※某所でのリリなの連載がやっと完結したから更新してみる
※で、HOTD小説版はどうなった!?3月発売じゃなかったの!?
「ああそんな・・・・・・!」
背中に届いた声の主は男だから小室か平野のどっちかか、もしかすると松戸さんかもしれない。少なくとも俺が言ったんじゃない。
俺の方はただ――――P226Rをホルスターから抜いて希里さんに向けただけ。照準には頭に。
「止めろ、真田!」
「いや、良いんだよ小室君。彼の行動は正しいよ」
「くっ・・・!」
悲しげに首を振りながら希里さんは諦観の笑みを浮かべた。きっと自分の運命を明らかに悟っていたから。
学校で嫌ってほど見てきた展開。<奴ら>に噛まれれば最後、生きた人間は長くは持たず1度死んでから<奴ら>の仲間入り。そうやって出来上がったのが今この世界。
男も女も老人も子供も関係無し。死ぬのと一緒だ。誰もが平等にそうなる。
希里さんだけが例外だなんてそんな都合のいい展開―――――ある筈が無い。
「ごめんな、ありす。パパとはこれでお別れだよ。パパはもうありすと一緒に行けないんだ」
「そんな・・・やだ、やだ、やだよそんなの!」
鞠川先生の手を振り払ってありすちゃんは父親に抱きつく。希里さんも受け止めて抱き締め返したけど、噛まれた方の腕を使わないのは動かなくなっているのか噛まれた部分がなるべく娘に触れないようにする為か。
あっという間にしゃくりあげて鼻水をすする音が聞こえだす。何となく、恐らくこれで最期だろう父娘の触れ合いが周りの喧騒から切り離されてる様に感じた。
希里さんとありすちゃんを除き、松戸さんも含め他にここに居る人間がその光景を前にただ立ちつくしている。俺も既に拳銃を持った手を下ろして、小室達の仲間入りを果たしていた。それしか出来ないでいる。
「やだやだやだ!一緒に居るもん!ありすはずっとパパと一緒だもん!」
「無理なんだよ、パパは。これ以上パパがありすと一緒に居ると、今度はありすまで危なくなっちゃうからね」
「それでもいい!ありすはずっとパパと居るのぉ!!」
ありすちゃんは理解してるんだと、俺は漠然と悟った。
此処で別れれば最後、もう父親に会えないんだと。父親が死ぬ運命にあると幼心なりに、それとも子供だからこその鋭さで理解してしまったんだと。誰かにハッキリと教えてもらった訳でもないのに。
と、無傷な方の手でありすちゃんの頭を撫でながら俯いていた希里さんの視線がおもむろにこっちに向く。
「―――――ありすを、お願いします。どうかこの子を、守ってもらえませんか」
涙を浮かべながら深々と頭を下げる希里さん。その姿は悲痛さと無念さと懇願が入り混じっていて、言葉に言い表せない切なさをこっちに与えてくる。
「ねぇ孝、どうにかしてあげれないの!?」
「分かってるだろ、麗。永の時と同じだ・・・もう手遅れなんだよ」
「お兄ちゃん、先生、パパを助けて!あの時みたいにパパのお病気を治してあげてよぉ!」
「ありすちゃん・・・それは・・・・・・」
鞠川先生はごめんなさい、と呟いて首を横に振った。涙目のありすちゃんが今度は俺の方を向く。
ありすちゃんには悪いが、確定事項の死を変える力なんて俺は持ってなんかいない。神様にでも頼むべきなんだろうけど、ゾンビ連中が世界中で大量発生してるこの情勢を考えると神なんかを当てにする方が間違ってるだろう。
そう、この場で希里さんに俺が出来る事といったら――――
「介錯は、要りますか?」
「オイ真田!?」
「―――――いや・・・・・・大丈夫だ。これ以上君達の手を煩わせる必要は、無いよ。私の分の武器は持って行ってくれ」
