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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] クーデター編 動乱 2話
Name: samiurai◆b1983cf3 ID:0ffa22e1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/01/27 22:37
2001年12月5日 2340 帝都 半蔵門付近 第1師団第3戦術機甲連隊


「・・・厚木に連絡。 『足を止めろ』、以上だ」

『―――了解です』

ままならん―――教導大隊と108旅団は、恐らく最後には殲滅される。 その代り、かなりの時間を稼ぐだろう。 2個大隊対、向こうは3個大隊。
追撃部隊の6個大隊のうち、2個大隊を拘束する事に成功した。 しかし、あと4個大隊が残っている。 その内の3個大隊の指揮官は、自分が良く識る者達だ。

(・・・沙霧では、手に負えん連中だ。 奴自身、連隊規模どころか、大隊指揮の経験すら無い・・・)

第1連隊の3個大隊は、どれも大隊長が居ない。 いや、拘束されてはいる。 従って大尉が大隊を、中尉が中隊を指揮している状況だ。

(ぶつかれば・・・まあ、目に見えている。 例え富士の戦研大隊が加わってもだ)

あと気になるのは、既に浦賀水道を通過したと思っていた海軍―――第1艦隊の行方が不明な点だ。 蹶起部隊も、各所に『協力者』を潜ませている。
浦賀水道を監視できるポイントにも、当然ながら配置させていた。 しかし定時連絡では『艦隊通過』の報は無かった―――米第7艦隊だけだ、浦賀水道を通過したのは。

(やはり・・・海軍だけは、勝手が違ったな)

海軍内にも、国粋派士官は存在する。 しかし陸軍と比べて極めて少数派であり、その少ない連中の大半は、遠隔地の根拠地勤務に回されていた。

(相模湾か・・・だとすると、早くにケリがつきそうだ・・・)

第1艦隊には1航戦と2航戦―――戦術機母艦『大鳳(2代目)』、『海鳳』、『飛龍(2代目)』、『蒼龍(2代目)』がいる。 戦術機240機を抱える、大打撃部隊だ。

これが相模湾を西進していれば・・・一気に詰み、だった。

(ならば・・・こちらも早めに手を打つか・・・)

大物連中の所在は、あらかた判明している。 全部は無理だが、せめて決めている連中だけは、ケリを付けておきたい。

(ふん・・・下種とも言え、ただの自分勝手だ、自己満足さ・・・)

所詮、この国を、この世界を、どうこう出来る話では無い。 そんな気も無い。 ただ、付けておきたいケリは有る。 
それに、多少なりとも肝は冷えるだろう―――日本と、日本人と言う連中は、自分で進んで外科手術を受ける勇気が有る民族でも、国でもないのだ。

(動機? 行動の根拠? 思想? そんなもの、後で幾らでも、こじ付けてくれ。 俺の知った事じゃない。 支離滅裂? 人間なんてのは、そんなものだ・・・)

だが、思い出して貰うぞ。 国の上層部、目を逸らしている軍や役人ども、嘆いて憐れみを期待する事しか考えていない日本人、それを勘違いしている、『やんごと無き』方々とやら。

(・・・優香子は、何故死んだ? そして俺は、何故生きている? 思い出して貰うぞ。 直視してもらおう。 糞ったれなBETAをなっ!)

端からは、説明がつかない久賀少佐の思考。 しかし彼は、彼の中では、それは必然だった。 必然でなければならなかったのだ。

(・・・この国に、慈悲深き統治者も、民意を汲み取る為政者も不要。 只あるべきは、生き残らんがためだけの道だと、その現実をな・・・!)

そうでなければ、何のために妻は死んだのだ。 何のために自分は・・・いや、自分は良い。下種とも言え、所詮、その程度の生だったのだ。 

が、妻の事だけは許容出来ない。

(この糞ったれな時代に、糞以外の事を考えているんじゃない・・・! 生き残りたければな! でなければ・・・1人残らず、滅びてしまえ・・・!)

