※何度見てもアニメ版の演出は総統閣下も大満足のおっぱいぷるんぷるんだと思う人は挙手。
※今回特に見せ場無し。銃オタ度増し増しでお送りいたします。ありえねーだろって言いたくなる銃も出します。筆者の趣味なんで諦めて下さい。
※サイレンサーなどの表記については、一般に分かりやすい描写を出来るだけ心掛けたいのでサイレンサーで通します。それと自分が見たようつべのサイレンサー無し・有りの比較動画では弾丸についての説明は特に無かった為、動画内で使用しているのは通常弾と判断し『通常弾を使用しても一応効果はある』と考えて書きました。今後もこんな感じで適切だけど細かい描写を省いたり此方の印象で書いて行くかもしれません。ご了承ください。
※それと床主市の片隅で応援して下さった方、非常に応援ありがたいですけど早く避難しましょう。
車は行く。俺達以外に誰も通らない道を。
学校でのあの<奴ら>の大群が嘘みたいに、俺達の乗ったSUVの向かう道は全くと言っていいほどに人影が見受けられない。
けど、だからといって田舎の県道か荒野のハイウェイみたいに延々と続く道以外に何も存在していない訳じゃない。
乗り捨てられた車があった。路肩に落ちた車があった。色々な物が散乱していた。道路のあちこちに血だまりが出来ていた。これで爆撃で出来た大穴でもあれば、何処かの戦場そっくりに違いない。
俺が学校に向かう時とは大違いの光景。こうして行きに来た道を逆行するまで2時間と経っていないのに。
車内には沈黙が広がっている。
校門から飛び出した時はどこぞのベトコンを掃射中のヘリのガンナー(銃手)並みにハイテンションだった俺と平野も、今となってはお互い黙りこくって窓ガラスの向こうをむっつり睨むばかり。社内の空気が落ち着かないのか、困った様子で俺らの後頭部に視線を行ったり来たりさせている里香の姿がバックミラーにちらついている。
俺はぼんやりと、主床の中心部の方に目を向けていた。街は米軍の大攻勢を受けたイラクの市街地みたく彼方此方から黒煙を・・・・・・あ、火柱。結構大きい。ガソリンスタンドでも爆発したんだろうか。里香が息を呑んでいるが、ここまでは被害がまず及ばないだろうしどうでもいい。
「そこの交差点を左に曲がってから2つ目の路地に入って。まっすぐ行ったらウチのマンションが見えてくるから」
俺の言葉通り、1分もしない内にマンション前に到着。
停車した車から外に出ないまま窓にへばりついた俺も、平野も、里香も、建物を上から下まで視線で舐めまわした。
「・・・どう思う?」
「外から見た限りだと、誰の姿も見当たりませんけど」
里香の言う通り、傍目から見てみると非常階段や玄関前の廊下には動く存在は何も見受けられない。
<奴ら>も、生存者の姿も。
「どうせ中に入らなきゃここに来た意味は無いんだ。行こう」
「了解!古馬さんは僕らから絶対離れちゃダメだよ?」
「はいっ、マーくんにピッタリ離れませんから!」
「何故に俺限定?」
「・・・いや、分かってた事だけど君も気付いてないのかい?かなり丸分かりなんだけど」
平野も何を言ってるんだ一体。
とにかく構造を良く知る俺が先頭、里香を挟んで平野を後衛にマンション内へ。古めの建物でセキュリティも雑だから、新築のマンションみたいに一々キーパッドにパスワードを打ち込んでロックの解除を待つなんて手間は必要ない。
「そういえば何階だっけ真田の家が在る階って」
「6階」
「・・・えーっと、エレベーター使わない?」
「この手の映画って大概エレベーターでの騒動はお約束だよな」
「イエナンデモナイデス。アルクノタノシイナーアハハハハー」
とはいえ、階段も階段で危険ではある。狭い上に逃げ場が上か下に限られてるんだから、階の間の踊り場辺りで挟まれようもんなら強行突破しかない。望む所だけど。
お約束通りエレベーターが到着した途端中から大量の<奴ら>が溢れ出してくるのとどっちがマシだろう?どうでもいいか。
だけど、意外にも非常階段で<奴ら>に1体も出くわす事もなかった。何が理由でそうなのかは知らないけど。中心部の騒ぎに引き寄せられてるのか?
