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No.20843の一覧
[0] ちみっ子の使い魔[TAKA](2010/08/17 03:19)
[1] ちみっ子の使い魔 第一話 お姉様と僕[TAKA](2010/08/17 03:19)
[2] ちみっ子の使い魔 第二話 二人の決意[TAKA](2010/08/17 03:19)
[3] ちみっ子の使い魔 第三話 魔法使いとの初喧嘩[TAKA](2010/08/17 03:19)
[4] ちみっ子の使い魔 第四話 女たらしとクックロビン[TAKA](2010/08/17 03:20)
[5] ちみっ子の使い魔 第五話 今ここにある幸せとどこでもない理想[TAKA](2010/08/17 03:20)
[6] ちみっ子の使い魔 第六話 探検、発見、町と剣[TAKA](2010/08/17 03:20)
[7] ちみっ子の使い魔 第七話 ルイズとモンモランシー[TAKA](2010/08/24 22:22)
[8] ちみっ子の使い魔 第八話 ちっぱいと牛ぱい[TAKA](2010/08/24 22:30)
[9] ちみっ子の使い魔 第九話 キュルケと才人と振り回された人達[TAKA](2010/09/02 23:38)
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[20843] ちみっ子の使い魔 第二話 二人の決意
Name: TAKA◆1639e4cb ID:bc5a1f8f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/17 03:19
 教室への移動中、ルイズ達は終始無言だった。才人としては、家に帰る方法について聞きたかったのだが、険しい表情のルイズに声を掛けるのは躊躇われた。

 そして、ルイズの席の横で床に体育座りしながら、その日最後の授業に同伴した。
 頭の中は、親が心配しているだろうな、警察とか学校に連絡取って大騒ぎで全国ニュースになってるんだろうな、ということでいっぱいだったが、心配ばかりしていても頭が疲れるだけなので、やがて考えることを止めた。

「なんくるないさー」

 テレビで覚えた沖縄弁をぽつり呟くと、静粛が広がる教室の中で彼の周辺だけには聞こえたらしく、声の主や更にその主に対して好奇と嘲りの視線が集中する。

 おでこをぴしゃりと叩かれた才人が数瞬目を瞑って開くと、隣の頭上からルイズが口元に人指し指を立ててシーッとジェスチャーをしている。世界どころか異世界でも共通らしいジェスチャーを。

 それを受けて、才人は太腿に顔を埋めて目を閉じた。お利口さんと評してもよい彼の反応を見て、ルイズはふうと軽く息を漏らした。






 放課後、部屋に戻ったルイズはベッドに腰掛けながら、眼前の床に正座する才人と話をしていた。平民で使い魔という立場を分かっているからなのか、ルイズの位置より低い地べたで背筋を伸ばして座る才人に、彼女は少し感心していた。
 生意気なちびっ子と思いきや、意外と礼儀や心構えが出来ているのかも知れない。それなら、少しは話を聞いてやるのもいいだろうと寛容な気分になる程に。

「お姉ちゃん、僕、自分の家に帰りたい」
「それは無理よ」

 才人の言葉は、十分に彼女の想定範囲内にあった。年端もいかぬ子供なら、一番先に言い出しそうな内容である。故に、彼女は冷徹なくらいにあっさりと返答した。

「なんで!?」

 円らな双眸を一層丸めて驚き、それから眉を八の字にして怯えが混ざったような表情で訴える。そんな才人の問いに、ルイズは文書を読み上げるように無表情な声で淡々と応じた。

「あんた、私の使い魔になったんだもん。これから私のために働いてもらうんだから、帰すわけにはいかないわ。実家って、トウキョウって村だっけ?」
「村じゃないよ、世界有数の大都市だってば。トリステインって国こそ、どこのことなの? 世界地図か地球儀見せてよ」

 さっきからいまいち噛み合わない地理上の会話に決着をつけるべく、ルイズは書棚から細く巻いた羊皮紙を取り出して、テーブルの上に広げた。立ち上がって覗き込むと、そこには才人が社会の時間に見た世界地図の、西欧地域に結構似た輪郭の地域が描かれていた。

「ここがトリステイン。南に面するのがガリアで、東に面するのがゲルマニア。西の空にぷかぷか浮かんでるのがアルビオンよ」

 トリステインと隣接国だけを手っ取り早く説明すると、ルイズは才人の反応を確かめようとする。
 彼は、顎に指を当てるという子供らしからぬ仕草で暫く考え込んでいたが、やがて入室時に背から下ろしたリュックサックからボールペンを取り出した。