やはり、狂っていた。









2001年12月5日 2350 日本帝国 神奈川県横須賀市 国連軍太平洋方面総軍第11軍 国連軍横須賀基地


「何時になったら、出撃できるのだ!?」

国連軍―――指揮下に入っている(形式上は)米軍将校、第117戦術機甲大隊の指揮官が、基地の整備将校に喰ってかかっている。

「失礼ながら! 機体に複数個所の不具合が生じております! 完調で無い機体を出撃させ、事故を起こさせるなど、小官の職務には含まれておりません!」

国連軍―――明らかに中国系と思しき整備将校も、負けじとやり返している。 そんな様子を、ハンガーの入り口から見つめる女性将校が2人。

「・・・中国軍も、やるわね? 機体を弄って、不具合を発生させるなんてね?」

「ヤンキーは大味過ぎるのよ。 彼らの完璧何て、私たちから見れば穴だらけよ・・・そちらも、そうでしょう?」

「ここは、潮風がね。 だからアビオニクスもね・・・残念ながら、人の足を引っ張るのは、お互い得意でしょ?」

横須賀基地戦術機甲隊・第207戦術機甲大隊長の朱文怜少佐、第208戦術機甲大隊長の李珠蘭少佐。 部下に命じて『小さな瑕疵』を米軍の機体に仕込んだ張本人達。

米軍第117戦術機甲大隊は、第70-3任務群『セオドア・ルーズベルト』を発進後に、この横須賀基地に一時的に駐留していた2個大隊のひとつだ。
そしてもう一つの大隊、第70-2任務群『ドワイト・D・アイゼンハワー』から進出している第174戦術機甲大隊もまた、横須賀基地の『見えないサボタージュ』により右往左往。

「どうもね、上の方で取引が有った様ね。 米軍を横須賀に拘束する代わりに、横浜の接収は時期を延ばす、って言う・・・」

「日本は早かれ遅かれ、AL4計画を接収するのでしょう? 今までが異常だったのよ、多額の資金だけ供出させられて、計画の実権は国連・・・横浜自身が握っていた・・・」

「殺された首相の意向だった様ね。 で、この騒ぎを奇貨として、この国の統制派が国連に『譲歩』を迫ったと・・・ま、第3計画までも、今並列で行っている第5計画も、発案国主導だし」

「ええ・・・で、本来、品川沖に出撃する予定だった117大隊と、伊豆半島に『何故か』進出予定だった174大隊を、ここで拘束するのが我々の任務ね。
日本も内政問題に、『国連軍』の錦の御旗を建てられて、米軍に干渉させるのは嫌がる筈だわ。 何としても排除したい筈・・・」

「戦力的には、戒厳司令部が掌握した制圧部隊の方が、倍以上勝っているモノね。 誘導して、個々に各個撃破で制圧できるわ。
ふう、基地司令官と、周中佐(横須賀基地戦術機甲隊司令・兼・基地作戦参謀、周蘇紅中佐)の、してやったりの顔が目に浮かぶわ。 資材と燃料弾薬、日本から優先補充の条件でしょ」

「美鳳(戦術機甲隊副司令・兼・第206戦術機甲大隊長、趙美鳳少佐)は、第7艦隊のリエゾン(連絡将校)の相手で、辟易しているわよ?」

「文怜・・・楽しそうに言いなさんな・・・はあ、美鳳が可哀そうだわ・・・」

「戦術機甲隊の副司令なんて、そんな役廻りよ・・・問題は・・・」

「ええ・・・第70-1任務群『カール・ヴィンソン』の第66戦術機甲大隊。 とうとう、進出して来ずよ。 未だに母艦の中ね」

介入しそうな部隊は、1個大隊残っている。 それも、相模湾に展開しつつある『カール・ヴィンソン』に搭載された部隊だ。

「その為かしらね・・・どうも日本海軍、第1艦隊を相模湾に展開させたそうよ」

「米軍への牽制と、最後のダメ押しの為・・・ね。 クーデター部隊、伊豆半島には侵入出来そうだけれど・・・第1艦隊ね。
待っているのは、前方に海軍戦術機甲部隊の4個大隊、そして後方に陸軍戦術機甲部隊の4個大隊・・・」

「2倍以上ね。 日本とアメリカが、大人しく協同すると思えないから、1個か2個大隊は米軍の牽制役でしょうけど」

「それでも、6個から7個大隊が相手よ。 クーデター部隊・・・第1戦術機甲連隊は3個大隊、2倍以上の戦力差よ―――ダメね、殲滅される運命だわ」

問題は『餌』に食いつく前に、殲滅できるか否か。

「ま、それは彼ら自身の問題よ。 私たち・・・統一中華戦線は極論すれば、この島国が極東の防波堤として存続すれば、誰が頂点に立とうと、ぶっちゃけ問題無しよ」

「亡命韓国政府も同じく。 鉄原を攻略するまで、この国が保ってくれれば、言う事は無いわ」

2人とも、日本軍内には親しい戦友がいる事は居る。 が、それも自国や同胞の境遇を前にしては、二の次、三の次・・・それが人類発祥以来の『グローバル・スタンダード』だった。