とりあえず6階に辿り着く。片目だけ廊下に覗かせ安全を確認―――クリア。廊下に出る。やは誰の姿も無し。
「平野と里香は先に行って」
2人を促してから階段前に止まった俺は、防火扉で非常階段を封鎖した。老朽化して錆ついてでもいるのか、可動部から軋む音を響かせながら動かした扉の手ごたえは重い。鍵もかけておく。これでいくら<奴ら>でも鋼鉄製の扉は破れない・・・・・・と思う。
2人の後を追う。平野と里香が立つ扉、その1つ隣が目的地のお隣さんちである。俺が出た後、扉の鍵はかけていない。
俺達は中に入ってから、閉めた扉にしっかり鍵をかけた。
「あの、お邪魔しまーす」
とっくに家主はこんな事態が起きる前に逃げ出してるにもかかわらず、律義にそんな事を言った。ちゃんと靴まで脱いでいる。
・・・・・・俺達も釣られて靴を脱いでから上がった。誰の家であろうと靴を脱いでからでないと上がる気になれないのって、もはや日本人としての魂に染みついてるんだろうか。
一目散に平野は俺と里香追い抜くと部屋の中へ。きょろきょろと見回してから目的の部屋を見つけると足音荒く飛び込んでいく。
3秒後、悲鳴が聞こえた。
「う、うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
とりあえず気持ちは分かるけど自重して平野。ドスンバタン飛び跳ねてまで喜んでるもんだから床が揺れてるし。壁が薄いから結構響くんだぞ。
「・・・マーくんの家のお隣さんって、戦争でも始めるつもりだったのかな?」
ある意味定番のセリフを里香が漏らす。同意見だよ、俺も。
とにかく平野が狂気し里香が突っ込むぐらい大量の銃が広めの部屋の中に並んでる訳で。元々ロッカーにしっかり収められていた銃を、俺が物色したまま放置していた為だ。
やっぱりそれなりに興奮してた1度目とは違い、もっと冷静に部屋の中を観察してみると銃と弾薬、バッグに背嚢やベストみたいな個人装備以外にも大型のナイフやボウガンまでロッカーに立てかけてあったり、まとめて置いてあったりした。
ガンロッカーと武器に囲まれた、一見何処の家具屋にでも置いてそうな大きめのベッドの存在が尚更浮いている。
俺からロッカーの鍵を受け取った平野は、早くも他のロッカーの扉を開けて中身を嬉々としながら調べ始める。顔は満面の笑みなんだけど眼鏡の向こうの目はギラギラと光っていた。
「アメリカ製、ロシア製、中国製、シンガポール製、南アフリカ製・・・・・・米軍やロシア軍の横流し品かな?東南アジアの方も結構武器の横流しが流行ってるらしいし、南アフリカのはきっと遠洋漁業を利用した密輸品に違いない」
平野がブツブツ漏らしてる推測は俺の推理と似たり寄ったりだ。でも中には日本じゃまず玩具でしかお目にかかれないだろう、ヨーロッパ製の高性能な銃も少なからず混ざっている。
例えば、
「こ、これは!SG552アサルトライフル!SIG製の最高傑作SG550の特殊部隊向けコンパクトモデル!こんな物まで置いてあるなんて!」
解説ありがとう。こんな感じでどうやって持ちこんだのか聞きたくなるような代物もある。
もはや鼻歌交じりでご機嫌な平野と唖然呆然な里香を余所に、まず俺はまだ残っていたM4用のマガジンと5.56mm弾を在るだけバッグに詰め込んだ。
この際小室とも合流予定なんだからそれなりの数が要るし、持って行けるだけの銃と弾を持っていこうと思う。
とりあえずM4とP226Rがお気に入りだから確定。出来れば両方の使う5.56mm弾と9mm拳銃弾と互換性のある銃を持っていきたい。それからサイレンサー付きのも。これはかなり重要。
「里香、銃と弾詰め込むの手伝ってくれ。バッグはそこの隅に置いてあるから」
「あ、う、うん、分かったマーくん」
「なあ平野、悦に入ってるのは別に構わないけどまた後にしてくれ」
