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No.20808の一覧
[0] 真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~ 第五十話、更新。[槇村](2013/07/14 23:01)
[1] 01:新たな邂逅。[槇村](2010/11/04 15:59)
[2] 02:彼の立つ場所。[槇村](2010/08/07 18:30)
[3] 03:揺れる想い[槇村](2010/08/07 18:43)
[4] 04:仕上げを御覧じろ[槇村](2010/08/11 23:53)
[5] 05:この世の定め[槇村](2010/08/15 20:53)
[6] 06:求めよ、さらば与えられん[槇村](2010/08/18 18:43)
[7] 07:進む一歩も 逃げる一歩も[槇村](2010/09/03 07:52)
[8] 08:胸のうちを支えるもの[槇村](2010/08/27 05:13)
[9] 09:それさえも おそらくは平穏な日々[槇村](2010/09/03 17:04)
[10] 10:劉備来たる[槇村](2010/09/07 21:18)
[11] 11:世界は終わってなかった[槇村](2010/09/09 21:26)
[12] 12:理想と実利 狭間の思惑[槇村](2010/09/12 12:03)
[13] 13:【黄巾の乱】 既知との遭遇 其の壱[槇村](2010/09/21 19:12)
[14] 14:【黄巾の乱】 既知との遭遇 其の弐[槇村](2012/05/09 07:10)
[15] 15:【黄巾の乱】 幽州騒乱 其の壱[槇村](2010/09/25 04:54)
[16] 16:【黄巾の乱】 幽州騒乱 其の弐[槇村](2010/09/28 19:09)
[17] 17:【黄巾の乱】 幽州騒乱 其の参[槇村](2010/10/04 06:25)
[18] 18:【黄巾の乱】 幽州騒乱 其の四[槇村](2010/12/28 21:09)
[19] 19:【黄巾の乱】 幽州騒乱 其の五[槇村](2010/10/14 18:27)
[20] 20:【黄巾の乱】 幽州騒乱 其の六 前半[槇村](2010/10/30 23:56)
[21] 20:【黄巾の乱】 幽州騒乱 其の六 後半[槇村](2010/11/11 16:58)
[22] 21:はるばる来たぜ遼西へ[槇村](2010/11/12 06:09)
[23] 22:腹くちて笑みこぼれし[槇村](2010/12/28 22:42)
[24] 23:酒家の誓い[槇村](2011/09/03 16:38)
[25] 24:【董卓陣営】 既知との遭遇 其の参[槇村](2010/12/04 05:56)
[26] 25:【董卓陣営】 強さの基礎[槇村](2012/04/30 05:03)
[27] 26:【董卓陣営】 日々研鑽に勝るものなし[槇村](2011/01/06 20:39)
[28] 27:【漢朝回天】 軍閥勢、上洛す[槇村](2011/11/20 18:45)
[29] 28:【漢朝回天】 夜を駆ける[槇村](2011/11/20 18:45)
[30] 29:【漢朝回天】 臨むモノ 交わる場所[槇村](2011/11/20 18:46)
[31] 30:【幕間】 北の国から ~遥かなる幽州より~[槇村](2011/03/19 20:29)
[32] 31:【漢朝回天】 この道は何処へ[槇村](2011/11/20 18:46)
[33] 32:【漢朝回天】 過去 現在 未来[槇村](2011/11/20 18:46)
[34] 33:【漢朝回天】 その身を動かすもの[槇村](2011/11/20 18:47)
[36] 34:【漢朝回天】 その心を動かすもの[槇村](2011/11/20 18:47)
[37] 35:【漢朝回天】 蹌踉[槇村](2011/11/20 18:47)
[39] 36:【漢朝回天】 岐路 (修正版)[槇村](2011/11/20 18:48)
[40] 37:【漢朝回天】 採光[槇村](2011/11/20 18:48)
[41] 38:既知との遭遇 其の四[槇村](2011/09/15 05:21)
[42] 39:既知との遭遇 其の五 そして[槇村](2011/10/13 19:41)
[43] 40:【動乱之階】 己が立つ舞台[槇村](2011/11/20 20:18)
[44] 41:【動乱之階】 上洛 再会 新たな誼 [槇村](2011/12/02 22:24)
[45] 42:【動乱之階】 食事は楽しく賑やかに[槇村](2011/12/16 17:52)
[46] 43:【動乱之階】 出来ること 望むこと[槇村](2012/01/10 19:43)
[47] 44:【動乱之階】 点をなぞり線となる[槇村](2012/01/27 08:05)
[48] 45:【動乱之階】 程を知り 知らぬを知る[槇村](2012/02/19 20:39)
[49] 46:【動乱之階】 誼と縁[槇村](2012/04/30 05:08)
[50] 47:【動乱之階】 そこへ至る道[槇村](2012/06/28 00:41)
[51] 48:【動乱之階】 己が内に棲むモノ[槇村](2012/12/08 22:31)
[52] 49:【動乱之階】 思考の縁 ~幽州~[槇村](2012/12/26 21:06)
[53] 50:【動乱之階】 思考の縁 ~冀州・洛陽・青州~[槇村](2013/07/15 05:51)
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[20808] 50:【動乱之階】 思考の縁 ~冀州・洛陽・青州~
Name: 槇村◆cc29ff23 ID:31cf670a 前を表示する
Date: 2013/07/15 05:51
◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~

