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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] クーデター編 騒擾 4話
Name: samiurai◆b1983cf3 ID:6aaeacb9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/05/04 13:32
2001年12月5日 0650 日本帝国 帝都・東京 九段 東京偕行社


皇城『以北』の地域を掌握した、と発表した仙台臨時政府。 その臨時政府はつい5分前、日本帝国全土に対して『国家緊急権』の発動を宣言した。
これにより、帝都周辺―――関東地区の行政権・軍事権・司法権は全て『戒厳司令部』が担う事となった。 ほぼ関東圏内で、最高の権限を有したと言ってよい。
その戒厳司令官に任ぜられたのは、軍事参議官・間崎勝次郎帝国陸軍大将、その人であり、 ここは臨時の戒厳司令部所在地として指定した、東京偕行社迎賓室である。

「国連軍への根回しは、どうか?」

「はっ。 後方支援軍集団を経由し、米軍進駐基地の変更を捻じ込んでおります」

「ふむ、それで良い。 仮にも『あの計画』には、我が帝国の巨額の歳費が、毎年投入されておる・・・その果実までも、あのユダヤの老人に呉れてやる必要はない」

首席副官の報告に、重々しげに頷く間崎大将。 確かにある種の『密約』は、あのユダヤ系の老人を通じて米軍―――米国の一部勢力と交わしている。
しかし、だからと言って、それまで反対の立場を(公に)取っている国に、『あの計画』まで手を突っ込ませる許可を出す謂れはないし、義理も無い。

「次に―――SOCOMですが・・・」

「うん・・・? おお、第7艦隊にくっついて、何やら画策している連中か。 ま、大方のあらすじは見えるがの・・・」

「はい。 情報本部(国防省)、憲兵隊公安情報部(国家憲兵隊)は、以前からマークしておったようです。 特高(特別高等公安警察)の外事2部、情報省の外事本部もどうやら・・・」

「ふむ・・・岸部(岸部多門海軍大将・国防省情報本部長)も、右近充(右近充義郎陸軍大将・国家憲兵隊副長官)も、雲隠れしておる。 その線は無理か・・・」

「特高、情報省も共に。 ですが、完全ではありませんが、戒厳総司令部権限で情報の提示を行わせました。 概要はこれに」

副官から手渡された分厚い資料の束。 その最初に各情報機関が集め、分析した概要が記されている。 一瞥した後、間崎大将は微かに苦笑して、独り言のように言った。

「・・・馬鹿にしたものではないのぅ・・・まさに、紙一重の差じゃったな・・・」

そこには米国―――CIAと、それに対立するDIA、そして各々の勢力が工作していた行動の、かなり詳しい部分にまで突っ込んだ概要が記されていた。
その情報から、カウンター工作が行われていれば、国内での『排除対象』の筆頭は間崎大将、その人自身であったことが容易に類推される。 まさに紙一重のタイミングだった。

ファイルを閉じ、暫く沈黙していた間崎大将は、不意に話題を変える為に、全く別の話を副官に振った。

「・・・1939年から1944年までの5年間の大戦で、自然死や事故死以外で、何千万人が死んだか知っておるか?」

「確か・・・最小で5000万人、最大で8500万人だったかと」

その戒厳司令官室と化した、かつての迎賓室。 腹心の参謀中佐に、間崎大将はボソリと呟くように問いかけていた。

「そうだ。 1940年の世界人口統計は約23億人。 世界人口の2.2%から最大3.7%が、5年間で死亡した。 因みに8500万と言う数字は、紀元前7世紀頃の世界人口だ」

「・・・年間で、1000万から1700万人が死亡、ですか」

「1914年から1918年までも、3700万人が死亡しておる。 4年間で3700万人、年間925万人じゃ。 1914年から1918年、1939年から1944年までで、実に最大1億2200万人」

第1次世界大戦(1914年-1918年)、第2次世界大戦(1939年-1944年) この2大戦の10年間で、軍民併せて実に1億人以上が犠牲となった。
この2つの世界大戦は人類の歴史上、最も犠牲者数が多い戦争の1つと、双方とも位置付けられている。 平時の世界平均死亡率は約10%程であった。
もしも戦争が無ければ。 もしも戦火に晒されなければ。 そう言った理由で、世界人口の死亡率が2%から最大4%も増大したのだ。

「そして1950年の世界人口は25億人。 1955年には27億8000万人、1960年には30億人に達した・・・」

「1965年に33億5000万人、1970年には37億人。 そして1973年には39億4000万人に達し、翌1974年には40億を突破すると予想されておりました・・・」

1974年―――人類にとって、否、この地球上のすべての生命体にとっての悪夢。 BETAと言うファクターの降臨の年である。

「そうだ。 じゃが実際には、1974年末の国連統計では、世界人口は27億6000万人・・・世界中に衝撃が走りおったわ」

前年度より、世界人口が11億8000万人の減。 この数字は、1810年代の世界の全人口数に匹敵する数字である。








2001年12月5日 0653 日本帝国 帝都・東京 某所


「・・・当時のソ連軍の総兵力は約500万。 他に内務省系の国内治安軍が約100万の、総数600万ほどだった。
中共も400万は兵力が有った。 他にゲリラ戦要員の民兵が1000万人ほどな。 もっともこれらは小火器しか持たぬが」

