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No.20619の一覧
[0] 星は夢を見る必要はない(クロノトリガー)【完結】[かんたろー](2012/04/28 03:00)
[1] 星は夢を見る必要はない第二話[かんたろー](2010/12/22 00:21)
[2] 星は夢を見る必要はない第三話[かんたろー](2010/12/22 00:30)
[3] 星は夢を見る必要はない第四話[かんたろー](2010/12/22 00:35)
[4] 星は夢を見る必要はない第五話[かんたろー](2010/12/22 00:39)
[5] 星は夢を見る必要はない第六話[かんたろー](2010/12/22 00:45)
[6] 星は夢を見る必要はない第七話[かんたろー](2010/12/22 00:51)
[7] 星は夢を見る必要はない第八話[かんたろー](2010/12/22 01:01)
[8] 星は夢を見る必要はない第九話[かんたろー](2010/12/22 01:11)
[9] 星は夢を見る必要はない第十話[かんたろー](2011/08/02 16:03)
[10] 星は夢を見る必要はない第十一話[かんたろー](2011/01/13 06:26)
[11] 星は夢を見る必要はない第十二話[かんたろー](2011/01/13 06:34)
[12] 星は夢を見る必要はない第十三話[かんたろー](2011/01/13 06:46)
[13] 星は夢を見る必要はない第十四話[かんたろー](2010/08/12 03:25)
[14] 星は夢を見る必要はない第十五話[かんたろー](2010/09/04 04:26)
[15] 星は夢を見る必要はない第十六話[かんたろー](2010/09/28 02:41)
[16] 星は夢を見る必要はない第十七話[かんたろー](2010/10/21 15:56)
[17] 星は夢を見る必要はない第十八話[かんたろー](2011/08/02 16:03)
[18] 星は夢を見る必要はない第十九話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[19] 星は夢を見る必要はない第二十話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[20] 星は夢を見る必要はない第二十一話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[21] 星は夢を見る必要はない第二十二話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[22] 星は夢を見る必要はない第二十三話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[23] 星は夢を見る必要はない第二十四話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[24] 星は夢を見る必要はない第二十五話[かんたろー](2012/03/23 16:53)
[25] 星は夢を見る必要はない第二十六話[かんたろー](2012/03/23 17:18)
[26] 星は夢を見る必要はない第二十七話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[27] 星は夢を見る必要はない第二十八話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[28] 星は夢を見る必要はない第二十九話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[29] 星は夢を見る必要はない第三十話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[30] 星は夢を見る必要はない第三十一話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[31] 星は夢を見る必要はない第三十二話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[32] 星は夢を見る必要はない第三十三話[かんたろー](2011/03/15 02:07)
[33] 星は夢を見る必要はない第三十四話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[34] 星は夢を見る必要はない第三十五話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[35] 星は夢を見る必要はない第三十六話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[36] 星は夢を見る必要はない第三十七話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[37] 星は夢を見る必要はない第三十八話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[38] 星は夢を見る必要はない第三十九話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[39] 星は夢を見る必要はない第四十話[かんたろー](2011/05/21 01:00)
[40] 星は夢を見る必要はない第四十一話[かんたろー](2011/05/21 01:02)
[41] 星は夢を見る必要はない第四十二話[かんたろー](2011/06/05 00:55)
[42] 星は夢を見る必要はない第四十三話[かんたろー](2011/06/05 01:49)
[43] 星は夢を見る必要はない第四十四話[かんたろー](2011/06/16 23:53)
[44] 星は夢を見る必要はない第四十五話[かんたろー](2011/06/17 00:55)
[45] 星は夢を見る必要はない第四十六話[かんたろー](2011/07/04 14:24)
[46] 星は夢を見る必要はない第四十七話[かんたろー](2012/04/24 23:17)
[47] 星は夢を見る必要はない第四十八話[かんたろー](2012/01/11 01:33)
[48] 星は夢を見る必要はない第四十九話[かんたろー](2012/03/20 14:08)
[49] 星は夢を見る必要はない最終話[かんたろー](2012/04/18 02:09)
[50] あとがき[かんたろー](2012/04/28 03:03)
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[20619] 星は夢を見る必要はない第十四話
Name: かんたろー◆a51f9671 ID:423dceb7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/12 03:25
 雨の中、騎士団長が「この戦いの結果報告は私たちが行います。貴方たちは勇者様を追うのでしょう? 勇者様は伝説の剣、グランドリオンを手にするためデナトロ山に向かいました。今ならまだ追いつけるでしょう」とまだヤクラの死を悼んでいるマールの肩を叩いて言う。
 ……王妃様の泣き顔を見ずに済むのは有難い。俺たちは騎士団長の言う通りそのデナトロ山に向かったほうが良いだろう。ただ、一つ気になることがある。


「騎士団長さん、その勇者様とやらはここで戦わなかったのか? 騎士団の皆が必死に戦ってるのに」


 騎士団長は気まずそうに視線を逸らして「勇者様は我々が盾となり、道を切り開いてこの橋を渡らせました。勇者様とはいえ子供でしたので、近くの人間が倒れていくのは辛かったのでしょう、戦闘には参加できる様子ではありませんでした」


 ? 勇者なのに戦闘に参加できなかった? 馬鹿な、魔王軍を倒そうとする勇者がそんなんでいいのか? 聞いた限りじゃ俺と同じように怖がって騎士団を見捨てて逃げたようにしか聞こえない。とりあえず橋は渡ったようだが。うーむ……


「……デナトロ山、か。マール行きましょう、ここで泣いてばかりじゃ、ヤクラも悲しむだけよ」


 ルッカの都合の良い台詞に、マールは返事をしないまま立ち上がる。俺たちがいくら言っても、ヤクラに庇われたマールの傷は深い。恩を返すことも出来なくなったのだから。


 騎士団と別れる前に、騎士団長が俺に走り寄り、自分の兜を手渡してくれた。これは、俺にくれるってことか?


「クロノ殿、最初は勇気を持たぬ人だと思っておりましたが、それは間違いでした。貴方は挫折しても、そこから這い上がる真の騎士の心を持っています。このゴールドヘルムはそんな貴方にこそふさわしい。どうぞ受け取って下さい」


 尊敬の眼差しで俺に兜を譲る騎士団長に、俺は頭を下げて礼を言う。その兜はずっしりと重く、彼の今まで戦ってきた歴史が詰め込まれているようだった。


 ゼナンの橋を去る俺たちに騎士団全員が、肩を借りたり剣で自分を支えながらも立ち上がって敬礼をしてくれた。少し照れくさいので、後ろを見ずに右手を振り、彼らの応援を胸に歩き出す。


 ……騎士団から俺たちの姿が見えなくなった所まで歩くと、俺はごっつい重たい兜を海に放り込んだ。あの人、善意でくれたんだろうけどさ、今まで被ってたから汗臭いわ色は金色で派手だわ血が付いてるわで使いたいとは全く思えない兜だった。まあ、今度会ったときには魔物との戦いで壊れたと言っておこう。


