<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20952] クーデター編 騒擾 2話
Name: samiurai◆b1983cf3 ID:6aaeacb9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/02/15 22:44
2001年12月5日 0445 日本帝国 帝都・東京 麻布


「―――閣下、お電話です」

「・・・ん」

夜半過ぎ、副官に起こされた軍事参議官・間崎勝次郎帝国陸軍大将は、受け取った受話器を耳にし・・・初老の域に入りかけた顔を、少しだけ紅潮させた。

「うむ・・・うむ、そうか・・・うむ。 判った」

簡単に話を終わらせるや、間崎大将は次の間に控える副官に、囁くような声で指示を出した。

「車の準備を、乃木坂だ。 後で後楽園にも伺う」

「はっ!」

軍服を着込みつつ、間崎大将は内心の衝動を抑えるのに、苦労を感じていた。 決して全てが、我欲での行動と言う訳ではない。 その自負はある。
しかし同時に、この動乱の時代に国家の舵を取る自信も、彼には有った―――あくまで主観でだが。 そしてその瞬間が近づいている事への昂揚感。

まずは乃木坂だ。 斑鳩家譜代重臣にして家宰・城内省高官である洞院伯爵。 まずこの男を完全に抑えねばならない。 その後で後楽園―――斑鳩公爵家だ。











2001年12月5日 0502 日本帝国 千葉県・陸軍松戸基地 


『―――私は帝国本土防衛軍、帝都守備第一戦術機甲連隊所属、沙霧尚哉大尉・・・』

壊滅を免れた松戸基地内の偕行社(陸軍将校の集会所・社交場(将校クラブ)で、大隊長クラスの指揮官たちが、復旧処理の合間を縫って一息ついていた。
TVの国営放送から流れるその画面に、好意的な視線を投げる者は一人もいない。 中には視線だけで射殺せるかの様な、物騒な視線を投げかける者もいる。

「・・・大尉風情の若造が。 知った風な口で、己の馬鹿さ加減を糊塗するか?」

「・・・難民の救済を唱え、政治の改革を叫ばんとするならば、まず軍服を脱ぎ、しかる後に行え。 軍服を着ている限り、行う事ではないのだ」

吐き捨てるようにそう言うのは、第15師団・第151機甲大隊長の森永忠彦中佐。 苦々しげに言うのは第151機動歩兵大隊長の奥瀬航中佐だ。 
彼らの部下が何名か、攻撃に巻き込まれて死亡している。 その私情の部分を差し置いてもなお、2人の中佐の目にTV画面の若い大尉は、度し難い孺子に映る。

「首相殺害。 国防相、内務相、蔵相もか・・・若い連中にしては、頭が回る。 六相会議の面子の中で、残るは軍需相と外相の2人だけだ。
一時的にせよ、『国家防衛企画委員会(実質的な国家戦略策定組織)』が麻痺してしまうぞ、これは・・・そうか、そうなれば・・・」

「今までは形式上だった、征威大将軍が主催する『大本営』 これが事実上の国家意思決定機関になる。 今までは『国家防衛企画委員会』が『大本営』を骨抜きにしていたからな」

第152機甲大隊長の篠原恭輔少佐の言葉を、第153機械化歩兵装甲大隊長の高谷清次少佐が継いで答えた。 
そう、これで国家の意思決定は『大本営』に(一時的にせよ)移る―――そう思われた。 軍の中堅幹部とは言え、彼らは野戦将校。 
権謀術数を目の当たりにする政治好きの参謀将校ではない。 彼らでなければ―――参謀本部あたりの参謀将校なら、違った見方をしたかもしれない。

『国家防衛企画委員会』―――国防省、軍需省、内務省、大蔵省、外務省、この5省の事務次官級・局長級の高級官僚群が主催する、国家防衛政策策定組織。
帝国の形式の上では『大本営』の下部に位置し、その企画案を持って大本営を補佐する。 大本営(征威大将軍)はその決定権を持って、皇主(皇帝)に統帥権補佐と助言を行う。
これが日本帝国の『形式的な』統治機構。 大本営は統帥権補佐と助言の他、征威大将軍より内閣・六相会議(首相、国防相、蔵相、軍需省、内務相、外相)に国家政策方針を下命する。

