俺と鬼と賽の河原と。生生世世
「にゃん子、にゃん子」
「んー?」
「人間状態で変則土下座みたいな伸びをしたり、階段の手すりにほお擦りしたりするのはやめたほうがいいのではないかと思う」
「なんでかにゃー?」
「奇矯なおっさんに連れて行かれかねん」
「ご主人のこと?」
「おっさんと言われた俺の心は粉砕寸前である」
「おじさんどころじゃないじゃん、ご主人」
「それもそうなんだが。まあ、とりあえず俺じゃない」
「えー、攫ってよ、オ、ジ、さ、まっ」
「やめろ」
其の二十四 俺と鯖。
畳の上に転がって、寝ながら本を読んでいると、にゃん子がふと俺の隣に座る。
そして、座るなり、口を開いた。
それはもう、藪から棒に。
「ご主人ご主人。さば食べたい」
「やだ」
「なんで?」
「鯖嫌いだから」
「やっぱり天狗だから?」
「いや、なんか普通に嫌いだ」
「さば食べたい」
「会話が一回転したな。だが断る」
「なんで普通にお魚食べれるのにさばはダメなの? ご主人」
「鯖が……、鯖が憎いんだっ……。俺の妹を奪って行った鯖が……!!」
「妹いたの? ご主人」
「どーだかな」
「で、なんで嫌いなの?」
「鯖? 鯖ってなんかあれだろ。魚面だし」
「普通じゃん」
「鱗あるし」
「普通じゃん」
「鯖だし」
「存在全否定だにゃー」
「第一にゃん子さんよー。なんで鯖なんだ」
「えー? さばってなんかあれじゃん。魚面だし」
「魚なら標準装備だな」
「鱗あるし」
「魚なら標準装備だな」
「さばだし」
「鯖だもんな」
「さばだもんね」
「第一俺じゃなくて藍音に頼んでくれたまえよ」
「頼んだけど」
「けど?」
「藍音もさば嫌いだってにゃー」
「そーなのかー。食卓にも話題にも出さんから知らんかった」
「やっぱ天狗だから? って聞いたら、ご主人が食べないから余るって主婦みたいな理由で断られたー」
俺は、長時間同じ体制で本を読んでいたため、体勢を変えんと身を起こす。
その背に、にゃん子は額をこすりつけてきた。
「買ってよー」
俺はつっけんどんに首を横に振る。
「いやだ。鮭ならいいが鯖はダメだ」
「さけもさばも変わんないにゃー。ちょっと点が付いて、右下の方が輪になってるだけだって」
それなら鮭でもいいじゃねーか、とは言わないことにした。
「その違いは大きい。濁点は重要だ。さはにさげだぞ。意味わからん」
「そんなことよりもさばー」
拗ねたような声を上げるにゃん子。
俺はもう無視することにした。
「……」
「うにー」
「おいにゃん子」
「にゃん?」
「指を噛むな」
「ひいひゃん。へふもんひゃはいひ」
「減るんだ。しゃぶるな。吸うな」
「んーっ」
俺の指はふやけた。
そして、次の日がやってくる。
「……なにやってるんだ、にゃん子」
「にゃんとなく」
そこには、洗濯物の籠に尻を入れて、身体全体で見るとはみだし気味に固定されたにゃん子の姿があった。
「ぬけにゃい」
かなり間抜けな姿である。
「そうか」
俺は、そこを立ち去ろうとする。
にゃん子のお楽しみを邪魔しちゃいけない、と早足になるのだが、
「あ、まってまってっ。抜いてってよご主人」
「なんかいやだ」
ちょっと焦った声に途中で止められる。
俺は振り向いて半眼でにゃん子を見た。
やっぱり嵌っている。
間抜けな姿だ。
「にゃー……、にゃー……」
儚げににゃーにゃー言うにゃん子に、俺は溜息を吐いた。
「……ほら」
溜息と共に手を差し出す。
にゃん子は、その手を取り、立ち上がろうとするが、籠ごと持ち上がってしまった。
「にゃー、取ってー」
俺は、溜息をもう一つ。
尻を持ち上げた体勢で四つんばいになったにゃん子の籠を掴んで引き抜く。
やっと開放されたにゃん子は嬉しげに立ち上がりにこにことしていた。
「ったく、なんでこんなことになってたんだか」
呆れたように呟けば、にゃん子はしれっと言ってのけた。
「籠とか鍋とか。猫が鍋に入ってるんじゃなくて、鍋に入ってるのが猫なんだよっ」
「じゃあ……、俺が前食った寄せ鍋は――ッ」
「そう……、猫だったんだよ」
「……いや、ないわ」
「うん。でさ、ご主人」
「ん?」
不意に、にゃん子は言った。