「・・・・・・・・・・ふへっ?ああごめんごめん、ついすっかり夢中に」
「平野君、涎垂れてる・・・」
慌てて口元を袖で拭う平野であった。
さて、他にどんな銃を持っていこう?銃の本場アメリカのガンショップでも置いてない様な代物(そもそもそこに置いてあるのだって自動小銃などはセミオートオンリーに限定されている)が所狭しと置いてある訳だが。
平野に渡したMP5のこれまた特殊部隊向けモデル、MP5SD6があったからまずそれを選んだ。MP5の銃身にあらかじめサイレンサーを組み込んだ存在で、単に銃口の先端にサイレンサーを外付けするよりも高い消音性を誇る。
それに口径さえ合えば他のモデルのMP5のマガジンやP226Rの弾薬も流用できるのが大きい。数が重複しているから数丁持っていこう。本当のど素人な小室達に渡してちゃんと当てれるのかって不安はあるけど、十分に近づいてから撃たせりゃ良いだけの話だし、どっちにしろ銃が無いよりゃマシって奴だ。
そういえば、サイドアームになりそうな拳銃にも丁度良いのがあった筈。
「あったあった、ほら平野」
俺は主に拳銃が保管されているガンロッカーを漁って見つけたそれを平野に投げ渡す。マガジンは装填してあっても薬室に送り込んでないんだから暴発の心配は無い。マナー違反だけど。
「おおっと!?もう、銃をそんな風に投げちゃいけないのは分かってるんだろ?」
「細かい事は気にすんな。それも幾つかあるから持ってこう」
「スターム・ルガーのMkⅠ・・・いや、ボルトリリースレバーがついてるからMkⅡか!」
「それ用のサイレンサーもしっかりあるよ」
「パーフェクトだよ真田」
「光栄の極み」
アメリカで銃の講習を受けた時、最初に撃ったのがこの銃だ。向こうではかなりの有名どころで、銃を初めて握る人間はまずこれで訓練を積むという。.22LR弾という弾薬を使用。
小口径かつ低反動故に素人でも当てやすく扱いやすい銃だ。俺達も撃って、想像以上の反動の軽さに拍子抜けした記憶がある。
といっても単なる素人向けの銃でも無い。サイレンサーを取り付ければ銃の機構の作動音が聞こえるぐらい小さな銃声しかしなくなるから、最初からサイレンサーを組み込んだ暗殺者モデルまで開発された逸話すら持つ傑作拳銃。
これならば小室達でもどうにか扱えるだろう。お隣さんもお気に入りだったのか、もし銃の売人だったとすれば売れ筋の商品だったりしたのか、数も弾もかなり揃っていた。
里香は俺と平野のやり取りを不思議そうな様子で眺めている。
・・・・・・・・・・
「・・・ほら」
「え・・・え?ええええええと、これがどうかしたの?」
俺と俺が差し出した拳銃を交互に見る里香。普通何となく分かるだろうに。
「お前の分の銃。持っとけ」
「い、いいい良いよマーくん!きっと私には扱えないしマーくんの分が――――」
「他にも同じのあるぐらい見りゃわかるだろ。いいか、この後ろの部分を引くと弾が銃の中に装填されて撃てるようになる。総弾数は10発、薬室に装填してからマガジンに弾を込め直して更に1発増やせるやり方があるけど・・・これは今はどうでもいいな」
面倒だからそのまま予備のマガジンと一緒に里香に押しつける。その際、手の甲に膨らみが触れたのは偶然だ。偶然ったら偶然だ。それにしても背丈は昔っからほぼ成長の跡が見えないのに目立つ部分だけ成長したな本当。
ともかくMkⅡも持っていく事に決定。必要な弾薬とマガジンもありったけ忘れない。
「うおおおっ!こ、これはっ!」
今度は何だ平野。
ガンロッカーから取り出されたのは寸詰まりな印象の自動小銃。だがこれもただの銃じゃない。MP5SD6と同様、最初から消音機能を組み込んで設計された特殊部隊向け狙撃銃。
「VSSヴィントレス・・・!こんな物まであるなんて・・・最高だ!!」
