<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.20843の一覧
[0] ちみっ子の使い魔[TAKA](2010/08/17 03:19)
[1] ちみっ子の使い魔 第一話 お姉様と僕[TAKA](2010/08/17 03:19)
[2] ちみっ子の使い魔 第二話 二人の決意[TAKA](2010/08/17 03:19)
[3] ちみっ子の使い魔 第三話 魔法使いとの初喧嘩[TAKA](2010/08/17 03:19)
[4] ちみっ子の使い魔 第四話 女たらしとクックロビン[TAKA](2010/08/17 03:20)
[5] ちみっ子の使い魔 第五話 今ここにある幸せとどこでもない理想[TAKA](2010/08/17 03:20)
[6] ちみっ子の使い魔 第六話 探検、発見、町と剣[TAKA](2010/08/17 03:20)
[7] ちみっ子の使い魔 第七話 ルイズとモンモランシー[TAKA](2010/08/24 22:22)
[8] ちみっ子の使い魔 第八話 ちっぱいと牛ぱい[TAKA](2010/08/24 22:30)
[9] ちみっ子の使い魔 第九話 キュルケと才人と振り回された人達[TAKA](2010/09/02 23:38)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20843] ちみっ子の使い魔 第四話 女たらしとクックロビン
Name: TAKA◆1639e4cb ID:bc5a1f8f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/17 03:20
 昼下がり、才人はマリコルヌと並んで食堂でケーキを食べている。
 ほんの十数分前、ルイズが調べ物のために図書館に行ったので、小腹の空いていた育ち盛りの才人は、食堂で軽く何かを食べながら姉の帰りを待つことにした。
 すると、先日小競り合いをしたマリコルヌの丸い撫で肩が見えたので、暇に飽かせて隣に座ったのだった。一応和解は成立しており、マリコルヌは特に嫌そうな素振りも見せずに才人に応対していた。

 マリコルヌの眼前の皿には、三種類のケーキが二ピースずつ、風車の羽のように並んで円を成している。オレンジゼリー付きショートケーキ、レアチーズケーキ、チョコレートムースが各々二つずつ並ぶ皿の上の密度は、見ただけで胸焼けする者もいることだろう。

「兄ちゃん、食い過ぎ。そんなんじゃ痩せられないよ。だから援護しまーす」

 言うが早いか、才人はチョコムースを一つフォークで突き刺して、さっと自分の皿の上に運び去る。そして、マリコルヌの非難よりいち早く一口目を堪能していた。

「あ、こら! 僕のケーキを勝手に取るな!」
「兄ちゃんは、自分に厳しく出来ない人なので、僕が協力してあげるのです。感謝してほしいのです」

 マリコルヌは、奪われたものについては諦め、とりあえず五ピースを搭載した皿を小さな盗賊から遠ざけた。奪われたチョコムースは、既に半分以上才人の胃袋へと姿を消している。

「はー、ここのケーキ美味しいね~。パティシエさんは、そりゃもう凄い人なんだろうね~。お兄ちゃんが食べ過ぎるのも無理ないかもだけど、その分運動しないと痩せらんないよ」

 無造作に自分の腹肉を抓む小さな手を、マリコルヌは反射的に払い除けた。ケーキは盗む、小言は言う、脂肪を掴むとやりたい放題の子供に対して、不機嫌さを半分は漏らしながらも返事をする。

「別にいいんだ。確かに、太ってたらなかなか女の子は振り向いてくれないけど、それでも僕は、太っちょでも振り向いてくれる相手を諦めずに探すんだから」
「そうだね~。お笑い芸人なら、デブとかブッサイクでも綺麗な女の子にもてたりするね~。お兄ちゃん、そっちの才能は有るの?」
「喜劇役者ってことかい。無い、って言うかそもそも考えたことも無いよ」

 互いに異世界の住人同士である両者の、お笑い芸人に対する認識はかなり違う。
 現代日本に生きる才人の認識では、お笑い芸人とは、ルックス・学歴・スポーツ等のスペックに関係無く、視聴者を楽しませることさえ出来れば、お金や女の子からの人気を沢山得られる、アメリカン・ドリーム的性質の非常においしい職業だというものである。
 片やマリコルヌからしてみれば、喜劇役者と言うのは、一発当てれば下手な貧乏貴族などより遥かに上の収入を得られるものの、世間の目からすれば所詮道化師に過ぎない、色眼鏡で見られるものだという認識である。貴族のご子息である彼からすれば、職業の選択肢に上ること自体ナンセンスなのだ。
 故に、才人の言っていることは、マリコルヌにはいまいち意図が掴めなかったりする。