そう言って希里さんは装備を脱ぎ出す。差し出されたそれらを黙って受け取り、沈痛な表情の小室達の間を突っ切ってハンヴィーの中に放り込む。
「爆弾がまだあるのなら、1つで良いから私にくれないか?せめて最期に君達の道を開く手助けをさせて欲しい」
息を呑む気配がまた車庫の中に広がった。だけど誰も止めない。ありすちゃんだけが泣きじゃくってまた父親に縋りつく。
泣き声に<奴ら>が集まってこないだろうな?と俺は考えてしまった。子供1人の泣き声よりも向こうで聞こえ続ける銃声と爆発音、断末魔の叫びの方がよっぽどうるさい。
バッグから手榴弾を1つ、そしてトラックの荷物から失敬して下の方に隠しておいたダイナマイト数本を取り出し、メゾネットで調達してきた中に混じってたビニールテープを見つける。
まずダイナマイトをビニールテープで巻きつけてまとめてから、更に手榴弾の球形の本体部分とダイナマイトをビニールテープでくっつけた。手榴弾と合体した余計な物の存在に驚いた様子の小室達を無視して希里さんに手渡す。
「手榴弾だけだと威力の関係で楽に死ねるかどうか分かりません。こうしとけば、確実に苦しまずに一瞬で済みます」
たかが手榴弾1発でアレだけの数の<奴ら>を突破するだけの穴は開けられない、という判断もあった。お涙頂戴な場面でもそれだけの打算を立てれてしまう自分に呆れてくる。
希里さんも驚いた風に目を見開いてから―――ありがとう、と小さく漏らした。
未だしがみつこうとするありすちゃんを片手で俺に押しやる。
「・・・アンタ、漢の鏡だよ」
松戸さんが悲哀と感動と尊敬の入り混じった声色でそう言った。
希里さんが背中を向けて車庫から出ていく。俺も振り返って、受け取ったありすちゃんが逃げていかない様に手に力を込めながら皆の元へ向かう。
もうこれ以上言葉を交わす必要も、そして時間も無い。
パパ、パパ!!と泣き叫ぶありすちゃんを無理矢理ハンヴィーに押し込んだ。
・・・・・・何だよその目は。
「脱出する気ないのか?」
「っ!分かってるわよ!ほら皆車に乗って!」
奇怪な物を見る視線を送ってきていた面々がようやく動き出す。決して視線に込められた感情は良い物とは言い難かった。宮本なんか微妙に敵意っぽいの混じってたし。
ふと松戸さんと目が合う。それから松戸さんの存在を思い出したらしい小室が彼に問いかけた。
「あの、松戸さんは」
「惚れてる女がみんなと一緒だからね」
ニヤリとレンチを構えて男臭い笑み。
最期まで娘の為に何かしてみせようと行動する希里さんといい、創作の中じゃなくてもこういうカッコイイ大人も居る時には居るもんだ。
こんな中で散ってしまっていくのが少し口惜しい。今ばかりはどうでもいい、とは感じなかった。
「先生、俺はこのバギーの方に乗ります!」
「ええっ、大丈夫なの!?」
「何とか運転はいけますし、あの大荷物にこれだけの人数じゃ幾らなんでもきつ過ぎるでしょ!」
ウン十丁の銃器弾薬他諸々に合計9人。確かにかなりキツい。
それにしてもよく躊躇い無く危険な方に志願できるもんだ――――俺みたいに危険と殺し合いを楽しみたい訳でもない癖に。
俺はATVの後部スペースに武器弾薬が入ったバッグを置いてから操縦席の隣に乗った。
「真田、お前っ」
「お前の言った通り、あっちはキツそうだからさ。それに外の空気も感じたい所だし」
「・・・分かった、援護は頼むぞ!」
「任せとけ」
ハンヴィーのエンジンがかかる音も背後から聞こえてくる。