国家憲兵隊司令部から極秘脱出を果たした、右近充国家憲兵隊副司令官―――右近充陸軍大将は、様々な機材で埋め尽くされた極秘の予備指揮所で、傍らの部下にそう言った。

「それら、全てが死んだとしましても、たかが2000万人程度。 11億8000万人には、遠く及びませんな」

「・・・カシュガル周辺・・・中共が言う『新疆ウイグル自治区』、地理的には天山山脈の南側、古の天山南路のオアシスルート。 その北、天山の北は草原地帯・・・」

右近充大将の言葉を、脳裏の地図に照らし合わせた腹心の憲兵大佐―――国家憲兵隊特殊作戦局作戦部長が、上官の言葉を更に展開する。

「南はカクラマカン砂漠と、東は青海省から広がる広大なチベット高原。 西はカラコルムとパミールの高みを望む大山脈地帯。 越せばカザフの大平原・・・ですな」

「北西は、アルタイ山脈を越してモンゴル高原に至る・・・判るか?」

「中ソの全軍が死に絶えたとしても、未だ国連発表より11億6000万人ほど、足りませんな。 先ほど上げた地域は、古来より人口の希薄な地域です。 11億もの人口は・・・」

「そうだ、居なかった。 精々1億人が居たかどうかだ。 では、残る10億6000万人の死者は、どこだ?」

人口の希薄な中央アジア。 乾燥と、実は肥沃な土壌が果てしなく広がるステップ地帯。 だがその周辺には、人口密集地が迫っている。

「BETAは既に、一部はパミールを越してカザフから南下して、イラン高原からヒンドゥークシュに。 西は青海を越して蘭州、そして黄河の大屈折部に・・・」

「ソ連領内では、いよいよ北上しかけていた―――焦土作戦と、先制戦術核攻撃。 『予防防御』の名のもとに、知らぬ間に8億人からが自国の熱核兵器に焼かれて死んだ・・・」

1973年から翌74年にかけての、BETAによる直接の犠牲者数は実の所、2億人を超していない。 これは国連も公には秘している数字だ、実際には1億前後と言われている。
そして大混乱の最中での餓死・病死・負傷死が2億4000万から2億6000万人。 そして熱核兵器の先制『予防攻撃』で生きながらに焼かれ、蒸発して死んだ者が約8億人。
ヒンドゥークシュ、蘭州、黄河大屈折部・・・大人口地帯が軒並み、熱核兵器で焼き滅ぼされた―――国連上層部、各国政府と、軍部の上層部しか知らない、極秘の情報である。

「・・・所で、皇城との連絡は確立したか?」

いったん話題を切って、右近充大将は腹心の憲兵大佐に確認する。 あそこには、日本帝国にとって『憲法以上に』精神的な影響力を有する尊き御方が座しておられる。

「先ほど、禁衛師団司令部とのホットラインを確立させました。 内府との中継をしてもらいます」

「うん・・・元老・重臣の方々がおられればな。 おい、誰か潜り込ませるか?」

「既に連絡要員を、向こうに。 貴族院各議員の周辺にも、クーデター部隊に気取られぬ程度で、監視を」

元老・重臣の方々は今の所、統制派と利害が一致している。 内府(内大臣)もこちらの橋渡しをしてくれるだろう。 そして政威大将軍の任命・罷免権は大権(皇帝の権限)だ。

「よし。 エス(S:特殊作戦群)は形式上、『むこう(戒厳総司令部)』に握られているからな。 こちらは自前の手札で動くしかない。
近藤(近藤正憲兵大佐:特殊作戦局作戦部長)、貴様の5AGB(第5武装憲兵旅団)は即応能うか? だせる部隊は?」

5AGB―――国家憲兵隊第5武装憲兵旅団は、その麾下に空挺連隊、海上機動連隊、特殊介入任務部隊(GISIG)を置く、治安即応特殊作戦旅団だ。 事実上の特殊任務部隊。
他の旅団―――第1から第4までの武装憲兵旅団は、野戦憲兵であると同時に、陸軍の第一線級機動歩兵部隊と比べても、全く遜色が無い程の重装備の機械化歩兵部隊だった。
装甲戦闘車を始めとする戦闘車両、自走迫撃砲、戦闘・汎用ヘリ改造のガンシップを有する。 個人装備も自動小銃や分隊支援火器。 それに重機や中MAT、重MATまで配備される。

対して、第5武装憲兵旅団は陸海空、3種の特殊作戦行動が可能な、完結した行動能力を付与された治安即応特殊作戦旅団として編成されている。 その規模は『S』より大きい。

「GISIG(武装憲兵隊特殊介入任務部隊)3個中隊、空挺連隊の2個中隊なら即応。 他は2時間待機。 海上機動連隊は海軍との調整後です」

「うん―――偵察隊を何個か横須賀・・・SOCOMに張り付かせておけ。 あと、米国大使館と総領事館にもな」

「了解です」









2001年12月5日 0656 日本帝国 帝都・東京 九段 戒厳総司令部(東京偕行社)


「1年間に、実に12億人弱! 両大戦の9年間、人類が愚行の限りを尽くし、殺し続けた人口の実に10倍じゃ。 儂はな、人類に恐怖する・・・人類の内なる怪物にな」

「・・・怪物、ですか?」

「そう、怪物じゃよ。 無限の不感・・・『自分に降りかからない』、それだけで人類は、底の抜けた不感を発揮しおる。 1973年の世界人口は、39億4000万人・・・」