 このままデナトロ山に行ったところでボロボロのマールとルッカが戦闘をできる訳がない。雨の中戦い続けたおかげで体力の消耗も激しく、特にマールはヤクラの一件で精神的にも憔悴している、俺たちは砂漠のような砂の海の中央に、数本の木が近くに立つ一軒家を見つけ、中に入らせてもらう。
 中にはマールと同じ金色の髪の綺麗な女性、フィオナという女性が一人で住んでいた。彼女は魔王軍との戦いで行方不明となった夫、マルコを待ちながら、一人でこの辺り一帯の荒れ果てた大地に緑を植えようとしているらしい。
急に家に入ってきた俺たちに怪我の治療と布団を貸してくれた優しい女性だ。これで夫がいなければ夜には俺のフィーバータイムが始まったのに。


 その日の夜、夜中になんとなく目が覚めた俺はベッドで寝ているはずのマールの姿が見えないことに気づく。ルッカを起こそうとして肩を揺さぶれば寝ぼけたまま俺にハンマーを投げてきた。天才バスケット高校生みたいなことをするなこいつは。
 ルッカはそのまま起こさずに雨の止んだ外に雷鳴剣を持って飛び出した。あいつ、まさか妙なことを考えてるんじゃないだろうな……えらく落ち込んでたみたいだし……
 

 別に俺もルッカも気にしていない訳じゃない。何度か会話もしたし、ヤクラが良い奴だということも知っている。きっと今も王妃様が泣いていることも想像できる。だからこそ、俺たちは俺たちでできることをしなければいけないんだ。落ち込みっぱなしではこれから先の激戦を耐え抜けるわけがないのだから。


「くそ、何処に行ったんだよマール……まだちゃんと仲直りしてねえんだぞ!」


 外は建物の類は一切ない砂漠、視界を遮るものは無い。ここから見えなければ、マールは随分遠くに行ったことになる。


「とりあえず、家の周りを一周してみるか……」


 ざくざくと砂を鳴らしながら、家を中心にぐるりと周る。すると、雲の隙間から漏れる月明かりの下、穏やかな光に照らされながら、マールが木にもたれて座りながら小さく囲まれた星空を見上げていた。月光に当たる金色の髪は風になびいてその美しさを一層際立たせる。薄い色素の白い肌は透明感を増して今にも消えそうな儚さを演出している。ただ一つ、不満があるとすれば、頬を伝う一筋の涙。


「……マール」


 俺の呼びかけに首を動かして、俺を見る。その眼には初めて出会った時のような輝きが、無い。


「クロノ……ごめん、心配させちゃった?」


「……いや、まあいきなりいなくなればさ」


「ごめんね、ちょっと一人で、静かに考えたくて」


「そうか。ルッカの寝言は煩いからな、静かに考え事をするなら外に出るのは正解だ」


 たはは……と細く笑いながら涙を拭うマールが、酷く無理をしているように見えて、俺はマールの隣であぐらをかいた。せっかく水洗いしたのに、また汚れちまったな。まあ、マールの服も汚れちまってるんだし、別にいいか。


「私ね……ヤクラさんとちゃんと会話したこと無いの」


 二人で夜空を見上げていると、マールが俺に聞かせているのか曖昧な声で話を始める。俺は目線を空に向けたまま、耳を傾けた。


「助けてもらったのに、こんなこと言ったらあれだけど、ずるいよね。ヤクラさんにどういう気持ちを持てばいいのか分からないの。だって、私たちを助けてくれたけど、どういう人なのか知らないんだもん。名前だってルッカがヤクラって呼んでたから分かっただけ。あの人から直接聞いたわけでもないの。……なのに、いきなり私を庇って、死んじゃった」


 堪えようとしている涙がマールの眼から溢れて、自分の服を濡らしていく。今度はそれを拭うことはしなかった。


「ねえ、私のために命を捨ててくれた人がいた。私はどうすればいいの? どうやって笑えばいいの? もう私は笑っちゃいけないのかな? クロノ、教えてよ」


 俺に問いながら、上を見続けるマール。涙を流さないようにするためだろうか? 例え手遅れだとしても、それがマールの意地なのか。俺の手を握りながら縋るマールは、それでも自分のプライドを捨てない。


「……忘れろとは言わない。それが出来れば一番かもしれないけど、そんなことはマール本人が許さないだろ? だから……ずっと覚えていればいい」


 俺に触れている手がピクリと震える。本当に正しい言葉なんか知らないし、俺を守って誰かが死んだなんて経験が無い俺にそんなものを期待されても困る。でも、俺の想像で出した答えなら、マールに伝えることが出来る。


「ヤクラっていう魔物がいて、そいつは俺たちのために戦ってくれた仲間だったって、ずうっと覚えてればいいんだ。多分、それだけでヤクラは笑ってくれるから」


 あいつは、王妃が泣こうとすると困った顔をしていた。だったら、王妃と間違われるくらいに似てるマールが泣いてたら、あいつは喜ばない。だから……


「笑おうマール。今すぐじゃなくて良い、明日からいつもみたいに見る人全員を元気にしてくれる笑顔で、胸を張って生きよう。俺もルッカも勿論ヤクラも、そうすれば一緒に笑えるから」


 時間は丁夜を過ぎる頃。月まで響く大声でマールは号哭し、俺の体を抱きしめた。


 マールの体温を感じながら、俺は口に出せば必ず殴られるだろうな、という考えを頭の中で浮かべていた。
 ……これ、フラグ立ったんじゃねえ?


 地平線より太陽が覗くまで、俺たちは一本の木の下で影を重ならせていた。







 星は夢を見る必要は無い
 第十四話 恐怖のグランドリオン回収









「御世話になりました」


「いえ、こんなところで一人住んでいると誰かの声が聞きたくなるものなんです。またいつでも来て下さい」


 朝になり、眠たい眼を擦りながらフィオナさんにお礼を言って家を出る。俺たちが向かうのはデナトロ山、ではなく、山村のパレポリ村となった。フェイオナさんが昨日の夜近くのサンドリア村に買い物に行った際、勇者は一度実家のあるパレポリ村に戻ったと聞いたのだ。あいつの出身地ってサマルトリアじゃなかったんだ。こんだけ色々連れまわしておいて。


「……クロノ? 随分眠たそうじゃない?」


 パレポリに向かい、森林が見え始めた頃ルッカが口端をひくつかせながら俺の肩にぶつかってきた。何だよ、龍が○くならバトルところだぞ。


「なんかね、マールも眠たそうなのよねー……あんたら昨日の夜何してたの? フィオナさんから聞いたんだけど、二人して外に出てたらしいじゃない? ……それもなんか泣いてるマールを? あんたが? 優しく抱きしめてたーみたいな話をね? 聞いたのよねー」


 ちょいちょい疑問挟んで間を空けるなよ、あと歯軋りしながら顔を近づけるな、大変怖い。教師の顔に馬糞を投げつけて捕まった時も教師がそんな顔をしてた。そっくりだよお前、50間近の男の教師に。


「何か勘違いしているようだから言っておくが」


「……何よ? どんな弁明をするのかしら?」


「……マールルートに入っただけだ」


「濡れ場経験をしたのか貴様ァァァァァ!!!」


 今日のファイア
 三連発、追加としてプラズマガン五発、ハンマーで殴打、速過ぎて計測不能。
 右腕が動きません。左足が焦げてちょっと良い匂いがします。上手に焼けましたー!