2001年12月6日 0040 日本帝国 神奈川県大和市付近 第44師団第441戦術機甲大隊


『こっ、後方より攻撃を受けていますッ!』

『後方だとッ!? いったい、何が・・・!?』

『きゅ・・・94式! 『不知火』です! ロ、ロシアンカラー・・・富士の連中でッ・・・ぎゃ!』

『おい!? どうした! 富士だと!? 富士!? 教導大隊か!?』

『大隊長! 教導大隊が発砲を! 交戦許可を! うわあ!』

『何が・・・一体、何が!? うおッ!?』

混乱の最中、一撃で大隊長機が撃破された。 他の指揮官機もまた、部下を掌握するのに必死で防御戦闘どころでは無く・・・瞬く間に撃破される。
後に残ったのは、経験の浅い、又は全く経験の無い、若い衛士達だけ。 彼らは茫然自失の状態で、撃破された上官の機体と、過ぎ去って行く94式『不知火』の群れを見ていた。

「富士の・・・教導団・・・第1大隊・・・」

そう、帝都でクーデターを起こしている筈の第1戦術機甲連隊。 そして厚木に駐留して居た筈の、富士教導団教導大隊。
その戦術機群が、なぜこんな所に・・・彼らには、その答えを導き出す何物も与えられていなかった。









2001年12月6日 0055 神奈川県大和市付近 第14師団第141戦術機甲連隊/第15師団3個戦術機甲大隊


『44師団は駄目だ! 抜かれた! 大竹君!(大竹基少佐、141連隊第3大隊長) 108は君の隊で叩け! 富士の連中はこっちで叩く!』

『了解! 15分、15分待って下さい! 108を叩いたのちに、富士の側面を突きます!』

『頼む! 周防! 長門! 15師団は1連隊を追え! コペルニクスC4I、OPS(作戦指揮系)、INTEL(情報系)はレベル4だ!』

「レベル4、了解―――アクセス―――承認。 頼みます」

6個大隊の内、2個大隊が富士教導団(大隊規模)と108旅団戦術機甲大隊に向かう。 108の戦術機甲大隊は『撃震』だ、制圧に時間はかからないだろう。
然る後、2個大隊で富士の教導大隊を叩く。 損害は出るだろうが・・・それはこの際無視すべきだ。 彼らは部隊長―――大隊指揮官であり、小隊長や中隊長では無い。

「ゲイヴォルグ・ワンよりアレイオン・ワン、セラフィム・ワン。 続行せよ! ガンスリンガー(141-2大隊)、アイ・ハブ」

『アレイオン・ワン、ラジャ』

『セラフィム・ワン、了解』

『ガンスリンガー・ワン、ユー・ハブ。 周防、任せるで』

残る4個大隊が、A/Bを吹かして南南西に進路を取る。 いったんこのまま、湘南まで進出した後、西進する様だ。
富士教導大隊が阻止しようとするが、横合いから141連隊の第1大隊が殴りかかった。 108旅団の戦術機甲大隊は、141連隊第2大隊の猛攻を受け、早、損害を出している。

『44師団! 戒厳司令部指揮下、15師団第141戦術機甲連隊、岩橋中佐! 機械化装甲歩兵、自走高射砲! 何でもいい! 死角から富士の連中に撃ち込んでくれ!』

『―――44師団、第461自走高射砲大隊、了解した! 畜生! 連中がクーデターか! 友軍を殺しやがって! 同胞じゃねぇ! 各車、撃て! 撃てぇ!』

『―――44師団本部だ、141連隊! 持ち堪えてくれ! 藤沢の46師団から連絡が入った! 戦術機甲大隊を発進さえたと! あと10分で到着する!』

そうなれば、『不知火』2個大隊に、『撃震』が1個大隊半(44師団の戦術機甲大隊は、半壊した) 向こうは『不知火』と『撃震』1個大隊ずつ。
部下の小隊が、見事な戦闘機動で富士の機体を1機、撃破した。 教導団の機体は、ほとんどがAH戦を意識しての単機戦闘、良くてエレメント単位。
こちらは全くの編隊戦闘だ。 元々、個々のAH戦技量では分が悪い、相手の土俵にわざわざ乗っかる理由は無い。

