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No.20843の一覧
[0] ちみっ子の使い魔[TAKA](2010/08/17 03:19)
[1] ちみっ子の使い魔 第一話 お姉様と僕[TAKA](2010/08/17 03:19)
[2] ちみっ子の使い魔 第二話 二人の決意[TAKA](2010/08/17 03:19)
[3] ちみっ子の使い魔 第三話 魔法使いとの初喧嘩[TAKA](2010/08/17 03:19)
[4] ちみっ子の使い魔 第四話 女たらしとクックロビン[TAKA](2010/08/17 03:20)
[5] ちみっ子の使い魔 第五話 今ここにある幸せとどこでもない理想[TAKA](2010/08/17 03:20)
[6] ちみっ子の使い魔 第六話 探検、発見、町と剣[TAKA](2010/08/17 03:20)
[7] ちみっ子の使い魔 第七話 ルイズとモンモランシー[TAKA](2010/08/24 22:22)
[8] ちみっ子の使い魔 第八話 ちっぱいと牛ぱい[TAKA](2010/08/24 22:30)
[9] ちみっ子の使い魔 第九話 キュルケと才人と振り回された人達[TAKA](2010/09/02 23:38)
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[20843] ちみっ子の使い魔 第三話 魔法使いとの初喧嘩
Name: TAKA◆1639e4cb ID:bc5a1f8f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/17 03:19
 ハルケギニアに召喚されてから最初の夜、才人は床で寝ることを避けられた。
 彼のご主人様にして姉代わりのルイズが、ふかふかのベッドの上にご招待下さったのだ。

 ベッドの中は、ルイズと同じいい匂いがした。並んで横になると、彼女は才人の柔らかい髪を手櫛で梳いてくれた。それがやけに心地良くて、才人はルイズの胸の方に体を向けてくっつき、先程の半分くらいの力で抱き付く。すると、彼女の方も軽く抱き止めながら、優しい子守唄を口ずさみ始めた。

 オルゴールのように繰り返される何周目かの旋律で、才人はすーすーと寝息を立てていた。無意識に紡ぎ出されたその唄は、彼女自身幼少時に枕元で姉に唄ってもらったものと同じものであった。






 翌日午前最初の講義は、『赤土』の二つ名で通っているシュヴルーズが教鞭を取った。紫色のローブに帽子という、才人でも一目で魔法使いだと見当の付く服装に身を包んだ、ふくよかで優しそうな中年の女性である。

「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」

 教壇から新たな教え子達を一通り見回すと、シュヴルーズはルイズと才人に視線の照準を合わせて、優しく微笑んだ。

「あらあら、ミス・ヴァリエールは随分可愛らしい使い魔を連れているのね」

 自分を見て告げた優しそうなおばさんに対し、才人は少し得意そうに胸を張ってVサインを見せる。その右隣のルイズは教師に愛想笑いで返し、今日も左隣のモンモランシーはくすりと上品に笑う。
 しかし、優しい三人のレディ以外の反応は、どっと沸き起こる賑やかな笑い声、そして続けて投げ付けられる嘲りの言葉であった。

「ゼロのルイズ! 召喚出来ないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」

 男子のガラガラ声が、不快な音波と内容でルイズの耳に届く。
 いつものルイズなら、即座に立ち上がり、形の良い眉と目尻を吊り上げて言い返すところだ。しかし、この日の彼女の心理状態は、昨日までとはほぼ対極に位置している。

 罵声の主、太っちょ体型の『風上』のマリコルヌに対して彼女が抱いた感想は、幼稚な奴であった。
 甘やかされて自意識過剰な貴族の子弟。他者に対する思いやりに欠ける我が儘なお子様共。こんな奴ばらに昨日までムキになって張り合っていたなんて、考えただけで赤面する思いだ。

 こっちは、大事なちみっ子を守り育ててやらなきゃならないわ、自分のメイジとしての勉強もしなくちゃならないわで、とにかく忙しい。こんな馬鹿ボンボン共を相手取ってる時間も余力も無いってのよ。言いたきゃ、勝手に言ってりゃいいわ。

 己を侮辱する相手を、逆に同情さえ混ざった冷たい蔑みの視線で見るルイズ。この娘一晩で急に大人びたわね、と席二つ隣のモンモランシーは興味深そうにしてその様を見つめている。
 彼女がこの調子なら、円滑に授業が始まる筈であった。のだが、

「そこのでぶちん! ルイズお姉ちゃんを馬鹿にするな!」

 彼女達の間に座するちみっ子が、まるで昨日までのルイズが乗り移ったかのように、勢い良く立ち上がって言い返した。二人の美少女は、目を丸くして彼を凝視してしまう。

「で、でぶって言ったな! お前、平民のガキのくせに、貴族の僕を、ぶ、侮辱したな!」

 幾つも年上の男子に睨み付けられ、怒りをぶつけられても、才人は平然と睨み返した。
 大好きな優しいお姉ちゃんを不当に馬鹿にされたことで、この世界に来て初めて腹を立てているのだ。相手が謝るまで許さないつもりでいる。