それはもう、やっぱりやぶから棒だった。
「釣りに行こうよ」
俺は固まる。
「……なんだって?」
対して、にゃん子はぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「釣りー」
「なんでやねん」
「だって誰もさばくれないもん」
「それで何で釣り」
「新鮮なお魚でがまんするから、一緒に行こうよ」
「あー……」
「お願いっ」
見上げながら言われ、俺はとっとと折れることにした。
猫状態のにゃん子を頭に乗せて、歩き続けること四半刻と少し。
飛んでいくのは風情に欠けると、俺は下詰から借りた道具を担ぎ、肩を揺らしていた。
「にゃんっ、にゃんっ」
上機嫌なにゃん子は、たしたしと俺の頭を肉球で叩く。
そして、やってきたのは港だ。
地獄に海と呼べる海は存在しない。代わりにあるのは巨大な湖だ。
海水浴場も、港だろうと、なんだろうと、湖なのだ。そんな港。
「いい天気だな」
呟いて、波止場に腰を下ろす。
にゃん子もまた、軽やかに俺の隣に降り立った。
そして、人間状態になり、隣に座る。
「うんっ」
「ま、成果は期待すんなよ」
「うんっ」
嬉しげにこくこくと頷くにゃん子。
「いや、期待してないことに関してそう元気よく頷かれると困るんだが」
「ふにゃ? うんっ」
上の空なくらい元気に頷いてにゃん子はにこにこと波止場から垂らした足をぱたぱたとせわしなく動かしていた。
その尻尾もまた、ゆらゆらと揺れている。
俺は楽しそうだしまあいいか、と適当に釣り具を用意。餌を付けて、糸を垂らす。
ルアーで釣るなんぞできるわけもない。
「にゃー、にゃー」
にゃん子はゆっくり左右に揺れながら、まるで歌でも歌うように揺れている。
俺は胡坐を掻いた膝の上で頬杖突いて、片手で竿を下げた。
「ご主人」
「なんだ?」
「ご主人ご主人っ」
「なんだよ」
「んー、呼んでみただけ」
「変な奴だな」
呼ばれて、横にいるにゃん子を見るが、なんでもないと言われ、俺は水面に視線を戻す。
なにが楽しいのかはわからないが、やっぱり楽しそうだった。
「ごしゅじーん」
「なんだ、また呼んだだけか?」
「んー、だいすきっ」
「そーかい。ありがとさん」
楽しげに、にゃん子は自分の額を俺の肩に擦り付ける。
俺は、ちらりとにゃん子を見て、やっぱり水面に視線を戻した。
のどかで実にいいことだ。
そうして、ゆったりと時間が流れる。
魚は釣れない。
にゃん子が声を上げた。
「釣れるまでがんばろーねっ」
「努力はする」
「どうせなら、釣れなければいいんじゃないかにゃー?」
悪戯っぽく、にゃん子は笑った。
俺は呆れた声を上げる。
「お前さんが魚食いたいってったんだろーが」
すると、にゃん子は、笑ったまま、しれっと言うのだ。
「うん、でもねっ。やっぱり夕ごはんまで粘りたいもん」
日は高い。
ということは、これから三時間か四時間粘ると。
「長いな」
「ダメ? ご主人……、こういうのキライ?」
にゃん子の不安に揺れる瞳に、俺はぼんやりと呟いた。
「ま、たまにはこんな日も悪くねー」
「うんっ」
秋の空は青く。夏のように暑くもなく、冬のように寒くもない。
「すきすきっ、だいすきっ」
「おー、そうかい。嬉しいね」
俺は釣りをしていて、隣にゃ猫。
ま、悪くない。
「んー、でもやっぱりご主人の膝が落ち着くー」
「やり難いんだが」
結局、魚の一匹も連れなかった。
ただし、にゃん子は終始楽しそうだった。
―――
今度こそ薄いっ、間違いない……、はず。
砂糖を控えて、ほのぼのマックス。会話文も増量気味。
ただし自分の感覚ほど当てにならないものはない。
返信。
怜様
昼寝する子供はとても可愛いと思います。そして、ここのところほのぼのマックスに行きたい気分です。
多分あれですね。憐子さんとかの破壊力が高かったからですね。ほのぼの分が欲しくなったんです。
それにしても、久々の録音です。薬師の基本武装の一つではありますが。錫杖、鉄塊、高下駄、スーツ、ボイスレコーダーです。
あと、薬師が見てしまったのは、絶対的乙女聖域です。語ったが最後、彼の頭部が潰れトマトになることでしょう。