『各機! 小隊戦闘を崩すなよ! 相手はBETAと思え! BETAだ!』

そう。 対BETA戦であれば、第1連隊より余程、場数を踏んでいる。 敵の単機に2機のエレメントで。 エレメントにはこちらの小隊で。 陣形は、そのために存在する。

廃屋の陰から87式自走高射機関砲が、35mm連装機関砲を叩き込んだ。 1輛だけでない、4輛の1個小隊で、富士教導大隊の『不知火』1機に対して。
跳躍ユニットを撃ち抜かれ、瞬く間に爆散する1機の『不知火』 その僚機が小癪な戦闘車両に気付き、突撃砲を指向したその瞬間、横合いから機械化装甲歩兵がLAMを叩き込む。

瓦礫の陰に身を隠して隠れていた歩兵分隊が、死角から身を踊り出して軽MATを放つ。 足元の『敵』に混乱したクーデター部隊を、74式戦車の51口径105mmライフル砲が捉えた。

『44師団との連携を失うな! 誤射には徹底して気を付けろ!』

足元を掬われ、そちらに気を取られると、今度は正面と側面から14師団の戦術機部隊に肉薄され、機動砲撃戦を挑まれる。
戦術機『だけ』のAH戦ならば、第1連隊と双璧を張る富士教導団であるが、軍の本来の姿である諸兵科共同の形で攻められては、もう為す術がなかった。

『油断するな! そして躊躇するな! 殲滅しろ!』

岩橋中佐の声が、戦場に響き渡った。

だが、108旅団の後続部隊も、負けじと参戦する。 自走榴弾砲の砲撃に、44師団の1個歩兵小隊が直撃を受け、赤黒い血煙と肉片だけを残して霧散した。 
報復は直後に叩き込まれた。 44師団の機械化装甲歩兵に、装甲の薄い側面に12.7mm重機関銃弾を叩き込まれた自走砲は、内部誘爆を引き起こして爆散する。

元より、戦術機甲戦力を除けば、師団と旅団では、戦力に明確な差が有るのは当然だった。 やがて、第108旅団の支援部隊は、徐々に沈黙し始めた。








2001年12月6日 0135 相模湾沖 米第7艦隊 第70-1任務群『カール・ヴィンソン』


『エア・ボス(飛行長)より“Bounty Hunters”(バウンディ・ハンターズ:US 66wig。陸軍第66戦術機甲大隊)、発艦を許可する。 オーヴァー』

『バウンディ・ハンターズ、リード、ラジャ。 リードより発艦する。 オーヴァー』

『OK、賞金稼ぎ共。 全員無事に発艦しろよ? 艦を傷つけるな、陸軍共。 でないと、軍法会議に送ってやるぞ?』

飛行長のセリフに、指揮官は思わず苦笑する。 エアボスの心情も、判らなくはない。 彼は海軍、こちらは陸軍。 それもラングレーの(恐らくは)紐付きの作戦。
本来の艦載戦術機甲部隊を降ろされ、陸軍機を積み込まれる事が、エアボスのプライドを酷く傷つけたことは、想像に容易い。

薄暗い程度の調光調整が為された網膜スクリーンの視界の中で、イエロージャケットの誘導員が誘導方向に合図を送っている。
指揮官は戦術機の右腕をL字に曲げ、上下に振る―――脚部ロックを外せ。 誘導員は注意深く主脚に取り付けてあったロック解除ボタンを操作し、固定が外れたのを確認。 
元の位置に戻り、右腕を水平に伸ばしてサム・アップする。 そして別の誘導員を指し示す。 誘導引き継ぎ。 誘導員が両腕を肘から先だけ上に曲げ、前後に揺らす―――前進せよ。

『タキシング―――デッキ・アプローチ』

スティックに設けられたオート・ラン・ボタンを作動位置に入れる。 ゆっくりと歩き出す米陸軍の最新鋭戦術機―――F-22A『ラプター』
誘導員の指示に従い、機体を発進甲板前部に設けられた2基のカタパルト、その左舷側真後ろへ進入さす。 レッドジャケットの兵装要員が機体各部の目視点検を行う―――問題なし。

兵装要員が機体から離れるのを確認したグリーンジャケットのカタパルトクルーが、射出重量の書かれたボードを、指揮官とカタパルト・コントロール・ステーションに示す。

指揮官は網膜スクリーンの機体情報エリアからその数字を確認。 機体の右腕を前に突きだし、肘から先を2度、上に曲げて同じ値である事を合図する。
衛士とコントロール・ステーションの確認を取り、この重量に合わせたカタパルト蒸気圧がセッティングされた。 先ほどとは別のカタパルトクルーが、制御用のトレイルバーを主脚につける。 
衛士はスティックの別のボタンを押し、機体のランチバーを下ろし、カタパルトクルーがこれを、カタパルトシャトルのスプレーダーにくわえ込ませる。