「そっちが先に言ったくせに! 誰だって、馬鹿にされたら腹が立つんだい! そんなことも分からないなんて、でぶちんの上に鈍ちんだよ! そんなんじゃあ、どうせ実年齢=彼女いない歴なんでしょ!」

 刃物で刺されたかのように硬直するマリコルヌを、彼を中心に広がっていく笑い声が弄っていった。
 ふっくらした顔がみるみる青褪めていったかと思うと、楕円に近い輪郭の全身を震わせたマリコルヌの顔は、やがて蛸のように真っ赤に染まっていく。
 
「でぶって言ったな……もてないって言ったな……」

 剣道を習っているせいか、短い人生経験の割に、才人は気配の読めるところがある。
 今、数メイルの間を置いて対峙する相手が、危険な空気を孕んでいることを、彼は理屈でない感覚で察知してしまう。

「あのっ、あのね、僕もちょっと言い過ぎたよ。ぽっちゃりしていて可愛いと思うよ、うん。そういうのが好きな人も世の中に……」
「やっかましっ!!」

 その目が赤く光ったのは、魔性の域に達する怒り故か、心底からの血涙故か。マリコルヌの怒号と共に、才人に向けて空気を絞るような突風が巻き起こり、彼だけを広い講義室の最後方の壁まで吹き飛ばした。

「ぎゃんっ!」
「サイトッ!!」
 
 長い髪を強く煽られただけで済んだルイズとモンモランシーが、ほぼ同時に才人の落ちた所に駆け寄る。水の系統魔法を代々専門とするモンモランシーが、横たわって苦悶する才人に治癒魔法を掛けてやると、彼は上体を起こしてゆっくりと立ち上がった。

「あれ? もうあんまり痛くないよ」
「モンモランシーが、魔法で怪我を治してくれたのよ。お礼を言いなさい」
「お姉ちゃん、怪我を治してくれて、どうもありがとうございます」

 ルイズから説明を受けて理解した才人は、地面と平行近くまで上体を曲げてお礼を述べた。元気溌剌とした声と折り目正しい作法に、根は真面目な性格のモンモランシーはついつい口元が綻ぶ。

「どういたしまして。それにしても」

 才人に向けている優しい眼差しを、向こうの肥満した同級生に向けると同時に、彼女は視線と言葉を鋭くしてセットで突き刺した。

「子供の悪口にカッとなって魔法で攻撃するなんて、あの人何考えてるのかしら! ミセス・シュヴルーズ! ミスタ・グランドプレの今の暴力について、見過ごされるべきではないと思います!」

 片手を上げて高らかに意見を述べる彼女を見て、才人は自分のクラスの学級委員長の女子を思い出した。モンモランシーみたいな美少女ではないが、真面目で勉強が良く出来る眼鏡っ娘のことを。

「確かにミス・モンモランシの言う通りです。ミスタ・グランドプレ、子供と口喧嘩して自分から先に手を出すなんて、貴族どころか人間として問題有りですよ。講義の後話がありますから、そのつもりで」

 穏やかながら有無を言わせない視線と言葉の力で、興奮冷めやらなかったマリコルヌは一気に零度近くまで冷却させられる。不安と後悔がありありと浮かぶ表情で、彼は力無く腰を落とした。

 アクシデントこそあったものの、ようやく授業が始まると一同が思ったその矢先、タタタタッと小刻みな足音が近付いて来たため、シュヴルーズはその小さな影が自分の元に来るまで待っていてやった。

「先生―! 僕もあのお兄ちゃんに酷いこと言いましたー! だから、これ以上叱らないであげてくださーい!」

 眼前で立ち止まって挙手すると、何かを宣言するかのように甲高い声を張り上げる男の子に、シュヴルーズはきょとんとする。それから、優しい笑顔を添えて、彼に言葉を投げ掛けた。

「貴方は優しい子ですね、えーと……」
「才人だよ。僕、平賀才人っていうの」

 元気で思いやりがある可愛らしい男の子。そう評価したシュヴルーズは、慈しむようにして彼の視線を受け止めながら、丁寧に言い聞かせる。

「サイト君。貴方の今の言葉は、とても素晴らしいわ。でも、彼のしたことは、明らかに悪いことよ。罰を受けなくては、彼の今後のためにもならないの」
「うん、そうだと思うよ。だからね、僕も一発痛い目にあったから、一発お返ししたいんだ」

 少年の口から意外な言葉が続き、シュヴルーズはまたもきょとんとしてしまった。彼に対する今ほどの評価は、『思いやりがある』という項目については宙ぶらりんとなる。

「それはいけないわ。やられたらやり返すじゃ、いつになっても争いは収まらないのよ」
「収まるよ。一発に対して一発、イーブンだもん」

 今にも鼻歌を歌いだしそうなくらいに嬉々とした様子の才人。意外と口達者な子供をどう納得させようか腐心し始めたシュヴルーズの視界に、彼の後方から保護者の生徒が駆けて来るのが映った。

