊全機! ゆっくりでいい! けど、確実にBETAを仕留めつつ、連中を駆逐せよ!』

北の第39師団も、同じく増援として派遣された第13師団と共に、ゆっくりと、しかし確実に南下を開始―――北からの側面攻撃を再開した。









2001年12月6日 0455 日本帝国 伊豆半島 伊豆スカイライン跡 巣雲山南麓


『―――煌武院公、貴公の焦燥は最も乍ら、ここは軽々と動くに非ず・・・』

『―――貴公の言、全ては国事全権代行者の『政治的発言』となる。 煌武院公、貴公と叛徒共との対話は、我、これを有用と認めず・・・』

『―――煌武院公、上に必要たるは、慈悲に非ず。 時に非情なりとも、平成を案じる非道なり・・・』

『―――慈悲もて失策を糊塗するは、無能なり、上の責に能わず。 煌武院公、心されよ・・・』

『―――斯衛の者共に告ぐ。 その身らは斯衛なり、それ以外に非ず。 軽挙妄動は厳に慎むべし・・・』

通信から漏れ聞こえる、賀陽王侯爵(大佐)と、政威大将軍との会話。 もっぱら賀陽王侯爵が政威大将軍を押さえるように話している様だった。
流石は帝族、と言うべきか・・・千数百年にわたり、この国の頂点で生き残り続けた一族。 例え象徴・傀儡と言われようと、その政治的見識は一頭地抜けている。

『―――ウォーケン少佐。 少佐が大佐の『戦場での』決定を受け入れぬは、『国連軍』として重大な軍紀違反であるが・・・貴官、軍法会議での銃殺刑を望むか?』

『―――以後、『国連軍』は暫定ではあるが、小職の指揮下に置くものとする。 ウォーケン少佐、貴官は掌握せる兵力を持って、前方警戒に当たれ・・・』

国連軍が各国軍の上位に存在するのではない。 ましてや2階級も違えば、独自行動など不可能だ。 建前上も、実質上も、賀陽大佐が中心部の指揮権を握った様だ。

『・・・岩橋中佐、白根中佐。 外縁部はどうだね?』

通信機越しに聞こえる落ち着いた声。 帝族と言うより、無数の修羅場の場数を踏んだ、黒も白も飲み込んだ歴戦の実戦指揮官の声。

『岩橋です。 準備は整いました。 戦術機甲部隊、戦車部隊、機械化装甲歩兵部隊と機動歩兵部隊・・・全部隊、オン・ステージ』

『白根です。 大佐、特務偵察陸戦隊、付近に潜入完了の報告有り。 カンパニーのトラップ解析には、今少し時間が・・・『ラット』の割り出しは完了したとの事です』

『ふむ・・・最悪、割り出した『ラット』を無力化できれば良い、か・・・では諸君、始めようか』




前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.035240888595581