―――発艦準備が完了した。 JBD(ジェット・ブラスト・ディフレクター)が戦術機の背後に立つ。

カタパルト・オフィサーが右手の人差し指と中指でV字を作って合図する。 常用定格推力(ミリタリー推力)―――A/Bを使用しない最大推力。

指揮官はスロットルをミリタリーまで押し込む。 2基のプラッツ&ウィットニーF119-PW-100 が咆哮を上げた。
推力値を確認し、異常が無い事を確かめ、網膜スクリーンに映るカタパルト・オフィサーに大きく敬礼を送る。

これを合図に、カタパルト・オフィサーが大きく脚を曲げ、甲板に倒れ込むようにしながら手を振りおろしカタパルト操作員に合図を送る。 
カタパルト操作員が射出ボタンを押し―――カタパルト作動、射出。 機体は2秒の間に300km/hまで加速され、猛烈なGを衛士に加えながら中空へと舞い上がってゆく。

『リードより各機、編隊を組め。 目標はイズ・ペニンシュラ(伊豆半島) ターゲット『チェリー・ブロッサム』の確保及び回収。 作戦終了予定、0430』

『『『―――ラジャ』』』

恐らく今頃は、『カール・ヴィンソン』の後を付け狙って航行している筈の、日本海軍の4隻の戦術機母艦からも、海軍戦術機甲部隊が続々と発艦している筈だ。

(4隻合計で240機・・・1個戦術機甲隊は、陸軍と同じ編成で160機。 残りはRF-4JⅡが16機と、A/B-17BⅡが64機か・・・)

戦域制圧機のA/B-17BⅡが64機、偵察機が16機。 残りは最新型のA/B-17AⅡ。 ラプターでさえ、近接戦闘・近接機動砲戦では苦戦する、と評される日本海軍の主力機『流星改』

(A/B-17AⅡが1個大隊に、A/B-17BⅡが1個中隊。 確かこれが日本海軍の戦術機ドクトリンの基本だったか・・・)

以前は母艦用(A/B-17B)、基地用(A/B-17A)で分けていたと聞く。 しかしそれだと、柔軟な作戦運用が出来ない、と言う声で、近年は再編成されたはずだ。

(それが4個梯団・・・いかなラプターと言えど、分が悪すぎる・・・)

それに日本陸軍も、4個大隊ほどの戦力を追撃に向かわせていると言う。 都合、8個大隊以上―――米陸軍の第1戦術機甲師団『OLD IRONSIDES』に匹敵する。

(スピード勝負か・・・)

幸い、イズ・ペニンシュラ(伊豆半島)は山がちの地形だ、入り込めばラプターのステルス性能が遺憾なく発揮できる。 それまでの辛抱だ・・・

『・・・ハンター2よりハンター1。 レーダーにJIN(日本帝国海軍)の機影を確認しました』

エレメントを組むハンター2―――イルマ・テスレフ少尉が、やや緊張感を匂わして報告する。 フィンランド難民出身の彼女にとっては、初めての『実戦』だった。

「ハンター1よりハンター2、彼らは『フレンド』だ。 警戒するなとは言わんが、過剰に警戒はするな」

『・・・ラジャ』

いずれ、ターゲット確保の段になれば、交戦する可能性もある。 しかし今では無い。

「ハンター1より、オールハンズ! 間もなくイズ・ペニンシュラだ! 気を抜くな! GO!」









2001年12月6日 0155 日本帝国 静岡県伊豆市 伊豆半島熱海峠


『補足!』

前衛の第2中隊『ハリーホーク』から、中隊長・八神涼平大尉の声が大隊通信系に響いた。

「位置、速度、方向知らせ」

直ぐ様、大隊長の周防直衛少佐から指示が飛ぶ。

『ベクター1-8-5(185度、ほぼ真南)、エンジェル10(高度100m)、ヘッド(方向)1-8-0! 韮山峠手前、玄岳南麓を南進中!』

『ゲイヴォルグ・マムよりゲイヴォルグ・ワン! 師団司令部より緊急信! ターゲット『チェリー・ブロッサム』は、塔ヶ島離宮にて『ラビット』と合流後に半島を南下中。 現在位置、山伏峠IC跡北、1km付近!』