「申し訳ありません、ミセス・シュヴルーズ。サイト、無理を言ってミセス・シュヴルーズを困らせてはダメよ」

 講師に頭を下げると、ルイズは才人の両肩に手を置いて優しく諭す。唇を尖らせてむ~と呻く才人と、俯き加減のマリコルヌを交互に見遣ったシュヴルーズは、それを二、三度繰り返すとぽんと手を叩いて言った。

「では、こうしましょう。何の罰も与えないと言う訳にはいかないので、ミスタ・グランドプレに選ぶ権利を与えましょうか。ミスタ・グランドプレ、私の指導とサイト君の一発の好きな方を選びなさい」

 穏便そうなシュヴルーズにしては、腕力の行使を許すような意見は少し意外だったようで、教室はまたもざわめき出した。
 己が醜態を自覚するマリコルヌとしては、教師からのお小言の方が重くて長引きそうに思えたので、生意気な平民のちびっ子とは言え、一発殴るか蹴るかさせてやった方が結果的に楽そうに思えた。

「そのガ……子供の方を選びます」

 おーっと言う声が至る所から上がった。場を騒がせたお子様は、今やこの空間における興味関心事の寵児となっていた。それ故に、次は何をやらかすのだろうかと無責任に期待する者達は、マリコルヌがそちらを選ぶことを望んでいたのだった。

「あの、ミセス……って、ちょ、ちょっと、サイト!」

 基本的に生真面目なルイズが、教師に一言確認しようとした矢先に、才人が元気に走り出してマリコルヌの背後まで行ってしまった。

「じゃね、起立して前かがみになって」
「こ、こうか?」

 言われるがままに中腰体勢になったマリコルヌの丸い背中に、おんぶしてもらうように乗り上がった才人は、彼のぽちゃぽちゃの大腿を足でロックするようにしながら、後ろから手首を掴んで背中の上に向けて両腕を吊り上げると、更にそのまま掴んだ両手首を相手の頭部に近付けるようにして押し出した。

「いだだだだだだ! 痛いっ! 痛いって!」
「にゃははははっ! 僕はもっと痛かったもんねー! 『ポロ・スペシャル』の味はどうじゃい? 辛ければ、さっさとギブアップせい!」
「良く分からんけど、勘弁っ! 勘弁してくれぇっ!」

 ギブアップと言う言葉が存在しない世界で、両肩を裏側に捻られるような激痛に耐えられなくなったマリコルヌは、悲鳴にも似た声で許しを乞うた。怪我までさせる気は無い才人は、手首を解放して彼の背中から降りた。

「兄ちゃん、大丈夫か? 一応手加減したつもりなんだけど。……それと、さっきは言い過ぎてごめんな」
「た、多分、大丈夫……身も……心も」

 机に前のめってぐったりとするマリコルヌの顔を、才人は心配そうに覗き込んでいたが、本人の言う通り大丈夫だろうと判断すると、姉達の隣に戻って行った。
 ちなみに、この日は才人の方をちら見するあまり、授業に集中し切れない生徒が続出したという。






 放課後、ルイズ達は部屋でこの一件について語り合っていた。

「あんたってば、授業の妨害になるようなことしちゃダメよ。私なら、からかわれたって気にしてないんだから」
「だって、お姉ちゃんのこと馬鹿にされて、凄くムカついたんだもん。僕、我慢出来ないよ」

 その時のことを思い出したのか、不服と苛々の混じった様子で才人は真っ直ぐに訴えた。ルイズは、困ったように微笑んでその頬を撫でてやる。

「だからって、いちいち突っかかってたらきりが無いわ。私が馬鹿にされるのは、まともに魔法を使えたことがないからなの。貴族の子弟なんてプライドは高いし、他者の弱みに付け込んで見下す奴なんてざらなのよ。ほっときゃいいのよ、そんな奴等は」

 昨日までは自分もその一人だったんだけどね、と心中独り言つルイズは、今となっては嘲笑をくだらないとこそ思えど、悔しいとは思わなくなっていたので、ただ淡々と本音を語った。

「今日はたまたまあの程度で済んだけど、もっと強い魔法を使う奴と喧嘩したら、命に関わるのよ。お姉ちゃん、サイトがそんなことになるの、絶対嫌だからね」

 両頬を優しく挟まれて姉に覗き込まれると、才人は視線を落として考え事を始める。そんな彼に、ルイズは声調をより穏やかにして語り続ける。

「約束して。もう喧嘩しないって」

 才人は即答しない。姉の言うことは頭では分かるのだが、心が納得し切れていないから。
 そんな彼の気持ちを読み取ったのか、ルイズは才人のおでこに自分のおでこをそっとくっつけて伝えた。

「私の代わりに怒ってくれて、嬉しかったよ。ありがとね」

 複雑に渦巻いていた才人の気持ちは、表情から抜け落ちていった。晴れ空のように澄んだいつもの瞳に戻ると、彼は大好きな姉に約束するのだった。


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