しかし長らくの間、国家防衛企画委員会は『六相会議』の下部に位置してきた。 実質的に『六相』が指揮する各省庁の調整の場であり、国家戦略企画の場なのだ。
大本営に参加する『元枢府(五摂家府)』の掣肘を受けるなど、もっての外。 内閣を組織する政治家達もまた、征威大将軍・元枢府(五摂家)の意向など、全く無視してきた。

日本帝国内の現実政治の強烈な現状が、それを許してきた。 大政奉還直後の近代の幕開けの時代ならばともかく、既に大正から昭和初期にかけて経験したデモクラシー。
極一部の日本人を除き、大半の国民は第2次世界大戦前、そして戦後に、議会民主主義の波を経験している。 征威大将軍・元枢府の意向無視は、或は国民の暗黙の了解なのだ。

「ふん・・・『民の意志と、殿下の意向を蔑ろにする、君側の奸』か? なるほど、確かに首相は国内難民優先政策を回避し、国防政策と、それに付随する外交政策を優先させた。
その結果、未だ国内に難民キャンプは存在する。 食料や医薬品の配給も、必ずしも十分とは言えん。 が、餓死するほど酷くない。 病気の手当を受けられず、死ぬ程でもない」

師団主計課長の渡辺一穂主計少佐が、苦々しげに言う。 彼は何年か海外公館での外交任務に就いていた経験がある。 主に英国と北アフリカ諸国だ。

「前線国家は、どこも同じようなものだ。 ロンドン北部郊外の違法難民キャンプへ行ってみろ、日に数十人規模で餓死者や病死者の死体が、無造作に投げ捨てられている」

何人かの佐官が、同意を示して頷く。 いずれも海外勤務経験を有する、20代後半から30代半ばの、士官学校や各種専科軍学校を卒業して10年から14、5年を経たベテラン達だ。

「ふん、『殿下の意向を蔑ろに』か・・・あれか? 佐渡島や鉄原からの、BETAの飽和上陸侵攻防衛よりも、『憐れな民たちの保護を』と言うやつか?」

「日米安保の再交渉にも、難色を示していたと聞くな。 絶対反対と言う訳ではないようだが。 いずれにせよ理想で飯は食えんし、腹も膨れん。 綺麗事で生き延びる事も出来ない」

最前線の野戦将校、それも経験を積み、多くの部下達を従える佐官級の将校故に、視点が国家防衛に偏る事は否めない。 が、それを差し引いても、彼らの言葉は『現実』だった。

「それよりもだ。 この先どうなる? 一部の跳ね返りとは言え、立派に『クーデター』だ。 しかも政府首班を始めとして、複数の閣僚を殺害。
しかもどうやら、帝都の一部を占拠している様だ・・・どう贔屓目に見ても、陸軍刑法の『反乱罪』、『軍用物損壊罪』、『違令罪』・・・」

「それだけじゃない、一般刑法でも治安維持法の『内乱罪』が適用されるぞ。 首謀者は問答無用で死刑。 謀議参与者・衆指揮者、職務従事者も・・・」

「謀議参与・衆指揮者でも、反乱罪で『死刑、無期、若しくは5年以上の懲役または禁錮』、内乱罪で『無期又は3年以上の禁錮』・・・併せれば最低でも無期。 たぶん死刑だ。
他の係わった者さえ、反乱罪で『3年以上の有期の懲役または禁錮』、内乱罪で『1年以上10年以下の禁錮』 二つとも適用だろうな、15年は食らうだろう、下手すれば無期刑だ」

「それも軍籍・階級ともに剥奪されてだ。 この先の一生涯、恩給も年金も受け取れない。 軍を放り出されて、『地方(民間の事)』でそんな『曰く付き』は、雇ってもらえんだろう」

「本人だけじゃないだろう。 家族親類が存命の場合、もっと悲惨だ。 恐らく、どこの自治会も、反乱者や内乱者の身内を受け入れはすまいよ。
行き着く先は、違法難民キャンプで、死ぬまで泥を啜って生きるしか・・・クーデター参加者の全員が、全くの天涯孤独、身寄りが居ない訳であるまい」