スリングでM4をぶら下げたまますぐ後ろのバッグからAA12を引っ張り出し、更にM79も手の届く位置に置いといて、戦闘準備は万端―――――
今までのよりも若干大きめの爆発が車庫を揺らした。
「・・・・・・・・」
何が起きたのか、漠然と予想できた。
正門周辺は火薬の煙に覆われて判別しにくいけど、押し寄せていた<奴ら>の大波がぽっかりと抉り取られてるのがシルエットで判別できる。
――――希里さん
「小室、今のうちだ。突っ切ろう」
「・・・っああ!!皆、行くぞ!!」
「沙耶お嬢様、お元気で!」
「私はいつも元気よ!」
小室の号令。荒々しくアクセルが捻られ、タイヤが地面を捉えて飛び出す車体。流石軍用、かなりの馬力と加速だ。
ATVとハンヴィーは避難民と高城の家の人達の横を通り過ぎてまっすぐ門へ突き進む。一瞬、高城の親父さんと目があった気がした。
門周辺は辺り一帯赤く染め上げられていた。それが<奴ら>の血なのか犠牲者の血なのかは判断が付かない。もしかすると希里さんの者も混じってるのかもしれないが、どうでもいい。
だけどこれが予想外の影響を俺達に与える。それは、
「ちょ、うわ、このっ、いきなり滑りだしたぞ!?」
「血のせいだよ!余計な物ふんづけないよう気をつけろ!」
右に左に似揺れる揺れる。転がっていた腕か足かに乗り上げて車体が傾ぐ。奇声を上げながら小室の運転でバランスを取り戻す。
こういう絶叫マシン的なスリルはちょっと予想外だった。
門の外にはまだまだ押し寄せようとしてる<奴ら>の群れ、群れ、群れ。
邪魔だ。そこをどけ。
「しっかり掴まれ!」
「Let‘s Rock!!」
片足をダッシュボードに乗せ、背中を座席に押しつけるようにして姿勢をさせながらAA12の引き金を絞る。
フルオートで大体3発ごとに指切りバースト。OOバック弾だから3発で27発、大抵のサブマシンガンのマガジンほぼ1個分の弾丸が小刻みにばら撒かれる。
銃声が鳴る度立ち塞がる<奴ら>が突き飛ばされたみたいに倒れていく。撃つより早く急に飛び出してくる<奴ら>も居たが、松戸さんの言ってた通りATVはあっさり<奴ら>を撥ねとばして車体の染みに変えてくれた。
少し後ろをちゃんとハンヴィーが追従してくるのを確認しながら門を突破し、道路に差し掛かる。高城家正門前の道路は長い下り坂になっていて・・・・・・
「おいおい、真田、あれ!!」
「ちゃんと見えてるよ!」
小室と俺が気付いたのは、道路にも結構な数の<奴ら>がのそのそ集まって来てる事なんかじゃなく。
坂の終点、コンクリート製の子供の身長ぐらいの高さの壁が並べられてて、マイクロバス(見覚えがあるタイプだ)が突っ込んだせいで出来たらしい空間から<奴ら>が次々侵入して来てるのは見れば分かる。
――――肝心なのは、バリケードとマイクロバスの間の空間が予想以上に狭い事。
このATVならともかく、ハンヴィーじゃ確実に通れない。
どうする?幾らなんでもあのコンクリートブロックは破壊出来ない。なら、狙うは。
「小室、なるべくコイツの挙動を安定させといてくれ!」
「ちょっと真田、一体何をする気なんだ!?あれどうにかしないとヤバい、まず止まった方が―――」
「こんなとこで止まってる余裕は無い。映画みたいに上手くいくか祈っといてくれ」
「はぁ!?」
M79を掴みつつ座席から立ち上がる。ああいうバスとかの燃料タンクは大体車体後部の座席の下辺りな筈。
使われてる燃料は?ガソリンか天然ガスを使ってるんならまだいい。ディーゼルエンジンだったら、弾頭の威力だけが頼みになる。