「……ケアルで治るのかな? あれ……」


 俺のハートを一番傷つけたのは、昨日あれだけ良い感じだった俺をあれ扱いしたマールの言葉だったという。真の敵は思わぬところにいるのだよ。
 ルッカの誤解は俺の股間に業火球を投げようとしたところでマールが解いてくれた。もう無理だこのパーティー。俺が生存できる可能性が著しく低い。ていうかもうルッカおかしいよルッカ。人をハンマーで殴るとか鬼畜の所業だもん。むしろその域を超越してる。


「ねえ、クロノ?」


「何だよマール。もう貴方の右腕は動かないとか言われたら俺は復讐の悪鬼と化すから言葉には気をつけろよ」


 俺にケアルをかけながら、妙にそわそわしているマール。買ってもらったおもちゃの袋を開封する時のように眼が輝いている。


「私たち、友達よね!」


「……今更だろ、そんなの」


 曇り空は深く、太陽はその姿を隠しているけれど、想像よりも風が湿気を帯びず、軽やかに舞う。
 うん、今日は悪くない天気だ。




 パレポリ村に着いた俺たちは、勇者の家を探し中に入る。村人達は躁状態でこの村から勇者が、勇者がとやかましい。お前達が勇者って訳でもないんだ。便乗してテンションを上げるなうざったい。
 家の中には勇者の父親しかおらず、本人はもうデナトロ山に向かったとのこと。言わないようにしてたけど言うわ。勇者とかもうよくない? 必死こいて子供の勇者を探してる俺らって多分馬鹿だぜ? 別にそいつがロトの血を引いてるわけでもあるまいし。
 二人もそう思っていたようで、気分直しに一杯引っ掛けようぜと酒場に向かう。マールが「大人にならないとお酒は飲んじゃいけないんだよ!」と委員長みたいなことを言うので「子供は大人になる前の通過儀礼として何度か酒を飲まないといけないんだぜ? もしかして知らなかった?」と馬鹿にしたように言うと「しし、知ってるもん!」と少しどもりながら返す。良いね、騙されやすい子は大好きさ!


 酒場に着くと嫌な噂、というか話を聞いた。


「この前この酒場に大きな蛙がここに来て酒を注文してきたんだ、ぶつぶつと王妃様萌え……と呟きながらな。まったく気持ち悪いったら」


 絶対あいつだ。もう二度と関わらずにいようと思っていたのに……こんなところでその存在を知らされようとは、つくづく運が悪い。
 酒を飲まずに出ようとすれば、ルッカが「カエルか……ねえクロノ、久しぶりに会ってみない?」と言い出した。ルッカ、もしかして熱でもあるのか? 座薬入れてあげようか?



「マニアック過ぎるわよど変態。これから辛い戦いがあるんだから、カエルみたいに凄腕の剣士がいればこの先楽になるんじゃないかと思うのよ」


 嫌だなあ、あいつスペックは高くても基本屑だぜ? 本当に嫌だなあ、公衆便所で財布を落とすくらい嫌だなあ。
 マールは「私を助けてくれた人でしょ? 会いたい!」とわくわくしてるし。断れないよなあ、何で勇者を探すためにここまで来たのに大きな蛙なんか見ないといけないんだよ。
 ぶつぶつ文句を言う俺を引きずってルッカは酒場を出る。歩くから手を離せ、お前握力エグイから痛いんだ。


「その蛙お化けに会いたいなら南のお化けカエルの森に住んでるみたいだ、モンスターがいるから気をつけるんだな」


 酒場から出る前に俺たちに余計な情報を提供してくれたおっさんが声を掛ける。どこまで俺を不快にさせるんだこの男は、臭い口臭を撒き散らしやがって。
 マールがありがとー! と手を振れば、汚い髭面をゆるめて手を振り返す。マール、お前水商売的な仕事とか向いてるんじゃないか?




「うわ暗っ! 前見づらっ! クロノ、あんた先頭に立ちなさいよ、それで虫とかを追い払って、もしくは体につけて離さないで。私虫とか嫌いなんだから、こういう薄暗い森は嫌いなのよ」


「お前の理不尽さにはほとほと愛想が尽きた。残るは殺意唯一つ」


 ルッカの人間の底が見える発言には思わず刀を抜きかけたがその前にルッカの抜き打ちが早かった。そういう星の元に生まれたのさ俺は。諦めるのには慣れている。


 お化けカエルの森はガルディアの森ほど広くは無いが、それ以上に道が荒く、森の木々が邪魔をして光が入ってこない。カエル以外の人間が通らないので木の伐採はおろか、舗装さえされていないのだろう。かろうじて人が通った形跡のある道を進んで奥に向かう。流石は人外。住んでいる所からして違う。
 
 俺たちの前に現れたモンスターだが、ルッカが目に付いた瞬間焼き払うので大変楽だったと言っておこう。俺たちと一緒に戦ったカエルほど大きくは無いが、蛙型のモンスターが大半だったのでルッカが悲鳴を上げながら魔法を唱えるのは痛快だった。いいぞ、もっとルッカを怖がらせろモンスターども。
 
 マールもルッカの傍若無人ぶりに思うことがあったのか、俺と一緒にルッカが慌てる様を見て笑っていた。この子は本当に良い子だ、今度またキャンディを買ってあげよう。
 ただ、蛇のモンスターがその蛙モンスターを食べだした時は思わず凍ってしまった。うわ、カマキリが他の虫を捕食するところは見たことあるけど、これだけでかいと迫力あるなあ。ルッカを見るとジャンクドラガーにぶつけた時ほどでかいファイアを作り出していた。
 そうして傷ついた心を癒していると、半泣きになったあたりでルッカが笑っている俺とマールに気づき、炎を仕掛けてきた。真顔で逃げる俺たちを炎が追いかける、まさか追尾型? どんどんレベルアップするなあルッカの魔法は。
 
 俺たちの逃走劇はマールに「ごめんクロノ……貴方のことは忘れない!」という言葉と同時にかけられた足払いで終了となった。うわ、炎ってこんなに赤いんだ。とりあえずマールは俺の呪うリストのトップを飾ることになった。あのビッチまじありえん。




「……さあて、ここに来るよう言ったのは誰だ? 俺は終始反対してたよな? じゃあ俺を丸焼けにしたルッカか? それとも俺を裏切った挙句逃げ切ったマールか?」


 二人は俺の言葉に顔を逸らして汗をたらりと流していた。こら人の話を聞く時はちゃんと相手の顔を見なさい、そんなんじゃ内申書に傷が付くぞ? 俺は全然怒ってないんだから、いや叩っ斬りたい衝動が生まれつつあるけど、全然怒ってないよー?