「若気の至り・・・にしては、事が大き過ぎるな。 一時の正義感や悲壮感だけで事を起こすからだ。 それも、自分勝手な思い込みの・・・と言うのは、些か酷か・・・」

彼らにしてみれば、若い将校団の起こした今回の騒擾。 許す気も無ければ、許される事でないと理解もしている。 しかし、同時に思う。
余りに視野の狭すぎる若者たちの危うい純粋さが、残念でならなかった。 BETAとの存亡をかけた戦いしか、教えられなかった若い世代。
この場に居る佐官達も未だ、20代後半から30代半ばの、世間一般ではまだ『若造』から、ようやく脱皮しかかった、或はようやく脱皮した年代に過ぎない。
だが彼らはまだ、日本帝国にとって対BETA戦争が『対岸の(大陸での)戦争』だった頃に『普通の』学校教育を受け、そして軍務に就いた最後の世代でもあった。

1996年の男性徴兵対象年齢の更なる引下げを含む、修正法案可決。 1997年の中国政府の全面撤退(大陸放棄) 1998年の朝鮮半島失陥と、BETA本土上陸。
この辺りで軍に入る前の学校教育を受けていた世代の若者たちは、最早『愛国』と『護国』、この2本柱の教育しか受けて来なかった―――それしか教えられなかった。
今で言えば18歳から21歳、士官学校や各専科学校卒業生で言えば、中尉、少尉の年代の若者達だ。 気難しい表情の佐官達は、その辺りに少しばかりの罪悪感を感じている。

「・・・それもこれも、クーデター騒ぎが鎮圧されてからだ。 差しあたっては・・・正規の命令系統の確立はどうなっているのか、だな」

「今現在の情報では、東部軍管区(関東地方を管轄区域とし、軍管区内の軍隊を指揮・統率)の管区予備から独混(独立混成旅団)が2個、東関東から急派されたと聞いたが・・・」

「相手は第1師団だ。 独混2個程度じゃ、見張り役にしかならん・・・それより戒厳司令部は設置されるのか? このまま東部軍管区司令部が兼任・・・?」

「まさか。 第1師団はそもそも、東部軍管区だ。 反乱部隊を出した東部軍管区司令部は、云わば大きな失点を出した。 そこに戒厳司令部を任せるなど有り得ない」

「なら、軍事参事官の誰かが、か?」

「有り得るな。 大将クラスの参事官で、誰かが勅任されるかもしれないな」

以外に平静な奥瀬中佐、森永中佐、篠原少佐、高谷少佐、渡辺主計少佐。 いずれも内心に不安を抱えている。 が、それを表に出さないだけの分別もまた、持ち合わる年代でもある。


「・・・『このまま進むは亡国、留まるも亡国、ならば改変せよ』 結局、それが亡国への最短距離だ。 それを判っているのか、いないのか・・・」

「判っていないのなら、只の悲劇的英雄願望の馬鹿者だ。 判っているなら・・・どこかの誰かが用意した舞台の上で、必死に踊る道化に過ぎん―――ハンガーに行ってくる」

ポツリと呟いた第152戦術機甲大隊長の長門圭介少佐の言葉に、不機嫌な表情の第151戦術機甲大隊長の周防直衛少佐が、吐き捨てるように言って席を立った。
長年の戦友・僚友であり、親友である周防少佐の後姿を見ながら、長門少佐は少しだけ苦笑気味になった。 そしてTVで『冷静な熱弁』を振う若い大尉を、意識の外に追いやった。





ハンガーへと向かう路上、周防少佐は内心の不機嫌さを押し留めるのに苦労していた。 忌々しいのは、クーデター部隊に対してだけではなかった。

(・・・『軍事社会学における「政軍関係」、それに関するハンチントンの学説と、対するパールマターの学説、ファイナーの研究の比較』か・・・
コーエン教授、どうやら貴方の授業の論議は、正しかったようです・・・今更では、どうしようもありませんがね! くそっ!)