「ふ~ん。やっぱり痩せるのが、一番大変だけど確実と思うけどね~。あとは特殊技能とか性格でカバーかな~。ファイトファイト!」

 肩をばしばし叩いて励ます、陽気で能天気な子供の方に、マリコルヌは首を向けてじっと見つめ、そしてケーキに視線を戻してフォークを刺しながら考える。
 ルイズとモンモランシーという二人の美少女から、大層可愛がられている羨ましい子供。こいつが人気なのは、元気でやたら人懐こいところと、何と言っても年が離れていることだろう。
 性格に関しては、自分とこいつとではかなり違うのだが、年下というアドバンテージを活かすことは自分にも可能ではなかろうか。こいつと彼女達は六、七歳くらいの年齢差だろうから、自分も二十代前半の美しいお姉様に甘え――。

 何やら重大な勘違いをし始めたマリコルヌは、脳内で桃色の妄想に囚われていく。
 肉付きのいい顔をますますだらしなく緩める彼の隙を突いて、才人は次のケーキを掠め取ろうと皿の上の三角柱達に目を光らせ、フォークを伸ばそうとした。
 が、その直前、ぱしーんと乾いた音が響いたので、マリコルヌは現実世界に意識を引き戻され、才人も二度目の略奪をすんでのところで断念させられる。

 音のした方向を見れば、数名の男子による一団と、そこから両手で顔を押さえて早足で去っていく少女の後姿があった。男子達の中心では、金色の巻き髪でフリル付きのシャツを着た少年が頬を押さえている。

「何があったのかな? ひょっとして修羅場?」

 インターネットの動画サイトで恋愛ドラマを見たこともある、少し耳年増の小学生に、マリコルヌは問題の場に視線を向けたまま答えた。

「そのようだね。あの頬を押さえている奴は、ギーシュ・ド・グラモン。トリステインでも有数の大貴族の四男坊だが、ちょっと顔がいいからって、可愛い女の子に次々と声を掛ける軟派な気障男さ」

 幾分忌々しげな言い方から、才人はギーシュに対するマリコルヌの良からぬ心象を感じ取ったが、視線の先に近付いて来る黄金の巻き毛を見ると、彼の関心は一瞬でそこに取って代わられた。

「モンお姉ちゃんだ」

 反射的に動き出した才人の表情は、ご主人様を見つけて駆け寄る甘えん坊の子犬を彷彿させるものであったが、自分の脇を通り過ぎようとした子犬の首根っこを、マリコルヌはがしっと掴んで捕らえた。

「今は止めておけ。後にしときなよ」

 捕まれて振り向いた才人の驚いた顔は、どうしてと尋ねるが如くだったが、マリコルヌがポーカーフェイスで首を左右に振るのを見て、そして優しいモンお姉ちゃんの初めて聞く怒鳴り声に、振り向いた顔を元に戻す。

「嘘吐き!」

 遠ざかっていく金髪巻き毛を追い掛けようとした才人だったが、まだ拘束されている手応えを感じると、怒りと寂しさが入り混じった目でマリコルヌを見上げた。

「気持ちは分かるけど、今すぐは行かない方がいいと思うぞ。ルイズに相談してからの方が」

 マリコルヌの助言が適切であると心から納得出来てしまった才人は、しょんぼりして視線を落とす。何故か罪悪感を感じてしまった太っちょの年長者は、自分のケーキをもう一つくれてやるかと覚悟を決めたが、顔を上げて才人が求めたのは慰みではなかった。

 説き伏せたつもりになって手を緩めたマリコルヌの元から、才人は子供なりの早足でさっさと離れてしまっていた。その向かう先は、ほんの今まで修羅場となっていた男子達のたむろするテーブル。
 それ以外は沈黙が支配する空間において、小さな足音だけが響いて近付いて来ると、男子生徒達はその主に視線を集中させた。

「ねえ、なんでモンお姉ちゃんに怒鳴られたの?」

 金髪に引っ被ったワインをハンカチで拭う色男は、見慣れない格好の黒髪の男児に対し、何かしら答えようとした。しかし、咽喉から言葉を押し出す前に、隣の男子生徒が代わりに答えてしまう。