・・・完璧に浮かれてる、いやイカレてるよコレ。ま、銃片手にお礼参り達成寸前だった俺が言える立場じゃないけど。
それでも何となく、平野の放つ気配が今までとは違う気がする。銃にイカレる様はアメリカでも何度も見たけど、そう、今の平野は何時路上に飛び出して銃を乱射してもおかしくない様な殺気と狂気じみた気配がうっすらと――――
ま、どうでもいいか。仮に平野がそんな事を実行に移したとしても、どうせそれ以上の混乱が世界中で起きてるんだ。今更誰が気にするものか。
そもそもさっきも言ったけど、俺が言える立場でも止めれる立場でもない。
「平野ってそういえば狙撃銃はセミオート派だったよな」
「ボルトアクションも悪くないけどね。威力と精度よりも手数だよ手数」
結局、VSSも持っていく事になった。確かに、MP5SD6やMk2以上のロングレンジを狙える消音銃の頼もしさは否定出来ない。
さて、他には何を持っていこう。拳銃、アサルトライフル、サブマシンガンにスナイパーライフルときたらショットガンも必要だろう。反動の強さを除けば散弾だから狙いが大雑把でも当たりやすいんで、銃の腕を補いやすいし。
それにこの場合、ショットガンの最大の利点は拳銃弾や軍用ライフル弾とは違ってこの国の銃砲店でもある程度弾薬の補給が利く点だ。拳銃や自動小銃の所持が違法な日本じゃアメリカでは当たり前に売られてる9mm弾でもほぼ入手できない。
それこそ警察、それも特に重武装な銃器対策課やSAT(特殊急襲部隊など)が置かれてる所か自衛隊や在日米軍の基地でもなければほぼ無理だ。もしくは、ここみたいに非合法な武器弾薬が置いてある場所か。
そういえば、この床主市には右翼の中でも特に巨大かつ過激な団体の本部が置いてあって、そこの指導者が今ここには居ない高城の父親だと平野経由で聞いた様な気が。
もしかしたらそこでも補給の伝手はあるかもしれないが、あんまり当てにしないでおこう。いざとなればまたここに来るまでだ。
大雑把に見ただけでも数種類、ポンプアクション式もセミオートの物も問わず並んでいる。
その中で、特に俺が目を惹かれたのは。
「これはまた・・・そんな物まで・・・」
「そ、それって、何なの?」
「MPS社製、オートアサルト(AA)-12――――フルオート連射が可能な化物ショットガンだよ。使用する弾薬は散弾から特別製の小型榴弾まである、とんでもない威力の持ち主さ」
本当、どうやって手に入れたんだお隣さんは?ただのノーマルじゃない、フラッシュライト一体型のフォアグリップまで取り付けてあるし、ドラムマガジンまで置いてある。
決めた。これを持っていこう。ドラムマガジンも合わせるとかなり嵩張るけど一目惚れしちゃったんだから仕方ない。
「ショットガンは他にどれを持ってく?」
「そうだね、素人にはポンプアクションよりもセミオートの方が扱いやすいと思うけど、ポンプアクションの作動の確実さも捨てがたいし・・・あ、槍術部の宮本さんもいるんだからバヨネット(銃剣)が付けれる奴も持っていけば役に立つかも」
「それじゃあこれと・・・これにするか」
俺が選んだのはイズマッシュ・KS-Kとモスバーグ・M590ショットガン。
前者が世界に最も存在するって言われてる傑作アサルトライフル・AK47をベースに開発したサイガ12を若干小型にしたセミオート式散弾銃。後者はM500の軍用モデルで銃剣用のバヨネットラグを備えたポンプアクション式の銃だ。
AA-12と併せてどれも口径は12ゲージで統一されてるから弾薬は共有でき、それぞれに合う弾を探すという余計な手間をかけずに済んだ。
っと、急いだ方が良い。小室達との待ち合わせ時間は夕方の午後5時。街の中心部に近づけば近づくほど混乱は酷いだろうから、余計な足止めを食らって遅れるのは出来れば防ぎたい。