もう6年半以上も昔の話。 まだ自分が帝国軍から国連軍へ出向していた頃の話。 下級士官教育課程で短期留学したニューヨーク大学(NYU)での講義の一幕。
ハンチントンの説に立脚する事に反対する、パールマター説の軍の未成熟さ、将校団の社会的責任の意識も薄さ。 フォイナー説の将校団の社会的責任への無責任さ!

軍と、軍の将校団が専門知識、社会責任、そして団体性を備える事で成立する職業主義は、軍事的安全保障を効率的に達成する事を可能にするとの、ハンチントン説。
それだけでなく、軍が政治的主体となる事を防ぐものであると言う。 ならば―――ならば、今のこの状況をどう説明するのだ!
日本帝国軍は、パールマターの言う衛兵主義・・・いや、団体性が無い革命的軍人の類型だったと言うのか! 何時でも軍による政治介入を許す状態だったと!

(まさかな・・・まさかな、貴様がそれを志向していたとは。 首を洗って待っておけ。 もしその通りならば・・・貴様を殺さにゃならん・・・)










2001年12月5日 0510 日本帝国 千葉県・陸軍松戸基地


「・・・『戦死』は38名。 負傷者81名。 負傷者のうち、軽傷で軍務復帰可能な者は29名、病院搬送者52名です」

師団軍医部長・芝本佳代子軍医中佐の報告に、並み居る師団幹部連が顔を顰めた。 本土、それもホームベースである基地内での戦闘による被害としては大きすぎる。
軍医部長の報告に続き、師団G3( 第3部長(作戦・運用・訓練))の三浦多聞中佐が、報告書片手に幹部連に向け、被害の詳細を報告し始めた。

「人的被害は第15後方支援連隊に集中しました。 丁度、夜間訓練第2陣の発進準備中でした。 第2整備大隊戦術機甲科直接支援隊の死傷者が目立ちます。
死者38名のうちの21名、負傷者81名のうちの49名が、第2整備大隊から出ております。 他に第1整備大隊の通信電子整備隊、通信大隊、施設整備隊などです」

次に師団作戦主任参謀の元長中佐が立ち上がった。 主に戦闘部隊の人的・物的損害についての報告だった。

「・・・衛士の死傷者は、第151が戦死1名、負傷1名。 第152が戦死2名。 第154は府中基地への牽制攻撃の途上で帰投したため、損失無し。
第153、第155、第156の3個戦術機甲大隊は、奇襲攻撃当時は全員がブリーフィング中だったこともあり、死者は無し。 ただし軽傷者が5名・・・」

他に、基地防衛戦闘に参加した部隊の内、87式自走高射機関砲が5輛、完全撃破されている。 機械化装甲歩兵連隊から戦死者3名、負傷者9名。

次いで、最も損害の多かった第15後方支援連隊の連隊長・柏葉清次郎中佐が立ち上がった。 戦術機を始めとする、正面装備の損害報告だ。 誰かが息を飲む音がした。

「・・・戦術機の損害、第151大隊は全損1機、中破2機、小破2機。 第152の2個大隊、全損2機、中破1機、小破3機。 併せて全損3機、中破3機、小破5機」

1個大隊は3個中隊と1個指揮小隊の40機編成。 第151大隊は残数35機、第152大隊は残数34機。 13%から15%の損失を負った。

「第154大隊は損失無し。 但しこの3個大隊はハンガーを半壊された際に、予備機を5~6機失っている。 第151と第152は各5機、第154は6機」

各大隊は定数の他に予備機として12機を保有している。 これで3個大隊の予備機は半減となる。 第151と第152は死傷した衛士の不足を込みで、可動機は大隊定数ギリギリだ。

「次に第153、第155、第156大隊・・・いずれも戦術機をハンガー内で最終チェック中に攻撃を受けた結果、多大な損害となった。
第153大隊は全損・大破16機、中破7機、小破9機。 第155大隊は全損・大破14機、中破8機、小破5機。 第156大隊は全損17機、中破5機、小破6機・・・」

