最近、寝ざめが悪い。それは高校に入ってからの色々な事件が、知らず知らずのうちに自分の心に負担をかけているのからだろうか。
しかし、今日は珍しく、心地いいまどろみとともにゆっくりと覚醒する。こんな気持ちいい朝を迎えたのはいつ以来だろうか。
いつもなら強烈な自己アピールで自分を不快にさせる目覚まし時計を見やると、まだ朝食の時間にも早い。
んー、と背伸びしながら、何故こんなに朝早く目覚めてしまったのかと首をかしげるも、その答えは出てこない。
近くにあった、メールの着信を伝える携帯を手に取る。青く光るその携帯には、朝倉のメールが一件入っていた。
ああ、そう言えば昨日はキョンのことや統合情報思念体からの話などをメールでしてたんだっけ。遅くまでメールをやり取りなんて恋人らしい行動に、にやけ顔が止まらない。
メールの中身は『おはよう! 今日も一日よろしくね♪』という、まぁ、ありふれたとりとめもない内容だったが、内容なんて関係ない。メールが朝一に入っているというこのシュチエーションがいいのだよ、ワトソン君。
パタリと携帯を閉じ、少しボーとする。窓から入る朝の穏やかな光が気持ちいい。
恋人になる……そんなことがこの世界でできるなんて全く考えていなかった。
朝倉をそんな目で見ていた訳じゃないので、というか、アイツの事は、事前情報がどぎつすぎて、あまり直接見ていなかったというのが真相か。だって宇宙人ですよ? 原作で敵ですよ?
でも、まぁ少し付き合ってみると分かるが、実は結構子供っぽくて、結構へんなことで怒るし、意外と乙女趣味だし……
そんなことを考えている自分の胸に軽く鈍痛がした気がした。
恋人、といえば前世にも居たわけで。なし崩し的に告白、そしてお付き合いと、その人を裏切っている、まさに昨日のことはそういうことなんじゃないか?
しかし、むこうの世界では、”自分”はそのままで幸せに生きているらしいし、新婚生活も楽しんでいるんだろう。いや、もう子供ができてるかもな、もうあれこれ十数年たっている訳だし。
はあーと溜息をつきながら、ベットに転がる。
こっちに来てからも自分を苛み続けるこの問題。自分のパーソナリティ問題。胸の奥で思い出したようにジクリと痛むこの痛みにも、もう慣れた。
高校になって、自分が実はただの転生したってわけでも無くて、その理由も原因もわかって。
これで、はいはいと納得できるなら苦労はない。
他の人間はこんな悩みを抱えているもんなんだろうか? 少なくとも前の世界じゃ考えたこともなかったが。
林祐太として生きていくべき? それとも『』として?
こんな他の人間が聞けば、一笑に付してしまうような悩みに悩んでいる自分が悩ましい。
まだ、心から気持ちいい朝を迎えることは無理そうだった。
「え? 祐太ちゃんの弁当いらないの?」
カチャカチャと台所で忙しそうにフライパンを動かす京子さんは、不思議そうに返事を返す。
「ふお? そう、彼女ができたから弁当作って来てくれるって」
そうなのだ。昨日のメールでいいよと辞退する自分を押しのけて、彼女はメールで『愛の手料理』宣言を出していた。夢だったそうだ、どんな夢だ。
台所から大きな、何やらフライパンやらを落としたような大きな音が聞こえる。うるさい朝だ。
「え! ええええー!?」
「だから、もう作ってくれなくてもいいよ、京子さん」
「え!? ちょっと待って! 初耳よ! そんなの!」
「うん、初めて言ったから。ごちそうさん!」
勢いよく箸をテーブルに置く。京子さんはこういうことに関して面倒なのだ。それも、もんすごく。どうせいつか耳に入るだろうから先に言っておいたが、失敗だったかもしれん。
「じゃ、行ってくる」
「いや、ちょっと待ってよ! ねぇ、誰? どんな子なの!?」
「行ってきます!」
「待って―!」
素早く靴を履き、捕まらないよう家をでる。ずいぶんあわただしい朝であった。
朝は基本的に一人だ。早めに出てしまったが、仕方あるまい。重ねて言うが、あの状態の京子さんはめんどくさいのだ。
いつものように通学路を歩く。少し違和感を感じるのは、朝早くだからなのか、なんなのか。いや、世界がバラ色に満ちているなんて、そんなことは思わ無いぞ。
そして、昨日彼女と別れた横断歩道に到着。やはり、いつもより生徒がまばらだ。
青が赤になりそうだ。走っていくとそこには何やら見覚えのある背中。まさかと思いつつ近づくと、やっぱり朝倉であった。
「よう、おはようさん」
「え? えええ!? 林君!?」
とアメリカンばりのオーバーリアクションを繰り出す朝倉。そんな驚く所があったか?