50:【動乱之階】 思考の縁 ~冀州・洛陽・青州~





青州で何が起き、冀州は何をもって侵攻したのか。
何かが起きたという事実は伝わっていても、その内実は分からないままだった。

平原の相・劉備と個人的に知己のある公孫瓚の想像、青州に滞在しているという一刀から便り、そういったものをつなぎ合わせ、ありえるだろう状況を組み上げてみる。現状でできることはその程度だ。
とはいえ、それもしょせんは想像でしかない。正確な情報が伝わって来ない状況では、対策ひとつ立てることさえままならないのだ。
ゆえに、公孫瓚は、青州と冀州の現状を知ることを優先すべきと考える。それぞれの地にそれなりの人数を派遣し、状況を極力詳しく調べ、持ち帰り、対応策を練ろうと試みる。

関雨はそれを聞くや否や「ぜひ自分にその役目を、と言うか青州に行きたい」と真っ先に立候補した。
だが公孫瓚はそれを聞くや否や「ダメに決まってるだろ馬鹿」と間を置かず却下する。

関雨が幽州にとどまっているのは、そもそも此度のような有事に備えてのものだ。
「冀州が幽州に侵攻する」という、"天の知識"から得た危険性。詳細はともかく、今の状況は懸念していた事態に限りなく近い。こんな時期に、軍部の長である関雨が不在になるなど到底許されるはずがない。

もちろん関雨も理性では理解している。それでも、一刀を助けに行きたいという感情が湧き出てくることも事実だった。先の申し出も、拒否されるだろうとは思っても勢いで口に出してみた、という程度のものである。それでも、却下されれば気落ちしてしまうのだが。

落ち込む関雨を尻目に、公孫瓚は手早く諜報隊を編成し指示を与えていく。
そこで、青州行きに意外な人物が名乗りを上げた。
趙雲である。

彼女の意図が掴めず、公孫瓚はいぶかしがる。それも当然だ。兵を引き連れ進軍するわけではなく、今回のような状況ではむしろ単身での行動が主となる。関雨は問題外としても、客将とはいえ武将の位置にいる人物がわざわざ出向く必要はない。

「どういう風の吹き回しだ?」
「少々、思うところがありましてな」

できれば自分を、と言う彼女に公孫瓚は少々悩むも、趙雲の青州行きを許した。

礼を述べる趙雲と、彼女を憮然とした表情で見つめる関雨。
恨めしそうにというよりも、羨ましそうにといった方がいいだろうか。そんな関雨の視線を受けて、趙雲は微笑ましさすら感じている。堅物だと思っていた彼女が、男絡みとはいえここまで崩れた態度を見せ、素直に振舞うところなど想像すらしていなかったからだ。
人は素直になるとこうまで変わるものか、と思わずにいられない。

そういう意味では、趙雲は誰よりも素直に生きているつもりだった。
だが実際にはそうでもなかったらしい。

幽州に求めるものはあるのかと公孫瓚に問われ。求めるものそのものがきちんと見えているのかと一刀に指摘された。そして自分に素直な振舞いを見せる関雨を目の当たりにして、趙雲は自分が思い込みに囚われていたことを知る。