予備機を含め第153大隊は可動機16機。 第155大隊は可動機15機。 第156大隊は可動機14機。 3個大隊で45機、辛うじて定数装備の1個大隊にしかならない、大損害だ。
現在の第15師団戦術機甲戦力は(衛士込み)、第151大隊と第152大隊が各38機、第153大隊が16機、第154大隊は定数の40機、第155大隊は15機、第156大隊が14機。
第154大隊の予備機の残り6機を充当したとしても167機、本来ならば40機定数の6個大隊・240機が常備戦力である第15師団としては、辛うじて7割に達しない。

「・・・戦術機甲戦力は、事実上の『全滅』判定です。 次に戦闘装甲車両ですが、これは87式自走高射機関砲が5輛全損の他、目立った損害は有りません。
戦車、自走砲、装甲戦闘車、装輪装甲車・・・『敵』はもっぱら、移動力・展開能力の高い戦術機を集中して叩いた様です。 次に各施設の損害状況ですが・・・」

そこで連隊長に変わり、第15後方支援連隊施設工兵大隊長を務める、草場信一郎少佐が立ち上がる。 下士官からの叩き上げで、30代半ばで少佐まで上り詰めた男の表情が硬い。

「戦術機整備ハンガー損傷61%、発電機施設損傷53%、燃料タンク損傷44% 整備・工作場損傷35%、通信施設損傷37%、兵站倉庫損傷35%、物資損失31%・・・
事実上、我が松戸基地は『開店休業状態』となっております。 基地機能の仮復旧は75時間後、完全復旧は・・・補給物資の搬入次第です。 順調にいって、約3週間です」

師団長以下、誰も声が出ない。 松戸基地は事実上、『壊滅』されたのだ。 だが―――だが、ここで負傷を押して会議に出ていた第15師団長・竹原季三郎少将が口を開いた。

「・・・A(第1)旅団長、緊急展開に要する時間は?」

「1個旅団ならば2時間以内。 残存する全戦闘兵力ですと、6時間以内」

A(第1)機動旅団長・藤田伊与蔵准将が即座に答える。 A(第1)機動旅団の戦術機戦力は、第151と第154大隊。 辛うじて定数一杯を満たした機動戦力を展開できる。

「R(第3機動旅団)を一時解体し、B(第2機動旅団)に吸収します。 Bの主力戦術機甲戦力を第152とし、第153、第155、第156を予備中隊とします。 荒蒔は頂きます」

第153大隊の残存16機を部下の中隊長に指揮させ、大隊長でありかつ、最先任戦術機甲大隊長の荒蒔中佐を、旅団参謀として引き抜く。 その許可を求めた。
ちらりとB(第2)機動旅団長の名倉幸助大佐に視線を移し、次いで藤田准将に対して頷いた竹原少将。 R(第3)機動旅団長の佐孝俊幸大佐は重傷だ、一時解体も止む無し。

「よし、未だ正規の命令系統は確立されておらんが・・・我々は『東日本全般の脅威に対する即応部隊』だ。 今の現状、放置してはBETA侵攻時の『脅威』となり得る。
A(第1機動旅団)は速やかに出撃、高田馬場から早稲田一帯にかけて展開、周辺を封鎖。 B(第2機動旅団)は支援部隊を連れて、成増(陸軍成増基地・帝都練馬区)だ。
第14師団が動く、受け入れ準備を進めろ。 その後にA(第1機動旅団)と合流、統一指揮は藤田君、君が執れ。 副師団長、君は基地機能の復旧に全力を挙げろ・・・」









2001年12月5日 0515 日本帝国 帝都・東京 皇城


「―――こちらです、閣下」

まだ夜明け前。 帝都が未だ驚愕の衝撃の最中にあるその時、皇城に1台の目立たぬ車が乗り入れていた。 その車から降りた老人が一人、侍従に先導されて皇城内に入る。

「―――他の方々は?」

「はい。 皆様、御参集にて」

「そうか。 お待たせしてしまったかね?」

「―――『万難を排し、参集したる朕が重臣、心強し』 主上(皇帝)の御言葉でございます」

その言葉に無言で頷き、実は意外に質素な(と言うより、質実剛健な)皇城内の赤い絨毯の上を歩きながら、当代の元老の一人、先代崇宰公爵家当主・崇宰義慶は歩を早めた。
やがて一室に通される。 すると室内に先着していた者達―――いずれも老齢で、しかしながら尋常為らざる存在感と威圧感を発している―――が、その姿を認め、目礼した。