2001年現在、国連発表の世界人口は10億9300万人。 アフリカ4億2000万、中南米2億3500万、北米1億7000万、オセアニア3800万、アジア全域2億3000万。
アジアの半数近くがインドネシアで1億人。 次いで日本の6200万人、フィリピンの5000万人。 残り1500万の内、台湾600万人を除く1200万人がインドシナ・インド系。









2001年12月5日 0658 日本帝国 帝都・東京 某所(国家憲兵隊予備指揮所)


「出生率と死亡率を少し調べれば、その不自然さがよく判る」

指揮センターの各種大画面情報を眺めながら、右近充大将は最早、独り言のように淡々と話している。 その内容は戦慄すべき内容だったが・・・

「実の所、この30年近くの間に、実際にBETAに食い殺された世界人口は10億人を下回る。 40億に達しよう人口が、人類自身の手で、殺され続けてきたのだ。 
難民による進撃路の渋滞阻止、戦略的遅延作戦、先制攻撃、軍事的予防措置・・・餓死、病死、負傷死・・・治安悪化による犯罪死、軍事秘密の名の下の人体実験・・・」

「1980年代後半、欧州とアフリカの難民キャンプでは、対BETAウイルスと言う荒唐無稽な発案の名の元に・・・
広範囲な生物兵器の散布実験が極秘で行われましたな。 その結果の死者、欧州で3200万人、アフリカで6100万人・・・」

「ふっふ・・・これが人類だ。 人類の無限の不感の闇の深さだ」





帝都・東京 九段 戒厳総司令部(東京偕行社)


「BETAなぞ、ちょっとしたきっかけに過ぎんのじゃよ」





帝都・東京 某所(国家憲兵隊予備指揮所)


「人類は己の闇の深さに、嵌まり込んでいる・・・」





帝都・東京 九段 戒厳総司令部(東京偕行社)/某所 国家憲兵隊予備指揮所


『『―――無限の不感・・・と言う、己の闇の深さに。 宜しい、始めようじゃないか、その無限の不感の宴を』』









2001年12月5日 0710 日本帝国 神奈川県横須賀市 国連軍太平洋方面総軍第11軍 国連軍横須賀基地


「・・・厄介者を押し付けてきたな、日本政府は」

浅黒い顔が、苦々しげな表情になり、呟く。 国連軍横須賀基地司令官を務める、トラン・ヴァン・タン国連軍少将。 南ベトナム軍―――大東亜連合軍からの出向組だ。
3個戦術機甲大隊、3個機甲大隊に4個機械化歩兵大隊、4個装甲歩兵大隊と3個自走砲大隊、他の各種支援部隊・・・1個師団強の戦力を有する横須賀基地の司令官である。

その目前には、洋上からランディングを決める戦術機の群れ。 大東亜連合軍主力のF-18Cホーネットでは無い。 
導入を始めたばかりの最新鋭機、F-18Eスーパーホーネットとも無論違う。 大東亜連合軍の数的な現主力戦術機、F-5EタイガーⅡでもない。
そしてこの基地の戦術機部隊の数的主力、中国の殲撃11型 や、台湾が導入を始めた日本製のType-94Ⅱでもない。

「ふん・・・ストライク(F-15Eストライク・イーグル)に・・・事もあろうか、ラプター(F-22Aラプター)とは! 美国(メイグォ)も、そろそろ形振り構わず、ですね」

「・・・君としては、情報収集の良い機会ではないかね?」

「閣下、そのお言葉、そっくりお返し差し上げますわ」

「やれやれ・・・中佐は手厳しい。 中国美女は、見かけとは反対だな」

「今の世に、男だの、女だのと・・・」

轟音を上げて着陸する『国連軍』所属の戦術機群―――その実態は、沖合の米太平洋艦隊から発艦した米陸軍の3個戦術機甲大隊。
当初は国連軍横浜基地へ進出する予定だった。 が、日本政府経由で国連軍後方支援軍集団から、太平洋方面総軍へ『待った』が掛った(横浜基地の上級司令部は、後方支援軍集団だ)
如何な米軍とて・・・いや、『大義名分』が欲しい米軍と米国だからこそ、この『組織論的正論』には逆らえず、当初の予定を変更して国連軍横須賀基地への進出となったのだ。

「ま、日本政府の立場も判る。 米軍を横浜に入れるのは、鶏小屋に鼬の群れを放つに等しい。 少しでもまともな頭ならば、この横須賀を生贄にする」

「お蔭様で、こちらはパニック寸前ですが・・・部下達の指揮に戻ります、司令官」

「うん。 ま、お客様には適当に、粗相の無いようにな・・・こちらから鼬を放つのは、一向に構わん。 この辺には野生化したのが多い」

「・・・はっ」

ふん、狸め―――内心で軽く毒つきながら、横須賀基地戦術機甲隊司令・兼・作戦参謀の周蘇紅国連軍中佐は、駐機場に並ぶ戦術機をチラッと眺めて、更に毒ついた。

(―――ラプターだと? ラプターだと!? くそっ! 連中、いよいよ本気なのだなっ!?)