彼女は、自分の在り方、何処で何を為すべきなのかを見つめ直す必要があると考え。事態を思えば不適切な言葉かもしれないがこれはいい機会だと、あえて青州行きに名乗りを上げ、幽州を離れることを望んだ。

「……ちゃんと、戻って来いよ?」

口には出さない趙雲の心情を感じ取ってか、公孫瓚は不安げな声で話し掛ける。
州牧ともあろう人物が、たかがひとりの客将の行動に気を揉んでいる。そう考えると、趙雲は彼女にもまた苦笑を禁じえない。

「どのように身を振るとしても、そのまま出奔するような不義理はしませぬよ。きちんとやるべきことをやり、戻ってきますゆえ」

心配なされるな、"白蓮殿"。
趙雲は真名で呼び掛け、仮の主君であり、友でもある公孫瓚に笑顔で応える。
相変わらず睨み付けている関雨の視線は無視したまま。

本当に変わったものだと、趙雲は思う。
公孫瓚はもちろんのこと、関雨も感情を素直に出すようになった。
きっかけは共に、北郷一刀。
そして趙雲に対しても、変わるべきではないかと思わせたのは、彼だ。
彼女は悔しさを感じると同時に、どこか面映さを感じてもいた。











いろいろと入り混じった思いを抱えながら、趙雲は薊を発った。
ただ状況を知るだけならば彼女でなくともできる。趙雲が出向くのなら武人としての目で状況を見届けて来い、と言い含められている。その意を汲んだ彼女はまっすぐ、戦場となっているであろう冀州と青州の州境を目指した。

馬を駆り数日を要して、趙雲は目的とした地にたどり着く。既に戦が治まっているかとも思ったが、彼女の懸念に反し未だ軍勢のぶつかり合いは続いていた。
平地に展開している陣が遠目に見える。あれが冀州軍と青州軍だろう。そうあたりを付け、少しでもよく見渡せるように丘陵地を見繕い、趙雲は腰を据えることにする。

周囲を見渡す。距離は離れているが、大まかには陣全体を見通せそうだった。
さてさてどんな動きを見せるやら、と彼女が考えた時。

「あれ、趙雲さん?」

突然声が掛けられる。
振り返った趙雲の前に現れたのは、

「北郷殿?」

青州に居残ったという、北郷一刀。
そして、彼の背に覆い被さるようにして身を任せている呂扶だった。

「なぜこんな場所に?」
「それはこちらが言いたいですよ。俺の方はまぁ、ちょっと気になることがありまして」

想像もしなかった顔を見て驚きながらも、相変わらずな人当たりのいい笑顔を浮かべる一刀。呂扶もまた趙雲に向かい、軽く手を上げるだけではあったが挨拶を返す。
背中に抱える呂扶のそんな態度に、一刀は内心「物凄いコミュニケーション力の向上だ」と喜びに打ち震え。後で思い切り撫でてあげよう、などと考えながら既に呂扶の頭を撫で回していたりした。

一方で、趙雲は彼と顔を合わせることにいささか気後れを感じていた。
一刀が幽州を出る前に問うた言葉。彼女はそれを「自分が為そうとすることはなんなのか」だと捉え、改めて自問した。そして未だその答えを見出していない。居心地のいい幽州から離れることで何らかの取っ掛かりでも得られれば、と考えていたのだ。その出先で彼と顔を合わせてしまっては、また余計な考えが渦巻きかねない。

などと、思いはした。したのだが、久しぶりに見る一刀は普段とまったく変わりがない。彼女自身があれこれ思い悩んでいることが馬鹿らしくなってくるほどだ。

「あ、そうそう。趙雲さん、愛紗に宛てた便りは見ました?
というか届く前に幽州を出ちゃったのなら知りようがないかな」
「いえ、ちゃんと届きましたぞ」

感情はひとまず置き。
趙雲はわざわざ青州までやって来た理由を思い起こし、表情と気持ちを改める。

「ここまで来たのも、北郷殿の便りが理由のひとつですからな」
「あー、なるほど。現状把握に派遣されたとか、そんなところですか」
「言おうとしたことをそう先取りしないでくだされ」
「でも、わざわざ趙雲さんが出向くほどのことかな?」
「……しかも置いて放ったまま進めるとは」