「―――御老公、斯様な参集に応じて頂き、恐懼に耐えませぬ」

この場の招集者である、内大臣・石川倉之助が頭を下げる。 彼は士族でもなければ、勿論、摂家に繋がる門流出身の武家貴族でもない。 公家貴族の筋でもなかった。
ましてや閣僚の経験すら無く(有能な官吏では有った)、しかも庶民の出である石川内府であるが、軍部や政党と一定の距離を置く、穏健派で謹厳実直な人柄が皇帝の信頼を得ていた。

「この場に御参集の閣下方には、今後の大方針を早急に纏められ、主上(皇帝)に上奏して頂きたく」

並み居る老人たちは、これまた黙って頷いた。 何度も言うように、只の老人たちではない。 元老・崇宰義慶、松方兵衛、大久保伸吉、岡田藤介。 
更には重臣会議のメンバーである、米内受政、奥村礼次郎、宇垣杢次。 更にはこれも皇帝の信頼篤い、侍従長・鈴木由哲。 そしてこの場の主催者の内大臣・石川倉之助。

松方、大久保、岡田の3名は首相と他の閣僚を歴任し、日本の政界に君臨する元勲達である。 崇宰の老公は、永く元枢府議長を務め上げてきた。
そして米内、奥村、宇垣の3名もまた、過去に首相を務め、また他の閣僚経験もある(米内・宇垣は国防相)『重臣会議』のメンバーだった(他に3名いるが、この時点で安否不明)
国内の政軍官界の頂点にして、宮中良識派の『宮中グループ』を形成する老人達である。 つい数時間前に生起した大事件に接し、皇帝からの諮問に対し上奏する。 その為だ。

「まずは榊首相の死亡。 これは間違いない」

軍部、それも陸軍出身である重臣・宇垣杢次が残念極まる口調で報告する。 未だに軍内部、とりわけ陸軍内部に大きな影響力を有する人物だ。

「こちらでも確認した。 他に高橋君(蔵相)、林君(国防相)、槙島君(内相)もだ」

こちらも、海軍部内に未だ絶大な影響力を有する重臣・米内受政が、もっそりした口調で告げる。 『六相会議』メンバーの内、4人が凶弾に倒れた。

「ではまず、大方針であるが・・・」

元老の大久保伸吉が、他の者達を見回しながら言う。

「後継内閣、暫定内閣は成立させぬ事。 これで宜しいな、方々?」

元老・重臣達が一様に頷く。 日本帝国に於いて『元老』、『重臣』とは、政威大将軍とは違った立場で、皇帝よりの諮問に答えて、上奏する(上奏出来る)立場の者達である。
具体的には、国家の主権者たる皇帝の諮問に答えて、内閣総辞職の際の後継内閣総理大臣の奏薦(大命降下)、開戦・講和・同盟締結等に関する国家の最高意思決定に参与する。
その上奏に対し(形式の上で)皇帝は政威大将軍に対し、勅令を下す。 そして政威大将軍は、自らの帷幕に諮り参議させ(内閣による輔弼=実質的に内閣が政治を行う)公布される。

元老は法制上にその定めは無いが、勅命により元老としての地位を得た者達。 そして重臣は内閣総理大臣経験者から勅命を受けた者と、枢密院議長である。
現在では重臣による『重臣会議』で決議された事項を、『元老会議』で追認し、皇帝に上奏する方法がとられている。

「・・・政威大将軍の親政など、憲法改正なくば、成り立たん。 その手先となり得る者達による後継内閣・臨時内閣の成立は、これを認めぬ」

元老・松方兵衛が重々しく言葉にした。 如何にクーデターを起こそうとも、まずはこの『宮中グループ』を押さえない限り、クーデター部隊の主張は絶対に通らないのだ。

ここに、日本帝国の特殊な政治体制が現れている。 日本帝国憲法は、その昔のプロイセン型の立憲君主制が採用され、議院内閣制は採用されていない(議会は存在する)
そのため、政権を安定させるには、政府は議会第一党および多数の議席を保有する政党との連携が必要となるのだが。