 草むらに隠れた梯子を見つけ、恐らくカエルの住む所だろうと梯子を下ると、下にはベッドやタンス、食料や水など誰かが住める環境があり、間違いなくカエルの住処なのだろうが……テーブルの上に一枚のメモが。


『留守です。勝手に物を取ったりしないように。王妃様は可』


 間違いなく留守だった。
 俺たちは中の食料を丸ごと頂き、持ちきれない分はぐしゃぐしゃに潰した。水は飲めるだけ飲んで、残った分は水の入っているタルに穴を開けて地面に浸透させた。服の類はルッカの裁縫技術を駆使して腕や足が入らないようアレンジした。お洒落過ぎてもう町が歩けなくなれば良い。
 全ての悪戯を終えた後、悪いのはカエルではないと思い至ったが、もう今更だよな、と三人で笑いお化けカエルの森を後にした。ちょっと、スッキリしていた。




 森を抜けてデナトロ山に向かう。村で聞いた話では、フィオナさんの家から北に山の入り口があるとのこと。一度フィオナさんに会おうかと家に着くが、ちょうど買出しの時間だったようで留守だった。仕方なく俺たちはまたデナトロ山に進路を向ける。最近歩いてばっかりだ。無駄足も多い、お百度参りかっつの。


「ねえクロノ!」


「何だマール、もといビッチ」


 全力全開なパワーで俺に膝蹴り。諦めるなよ! もっと頑張れよお! と自分に言い聞かせて胃の中のものを吐きながら立ち上がる。こいつが王女だなんて認めねえ、何が何でも認めねえ……!


「あのね、勇者様ってどんなのかなあ?」


「お前みたいな悪人以外を救う優しい人のことだよ」


 ファンタスティックな肘鉄が脳天を貫く。幸せを掴め夢を語れ! 未来への切符はいつも白紙なんだ! と自己暗示を完成させて鼻から脳みそが出そうな気分を抑えて両足で立つ。


「まだ子供なんだって! 凄いなあ、どんな子なんだろ!」


「お前の薄汚れた性格じゃあ想像もできない立派な子なんだろうな」


 天はざわめき地は恐れる、世界よ謡え! これが武というものだ! なモンゴリアンチョップ降臨。もう……ゴールしていいよね? と儚げに笑いながら倒れる俺。両肩脱臼は免れない。


「楽しみだなあー」


 鼻歌まじりにスキップスキップ。もし世が幕末ならば、お前なんか問答無用に切り捨てていたものを……
 理不尽な世界を呪い、俺は両腕をだらりとぶら下げながらデナトロ山を目指して歩き出した。




「うっひゃ~ッ!」


「誰だよこの御時勢でそんな古い叫び声をあげるのは? ルッカか?」


 俺は寝言でもう食べられないよとか言う奴が大嫌いなんだ。そういうよくあるネタみたいなことをされると股裂きをしてやりたくなる。小学校の時カーテンに巻きついて遊ぶ? 誰もしねえよそんな馬鹿なこと!


「クロノ、上、上」


 ルッカが人差し指を上に向ける。何だろうかと顔を上げると小さな、ロボくらいの子供が半べそをかいて何かから逃げていた。まあ逃げるのは良い。だが逃げながら子供は手を振り回している。それもいいだろう。ただ一つ問題があるのは、振り回した手が木や岩にぶつかるたび粉々に砕き、その残骸が俺たちに向かって落ちてきているということだ。……落ちてきているぅ!?


「うっひゃ~ッ!」


 思わず子供と同じ叫び声を出しながら逃げ回る。いや、小学校でカーテンに巻きつく、確かにあったわそんなこと、うん。
 逃げ回って岩や木が俺にぶつかっているのを横目にルッカは落下物をファイアで焼き払い、マールはアイスで氷柱を作り防御壁としていた。おまえら良いなあ、俺もそんな風に色々応用の効く魔法が良かったなあ。


「な、なんだよあのガキ、人間じゃねえだろあの力!」


 上から何も落ちてこなくなると、俺は体中に痣を作って文句を言う。あ、左の二の腕紫色になってる。


「もしかして、あれが勇者なのかしら?」


「あの逃げ回ってた小僧が!? 確かに規格外の腕力を持ってることは認めるが、ふざけんな! 勇者ってのは勇ましい者と書いて勇者なんだよ! クロノと書いて美しいと読むように!」


「キショイねクロノ。でも、あれが勇者様なんて、ちょっと複雑だなぁ……」


 流れるように溢したその言葉、俺は忘れんからなマール。


 勇者? が逃げた方向を見ていると、また勇者が走って現れる。次、俺たちに危害を加えるようなことがあれば仮に勇者だとしても制裁を与えてやる。斬殺凍死火あぶりのどれかは選ばせてやるが。


「こ、ここは、とんでもないトコだ! あ、あんちゃん達も、アブナイぜ とっとと、ズラかんねーと」


 小物臭満載な台詞を残して、子供はまた走り去っていく。……勇者ェ……
 そのまま何も考えることが出来ず立ち尽くしていると、山の道、その奥からモンスターが三匹現れた。正直、今の気分は戦うようなもんじゃないんだけどさ、そういうことを言っても戦わなきゃいけないんでしょ? そういう空気が読めない所を改善できたらもっと愛されるようになると思うよモンスター君。


 モンスターはオレンジの髪を揺らし、二メートル以上ある巨体で地面を揺らして俺たちに近づいてくる。弓形に曲がった口から先の尖った牙が見え隠れして、腕と足は丸太のように太く、岩でも砕きそうな力がありそうだった。
 三匹の内真ん中のモンスターは身長と同じくらいの長く大きな木槌を持ち、ぶんぶんと振って落ちている木の葉を舞い上げていた。なんていうか、もっと穏やかにいこうぜ、な。


 モンスターたちは俺たちが武器を取り出すと立ち止まり、その笑みを深くした。木槌をもつモンスターはその巨大な武器を回転させて、地面に叩き付けた。瞬間小さな石は一斉に飛び上がり跳ねた。モンスターのくせに力をアピールするとは、さては目立ちたがりだな?