「ちっ・・・ワンよりマム、ラジャ。 『ラビット』被補足時刻は? 推定で良い」

『マムよりリード、被補足推定時刻、0210。 被補足推定地点、山伏峠南、1km付近。 なお、国連軍1個中隊の戦術機甲部隊が、急速接近中』

「どこの部隊だ?」

『国連軍、横浜基地所属。 部隊コード不明です』

「追い返せ。 国連軍・・・横浜は今回のパーティには、招待していない」

―――拙い、先にターゲットを確保されてしまう。

周防少佐が内心で焦燥し始めたその時。

『ちっ! ハリーホークよりゲイヴォルグ・ワン! 2時方向、発砲炎! 1個大隊規模! ハリーホーク回避! 全機、迎撃開始!』

『ドラゴン・リーダーより中隊各機! ウェッジ・ワン!』

『クリスタル・リーダーより各機! ハリーホークの右側面に当たるぞ!』

指揮下の3個中隊が応戦を始める。 相手は第1師団の2個戦術機甲大隊。 伊豆スカイライン跡、その複雑な地形に身を潜ませ、こちらを待ち伏せしていたようだ。

「ヤキが回ったか・・・ガンスリンガー・ワン! アレイオン・ワン! 制圧を要請する! ガンスリンガー・ワン、ユー・ハブ!」

臨時指揮官とは言え、『ゲイヴォルグ・ワン』周防少佐は、第14師団の『ガンスリンガー・ワン』木伏少佐より後任だ。 従って『命令』でなく『要請』になる。

『ガンスリンガー・ワンよりゲイヴォルグ・ワン、アイ・ハブ! 長門! 西の斜面廻り込めや! 連中のケツ、蹴り上げたれ!』

『了解! 似た様な場面が、北満州でもあったな! リードよりアレイオン全機、続け!』

この場の指揮権を委譲された木伏一平少佐の第141戦術機甲連隊第2大隊『ガンスリンガー』が、入り組んだ山岳地形を巧みに使って回避する。 
BETA、その光線属種が多数存在する戦場で、厄介極まりないレーザーから身を躱しつつ、制圧範囲まで肉薄する―――その技術は伊達では無い。 砲弾は山肌で炸裂するだけで、損害は無い。

その間に長門圭介少佐の第152戦術機甲大隊『アレイオン』が、夜間の山岳地帯を、スレスレの高速機動で縫う様に飛行しながら、第1師団部隊の背後を取る為に移動し始めた。

「ゲイヴォルグ・ワンよりセラフィム・ワン! 間宮! 続行!」

『セラフィム・ワン、了解! リードよりオール・セラフィム! ゲイヴォルグの左後方で続行せよ!』

状況を瞬時に把握した4人の歴戦指揮官たちは、次の瞬間にはそれぞれの役割を振り分け、即応する。 足止め役の1個大隊だろうが、こちらは倍数を振分け対応する。

「ゲイヴォルグ全機! A/B!」

『オール・セラフィム、A/B噴かせっ!』

ドドオッ・・・ンッ! 

80機もの戦術機が、2基の跳躍ユニットのA/Bを一斉に噴かせた。 その衝撃波が地表を抉り、土砂を播き上げる。

「各中隊! 制圧支援機、誘導弾一斉発射!」

『砲撃支援! Mk-57ⅢC、用意!』

2個大隊・6個中隊の内、12機の制圧支援機の92式多目的自律誘導弾システムから、1機当たり32発、12機で184発もの誘導弾が発射された。
同時に長砲身(62口径)57mm砲12門から、高初速中口径砲弾が曳光弾と共に発射される。 目指すは2km先を行く、1個戦術機甲大隊。

『誘導弾、命中!』

『撃破! 撃破!』

『見越し射撃だ! 後ろから追いかけても当らんぞ!』

前方の第1師団にかなりの混乱が見られた。 と同時に、1個大隊が分離して、その場で―――韮山峠で迎え撃つ姿勢を見せた。 もう一方の1個大隊は、変わらず南下している。