「そんなに驚くなよ」
「そんなことはないよ! だっていつも時間ぎりぎりだったじゃない! 今日はまだ時間に余裕があるし」
「へー、よく知ってるな」
「まあね。彼女さんですから」
えっへんと胸を張る朝倉が、可愛い。二人は寄り添うように歩き始める。
「今日は何で早かったの?」
「ああ、いやな、京子さんに彼女ができたから弁当がいらないって言ったら……」
と隣を見るとうつむいてもじもじしていた。そのうつむいた顔色はうかがえないが赤く染まっているだろう。なんでやねん。
「おーい、朝倉さーん」
「え? え、ん?何?」
やっと気づいた朝倉がこちらを見る。やはりその顔は真っ赤であった。
「いや、話きいてるかなーと」
「え? 聞いてる、うん、バッチシ聞いてるよ!」
「そう? ならいいけど……」
「大丈夫! で、いっちゃったの?」
「へ? 何が?」
「だから! その……、お母さんに、ほら、私たちのこと……」
「言ったよ。だって彼女が弁当作ってくれるなら、弁当をもういらないって言っておかないと」
「だー! ダメ! やっぱり『彼女』っていっちゃダメ!」
「え? 何で?」
「何でって、そりゃあ、恥ずかしいから」
と、昨日も聞いたような尻つぼみの言葉をかろうじて聞きとる。そんなに恥ずかしいことだろうか。
「朝倉って意外と恥ずかしがり屋だよな」
「むー、意外とって何よー」
「だってナイフとか好きだし」
「ナイフは関係ないじゃない!」
「いや、そこは気にしろよ……」
とまぁ、色々と話していると、これまた珍しい人物を見つけた。前方にこちらを親の敵のごとく睨めつける人物、谷口である。
目線を自分から一切離さずに手を真っすぐこちらに向ける。そして、親指を一本ピンッと立てる。
なんだ、何をする気だ? そんな自分の戸惑いを前に、にまーと気持ち悪い顔で笑う。
ザッと遠くにいる自分達に聞こえるほど早く、その親指を下へ勢いよく振り下ろす。そして、口を動かす
その動きから読みとるに、『し・ね・☆』 あ、泣いてる。
笑いながら赤い涙を流すという難しい技を繰り出した谷口は『チクショ―!』と大声で叫びながら、走り出す。砂煙が舞うとこには、残された二人。
「あいつは……何がしたかったんだ?」
「谷口君って変わってるよねー」
隣で向日葵のように笑う朝倉を見ていると、谷口なんてどうでもよくなった。合掌。
色々な人にいじられて、やっとクラスに辿りついた。明らかに他のクラスの奴からも言われたことを考えると、どうやら昨日だけで学年中に広まっているようだ。この暇人らめが。
確かに入学そうそうの色恋沙汰なんて格好のネタ、みんなが逃すはずもなくいち早く自分は学校の有名人に仲間入りしたわけだ。
いじられている間、顔を真っ赤にした朝倉が可愛かったこともここに付け加えよう。
さて、そうしてクラスに入るとまだ時間があるというのに、クラスには半分ぐらいの奴が居た。クラスに入ると目線が一気に集中する。
朝倉に「またね」と声をかけて、自分の席に向かった。
そこには、憮然とした顔で何やら円陣を組んでいる男子達。何やってんだ?