本来の母国軍―――今は台湾に『間借り』している中国人民解放軍。 そのルートから密かに流れてきた極秘情報。 クーデター部隊の裏には、カンパニーの非合法作戦が有る、と。
部下の大隊長たちが監視を行っている管制塔へ赴く前に、周中佐は戦術機ハンガーに立ち寄った。 部下の整備下士官を呼ぶ―――人民解放軍総参謀部第1部が送り込んだ男だ。

「劉軍士長(三級軍士長=軍曹に相当)、塩梅はどうか?」

「中校殿(=他国の中佐に相当)、美国(メイグォ=米国)が戦場宅急便で送りつけてきた機材の中に、美味しそうなものが有りました」

「ふむ?」

劉軍士長はノート型の端末から、横須賀基地の兵站管理サーバーへ“ハッキング”を仕掛けていたのだ。 その中には米第7艦隊から送りつけられた機材のリスト詳細情報もある。
そして劉軍士長は、端末画面の情報リストを再表示させると、その中に記されたいくつかのリストを指で差し示した。 が、生憎と周中佐は、そこまで専門的な知識は無い。

「これは―――『IRCサーバー』です。 『指令サーバー』とも言われます。 こいつから『ボットネットワーク』を通じて、外部端末をウイルス感染させます」

「ふむ・・・」

「感染した外部端末は、『ゾンビ』となります。 『ゾンビ』は『ハーダー(HERDER)』の指令の通り『IRCクライアント』となり・・・ま、唯々諾々と従います」

どういう事だろうか? 米軍は日本政府、或は軍部のネットワークに侵入でも? いや、その類の仕事は別の部署が日々、ネットの世界での戦争を繰り広げている。
例え同盟国であっても、情報の世界は味方とは言えない。 いや、誰が味方で、誰が敵と言うのでもない。 ましてやそれが、ネットの海の中で事なれば、尚更・・・

「美味しそうと申しましたのは、こいつが米軍のコペルニクスC4IコンセプトのCTP(戦術レベル共通戦術状況図(CTP)生成システム)のデータリンク・サーバーの予備なのです」

「・・・何だと?」

「しかも・・・こいつはTSF(戦術機甲部隊)用の、です。 プログラムの中身までは、潜り込めませんでした。 ですが自分の感では、こいつはクラッキング系じゃないかと」

「システムをか? いや、違うだろう。 それだと匿名性が危ぶまれる・・・」

「多分、CTPシステムを通して、機体自体に何らかのクラッキングを・・・と考えますがね。 システム全体だと、中校殿の仰る通り、匿名性もあったモノじゃない。
持続性のあるケースも、リスクが大き過ぎる。 恐らくは一発勝負、使い捨て―――バックアップサーバーにしておき、何等かの機会にバックアップ系に切り替える」

「その時点で、相手先に送り込まれる?」

「と言うより、起動コードか何かの承認・・・じゃないでしょうか。 例え戦術機だとしても、こんな後方からクラッキングしても案山子にゃ、できませんし」

「・・・」

しばらく考え込む、周中佐。 これは―――このカードは、どう切るべきだろうか? エースか? それともジョーカーか? いやいや、その前に・・・

「・・・何とかして、プログラムまで潜り込めないか?」

「無理です、ネットワークにサーバー本体が接続された後でないと。 それでも、余程腹を据えないと。 それと腕前―――ケビン・ミトニックでも呼びますか?」

「・・・FBIの協力者を? 逆に我が軍がクラッキングを受けるぞ?―――下村努でも良いな。 是非、我が軍にスカウトしたい・・・無理か」

全米で最も有名『だった』クラッカーと、その好敵手だったコンピュータセキュリティの専門家の名を、苦笑と共に否定する周中佐。 
方や、今はクラッカーからセキュリティ側へと転身し、在米中国公館からのネットワーク侵入を防いでいる男。 
方や19歳でロスアラモス国立研究所のコンピュータ部門で、ハッカー対策に従事し、今はUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)の主席特別研究員の物理学者。

「・・・ここで、誰かが、誰かを、案山子にしたい」

「恐らく」

やはりこれは、ジョーカーだ―――周中佐は、出来れば最後まで切りたくないカードだ、そう思った。 同時にカンパニー(CIA)の無節操さには、いい加減に腹が立つ。

(火遊びは、自分の箱庭でやれ! 自国の勢力圏だとうそぶく、カリブ海や中米でな! 大人の遊び場の極東で、アイビーリーグの坊や共を野放しにするな!)





同刻 国連軍横須賀基地 管制塔


「・・・ふぅ~ん? ま、『訓練上手』がどこまでやるか、お手並み拝見?」

「文怜、そんな暢気な状況じゃないわよ?」

「だからって、焦っても仕方ないわよ? 美鳳。 ね、そう思わない? 珠蘭?」

「・・・私に振らないで・・・」

管制塔から米軍部隊の進出を監視していた3人の女性士官たち―――横須賀基地第206戦術機甲大隊長・趙美鳳少佐。 第207戦術機甲大隊長・朱文怜少佐。
そして最近赴任してきた、第208戦術機甲大隊長・李珠蘭少佐。 趙少佐と朱少佐は中国軍からの、李少佐は韓国軍からの出向組だった。

「物量にモノを言わせた大規模制圧砲撃の後で、これまた砲戦主体の集団戦がお得意の米軍部隊よ。 美鳳、米軍のドクトリンは?」

「・・・『敵の6倍の兵力と火力を、1点に集中せよ』、だわ」

「でしょう?―――この狭くて地形変化に富んだ日本の土地で、果たして・・・? うふふ」

「はぁ・・・人の悪い人相になっているわよ、文怜? どうしたの? 固まって・・・珠蘭?」

「あ・・・いえ、ね・・・文怜って、こんな性格だったかしら、って・・・」

引き攣った笑みを浮かべる李少佐。 趙少佐や朱少佐とは、古い戦友同士なのだ。 だが、その戦友の1人が、こんな性格だったとは・・・?