「・・・セラフィム・ワン。 あの1個大隊、任す。 確保は必要ないが、損害を出さない程度に『殲滅』しろ」

『セラフィム・ワン、了解。 『確保は必要ない』で、『殲滅しろ』ですね? くくっ・・・怖い、怖い、『鬼の先任』は・・・』

随分と懐かしい呼ばれ方をした周防少佐は、網膜スクリーン上の後任の間宮少佐を軽く睨みつけると、平然と言い放った。

「優先すべきは、連中をこの場で抑える事。 出来れば無力化、連中の生死は問わない。 後は極力、損害を出さぬ事だ―――できるな? 近接戦はするなよ?」

戦力的には同数とは言え、把握している情報ではあの大隊戦力も、指揮しているのは、本来は中隊指揮官であるはずの大尉だ。 
1階級しか違わないとは言え、大隊指揮を正式に学び、実戦で経験を積んだ『本職』と、『臨時』では違う。 大尉が大隊を、中尉が中隊を―――素質が有っても、学習の余裕は無いだろう。

『近接戦? 馬鹿ですか? それは。 了解です』

そして最後の1個大隊が、クーデター部隊最後の1個大隊を猛追し始めた。









2001年12月6日 0205 相模湾上空 高度1000m


「各隊、編隊を崩すなよ? 通信傍受から目標の位置は割れている。 米軍の進路情報からも、ほぼ特定が出来た」

闇夜の海上を、鮮やかな排気炎を引きながら4個梯団、224機の戦術機―――A/B-17AⅡ・160機、A/B-17BⅡ・64機―――が、高度1000mを維持しつつ、進撃していた。
日本帝国海軍第1艦隊、その第1航空戦隊、第2航空戦隊(第3航空戦隊は当時、西日本に分派されていた)所属の戦術機甲部隊だった。

総指揮官は『大鳳(2代目)』の白根斐乃海軍中佐。 他に『海鳳』隊の鈴木裕三郎少佐、『飛龍(2代目)』隊の加藤瞬少佐、『蒼龍(2代目)』隊の菅野直海少佐。
白根中佐と菅野少佐は、陸戦隊から母艦部隊への転向だった。 他に制圧支援中隊が4個中隊が、それぞれの戦術機甲隊(大隊)に付属している。

本来、第1艦隊の母艦戦術機甲隊の総指揮を担うと目されていたのは、白根中佐の同期生の長嶺公子中佐だった。 だが長嶺中佐はマレー半島で戦死。
代わってそれまで基地陸戦隊の戦術機甲部隊指揮官だった白根中佐が、故・長嶺准将(正式には海軍代将(提督勤務大佐)、戦死後2階級特進)に代わり、第1艦隊の戦術機甲部隊を束ねていた。

「陸軍は4個大隊を送った! うち2個大隊は富士教の相手をしているが、じき終わる! 1個大隊が目標手前で、クーデター部隊の分派相手に掃討戦の最中だ。
現在、目標とクーデター部隊の最後の1個大隊を追っているのは、陸軍第15師団の1個大隊! 我々はこれに合流し、目標の確保とクーデター部隊の制圧を行う!」

面倒なのは、目前の米軍部隊だ。 『カール・ヴィンソン』から発進したこの部隊、一部がレーダーにやたら捕捉しづらい。 と言うか『滑る』のだ。

(多分、噂のラプターよね・・・中長距離砲戦に持ち込まれると、ちょっと分が悪いか・・・いざと言う時は、制圧支援部隊にぶちかまさせるしか、方法が無いわね)

如何なラプターと言えど、64機の『戦爆型流星改(戦域制圧のBⅡ型)』が放つ、576発もの95式大型誘導弾の集中豪雨を、全て躱しきれる術は無い。
迎撃率8割でも、ラプター全機撃破。 9割を迎撃されても十分お釣りがくる。 そうならない事を期待しているが・・・事態は多分、流動的だろう。

(それに、先航する第1陸戦師団を乗せた『千歳』と『千代田』は、既に川奈に突入している。 2個陸戦団(連隊戦闘団)の揚陸が始まっている・・・)

強襲上陸作戦指揮艦の『千歳』、『千代田』の両艦は、個艦でLCAC-1級エア・クッション型揚陸艇4隻、SH-60J 統合多用途艦載ヘリコプター8機、155mm砲8門を搭載する。
他に戦術機30機、各種装甲車輌・輸送車輌を40輌搭載し、1艦当たり1個陸戦隊(連隊戦闘団)を収容・迅速な揚陸が可能な強襲揚陸艦でもある。

第1航空戦隊から先行する事、約2時間。 既に西伊豆の旧伊東市川奈の海岸線に突入して、2個陸戦団(連隊戦闘団)の揚陸は、ほぼ終わり掛けている時刻だった。
第1陸戦師団所属のA/B-17AⅡが4個中隊と、A/B-17BⅡが1個中隊。 それに2個連隊戦闘団の機械化歩兵部隊が、目的地目指して進発している時刻だ。