『大正デモクラシー』の時代には、普通選挙による護憲派の政党内閣が『憲政の常道』として定着した。 しかし、議院内閣制は憲法の規定に基礎を持たず不安定であった。
そして軍部や枢密院、官僚などの勢力は、政党内閣の政権下でも依然として大きな政治的発言力を有しており、政党内閣による政権運営に介入していた。

政党内閣に追い打ちをかけたのが、1930年代の困難な時代に、『憲政の常道』は国内外の混乱を切り抜ける事が出来なくなった事だ。
その結果、軍部、官僚、国家主義団体などを中心に政党政治への不満が高まり、世論の反対も大きくなってゆく。 その結果、1930年代後半に政党内閣は終わりをつげた。

そして第2次世界大戦後の1950年代に入り、日本は独自の政治制度を作り上げる。

立法権と行政権を厳格に独立させ、行政権の主体たる内閣(内閣総理大臣)と、立法権の主体たる議会を、それぞれ個別に選出する政治制度である。
その特徴としては、内閣総理大臣は議会選挙からは独立した、皇帝の勅命により選任されること。 原則として内閣総理大臣は任期を全うすること。 
更には内閣(内閣総理大臣)には議会解散権が与えられていないこと。 内閣には法案提出権がないこと。 議員職と政府の役職とは兼務できないこと。 などだ。
(ただし内閣には、政府法案の提出あるいは勧告権、内閣令などの行政立法権、法案の拒否権や遅延権、非常事態宣言や戒厳令などの非常権限などが与えられている)

この形はアメリカの大統領制度の特徴を、かなり取り入れている。 大きな違いは、大統領は実質的な国民選挙にて選出されるが、日本帝国の首相は『勅任』によって任命される。
これは日本帝国の政治体制の特徴のひとつ、『政威大将軍』制度も関係している。 形式上、皇帝の『勅命』を受けた政威大将軍が、首相を『任命』する形が帝国憲法に定められている。

大正時代の政党内閣時代、元老達は議院内閣制に好意的な者が多かった。 結果、議会与党から選出された首相候補(党総裁)が元老会議の信任を受け、皇帝から勅命が下されていた。
しかしながら、大正時代の政党政治は次第に混乱の度合いを増す。 それは政治資金の巨額化に伴う、選挙資金を得るためという政治腐敗の増加の形で顕著に表れた。
その教訓から、議会内閣でもなく、挙国一致内閣でもない、日本帝国独自の『勅任制内閣』が誕生した(成立の思想的には、挙国一致内閣に近い)


「・・・先ほど・・・」

それまで無言であった、元老・岡田藤介が眠たげな表情で口を開いた―――眼の光は、強烈だった。

「先ほど、主上へ拝謁を賜った。 主上はこう申された―――『朕が重臣を不法に殺めし『賊軍』に対し、朕は帝国とその民に代わり、卿らに正道を正すを望む』と・・・」

「・・・賊軍・・・」

誰かが小さく呟いた。 『賊軍』と―――これであの若者たちの運命は、定まった。






「―――御老公」

元老、重臣らによる内々の、そして国家の大方針を決定する重大な秘密会議が終わったのち、部屋に残っていた元老・松方兵衛が、同じく居残った元老・崇宰義慶に重々しく話しかけた。

「禁衛師団が、皇城域への展開を完了いたしましたぞ。 現在は半蔵門付近で、賊軍との睨み合いですな。 
帝都城の方は、斯衛第2連隊を城代省が動かしたようですな―――御老公、皆の前では聞きませなんだが・・・斑鳩の事、萬宜しいか?」

「ふむ・・・」

齢80半ばを超え、なおも矍鑠としている老摂家の大貴族の老人は、暫く天井を見上げ―――宙を見ているような仕草の後、ポツリと言った。

「ふむ・・・最悪の場合、当主を隠居させるつもりじゃよ。 あの者(斑鳩崇継公爵、現斑鳩家当主)の下に、妾腹じゃが弟がおる。
門流(家臣筋の家々)の反発も、洞院(洞院信隆伯爵、斑鳩家重臣筋)を潰せば、のう・・・醍醐と三條(醍醐伯爵家、三条伯爵家、斑鳩家重臣筋)は、支持しよう」