SEVEN様
そう、つまり、まあ、ええ。なんら一切手の加えられていない未開拓の丘が見えまして――、窓を誰かが叩いています。
そして、薬師のくせに分かっている発言を吐いてましたね、前回。薬師のくせになまいきだ。
ただ、やっぱり大人の女性が恥じらいたっぷりでロリだからいいんです。顔をまっかにして怒ってくれないと面白くないんです。
まあ、なんというかもう、薬師は既に逮捕されてもいい気がしてきますが。波止場から落ちてしまえこの野郎。
光龍様
東京ですか。私は道産子の田舎もんなんで、その辺りの都会も一度は拝んでみたいですね。
ただ、田舎者としてはテレビなんかに映るあの人ごみの中で生きていける気がしないです。そんな田舎でもない気がしてましたが結局田舎は田舎です。
さて、季知さんですが、この人が一番純情ではある気がします。だからいじられ役なんですね。打てば響くから。
そして、憐子さんのうっかりにより、下着はナッシング。目撃してしまったのが薬師じゃなかったらもっと気まずいでしょう。
奇々怪々様
うさ耳なんです。なぜかうさ耳。私も変な気がします。猫耳キャラが完全に定着したんですかね。おかしいなぁ。
そして、薬師は基本的に何も考えてないと言うことが前回で発覚しました。奴の脳内は七割がたまあ、いっかで構成されております。
で、まあ、話題の存在しないヴェールの内側ですが、やはりあれですよ。隠されてるから萌えるんです。スカートの中に隠されてるのと、普通に見えてるのでは違うんです。
あと、やっぱり猫耳ですよね。うさ耳はどちらかと言うと大人状態でバニーやってほしいです。
アンプ様
むしろあれです。季知さんはにゃん子の被害を最低限に抑える役割をしているのです。彼女がいないと無秩序に猫耳ロリが量産です。
そして憐子さんは、パンツという存在そのものに思い当たらなかったという猛者っぷりです。
玲子さんに関しては、一応プールに行ってるので、コンプリートです。後は翁、じゃら男とかそんな感じの人々です。
メインがラブコメだからなかなかタイミングがないんですよね、特に翁は。後は……ないです、とくに。
通りすがり六世様
本人は自分をノーマルだと信じてるから手に負えないんですね。どう考えても変態で、人が恥ずかしがったり、おろおろするのを見て楽しむサディストです。
それはさておき、季知さんは、やっぱりいじられ役なんです。その真面目に取る態度をどうにかしないとずっとこのままなのに、それを真面目に受け取って直そうとすると矛盾する不思議。
そして、身体の大きさとか、コンプレックスがちらほらあるので、攻めは遠慮気味です。代わりに薬師が攻めますが。
ちなみに、狐耳は出現する予定があったりします。新キャラじゃなくて既存の人ですが。
志之司 琳様
馬鹿で非常識な人々としては、真面目な季知さんが可愛くて仕方ないんですね。年齢的にも実は結構年下だったりして。
結局、眺めるに徹して一番楽しむ薬師が一番鬼畜なんですよね。一人一人の罪は軽いが、全体的に関わっている薬師が一番酷い。
そして、憐子さんは和服内に下着は邪道派で、あと、窮屈だとか云々のほか、寝るときは全裸だの、基本的に和服だので基本的にノーパンスタイリストです。結果があれです。
で、まあ。薄かったと思ったんですけどね。ええ。味の濃いものを食べ過ぎると味覚障害になると言うね。あれです。まあ、百八回くらいは萌え殺していきたいと思ってますが。
春都様
放っておけないとか、いじったら楽しいとか、大人気です季知さん。見た目的には上位なのに、年下として可愛がられてます。
そして、そうそうたるメンバーに支援を受けた結果が桃色ゴスロリリボンうさ耳です。というか位置的には由美と季知さんは薬師の家で同じ格付けです。
で、ついでに、由壱はきっとみんなの中で、兄に似ないで健やかに育って欲しいと思われてることでしょう。
しかし、今ひとつ自分じゃ分からないんですけど、破壊力高いんですかね。自分では抑え目にしてる気がしないでもないんですが。
最後に。
ここ最近長らく猫と接していなかったせいで、野良猫を発見するなり全力疾走しました。もう末期です。