「二股掛けてるのがバレちまったんだよな、ギーシュ!」

 その言葉を指揮者のタクト代わりにして、ギーシュを除く男子数名は声を合わせて笑い出す。
 才人の年の割におませさんな部分が、初歩的なジグソーパズルを組み立て終えた。この人は、浮気をしてモンお姉ちゃんを怒らせた女たらしだ、という絵図が彼の中で完成すると、後は憤りを色帯びた言葉が自然と紡ぎ出されていく。

「お、女たらしのっ、わ、悪もんだぁー!」

 男子グループ全員の目が丸くなり、そして平静を取り繕うとするおすまし顔のギーシュ以外は、再び愉快そうに笑い出す。

「そうっ、その通り! こいつはギーシュ・ド・ワルモンっていう、可愛い娘には目が無い、根っからの女たらし、病的な女好きなんだ!」
「おいおい、君達。誤解を招くような言い方は止めてくれないか。この子が勘違いしてしまうだろう。いいかい、坊や」

 手櫛で前髪を梳かし、目を閉じながらうっとりと語るギーシュを、才人のボキャブラ辞典が瞬時に適切単語を当て嵌めた。『ナルシスト』である。

「僕には、付き合うといった特定の女性はいないのだ。薔薇が咲くのは、多くの人を楽しませるため。そういうことなんだよ」

 才人の小学生の読解力でも、今の発言の意味は十分に理解出来た。つまり、モンモランシーのことも付き合っている訳ではないと。
 ならば、何故泣いた女の子や、怒ったモンモランシーがいるのだ。それについては、この人はどう思っているのか。

「モンお姉ちゃん、凄く怒ってたよ。お兄ちゃんは、怒らせないようにしなきゃダメなんじゃないの?」

 見上げる子供の真っ直ぐな目と言葉。それでも、ギーシュは後ろめたさなど全く無いかのように、また髪をかき上げて涼しげに微笑んでいる。

「言っただろう。僕は、皆が楽しむための薔薇。誰にも手折られないけれど、誰にも僕を見るなとは言えないのさ」

 周囲の男友達は肩を竦めたり、呆れ混じりの笑顔でいる。いつもの事ながら、よくもまあ芝居がかった臭い言葉が吐けるもんだと、彼等の思考は一致していた。

 一方、才人の心中は憤りがよりくっきりはっきりとなりつつあった。
 ルイズお姉ちゃんと同じくらいに優しくて大好きなモンお姉ちゃん。そのお姉ちゃんを浮気で怒らせて、自分は誰にも縛られないと平然と言い放つ眼前の男は、才人が近所のおじさんから聞いたことのある、所謂『悪い男』の一例であった。
 そんな悪い奴は、こうやって責めてやるんだ。酔っ払いながらも、そのおじさんはやり方を才人に教えてくれたものだ。
 
 パッパンッがパン。
 才人は、町内会の盆踊りでやるような手拍子を始めた。それを何度か繰り返すと、次は手拍子に合わせて掛け声と踊りが加わった。

「だ~れが泣っかせた、モンお姉ちゃん。あっそ~れ」

 甲高い、日本の祭囃子を思わせる声が食堂に響く。
 その踊りは、パッパンの二拍の後の、パンで手を打つ代わりに右足一本立ちになり、そのままヘッドスライディングみたいにして、両手を前に左足を後ろに突き出しながら、地面と平行に前傾する。これを、ひたすら才人は繰り返す。

 この世界の人間が知る筈も無いが、はっぴが似合いそうな可愛らしい男の子の踊りである。
 最初は呆気にとられていた生徒達だったが、ギーシュを除く一同は才人に合わせて手拍子と同じ歌詞、やがて踊りまで真似し始めた。

「わっはっはっ! こいつは傑作じゃないか! お前、面白い歌と踊り知ってんなあ!」
「次は歌詞を変えてみようぜ! もう一人の娘、ケティちゃんでやってみるか!」

 離れたテーブルにいた生徒達も、聞いたことのないリズムの歌と手拍子に、何事かと思ってぞろぞろ人垣を成し始める。さしもの厚顔無恥なギーシュも、終には平静を保てなくなり、才人の両肩を強めに押さえた。