「とにかく銃とか弾とか他に必要そうな物を片っ端からまとめておくから、平野はもう何丁か見つくろっといてくれ。里香は荷物をそこに置いてあるバッグに詰めとけ」
「あ、あれ?マーくん何処に行くの?」
「食糧とか他に必要なもん探してみる。サバゲー用の装備も何かの役に立つかもしれないし、俺の部屋から持ってくる」
タクティカルベストは流石に全員分置いてなかったし、水や食糧は必要不可欠なのは当たり前。後は替えの服に金―――はどうなんだ?このままじゃ核戦争後の世界みたいにケツを拭く紙にもならない代物になってもおかしくないけど。繋がらないかもしれないし平野と里香以外に掛ける相手もいないけど、充電器に置きっぱなしの携帯も一応持って行っておくか。
やはり廊下に<奴ら>の姿は無い。1つ手前の俺の部屋へ。出来るだけ大きめのバッグを手当たり次第に探し、片っ端から必要になりそうな物を中へ押し込む。
意外なほどに時間はかからなかった。机の上の物にふと目が付き、それを手に取る。
死んだ両親の写真。仲の良い夫婦だった。今はもう居ない。
もしあの日2人が死なず、この死者が歩き回って人を食うという現実に直面していたら、2人はどうしていたのだろう。
――――――どうでもいい。
2人は今日という地獄が始まる前に死んだ。それだけが事実。
向こうも準備を終えたのか、俺を呼ぶ声が聞こえる。
ずっと過ごしてきた我が家も思い出の写真も捨てて去る事に、俺は何の躊躇いも覚える事が出来なかった。
「・・・どうする?」
「・・・そう言われても」
「ど、どうしよう・・・?」
問題発生。俺達は6階から降りれなくなった。
何故かと聞かれれば、特に悩まなくてもすぐに答えは分かる。防火扉の向こうで鋼鉄を叩いたり引っかいたりする音がよく聞こえるから。
上の階から降りてきたのかそれとも下の階層に居たのを見逃したのか、とにかく非常階段は<奴ら>が殺到していてもう使えまい。こうなれば危険を冒してエレベーターに乗ろうと試みたけど失敗だった。中の箱が全く来る気配が無いのだ。
合計すれば100kgは軽く超えるだろう大荷物。せっかくの大量の武器弾薬だというのに持って行けないんじゃ意味が無い。
いやま、その内半分以上を里香が軽々背負ってケロッとした表情を浮かべてるのは頼もしいんだけど、そんな大荷物を持って持たせて非常階段を強行突破するのはリスクが高過ぎる。
「・・・仕方ない。軍隊の訓練ばりにロープで懸垂下降でもしてみるか?」
「無理っ!それ絶対僕が運動苦手なの分かって言ってるでしょ!?」
「そもそもそれやるロープも無いんだけどな。あ、なら消火栓のホースでも代わりに使う?」
「Noooooooo!!」
実際は漫才やってられる状況じゃない。分かっちゃいるんだが、どうしたものか。
いっそ本気で消火栓でダイハードごっこでもやってやろうかと考え、そっちの方を見る。
・・・・・・・・あ。良いのがあった。
「安心しろ平野。丁度良いのがあったぞ」
「え?」
このマンションはちょっと古い。古いだけに、防災設備やセキュリティも最新鋭の物じゃない。むしろ藤美学園の設備の方がよっぽど近代的なぐらいだ。
だから、最近の建物じゃ余り見かけない金属製の大きな箱が通路の奥の方に置いてあるのに平野も気付いても、それの正体がすぐに分からなかったのも無理ないのかもしれない
「これは・・・そうか、非常用の避難シュート!」
1度悟れば話は早い。俺と平野が箱の蓋を開けるとと巨大な布の塊が姿を現した。
意外と重量がある。ちょっと苦労しながらシュートを引っ張り出す俺達を見かねたのか、里香も手を貸してくれた。荷物を下ろさないまま。
一気に楽に持ち上げれた辺り、やっぱりこのちっちゃい幼馴染の馬鹿力は半端ないのを思い知らされる。何食ってるんだコイツ。どうでもいいが。
「せぇのっ!」