「僕のいた世界と結構似ているけど……やっぱり違う。今度は僕が説明するね」

 ルイズが頷くのを確認すると、ボールペンの尻の部分でトリステインからガリアにかけて、地図上にゆったりと曲線を描きながら喋り始める。

「ここは、フランスって国です。ワインが沢山取れて、かたつむりを調理して食べまーす。次に、このゲルマニアってとこは、僕等の世界ではドイツって言います。ドイツ人は、ゲルマンって民族名です。ここは似てるよね」

 一度説明を切って同意を促す才人に、ルイズは関心を隠そうともせずに首を振る。才人は、視線を地図に戻すとアルビオンの位置にペン尻を置いて、説明を再開する。

「ここはイギリスっていって、ご飯が不味いそうだよ。小魚とじゃがいものフライしか名物が無いとか、ビールとスコッチウイスキーしか飲み物が無いとか、雨や霧が多いとか、社会の先生がボロクソ言ってた」

 説明を聞きながら、ルイズは一層興味深く頷いた。アルビオンの食べ物が不味いとか、飲み物がエール酒くらいしかないとか、こちらの事情と酷似した情報に、両世界間におけるどこか不可思議な縁の存在を疑ってしまう。

「ここはポルトガルで、そのお隣はスペイン。スペイン人は、陽気で歌や踊りが好きらしいよ。そんで、ここはイタリア。古~い歴史を持つ国で、ご飯が美味しくて観光地が多いんで、海外旅行先として日本人に人気がありまーす」

 イタリアの説明を受けたところで、ルイズはその地域に白く細い指を置いて補足した。

「ここね、こっちの世界ではロマリアっていう宗教国家なの」
「それも似てるね! イタリアって昔はローマ帝国っていうでっか~い国で、世界一の大国だったんだよ。今は小さくなってるけど、首都がローマっていうんだ」

 ルイズの顔を覗き込む才人の目は、好奇心で輝いていた。彼の話に興味関心を示しているのは、彼女の方も同じなのだが、流石に年下の少年よりは落ち着いた様子で評を下した。

「あんたって、平民の子供の割に物知ってるみたいね。学校にでも通ってるの?」
「僕だけじゃなくて、子供は全員通ってるよ。今度の社会のテストで満点取ったら、母さんがゲームソフト買ってくれるから、最近毎日勉強してたんだ」
「ゲームソフト?」
 
 聞き慣れない単語を反芻するルイズに、才人は得意気に笑ってみせながら、再びリュックに手を突っ込んだ。取り出されたものは、日本では大概の子供が持っている横長方形型の折り畳み式携帯ゲーム機。子供の掌には軽く余るくらいのサイズである。

「お姉ちゃんには特別に見せてあげるね」

 電源を入れると、画面に白い光とそれを背景にした字幕が現れ、一度暗転してゲームブランド名が浮かび上がる。そして、オープニングアニメをスキップすると、太字のゲームタイトルが荘厳な音楽と共に浮かび上がる。

「これ何? どんなマジックアイテムなの?」
「マジックアイテムじゃないよ。これは機械。電気で動いてるんだよ」

 才人がセーブデータの一つを選んで開始すると、草原と山地を俯瞰したマップ上に、青色をした人型ユニットと、赤色のそれが各々十数体ずつ距離を置いて固まっている。
 ローブを着た青色ユニットにカーソルを合わせると、赤い敵部隊の先頭にいる鎧騎士に向けて移動させ、一マス空けて間接魔法を行使させた。
 風の刃を飛ばされた鎧騎士は、直接攻撃用武器しか持たないために、無抵抗のまま一方的に倒された。

「魔法は反撃も受けにくいし強いんだよ~。でも、くっつかれて攻撃されたら打たれ弱いから、間に打たれ強い騎士とか置いて盾にするのが原則なんだ」
「ふ~ん、こっちのメイジと使い魔の関係そのものね。字は読めないけど、良く出来てるじゃない、このゲームソフトとやらは」

 未知の物体が描き出す現象に感心しながら、ルイズは改めて自分の使い魔が見知らぬ異世界から来た存在なのだと実感させられた。
 ルイズは肩越しに暫くプレイを覗いていたが、赤いユニットが数体倒されたところで、才人はゲームを中断して機体を二つに折り畳んだ。

「話が脱線しちゃったけど、これで僕が違う世界から来たって信じてもらえるよね?」
「う、うん、まあね」

 ルイズの相槌を得ると、才人の活力に溢れた目の色が、急に弱々しく潤んで凪いでいった。

「僕、一生お姉ちゃんの使い魔なのかな? もう、家に帰れないのかな……」

 しゅんとして俯いてしまった少年の落ち込みぶりを見ると、ここまで冷静に振舞っていたルイズも、流石に胸を締め付けられる思いがした。

 故意ではないとはいえ、いたいけな子供を突然連れて来て、一生自分に仕えさせる――人買いや人攫いに近い所業と非難されても、否定し切れない気がする。人道的見地からして。