普段の趙雲に負けない自分本位さで、一刀は話を進めていく。
何やかやと、それぞれが戦場付近まで来た経緯などを交わしつつ。ふたりは状況の把握と報告をし合う。

「青州の顔見知りは、今のところ元に戻りそうになかったので。放置することにしたんですよ。誰を信望していようと、こちらまで強制されるんじゃなければ問題ありませんし。
ただ、その中でも結構な数が、この騒動に乗り込んでるんですよねぇ」

一刀は商人仲間の顔を思い浮かべつつ、お前らは前線じゃなく後方で動くべきだろう、と、ぼやいてみせる。
果たしてどうなるのかと、この後の展開が気になった彼は、距離を置きながら青州軍を追い掛け、状況を観察し続けていた。そして、戦況も決しそうだという雰囲気を察し、そろそろ幽州へ帰ろうかと考えていたところで、趙雲に出会った。

「見ていた範囲でよければ、戦況の推移もお話しますよ。さすがに冀州軍が進攻してきた理由までは分かりませんが」
「ほぉ、それはありがたい」
「何でしたら幽州まで一緒に行きますか? 話はその道中でしますし。冀州に立ち寄るつもりなので、そこで久しぶりに食事も振舞いますよ」
「……それは、本気で魅力的ですな」

手をかざし、遠くに見える軍勢を見ながら趙雲は応える。
そんな彼女を横目に、一刀と呂扶は「そう言えば一刀のご飯をしばらく食べてない」「あー厨房のないところばかりを進んでたからなー」といった、これまた普段と変わらないやり取りをしている。
ふたりのやり取りに懐かしささえ感じ、自然と口元を緩ませてしまう。

「しかし、理由はどうあれ冀州、袁家の兵が出張ったのです。新米領主の劉備殿が応ずるには荷が重いでしょう。むしろこれまでよく持ちこたえたと言うべきかもしれませぬな」

趙雲は話を元に戻そうとした。
劉備の人となり、そして袁家の兵力と財力の厚さを彼女は知っている。だからこそ、例え関羽や張飛が青州軍を率いたとしても、冀州軍の勝利は動かないと考えていた。

「いや」

だが、一刀はそれを一蹴する。

「負けるのは冀州軍の方ですよ」
「何ですと?」

その言葉に、趙雲は眉を顰めた。










洛陽にある、近衛軍が日々執務を行う居城のある一室にて。

「桂花、報告してちょうだい」

仕える主君・曹操の言葉を受けた荀彧は、頭を下げつつそれに応える。

今の彼女は、洛陽に拠点を移した曹操に呼び寄せられ、より豊かな人員と高い権限を行使し情報収集と現状把握に努めている。これまでは広くても州単位で行っていた情報収集が、一気に漢王朝が統べる地の全土に広がった。作業量と難易度は桁違いに上がったが、むしろ活き活きしているとは同僚たちの談である。

「冀州軍の青州侵攻に伴い、両軍が衝突。結果は、冀州側の敗北で収束しつつあります」

冀州軍の巻き返しは無理だろう、と告げた。
荀彧は淡々と、報告を続ける。



先に起きた、冀州牧・袁紹の声掛かりによる青州侵攻。その原因についてははっきりとしない。
荀彧がどれだけ調べを進めても分からなかった。それこそ袁紹ひとりが抱え込んでいるのかもしれない。ならば袁紹自身から聞き出すほかに術はないかと判断し、現在は保留としている。

次いで、先に手を出したのは袁紹だということ。彼女は約1万の兵を引き連れ、青州へと進軍を開始した。
袁紹率いる冀州軍の進攻上、青州でまず矢面に上がるのは西部である。これを知った平原の相・劉備は慌てて軍を編成し、冀州との州境へ出兵。併せて冀州軍へ向けて使者を派遣する。

知らぬ仲ではない袁紹に対し、理由を質し何とか引き返してもらおうとした劉備。だがその甲斐もなく、冀州軍の進みは止まろうとしない。返事どころか使者も帰って来ない。劉備はやむなく、兵力を持って臨まざるを得なくなった。