(嫌な仕事ね・・・誰も彼も、政治、政治・・・第一、艦隊上層部が『目標』の出現位置と時刻を、ほぼ正確に把握していたって事が、海軍も片棒担ぎの証拠じゃない・・・)

サイレント・ネイヴィー・・・『海軍は政治に韜晦せず』と考える白根中佐にとっては、軍上層部、特に軍令部や統帥幕僚本部の提督たちの方策には、賛同しかねる部分が有る。
それでも、祖国が崩壊するよりマシ・・・と無理やり自分を押さえこんでの、今回の作戦出撃だった。 誰も喜んで皇軍相撃ち合いたくないのだ。

『中佐、あれこれ考えるのは、終わってからにしましょうよ!』

突然、網膜スクリーンに若い女性の姿がポップアップする。 戦術機甲隊を率いる3人の少佐の中の最年少、菅野直海海軍少佐だ。 白根中佐同様、陸戦隊からの転向組だった。

『どうせ今、あれこれ考えたって、どうにもならないんですから! だったら、さっさと終わらせて、それから悩めばいいじゃないですか!』

『へえ・・・菅野が珍しく、まともな事を言っている』

『艦隊気象官の予報じゃ、今日は快晴の筈だったんだけどな?』

『ちょっと!? 鈴木さん!? 加藤さん!? それ、酷過ぎやしませんか!?』

網膜スクリーンに、新たなポップアップ。 菅野少佐の2期上の鈴木少佐と、加藤少佐だった。 2人とも母艦戦術機乗り生え抜きの、ベテラン指揮官である。
先任の鈴木少佐、加藤少佐の2人に、顔を真っ赤にして膨れている菅野少佐。 まったく、これだから海軍の戦術機乗りと言う奴は・・・

「そうだな。 私もまさか、菅野に諭される日が来るとは、思ってもみなかった・・・元部下の成長は喜ばしいモノだが・・・くくく・・・菅野、豪雨にだけは、してくれるな?」

『酷い! あんまりだぁ!』

気が付けば、部下の中隊長連中も笑いを堪えている。 ムードメイカーの菅野少佐の、こう言った時の『機転』は、確かに貴重で有り難い―――『機転』か『天然』か、迷うが。

「よぉし・・・全機、前方に伊豆半島! 米軍は想定通り、天城から中伊豆へ北上する様だ。 我々は陸戦隊が確保する川奈から侵入し、氷川峠を越える!」










2001年12月6日 0218 日本帝国 静岡県御殿場 国防省技術研究本部・第1技術開発廠審査部・戦術機甲試験審査大隊静浜第2基地付近


『・・・監視班より大隊本部! 4輸空、671飛行隊が発進した! 富士教1個大隊を乗せている模様! 進路不明なれど、相模湾を東進する模様! 送レ!』

「本部、了解した。 大隊長より指示有り、撤収せよ。 繰り返す、撤収せよ。 送レ」

『監視班、了解。 現在地を撤収する、送レ』

通信を受けた大隊本部の通信中隊長は、直ぐに大隊長へ報告する。 報を受けた大隊長は、しばらく思案した後・・・命令した。

「通信帯に割り込め、リークしろ。 14師団か、15師団の戦術機甲部隊の使用帯だ、出来るな?」

「児戯です。 了解です」

駿河湾を越えて伊豆半島へ飛行しつつある、大型輸送機の編隊。 恐らく目的空域は伊豆半島のどこか。 通信傍受の結果、熱海付近で戦闘が生起している様だ。

(沼津辺りに、部隊を進出させるか。 他の連中が、変な気を起こさない様に・・・)

半島基部の沼津・三島を押さえておけば、西から変な気を興した連中を阻止できる。 また伊豆半島から北上してくれば、そこで迎撃も可能な立地だ。

(積極行動はしない・・・が、蓋は完全に閉じさせて貰うぞ)

最愛の妻を奪われた哀しみと、静かに蟠る狂気の炎は、未だ静まってはいない。 だが、それを抑え込む程度の理性と、任務への集中力は失っていない。

(さて・・・どうやら岩橋中佐に木伏さん、それに周防君と長門君も居る様だ・・・帝国陸軍、戦術機甲部隊指揮官中の、歴戦達だぞ。 どう対応できるのだ、お前たちは・・・?)




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