「グオオオオオオオ!!」


 リーダーらしい木槌を持つモンスターが吼えると、残りの素手のモンスターが飛び掛る。マールがアイスを使い凍らせようとするが、その巨体から想像できない機敏な動きでかわし、俺に自慢の腕をぶつける。咄嗟に雷鳴剣を抜いて受けるが、モンスターの皮膚が硬く、切り飛ばすどころか少しづつ押されてしまう結果となった。


「くっ! こいつら強いぞ、マール、ルッカ! 早く魔法で援護を!」


 後ろに飛んで膠着状態から抜け、助走を加えた切り込みを当てようとするが、残る一匹が俺にタックルを仕掛けてきたので中断、回避する。
 硬い、速い、強い、全体的に強いモンスターってのは初めてだな……俺の魔法を使って切れ味を増せば切れるかもしれないが、どうにもそんな隙は無さそうだ。詠唱を唱えた途端またさっきのタックルを当ててくるに違いない。


「まだ充分な詠唱はできてないけど……ファイア!」


 ルッカのファイアは自分で言った通りまだ完全では無かったのか、少し火力が弱いように見えるが仕方が無い。このままなら俺が倒されその勢いで後衛の二匹もやられてしまうだろう。
 炎は素手の二匹の頭上を越えて、リーダー格のモンスターに襲い掛かる。なるほど、上を倒せばこいつら二匹は無力化できると踏んだのか!
 いきなり自分を狙うとは思っていなかったのだろう、木槌を持つモンスターは襲い来る炎に驚いて武器を手放してしまった……しかし。


「あ、ああ!」


 ルッカが短く叫んだ理由、それはファイアが木製の木槌を標的にして、モンスターには当たらなかったこと。ルッカでさえ、まだ使いこなせてないってのか、魔法ってやつは!


 俺たちが後ろずさり、ここは一度引くべきか? と考えているとリーダー格のモンスターの様子がおかしい。燃え尽きた木槌を見てなにやら泣いているように見える……あれ?


 モンスターたちは三匹集まり、木槌を燃やされたモンスターを他の二匹が慰めている。


「え? これってあっちゃんが徹夜で作った奴やろ?」

「うん……お母さんも手伝ってくれて、お父さんも良くできたなって言うてくれてん……」

「嘘やん、もう跡形もないで……どうする?」


 子供だったの? とかお前ら人間の言葉喋れるのかよ、とは言わない。今それを言うと無粋な気がしたし。てかなんだろ、友達とふざけてたらおもちゃを壊して静かになったようなこの空気。ミニ四○とかで遊んでるとよくあったよね。


「ルッカ……酷いよ」


「え! 私が悪いの!?」


マールが眼を細めてルッカを睨み、非難する。正直俺はルッカが悪いのかなあ? と思うが、ルッカを堂々と責める機会なんて早々ないからここは乗らせてもらおう。


「ああ、いくらモンスターとはいえ誰かのものを燃やすとはまともな人間のやることじゃないな」


「クロノまで! だってあいつの木槌って、どう考えても武器だったじゃない!? 燃やして何が悪いのよ!」


 あくまで自分の非を認めない(非?)ルッカがモンスターたちに指を向けるとすすり泣くような声が大きくなった。 


「武器ちゃうもん、これ、折角作ったからいっくんとゆうちゃんに見せたかっただけやもん……」

「あっちゃんの木槌持ってる姿、格好良かったで? また作ろ? 僕らも手伝うから、な?」

「うん、一緒に作って、出来たらまた遊ぼ、今度はもっと大きいん作ったるやんか」


 これ何ていうタイトルの友情ドラマ? 『木槌・オークハンマー~貴方は、今まで泣いた事がありますか?~』みたいな感じ? 売れる気がしねえ。


「ルッカ、あっちゃんに謝ったほうがいいよ」


 マールよ、あっちゃんて。


「マール、お願いだから眼を覚まして。あいつらはモンスターなのよ!」


「ルッカが人だのモンスターだので差別するような奴とは思わなかったよ。幻滅だぜ」


「ううう……あ、あっちゃんごめんなさい……」


 僕らも悪かったから……いきなり遊ぼうとしてごめんなさい……と胸の痛むような言葉を残してトボトボと去っていくモンスターたち。あれって戦いを挑んだんじゃなくて、じゃれてただけなんだ? 
 すっごい後味悪い戦闘だったな、ルッカの奴は目が死んでるし、マールはまだルッカに怒ってるし。俺はいつ笑えばいいのか分からない。怖いところだぜ、デナトロ山……!


 俺とマールの言葉の集中砲火をくらって意気消沈しているルッカを見て、戦闘は無理かもなと考え時の最果てのじいさんに連絡し、タバンさんの手で修理を終えたロボを呼び寄せることにした。いつものルッカなら絶対に反対しただろう決定に今のルッカはただ頷き交代に賛成した。……いつもあんななら俺が平和なんだけどなあ。


「デハ、これからはワタシが皆サンをサポートします」


「ああ待てロボ、これからは戦闘が続くだろうから、そのボディは脱げ。デナトロ山を出ればすぐ着せるけどな」


 俺の言葉に頷いて、ロボはボディを脱ぎ、ルッカの元に転送させる。いいねこの機能、あの時の最果てのじいさん結構役に立つじゃねえか。


「とうとう僕の出番ですか……それで、僕の力でこの山を薙ぎ払えば良いんですか? 僕としてもこの山の生物を蒸発させるのは辛いですが、正義という大いなる大儀のためには価値のある死、王業を背負う僕だからこそ下せる決断かもしれませんがね……」


「お前の発言には一々うんざりする。これから先無駄口は叩くな。そこら辺に生えてる草でも咥えてろ」


 しゅんとなりながら素直に雑草を抜き取りその葉っぱだけを咥えるロボはとても滑稽だった。でもなんだかマールが怖いから止めなさい。あの子基本的にお前に甘いから。あの子お前みたいな可愛い系の男の子が好きなアレな子だから。


 俺、ロボ、マールの三人パーティーは何気に初めてだったが、中々上手く回るパーティー構成だった。マールが飛び出してくる魔物を氷で足止め、立ち止まった敵をロボのレーザーで消して取り逃しを俺が片付ける。いまいち俺が活躍してないけど、俺の役目も大事なはず。ロボが取り逃したことないから、俺何もしてないけど。

 デナトロ山の宝箱はアイテムが豊富に入っていた。ミドルポーションにエーテル、エーテルの高級品ミドルエーテルにどれだけ深い傷を負っても意識を取り戻せるアテナの水まで手に入れた。アテナの水という名称を聞いてテンションの上がったロボがまた病気な言葉を使いだしたが無視、無視。
 他にはロボの新しい武器が落ちていたり、銀色のピアスやイヤリングを手に入れたが、マールは耳に何かを付けるのは嫌だということでイヤリングは捨てて、俺はピアスを付けたが二人が「似合わない」と言うのでポケットに入れた。俺だってアングラな男になりたいと思う時だってあるのに……
 山を登っていく中分かれ道に出くわした。右側に進めば行き止まりだが、宝箱が置いてあり、左側はまだまだ先に続く道が見える。先に宝箱を回収しようと右側に進めば草むらの中にデナトロ山入り口で出会った木槌三人組がせっせと太い丸太を削っている姿が見えたので見つかる前に戻る。宝箱を取るためにあんな気まずい思いをするのはごめんだ。どうせしょうもないアイテムしかない、そう心に言い聞かせて。