丁度こっちに尻を向けて止まってるマイクロバスの左後部を狙って躑弾を発射。これは半ば賭けだ。上手く当たってくれて、尚且つ狙い通り起きてくれれば・・・・・・
躑弾が命中して炸裂。直後、マイクロバスの後ろ半分を紅蓮の炎が包んだ。破片が燃料タンクを誘爆させてくれたのだ。
斜め下から爆発に突き上げられたバスの車体は右へ傾き―――――右側を通ろうとしていた数体の<奴ら>を押し潰し、そのまま横転。
マイクロバスが横倒しになった分新たに空いたスペースは、ハンヴィーの車体が通るのに十分だった。
「「いよっしゃぁ!!」」
思わず隣の小室とハイタッチ。炎上するバスのすぐ横を通って広がりつつある黒煙を突っ切る。煙の臭いから、どうやらあのマイクロバスはガソリン車だったみたいだ。
・・・・・・煙が目に沁みてよく分からなかったけど、何人か高城邸とは逆方向に向かう人影があった気がした。多分先に逃げ出す事に成功してた避難民だと思う。
しばらく走って<奴ら>の姿が見えなくなり始めた頃、新しい躑弾をM79の銃身に押し込みながら小室に話しかけた。
「で、これからどうする?」
「皆には悪い気で僕達の親探しに付き合ってもらう!麗と僕、古馬さんの家、東署、新床第3小学校の順で!このまま走れば2時間もかからない!その後は先生の友達も探そうと思う!それでいいか!」
「俺は別にそれで構わない―――そこを曲がったらもう国道だ」
小室の操作によって横滑りしながら国道に突入。そして即座に小室はATVを止めた。
小室は愕然と口を半開きにし、俺はめんどくさそうに溜息を吐きながらも、内心楽しみが増えたと笑みを浮かべる。
後続もハンヴィーも国道に出た途端急停止。多分車内の連中も小室と似たような表情を浮かべてるに違いない。
2種類のエンジン音に混じって啜り泣く音しか聞こえない―――――そう、もうそれしか聞こえなかった。
他の生きた人間が起こすであろう音は、ATVとハンヴィーが立てる重低音とありすちゃんの泣き声しか存在しなくなっていたのだ。
それらを除けば、聞こえてくるのは<奴ら>が蠢く不気味な生っぽい足音だけ。ここから見えるだけで道路上に数十体の<奴ら>の姿。どいつもこいつもがこっちに向かって接近中。
小室が忌々しげに呻いた。
「こんなに・・・どうしろってんだよ!」
「そりゃあ、まぁ何となく予想はつくけど」
「ならどういう事だよ一体!」
「分からない?<奴ら>は音に反応する!そしてEMP攻撃は街銃から人間とその技術が作り出した大きな音を消し去ったワケ!アタシ達やアタシのパパはそうした中ダイナマイトまで使った!」
「説明どうも。ついでに俺達はこうやって音の出る乗り物に乗ってそこいら中から<奴ら>を引き寄せてるって事さ。俺達以外の車の音なんか聞こえないだろ?」
「納得はいった。だが今問題になっているのはこの場をどう切り抜けるかだよ」
ひょこひょこ窓から首を出して話に加わってくるハンヴィー組。その間にも近づきつつある<奴ら>。
「そう言えば2人が乗ってるバギーも水陸両用よね?川を渡った時みたいに川に入ってやり過ごせばいいのよ!<奴ら>は水に入らないじゃない!」
「ダメです宮本さん、それは止めておいた方が良さそうです。どうもこの車エンジンがヤバいみたいですよ」
「なんかお車調子が悪くなってきてるみたいなの~。変な音が聞こえてくるし・・・」
「ならあのバギーに乗り替えれば!」
「大所帯な上にこのお荷物でか?もう少し周り見て物事考えなよ」
「突破するにもこれだけの数が相手じゃ―――」
「なら一体どうすればいいって言うのよ!?」