「・・・朱に交われば、ってやつよね・・・」

「あ・・・なんとなく、納得・・・」

3人に共通の友人たちの顔を思い浮かべ、苦笑気味に納得する李少佐。 その友人たちはどうやら今回のクーデター騒ぎ、敵味方に分かれて対峙していると聞く。
その時、管制塔の入り口から彼女たちの上官が姿を見せた。 戦術機甲隊司令・周蘇紅中佐だ。 ズカズカと入ってくると、3人の部下達に肉食獣の牝の様な表情で言う。

「―――なるだけ、連中の足を引っ張ってやれ。 方法は任せる」

「・・・本国の指示ですか?」

いきなりの物騒な上官命令に、慣れたつもりでも一応、確認を取る趙少佐。

「台北(統一中華戦線総司令部)と、マニラ(亡命韓国政府軍司令部)からだ。 ガルーダスも同意だそうだ。 この国の統制派からもな」

「あ~・・・統制派って、やっぱり逃げ延びていました? まるでゴキブリ並のしぶとさだわ・・・」

「文怜、言葉! 中佐、壊滅させても?」

「構わん。 どうせ、カンパニーの非合法作戦部隊だ」

そこでそれまで口を挟まなかった李少佐が、断りを入れる。

「ラプターは日本軍に回しますが? 流石に『アレ』を相手に遊べませんし」

「構わんよ、李少佐。 ストライク(F-15E)2個大隊、こいつらを混乱させてやるだけで良い」

「「「―――了解」」」

国連軍も、一枚岩ではない―――元々が、戦勝国の利権分配目的で、前大戦後に結成された組織だ。 今でも国際利権の談合組織の側面を、強く有している。

「どうせ、最終的にクーデター部隊は鎮圧される。 なら―――恩は高値で売り付けるべきだ。 我々、亡国の民にとってはな」









2001年12月5日 0725 日本帝国 帝都・東京 日本帝国陸軍・戸山陸軍軍医学校練兵場


今は第15師団A戦闘旅団の臨時司令部が置かれている、戸山陸軍軍医学校。 その一角に使用されていない大講義室が有り、そこには臨時の指揮管制所が設置されていた。

「すまないわね、呼び出して」

「いや、構わないが・・・だからと言って、暇にしている訳じゃない」

「判っているわ、『前線』の大隊指揮官の多忙さは・・・」

その指揮管制所脇の小部屋に、周防直衛少佐が呼び出されていた。 相手は旅団情報参謀の、三輪聡子少佐。 普通に大隊指揮官と旅団参謀だが、特に個人的に親しいと言う訳でない。

「師団経由の情報なのだけれど・・・矢作さん(第15師団第2部長(情報・通信)・矢作冴香中佐)から、一報入れておけ、とね・・・市ヶ谷の状況よ」

三輪少佐は、そこでいったん言葉を切った。 相手の様子を確かめている様だ。 だが相手―――周防少佐に表情の変化は特にない。
軽くため息をついて、話を続けようとする。 同時に、彼の様な野戦で戦い続けてきた上級野戦将校の精神構造は如何なるものか・・・知りたいとも思わないが。

「基本は後方勤務者ばかりだから・・・そう激しい抵抗は無かった様ね。 でも数か所で『手違い』が生じたそうよ」

その言葉に、周防少佐は初めて、微かに眉をしかめて表情の変化を見せた。 が、相変わらず無言のままだ。 三輪少佐が話を続ける。

「特に国防省兵器行政本部と機甲本部、それと統帥幕僚本部の第2部(国防計画部)。 ここで小規模な銃撃戦が生起したとの情報が」

「・・・兵器行政本部、機甲本部、統幕2部」

ようやく、周防少佐が声を出した。

「行政本部と機甲本部を制圧した部隊は同じ。 両方とも、制圧部隊の指揮官は陸士卒業したての、若い少尉達だった様ね。 諭されて、逆上したと言うのが本当の所の様だけれど・・・」

兵器行政本部・河惣巽中佐、三瀬(源)麻衣子少佐、死亡(殉職)。 統幕2部・藤田(旧姓:広江)直美大佐、機甲本部・綾森(周防)祥子少佐、負傷・拘束・・・

「旅団長(藤田伊与蔵陸軍准将)には、先ほど報告したわ。 顔色も変えずに『ご苦労』とだけ、ね・・・」

探る様な視線を向けてくる三輪少佐。 その視線に対し、周防少佐は・・・

「―――ご苦労、三輪少佐。 続報が有れば、随時頼みます」

それだけだった。 疲れた表情で苦笑する三輪少佐。 そして敢て聞いてみた。 自分の様な予備の情報将校ではなく、正規教育を受けた正規将校の心の内を。

「・・・機甲本部の綾森少佐は、周防少佐の奥様なのでしょう? 亡くなった三瀬少佐や、河惣大佐とも親しいと聞いているわ。 統幕の藤田大佐も・・・どうして・・・」

どうして―――どうして、そうも無関心なのか? 先ほどの旅団長の藤田准将もそうだった。 統幕の藤田大佐は、旅団長の奥様だ。 そして今の周防少佐も。

「・・・憤激して、悲しんで、慟哭すれば生き返るのか? だったら、幾らでもそうする」

だが、それは無理な話だ。 それを骨の髄まで味わされてきた、死ぬときは、ほんの一瞬の事で、それは唐突にやってくるものだと。
それに、身内や親しい者の死に、都度感情を乱していては戦場で生き残れない事を。 そして部下を余計な死に追いやると言う事も、身に沁みて知っている。