「なあマール。ここまで登ってから言うのもなんだけどさ」


 俺はさっきから、正確にはデナトロ山を登りだした時から感じていた疑問をマールにぶつけてみようと声をかける。


「何? クロノ」


「勇者らしきガキがここから逃げ出したのに、俺たちは何をやってるんだ?」


「……そういえばそうだね。どうしよう? ここまで山道を歩いてきたのに無駄足なの? 私足に豆が出来て痛いのに……」


「僕が治療しましょうか? このエンジェルビクタードットコムビームで」


 お前のケアルビームは色んな名称に変わるなあ。最初に聞いた名前と随分違って聞こえるんだが。どうせその場で思いついたカッコいい言葉を言ってるだけなんだろう。


 勇者云々は置いといて、この山にあるグランドリオンという剣を持っていこうという話になった。伝説の剣というなら凄い切れ味なんだろう、俺が使わせてもらえば良いさ。ロボが「伝説の剣!? 僕が持つ僕が持つ!」と煩いのは腿キックで黙らせて歩行再開。……あのね、蹴った本人に抱きつくのはおかしいと自分で思わないのかロボよ。


 それからもモンスターは懲りずに現れたがさらりと撃退。下らん下らん、これならロボ一人で倒せそうだ。実際そうだったけどさ。俺のパーティー内におけるレゾンテートルが見つからない、家に帰ってシロップでも聞こうかしら?


 俺の持病であるヘルニアが猛威を振るう中、ようやく頂上に辿り着いた。右も左も谷底、滝の流れる音が嫌に耳に付き、見回せばいかにも妖しい『ここが目的地だよ!』みたいな洞窟があった。もうちょっと分かり辛い場所にあるかと思ってたよ、マスターソードみたいにさ。


 洞窟の中に入ると思わず眼を閉じてしまう。外よりも風が強い、天井に大穴が空いてあり、そこから強風が入り込んでいるようだ。あああ、強い風は腰に響くかららめえ。
 腰を手で押さえながら少し屈む。……なにやら二人の子供が遊ぶ声が聞こえてくる。あれか、あの子供勇者(笑)がここにいるのか? と心なしか顔が怒りに歪むが、俺の予想は外れてロボよりも小さな子供が無邪気に跳ね回り、キャッキャッと遊んでいた。……何か怖いな、こんなところに子供だけで遊んでるだなんて。都市伝説にありそうなシチュエーションじゃないか。


「あははあははー!」

「楽しいね、楽しいねー!」


 イカレとる、右脳も左脳もイカレとるこの子供たち。ここは一つロボの回転レーザーで除霊してもらおうとロボに頼むが青い顔で「何考えてるんですか!」と怒られた。ちっ、何常識人気取ってんだよ。これはあくまで必要悪であって……


「クロノ! あれってもしかして……」


 マールが興奮しながら俺の論理展開を邪魔する。彼女の視線を追うと、そこには大仰な剣が地面に刺さっていた。あれがグランドリオン? あんなでかい剣振り回せる気がしねえ。どっちかって言うとカエルのような本職の剣士が持てそうな……やめよう、思えばそれは形になってしまう。


「とにかくあれは持って帰ろう。最悪城に持って帰れば大金をせびれるはずだ」


 俺のアイデアを聞いて二人が引き気味だが関係ない。偉大な思考を持つ者に世間は冷たいものなんだから。


「ダメッ!!」


 今さっきまでラリっていた子供の一人が剣に近づくと石を握った手で殴ってきた。この子達の親何処ですかー? 礼儀とか云々が足りないどころじゃないですよー? これ殺人容疑ですよー? だから少年法なんか無くせって口を酸っぱくして言ってるじゃないか!


「お兄ちゃん達も、取りに来たの? グランドリオン」


「先にお前の質問に答えるならイエスだ。そしてお前らは兄ちゃんの頭から出る赤いものを見て何か言うことはないか? 無いなら裁判だ裁判。訴訟の準備は出来ている」


「うーん、そーか。ちょっと待っててね……。おーい、グラン兄ちゃ~ん!」

「どーした、リオン? やれやれ、またか……グランドリオンを手に入れて勇者としての名声がほしいんだろ? くだらないよ……」


 俺の! 俺の! 俺の話を聞けえ!


「人間って、バッカだねー。手にした力をどう使うかが大事なのに……」

「そんな当たり前の事も分からないから人間やってんだよ」


 打ち合わせでもしてたのか、テンポ良く会話を続ける二人組み。無視されて落ち込む俺に半笑いで肩を叩いてくれるマール。もうお前のルートなんて行かない。六週位してもお前のルートなんて選ばない。フラグが立ったような気がしてたけど気のせいだったぜ!


「どーする、兄ちゃん?」

「決まってるだろ、試すのさ。少しばかり、遊んでやろう!」

「うん! 行くぞー!! ぴゅぴゅ~ん!」


 ガンジャでも使ってるのか? と心配するような奇声をあげて糞ガキ二人がその場で回りだす。やばいやばいこれ末期症状だ。サナトリウムにぶち込むだけじゃ駄目臭い。やっぱりロボにレーザー発射を命令するが、今度は無視される。俺の仲間は何処にもいないのか。


「ウ、ウ、ウウウウ!!」


「クロノ! この子たちモンスターだよ!」


 二人の姿が小さな子供から豹変していく。耳は尖り、肌は黄土色へ、目蓋が広がり眼は横長に。身長は俺とロボの中間程に伸びて服装も垢抜けない汚れたものから白く胸の部分に十字架のマークが付いた神官服に変わっていく。強い風をバックに俺たちを見る姿は確かに、人間のものではなかった。
 ……だからレーザーを撃っとけば良かったんだ。半端な道徳心は時に己を滅する銃となる。


 戦闘は二人の糞ガキ、グランとリオンのペースだった。一発一発の打撃はそれほどではないが、そのスピードはロボの照準でも捕らえきれない程で、正に風と化していた。
 俺の刀は掠りもせず、ロボの加速付きタックルですら軽くいなされる。マールの弓は巻き起こる突風に煽られてまともに飛ぶことすらできない。一度俺の腕に弓矢が当たってからマールは魔法に切り替えた。まず俺の腕を治療しろ!
 俺は自分の腕に手持ちのミドルポーションを乱暴にぶちまけて、がむしゃらに剣を振り回す。眼で追えないんだ、とりあえず攻撃を食らわないように、と考えた結果だが、常に背後から殴られて意味を為さない。腰は! 腰はやめんか!