喚き散らすだけじゃ何も変わらないのをいい加減理解したらどうなのさ。それに自分からまた<奴ら>引き寄せるような真似してどうするってんだ。
さて、どうする?動く車は2台、<奴ら>はいっぱい。
強行突破なら大歓迎だ。まだまだ暴れ足りない。AA12のマガジンも交換して戦闘準備は万全。
――――そこへ不意に横槍が入れられた。他でもないリーダーの口から。
「真田、お前は降りてくれ。先生、車のエンジン止めて。早く!」
「ふぇぇっ!?う、うん」
「孝!?一体何で」
「僕が走りまわって<奴ら>を引きつける。辺りから<奴ら>の姿が居なくなったら出発してくれ。合流地点を設定しておけば、必ず戻ってくるから皆は其処で待っててくれ!」
囮、か。
確かに良い手だとは思う。でも調子が悪いのにハンヴィーのエンジン止めちゃって大丈夫なのかと言いたかったけど先生がさっさとエンジン切っちゃってタイミングを失った。まあどうでもいいか。
「でもそんなの危険過ぎるわよ!」
「もうそれしか手は無い!このまま強行突破する方が危険過ぎる!僕とこのバギーだけならまだ身軽だ!」
リーダーは単独で行く気満々だけど俺にとっては絶好のチャンスだった。
危険なのは丸分かりで――――その危険を俺は望んでるんだから。付き合わない手は無い。
「なら俺も付きあ――――」
「なら私も一緒に行こう!」
俺の申し出はより大きな声での表明によって掻き消された。
えっ、といった風情で間抜けな顔を浮かべた小室共々振り向くと、屋根から身を乗り出して仁王立ちな毒島先輩の姿。どうでもいいけど黒のパンツ見えてますよ。
「いやでも・・・」
「役に立つと思うよ?私の方が音を立てずに<奴ら>を倒せるからね。こう言っては何だが、真田君の戦いはちょっと『派手』過ぎるし、私の方が適任だろう」
否定は出来ない。でもあっさり引き下がる気にもならないが、<奴ら>は待っちゃくれない。
ATVのエンジン音に誘われて刻一刻と到達までの時間が減っていっている。
そして小室の選択は、
「すみません先輩、お願いします」
「心得た!」
「スマン真田、皆の事を頼む!」
だからその真っ直ぐな目でお願いしないでくれ。どうしてこう、こっちがこれ以上強気に出れない雰囲気放つかな。
小室って世界がこうなる前からそういう奴だったんだろうか。間違いなく、小室は天然の人たらしだ。
クソッ。だけど暴れれる可能性が完全に無くなった訳じゃない。むしろ先延ばしになった方が正しいな。今は我慢しよう。
ああもう、本当にやりづらい奴だよ。
「小室!せめてこれ持ってきなよ!サイレンサー最初から組み込んであるからかなり銃声を抑えてくれるよ!」
そう言って平野が投げ渡したのはH&KのMP5SD6。特殊部隊向けの消音サブマシンガン。マガジンポーチも一緒だ。
毒島先輩と入れ替わるように荷物を持ってハンヴィーへ。擦れ違う瞬間、「皆の事を頼んだぞ」と耳元に囁かれた。
ご生憎様、俺は自分の事で精一杯です。
如何にも馬力がありそうな騒々しいエンジン音を殊更派手に響かせながら、2人の乗ったATVは国道を下っていった。わざわざ<奴ら>が固まっている所に突っ込む様な形で。
予想通りというべきか、ハンヴィーのかなり手前まで近づいていた<奴ら>の群れが一斉に回れ右。引き潮みたいにのそのそと離れていく。
俺はハンヴィーのボンネットにもたれかかりながら溜息を吐きつつ空を見上げた。
もう正確な時間を知る事は出来ないけど、空はかなり黒ずみつつあった。沈みゆく夕日は地平線の彼方に消えようとしている。
闇が近づきつつある。
夜闇を明かりなど最早何処にも存在しない、本物の闇が。