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No.20752の一覧
[0] 林祐太の憂鬱 【涼宮ハルヒの憂鬱二次 オリ主 転生?物】[ホーグランド](2011/02/21 20:28)
[1] 一話[ホーグランド](2011/02/19 20:20)
[2] 二話[ホーグランド](2011/02/19 20:23)
[3] 三話[ホーグランド](2011/02/19 20:27)
[4] 四話[ホーグランド](2011/02/19 20:31)
[5] 五話[ホーグランド](2011/02/19 20:39)
[6] 六話[ホーグランド](2011/02/19 21:06)
[7] 七話[ホーグランド](2011/02/19 21:11)
[8] 八話[ホーグランド](2011/02/19 21:18)
[9] 九話[ホーグランド](2011/02/19 21:22)
[10] 十話[ホーグランド](2011/02/19 21:33)
[11] 十一話[ホーグランド](2011/02/19 21:37)
[12] 十二話[ホーグランド](2011/02/19 21:40)
[13] 十三話[ホーグランド](2011/02/19 21:53)
[14] 十四話[ホーグランド](2011/02/19 21:56)
[15] 十五話[ホーグランド](2011/02/19 22:00)
[16] 十六話[ホーグランド](2011/02/19 22:06)
[17] 十七話[ホーグランド](2011/02/19 22:12)
[18] 十八話[ホーグランド](2011/02/19 22:15)
[19] 十九話[ホーグランド](2011/02/19 22:16)
[20] 二十話[ホーグランド](2011/01/10 18:02)
[21] 二十一話[ホーグランド](2011/02/21 20:25)
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[20752] 十七話
Name: ホーグランド◆8fcc1abd ID:c9815b41 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/19 22:12
「……すっげーな、林」

「……自分もここまでとは想像していなかったよ」

 キョンと顔を見合せながら明らかに自分たち凡人には場違いな、クルーザーの客間に入る。入る時に執事とメイドにお辞儀されるのは、むずかゆい。
 30分ほどの航海の予定ではあるが、クルーザーは素人目から見ても高性能であるようでかなりのスピードを出しながら水面を滑るように走る。涼宮ははしゃいで外をみようと上に下にと大変だったそうであるが、自分たち男どもは爺臭く客間でゆっくりしていた。ただ寝ていただけとはいえ、船旅は体に応えるものなのだ。

「わぁ…見えてきた! あれが館?」

「……別荘だよ」

 遠目に見えるは無人島にぽつりと立つ、真っ白な色が目立つ別荘であった。涼宮のハイテンションな声にキョンが冷静にツッコミを入れる。

 無人島と聞けば、おどろおどろしいイメージが先行するが、一見、その島はただの島にしか見えなかった。そのようなイメージをどうしても思い浮かべてしまうのは、多くの小説で無人島などが殺人事件などの現場になったりするからだろう クルーザーは軽快にその無人島唯一であろう船着き場に、するりとその船体を寄せる。波止場には、自分たちSOS団とは別の招待客が、一人でこちらを見て待っていた。年齢は20代後半だろうか。中肉中背のどこにでもいるような男に見える。

 ようやく止まったクルーザーから、最初に涼宮が、続いて自分たち残りのSOS団が波止場にふらつきながら上がる。生まれたばかりの小鹿のような、とはよく言ったものだ。新川さんや森さんも最後に船の点検を終えた後降りてきた。
 きょろきょろと辺りを迷子になった子供のように見回す涼宮に、その青年は苦笑しながら、古泉に話しかけた。

「やあ、一樹君。久しぶりだったね」

「裕さんも。わざわざお出迎え御苦労さまです」

 古泉と裕さんというらしい青年が、お互い微笑みながら握手をする。続いてこちらの御一行を興味深そうに見つめる裕さんに古泉が一人一人紹介する。

「はじめまして、皆さん。どうもいらっしゃい。僕は多丸裕。ここの別荘のオーナーの多丸圭一の弟で、兄貴の会社を手伝っている雇われ者さ」

 裕さんの自己紹介を荷物を運ぶ道すがら軽く聞きながす。涼宮曰く『館』である別荘は、崖の先の方に立ててあった。無人島であるにもかかわらず、その別荘までの道がちゃんと整備されているのは、機関が無駄に頑張ったからであろうか?
 軽く機関に感謝しつつ、道なりに進む。別荘に向かうまで、先頭では涼宮が裕さんにこの島や別荘について、いわれがあるかどうかなどを怒涛の勢いで質問し始めた。裕さんも最初は面を食らったようだが、古泉の意味ありげなウインクのあとは苦笑しつつも、彼女の質問に丁寧に応えていっているようであった。もっとも、彼女の求める答えは彼の口から聞けずじまいだったらしいが。