「ジリ貧じゃねえか……」


 ついに膝を突いて肩で息をする俺に糞ガキは殴るわ蹴るわのやりたい放題。楽しいか、お前ら。そうかそうか。絶対斬る!
 痛む体を無視して立ち上がり二人の体を面でなく線で捉える。俺の動体視力はメンバー1なんだ、必ず当ててみせる!
 気合を入れて鞘に入れた剣を居合いで抜き、左から刀を払う。俺に近づいていたリオンに雷鳴剣が甲高い唸りを上げて迫る。


「遅いよ、お兄ちゃん」


 捉えた気になっていたのも束の間、リオンの誘いだった隙に斬り込んだ俺はあっさりと避けられて顎を膝で持ち上げられて宙を飛ぶ。一度バウンドして倒れこんだ俺に踏みつけの追撃。くそ、速さに特化した敵がここまで厄介とは……


「アイス!」


 マールの魔法でリオンは飛び上がり俺から離れる。さらにダメージを負う事は無かったが、さっきの流れで大分体力を削られた。刀を握っているのが精一杯だ、とてもじゃないがあいつらに当てられるほどの斬撃を放てるとは思えない。
 ロボもなんとかくらいつこうと懸命にグランとリオンに迫るが、タックルは当たらず、レーザーも出すだけ無駄になってきた。……あ、あいつ頭を蹴られて泣き出しやがった。勘弁しろよ結構やばい状況なんだから……!


「うわあああんグロノざあんー!!」


「グロノって誰じゃい! っおい馬鹿引っ付くなって!」


 ロボに足を掴まれた俺は格好の的。俺の上半身を眼に見えないパンチやキックで揺らしていくグランとリオン。だるまさんはこんな気持ちで子供達に殴られてたのか、今度街中で見かけたら拝むことにしよう。


「ぐええ、ろ、ロボ! とにかくレーザー、レーザーを出来るだけ全方位に撃て! 避ける空間も無ければあいつらにも当てられるだろ!」


「い、一度にぞんなにいっぱいレーザーは使えません、え、エネルギーが、ぐすっ、足りないですよぉ」


「ええい泣くなうっとおしい! そういえば……お前のエネルギーって、電気だよな? えぐふっ!」


 話している最中も容赦なく、間断なく拳の嵐が俺の体を通り過ぎる。こいつら……動きを止めた後のことを覚えてろよ、児童相談所に駆け込むことも出来ないような体にしてやる……!


「うえ、僕のエネルギーですか? そりゃあ、電気ですけど……」


「だ、だったら俺の魔法で電気を供給してやる! だからそれで特大のんぐっ! れ、レーザーを作れ……」


 俺の顔が膨れ上がり服の下から血が滲み出していく姿を見てロボは唇をかんで涙を堪え、力強く頷き俺に背中を預けた。いいか、眼にモノ見せてやるんだぜ!


「ぐ……サンダー、全開だ!」


 詠唱なんて悠長なことは言ってられない。だからその分俺の少ない魔力を全部消費して体から最大の電流をロボに流し込む。ロボの顔が苦痛に歪むが、今だけは我慢してくれ、痛いのが大の苦手なのは分かってる。後ろ手に俺の手を握っている力が強まっていく度に罪悪感が広がるが、もうお前のレーザーに頼るしか無いんだ……


 なおも魔法で俺たちの援護をしてくれているマールに目線で離れろと合図を送る。何をしようとしているかは分からずともマールは走って岩陰に隠れた。出来れば洞窟から出て欲しかったが、そこまでするとグランとリオンも避難するかもしれない、そこが妥協点か……


「ク……ク、ロノさん……そろそろ、限界です」


「そうか……ならぶちかませ、なるだけ派手にな!」


「は、い!」


 俺の許可を得たロボから、青白い閃光が四方八方に線となり飛び出していく。その光線は合計十六本、岩石を吹き飛ばし壁を穿ち天井の石錐を落として洞窟内の自然物を破壊する。グランとリオンは上下左右から迫る熱線から身を捩り避けようとするが徐々に増えていくレーザーの嵐に体を焦がし地に伏せることとなった。


「はあ……はあ、魔力消費が早すぎるが、出たとこ勝負で編み出したにしては悪くない戦法だったな、頑張ったぞロボ」


「うう……ま、まあ僕の力はアカシックレコードですら計測できない永劫の記号ですから、ただ飛び回るしか能が無い輩に僕が敗北の一途を辿るなど、釈迦如来ですら想像できませんよ……痛い……」


 ロボの意味不明な言語も今は聞き流して頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でてやる。ちょっとした痛みでも心が折れるロボが電流の痛みに耐えて頑張ったんだ、今はとことん労ってやろう。


 マールも俺たちに近寄ってロボを思い切り持ち上げて抱き締める。ロボの奴顔を真っ赤にしやがって、初心なことだな、俺と代われ。


「くっ……兄ちゃん、コイツら、やるね」

「ここまで手こずったのはサイラス以来だ」


「何いっ!? まだ立てるのかよお前ら!」


 三人でロボを持ち上げて胴上げしていると、さっきまで曙みたく倒れていた二人が立ち上がり、よく分からない奴と比較をしていた。どっかで聞いたことがあるような無いような……いや、やっぱり無いな。


「どーする、兄ちゃん?」

「決まってるだろ。本気でいくんだよ!」

「よーし! 今度は……」

「遊びじゃないぞ!」


 一々交互に話すなよ、どこまで台詞を決めてるのか知らんが、実に面倒くさい。もうどっちがリオンでどっちがグランかさっぱり分からん。マナ○ナよりもそっくりなんだから見分けが付かねえ。


「勇気のグランと……」


 あ、お前がグランね、どうせすぐ忘れるけどさ。


「知恵のリオン!! コンフュ~ジョ~ン!!」


 二人が片手を天に掲げて大仰な台詞を回しあい、互いの体をくっつけて気持ち悪い色を発光させる。あれか? もしかして合体とかいうやつか? ふざけんなもう戦えるような状態じゃねえんだ特に俺は!


「おら」


 合体中の二人に大き目の石を投げる。片方の顔に当たり合体が中断して、二人で俺を睨む。何だよ、合体とか名乗りの最中は攻撃しちゃいけないなんて法律は特撮物だけなんだよ。俺たちはショッカーじゃねえんだ。


「コンフュ~ジョ~ン!!」


「てい」


 今度はマールが弓矢を撃つ。片方の額に直撃、顔から血をだくだくと流しておられる。効果はばつぐんだ!
 真っ赤な顔で俺たちを睨むのは血のせいか怒りゆえか。謎は深まるばかりである。


「コンフュ~」


「いけー」


 言い終わる前にロボがすかさずロケットパンチ。今首120°は曲がったよな? エクソシストみたいだ、アンコールアンコール。
 両手を使って戻らない首を無理にごきりと矯正して血の涙を流しながら俺たちに負のオーラを流し込む二人。何その顔? なんか文句あるの? だったら口に出せばいいじゃない。言葉にしないと届かないことってあるよ? この現代社会の風潮なら尚更ね。


「コンフ」


「消え去れえええっ!」


 三人で突撃蹂躙撲殺上等。鞘に入れた雷鳴剣を麺棒でうどんを叩く時と同じようにひたすら打ち付けてロボは連続ロケットパンチ、マールは倒れた二人に叩き込むヤクザキックが堂に入っている。ずっと俺たちのターン!