近くにいたキョンに声をかける、キョンも何やらわからないけれどすごい熱気を放つこの集団に、呆れている様子だ。
「なあ、キョン」
「ん? ああ、うわさの林先生じゃないですか」
「先生やめい。……で、これは、何?」
自分の席を中心に、円陣を組み、中では不思議な踊りと称すしかない何かをしている集団を指して言う。
「ああ、これ? いや、昨日のお前の告白に感銘を受けた奴らがお前を恋愛大明神だって祭り上げてな。お前の机を祭ってる所らしいぜ」
「……さいですか」
なるほど、確かに机を中心に盆踊りとフラメンコをミックスしたような踊りをしているのは、見方を変えれば何か変な新興宗教にも見えなくもない。
近くでぼんやり見つめていた自分にやっと気付いたのか、変な踊りを披露していた一人が急に動きを止めた。そしてこっちをじっと見つめてくる。
「……来なすった」
かすれるような声。その声には恐れと畏怖という相反した二つの感情が垣間見れる。その異様な勢いは周りの円陣を組んでいた奴らにも伝播していく。
「おい、きなさったぞ!」
「恋愛大明神様じゃー! 恋愛大明神様が、我々に姿を現しなすったぞ!」
「ありがたや……、ありがたや……」
「ほんの少しでもいいんです! 少しだけ触らしてください……」
いきなり奇声を上げるもの、どこから出したのか数珠を使って、本格的にこちらに拝むもの、触ろうとしてくるもの……
あっという間に意味分からん奴らに囲まれる。その間僅か五秒。その無駄に俊敏な動きは気持ち悪いを通り越して、どこかうすら寒いものがあった。
そんなカオスな状況をもっと混沌とさせようとする存在が一人。クラスの後ろの方の扉をこれまた無駄に勢いよく引いて入ってくる男が一人。
その男の名は、谷口。更なる混沌をもたらすものである。
「騙されるな!」
これまた無駄に響く声を張り上げて、谷口はその指で囲まれた自分を指す。もう、嫌な予感しかしない。
「皆の衆、騙されるでないわ! そのものは、この平和なクラスの安定(男子達の相互的な牽制)を脅かした悪魔であるぞ! そいつは……」
そこで目元から赤い滴が垂れる。無駄に、重ねて言うが無駄にオーラが彼から迸っていた。
「そいつは……、男子の敵じゃあ!」
そんな言葉とともに、何やらそとから地響きが聞こえてくる。嫌な予感がしつつも何もできない自分をしり目に、その音はだんだんクラスに近づいてきた。
その何百と言っても過言でない足音はついにクラスの前にまで到着し、谷口の後ろには、おびただしいほどの人数の男子。
『バンッ!』
そんな音とともに廊下側のガラスが一斉に開く。そこからは廊下に展開した男子がひしめきあってきた。ひいとクラスの女子が軽く悲鳴を上げる。
「これが……、これこそが、我々の同志たちだ!」
その谷口の言葉におおー!と後ろの男子達が雄たけびを上げる。
「敵は、ただ一人。いや、その周りに群がる裏切り者どもも同罪よ……」
クククッと悪者チックに笑う谷口。一通り笑って満足したのか、ビシッと腕を上に挙げる。
「敵は彼女持ちだー! みなのもの、かかれー!」
振り下ろす腕とともに、後ろで待機していた男子達が一斉にこちらに襲いかかる。それと自分を囲んでいた信者たちと勢いよくぶつかり合う。
『大明神様をお守りするのじゃ!』
『黙れ! この裏切り者(リア充)めが!』
二つの勢力が、互いに勢いよくぶつかり合う。教室内は阿鼻叫喚となった。
罵詈雑言が飛び交う中、埃舞う教室でただ戸惑うばかりの二人はお互いに顔を合わす。
「この状況は……」
「言うな、頭が痛くなる……」
右手を頭にあてて痛そうにするキョン。この喧騒はまだまだ収まりそうに無かった。
激動の朝も過ぎて、四時限目が終わるころにはみんなの頭には、この後の昼食についてが大部分を占めていた。
「よお、林大先生!」
「……谷口か」
先ほどの事件の首謀者とは思えない軽さで自分に話しかけるの谷口。
「まぁ、話したいこともたくさんあるし、食べながらでも話そうぜ」
そうして向ける視線の先には、国木田、キョンといつものメンバーが机を囲っていた。
「ああ、スマンが今日は……」
困ったようにクラスの出口で赤く、縮み困っている朝倉を見やる。そんな自分の行動で察したのか、盛大に鼻をならす。