「き、君っ、周りの人に誤解を与えるようなことは止めたまえ! これじゃあ、まるで僕が悪者に聞こえるじゃないか!」
「そうだよ。知らなかったの?」

 平然と肯定する子供の純粋さは、時として残酷である。

 爆笑の渦中でいたたまれなくなったギーシュは、才人を脇に抱えてその場から脱兎の如く走り去る。それに最も速く反応して後を追い掛けるは、彼の悪友の一団。

「ギーシュが逃げたぞ!」
「あの子供を口封じしようったって、そうはいかねえぞ!」
「こんな面白えこと、いつもある訳じゃねえからな! まだまだあれで遊べんぞ!」

 口々に好きなことを言ってはしゃぐ貴族の不良子弟達。彼等の脳裏に、ギーシュへの友情というものは、どのように解釈され収まっているのだろう。






「は~な~せ~! この人攫い~!」

 宙に浮いている状態のため、暴れようにも声を上げるのが精一杯の非力な才人を抱えながら、ギーシュは敷地内を走っていた。
 この平民の子供による想定外の行動によって、公衆の面前で随分と赤っ恥をかかされてしまった。本来なら厳罰に処してやるところだが、残念なことに、この子供はモンモランシーがいつも可愛がっているお気に入り。下手なことをすれば、一生口も聞いてもらえなくなる。それは困る。

 成り行きであの場から逃亡したものの、その後の身の振り方に悩むギーシュは、日頃そんなに体を鍛えていないせいもあり息が切れてきて、やがて才人を抱えたまま石畳の上で膝を屈した。

「はあ、はあ、なんでこの僕が、はあ、こんな、目に」
「あのさ~、いい加減離してよ~。僕、食堂でルイズお姉ちゃんと待ち合わせしてたんだから」

 止まってもなお、才人の胴を拘束する腕をぴしぴしチョップすると、何もかも疲れてしまったと言わんばかりに、ギーシュは攫った児童を地面に転がした。
 パーカーに付いた埃を払い落とした才人は、自分を攫った女たらしを一瞥さえせずにすたすたと歩き出す。そして、視界にある人物が入ると、ぱあっと喜びで表情を明るくし駆け出した。

「モンお姉ちゃーん!」

 自分を呼ぶ元気な声に気付いたモンモランシーその人は、変わらぬ歩行速度で進み、抱き付いて来る少年を笑顔で受け止めた。

「サイト、どうしたの? こんな所に用があるの?」
「あの兄ちゃんに無理矢理連れて来られた。食堂でルイズお姉ちゃんと待ち合わせしてたのに」

 ギーシュは立ち上がりも出来ずに固まった。モンモランシーの冷水の如き視線は、息の上がった体に優しいどころか、慌しく胸を揺らす己の呼吸を逆に止めかねないと彼は感じた。
 そんな視線をすっと外すと、モンモランシーは才人の手を引き、春の小川のような柔らかく温かい笑顔を彼に注ぎながら歩いて行った。敗北感に打ちのめされて頭を垂れた、数十分前までの彼氏のことなど歯牙にも掛けていないと言わんばかりに。






 食堂に着くと、ルイズがテーブルに頬杖を突いて待っていた。駆け寄った才人に、責めとは異なった口調で問い質す。

「どこ行ってたのよ? 心配するでしょう」
「えーとね、ギーシュって兄ちゃんに攫われてましたー」

 さらっと問題発言をする無邪気なお子様に、皺などとは無縁のルイズの眉間に縦筋が数本走る。

「何ですって」
「まあまあルイズ、詳しくは私も今聞いたところだから、説明するわ」

 道すがら、才人から一連の流れを聞き出したモンモランシーの話を聞くと、ルイズは眉間の皺の代わりに腕組みをして、ふうと長めの溜息を吐き出した。

「全く、あんたは毎日のように騒動起こすわね~。人気が出るのは結構だけど、あんまり注目を集めるのはちょっとね~」
「あら、サイトは全然悪くないわよ。悪いのはぜ~んぶ、あの女ったらしのろくでなしなんだから。サイトは、あんな悪い男になっちゃダメよ」
「は~い! 才人君は、悪い男にならないことを誓いまーす! そんでねー、今からさっきの続きやるから見ててねー。花は爛漫、咲っき乱れ~」

 両手を上げて元気に宣誓した才人が、先の音頭の続きを始めると、そんなルイズの気懸かりも、一時的に和みの中に紛れていった。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.024944067001343