冀州と青州の境で両軍は陣取り、ぶつかり合った。
兵力は、冀州軍1万に対し、青州軍はおよそ5000。

軍がぶつかる、というのは、やや正確さを欠いているかもしれない。最初は、冀州軍による蹂躙、と言っていい惨状だった。
数にして、冀州軍は青州側の倍。さらにその大多数が専任の兵である。武器を取り戦うことに秀でた者ばかりが集まっていた。
対して青州軍は、その大多数がただの平民だった。専任の兵と呼べる者は1割以下、500人にも満たない。普段から持つ農具をそのまま剣に持ち替えた程度の錬度しかなく、中には実際に農具を手にしていた者も少なくなかったと、荀彧は報告を受けている。

兵の総数も、質も、装備も、すべて冀州軍が圧倒的に秀でていた。
だが結果は、冀州軍は敗走し、6割強の兵を失っている。
なぜか。

最終的に、冀州軍は数に押しつぶされたのだ。

当初出兵した青州軍は、たちまちその数を減らしていく。内実は兵ではなく農民なのだから、戦場において生き残る術に劣ることは想像に難くない。
だが農民であるがゆえの利点もあった。言い方は悪いが、取り替えと補充が安易だ、という点である。
5000の青州軍が3000まで減り、すぐさま3000の兵が現れた。
そこからさらに3000が減る間に、新たに5000の兵がという具合だ。
こうして時間が経つにつれて、1000、2000、5000、10000と、兵と言う名の農民が次々増えていき。一方で冀州軍は、減り幅こそ少ないもののその数を確実に減らしていく。
増えていくばかりの青州陣営。さらにそのすべては劉備の命令によって集められたものではなく、彼女を慕う者たちが自ら、戦場である州境へと集まって来たものだった。自らの命さえ、省みることなく。

冀州軍は、やがて対処することができなくなり。純粋な数のみで押され始めた。

そこに、青州牧が派遣した軍兵が到着する。
これも決して錬度が高いわけではなかったが、命を顧みない農民たちの力押しばかりを相手にしていた冀州兵にすれば急に錬度の上がった兵を相手にすることになってしまい。相手の力量差を捉え損ねたまま、命を落としていった。

冀州軍は撤退を開始。殿を文醜と顔良が務め、撤退する軍勢の中に袁紹の姿もあったらしいが、無事に冀州まで戻ったのかどうかは確認できていない。

戦場を制した青州勢は、そのまま冀州へと侵入を開始。渤海郡・南皮、常山国・高邑、魏郡・鄴と全方位へ広がっていった。その総数は把握しきれるものではなく、青州の民すべてが動いたのではないかと思わせるほどだったと言う。

まさに厚い壁が押し寄せてくるかのように、人波が冀州の各地に雪崩れ込んで来る。
地響きと鬨の声に民は恐怖したが、その規模に反して、道中の村が襲われるなどの略奪は驚くほど少なかった。
どのように律したのか、そこまでは荀彧に報告は上っていない。冀州に入った青州兵を追い掛けるようにして劉備自身が駆け付け、軍全体を抑えて見せた。それと併せるように、先々の地で怯える人たちをなだめて回ったとか。

「仁将を気取っているのかしら?」
「状況だけを見れば、周囲にそう思われていても不思議ではありません」

不意の侵攻を何とか追いやり、先走った兵を自ら出向いて諌めて見せ、成り行きとはいえ攻め入った地では配下の人間に狼藉を許していない。また冀州を我が物にしようという素振りを見せるわけでもない。
自身の利ばかりを考え民を省みない領主の多い中で、劉備の行動は一見高潔なものに映る。

欲がないと見るべきか。それとも、世を乱す先駆けとなることを嫌ったと見るべきか。

「確かに、劉備の立場は侵略して来た軍勢を追い返しただけなのよね。勢いで配下の兵たちが先走って冀州まで行ってしまったとしても、新米領主としてなら良く抑えたと言うべきかしら」

州牧、そして名家・袁家の長が不在となり、攻められた地の人間が乗り込んで来たのだ。略奪を行うこともなく大人しくしているといっても、冀州の上部は慌てふためいてることだろう。

「袁紹が不在となった冀州に早く代わりの州牧を送れと、その劉備から遣いの者が来ています」
「なるほど」

確かに、劉備はひとつの地域を治める相でしかない。それがいきなり州規模の地を取りまとめるなどできるはずもない。そもそも現在ある平原の相という地位でさえ、義勇軍のまとめ役から一足飛びに得たものだ。それだけでも手一杯だろう。