そのまま廊下の手摺の向こうへシュートを投げる。シュートが花壇の茂みに接地した瞬間、下から意外と大きな音がした。この音に他の<奴ら>が集まってくる可能性もある。急いだ方が良い。
ってか結構高さあるけど、大丈夫なんだろうな?こういうのは普通もう少し低い階で使うもんだって聞いてたけど。
けどもう後には引けない。非常階段からはもはや鋼鉄が軋む音すら聞こえている。向こうもどれだけ馬鹿力なんだ<奴ら>は。
「俺が最初に行く。引っかかると危ないから荷物は俺が下りて大丈夫なのを確認してから滑り落としてくれ。その間に俺は車を取ってくる」
「了解。車の鍵を忘れないで」
「ま、マーくん、気をつけてね!」
「言われなくても分かってる」
平野からSUVの鍵を受け取った俺は、縁に足をかけると覚悟を決めてシュートに飛び込んだ。ライフルは胸元にしっかり抱え、足から滑りこむ。
6階分の高さから地面まで滑り落ちるまで5秒も経ってないと思う。意外と衝撃は無かった。柔らかい土と茂みがクッションになってくれたらしい。
こんな滑り台、小学校の避難訓練以来だ。出口から身を乗り出し、俺を心配そうに見下ろしていた平野と里香に向けて親指を立てる。背後で聞こえる布と荷物が擦れ合いながら滑り落ちてくる音を背中で聞きつつ、サイレンサーを付けっ放しのP226Rを抜き出しながら止めてある車の元に向かった。
シボレー・タホは数十分前と変わらない位置に止まったままだった。車の周囲に敵影無し。だが、こちらへと一歩一歩着実に近づく<奴ら>の姿が複数、遠目に見える。
運転席に乗り込み、エンジン始動。エンジンは即座に反応し車体を震わせた。滑り台の元まではバックで向かう。
出口部分には既に中身が満杯のバッグや背嚢がダムみたいに滞って積み重なっていた。すぐに最後部のハッチドアを開けて、荷物を積み込んでいく。ズッシリとした固い重みに腕の筋肉が悲鳴を上げるけど、重量感と中身の正体を教えてくれる丈夫な布越しの金属の感触には頼もしさも覚える。
あっという間に荷物用スペースが荷物で埋まった。まだ残っているかと思い、次に滑り落ちてくるだろう荷物を素早く受け取るべく、シュートの出口に半ば身体を突っ込み、身構える。
近づいてくる摩擦音――――――「うわ~~~~~~」って間抜けな声も聞こえてくるのに気づいた時にはもう遅い。
顔面にぶつかる布に包まれた塊。砂でも詰めた特大のブラックジャックでも食らったのかと思いながら俺は吹っ飛ばされ、背中からもんどりうって倒れる羽目になった。
痛い。そして重い。
「・・・何だよ一体」
握ってた筈の拳銃は何処行った。というか乗っかってるのは一体何だ。
顔に乗っかってる何かに視界を奪われっぱなしなので適当に手探りしていると、温かい物に触れた。布地でも金属って感じでもない。
「わひっ!?わ、わわ、あわわわわわまままままマーくん触っちゃダメだよぉ!
・・・ああそういう事。どーりでえらい温かいし柔らかいしグニグニ動く筈だよ。
「とりあえずどけ。重い」
「あう・・・・・・ご、ゴメン」
顔を押さえつけていた存在が離れたので身体を起こす。M字開脚気味に尻餅をついた里香が、顔を赤くして涙目で俺を見つめていた。お尻とスカートの前辺りを押さえている辺り、コイツの尻の下敷きになったと思われる。さっき手に触れたのは太股か、もしかして尻か?
役得というかラッキースケベとでもいうんだんだろうか、こういう場合。
「タッチダァァゥウン!いやぁギリギリだったよ。もう<奴ら>が防火扉まで突破して廊下に出てきてさ―――――って、何かあったの2人共?」
「何でもねぇ、どうでもいい事があっただけさ」
・・・・・・マーくんのバカ、という呟きは聞かなかった事にする。
次の目的地は、小室達との再合流予定地点である東署だ。
―――――もしかして、着いた途端に今更銃刀法違反とかで捕まったりしないだろうな?