「そうかいそうかい。わかりましたよ、ルーザーは端で固まってますよ」
苦笑する国木田と憮然としたキョンに軽く頭を下げ、朝倉の元へ向かう。クラスのみんなの視線が怖くて振り向けなかったのも仕方がないだろう。
「じゃあ、行こっか」
「う、うん」
どこともなく二人は昼ごはんを食べる場所を探して、歩きだす。朝のこともあってあの魔物が巣くうクラスにはあまり居たくないのが本音であった。
「さて、どこで食べるかね。どこかいい場所知ってる?」
「うーん、あ、そうだ! 屋上とかいいんじゃない?」
「あー、屋上か。でも確か立ち入り禁止じゃなかったっけ?」
「大丈夫でーす」
そういう朝倉の手には、古ぼけた銀色のカギが握られていた。
「げ! それって屋上の?」
「そう! いやぁ、優等生はお得ですねー」
「……結構、朝倉ってはっちゃけてるんだな」
「真面目一辺倒って訳じゃないわよ?」
「はは、そうだな」
話している間に、屋上へと続く階段まで来る。そこはもう奥には何もないからなのか、人の気配のしない、静かな廊下の先にあった。
どこか埃っぽい階段を上ると、そこにはもう何年も空けたことのないであろう扉があった。
朝倉がそのカギで扉を開ける。軋むような音とともにその古ぼけた扉が開く。屋上はコンクリートの寒そうな床に、緑色のところどころ禿げたフェンス。なるほど、立ち入り禁止とだけあって、そこには何年も人が訪れなかったのであろう閑散とした光景が広がっていた。
自分たちは、扉を手早く閉めて、屋上を見渡す。見事になにも無いな、屋上は。
「ホント、何もないわねぇ」
同じ様な感想を得たのか、同様の感想を彼女が口にする。たしかに何もない屋上は、何やら寂しい印象を与えた。
「じゃあ弁当を食べようぜ、もうお腹ぺこぺこだ」
「そう? じゃ早速頂きましょうか」
扉のある横の壁に背を預けながら、朝倉は目の前に彼女お手製弁当を広げていく。おせちで見るような、何やら豪華な漆の弁当箱に比べて、中に入っている具は庶民的な卵焼きやら唐揚げやらであった。
『いただきます』
手を合わせると、腕によりをかけたというお手製弁当を食べる。からあげがすごくおいしかった。
「このからあげうまいなぁ」
「へへ。それ、自信作」
照れた様に笑う朝倉は、そこに一輪の花が咲いたように可憐であった。見とれるように呆けた自分の顔を不思議そうに見つめる。
「? どうしたの?」
「へ? い、いやいや、何もないよ、うん、何もない」
「そう? あ、この卵焼きも上手く出来たんだよ」
「どれどれ、あ、甘いな」
「普通、卵焼きって甘いものじゃないの?」
「いや、うちじゃ甘い卵焼きなんて出なかったけれど。うん、これもありだな」
「でしょー」
五月の屋上は風が吹けば、それなりに寒いはずだが、彼女と食べる昼食中はそんなことは全く感じなかった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
お弁当をもちろん残さず完食した自分は、背中のひんやりしたコンクリートの壁を感じながら食後の眠気と戦っていた。
「どうだった?」
「……うん、本当においしかったよ」
「ホントにー?」
となりで元気に疑問の声を上げる彼女はホントに嬉しそうであった。こんなに嬉しそうな顔をされると、こっちも何やら嬉しい気持ちになってしまうのだから人間って不思議だ。
「ありがとう、こんなにおいしいお弁当作ってくれて」
「……うん」
そして、しばしの間訪れる沈黙。遠くからは、運動部の昼練の声が聞こえる。夢中で弁当を食べたので、昼休みはまだ時間が余っている。
この沈黙になれる日がくるのだろうか、なんて思っていただどうやら思いつめ過ぎだったようだ。現に今のこの穏やかな昼休みが心地よい。
ふと、左肩に柔らかいものを感じる。驚いて横を見ると、朝倉が自分の肩に寄りかかっているのだった。
急に心臓が活発に活動を始める。顔が熱い。体の奥に響く重低音。目線は真っすぐで、隣の彼女に向けるには多大な労力が必要そうであった。
「……寒いから」
「そうか、屋上って寒いからな」
寒いなら仕方がない。なんて思う自分の体は、すっごく暑いです、ごめんなさい。