「やられちゃったね、兄ちゃん。これ以上ないくらいしこりが残るけど」

「中々楽しかったな。あくまで途中までは」

「この人達なら、ボクらを直してくれるかな? ちゃんと持ち主を見つけてくれるかな? 期待はしないしそうなっても感謝はしないけど」

「ああ、大丈夫さ。ていうかそれくらいしないと祟る。むしろぶっ殺」


 人聞きの悪い、純粋に正々堂々と戦いその結果負け犬となったくせして俺たちに文句でもあるのか? だから子供は嫌いなんだ、ゆとり教育反対! 俺もその中の一人ではあるが。まったく、お前らみたいなガキがよく聴きもせずに邦楽は死んだとか抜かすんだ。オリコン外のランキングも注視しろ。


 アンパンを無理やり食わせる外道ヒーローみたいな顔になった二人が折れた歯を吐き出しながらグランドリオンに近づいていく。……おいまさかそれを持って持ち逃げするんじゃないだろうな? もしそんなことを決行する気ならフクロタイムが再発動することになる。 


「……あれ、二人とも消えちゃいましたよ?」


「馬鹿言うなよロボ、隠れるスペースも無いのに消える訳が……」


 グランドリオンに近づいて見るとロボの言う通り二人の姿が見えない。あれえ? もしかして、これもしかするの?


「クロノ……やっぱり、あの二人って……まさか」


 歯をかちかち鳴らしながらマールが怯えた声で語りかける。待て、それを言うな。頭で思っているだけと、耳にするのでは全然違うんだから。抑えろ、マールは出来る子なんだから、足が震えてるのは俺も同じなんだから。


「おおお化け怖いよぉー!!!」


 禁句を口走りながらロボが加速装置全開で洞窟から逃げ出す。続いてマールも「祟るならクロノを人柱にしますー!!」とかスイーツこら。俺はグランドリオンを引っ掴み(半ばで折れていることには気付いたが今はとことんどうでもいい)足を前へ前へと進めて二人の後を追う。ふざけんな、まだ彼女も出来てないのに死ねるもんか、まだ○けてないのに死ねるもんかああぁぁぁ!!


 後ろから麓まで送ってあげる……と遠くから響いてくる声が聞こえて恐怖心さらにアップ。ここに来てまさかのアタックチャーンス! 恐怖のレートを上げようぜ!
 とにかく前に見えるマールの背中に空のミドルポーションの瓶を投げつけて転ばせる。立ち上がろうとするマールの頭を芸術的な俺のジャンプ&着地が成功し距離を広げる。はははこれで生贄は確定! 後はロボと二人でバカンスにでも出かけよう! マールは俺たちの思い出の中で爽やかに笑ってくれればいいさ! 俺はクロノ、誰よりも命の尊さを知る男!


 計ったなクロノォー!! というマールの絶叫を卓越したスルースキルで無視! 吠えろ吠えろ脱落者! 誰かを思いやりゃ仇になり自分の胸に突き刺さる、これ常識! 来世ではもう少し頭を働かせるがいいさ!


「逃がすか、アイス!」


 マールの魔法は俺の左足を凍らせて逃亡を阻止させる。あああこうしている間にも怨霊が迫っているかもしれないのに!


「おのれマール、貴様そこまで腐っていたのか!?」


「私は自分が生きるためなら他を蹴落として生きろ、そう貴方に教えてもらった。ありがとうね、また教えてもらったよ。人は誰かを見捨てなければ生きていけないってさ!」


 立ち止まっている俺を笑いながらマールが爆走、逃走。唯一残っているミドルポーションを足に掛けて氷を溶かす。これで回復アイテムは無い。これからマールのアイスは意地でも避けなければ……!


「待て女! 今なら左足を切り落とすだけで許してやる、だからこれから始まるクロノ王国の礎となれ!」


「秒単位で破滅していく王国なんか建国しなくていいよ! 安心してクロノ、私は未来を生きて貴方の銅像を作るから! 二百年後ぐらいに!」


「絶対お前死んでるじゃねえか! 誰が作るんだ誰が!」


 くそ、このままでは俺がこの山の自縛霊となり悠久の時を彷徨うこととなってしまう……こうなったら……!


「じいさん! 今すぐ俺とルッカを交代させろ! 今すぐだ!」


 立ち止まり時の最果てに送られるのを待つ。前でマールが「まさか……そのようなああ!!」と驚愕している。この勝負、始まる前から俺の勝利は約束されていた……! 貴様は俺の掌で踊っていたに過ぎんのだ!


 俺の体が急速に消えていく。悪いなルッカ、お前と過ごした時間、悪くなかったぜ……
 俺たちの代わりに呪われるであろうルッカにさよならを告げる。どれだけ虐げられたとしても、案外寂しいもんなんだな、別れというものは……今度お前が好きだった沢庵を墓標に置いてやるからな……








「……あれ? ここ、何処なの?」


 デナトロ山に現れ辺りを見回す。前を見るとオリンピック選手のようなフォームで手を振り走っているマール。私には状況が全く把握できず途方に暮れてしまう。


「ルッカ、短い間だったけど、私たち友達だからね! いつかお参りしてあげるからね! お化けに食べられてもクロノを恨んでね!」


 気の置けない女友達であるマールがえらく不吉なことを言う。お化け? そんな存在を彼女は信じているというのか? やはり彼女の純粋さは貴重だと思いくすっ、と笑いがこぼれる。後ろから送らなくてもいいの……? という言葉を聞くまでは。


「……え、誰かいるの? ロボなの? それともクロノ?」


 後ろを見ても誰もいない。声は今も響いている。送らなくてもいいの? 送らなくてもいいの? と延々続いている声は段々薄気味悪く聞こえ、声の年齢からすると子供のようなのがたまらない。
 不安になった私はマールの姿を目で追うが、彼女は既に山道を下り視界から消えてしまっていた。今や足音すら耳に入ってこない。……お化け? 


「……クロノ? 何処にいるの、近くにいるんでしょ? 私はお化けとか幽霊とか、そんなリアリティの無いものは信じたりしないわよ、だからそろそろ出てきなさいよ。怖がらせたいんでしょ、全くあんたはいつまでも子供みたいなことをするんだから……」


 声が聞こえる。声が聞こえる。送る? 何処へ送るというのか。具体的には現世のどこかなのか……はたまた別の何処かなのか……


「……クロノ。充分、分かったから、こんな声まで用意して準備が良いのも分かったから、早く出てきなさいよ。……出てきてよ……」


 数分後、置き去りにされたルッカが手で顔を覆って山を降りて来たことに驚いたマールとロボが平謝りをして、「クロノが悪い」と宣言するのはそう遠い未来の話ではない。
 ただ追記するならば、時の最果てから呼び出されたクロノにルッカが起こした行動は悲惨という言葉がよく似合うものとなった、ということはお約束ではある。
 ただ、心細さや目に見えない恐怖からえぐえぐ嗚咽を漏らしながらハンマー無双を開始した後ボロ雑巾のようになったクロノに抱きつきながら至近距離でファイアをぶつける彼女の姿はマール曰く「微笑ましくはあるよね」とのこと。
 星の未来は、存外に明るいのかもしれない。


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