「・・・生きていれば、どうにかなるだろう。 死んだ者には哀悼を―――それだけだ」





練兵場の広大な敷地には、かなりのスペースを増援の戦術機部隊が占めている。 部隊章が異なる―――第14師団の所属機だった。

「―――おう、周防」

練兵場に出てきた時、周防少佐は背後から声を掛けられた。 振り返るとそこに、見知った旧知の人物が、やや憮然とした表情で立っていた。

「・・・木伏さん。 14師(第14師団)の先遣隊か?」

「そうや―――第141戦術機甲連隊第2大隊、ワシの大隊や。 他に機甲、機動歩兵と機械化装甲歩兵が各1個大隊。 
他に何やかや・・・とりあえず、そっちのA戦闘旅団の臨時指揮下に入る事になったわ。 ま、宜しゅう頼むわ」

これで第15師団A戦闘旅団は、実質的に師団相当の戦力を有する事となった。

「それとな・・・お前、もう聞いとるか? 市ヶ谷の事・・・」

「さっき・・・旅団G2から」

「そうかぁ・・・」

死亡した河惣大佐と三瀬少佐、負傷・拘束された藤田大佐は、木伏少佐にとっても旧知の・・・元上官であり、年下の元僚友でもあった。

「技本(技術研究本部)審査部には、情報はまだやろうが・・・源がなぁ・・・」

源雅人少佐―――殉職した三瀬少佐の夫君であり、周防少佐や木伏少佐の古い戦友である。 今は技術研究本部審査部で、戦術機試験大隊を束ねる腕利きの衛士だった。

「俺の女房は・・・負傷・拘束されたらしいですが・・・死んでいません。 でも、源さんは・・・三瀬さんは・・・」

皆、周防少佐が9年半前の新米少尉の頃から、共に戦ってきた先輩たちだった。 助けられ、教えられ・・・時に助け、共に戦い抜いて来た仲間だった、親しい友人だった。

「やっとれんわ・・・直接やないにせよ、久賀がな・・・」

久我直人陸軍少佐―――今回のクーデター、その実働部隊の指揮を担う、クーデター将校の中心人物の1人。 周防少佐の同期の親友で、木伏少佐の年少の元僚友だった人物。

「河惣さんにせよ、三瀬にせよ・・・お前の女房にせよ・・・天下泰平を言うんやったら、相手が違ゃうやろうが・・・」

「河惣さんは随分前に、三瀬さんも・・・実質は戦術機を降りていた。 今は兵器行政の技術将校、そんな道だった・・・」

「お前の女房もや。 藤田さんは・・・統幕の国防計画課長やからな。 ある意味、連中にとってターゲットかと言うと・・・確かにそうやが」

「久賀にせよ・・・中心人物の沙霧にせよ・・・言葉と本音が、乖離している気がしますよ」

「そんなもん・・・ちょっと広く見えるモンやったら、誰でもそう思うわな。 将軍サンが親政したら、佐渡島を奪回できるんかい? 鉄原を陥せるんかい?
大陸のハイヴを攻略できるんかい? 日本中の・・・世界中の難民を、どうにか出来るんかい?―――できへんから、どこの国も必死になっとんのや」

統制派にせよ、国粋派(の上層部)にせよ、行き着くところは極端な国家統制―――国家全体主義だ。 それを『挙国一致体制』を言い換えれば、少しは表現が和らぐ。
だが、それが事実だ。 国家全体主義体制の元、対BETA戦争に全てのソースを注ぎ込む。 生き残る為に。 それ以外の目的は不要だ。

「確かに多くの難民は、えらい難儀しとる。 それは判るわ。 でもなぁ・・・それを憐れんでも、慈悲を掛けても、何の解決にもならんのや―――お慈悲は大罪やで」

「・・・それを理解できないから、あの若い連中は暴走した。 連中の馬鹿さ加減は―――その命で贖えます。 が・・・あの2人は・・・」

「沙霧はのう・・・黒い噂もチラホラしとる。 久賀は・・・あいつだけは、判らん、見えん・・・あの阿呆が!」









2001年12月5日 0735 日本帝国 帝都・東京 高田馬場~早稲田封鎖線 第15師団A戦闘団


「なあ・・・本当に、本当に『皇軍相撃つ』なんてさ、有るのかよ・・・?」

「俺が知るかよ・・・」

「第1師団には、同期が居るのよ・・・同郷の娘なの、幼馴染なのよ・・・そんな事、したくないわ・・・」

「でも・・・もし命令が下れば・・・」

「そんな・・・同じ軍よ!? こ、殺し合うの・・・!?」

少しの間、沈黙が続く。 やがて童顔の、未だ少年の面影を残す(年齢も未だ少年だ!)年若い新米衛士の少尉が、ぼそりと呟いた。

「・・・大隊長、命令下すかな・・・」

その一言に、年若い少尉たちは黙り込む。 彼らにとって、少佐で、大隊長と言う存在は十分『お偉いさん』だ。 しかも彼らの大隊長は、92年から野戦将校として戦っている。
戦場では常にその姿を仰ぎ見て、心強く想い、安堵する存在。 同時に少し『以上に』おっかない存在でもある。 が、今は歴戦を潜り抜けてきた、その現実主義さが不気味に感じる。