そう思うが、荀彧の言葉はやや趣が異なっていた。

「冀州各地で少なからず起きていた混乱も、現在は落ち着いています。不思議なほどに。
頭だけを挿げ替えただけのように、統治を行う袁家という枠そのものが変わらず機能し始めています」
「不自然だと?」
「はい」
「確か、同じようなことがあったわね」
「劉備が青州・平原の相に就いた際にも、同じような手際のいい治まり方を見せています」
「2度も続くのは、やっぱり?」
「不自然です」

曹操の言葉に、荀彧は渋面を浮かべながらうなずいてみせる。

「確かに、不在にとなった州牧に新しく人材を派遣する必要があります。このまま劉備に任せるのは、いろいろな意味でよろしくありません」
「青州での不自然さを考えると、心情的にも任せたくないわね」

袁紹は行方不明。主だった将も同じように行方が知れない。文醜と顔良のふたりは撤退する軍の殿に立っていた姿が確認されているも、やはり行方が分からなくなっている。そこに付け込み何かをされるのではないかというおそれも抱く。
とはいえ劉備も、大人しく青州へ帰ることはできないだろう。戻った途端に再び攻め入られたりしてはたまったものではない。そう考えれば、何某かの確約を得ようと、劉備が次の州牧就任まで冀州に留ろうとすることも分からなくはないのだ。

「まずは、代理の州牧を派遣。残った袁家の人間と絡めながら、当面の冀州はなだめていきましょう」
「はっ」
「麗羽と、顔良に文醜も必要か……。3人の捜索の手配を。
州牧を置いて引き継ぎを終えたら、劉備に上洛を命じるわ。今回のこと、報告は必須でしょうし」
「ではそのように」
「お願いね」

このようなやり取りがあり。対応の詳細が詰められる。
おおよそをまとめた後、同じく洛陽の要職にある董卓や賈駆らへと報告が回り。認証を経て実行されることになった。

折衝役として、袁家に仕えていたこともある荀彧が出向く。そして情勢が不安定だろうことも鑑み、幾ばくかの兵と、それを指揮する長として夏侯淵が派遣されることになった。
新しい州牧就任の裏方としてだけでなく、冀州と青州で何があったのかを直々に調べることが目的である。此度の侵攻騒ぎに当たっていた細作、その中でも劉備に近いところを探っていた者の一部が、劉備贔屓になって戻って来ている。そこそこの者では取り込まれてしまうかと懸念し、荀彧と夏侯淵という腹心をわざわざ遣わせることになった。

「せめて麗羽の無事が分かれば、別の対処もできるのだけれど」

忌々しそうに、曹操は強く爪を強く噛む。

「麗羽、貴女は何をしようとしたのよ」

そのつぶやきは誰に聞かれることもなかった。











戦場となった、冀州と青州の州境。
見渡す限り途絶えることがないかのように、万を超える死者が累々と折り重なっている。

多くの民が死んだ。
そのほぼすべてが彼女のために、自ら身を投げ出し、命を散らした。

攻め入られた地を治める領主・劉備は、戦場の只中で立ち尽くしている。
独り、涙を流し続けながら。
























・あとがき
やべえ、各キャラの話し方とかすっかり忘れてるわ。

槇村です。御機嫌如何。





またしても約半年ぶりとなりました『愛雛恋華伝』。
どのくらいおられるかは分かりませんが、
待っていただいている方々にはお詫びをば。
お待たせして申し訳ありません。

お話の肉付けがなかなかできないと称して、
別サイトさん・ハーメルンで別のお話をでっち上げたりしていましたが。
このところは時間のなさゆえにどちらも放置状態。

その割には、書いてみたいお話のアウトラインとか取っ掛かりを思いついたりする。
なんというジレンマ。
さらにこのお話で「こうすれば面白いんじゃね?」みたいなものを思い付いたり。
どうすっかなー。

このお話に皆さんが求めてるものって、7割くらいは一刀さんの料理な気がするんですよね(笑)
話の流れを追っていくと、料理シーン出てこないんだよなー。



……もう、容赦なく「巻き」でサクサクと話を進め行った方がいいかなぁ。
でもシーンとシーンの間を埋めたくなっちゃうんだよなぁ。




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