 別荘に向かうまでの道は芝生のように背の短い雑草が両手に広がっており、どこか高山の様な植生である。

 サウンド・ オブ・ミュージックを思いだすなぁ。

 自分の心には、前の人生でみたアメリカ映画の記憶が浮かび上がってくる。確かあの映画もアルプスチックなこんな所が舞台だったはずだ。

「わぁ、見て! キョン! ここ、崖だわ、崖!」

 先頭を行く涼宮が声を上げた先を見ると、そこにはどこぞのドラマで犯人が最後に追い詰められそうな、それはみごとにテンプレな崖が眼下に広がっていた。
 草茂る平地が突如切れたと思うと、青い海が続いている。初めて見る夏日に輝く海という光景に、自然と御一行は崖に近づいて行った。

「おお。こりゃすごいな」
「わぁ」
「綺麗ですね」

 と、みなの口から思わず感嘆の声が漏れるほど崖から見る海の景色は綺麗であった。コバルトブルーの海が眩しく、高い崖特有の潮風が顔に感じられて気持ちいい。犯人が人生の最後にと選ぶ気持ちも、少し分かったような気がした。

「もっと近づいてみましょ!」

「おい、ハルヒ! あぶねぇぞ!」

 涼宮がキョンの手を引いて、崖から下をもっとよく見ようと崖に近づく。やれやれ、これを無意識でやるというのだから女は怖い。
 なんて今後のSOS団恋模様に思いを馳せていると、『きゃ!』『危ない!』なんてキョンと涼宮の声が聞こえた。
 横を見ると、近付きすぎた涼宮が足を滑らせて崖に落ちそうになった所をキョンに手を掴まれて事なきを得たようだ。夏のトマトのごとく、真っ赤な涼宮の顔が初々しい。

「全く……、気をつけろよ」

「わ、分かったわよ! いいから手を放しなさい!」

 やれやれと何時もの雰囲気で諭すキョンに、顔が真っ赤な涼宮は対照的だ。なんだこの夏ドラ。冷やかす気にもならず古泉と目を合わせて、溜息をつき残りの団員たちは一路別荘への道を急ぐのであった。




 どこかの登山道を彷彿とさせる別荘までの長い道のりを、息を乱しながらやっとの思いで登り切った自分たちは、この別荘の主である多丸圭一さんとの御対面に緊張の色を隠せずにいた。隣を見ると、涼宮はいつもの人を小馬鹿にしたような顔ではなくむしろ古泉側の、作ったような笑顔をしていた。普段のあのイノセントな笑顔を良く知るSOS団員から見ると、本物の笑顔との差は歴然としている。
 古泉がそこはかとなく高級感漂うインターフォンを押して待っている間、キョンですらその普段気にすらしていないようだった髪をいじりながら、この別荘の主である多丸氏を待っていた。緊張感漂う時間が数十秒過ぎた後、重そうな扉を響かせながら目の前に現れたのは、どこにでもいそうな普通よりふくよかな中年男性であった。

「いらっしゃい。よく来たね。君たちが……」

 事前に古泉から報告を受けていたのであろうが、初めて出会って興味深々といった体でこちらを見回す多丸氏。その視線からは純粋な好奇心しか感じ取れな……ければよかったんだが、二、三度、朝比奈さんをチラみしていたような気がするのは、こちらの勘違いだったと思いたい。
 SOS団も同じ様に自己紹介をして中に入る。洋風との事だったので、土足のまま入るのも慣れなくて少し気持ち悪い。入る時にお辞儀をするのも当然である。古泉の親戚といった設定ではあるが、ただでこんな所に泊めてもらおうというのだ。感謝してもしすぎることはあるまい。

 涼宮の猫かぶりがものの数秒ではがれるなど色々あったが、鍵の話や部屋の割り振りなどの話のあと、この後の予定について話し合うことになった。

「シングルとツインがあるみたいですが……」

 古泉が、目線で涼宮に問いかける。あなたはどうしたいですか、と。

「どうしましょうか……部屋の数は十分ある見たいだけど。これ、何のためにこんなに多くの部屋をつくったんでしょうね?」

 新たな謎だわ……と、考え込む涼宮。不思議はシャイだと言って憚らない団長の目には、この世界が謎で満ちているに違いない。自分の様な打算と諦観に彩られたこの目には、世界はそう面白くは見えないけれども。
 隣のキョンが、少し考えたあと、投げやりに館内地図を見て言う。