「大隊長だって・・・小耳に挟んだんだけどさ。 反乱部隊の指揮官の1人が、大隊長の同期生だって・・・」

「き・・・きっとさ、説得するわよ! ほら、同期生なのだし・・・!」

「う、うん・・・」

対人戦闘―――対BETA戦闘とはまた違った恐怖感を覚える。 BETAはまるで、意思の無い暴虐な暴力装置だが、対人戦闘ははっきりと『人の殺意』を感じてしまう。

「―――おい、こら! 今は警戒待機中だぞ! 自分の小隊に戻れ!」

突然、背後からの怒声にビクッとして振り返る新米少尉達。 そこには第2中隊第3小隊長の半村真里中尉と、第3中隊第3小隊長の楠城千夏中尉が睨みつけていた。

「しょ・・・小隊長・・・!」

「や、やば・・・!」

焦っている新米少尉達―――指揮小隊の宇嶋正彦少尉、第1中隊の大野格少尉、第2中隊の矢野桃子少尉と藤野和美少尉、第3中隊の久瀬保少尉と浅岡理恵少尉の6人。
彼らは衛士訓練校第27期A卒。 衛士訓練校開校以来、初めて同期生の数が3000名を越した期だった(例えば大隊長の周防少佐の第18期A卒だと、同期生は368名だった)
今年の3月に衛士訓練校を卒業後、半年間の錬成部隊での実戦訓練を経て、この9月末に大隊に配属されたばかりの新米衛士達。
今日の戦闘で、第1中隊の三輪陽子少尉が戦死し、第2中隊の段野吾郎少尉が負傷―――同期生が傷つき、死んでいった様を見せつけられたばかりの若者達だ。

「ほらほら! 愚図愚図するな! それとも何? 自分トコロの小隊長も呼んでくる!?」

楠城中尉が脅しをかける。 半村中尉の小隊の矢野少尉と、楠城中尉の小隊の久瀬少尉と浅岡少尉の3人は、諦め顔だ。

「「「「いっ、いえ! 中尉殿!」」」

条件反射で直立不動の姿勢をとるモノの、どこか先程の蟠りが捨てきれない。 指揮小隊所属の宇嶋少尉が、恐る恐る、と言う風で2人の中尉に聞いて来た。

「あ、あのう・・・半村中尉、楠城中尉・・・お聞きしたいことが・・・」

「ああん? お前のトコの北里さん(北里彩弓中尉・大隊指揮小隊長)に聞け」

「まあ、まあ、半村ぁ、そう邪険にしなくっても良いじゃん。 で、何? 宇嶋」

宇嶋少尉は他の同期生たちと顔を見合わせ、思い切って言葉を吐き出した。

「あの・・・もし、もしもですが・・・『そうなったら』・・・大隊長は、その・・・攻撃命令を・・・?」

「―――出す」

「出すわね、大隊長は」

「でっ、でもっ! お、同じ皇軍ですよ!? ど、同期生たちだって・・・!」

若い少尉達の中で、更に一番年若い(3月の早生まれ)矢野桃子少尉が、必死になって言い募ろうとするが・・・

「―――相手は『反乱軍』だ。 鎮圧するのに、容赦は不要だ」

「小隊長・・・」

半村中尉の小隊の、矢野桃子少尉が絶句する。 普段はやや『ちょっと不良な』感じの上官だが、決して部下には無理をさせない、実の所頼りにしている隊長だったのだ。
その隊長が、『容赦は要らない』とはっきり断言したことに、若いと言うよりまだ『幼い』感じが残る矢野少尉はショックを受けたようだった。

「・・・お前たちは、まだ何も考えるな。 BETAと同じだ、意思の無いBETAと同じだ。 考えるな、想像するな―――その時は、絶対にそうしろ、いいな!?」

半村中尉の、予想外に強い口調に呑まれる新米少尉達。 その横から楠城中尉が口を挟んだ。

「ま、アンタたちは、命令をしっかり守って、指示された通りに動く事。 それだけを考えなさい、心がけなさい―――相手がどうこう、そんな事今は、上官に丸投げする事よ」

どうせ、ひよっ子達がウジウジ考えても、解決なんてしやしないからね―――そう言うや楠城中尉は、少尉達に隊に戻るように指示をして、半村中尉と戻って行った。





「半村ぁ、アンタ、相変わらず言葉足らずよねぇ?」

「・・・うるせぇ」

同期同士の2人の中尉達は、周辺監視の傍ら、偶々あの少尉達を見つけたのだったが―――確かに経験不足の年若い少尉達にとっては、今の状況は不安だろう。

「俺らに、あれ以外、何て言えばいいんだよ・・・?」

「・・・言う言葉は無いわね。 所詮、私らだって下っ端なのだし」

「せめて・・・せめて、中隊長からでも、説明欲しいよなぁ・・・」

今後の取り得る行動について。 はたして『皇軍相撃つ』事が有るのか否か。 彼らとて、昨日今日、任官した新米では無い。 既に戦場を何度も経験している。
いざと言う時の覚悟位、出来るポジションに居るのだ。 そしてそれぞれが率いる3人の部下たちの不安を、どう受け止め、どう逸らしてやるか、と言う事も。