そして、放課後。SOS団の活動らしきもので今日は一緒に帰れないことを伝えて、彼女には先に帰ってもらうことにした。昼休みのこともあって、今の自分のほほは常時ゆるみっぱなしだ。
「よお、キョン! 今日は活動あるんだろ?」
「……お前、テンション高いな」
「な事はねえよ。さあ、ぱっぱと行こうぜ!」
「はあ」
何でか溜息をつくキョンに首をかしげつつ、二人組は文芸部の元部室に向かう。
「そういえばさ、キョン」
「ああ? なんだ?」
キョンは若干、食い気味に返事を返した。
「いやな、自分にも朝比奈さんから相談があってな」
「お前もかよ」
頭を抱えるキョン。
「? お前もかって、まさか」
「そう、そのまさかだよ。こうなると、あの転校生もなんかあるんじゃないかって気になってくるな」
「ああ、たとえば超能力者だったりしてな」
「はは、まさか」
そのまさかなんだな、と心の中で呟く。どうやら、自分が転生者らしき人物だってことは宇宙人組から洩れてはいないようだ。
ガラガラと扉を開くと中には、もはやこの部室の備品の様な扱いになりつつある宇宙人、長門。そして、うわさの転校生、古泉一樹であった。
「おい、お前も何か言いたいことがあるんじゃないか」
と、もはやケンカ腰でキョンは古泉に詰め寄る。
「おや、お前もということは、もうすでにお二人から何かアプローチを受けたってことですか」
にこやかに古泉はそう返す。
「そうですね……、ここじゃ涼宮さんに出会うかもしれないので、場所を替えましょうか」
そういう古泉について行くと、そこは近くに自動販売機が置いてある中庭の休憩スペースであった。
それぞれ思い思いのドリンクを購入したあと、近くのテーブルに座る。テーブルは横に二人座るには少し狭いようで、窮屈であった。
最初に口を開いたのは、古泉であった。
「どこまで知っているんです?」
微笑みながらそう問う古泉。コーヒーをすすりながらも、その仮面のような表情は崩れない。
「ハルヒがただものじゃないというくらいは」
「なるほど、なら話は早い。その通りなんでね」
「お前の正体から聞かせてもらおうか」
キョンは古泉に詰め寄る、自分は一応、すべてを知っているので表面上は驚いたふりをしながらも二人の会話を静かに聞いていた。
「僕は、そうですね、ちょっと語弊があるかもしれませんが、超能力者って言ったところです」
「なぁっ!」
目をむくキョン。そしてこちらを向くキョンに肩をすくめて見せる。
「適当にいっても当たるもんだな」
「ほう。林さんは分かっていたんですか?」
「そんな、まさか。未来人、宇宙人ときたら超能力者が居ても不思議じゃないっておもってね」
「なるほど、あなたは適応能力が高いようだ」
「いや、それほどでもないさ」
お互いの顔を見てフフフと笑う。若干、キョンが引いてるが、気にしない。
そして、原作と同じ様に彼の説明は進んでいった。『機関』の存在、三年前の事件、涼宮ハルヒの能力……
ある程度、話終えると、彼は今日は帰ります、長い話をしてすみませんと帰って行った。
残されたのは、あっけにとられたようにボケっとするキョンと、予定事項を消化しただけで、別段驚いた様子のない自分であった。
「なぁ、林」
「ああ、何だ?」
どこかピントの合ってないキョンの声に、自分は気の抜けた返事を返す。
「超能力者って本当にいたんだな……」
「ああ、案外近くにいたな」
「ホントだよ。下手すると、結構ポンポン出てくるかもしれないぜ」
「ユリ・ゲラーも真っ青だな」
そんなやり取りの後、キョンは勢いよく残りのコーヒーを飲み干す。そして、真剣な顔をして体をこちらに向ける。
「なあ、あいつらのこと信じるか?」
そうか、原作では朝倉の襲撃で信じ始めていた彼だが、まだ信じ切れないのか。ま、当たり前だが。
「どうだろうね、集団妄想って訳ないんだろうしなぁ。結局、古泉のいう『超能力』さえ見れれば信じれるんだけどね」
「そうだよな……」
遠い目をするキョン。彼の気持ちを測ることはできないが、今すごく葛藤しているんだろう。SOS団のほとんどが妄想持ちって状況は笑えないどころじゃない。
さて、このお話はどうなっていくのだろうか? 死んだ目をしたキョン(主人公)見て、なんだかせつない気持ちになるのであった。