「全員、シングルにすればいいんじゃねぇか?」

「……それも、そうね」

 少し残念そうな涼宮の同意を持って、SOS団合宿の部屋割が決まる。そう言えば、この別荘は三階建てであるが、横にのぺーと幅広く、無駄に部屋数が多いのであった。サッカー団体も十分泊まれそうだとは、キョンの評である。
 あとは各位、自分の部屋に荷物を置いて海水浴の用意をしてもう一度ロビーに集合する流れとなった。ちなみに海水浴は涼宮のツルの一声で決まった。いや、誰も反対しないし、この無人島でほかにやることがあるかと聞かれれば、ないとしか答えようがないのだけれど。



 二階の中央階段を挟んで、東側、西側に男女が別れる。さすがに男女隣の部屋で寝起きする、なんて思春期男性の妄想でよくあるような状況にはなりっこないらしい。地球人に連行されるグレイ型宇宙人のように、涼宮、そしてなぜか長門に連れ攫われる朝比奈さんを見送ったあと、自分たち男三人衆も自分たちの部屋へと向かう。

「こっちの部屋で良かったのか。古泉?」

 部屋割を書いてあるのであろう紙切れを見ながら、それを持つ古泉にキョンが話しかける。古泉はその問いに無言で頷いた。

「林さんはこっちの部屋で」

「おう、了解。にしても涼宮のやつ、わざわざこんな端っこにしなくてもな」

 あきれたような声が出るのも仕方がない。男三人の部屋を、広い二階の最果てに配置したのは、涼宮が勝手に決めたことである。大体、女子三人組が中央階段の近い方の部屋に三連続でとっているのに対して、男どもは一番端っこに三連続でとってある。どう考えても不便だ。
 そんな愚痴に、キョンがうんうんと頷く。それを、自分はジトーと睨めつける。

「な、なんだよ」

 キョンが不思議そうに声を出した。

「いやー別にー。こうー、さすがは主人公ていうかー、その鈍さが罪っていうかー」

「おい林。なんで急にギャル語口調になるんだよ」

 溜息とともに軽く笑いがこみ上げてくる。いや、そうか。外から一歩眺めていればこうもあからさまな事でも、当事者たちにとっては気づきにくいものなのか。
 あきれたような、どこか納得がいったような。不思議な感動というものを味わっていると、古泉の顔が急に気になった。いつもこの世界全てを知り尽くしているかのような古泉は、どんな顔をしているのだろうか。
 軽い好奇心で、古泉の顔を窺った自分だったが、すぐさまその行動を後悔することになる。
 最初に会った時の様な、とってつけたような仮面がそこにあるだろう。そんな予想は裏切られ、そこにあったのはSOS団活動中に時々見かける、ぞっとするような無表情であった。仮面なんてそんなものではない。もっと、こう何かを作ることに失敗した、その残滓のような。
 一瞬の無表情のあと、すぐにいつもの仮面を被る古泉。急いでキョンの顔を見るも、彼は古泉の変化に気づいてないようであった。

 なんだこれは。こんな事に気づくのは自分が、決定的な部外者だからだろうか。それとも他の理由が……
 下から涼宮の呼ぶ声が、聞こえる。
 
 ――――なんだ林、何を深刻ぶってるんだ? この世界はすでに出来上がったものだろう? 何を真剣に考察する必要がある? 

 今を楽しめばいいじゃないか。ケセラセラ、何とかなるさ。
 次の瞬間には、頭の中は次のイベントでいっぱいになる。次のイベントは海水浴である、そういうことだ。
 
 部屋で用意をした後、階段でキョンたちと合流する。
 男どもの話題は、朝比奈さんの水着であった。是非もなし。









 これまでにないほどのテンションの高さのまま、浜辺に突撃しようとする涼宮を横目に見ながら、目的地であるこの浜辺を観察する。
 崖に立つ館(先ほど、SOS団内で呼称を統一することに決まった。おもに団長命令で)から、真下に位置するであろう浜辺までは、館横の小さな階段を利用して下ることとなった。浜辺が近くになるにつれて、磯の香りがどんどん強まる。ちょっとした林の中を下る階段の中、夏の虫たちがかなりうざい。ビーチサンダルのまま、体をかなり露出させた格好で通るには、この階段は少し不向きであるようである。朝比奈さんは悲鳴を上げていたが、自分だってムカデをサンダルのままふんづけるのは御免だ。