「うちの中隊長はねぇ・・・大隊長に信頼置きっぱなしだし」

第3中隊長の遠野万里子大尉は、大隊指揮小隊長を長く務めた女性士官だった。 優秀で有能だが、反面で大隊長に無条件で信を置きすぎる傾向がある、と楠城中尉は見ている。

「うちの中隊長は、『暫くやる事ねぇから、寝ていろ』ってさ・・・こっちはこっちでさぁ・・・」

第2中隊長の八神涼平大尉は、大隊長の周防少佐が大尉の中隊長になった頃から、その下で戦ってきた。 いわば『最も毒されている』面子の西の横綱、と目されている。
第1中隊長の最上大尉は、大隊長の右腕とも言うべき先任中隊長だ。 この人に何か具申するのは、半村中尉や楠城中尉では少々敷居が高い―――いや、煙たい。

「他の・・・香川さん(香川由莉中尉・第2中隊第2小隊長)や鳴海さん(鳴海大輔中尉・第3中隊第2小隊長)も、特に何もせず、だしな・・・」

「城野さん(城野裕紀中尉・第1中隊第2小隊長)も、三島さん(三島晶子中尉・第1中隊第⒊小隊長)もよ」

「北里さん(北里彩弓中尉・大隊指揮小隊長)に至っては、だな・・・」

半村中尉と楠城中尉の2人は、大隊の中尉指揮官中の最後任だ。 先任中尉達が特に行動を起こしていない中、彼らが上官に何やかやと、と言うのは憚れる気がする。
要は『常在戦場』の気構えでいろ、と言う事だろうが。 だが彼らとて、『皇軍相撃つ』なんて、したくもないし、考えたくもない。 しかし彼らは既に、少尉時代に経験していた。

「・・・シベリアじゃ、ソ連軍がロシア人部隊と、非ロシア人・・・少数民族部隊とで、相撃つなんてモンじゃない事、やっていたっけな・・・」

「うん・・・後で色々と思い出してみたら、友軍部隊を恣意的に潰していたっけ・・・」

彼らは、先ほどの不安を滲ませていた新米少尉達より、少しばかり修羅場を潜った経験が有った。






「・・・で? どうお考えなんスか、大隊長?」

臨時の大隊指揮天幕の中で、衛士強化装備姿のままの八神涼平大尉が『コーヒーもどき』を、なみなみとカップに入れて啜りながら聞いていた。
それを横目に、『あんな不味い代物を、こんなに飲みたがるなんて・・・味覚を疑うわ』と言わんばかりの目つきで、遠野万里子大尉がチラ見している。
問われた本人―――第151戦術機甲大隊長の周防直衛少佐は、折椅子に座って肘掛に肘を掛け、口元を片手で覆いながら・・・帝都の周辺地図を見つめて、無言だった。

「八神、そりゃ、命令一下で行動するしかないだろう?」

八神大尉の横で、パイプ椅子に座っていた最上英二大尉が、周防少佐に変わって代弁する。 が、その程度の事、中隊長ならば当然理解している話だ。

「最上さん、俺が聞きたい事はですね・・・部下達に、どこまでの覚悟をさせるべきか、って事っスよ」

「常に最悪を想定し、その前提で準備を怠らず・・・では無いでしょうか? 八神さん?」

「優等生的な模範回答、有難さんで。 遠野大尉殿?」

「・・・茶化さないで下さい、八神大尉」

「止めろ、2人とも―――大隊長、情勢如何では有りますが・・・」

「・・・うん」

周防少佐が短く答える。 最上大尉が濁した言葉、八神大尉がシニカルさに覆って言わんとした事。 遠野大尉が敢て一般論で逸らそうとした事。

周防少佐が言った。

「命令―――戦闘時には、一切の躊躇を許さず」

「・・・命令、ですか?」

「そうだ」

最上大尉が一瞬、言葉に詰まった確認に、周防少佐は躊躇いなく、はっきりと断言した。

「了解しました・・・」

「了解っす・・・」

「・・・了解です」

命令―――軍組織に於いて、最上級の拘束性を有するもの。 命令―――異議の一切を許されぬもの。 命令―――発した者が、全ての責任を負うもの。

命令―――大隊長が、大隊の総員に対し、命令を発した。









2001年12月5日 0823 日本帝国 神奈川県旧横浜市 国連軍横浜基地周辺


「―――ティグリス・リーダーよりティグリス各隊、状況送れ」

『―――ティグリス02、オンステージ』

『―――ティグリス03、配置完了しました』

「―――よし。 別命有るまで現位置を確保。 決して後ろを撃つなよ? ティグリス・リーダー、オーヴァー」

国連軍横浜基地周辺を、日本帝国陸軍の戦術機甲部隊が包囲している―――受けた命令は『横浜基地の周辺警戒』だが。

「―――ティグリス・リーダーよりパンテラ・ワン。 ティグリス全機、配置完了」

『―――パンテラ・リーダー、了解。 ティグリス、レオ、オンサ、各中隊は現刻より『横浜基地周辺警戒』任務に入る―――横須賀に招かれざる客がいる、他所の敷居を跨がせるな』

管区予備の独立混成第154旅団所属の、1個戦術機甲大隊―――『撃震』1個大隊主力の戦闘旅団が、横浜基地周辺の『包囲』を完了した。




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