 自分に出来ることは何だろうか。まずは、誠実に事情を説明し、その後慰めたり面倒を見てやる。そして、いずれは帰る方法を探してやらねばならぬのではないか。
 
 子供本人もそうだが、突然我が子を神隠しに遭わされた親の悲痛は、到底計り知れない。
 図らずも自分は、この子を守り育て、必ず親元へ帰してやらねばならない責を負ってしまった。貴族云々の前に、人として当たり前の責務を。

「あのね、サイト。元の世界に戻る方法は、私もこの学院の先生も誰も知らないわ。でもね、私が責任もって方法を探して、必ずあんたを元の世界に帰してあげるから。それまでは、私があんたの面倒を見るから。だから、これ以上悲しまないでね」

 黒髪をくしゃっと指で梳かすと、才人はルイズの胸に飛び込んで抱き付いて来た。子供の高い体温を感じたルイズは、そのままぎゅっと抱き締め返してやる。

「大丈夫だから。貴方は一人じゃないの。……ルイズお姉ちゃんが、一緒だよ」

 ブラウスの胸が、中からも外からも熱くなった。涙が滲んでいるのだろう。

 やがて、顔を上げた才人は、ルイズの胴に回した両手を外すと、パーカーの袖で涙と鼻水の残滓を拭い――笑った。

「僕、もう大丈夫だよ。父さんも母さんも凄く心配してるだろうけど……泣いたってどうにもならないもん。こっちで元気に暮らして、いつか戻るんだ。それまでは、お姉ちゃんとこっちで暮らす、ね」

 その肩に乗せた手を頭上に運んで撫でてやると、才人は子犬のように心地良さそうにして目を閉じ、ルイズの胸にこてっと寄り掛かって来た。

「偉いよ。あんたは強い子、いい子よ、サイト」

 心からそう思った。この子は、『強い』か『賢い』のどちらかが確実に当て嵌まるに違いないと。






 トリステイン魔法学院の食堂は、敷地内で一番背の高い本塔の中にある。食堂内部では、やたらと長いテーブルが三つ並んでおり、各テーブルが一~三学年の各々に対応している。
 ルイズ達二学年は、真ん中のテーブルに座って夕食を摂っていた。
 ここでは貴族以外の者、つまり平民が食事を摂ることは通常許されていないのだが、この日終にそれが破られてしまった。

 金髪縦巻きロールのモンモランシーを見付けた才人は、その隣に座りたいと主張したので、ルイズはその通りに連れて行ってやった。
 ミスタ・コルベールには、事前に才人の同席の許可を得てある。寛容な彼らしく、使い魔であることと保護者の同伴が必要な児童であることを理由に、あっさりと許可は下りた。それが、彼の独断によるものか、学院長のお墨付きなのかまでは彼女の知る所ではない。

「美味しいね~、お姉ちゃん」

 ルイズとモンモランシーに挟まれて鳥のローストを頬張る才人はご満悦。両隣の姉達は、自分のフォークをしばしば止めて、その様を笑顔で見守っている。

「サイト、口に物を入れながら喋るのはみっともないわよ」

 パンを千切りながら苦笑するルイズに、才人を挟んで向こう側のモンモランシーは、楽しそうに声を掛ける。

「さっきはあんなに荒っぽかったのに、どうなっちゃったの? 保護者っぷりが板に付いてるじゃない」
「さっきは子供っぽ過ぎたわ、反省してる。私がこの子の面倒見るんだから、もっと大人にならないとね。それと、サイトのこと見てくれてありがとう」

 モンモランシーは言葉が出ない代わりに、目を丸くすることで語った。
 魔法がまともに使えないために誰からもからかわれ、尖り続けていたルイズが、素直に『ありがとう』なんて言葉を言う。本人に失礼かも知れないが、何とも別人のように思えて仕方が無い。

「あによ、その目は。私だって身内が世話になれば、お礼くらい言えるわよ」

 これまでのような尖った視線で不服そうに見せると、その仮面をすぐに剥ぎ取ってルイズはにっこり微笑んだ。同性のモンモランシーでさえ魅力的と感じる程の、深みと柔らかさのある美しさが花のように開いたが、その瞬間を鑑賞する恩恵に与ったのは、彼女一人だけであった。


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