「確か・・・醍醐家は九條家(五摂家・九條公爵家)門流の・・・菊亭家の娘を貰っておりましたな。 三条家は斉御司家(五摂家・斉御司公爵家)門流の冷泉院家から・・・」

五摂家の九條家は財界に強く、自家もまた財閥を形成する。 その門流家もまた、主家の流れの企業群を支配する『大財閥支配下の、中小財閥』を形成している。
また、同じく五摂家の斉御司家は国外の王族・貴族との繋がりが深く、外交に強い家柄であり、その実、外交権益(ODA含む)に手を染めている家である。
様は『金回りの良い』摂家である。 現実の政治権力の掌握には早々に見切りをつけ、日本帝国内の様々なパワーバランスの中に己の居場所を得て、『現実を謳歌する』家である。

逆に『政治の煌武院』、『軍事の斑鳩』と呼ばれる二家は、現実的な『権益』を持たない。 昔ながらの武家支配の原理『権有れど、財少なし』を掲げる家々であるが・・・

「醍醐も三条も、台所(財政事情)は火の車よ。 かと申して、主筋の煌武院も斑鳩も、貧乏具合では似たり寄ったりじゃ。 門流筋を助ける財力は無いでの」

「娘を輿入れさせ、財政援助を行い、最後は家の主導権を握る。 まあ、あれですな。 古今東西、使い古された手ですがな・・・」

「古今東西、使い古されておると言う事はじゃ。 それが実に有効な手じゃと言う事じゃよ。 武家だ、摂家だ、貴族だと言うてもの。 食わねば腹は減る。 今の時世、尚更の」

最終的には、今回のクーデターを利して権力の簒奪を目指す(その筋書きをしている)重臣の洞院伯爵家を潰し、権力への強い志向傾向がある現当主を退かせる。
代わりに、才覚では異母兄に及ばぬ、との評価だが、誠実・温和な人柄で権力への野心が少ないと称される妾腹の異母弟を、新当主に据える。
その為の斑鳩家内の内部工作は、洞院家と並ぶ旧家老筋の有力武家(門流筋)の醍醐伯爵家と三条伯爵家を、『こちら側』寄りの内諾を得る事に成功した二摂家。
自家の有力門流家の娘を嫁がせる事で、他家の二つの重臣家の内部権力を握る。 醍醐も三条も、事の終わった暁には、現当主を支持しないだろう。 両家の財政はこちらのモノだ。

「摂家も、気苦労が多い事ですな・・・」

「もう100年前の昔では、無いのじゃよ。 儂らが生き残る・・・その為には、世の裏の泥を被らねばの。 尊き御一族が『象徴』の道を、お選びになられたと同様・・・
儂らは『藩屏』・・・御一族には絶対に汚れが付かぬよう、その身になり替わり世の汚れ・・・猜疑と疑惑、不平と不満、それを被ってこそ初めて、この国で生きてゆけるのじゃよ」

最早、現実政治には係われない。 この国の流れがそれを許さない。 流れに逆行すれば、それこそ歴史が語る栄枯盛衰の末路となるだろう。

「・・・それもこれも、まずは、あの者達との繋ぎを取ってからよの」

「帝都には、賊軍の手勢が広く散っております。 今動くのは危険ですな」

まずは『統制派』 軍・官の上層に勢力を有する主流派。 彼らとの連絡を回復し、維持することが先決だった。

「斑鳩・・・洞院も、恐らく陸軍の間崎も、儂らが皇城に避難しておる事は存じまい」

「真っ先に身柄を拘束されるか、最悪は殺されると覚悟しておったのですがな・・・」

「間崎辺りはその積りじゃったであろうが・・・若い者たちは、どこまで理解出来ておったかのう・・・」

そう。 政威大将軍さえ押さえれば良い、そういう訳では無かったのだった。






前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.034746885299683