 浜につくと怖さで肩がふるえる朝比奈さんを文字通り引っ張って、水遊びをし始める女子二人組。いや、一方的に朝比奈さんが、水を掛けられているといった方が正確かもしれない。
 
「キョン! ほら、こっちに来なさいよ! あ、ビーチボール持ってきなさい!」

「あー、はいはい」

 仕方がなしと、でも少し嬉しそうにビーチボールを持って行くキョンに目を細める。……全く素直じゃない。涼宮も、キョンも。
 改めてみて見ると、どこにでもあるような浜辺である。プライベートビーチと言えば聞こえはいいが、結局はただの何も代わり映えのしない浜ということだ。漂流物が綺麗にされていないだけ、こちらのほうが汚いかもしれない。

「何か、気になることでもありましたか?」

 周りを見回していると、後ろから声がかかる。振り向かわなくて分かる、古泉の声だ。ビニールシートを敷いている途中のようで、もうすでに端っこには長門が文庫本を正座で座りながら、静かに読みふけっている。梃子でも動かないという、彼女の意思表示なのか微動だにしない長門に、自分はシートの端に置いたりする石を幻視した。
 その様子を何となしに眺めながら、ピーチパラソルを砂場に突き刺し広げようとする古泉を手伝っていると声を掛けてきた。彼の目線は、水を朝比奈さんに執拗にかけようとする涼宮、涙目の朝比奈さん、それを止めようとするキョンに向いている。

「楽しそうですね」

「ああ、キョンだっていつも不機嫌そうな顔をしているが、内心楽しんでいるんだろうさ」

「そう、だといいのですが」

「……分からないのか? どう考えてもあいつ、SOS団の活動楽しんでいるだろう? 心の底から」

 そうですかね、とバナナボートらしき物に空気を入れながら古泉が呟く。……なんだ、こいつのこの煮え切らない態度は。
 アンニュイに微笑む古泉なんて気持ち悪いに決まっている。向こうの岩にもかなりのフジツボがくっついているが、アンニュイ微笑みなんか見てしまった時には、それらを上回る数のサブイボが自分の肌に出るだろう。ああ、想像しただけでも気持ち悪い。

「……古泉、お前何を考えてるんだ? お前の悲しげな微笑みなんて気持ち悪いだけで、人に見せる様なもんじゃないだろう」

 ひどいですね、とそんな事を全く思ってないくせに一言つぶやいた古泉はパラソルに、背を軽く預けながらゆっくりと座った。
 自分はキャキャと黄色い声の上がる涼宮らを睨めつけた後、溜息をついて古泉の横に腰をおろした。パラソル横にあおむけに寝転がる。

「なんだ? 何か気になることでもあるのか?」

 パラソルが日差しを遮ったり、遮らなかったり。微妙な位置で寝ころんだから、顔にたまに掛かる直射日光が煩わしい。
 自分でもとっさにでた声に驚く。なんだこの、休日、子供とコミュニケーションをとろうとする不器用なお父さんのような話の切り出し方は。
 同じく奇異に思ったのか、古泉も不思議そうにこちらを見ていた。

「……気になると言えば気になるのですが、いや、ここで言うことではないんでしょう」

「なんだよ、気持ちわるいなぁ。男ならハッキリしろよ」

「……僕もずいぶん、涼宮さんに影響されていたんだなぁと」

「はっ! 何をいまさら」

 古泉の煮え切らない答えを鼻で笑う。全く、今更何を言ってるんだか。

「古泉。お前はもっと自分を客観的に見れる奴だと思っていたんだがな」

「自分を……客観的にです、か」

 自分という言葉を数回呟く古泉。少し待った結果、返ってきた返事は意外な言葉だった。

「林さん、僕は最初にあった頃から変わってきたと思いましたか?」

「ああ、お前が今更何を言っているのかよくわからんが、はじめの頃よりよっぽど突っつきやすくなってるよ」

「そう、ですか」

 再び男二人で海を見つめる。二人の間で無言が辛くなくなったのはいつからだったろうか。寝転がったまま、そんなどうでもいいことを思い出しつつ自分は目を閉じた。
 
 ちらちらと瞼の裏で、オンオフを繰り返す電球が切れる。

 横でザッザッと砂を踏む音に耳を澄ませながら、体を居心地のいい風に調整する。長門がページをめくる、規則的な音を聞きながら、自分は寝入る準備にいそしむのであった。
 






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